その後、数日の休暇を得て緑谷はクラスの皆と共に雄英を出る事となった。それは拳太郎も同様であり、皆は考案した作戦の決行日まで設置された専用の寮で過ごす事となったのだ。
「神堂くんの両親は来てないの?」
出立の朝、両親達から見送れる中、誰とも挨拶を交わさない拳太郎に緑谷が不思議に思いながら尋ねると、拳太郎は答えた。
「さっき部屋で済ませてきましたよ。「あまり弱いものイジメしちゃダメだぞ」って言われましたが」
「「「「「えぇ…」」」」」」
これから戦うAFOを弱者として認識してる神堂両親の神経の図太さに皆はドン引きするが、そんな息子の強さを幼少期から見ているので、まぁ当然だろうと改めて納得した。
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「なに?僕に稽古つけてもらいたい?」
専用の寮に移動して数時間。ロビーでエナジードリンクを飲んでいた拳太郎の元にA組全員が集まり、代表して飯田が頷いた。
「あぁ。俺や緑谷くん…このクラスでは君と同じく体術で戦う生徒が多い。身体能力のみならず、武術にも博学な君に是非とも教えて欲しいんだ。この通りだ…頼む」
そう言い飯田が頭を下げる。
「いや…意味が分からないですよ。そもそも、一人一人の特性を認知してないので的確なアドバイス送れないですし」
「だからこそだ。初めて見るアンタからの意見を取り入れて成長させてぇ」
「う〜ん…」
爆豪の言葉に拳太郎は悩みながら頬をポリポリと掻く。
「まぁ、僕の意見で良ければ」
その日から、拳太郎による皆への体術指南が始まった。
皆は心の底から期待していたのだ。達人の領域に立つ彼の視点から的確かつ厳しい意見を取り入れる事で己の弱点を知り、更に成長していく事ができると。
まぁ、最初だけ__ね。
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「ダメダメですね。何でその体勢からそんな複雑な攻撃に?ヤケクソ感が半端ないですし、しかもパンチする時はもっと抉り込むように」
拳太郎の指示は的確すぎていたのだ。特に八百万や緑谷、佐糖、尾白といった体術を扱う生徒達に。
「さっきも言いましたよねヤオヨロッチさん。そんな長い手足もってるんなら、もっとモーメント増すように。思い切り力込めて」
「は…はいですわ…」
拳太郎のその指摘に八百万はショボンとしながらも頷く。かれこれ15分はミッチリ言われていた。
「あと、尾白くんも。尻尾使うなら、重心も操作出来るようにすればもっと良くなるのに、攻撃にばかり使って、しかもその攻撃手法も単純動作ばかり」
「う…うん。凄いね。たった数回で俺の型を覚えちゃうなんて…」
「いや、凄く分かりやすかったので」
「えぇ…」
アッサリと自身の研究してきた独自の武術を一瞬で解析されてしまったことに尾白はガクンと肩を降ろす。
「緑谷くんは個性の扱い方によりますね。空中飛行だったら空中特化型、地上なら地上特化。だけど、今更、それぞれ作って臨機応変に変えるなんて無茶でしょう」
「うん。だからどっちでも扱える動きに個性を___」
「それじゃいつまで経っても成長できないですよ」
緑谷の意見をバッサリと切った拳太郎は、ホワイトボードに図を書いていく。
「無茶でもやれ。立体的に動けるなら、それに適した闘い方を身につけないと勿体無い。宝の持ち腐れです。地面での戦闘、空中での戦闘。両方それぞれ考えて臨機応変に切り替えていくようにして、そこからどのような姿勢なら入りやすいから、どのような攻撃ならこの攻撃で捌けるか、それを試行錯誤した末に自己流に昇華させないと」
「なるほど…」
拳太郎の指南は厳しいながらもしっかりと的を射ており、それぞれの弱点、及第点、改善点などを明確にしていった。
他にも飯田には蹴りの威力やその蹴りの体勢、蹴り技に入る前の動き、
轟には背後を捉えられた際の最低限の対処法や、炎、氷を応用した武術、
爆豪に至っては、攻撃特化型の武術や、爆破を利用した防御術、
などといった、個人の個性に適した戦い方を指南して行った。
その指南方法は、まさに一般の達人を遥かに凌駕しており、相澤やオールマイトは目を奪われていた。
