ちょっと!!勉強の邪魔しないでよ!!   作:狂骨

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鬼 染まっていく

 

拳太郎がマスキュラーを倒したと同時刻。

 

 

「ひゅ〜おっかねぇ…」

 

数百メートル以上も離れたビル群の中でも、一際大きなビルの屋上から、肘をライフルへと変形させながらその状況をスコープ越しに伺う女性の姿があった。

 

彼女の名は『レディ・ナガン』本名: 筒美火伊那

 

元公安所属のプロヒーローであり、射撃の腕前については全ヒーロー中トップである。ホークス曰く、緑谷を捕縛できる唯一のダツゴクらしい。

彼女はある罪によってタルタロスへと投獄されたが、死柄木が襲撃した騒ぎに紛れて脱走すると共にその時に出会したAFOから取引として個性を与えられたのだ。

 

取引の内容は簡単である。

 

『緑谷出久をAFOの元へ連行または神堂拳太郎の抹殺』

 

裏の顔である元公安のヒーローとして不正を働くヒーローを暗殺してきた彼女にとって、殺害など専売特許であるため、彼女は当初、拳太郎の抹殺を優先しようとしていたのだ。勿論だが、警戒はしていた。何しろAFOが直々に抹殺を命令するほどなのだから、恐らくオールマイト級の強さだろうと。

 

だが、全く違った。

 

強さも何もかもオールマイトどころかこの世の生物の域を超えていた。

 

「やられたのはマスキュラーか…こりゃ私も撃ってたら躱されて居場所も知られてたな…興味はあったけど、やめだ。緑谷出久に標的を変えるか…」

 

 

そう言い立ち上がったナガンが振り返ると___

 

「どうも」

 

___そこには拳太郎が立っていた。

 

「ぐべさがぎぐべギャァー!!!!!!」

 

 

ッ!!!!

 

 

その瞬間 ナガンの膝が変形しライフルへと変化すると拳太郎の顔面目掛けて1発の弾丸が放たれた。

 

 

だが、

 

「パシッ」

 

それを拳太郎は真正面から掴む形で受け止める。

 

「危ないじゃない…な〜にすんですか…?」

 

「ゲゲ!?」

 

アッサリと銃弾を掴まれた事でナガンはさらに動揺する。それもそうだ。超至近距離で放たれた弾丸を、構えも無しに無駄な動作一つなく受け止めてしまったのだから。

 

「ちょっと…バケモノにも程があんだろ…!?」

 

「はぁ?初対面の人に向かって銃ぶっ放すどころか化け物呼ばわりなんて、失礼にも程がありません?」

 

「ソイツは悪かったな!!!」

 

咄嗟にナガンは状態を低くし、腕を軸に脚を回転させると拳太郎の脚に目掛けて自身の脚を振り回した。

 

 

___ッ!!!

 

「!?」

 

その直後。自身の脚に激痛が走る。見れば振り回した脚は確かに拳太郎の脚へと直撃していたが、その振り回した自身の足が粘土のように歪んでいたのだ。

 

「カチカチじゃねぇか!」

 

「鍛えてますから」

 

そう言うと、拳太郎は縄を取り出した。

 

「取り敢えず、貴方は傷つけずに捕えろって言われてるので、お縄についてください。じゃないと全身の骨を砕いて2度と歩けなくします」

 

「代償デカすぎるし矛盾してんだろ!?」

 

拳太郎の要求にツッコミつつも、ナガンは他のダツゴクと異なり、今まで見てきた拳太郎の強さと今の自分が置かれている状況を冷静に分析する。

 

 

その結果、

 

「まぁ勝てる訳ねぇか…。降参、おばさんの負けだよ」

 

ナガンは降伏を選び両手をあげてその場に膝をついた。その様子に拳太郎は驚く。

 

「あ、潔いですね」

 

「他のバカと一緒にしないでよ。アンタの前じゃ…命が惜しくなるさ」

 

「では失礼」

 

そう言い拳太郎は取り出した縄でナガンを拘束しようとした。

 

 

 

その時であった。

 

