「え?遠征ですか?」
頭に壊理を乗せながら校内を歩いていた拳太郎は一緒に歩いているねじれから聞かされたその言葉に首を傾げる。
「うん。まず事務所に集まって、それから現地に行くんだって」
「ふむふむ…でも急ですね。何かあったんですかね?」
「それがね〜私も詳しく聞かされてないんだ」
「なんでだろう?」
「なんでだろうね!」
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その数日前
蛇腔総合病院からある噂を公安から耳にした塚内は未来を見通すヒーロー『サー・ナイトアイ』と連携し、彼の個性を用いてその病院へ通院する医師へと接触した。
その結果、見えてきたのはいくつもの立ち入り禁止の空間と、そこへ1人で入っていく殻木
それを見て更に不信感を得た2人は遂に部下を潜入させ、彼が入っていく時の様子を写真に納めることに成功した。
そこに写っていたのは_____
______小型の脳無。
数々の敵連合の襲撃に参加していた脳無。それが彼の元にいるということは彼が敵連合と繋がりがあるという事である。
それだけではない。ホークスのスパイ活動によって、散らばっていた超常解放前線の新たなる本部も見たかったのだ。
そこからは作戦考案へと突入した。
殼木と敵連合の癒着そして新たなる本拠地を暴いた3名は全国各地に散らばる上位ヒーロー達を結集させ、公安や警備隊の立ち合いの元、
『エンデヴァー率いるヒーローによる病院の制圧』
『エッジショット率いる超常解放前線の新たなる本部である吉田山荘制圧』
といった2手に別れて一気に攻め落とす超大規模な作戦を提案して決行させたのであった。
それに参加するのはヒーローのみではない。
後方支援として雄英、士傑のヒーロー科の生徒達が参加することとなったのだ。
そして数週間後、遂に作戦が開始された。
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和歌山県 南東部《吉田山荘》
超常解放前線の新たなる本部であり、元の本部の数倍もあり、ホークスの情報によると4万人もの構成員が潜んでいるとのこと。
吉田山荘の入り口から数百メートル離れた位置ではエッジショット率いる数百名のヒーロー。
そこから更に数キロ以上離れた林の中では数名のヒーローに加えてA組、B組の生徒達の姿があった。
「…」
その中に立っていた八百万は、ただ息を飲む。辺りにいる他のヒーロー科の生徒も同じだ。それもそのはずだ。今から歴史に残る大規模な捜査作戦が始まるのだから。
その歴史的瀬戸際に立たされたという自覚が彼女のみならず周囲の皆の緊張感を刺激していたのだ。
「いよいよだねヤオモモ」
「はい…気が抜けませんわ」
「う〜ん…ウチはちょっとね…あれを見ると」
「え?」
八百万が目を向けると、そこには_______
「ハグハグハグハグ!!」
__蒸したササミを丸齧りしながら弁当を爆食いする拳太郎の姿があった。
「何やってますの!?」
「腹ごしらえ」
「そんな堂々と!?」
「何を言っているのやら。腹が減っては戦はできぬ…長引いたら食べる暇などないでしょうに」
そう言い拳太郎はあっという間に弁当を食べ終えると、今度はコーラを取り出し、勢いよく振り始めた。
「えぇ!?ちょ…ちょっと神堂!そんな振ると炭酸が!」
耳郎が言うよりも早く、振り終えた拳太郎はゆっくりと蓋を開けた。すると、中からコーラと分離し、泡となった炭酸が勢いよく飛び出していく。
そして、糖分が高いコーラのみとなると、拳太郎は一気に口の中へと注ぎ込んでいった。
「ちょ…おいおい…死んだわアイツ…糖尿病決定だわ…」
「炭酸抜きコーラですか…大したものですわ」
「え?」
その様子に耳郎が呆れていると、八百万は何かを理解したのか頷いていた。
「炭酸を抜いたコーラは極めてエネルギー効率が高く…陸上の長距離選手などがよく試合前に飲むと言われていますわ。私の中学校でも実際に数名ほど実行されてる方がいらっしゃいました」
