超常開放前線との闘いより数日。
世間は復興へと歩み出した。拳太郎とAFOによる、地球の存亡をかけた闘いは『星亡決戦』と呼ばれ、人類史上最大規模の闘いとして歴史に刻まれる事となったのだ。
そして、戦場となった場所では既に各地のヒーロー達が駆けつけ、復興作業に当たっていた。
それによって既に各地に出来上がっていたクレーターや地盤などが次々と元に戻されていき、その戦いの跡は消えていった。
それからインフラが回復し始め、規制も緩められてきた事で、多くの避難民達が自身の家へと帰って行ったのだった。
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闘いが終わり一週間後。民間のみならず、今度は緑谷達など、ヒーロー科の生徒達も復興作業に加わる事となった。
チームになってそれぞれ分かれ担当するヒーロー達の指示のもと、復興を進める形となっており、現場を訪れていた皆はそれぞれのチームに分かれて作業を行っていたのだ。
そして、彼らが担当している場所は、拳太郎とAFOが激闘を繰り広げた場所であり、皆は、改めてその現状に驚きを隠せず、圧倒されていた。
「凄い…これが神堂くんとAFOが戦った跡…」
「もう元の地盤がどうなってんのかすら分からねぇな」
その光景に、葉隠と焦凍は驚きの声を漏らす。
目の前に広がっていたのは、拳太郎とAFOによる最終決戦の跡だった。周囲の地盤は隆起したり陥没したりしており、全く別の地形となっていた。一部では深さが数十メートルもの穴も複数出来上がっていた。今ではもう復興は進んでおり、何十機もの重機や、建築や土壌などに特化した個性を持った人々が整備を始めているが、それでも戦いの余波はまだ残っていた。
「つうか…これでよく地球がもったよな?」
「うん。スターアンドストライブが個性で闘いの余波が地球に届かないようにしてたからね」
上鳴の疑問に緑谷は頷く。
今回の拳太郎とAFOの戦いは、明らかに地球全土を巻き込む程の戦闘へとなり、下手をすれば、日本の地盤が崩壊して日本から始まり、そこから世界中の大陸が崩壊する危機に陥りかねなかった。
それを見越していたオールマイト達は、スターアンドストライブそして途中から協力を申し出たアンナ・シェルビーノの手を借り、スターの個性【新秩序】とアンナの個性【過剰変容】を用いて、地球を対象に大規模な秩序【地球の地盤は神堂拳太郎の戦いの影響を受けない】を設定してサポートしていたのだ。姿を見ていないために、AFOを弱体化させる秩序は設定できなかったが、それでも十分に役目を果たしたと言える。
だが、それでもこの有様である。個性を発動していなければ、間違いなく日本は終わっていただろう。しかも、殆どが本気を出した拳太郎の足踏みや拳、蹴りなどの攻撃の余波で出来上がったクレーターである。
そんな中で、復興作業を行っていた上鳴はある事に疑問を抱く。
「そういえばよぅ。なんでこんなに物資とかの支給が早いんだ?AFOがダツゴクとか大量に出した時は世界から輸送路とか遮断されただろ?それがこんな早く開通するなんておかしいぜ?」
「そうだよな」
復興作業を行いながらつぶやいた切島に、佐糖も頷く。そんな彼らに八百万が答えた。
「校長先生は勿論、拳太郎さんのお陰でもありますわ」
「そうなのか?」
「えぇ」
事前に情報を得ていた八百万は彼らに説明した。
この驚異的な復興のスピードには、校長の築き上げたコネクションに加えて、拳太郎のネームバリューも大きく絡んでいたのだ。
超常開放前線が拳太郎の過去を世界中に流した事で、各国の首脳は勿論、今まで他の多数の敵連合によって損害を受けていた民間企業や慈善団体が拳太郎の住んでいる日本を救うために大量に投資し始めたのだ。
それによって、全世界から日本へ物資が迅速に支給され、復興は本来の数倍の速度で進んでいたのだ。