「あり?何か、身体光ってません?」

 

「え?」

 

ナガンの身体が爆発しその場を爆炎に包み込んだ。

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

開始してからおよそ30分後。緑谷は一旦、休憩のために捕らえたダツゴクを巨大な籠に入れ、それをオールマイトの車へと繋ぐと相席に乗り、スタート地点へと戻っていた。

 

「ふぅ…」

 

「戻ったか。何人捕らえたんだ?」

 

帰還して息を整える中、エンデヴァーの質問に緑谷は答えた。

 

「8人です」

 

「8人か。30分にしては多いな…」

 

短時間で捕まえたその数にエンデヴァーは驚く一方で、周囲にダツゴクが多く潜んでいる事も推測し眉間に皺を寄せる。

 

「(まずいな…)」

ダツゴクは増える上に引退したヒーローやマスコミによる暴露によって、自身らに向けられていたヘイトがその他のヒーローへも向けられ始めており、このままだとデクまでも巻き添えを喰らってしまう。

 

これ以上続け、マスコミに知られれば更なる誤解をうみ、いよいよ救助体制までもが崩れ始めてしまうだろう。

 

故にエンデヴァーは中止を考えた。

 

「デク…一度、決闘は中止した方が良い。このままだと___」

 

 

 

 

その時であった。

 

「なんだ。お前も戻ってたのか」

 

「「「!?」」」

 

背後から拳太郎の声が聞こえ、振り返るとそこには巨大なダンプカーを紐で引っぱり、もう片方の手で女性を担ぐ拳太郎の姿があった。

 

「神堂くん…!?」

 

「成る程。そっちもたくさん捕まえて持ってきた感じか。まぁその方が効率良いしな…僕もそんな感じで集めたんだよ」

 

そう言い拳太郎はダンプカーから手を離すと担いでいた女性をホークスへと引き渡した。

 

「はいレディ・ナガン。言われた通り捕まえてきました。何か途中で爆発したので、取り敢えず搬送お願いします」

 

「えぇ!?ちょ…確かに出来たらって体で言ったけどそんなアッサリ…あ…分かりました…」

 

拳太郎からナガンを受け取ったホークスはすぐさま医療班の元へとナガンを連れていった。

 

 

その一方で、ナガンを引き渡した拳太郎はダンプカーを持ち上げると、まるで塵取りに溜まったゴミを捨てるかのように揺らす。

 

すると、荷台から次々とダツゴク達が地面へと放り出されていった。

 

「な…何人捕まえんたんだ!?」

 

「ざっと、13名です」

 

エンデヴァーの質問に答え終えた時には、拳太郎は全てのダツゴクをその場に放り出しており、その数、なんと14名。さらにその全員がかつて、大犯罪を犯した敵達であり、捕えられた敵全員は全身が殴られた痣だらけとなっており、以前のような寒気が走るようなその風貌は無惨な姿へと変わっていたのだ。

 

「おいおい…何だよこれ…!?」

 

「いくら何でも…ここまで…」

 

その姿に同情すると共に恐怖したヒーロー達の声が聞こえてくるが、拳太郎は意に介す事はなかった。

 

 

 

そんな中であった。

 

「「「「「「「___ッ!!!!」」」」」」

 

捕えられたダツゴクの内、ある1人を見た瞬間、この場にいた全員の背筋が凍りついた。

 

「ヒィ!」

 

「何だ…あれは…!?」

 

それを見たMt.レディは思わず悲鳴をあげ、シンリンカムイや大多数のヒーロー達も戦慄する。皆の目の前にあったのは、_______

 

 

 

 

 

_______アルミ缶のごとく縦に折りたたむようにして潰されて人としての形を失ったダツゴク『マスキュラー』の姿であった。

 

他のダツゴクよりも大幅に大柄であり、その剛腕は子供1人ならば道具のように掴めてしまうほど逞しく、他のダツゴクの皆よりも圧倒的に強い事が分かるだろう。

 

そんな男が身体を押し潰されていたのだ。見れば瞳も焦点が合わず、まるで正気を失ったかのように左右に散らばっていた。

 

