インチキギャンブラー古明地   作:ナチュラル7l72

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実はキャリアの概念は特四にしかない可能性がありますが、カラス銀行に所属する全従業員がこのキャリアを所持するものとして物語を進めます。たぶんそれで合ってるはずだけど。

今さらだけど老いたテディベア、4リンクにしてはやりすぎだな…。SOSを基準にしてもやりすぎだ。


ジャンケットVSギーク

「昼間。」

 

翌日。昼間は無事与えらていた仕事を終えリポビタンD片手に自分のデスクに座っていた。何故Dの名を冠するそれなのかというとオフィスの自販機にエナドリしかなかったために一番ジュースっぽいものを妥協して買った結果である。

 

「うっす。」

 

「昨日の仕事、こちらで確認した。」

 

背筋を伸ばして起立。慣れないスーツを邪魔くさく感じつつもしっかり背広を羽織り昼間は上司の前に立ち上がる。

 

「レポートに関しては不備もなく言うことはないが、添付されていたあの契約書は何だ。相手は誰だ。なんの契約を結んでいる。それと何故報告をしない。」

 

(うわーボス切れてる。)

 

(新人が今日中に帰宅できるか賭けません?)

 

「あーあれの事っすか。」

 

常識的に考えてその言葉遣いは上司に対するそれではないが昼間の辞書に敬語は載っていない。これが最大限畏まった昼間の言動である。それを知ってか知らずか、伊藤吉兆は何も言わない。というより今そんな些事を気にする程暇ではない。

 

「昨日会社を徘徊してたんすけど――」

 

 

 

 

 

「ではそんな不肖昼間殿のため、拙者がキャリアについて教えてしんぜよう!」

 

(急に元気になったなこいつ。)

 

ともあれ、対価も払わず後腐れもなさそうな奴から情報を取れるのはまたとない機会だ。昼間は現在エンゲルの欲求が他人に講釈を垂れることのみだということを見抜いているため安心して耳を傾けていた。

 

「キャリア(経歴・職歴)

キャリア(英: career)は、個人が人生の中で積み重ねてきた職業経験や社会的活動の履歴を指す概念である。でござる。就業歴や役職の変遷だけでなく、学歴、資格、研修経験、ボランティア活動、成果物の制作履歴なども含む場合がある。でござる。一般的には職歴と同義で用いられることが多いが、近年では人生全体の方向性や職業的成長の過程を指す広義の意味で使われることも多い。でござる」

 

(本当にこいつで大丈夫か…?)

 

スマホ片手にそれを凝視しながら説明するその口調は明らかに何pediaからの引用である。聞く相手をやはりミスったかと昼間は既に話を聞き流し始めていたが引用文特有の口調を止めたあたりでまた集中力を取り戻し始めた。

 

「世俗の世を生きる一般人の間ではこのような意味合いがキャリアでござるが、拙者たちが所属するこの会社の"キャリア"はさっきのではまったくと言っていい程説明が足りないっス。」

「まずキャリアは仕事を一日ミスなく終われば1増えるでござる。」

「仕事の手当てとして時々2か月分のキャリアを貰ったりすることもあるっスけど、それも誤差みたいなもんでござる。その仕事を完遂するのに4か月とかキャリア使っちゃうスからね。それくらいキャリアは細々としか増えないでござる。」

「それどころかもし仕事の提出遅れや内容を満たさない場合は仕事をしていないと見なされてその一日分のキャリアが貰えず、それどころかキャリアが一日以上減っちゃうなんてこともざらにあるっス。」

 

拙者も昔はよくやってござるねぇと何故か武勇伝のように自分の無能さをさらけ出すエンゲル。昼間はまるっと無視して先を促した。

 

「そしてこのキャリアの使用用途が権利の購入っス。確か共有ファイルの購買部リストに載ってるはずでござる。うちの主任も業務内自由遊戯権を買っていたはずでござるなあ。かくいう拙者も私服着用権を買ってるからこうして『プリティキュアー』"スタミナのレッド"チャンのグッズを業務中に切ることができるのでござる。」

