AFOと繋がってしまったことで、青山の人生は全て、彼の操り人形として生きる事となった。
雄英への入学も彼からの指示であり、そこから自身のクラスメイトのカリキュラムのリーク、果ては林間学校の場所まで。全て親を通じて彼へと流していた。その指示の中には、拳太郎に少し近づく事も含まれており、こちらの素性がバレない程度まで接触を指示されていた。
それでも、そんな人生にも、一時は終わりが来た。拳太郎に殴り飛ばされた事で彼が収監され、これでようやく青山は安堵したのだ。もう指示を受けることはない。皆と一緒に歩んでいける。
だが
そんな淡い期待も脱獄した事によって、すぐに打ち壊されることとなった。
拳太郎によって、ボコボコにされた死柄木が撤退して数日後。AFOがタルタロスから脱獄した事によって、彼の操り人形としての人生が再開してしまったのだ。
そして脱獄直後にすぐさま指令がきた。
___神堂 拳太郎…彼の住所を息子さんに聞き出して教えてもらいたい。
「…!?」
その要求に遂に青山はまともに答えられなくなってしまった。青山は彼の強さを知っており、手を出してきた者には決して容赦しない姿勢も知っている。ましてや彼女や家族などもってのほかである。
殺される。確実に殺されてしまう。
そう恐れをなしていると、それを知ってか、AFOは更に追い討ちをかけて来た。
___安心したまえ。住所を教えるだけで良いんだ。そのあとは何が起ころうと息子さんに責任はない
決して逆らう事のできないAFOからの指令。懇願してくる両親を死なせないために、期待に答えるために青山は感情を押し殺しながら実行した。
以前の指示より、A組に編入することとなった拳太郎にチーズを与える感じに近づいてきたことから、親しくなっていたために、住所を聞き出すことは容易であった。
途中で、何度も罪悪感に押しつぶされそうになったが、それでも青山は必死に感情を押し殺しながら尋ねた。
その結果、見事に正確な住所を手に入れて、両親を経由してAFOへと提供した。
そして、返ってきたのは____
___素晴らしい!やはり君に個性を与えて正解だったよ。交渉の才能もある。今後ともよろしく頼むよ?
賞賛の言葉であった。
もう後戻りはできない。
そして、あの日、拳太郎の家が焼かれたニュースと、それに激怒する拳太郎を見た時には限界を迎えてしまったのだ。
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ーー
ことの顛末を全て青山は吐露する。
「辛かったんだ…同じ無個性で…僕よりも何倍も辛い境遇なのに…何倍も努力してる君を見てると…惨めに思えて仕方なくて…!!!」
「優雅!やめるんだ!!」
息子の歪んだ表情を見た父親が声をあげるも、彼は止めることなく、心の奥底から叫んだ。
「殺してくれ!!もうこんなクズな僕を!!誰か殺してくれよ!!」
「「「「…!!!!」」」」
その表情からはもはや生きる希望も何もかも消え失せていた。必死に許しをこうかのように、愚かな自分への罰を望むかのように涙を流しながら訴えかけていた。
だが、そんな事、出来るはずなどない。
「そんなの…出来るわけ___!!!」
緑谷がつぶやいた時であった。
「…」
緑谷達の横を拳太郎が通り過ぎた。
「「「「…!?」」」」
その姿を見た皆は絶句してしまう。全身からは怒りどころか激怒を体現するかのようにドス黒いオーラが溢れ出ており、目からは瞳が消え去り真っ白に染まっていた。その姿はまさに獣であり、誰にも止められるものではない。