「やはりアイツは武術の天才ですね…。無個性でありながらも、個性を持っている相手と同じ視点に立ってアドバイスなんて、軽くできるもんじゃない」
「そうだね。しかも、観察眼のみならず長年の経験かな?たった1回手合わせしただけで、彼らの戦法を全て知り尽くしてしまってるよ。格闘家としての直感もなにもかも、トップレベルだ…」
すると
「オールマイト先生、相澤先生」
皆に指導を終えた拳太郎が、こちらへと歩いてきた。
「このあと、どういうスケジュールなんですか?」
「予定通り、各地に散開してもらう。特に、死柄木と戦った事がある奴らはな。お前も場所、把握してるな?」
「えぇ。そうですが、もう一つ話しておきたいことが」
「なんだ?」
相澤が尋ねると、拳太郎はある事を打ち明ける。
「この騒ぎが終わったら、僕は____
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それから数日の修行を得てしばらくし、遂にこの日がやってきた。
「…」
緑谷以外のA組の皆や他のヒーロー達は各地に散らばっていった。
作戦の内容は簡単にまとめると、『陽動』
AFOの目的は緑谷の個性を奪うこと。ならば、確実に大軍勢を率いて自身を狙ってくるだろう。だが、それでも拳太郎がいれば、勝機は皆無に等しいため、潜伏を続けるはずだ。
それを逆手に取り、仕留めるのが今回の作戦である。拳太郎の不在をつき、自身を狙った時にはB組の生徒『物間寧人』によって、コピーされたワープ系の個性で他のヒーローや拳太郎を合流させて一気に叩く。
だが、下手をすれば自身の命はないだろう。この瞬間こそ生と死の瀬戸際であり、鼓動は激しく波打っていた。
○◇○◇
そんな中であった。
作戦の最中、緑谷はある場所に来ていた。
「…」
待機寮から離れた凸凹が目立つ場所にて、呼び出された緑谷がその場所に到着すると、そこには勾留されていた青山の姿があったのだ。
「青山くん…?何で君がここに…」
「両親の弁護士が釈放してくれたんだ。君と話もしたくてね」
緑谷が尋ねると、何故か耳元に当てていた携帯を青山はポケットに仕舞うと答える。背を向けながら話す青山の顔は少しばかりか、冴えていないようなものであった。
「話…?」
「うん。ねぇ緑谷くん…このあと…日本はどうなると思う…?」
「え?」
唐突な質問に緑谷が驚くと、青山は続けた。
「いきなり…なにを…?」
「前の事件で、世界は今、どうなっているか分かるかい?日本じゃ円の価値は大暴落して、幾つもの企業が倒産してるし、一部の敵達の活性化で、各国でのダメージが波及している…世界恐慌や超常発現と似た流れが差し迫ってるんだよ。
特に日本なんて渦中の中だ。このままいけば、長期施策する体力さえ尽き、守ることに手一杯になった国々から見捨てられ、孤立するだろうね」
淡々と語り続けていくその話に、緑谷は訳が分からず、ただ聞くことしかできなかった。
いや、それよりも、
「…なんで、いきなりその話を…?」
最も疑問なのが、再会していきなりこの話題について話した事だ。本来ならばまずありえない。
それに対して青山は答えた。
「それこそ、AFOの目的だからさ」
「え…?」
「大混乱に陥った時代に、有り余る個性を使い、荒れ狂う世を手中に収める……即ち世界の裁定者になる事があの人の目的なのさ…!」
「…!!」
ようやく合点が言った。そしてAFOの目的もハッキリした事で今回と今までの騒動の狙いがようやく理解する事ができた。
「そんな事…許されるはずがない…そんな事すれば神堂くんは…!!」
「あぁそうさ。あの人にとっては神堂くんは最も大きな障壁だよ。彼がいる限り、目的達成はありえないからね。だが、彼は手を出さなければ無害だよ。彼の大事にしているものは家族と友人。数少ない関係者のみが今まで通りに暮らせれば、敵対することもないのさ」
その説明がし終える頃には、青山の雰囲気や目の色が完全に変わっていた。輝いていた瞳は、全てを捨て去ったかのように真っ黒に染まっており、額からは冷や汗も流れ出ていた。
「まさか…君…!!」
「そうさ…騙してごめんね…だけどやっぱり僕…パパンとママンの安全を…守りたい…!!」