 

伊藤吉兆が独裁権を持っていることからそういった権限があることを昼間は知っていたが、まさか入社初日の自分でも買えるとは思わなかった。そういうことは契約する前に研修など行って伝えるべきではと昼間は思わなくもないがどうせ言っても無駄なので思考から外す。

 

「そしてここからが本題でござる。今まではキャリアを減らす話しかしてこなかったでござるが、キャリアを一気にどかんと増やす方法も存在するっス。」

「それが"取引"でござる。」

 

「取引?」

 

ここまでの流れのなかで一番の特大ニチャリ顔を晒すエンゲル。その様相からして一番重要な話なのだろう。

 

「もう昼間殿もこの会社の非人道的な行為はなんらかの形でみたと思うスが、キャリアを用いた取引もその例に漏れないでござる。」

「双方の合意があればすら買うこともできる。」

 

「どんなものにでも使える。それがキャリアでござる。」

 

「…なるほどな。」

 

想像以上の用途と価値。おそらく雪村真が俺にたかろうとしたものがこれだろうと昼間は当たりを付ける。実際それは正しく雪村は最低限の礼儀すらできていなかった昼間に対し一ミリも同僚として期待していなかった。初対面の時からキャリアを丸々一年分奪ってポイしようと決めていただけに昼間にとって読みやすく失敗に終わってしまったが。

 

(たぶんボスが言ってるのはこれの事だろうな。キャリアを賭ける取引をすることで場合によっては一年のキャリアなんて容易に手に入る。)

 

「お前良く知ってるな。もしかして結構勤務年数多かったりすんのか?」

 

「デュフフそれほどでも。」

 

適当に欲しそうな言葉を吐くとエンゲルはテレテレと擬態語が付きそうな仕草をする。内心キモと思いつつこいつのモチベが下がらない程度にエンゲル上げをしておく。仕事を終える分にはもう十分だが、まだ歩く肉まんことエンゲルには使()()()があるからだ。

 

「なら早速、キャリアを賭けて取引しないか?」

 

「…拙者とでござるか?」

 

「たりめーだろてめー以外誰がいる。」

 

昼間はまだ入社して間もない。紛れもなくビギナージャンケット(初心者小間使い)。その長所も自分で扱い切れず持て余している。少し年長者に小突かれればすぐにオークションに落ちてしまうだろう。

 

「し、しかし拙者は別にキャリアに貪欲では――」

 

「お前、なんか作ってるだろ。」

 

 

「試したくて試したくてたまらねえって面してるぜ。」

 

 

だが昼間唯は紛れもなく人を喰う側の人間。

欲望を見つけ無謀な賭けを成立させるスペシャリストだ。

 

「…どうやら拙者は顔に出すぎていてようでござるね。」

「拙者が入社して初めて作ったギャンブル、それが4リンクで現在稼働中っス。」

 

 

「覚悟はいいか?拙者はできてる。」

 

 

思わず一歩エンゲルから引いてしまった昼間を一体誰が責められようか。唐突に顔前にヘドロが湧き出て、それを一瞬でも逸らさず直視できた者にのみ投石の権利が与えられる。その顔面は昼間の人生で一度も見たことの無い、夢にまで出てきそうな程粘度が高いニチャリ顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけでキャリアを増やす案の考案ついでに実行してきました。」

 

「俺の許可なく契約を結ぶか。どうやら被独裁者の自覚が足りていないみたいだな。」

 

(うわーボス超切れてる。)

 

(新人がオークション送りにされるか賭けません?)

 

「すいませんボス。話が旨すぎてついすぐ乗っちまいました。」

 

「ほう?どこがどう旨い話なのか聞かせて見ろ。お前が今日帰れるかはそれ次第だ。」

 

(帰れるってダブルミーニングだったりする?)