「あ…ああ…」

 

それを見た緑谷は、かつて闘った相手であったのか、変わり果てたその姿に驚きのあまり口元を震わせていた。

 

「これは…」

 

「コイツもリストにのってたから捕まえたんです。あ、あとコイツも」

 

「!?」

 

そう言い拳太郎は1人のダツゴクの首を掴んで前に差し出した。それを見た緑谷は再び驚きの目を向ける。

 

「治崎…!?」

 

放り出されたのは、以前、インターン活動を行なった際に接触した敵『治崎 廻』だった。壊理を人体実験したことにより、拳太郎の逆鱗に触れボコボコにされた挙げ句の果てに護送中に襲撃した死柄木によって両腕を破壊され何もかも失い、現在は廃人となりながらタルタロスへと収監されていたが、レディ・ナガンによって連れてこられたのだろう。

 

「何でここに!?」

 

「いや〜レディ・ナガンと一緒にいたのでついでに連れてきました。」

 

すると

 

「おい…これで会えるのか…?親父に…」

 

治崎の細々とした声が聞こえてきた。

 

「言ったよな…?大人しくすれば会わせるって…会わせろよ…早く…早く親父に会わせろ!!!謝りたい!俺は親父に酷いことを!!」

 

「え…!?」

 

その言葉に緑谷は驚き、思わず拳太郎へと尋ねた。

 

「そうなの!?」

 

「ん?あ〜そういう事言ったっけ」

 

それについて拳太郎は思い出すと、治崎の元に歩み寄り、一言告げた。

 

 

「んなもん嘘だよバーカ」

 

「「「!?」」」

 

そう言うと拳太郎は治崎の前に座り込み、前髪を掴むとその顔を無理矢理自身と同じ目線まで上げた。

 

「テメェ…僕の大事な娘に何してきたか分かってんのか…?監禁、洗脳、肉体分解。普通に考えて有り得ねえだろ?まぁお前はこれまで自分が正しいと思ってきたから、あんな事したんだろ。罪悪感に蝕まれる事なくな。

それを追求しながら肯定し続けてきた結果がコレだよ」

 

そう言い拳太郎は治崎から手を離すと背を向けた。

 

「組長さんに会って勝手に更生されるのは胸糞悪い。更生なんざせず、そのままずっと独りで牢屋に入っとけ」

 

「まて!!」

 

それを見た治崎は咄嗟に残った両脇で拳太郎の脚を掴んだ。

 

「壊理に謝る!!だから頼む!!親父に!!」

 

「あぁ…?」

 

その瞬間 拳太郎の目が獣のような真っ白な目に染まった。

 

「その言葉が今更出ても反省なんざしてねぇんだよクソが。いいか?反省してんなら、こんな事になる前にまず壊理ちゃんに謝ってんだよ。組長さんに会いたい為の謝罪だろ?なら絶対いらねぇ。テメェはずっと独りだ。これからもず〜っとな」

 

「そん…な…」

 

その言葉に、治崎は力が抜けたかのようにその場に崩れ落ちた。

 

「ヴァアア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」

 

「うるさ」

背後から治崎の絶望の叫び声が響いてくるも、その声に拳太郎は何の感情も抱かなかった。

 

 

敵に対して、何もかも一才の容赦がない拳太郎の姿に、周囲のヒーロー達は“恐れ”を抱いた。目の前に立っているのは、自分らとは全く違う“無個性”な少年であるというのに。

 

「お前も…中々恐ろしいな…」

 

「恐ろしい?“あれでもまだ優しい方”ですよエンデヴァーさん」

 

そして拳太郎は捕らえた敵をその場に放り出すと、再び空になったダンプカーを持ち上げた。

 

「じゃあね緑谷くん。僕は行きますよ。早くしないと、AFOも死柄木も、ソイツみたいになっちゃうから」

 

それだけ言うと、拳太郎はダンプカーを担ぎながら再びダツゴク達を捕えに向かったのであった。

 

その姿を緑谷はただ見つめる事しか出来なかった。

 

 

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