「だからって弁当食ってコーラっておかしいでしょ!?」
「いえ…よく見てください。拳太郎さんが食べていらしたのは、ささみにおじや、バナナ…どれもこれも高タンパクで即効性のエネルギー効率が良いものばかり…ただ単に食べている訳ではありません…確実なエネルギー補給を行っています」
そして、息を飲んだ八百万は額から冷や汗を流した。
「それほどエネルギーを蓄えているということは即ち______
______今回の作戦では拳太郎さん自身も相当気を引き締めているのですわ!」
「「「「…!!!」」」」
その言葉を耳にした周りのA、B組の生徒達は身を震わせた。全員は拳太郎の力をある程度は知っていた。その拳太郎自身がこれほどの準備を行うほど、今回の作戦は危険が伴うという事なのである。
「…ゴクン」
その一方で、コーラを飲み終えた拳太郎は持ってきたバッグへとしまい立ち上がる。
「さて。行きますか」
「「いやいやいやいや!!!」」
それをすぐさま2人が止めた。
「アンタね!ウチらの役目が何なのか分かってんの!?」
「……ん?」
拳太郎が配置されたのは超常解放前線制圧班《後衛》である。前線ではない。それについて拳太郎は首を傾げた。
「あれ?そう言えばなんで僕がここに?」
「聞いてなかったんですか!?」
拳太郎に八百万は説明した。作戦考案者のサーによれば、どうやら拳太郎の力は規格外すぎるらしく、たとえ制御できていたとしても、屋内で下手に力を使えば民間人への被害が予測されるため、後方部隊となったのだ。そしてそれは全てのヒーローへも周知されていた。
また、開放前線制圧に割り当てられた理由自体も簡単である。吉田山荘には大量の構成員が今もなお潜んでおり、それら全てを確実に鎮圧する事を目的にするために拳太郎を配置することを選んだのだ。
「……という訳ですわ!」
「お〜!!さすがヤオヨロッチさん!」
「や…ヤオヨロッチ!?」
「なるほど。では建物から出てきた超常解放前線とかいう厨二集団を全員ボコボコにして逃げられないように全身の骨を粉砕すればいいという事ですね!」
「物騒ですわ!可愛い顔して物騒ですわこの人!」
「あ、でも建物ぶっ壊して全員生き埋めにした方が一網打尽にできるのでその方が良いような」
八百万「だから物騒ですわ!」
耳郎「アンタ本当にヒーロー志望!?」
その後、後衛部隊の部隊長が到着した事で無線によって、遂に作戦が始まるのであった。
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そして、その同時刻。
「…!!!」
目的地である吉田山荘の中にあるシステム制御室にて。幹部であるスケプティックは顔面を蒼白させていた。
「なんだ…これは…」
そこに映し出されていたのは、世界の中でも一握りの物しか見ることのできない超極秘情報。スケプティックは最も危険性が高い拳太郎を社会的に抹殺するために彼の過去を洗いざらい暴き収集していたのだ。
それによって、彼の氏名、住所、家族の名前と構成など、過去の情報を全て手に入れたが、その中でもある一つの情報がどうしても信じられなかったのだ。
すると、
「おい。準備できたか?」
背後から荼毘が現れ、部屋の中へと入ってきた。それに対してスケプティックは恐る恐る頷きながら尋ねた。
「あ…あぁ…だが…本当にこれを流すのか…!?」
「そりゃ流すだろ。何かマズいのか?」
「い…いや…」
スケプティックは改めて目の前の映像へと目を向ける。
「寧ろ信じられるのか…?あんな純粋な奴が……こんなことを14の時にやったなんて…」
「やったからその情報が出てきたんだろ。だけどもまぁ…こりゃ確かにヤベェな…どっちが敵だか分かったもんじゃねぇ」
そう言い荼毘自身も、目の前に映る映像を目にすると難しい表情を浮かべるのであった。
「コイツ…まじで人間か…?」
そこには無表情で大勢の敵を殴り飛ばす拳太郎の姿が映し出されていた。