その時であった。
______彼の背後に黒い影が降り立った。
「よくやった。青山優雅」
そこには髑髏のマスクを被ったAFOの姿があったのだ。それを見た緑谷は全身を震え上がらせる。
「辛かったろう?苦しかったろう?友を裏切るのは。だがよく乗り越えた。僕の夢の果ての演説も良かったねぇ。少々ズレてたけど、パパとママから聞いたのかな?」
「…」
その言葉に青山は頷き、緑谷は絶望する。
「そんな…信じてたのにッ!!!それに神堂くんが…せっかく神堂くんがくれたチャンスを!!!」
「そうさ…だけど彼はこうも言った…家族を守るためなら…同じことをしてしまうと…僕もそうさ!家族を守りたいからさ!!家族を守るためなら何だってしてやるさッ!!!」
「…!!!」
その言葉に緑谷は驚きを隠せなかった。本来ならばここに来る筈の拳太郎の姿がない事に違和感を覚えていたが、まさかである。
「神堂くんは!?離れた場所でスタンバイしてる筈…」
「今は日本にいないよ。知り合いから聞いた話によると、海外から依頼が来て…いまブラジルさ」
「えぇ!?」
青山からの知らされた新たなる事実に緑谷は驚きを隠せなかった。
「な…何で!?」
「個性無効化する100メートル級のワニの討伐だって…」
「うえええええええ!?なんで教えてくれなかったのぉおおお!?」
緑谷が驚きの声をあげると、AFOが不気味に笑い声をあげる。
「そんな美味しい情報を君に話すわけないだろう?この話を聞いた時に僕は確信したよ。一世一代の大チャンスだと。頼みの綱が不在で残念だったね緑谷くん」
「く…!?」
この土壇場で今回の作戦の要である拳太郎が不在なことに、完全に詰んでしまった事で緑谷は歯を食い縛る。
その一方で、天敵である拳太郎がいないためか、AFOは高笑いしながら答える。
「さぁ青山優雅…苦しいのはもうすぐ終わるよ…!!共に世界を取る第一歩へと踏み出そうじゃないか」
「そうですね…こんな苦しいの……もうたくさんだよ___」
すると 青山の腰に装着された発射口が光出す。
その瞬間 青山の腰から放たれたレーザーが____
「おじさまッ!!!」
_______AFOへと放たれた。
「…!?」
突然とこちらに向けられたレーザーに反応が間に合わず、手で受け止めるが、その手は高熱によって焼け焦げていた。
「な…!?馬鹿な…連絡した時には嘘など見られなかった筈…!」
直前の通話していた時の事を頭の中で思い返しながら、AFOは青山達へと目を向ける。
すると
「いくらなんでも迫真すぎるよ青山くん!」
「仕方ないだろ!?相手を騙すためだったんだから!それに君だって名演技じゃないか⭐︎」
「あんな涙見せられたらつい…」
「僕なんか怖すぎて涙どころかちょっとおしっこ出ちゃってるんだよ!神堂くんの話をした時に」
「えぇ!?じゃあAFOのこと話してた時は!?」
「いや、意外とすんなり言えたよ。だって神堂くんの方が何百倍も怖いもん」
そこには緑谷と共に構えながら此方を見つめる青山の姿があった。
「恩知らずめ…この僕と敵対する道を選ぶなんて」
「お前に従うよりも神堂くんに逆らう方がもっと怖いからね⭐︎それにさっきも言った通り…僕は家族や皆を守るためなら何だってやってやる!!!だからお前と戦う…ッ!!」
そう言い青山と緑谷は共に構えた。
その光景にAFOは鼻で笑う。
「…愚かだね。まさかとは思うが…君ら2人だけで___
_________僕“ら”の相手をするというのかい?」
すると
AFOの周囲から黒くドロドロとした物体が現れ、その中から荼毘やトガヒミコなど大量の敵やダツゴク達が現れた。その中には当然死柄木の姿もあり、ダツゴクと合わせればその数は百はくだらない。
「先の戦いで弔が見たヒーローは各地に散開してる。だからここまで接近できた…この状況が手遅れみたいなもんだぜ…!!!」
「「…!!」」
最悪な状況だ。相手は強力な個性の集団。対してこちらは2人。絶対に勝てない。
「神堂くんがいないようでは、何もできないだろう?流石の彼も、ブラジルからすぐ来るなんて無理なはずだからねぇ!!アハハハハ!!!」
その時であった。
「呼んだ?」
「へ…?」