人々を救いたかった。勇者でありたかった。
始まりはそんな気持ちだったのかもしれない。
その気持ちは、不死人となり絶望していた私の足を動かし続けた。
幾度もの死の末に教会の上、竜を模した彫像の守る鐘と、炎に魅了され滅びた古都、魔女の守る鐘を鳴らすことができた。
神々の都市へとたどり着き、新たな使命を与えられても、その足は止まらなかった。
4つの分け与えられたソウルを奪い、王の器へと注いだ。
かつて神々の王であった男との、最後の戦い。それを制した私は、どこか疲れていた。
王であった男が守っていたその火を継ぐために自らの体を差し出した時、どこか安心していた。
これでようやく終わることができるのだ、と。
だが、終わることはなかった。
再び灰の墓所で目覚めたとき、私はどこか壊れてしまったのかもしれない。
どこか盲目的に火守女の言葉通りに薪を集め続けた。
そんな時に、彼女と出会った。
「…やあ、貴公。ヨエル殿の主だな」
黒いドレスに身を包み、さらに仮面で素顔を隠した彼女。
ロンドールのユリアと名乗った彼女に、私は依存していたのかもしれない。
火守女や他の人々と違い、彼女は私だけを見てくれていた。期待してくれていた。
だから私はそれに応え続けた。
魔術の師であった男を殺した。
アストラの若騎士を誅殺し、その友人も殺した。
そして、火守女を裏切り、わたしは亡者の王となった。
すべてが終わり、彼女に会うために私は出会った場所へと戻った。
…だが彼女は、そこにはいなかった。
そこにあったのは彼女が愛用していたその刀のみだった。
彼女はもうどこにもいない。
そう知ったとき、私の心は折れていたと気づいた。
♢
そこから先はあまり覚えていない。
がむしゃらに走り続けた。彼女と出会った場所から離れようと、必死に走った。
そして気づけば、私は知らぬ森の中で、小さな家のなかで安楽椅子に座っていた。
動くべきだと知りながらも、立ち上がる気力は起きなかった。
なぜならその場所は静かだった。誰にも期待されず、誰かに呆れと嘲笑の目で見られることもなかった。
その孤独は、私の壊れ切った心を癒してくれていた。
どうせ私は不死だ、食事も水もいらない。ゆえに私がそこから立ち上がることはなかった。
そんなある日のことだ。随分と長い時間がたって、いつの間にかボロボロになっていたその小屋に、一人の少女が訪れた。
その小さな少女はどうやら私に興味があるようだった。彼女の母親から私のことを聞いたようで、どうやらこの小屋を用意したのは彼女たちの先祖であったということ、その管理も私が知らないうちに彼女たちがしてくれていたということ、しかし数代前から完全に管理をやめていたことを、私はようやく知った。
そして少女は、母親からこの小屋のことを聞き、興味本位でやってきたらしい。
まあ、だからと言ってそれは私が彼女と話す理由にはならない。そもそも口を開くことすら、今の私にはできないのだから。
だがその少女はそんなこと気にするつもりもなく、何が楽しいのかも私にはわからないが、私が聞いていようがいまいが話し続けた。
彼女の住む村のこと、彼女の家族のこと。彼女の好きな場所や、好きなものについてまで。
だがいつしか彼女も話すことに飽きたのか、私のいる小屋(私の家といっていいのだろうか)の中を何やら探し回り始めた。
と言っても小屋は本当に小さなもので、私がずっといる部屋以外にはないのだろう、それもすぐに飽き、立てかけてあった、私の杖をいじり始めた。
かつて吹き溜まりで手に入れた、闇の魔術に特化したそれを少女がいじる。
闇の魔術というものは実に危険だ。私のような不死ならいざ知らず、ただの人がいじろうものならすぐに闇に飲み込まれ、人間性が吸い尽くされ、最終的に肉体のみの亡者となる。
だから私は、その杖に宿る闇に少女の人間性が吸い取られんとしているとき、彼女も亡者となるのだろうかとぼんやりと思った。
別に彼女が亡者になろうと知ったことではないはずだった。
