拳太郎との一騎打ち。それは緑谷が初めてではない。拳太郎に勝負を挑んだ者は数知れず。
時に街の不良
時にチンピラ
時に武術家。
時に_____
_________ヒーロー
当時、武術界にも名を馳せ、チャートにもその名を刻んだ武闘家でもあり、ヒーローである男『メッチャツーヨ』
歴代の武術大会で優勝経験を何十件も積んだ彼はある少年の噂を聞きつけ、彼を追いかけて彼が目撃された国『アラスカ』へと飛び立った。
だが、そこで目にしたのは
数十メートルもの体高を持つ超巨大なヒグマが5尺程度の小柄な少年に喰らわれる光景であった。
初めて見た時、彼の目にはその少年はまるで、『獣』のようであったという。
それでもメッチャツーヨは勝負を申し出た。彼の実力はいかほどか?自身がどこまで通じるのか?
その結果_____
____惨敗である。何の一撃も加える暇もなく、勝負を挑んだ直後に、たった1発のパンチでその身を大地に沈められたのだ。
それによって、彼は自身の無力さ、少年の規格外の強さを目の当たりにした事で武術家としての道を止め、ヒーローも引退した。
当時の彼はこう語った。
『奴と比べれば我々個性を持った者など______
_______一般人に過ぎない』と。
彼の引退は当時のヒーロー業界をざわつかせたが、その原因たる少年の話はたとえ本人から聞かされたとしても誰1人として耳を貸さなかったという。
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「ふぅ…」
3学期のとある休日。以前の爆豪と戦闘した場所でもある演習場にて。個性を活用するヒーロースーツに身を包んだ緑谷は息を飲みながら、目の前の存在を見つめていた。
「ほっほっほっ」
目の前にいるのは、ウォーミングアップするように、軽いジャンプを繰り返す拳太郎。更にその服装は防御面、性能面についてヒーロースーツより比べものにならないほどにまで劣るジャージである。
酷すぎるハンデだが、そのジャージの中から見える筋肉は明らかに自身とは量が違っていた。
いや、寧ろ自身の方が有利といえるかもしれない。個性による多種類の能力の使用に対して彼は肉体。戦い方など限られてくるだろう。
だが、それでも緑谷は決して油断などしていなかった。相手はオールマイトとオールフォーワンの全力を片手で受け止める程の力を持つ最強の男だ。
ハンデなど、ものともしないだろう。
だからこそ、戦う意味がある。
「(今の僕が…どこまでいけるか…)」
オールフォーワンと戦う宿命にある自身が、オールフォーワンを圧倒する彼とどれ程の差があるのか、自身がどれ程まで通用するのか、ここで試す絶好の機会だからだ。
「そんじゃ、2人とも準備はいいか?」
両者のウォーミングアップが終わった事で、相澤が2人の間に立ち、両者へと尋ねる。2人が頷くと共に、遂に時が来た。
「はじめ!」
相澤の声と共に勝負が幕を開ける。
「はぁ…!!!」
開始の合図と共に緑谷は全身に力を込めた。
すると、彼の全身に赤い筋が浮かび上がり稲妻が迸る。
「いくよ…!!」
緑谷の個性は『ワンフォーオール』オールマイトから受け継いだ個性であり、彼の怪力をその身に宿しているのだ。
「スマァァァシュ!!!!」
その瞬間 緑谷の身体が拳太郎へと迫る。個性によって引き上げられたその身体能力はオールマイトに近い程にまで向上し、一瞬にして拳太郎の目前へと接近していた。
だが、
「ほいっ」
それを拳太郎は横にステップする形でアッサリと避けた。
勿論だがそれは想定済みであり、緑谷はすぐさま体勢を立て直すと今度は跳躍し、彼の目の前に接近すると脚を振り回した。
「せい…ッ!!!」
「ふむふむ」
それを再び拳太郎は膝を曲げる形で避けると、その場から後ろに後退する。
「なるほど。一撃一撃に力を込める系ですか…しかもそれを高速で」