勿論だが、オールマイトが危機に陥った際に、各国の主力ヒーロー達が動こうとしていたが、所詮は国民の1人に過ぎず、国の要請で出動が叶わなかった。
これを見る限り、拳太郎の名声は既にオールマイトすら上回るものであると見れるだろう。
そしてその説明を受けた上鳴と佐糖は驚く事しか出来なかった。
「すげえ…」
「いや、ネームバリューだけでここまでって、エグいにも程があるだろ!?」
「……それよりもさ」
すると、淡々と話す八百万に耳郎は何かを感じ取り、葉隠とともに彼女に近づいた。
「ヤオモモって神堂の事に関して結構詳しいよね〜?」
「ひゃい!?」
「確かに!なんで?ねぇなんで!?」
「えぇ!?そ…それは…」
耳郎と葉隠に問い詰められた八百万は顔面を真っ赤に染め上げながら顔を逸らすも、2人は追求しようとしてくる。
その一方で、拳太郎の本人の姿が見えない事に気づいた麗日が緑谷へと尋ねた。
「そういえば、本人は?朝起きた時も見なかったけど」
「昨日から部屋で壊理ちゃんと一緒に寝てるよ。もうヒーロー科を抜けるし、1番の功労者だから、今回の復興作業は不参加なんだってさ。
それに、神堂君も色んな意味で疲れたって。不要に寮から出ない様に波動先輩とメリッサさんも付きっきりで見張ってる」
「寧ろそっちの方がヤバくないか?というか、まだ神堂のこと叩く奴らがいるんだな」
「うん…」
焦凍の言葉に緑谷は難しい表情を浮かべる。
拳太郎は確かにAFOを倒し世界を救ったが、それでも過去の件をいまだに引き摺り出し、被害者を登壇させては「人権侵害」だの「傷害」だの、持ち出して批判する人が大勢いるのだ。特に超常解放前線のトランペットが率いる政党やそれに関係する人が所属するメディアは連日、拳太郎を批判するニュースなどを放送しており、SNSでも賛否両論が相次いでいる。
そしてその恐ろしい現状に瀬呂と峰田は何か自覚があるのか、頭を抱えながら震え始めた。
「なんか俺…メディアに出るのが嫌になってきたな…助けても揚げ足取られそうで怖ぇよ…」
「しかもオイラ一番危ねぇじゃん!」
今後、ヒーローになったとすればマスコミなどの取材で顔を出して世間に存在を知らしめる時は必ず来るだろう。いつ自分らが拳太郎と同じ目に遭うか分かったものではない。
その後も皆は復興作業を続けるのであった。
そんな中、焦凍の携帯が鳴り始める。
「…」
通話に出て、しばらくすると、神妙な顔つきで携帯を閉じる。その様子に麗日は思わず尋ねる。
「あれ?今の電話誰から?」
「姉からだ。ようやく面会の時間が取れたから、終わったら行ってくる」
その内容に皆は息を呑みながらも、せっせと作業に徹する彼を見守るのであった。
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雄英高校から数キロほど離れた場所にある勾留施設。
「…」
巨大なアクリル板によって隔てられた部屋をエンデヴァーこと轟炎司は見つめていた。彼の視線の先には、此方に目を向ける事なく蹲る幼い少年。
その幼い少年はかつては多くのヒーロー達をその業火で葬ってきていた敵【荼毘】こと轟家の長男『轟燈矢』である。その身体は壊利の個性によって失踪したあの日の姿へと戻っており、個性も消えていた。今ではただの少年だ。
そんな彼の姿を見たエンデヴァーは、背を向ける彼に対して、ガラスに手を当てる。
「燈矢…」
もう2度と会えないと思っていた息子が目の前にいる。それは喜ばしいのか?否、それどころか罪悪感という負の感情が湧き上がってきていた。
自分の無責任な言動や行動そしてNo. 1への渇望と期待によって彼を追い詰め、燈矢は一度死に、荼毘に生まれ変わらせてしまった。たとえ戻ったとしても、その記憶はずっと頭の中にあった。
