『必要なのは金と恐怖。それが効率よく手に入るのは...』
「賭場、ね。」
成人にもまだなっていないような幼さを感じる容姿。可愛らしい桃色のスカートとフリルの付いた水色のシャツ。胸の辺りにぶら下がっている瞳の様なチャーム。辺りを往来する人々の服装、スーツや黒のコート等落ち着きのある服を着ているのに比べあまりに場違いなその服装の彼女は酷く目立っているがそれを気にする質でもなかった。
半眼にて見上げる彼女の前には"カラス銀行"の文字が黒塗りで描かれているビル群。非正規の手段...胡散臭い者から渡された...で手に入れた名刺を一つポッケから取り出し、その手で自動ドアを潜り抜ける。
少女は烏のロゴが付いた黒色の名刺を受付に手渡した。
「…あれは?」
「ただの小金持ちなギャンブラーじゃないすか。ガキのくせして金に困ってるんすかねー。」
「…。」
左目にある縦に大きく貫く傷が特徴的な男、伊藤吉兆は一見客かと見間違える程行員らしくない行員を隣に、ヤンキーの様な風貌の赤みがかった髪を後ろに流してヘアバンドで留めている男を引き連れそうつぶやく。
行員の卵である男、昼間唯はまだ闇の世界に踏み込んでいなかった故にその雰囲気に気が付けない。
周囲の客は遠巻きながらもある卓の周りにたむろしその勝負を見守っている。緑のフェルトのシートが敷かれたテーブルは脂汗をダラダラと流す白シャツ中年の男と、その男と相対している成人しているか怪しいゆったりとした淡い色彩で着飾っているパジャマの様な服を着ている少女。この二人が囲んでいた。だが注目されている理由はその容姿ではない。不快度指数の塊と化している不清潔な男の
「では再度ルールを確認いたします。
"タイマンババ抜き"はババ抜きにおける最後の運否天賦を再現したゲームとなっております。
両プレイヤーはチョイスとホルダーに分かれてもらいチョイスは手札を一枚、毎ラウンドシャフルするトランプの束から取り、そのカードをチョイス側の手札とします。ホルダー側はそのカードと同じランクのカードとジョーカーを手札にします。
例としてチョイス側の手札がハートの2だった場合、ホルダー側の手札はハート以外の2とジョーカー、といった具合になります。
そしてそこまでの準備フェーズが終了するとラウンド開始。
チョイス側がホルダー側の手札を一枚選択しそのカードを自分の手札として取ります。もしそのカードが自分のカードと同じランクならばチョイス側の勝利。賭け金分を相手から奪います。しかしここでジョーカーを引いてしまった場合チョイス側の失敗として試合続行。チョイスとホルダーが逆転し先ほどの手順を行ってもらいます。
そしてここで勝負の肝となるのが絵札の存在。チョイス側は絵札を手札とした状態の時、ジョーカーを引いてしまった場合、チョイス側の賭け金は強制的に2倍に増額します。
さらにこの効果は5スロット本来賭け金の上限である4999万を超えても適用されます。それも流石に1億までが上限ですが。
ですのでもしチョイス側が絵札を手札としてしまった場合、互いにジョーカーを引き続ける間は手札のランクは変動しないので賭け金が倍々になっていきます。
」
ディーラーを務めている黒スーツの行員はそこで一息つき、現状の確認を行った。
「ですので今回の場合、通算10回に及ぶ絵札持ちにてのチョイス側の失敗が続いているので、両プレイヤーの賭け金は2の5乗、32倍となりますがよろしいですか?」
いいわけねえだろっ!!