緑谷の拳が次々と放たれていくが、拳太郎はまるでダンスをするかの様に左右に身体をゆらゆらと揺らしていく形で回避していく。
そして、回避する中、拳太郎はある一点へと目を向けた。
「だけど遅すぎる」
「!?」
その瞬間
拳太郎の拳が、突如として目の前に現れた緑谷の拳を受け止めた。それによって緑谷の今まで動き回っていた動作が一瞬にして止まる。
「(なんだこの力…!?腕がまったく…動かない…!)」
「緑谷くん。何のつもりか分かりませんが、覚えたての戦法は効きませんよ。慣れない部分が出て読みやすい」
「え…うわ!?」
その言葉と同時に緑谷の身体が空中へと放り出された。
「よっ」
「がはぁ!?」
そして緑谷を投げ上げた拳太郎はその場から跳躍し、緑谷へ一瞬で迫ると身体を回転させ、彼を地面目掛けて蹴り落とした。
「見る限り君は増強型…普段の力も結構あり、発動すると更にパワーアップ…だけども、戦法が読みやすい。パンチ、蹴り、蹴り、パンチのこの2パターンのみ。パンチに蹴り…それに突撃と接近が無駄と分かって次はフェイント…ってとこですかね…?」
「…!(弱点どころか戦い方まで見透かされてる…!?)」
緑谷は動揺する。たった2回攻撃しただけでこの後、考えていた攻撃の手まで読まれていたのだ。
これが拳太郎という少年の力。自身の一撃を軽く躱す身体能力に加えて一瞬でその先を見据える分析能力。数々の修羅場を個性も持たない生身で切り抜けてきた経験の差であった。
だが、それだけでは諦めるわけにはいかない。
なぜなら、物理攻撃の他にそれを補助する個性があるからだ。
それは『黒鞭』
ワンフォーオールの能力の一つである。ワンフォーオールはただ身体能力を強化するだけではない。歴代継承者達の個性を使用することができるのだ。即ち身体能力強化も能力の一つにすぎない。
緑谷の腕から伸びた黒いエネルギーが紐の様に伸びると、拳太郎へと巻きつく。
「それッ!!!」
そして、緑谷はいきおいよく引っ張り上げた。力をつけた緑谷の腕力と装備そして強靭な黒鞭によって、100キロに達している拳太郎の身体が空中へと放り出された。
「おろ!?」
「よし…!!」
拳太郎が空中へと放り出されると緑谷は次の攻撃へと移ろうとした。
その時であった。
「ふん!」
「!?」
突如として拳太郎が身体を回転し始めた。それによって黒鞭が巻き付くと共に緑谷の身体が引っ張られてしまう。
そして
「ほい!」
「ぐ!?」
距離が迫ると同時にその回転と共に足を振り回した。振り回されたその足は緑谷へと直撃し、彼をその場から地面へと蹴り落とした。
「鞭を扱う場合はご注意を。テクニックが悪ければ逆手に取られますよ」
その言葉と共に拳太郎は腕を振り上げ、黒鞭を引きちぎる。
「なるほどね…!!!」
その一方で、蹴り落とされた緑谷は体勢を立て直すと近くの建物に向けて黒鞭を縛り付けて瞬時に移動する。
「ふっ…!!!」
「おぉ!?」
そして、再び全身に赤い筋が浮かび上がった緑谷は今度はすぐさま拳太郎の背後へと回り込むと彼に目掛けて次々と拳を打ち出した。
「ダダダダダダ!!!!」
放たれていく拳は次々と拳太郎へと向かい、彼の全身へと叩き込まれていった。次々と繰り出されていくその連撃は放たれていく度に速度・威力を増していき、遂にその速度は音速へと到達していったのだ。
「…」
次々と拳を打ち込まれていく拳太郎のその表情はまさに“無”まるでガードに集中しているかの様であった。
「(よし…!!このまま回り込んで…!)」
その表情を見た緑谷は次の一手へと移るべく、最後に放った拳を引き戻そうとした。
その時であった。
ガシッ
「!?」
突如として緑谷の動きが止まった。見れば引き戻そうとしていた拳が掴まれていたのだ。
「成る程…それが君の戦い方か…」
