追記:
さとりが立ち上がり昼間が元の位置に戻したテディベアの後ろへと歩み寄る。『その際、デモの為に部外者を連れてきた刺青の目立つ男から一本、棒を受け取る。』を追記。
「
このゲームは簡単に言えばあみだくじだ。お互いに棒を一本引き各々に用意されたゴールにたどり着ければポイントを1加算。勝利条件はポイントが4になること。反則行為は対戦相手への暴力行為、棒を引く際にそれを故意に見る事、電子機器の使用、もしくは5分以上の遅延行為だ。
」
昼間は指示された通りかなりの重量のテディベアをどうにか回転させその背中を見せる。そこには背中の毛がなくなり代わりに白いパネルが埋め込まれており勝負に使うであろう縦棒が2本引かれている。
「
お前達には赤い点の間の穴の何れかに必ずこの棒を一本入れてもらう事になる。双方ともに棒を入れた後、あみだくじが始まり自分専用のゴールにたどり着いたなら1ポイント。たどり着けなかったなら0ポイント。それを最大10ラウンド行い3ポイント先取で勝敗を決する、という流れなわけだが、お前たち二人のみがあみだくじをしたところでまるで面白みがない。どちらもゴールに行ける/行けないの二択になるからな。
そこでこのテディベアだ。こいつを疑似的な参加者にして縦棒を三つにする。
」
壁に立てかけられている太い鉄の棒を持ち上げつつ説明を続けていく。伊藤が手元のタブレット端末を一つスワイプすると背面のパネルに描かれている画像が変化した。
「
これにより結果は
1:テディベアが古明地のゴールに到達。そして久保田が自分のゴールにたどり着く。または空白にたどり着く。
2:テディベアが久保田のゴールに到達。そして古明地が自分のゴールにたどり着く。または空白にたどり着く。
3:テディベアが空白に到達。そしてそれぞれのプレイヤーがそれぞれ自分のゴールに到達。または未到達。
に大きく分けられる。もちろん自分のゴールに到達できなければポイントは加算されないが、ここで注意すべきは自分のゴールにテディベアがたどり着いた時だ。
」
そこで伊藤は話を一度切り扉をじっと見つめる。何の意図かとプレイヤーが疑問を浮かべているとガチャリとノブが回る。
「すいません、すこし遅れました。」
「遅延はこいつのせいか賭けませんか?」
「そ、そんな強引に連れてこないでくださいよ…へへっ」
米俵のように片手に担がれてきた身窄らしい男とそれを地面に投げつけるように降ろす大柄の男。そして中世的な容姿の男。その三人が入室してくる。
「そいつを人形に括り付けろ。」
「わかりました。はいじゃあこのベルトで四肢拘束しますねー。体の向きは熊と目が合うような感じにしてくださいよ。」
ベルトをテディベアの毛の中から四つ取り出しそれぞれで四肢を拘束していく。業務的ではあるがまるで男を逃がさないようにしているかのようだ。
「このテディベアはゴールに行きたくない。何故ならゴールとは終わりに他ならないからな。」
「な、なんすかこれ、へへっ、でも50万のためだったらちょっとの痛みくらい、」
「準備オッケーです。」
伊藤はその声を合図に手元のタブレットを操作する。それに呼応するようにテディベアはびくりと一瞬震え腕を男に包むように背中にかけた。
「これがテディベアが"ゴール"にたどり着いた時のペナルティだ。」
昼間は聞いた説明ではまったく使わない巨大なテディベアになぜしらんおっさんを括り付けるのかと疑問に思っていると、
ブスリ
「ぎゃああアああァ゛!!」
悲痛な叫び声が響き渡る。
「このペナルティを5回喰らった時、対象者はポイントの獲得量に関わらず敗北になる。せいぜい注意しろ。」
さとり側からは男の背しかよく見えなかったがよく見ればその右腕からは黒色の四角柱のような棒が突き抜けていた。
自動的にベルトが外れ男は背中から床に倒れこむ。未だに痙攣している男は大柄な男に引きずられて中性的な男と共に部屋から退出した。
「…僕はね。ここの銀行が嫌いだ。まるで人をゴミのように扱うその精神は人倫道徳を義務教育で同じく学んだ日本国民とは思えない。でも、それと同時に共感もできるし好感も持てるんだ。きっと銀行側は善人だろうとゴミだろうと同じ所業をするんだろうけれど」
「しっかりゴミ掃除をしてくれるからね。」
久保田はこの光景を見て恐れるどころか嬉しそうに人が良さそうな微笑を浮かべる。対して銀行が下す"ペナルティ"を初めて見たであろう少女は恐怖するか、後悔の感情を表に出すだろうか。と昼間は考えていた。実際昼間は初めて見たこの銀行の行いに少し引いていた。
「だから君が試合を降りてくれない事を本当に残念に思っている。僕は歪んだ子供をまっすぐにするためには多少の暴力も必要だと思っているからな」
「…私からしてみればさっきの男も
しっかりとその半眼にて久保田を真っ直ぐと見る。恐怖は微塵も見られない。
「…これでルールは以上だな。第一ラウンドを始める。先攻後攻は1ラウンド毎に入れ替わる。早急に最初の先行を決めろ。」
「君が希望するなら先行を譲るよ。ルールを聞く限り先行が大して有利でもないようだしね。」
「そう。ならその言葉に甘えるとしましょうか。」
さとりが立ち上がり昼間が元の位置に戻したテディベアの後ろへと歩み寄る。その際、デモの為に部外者を連れてきた刺青の目立つ男から一本、棒を受け取る。久保田の目からは、テディベアの巨体でさとりの表情はおろか全身はまったく見えない。
自分に与えられた仕事を全て終え暇になった昼間は勤務前に着替えさせられた堅苦しいスーツのポッケからスマホを取り出した。
「昼間。俺がギャンブラーを扱う上で注意すべきことを昨日説明したが、何を言ったか覚えているな?」
スワイプしソシャゲを開こうとタップする直前に伊藤から声をかけられる。
「…奴らは爆弾、慎重に扱え、すよね?」
「そうだ。だがこの言葉は奴らに使われるなという意味と同時に、奴らをよく見ろという意味も含まれている。」
「見る…。」
「ここは4リンクだが、ここにいるあの二人はそこらの賭け狂い共と比べ断然強い。故によく見ろ。見るという事は見ない事よりも足を取られない。」
スマホを下ろし前に目を向ける。ちょうどテディベアの背面からさとりが帰ってきていた所だった。
「次は貴方の番ね。まあでも所詮はギャンブル。悩んでもどこを選んでも運頼りなのには変わりないですが。」
「…やはり君は何もわかっていない。」
席に着いたさとりは仏頂面のまま久保田に横棒の配置を促すが未だ席を立たず話を続ける。
その久保田の発言を、何を言いたいかはわかっているが意図を掴めていないさとりは上からな態度の久保田の物言いに黙って話を促す。
「運だけを競うならわざわざこんなモノを用意する必要はないだろう。そもそもの話、世の中のギャンブルは大抵自分の中で、一人で運試しするようなものばかりだ。僕らが対面して争う必要性はまるでない。」
「つまり?」
「ただの神頼みだと侮らない方がいい。例えば、『君は右上2つの穴に棒を入れたようだね?』」
眼鏡をかけ直した久保田はいままでの物腰柔らかく解説するような口調から雰囲気が一変し思わず身震いするような冷えた声音でさとりにそう問う。眼鏡の奥にある目は腐ったようにぐるぐると虹彩が回っている。
「…私が答えるとでも?」
「それもまた一つの選択だろう。だが、よく自分に問いかけてから選択すべきだ。僕の