だが、元に戻ったからこそ、向き合える。今度こそ話そう。
そう思いエンデヴァーはガラスへ触れて声を掛ける。
「燈矢!」
すると
_____「死ね」
その背中を向ける姿から声が返ってきた。それは酷く掠れた声だった。それでもエンデヴァーは続けた。
「燈矢…お前をここまで追い詰めてしまったのは俺だ。お前だけじゃない…冷も…夏雄も冬美も…焦凍も みんな俺が不幸にしてしまった」
「今更謝罪かよ…?」
「…あぁ」
震えた声が返ってくる。その声を受け止めつつ、エンデヴァーは頷いた。
「遅すぎると思っている。取り返しがつかない事も…だからこそ、俺は残りの人生を全て償う為に使いないと思っているんだ」
「……うるせぇ…」
すると
「うるせぇんだよッ!!!!」
___!!!
震えた声と共に怒声が響き渡り、振り返った燈矢がエンデヴァーの顔目掛けて拳を放つ。
だが、その拳はアクリル板へとぶつかり、彼の手からは血が流れ始める。
「燈矢…!やめるんだ!」
「うるせぇ!!」
今度はもう一方の拳がアクリル板へと叩きつけられた。両腕がまるで、すがるかのように叩きつけられていく中、見えてきた燈矢の顔は憎悪に満ちていた。その恨みを込めた目を向けながら、燈矢は拳を震わせる。
「今更なんなんだよ!!今まで焦凍…焦凍…焦凍…!!!俺の事なんか全然見てなかった癖に!俺がどんな思いで!!お前の期待に応えようとしてたか…!!」
「あぁ…そうだな…」
燈矢から吐き出されていくその言葉にエンデヴァー自身は返す言葉もない。
全て事実だ。自分の理想に応えようとしてくれたにも関わらず、向き合ってあげられなかった。そして、燈矢は誰よりも自身を理解し、応えようとしてくれていた。
「お前は誰よりも俺の事を分かってくれていた。ずっと見ていてくれたもんな…」
「…!!」
それから燈矢は恨みを吐き出すかの様に何度も拳を打ちつけていく。
だが、いくら恨み辛みを吐き出そうにも、その恨みを果たせる力はもうない。AFOにより奪われ、さらにそのAFOも拳太郎が葬った事で無個性となり、もう何も残されていなかったのだ。
すると、燈矢の手が崩れ落ち、怒りに満ちていた顔からは怒りが消え去ると共に、震えた涙が溢れ出ていた。
「どうせ捨てるんだろ…?望んだ個性じゃなかったもんなぁ!!その上に今は無個性だ!!!どのみち俺は死刑か寿命終えるまで牢屋だよ。良かったなぁ…?出来損ないが家からいなくなって金は掛からねぇし、生きてるから殺した罪悪感も抱かずに済む。あの仏壇だって高かっただろう?サッサと売っぱらっちまえよ!!」
「…」
涙を流しながら自暴自棄に訴える燈矢のその目からは、もはや生きる気力は感じられなかった。確かに燈矢はもう後戻りはできない。拳太郎によって、大規模な被害は起きなかったものの、それでも燈矢が過去に焼いてきた罪を拭う事はできない。ここで家族に戻れたとしても、待ち受けるのは死のみだ。
その上に、彼は今、弾かれる存在である『無個性』である。無個性な上に、執行まで生き続けることなど、拷問に近かった。
だが、エンデヴァーは首を横に振る。
「俺はお前を決して捨てない。お前が荼毘になってしまったのも、人を殺めてしまったのも全て俺の責任だ。だから残りの人生を、お前や皆へ償うために使う」
「だからなんだよ…?そうやればまた家族に戻れると思ってんのか!?」
「お前がそう思ってくれたら、俺はそうしたい。今まで向き合ってあげられなかった分をこれから埋めさせてほしい。燈矢…これからも俺は毎日来る。だから話そう。そしてぶつけてくれ…どんな恨み辛みでも良い…」
「クソが…この状況になって…!!」
すると
「親父」
「焦凍…」
後ろの扉が開き、焦凍が現れた。彼の入室にエンデヴァーは驚きながらも、歩いてくる彼に場所を譲るように少し離れると、面会室に入った焦凍はエンデヴァーを横切り、燈矢の前に立った。
そんな彼を見た燈矢は怒りの目をむける。
「…よう最高傑作…」
「燈矢兄…」
自身の兄だと暴露したあの日以来、喋る事が無かった焦凍はエンデヴァーの横に立つと、その顔を見つめ、彼のその覚悟の決まった目を見た燈矢は呆れた様にため息をつく。
「はっ…テメェも説得に来たのかよ…?親子揃ってしつこいな」
「いや…正直、どうしたら良いか分からない。親父の訓練のせいで、ずっと燈矢兄と話せなかったし…話そうと思ったら、こうなってた」
そう言いながら焦凍は燈矢の震える瞳を見つめると、ゆっくりと手を添えた。
「だからさ燈矢兄。教えてくれよ。燈矢兄のこと。これから俺も来るからさ。もし親父が嫌なら俺が話し相手になるよ」
「焦凍!?」
「私もだよ燈矢兄」
焦凍の言葉にエンデヴァーが驚く中、後ろの扉が開き、冬美と夏雄も現れる。中でも燈矢から毎晩毎晩、エンデヴァーに対する愚痴を聞かされた夏雄は前に歩いてくると、ガラスを叩く。
「ったく…その姿見ると思い出すぜ。アンタは毎晩毎晩、俺に散々愚痴りやがって!こちとら寝不足だったんだぜ!?今度は俺の愚痴も聞いてもらうからなクソ兄貴!!」
「夏くん…」
「燈矢兄!!私だって全然話せなかった…だからさ!話そうよ!!