突如として聞こえてきた拳太郎の声は先程よりも一層低く、威圧感のある声へと変わっており、見ればその表情は一変し、目が真っ白に染まると共に歯が剥き出しに成る程の満面な笑みを浮かべ、腰まで届きそうな黒い髪がゆっくりと揺めき始めていた。
「打撃を扱う君に良いアドバイスをやろう。本来ならば拳はダメージと痛みの両方与えるが…場合によってはいずれかに絞る事もできる…」
すると、拳太郎のもう片方の腕が突然と力が抜けたかの様に伸びる。
「脱力によって力を抜いた腕はダメージは与えられないが…その分、痛みを与える『鞭』へと変わる。その名も『鞭打』…!!」
「え…?」
それを見た緑谷は何が起こるのか理解ができず、思考が停止してしまった。
その一方で、その力が抜けた腕を拳太郎は身体を揺らし、まるでそれを力点とするように振り回した。
「痛みで学べ…!!!!」
「えぇ…ちょ!!待っ……」
ようやく緑谷は何が起こるのか理解したが、既に遅かった。
「ふん…ッ!!!!」
極限なまでに力が絞り落とされ、身体を直に振り回された腕は見事に______
________緑谷の身体へ手形を残す程にまで叩きつけられた。
その瞬間
「ぎにゃぁぁあああああああああ!!!!!!!」
その場に緑谷の今まで聞いた事がない程の悲鳴が響き渡り、勝敗が決したのであった。
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ーーーー
ーー
「いいいいー!!!!いだいいだいいだいいだいよぉおおお!!!!!」
「おいおい緑谷!!大丈夫かおい!?」
あれから数十分。ロビーにてソファーに横になり、麗日に介抱されていた緑谷は未だに背中を抑えていた。そんな彼を切島をはじめ、皆が心配そうに見つめていた(爆豪はなぜか震えていた)
「わわ…ガッツリ腫れとる…」
緑谷を看病していた麗日は緑谷の背中に出来上がっていた真っ赤な手形に驚きを隠せず、凝視していた。
「お…おい神堂…お前何したんだ!?」
「ん?」
あまりにも痛がる様子に耐えかねた上鳴が、ロビーの横で片手で逆立ちをしている拳太郎へと尋ねると、拳太郎は答えた。
「ただのビンタです」
「いやいやいや!!!ビンタって!?幾ら何でもおかしいだろ!?爆豪なんてずっと震えてるし!」
「うっせぇえええ!!!震えてねぇわボケぇ!!!!」
その時であった。
ピピピっ
「あら?ねじれさんから…」
突如として拳太郎の携帯がなり出し、その文面を見ると目を大きく開く。
「壊理ちゃんの様子が…!?すぐ行きますッと!!!」
そして、拳太郎は一瞬にしてその場から消え去るほどの速度で本校舎へと向かっていった。
「ま…待って!!!」
「はい?」
そんな中であった。突如として響いた緑谷の声に拳太郎は進む足を止めた。
そんな彼に対して緑谷はただ純粋な疑問をぶつかる。
「神堂くんは…どうやってそんな力を手に入れたの!?」
「え?いや……」
その問いに対して、拳太郎は淡々と答える。
「筋トレと実践」
「じっ…実践…?」
「うん。取り敢えず人と戦って、そこから動物と戦っての繰り返し」
「え……嘘だ!?」
「いや、嘘じゃないですよ」
「だ…だって!!今の社会で個性を持った人の方が動物よりも……」
「まぁ。確かに緑谷君達にとっては楽勝かと思いますが、僕にとっては良い経験なんですよ?ここに入る前にアフリカゾウと戦いましたけど良い経験になりましたし」
「えぇ…」
「それじゃ」
その言葉に緑谷は何も言えなくなってしまうが、それを気にもとめずに拳太郎はその場を後にした。
緑谷だけではない。彼のいまだに出所が不明な強さとその強さを手に入れた理由について皆は不思議に思っていたのであった。
だが、後に緑谷やA組____否、世界中の人々は知ることになるだろう。拳太郎という生物の“真の恐ろしさ”を。