拳太郎の足は止まることなく青山へと迫っていく。
「ま…待てよ神堂!」
「お前まさか…本気で…」
その行動に周りの皆が冷や汗を流す中、拳太郎の身体はついに青山の目の前まで迫っていた。
「…」
青山はゆっくりと見上げる。そこには獣の如き真っ白な目で見下ろす拳太郎の姿があった。
見下ろしている拳太郎の拳が握り締められ、こちらへと向けられる。
それに対して青山は何も言わず、覚悟を決めた。
そして_____
____拳太郎の拳が青山へと放たれた。
____ッ!!!!!
撃ち込まれた拳は青山の頬へと深く突き刺さると、脆い音を鳴り響かせながら彼の身体を後ろの積み立てられた席の山へと吹き飛ばした。
その光景に誰も文句は言わなかった。だが、それでもクラスメイトが殴り飛ばされ粛清されようとしているのは見ていられないのか、皆は涙を流し始めた。
そんな中であった。
「待てお前ら。アイツが殺す勢いで殴るものなら、校舎ごとぶっ飛ぶ筈だ」
皆を落ち着かせるかのように相澤は手を出して静止させる。その言葉に皆はすぐさま我に帰り、青山へと目を向ける。
すると、青山を殴り飛ばした拳太郎は巻き上がる煙へと目を向けた。
「おい青山。テメェは僕達と同じ高校生だ。中坊でも小学生でもねぇ。行動の一つ一つに責任がある。今回もあの“ゴミクズ”からの指示だとしても僕の親を危険に晒したのは事実だ。下手すりゃねじれの親にも被害が及んだ」
すると
「分かってる…わかってるよ…!!」
埃が舞う中、積み立てられた席の山から青山がゆっくりと立ち上がる。殴られたその顔面は血だらけであり、鼻や口からは血が流れ出ていた。だが、それよりも涙の方が多い。
「だから僕を殺してくれ!!こんなクズ…早く殺してよ!!!なんでこんな力なんだよ!?もう辛いんだ!!生きてるだけで!!自分が惨めで仕方ないんだよ!!!!!」
「うるせぇッ!!!!」
拳太郎の一喝が響き渡ると、青山の声が止まり、周囲が沈黙に包まれた。
そんな空気の中、拳太郎は続けた。
「そんぐらい責任感じてんなら、もう十分だ。両親を思っての行動なら理解できる。自分を産んで育ててくれた親なんて、宝物に他ならねぇからな。僕も両親人質に取られて、どうしようもなかったら同じことしていた。他の連中もその筈だよ」
そう言い拳太郎は周囲の皆に目を向けると改めて青山に目を向けると殴り飛ばした拳を青山の目の前に出す。
「だからこの1発だけで勘弁してやる。それでも罪悪感があるなら、それが消えるぐらい貢献しろ」
「そんな…今更…僕が…皆の役に立てるなんて…」
「じゃあ聞くけども、お前、まだあのゴミカスの指示受けてるんだよな?それはつまり、アイツの唯一の連絡先を知ってるし繋がってるし、おびき寄せられるって事だろ?」
「「「「「!!」」」」」」
その言葉に一同は驚き、改めて青山へと目を向ける。
「確かに…いまの青山さんは唯一…AFOを欺ける存在…!」
「そうか!」
「待て待て!気が早いぜ!?こう言いたかないが…1番の被害者はお前らだ…特に神堂…お前も今更信じられるのか…!?」
八百万と緑谷が納得の声を上げる中、プレゼントマイクが間に入り皆を静止させ、不安を打ち明ける。
それもそうだ。青山は仲間ではあるもののAFOと繋がっている。今の言動も真実なのかさえ分からない。
だが、それに対して拳太郎はアッサリと答える。
「別に。嘘だったらそこまでで、もう用済みです。それに嵌められたら2度と歩けないぐらいまでぶちのめすまでなので」
「ブレねぇなおい…」
「それに、僕が納得しなくても、彼のクラスメイトは納得するでしょう。仮に、嘘をついてたとしても、欺ける機会は幾らでもあった筈です。それを無下にしたということは、向こうも何かしら迷いがある…ならば試してみる価値はあると」
拳太郎の言葉にプレゼントマイクが少しながらも納得すると、相澤が拳太郎へと尋ねる。
「おい神堂。奴をおびき寄せると言ったが、何か具体策はあるのか…?」
