インチキギャンブラー古明地   作:ナチュラル7l72

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前話前々話の表現を少し変えました
追記:テディベアの中にある棒の本数について忘れていたので、それに伴い挿絵の追加、表現の変更を行いました。


ラウンド2

恐らく死にはしないだろう。4リンクとはそういう場所だ。心臓を指さし殺すと嘯いたがどちらかと言えば鳩尾より少し下、あまり臓器が密集していない部分を貫通するはずだ。それは棒を射出する機構の位置からして読み取れる。

久保田は対面の少女の腕から、棒が未だ刺さっているその白い腕から流れる血を見つつそう思う。

 

荒々しい傷跡。骨まで達しているであろうその負傷は良くて全治4か月。悪ければ、二度と曲げることも動かすこともできなくなるだろう。しかしそれでいい。子供は、熱いものを触って火傷して初めてそれが”熱い”とわかる純粋な生き物だ。だが、中には火傷を負ってなお、また鍋に触ろうとする悪ガキも存在する。

 

未だ勝負から降りようとしないその少女は腕を抑えながらも此方を見ていた。

 

「次は貴方が先行よ。」

 

「そうだな。」

 

言葉を尽くしても変わらないのなら、態度で示すのみ。

立ち上がった久保田は、勝利に一歩づつ近づいているにも関わらずその顔色は暗かった。

 

 

 

 

「次は君の番だ」

 

「そうですね。」

 

さてこの少女、古明地さんはどのように行動してくるか。それ次第によっては僕が勝つ過程でどれくらい()できるかが変わるのだが。

 

「貴方、右下に刺しましたね。」

 

ああ、と、僕は堪らずため息を吐く。

ため息を吐くほどそれは僕の想像通りだ。

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」

 

僕がラウンド1で行ったように読み合いを仕掛けてくる古明地さんは酷く滑稽だ。相手がした戦略を猿真似したところでそれに最も詳しいのは相手。対策していないわけがない。

 

臭う。疑念が鼻を衝く。彼女の感情が、僕は嗅覚を通じて感じ取れる。これは呪いだ。会社勤め故ゴミ溜めの中での生活を強いられていた僕の鼻はその劣悪かつ醜悪な環境で壊れ、不完全に再生された。それはある種の適応だったのかもしれない。綺麗なゴミ袋に身を包んだ悪臭を放つゴミをより早く嗅ぎ分けるのに打ってつけな能力だったから。そして同時に気づきを得てしまう。臭いの温床は相手だけじゃない。僕自身もゴミだったということに。それがこの賭場に訪れた原因だった。

 

 

 

僕は今回、右下から1番目に棒を刺した。

 

【挿絵表示】

 

一見自分のゴールにテディベアを運ぶ愚策に見えるがあくまでそれは僕の棒一本だけの場合のみ。もしここで彼女が左列に棒を置いた場合、その瞬間に彼女にはもう一本、棒が刺さることになる。そしてどちらもまた己のゴールにたどり着けずポイントは不動のまま。これが最善だ。

しかしここでもし右列に棒を置かれてしまったならば話は変わり誰にもペナルティはないままポイントも変化せず。つまり1パスということになる。心理戦のすえ、彼女が後者を選ぶことができたならば彼女にとっての最善となるだろう。

 

しかし今、彼女はラウンド1の光景が頭に浮かんでいるはずだ。

 

もし今回、ラウンド1同様に棒が右上に刺さっていた場合、今回の話はまったく異なる結果を呼ぶことになる。

 

【挿絵表示】

 

この場合は左列に置けば彼女の最善、右列なら僕の最善となる。故に、僕はラウンド1同様、左上に棒を置いたと思わせる誘導を行う。

 

このゲームはどちらのパターンに棒が置かれているかを見抜く限界心理戦だ。

 

「このゲームはただのあみだくじだ。しかしそのパターンは実に膨大。あらやる想定が考えられる。」

 

古明地さんはきっとこう思っているだろう。

『後攻は攻めに転じるターンだ』と。

確かに、僕がラウンド1に彼女にしたように既に決まった相手の棒の置き場を探れるのが後攻だ。心理戦で有利なのはまったくもって事実。

 

けれど、それはある一つの前提の下でしか成り立たない。

 

「一戦目はそのうちの一つに過ぎない。二戦目は、さあどうだろうな」

 

隔絶した実力差。圧倒的な能力の違い。

それが覆るのならば例え先攻であろうとも、探られる立場であろうともそれは『守り』でなく『攻め』となる。僕にとっては嗅覚を頼りに彼女がよりいぶしがる方向に連れていくだけの作業だ。

 

言葉を吐いて少女の思考を躍らせる。そんな中でふと思う。こんな技術を手にしてしまったのは騙し騙されが基本とならざるを得ない草臥れた社会で生きているからなのだろうと。それはとっくに受け入れているのでもはやどうでもよかったが、まさか子供相手にこんな真似をすることになるなんてな。

 

ため息が止まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

久保田の考察は合っていた。実力の高い者が場を支配する。それは科学技術が発達し能力の低いものと高いものの差が比較的小さくなった今の世の中でさえ常識となっている概念なのだ、この心理戦の場ではよりそれが顕著になるだろう。

 

しかし一つだけ、久保田は的外れだった。

 

「2本…?」

 

圧倒的な実力差とは目に見えないものである。古明地さとりは既にこのゲームの「心理戦」という段階から脱していた。

 

中性的な容姿の行員が棒を手に取り此方に渡してくる。机に置いてあるものを全て足すとその数は2本しかない。

 

テディベアの中とさとりの腕に刺さっている棒を含めれば、この部屋にある棒の本数は5本のみ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「随分と少ないですね。」

 

「…」

 

思考の透けない微笑を浮かべたまま棒を差し出し続ける銀行員。その様子を見て、さとりは確信する。

 

 

『棒は5本のみである』

 

 

ゲームは密に次の段階へと進んでいく。

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