「お前らも見てただろ!?こんなの、どう考えてもイカサマだ!十回もジョーカーを引き続けるとか…おかしいだろ!!」
咥内から唾を飛ばし激しい身振り手振りをし汗をまき散らす男はテーブルをドンと強くたたき傍に置かれたチップタワーがガシャリと音を立て崩れる。
だが男の弁は一般人目線で見れば的を射ていた。
直近10戦。その全てはチョイス側の負け、つまりジョーカーを渡しあうという結果になっていた。
この結果が起こり得る確率は1024分の1。さらにこの現象が起こりだしたのはちょうどチョイス側が絵札を手札として山札から引いた時から。男が口汚く不正を訴えるのも理解できることだろう。
「貴方がイカサマについて言及するんですね。」
「ああぁ?!なんの話だよ!話を逸らすなクソ餓鬼が!」
睡魔に取りつかれているように眠たげな瞳を携えている少女は興味なさげにそうつぶやく。その言葉に対して過剰に反応する男は誰が見ても図星を突かれていた。
明らかにこの現象は少女によるイカサマ。しかし観客たちは男の味方をしているわけではなかった。その実、少女が残りチップ三枚にまで追い込まれているのは男の手…イカサマによるものだった。
このゲームの手札はチョイス側が勝つたびに手札が山札から引かれそのカードを新たな手札とされるが、ジョーカーだけは変える必要がないためずっと同じカードが使われることになる。
その性質を利用し男はジョーカーに特製のガラスを使用した自分の眼鏡を通してしか見えない塗料をホルダー側になった際に裏面に塗り自分がチョイス側に回った際の圧倒的優位を確立していた。
実際、男がチョイス側に回った時の彼は常勝無敗。少女を勝負から降りさせない程度にチップを奪い続けていた。
「確かにイカサマされているだろうというのは、まあ状況から見て確定でしょう。しかしルール違反ではありませんので。今回禁止されているルールは電子機器の使用と故意に相手の手札を見る行為だけですから。」
ディーラーはあくまで仲介者。勝負にルール以上の事で首を突っ込む気がないようである。それは男が絵札が手札に来るまで少女に勝ち続けていた件についても同様。今回だけ何かと言うわけがなかった。
そして無法地帯が確約されたパッシブチート悪魔は勝負が始まって初めて無表情以外の感情を表に出す。嗤いだった。
「私が今回の勝負オールインしてるから300万。今回私がチョイス側で当たりを引けば、」
倍率32倍で9600万。地下行きはまず確かでしょう。
「黙れ!!クソクソクソ俺のイカサマに気が付けない馬鹿の癖にイキんじゃねえ餓鬼ぃ!!」
「貴方がチョイス側の時、貴方が私の二枚の手札から一枚とったんでしょう。私がイカサマする余地がないわ。」
少女の言は全て正論。図星も突かれた上に論破されっぱなしで恥ばかりが積み重なる。だがあまりに強い怒りと恥は逆に男は冷静さを取り戻させていた。
(落ち着け…。確かに今は不味い状況だ。この10回ずっと続いてるジョーカー渡しは絶対この餓鬼の仕業なのは間違いない。どんなイカサマをしたら僕が選ぶ札を予めジョーカーにしておくのか、まったくわからないけど…、結局僕がここで勝てばすべておじゃん。この餓鬼の残高じゃ絶対9600万は払えない。僕のイカサマはたぶん見破られている、んだろうな。これもどうやってるのかわかんないけど、ジョーカーに付けたはずの印がペアのカードについてるし…。)
だが男が末に生み出したのは病的なまでの狡猾さなどではなくただの現実逃避だった。
(でも二分の一で僕の勝ち!!この面だけが無駄に良い餓鬼を地下送りにして僕は9600万ゲット!!そしたらこんなうざったい戦略使って僕を地下送りにしようとしたこの餓鬼を買い上げて僕のペットにでもしてやるんだ。そしたら蹴って殴って僕のを擦り付けて、)
「はあ…。さっさと終わらせましょうか。」
冷静になったり怒気をまき散らしたり興奮したりいい加減付き合いきれなくなった少女は興が削がれたのか笑みを消し手早くカードを片手に持ち意識を男の手にある二枚のカード、ではなく、
(右引くな右引くな右引くな右…)
「左ね。」
ピッと手早く引きランクを確認する。両手には同じカードがあった。
「はァ…?なんでッ…。」
「古明地様の勝ちですね。では賭け金の32倍、9600万が軍資金に追加されます。まあ、これ以上勝負を継続することはできないですが。」
「ふ、ふざけるなああ!!インチキだこんなの!!たった一回の勝負で特別融資を受けても払いきれない額になるとか、どう考えてもおかしいだろおお!!」
引きずられていく男を傍目に少女は軍資金を流し見する。まるで興味がない様子だった。
「…あの女をうちで囲いたいな。」
「伊藤さんそんな趣味あったんすか。」
「金に興味ない人間は金よりも力が強いからだ。」
正式に自分の班員になったらまずいの一番に昼間を殴ることに決め、次に理由を話す。
虹彩の中まで真っ黒の瞳はじっと少女を見ていた。
こういうさっくり系小説書いてみたかった。
[タイマンババ抜き]
チョイスとホルダーに分かれてそれぞれ手札が1、2枚配られる。双方とも同じランクのカードが配られホルダーにはジョーカーも渡される。
チョイス側がホルダー側の手札を一枚選択しそれを手札に加え同じランクならチョイスの勝利、ジョーカーなら失敗とし役割を交代。チョイス側が勝つまで繰り返され続ける。
ただし、絵札の場合、プライドが高いのでジョーカーに騙されたと知った彼らは自分の(チョイス側の)手札を倍増する。
ちなみにチョイス側の引いた手札がジョーカーの場合ジジ抜きに変わりジョーカーをホルダーから引っこ抜かなければならなくなる。ホルダー側の手札は適当なランクのカードとジョーカーになる。