「いえ。前に言ってた作戦だけです」
「なるほど」
そう言い相澤は塚内によって支えられる青山へと目を向ける。
「青山、俺はまだお前を除籍処分にするつもりはない。確かにお前は許されない事をした…だが、それを償うことはできる。だから神堂の言うとおり、戦え。それしか方法はない」
「…」
それに対して青山は涙を流しながらも頷く。そして、それを確認した相澤は拳太郎へ目を向ける。
「俺に作戦がある。お前もお前で考えてる作戦があんなら、それも教えて欲しい」
「…分かりました」
それから塚内達が青山夫妻と青山へと防音のマスクを装着すると、拳太郎は前から考案していた作戦を話した。
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ーーー
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「……以上が、僕の考えた策です」
その話を聞いた全員。特に治崎達の捕縛作戦に参加していた皆は驚きを隠せなかった。
「本人はそれについてどう思ってるのかしら?」
「やる気満々ですよ。というか、これは元々、本人から提案されたので」
「だからあんなに溜め込んでいたのね…」
拳太郎の答えを耳にした蛙水は、この作戦の根幹となる“ある人物”の状態を思い出すと、苦い表情を浮かべる。
だが、その作戦は被害を最小限どころか、皆無にし、それどころか死柄木達がまとめて攻めてきた際は全員を無力化させることも可能となるだろう。
いや、たとえ単身だとしても死柄木のみ無力化させるだけでも大幅な戦力削減となる。
まさに一世一代の大勝負だ。そしてその提案に相澤は不服でありながらも、よい案であることに代わりはないのか、納得していた。
「本人が希望なら…無下にする訳にはいかねぇな。お前が一緒にいりゃ安全だし、成功すりゃ一気に戦況が傾く」
「でしょ?」
だが、それについて塚内は不安を露わにする。
「だが、AFOが居合わせた場合はどうする…?奴までも個性に巻き込まれでもしたら最悪な事態だ…」
「あ、そうなったら僕が責任持って息の根を止めるので」
「軽く言わないでくれ………いや、もう不満も反対もないな…うん」
その後、大枠の作戦が定まったことで、細部まで練るために、教職員やヒーロー、塚内達は職員室へ。そして生徒である拳太郎や緑谷達は寮へと戻る事となったのだった。
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ーー
「にしても…お前、よく理性保ってられたな…」
「ん?」
前を歩く拳太郎に対して轟が呟くと、その言葉に皆は同意するかのように頷いた。
「なぜですか?」
「いや…だってよ…」
拳太郎が尋ねると轟は先程の青山へと近づいていく拳太郎の姿を思い浮かべる。
「本気で殺す勢いだったからな…」
「あの時はもう青山さんの命はないと思いましたわ」
「そうだぜ!?マジで焦ったんだぞ!?青山は殺されてお前も人殺しになっちまうんじゃないかって!!」
「え?アッハッハッ!!!」
轟と八百万、峰田が次々と不安な心情を口にすると、それに対して拳太郎は何故か高らかと笑い出した。
「何言ってるんですか皆さん〜!そんな事しませんよ!」
そう言い拳太郎はまるで不本意であるかのように手をひらひらとさせながら笑顔で答えた。それはいつものフランクな感じの拳太郎であり、先程のような威圧感など消え失せていたのだ。
その様子に皆は安心したのか、芦戸や上鳴も苦笑いする。
「そ…そうだよね!」
「いくらお前でもな!」
「そうですよ!ムカつく相手でも殺しはしませんよ!____
_____でも両親死んでたら普通に3人とも首もいでましたけどね」
「「「「「「___ッ!?」」」」」」
その言葉と表情は、その周囲一体の空気を一気に寒冷化させ、誰一人と、その狂気の笑顔を忘れなかったと言う。
「さて、僕はいつも通り、壊理ちゃんの様子見に行ってきます」