「冬美ちゃん…」
幼少期、全く話すことができず、遊ぶ事もあまりなかった2人が涙を流しながら訴えてくるその姿に、次第に燈矢の目が震え始める。
すると
「私もよ燈矢…」
冬美達と共に現れ、エンデヴァーの後ろに立っていた冷が歩み寄り、そのガラスへと手を当てた。
「かあ…さん…?」
「ごめんね…あなたの気持ちを分かってあげられなくて…個性に耐えられる身体に産んであげられなくてごめんね」
そう言い、冷は何度も彼へ謝罪の言葉を口にしていった。それら全てを耳にしていくうちに、燈矢の心の奥底にあった小さい頃の記憶が頭の中に浮かび出していき、次第に彼の目からは涙が流れ始めていった。
「なんだ…よ…お前も…今更…!!」
「えぇ。遅すぎるのも分かってるし…本当に情けない母親よ…貴方のお父さんの期待に応えたいって気持ちに気づいていたのに、何もしてあげられなかった。助けてあげられなかった上に見てもあげられなかった…本当にごめんね」
過去の事を思い浮かべながらも冷は燈矢へと手を伸ばす様にガラスに触れる。
「だからね燈矢。お父さんとお母さんの事は許さなくて良い。恨んでもいい。
だけど、もしも貴方の中で、少しだけでも私達の事が残っていたら、教えて。貴方の気持ちを…ずっと話せなかった事を。お父さんと話すのが嫌なら私が代わりに聞くから」
「冷!?」
すると
「一家揃って…いま…さら…なんなんだよ…!!」
燈矢の恨みが込められた真っ黒な瞳が光を取り戻すと共に、流れ出ていた涙の量が次第に増えていき、大粒の涙が溢れ始める。
「俺はもう…家族なんて…!!」
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そこからは燈矢はその場に泣き崩れてしまい、何も話せなくなった。
その場を見ていた警備員の判断で面会は終わり、警備員に連れられる形で燈矢は面会室から出て行くこととなった。
そんな中であった。
「あの、ちょっと待ってください」
焦凍が声を上げ、それを聞いた警備員は燈矢を連れていく手を止めた。
そして焦凍は此方に背を向ける燈矢にある事を尋ねた。
「ねぇ燈矢兄、好きな食べ物なに?」
「…」
いくら待っても答えは返ってこない。それを察した警備員は再び連れていこうとする。
その時だった。
「……蕎麦」
「…!!!」
微かに、出ていくと同時にその声が聞こえた。それを耳にした焦凍は振り向き、驚きの声を上げる。
「一緒だ…!!」
その声に燈矢は一度こちらを振り向くが、それを最後に今度こそ燈矢は部屋から出ていった。
だが、皆は忘れなかった。部屋を出る際に焦凍達へ向けられた目を。まるで“まだ話し足りない”“もっと話したい”と望むかのようなその目を__。
それでも、燈矢の罪は消える事はない。
“ある男”からの直談判により、即時の執行は免れたものの、その後の裁判によって、燈矢には20年の懲役と刑期を迎えた後に死刑という異例の判決が下されたのであった。
それからしばらくして、ついに卒業式がやってくる