ただ椅子に座っていた私を気に掛け、私の返事がないにもかかわらず、ずっとそばにいてくれただけの、見知らぬ少女が死のうが、関係ないことだ。
だが、私の体は、いつの間にか動いていた。
彼女が闇に触れるその直前に、私は彼女から杖を取り上げる。
杖を取り上げられた少女は、私が突然動いたからか、あるいは杖からあふれていた闇の存在に気付いていたからか、杖を取り上げられてしりもちをついたのちに、大声で泣き始めた。
ひとしきり泣いて落ち着いた彼女は、私にいくつか問いかけてきた。
魔術は使えるのか、という質問に、いつの間にか動くようになった口で肯定すると、彼女は私に魔術を教えてくれと言い始めた。
そんなわけで、私はその少女、フリーレンと名乗った彼女に、魔術を教えることになった。
♢
あの丘には魔女がいる。
そんな噂を聞いた時、魔法という存在を知ったばかりの私は、その噂に興味を持った。
その時の私は、魔法が大好きだった。村の長老や旅人にちょっとした魔法を教わるのが大好きだった。
魔女なんて名乗るのであればきっとすごい魔法を教えてくれるに決まっている、と思った私は、長老や旅人に教わるようにその人にも魔法を教えてもらおうと、丘の上にひっそりと建っている小さな小屋へと向かった。
その小屋は数十年も放置されていたようで、ドアを開けようとするとまるでカギがかかっているかのようにあかなかった。
幼かった私はほかに入る方法が思い浮かばず、ドアを強引に開いて中に入ろうとした。
何度も何度も押したり引いたりを繰り返すと、ずいぶん古かったのだろう、ドアが壊れてしまったのか、倒れこむドアとともに勢いよく小屋の中へと入ってしまった。
人のものを壊してはいけない、と強く教え込まれていた私は、せめて謝らなければ、と慌てて立ち上がり、家主であろう魔女を見た。
その魔女と呼ばれる人は、どこか不気味だった。
ドアが壊れたというのにこちらを見ることもせず、どこか生気がない、焦点の合わない目で窓の外をずっと眺めていた。
時々揺れる安楽椅子は、唯一彼女がまだ生きているということを示していた。
ドアが壊れたことに何も言われず、安心した私はそんな彼女に何度も話しかけた。
村のことや家族のこと、お気に入りの花畑のことなど。
だがそんな風に何度も話しかけても、彼女が何か言うことはなかった。
ただ彼女は、ずっと窓の外を眺めていた。
そんな彼女の様子に飽きてしまった私は、彼女のそばに立てかけられていた、とても長い杖に目が行った。
先に薄汚れた白い布のようなものがついた不気味なそれは、長老が使う杖のように何かがまとわりついていた。察しの良かった私はその杖をすぐに手に取った。
取ってしまった。
その杖を手に取った瞬間、私は何かに魅入られたかのようにその杖から目が離せなくなった。
その杖から何かがにじみだしていたとしても、動くことすらできなかった。
離れなきゃとわかっていたのに、手を離すこともできなかった。
杖からにじみ出たそれはゆっくりと私に近づき、そしてそのまま、私から何かを吸い取ろうとして。
その時、私の手から杖が離れた。
突然離れたことで、逆に杖から身を引き離そうとした私はしりもちをついた。
見上げると、全く動く様子すらなかった彼女が、杖を握りしめ、どこか心配そうにこちらを見ていた。
そんな彼女に安心した私は、次に杖を握った時に現れた何かに対する恐怖に思わず泣いてしまった。
彼女はそんな私に、困ったようにしつつも、何かを言うことはなかった。
ひとしきり泣いた後、私は少しだけ話せるようになったらしい彼女にいろんな質問をした。
彼女はそのほとんどの質問に覚えていないと返したが、私が最後に質問した、魔法を使えるのかという質問には肯定してくれた。
私は当初の目的である、魔術を教えてほしいと彼女に願った。
彼女は困ったように考えつつ、その願いを了承してくれたのだ。
それが、私と彼女の出会い。私の、おそらくは魔術師としての始まりだ。
なんで誰も簒奪者ルート設定の灰書かないんだろうね。僕の性癖がニッチすぎるだけかな。