 

(家に帰るという意味か土に帰るという意味か賭けません?)

 

(ベットが割れなきゃ賭けにならないよ。)

 

「雪村、蔵木。今日はオールしたい気分のようだな。」

 

さっと目を逸らしカタカタキーボードを叩き出す同僚たちを尻目に昼間は口を開く。

 

エンゲルの指示したギャンブルで指定のタイミングまでに対戦するギャンブラーの内敗北する側を当て、さらに敗北の仕方を当てた場合、エンゲルは俺にキャリア一年分を渡す。どちらか一つでも間違っていた場合俺はエンゲルにキャリア1年分を渡す。

要約するとそんな感じの契約っす。」

「あのデブは自分の用意したゲームを試したくて試したくて仕方がないといった様子だった。」

 

 

「俺なら当てられます。奴の望み通りの結末を。」

 

 

「…そうか。」

 

顎に手を当て無表情を貫く伊藤吉兆。昼間は失敗など少しも懸念していないが一発殴られてもおかしくはないと覚悟していた。

 

「デスクで待機していろ。いくら有利な契約をしたとはいえ、勝手な真似は許さない。今日は残業だ。それで今回は許してやる。」

 

その言葉と同時に昼間のメールボックスには死ぬほど仕事が送られ今日どころか明日の残業すら確定したが、昼間は殴られず伊藤吉兆は納得を示した。

 

「勝てよ昼間。負ければ俺の手自ら葬る。」

 

そう言って伊藤吉兆はオフィスを出て行った。当然、その部下には大量の仕事があるのでまた静寂が訪れる――わけではなかった。

 

「へーすごいじゃん昼間。入社初日でキャリアの契約結ぶ奴初めて見た。」

 

「…いやそれは嘘だろ。お前やお前みてーな野郎が新人騙してキャリア奪うのくらい日常茶飯事じゃねーのか。」

 

「それは契約なんて言わないだろ?ただの一方的な詐欺だ。ATMから出金してるようなもんさ。けどお前は入社初日で勝率の高い契約を結んだんだ。」

 

「賭けに勝つかはわかりませんがね!どうします、昼間君が負けるか賭けます?」

 

「それわかっていってるでしょ、ベットが割れなきゃ賭けは成立しないよ。」

 

 

「…そうかよ。」

 

 

明確には誰も口にしないし態度も示さない。しかし特四伊藤班の行員たちは今確かに一つの班と成っていた。

 

 

 

 

 

 

伊藤吉兆はこれでも昼間を買っているほうだ。昼間の能力は自分には必要ないもので、その能力は昼間だからこそ光るものだ。そのことを理解しているからこそ罰は最低限に、半ば昼間の独断を認めたのだ。

 

「…。」

 

「貴方は確か、伊藤班主任の伊藤吉兆だったかしら?」

 

そして昼間の熱意の行き先が先日裂傷を負いながらも久保田に勝利した少女古明地さとり。あれは伊藤吉兆が望む強力なギャンブラーの素質を持っている。班の核となるワンヘッドになるかはさておき雑多に勝てる力を持つギャンブラーを伊藤班のみ知っているという情報は貴重だ。だから伊藤吉兆は昼間の熱意を否定せず遊ばせていた。

 

「特四模部(モブ)班八雲紫よ。お会いできて光栄ですわ。」

 

だがそれはいわば古明地と昼間が犬と飼い主の関係にあるからだ。犬が狂犬の如く暴れまわろうとあくまで手綱を握っているのは飼い主。ギャンブラーが銀行を喰うことはあり得ない。

 

この女はここにいてはならない化け物だ。




七三ギラ目ブリキ人形の口調は末尾に「~か賭けません?」にしとけば成立する。

次のゲームの罰ゲームは?

  • 刺し
  • 出血
  • 温度
  • 空気
  • 折り
  • 爆発
  • 絞め
  • 閉め
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