「お前の最初の仕事は"一年分のキャリアを増やす方法の考案"だ。」
「納期は今日の定時。俺にレポート形式でまとめて提出しろ。」
提出まで早すぎる上に残業の概念はねーのかこの会社は。
文句の一つでも言ってやりたいところだがすんでのところで思いとどまる。そうだ、俺にはもうボスに逆らう権利…所謂パワハラを訴える権利がない。
ボスの持つ独裁権、部下に対するあらゆるハラスメントを不問とし命令に服従させられる権利。日本国憲法を無視したとても正気とは思えない職務権限だ。そもそも社内専用通貨がある時点でおかしいが、キャリアを使って法律から逸脱した権利をも買えるというシステムは誰が考えたんだ?頭のネジが一本どころか基板ごと剥がれてるとしか思えない。
「
「俺が作ってるのは業務再発防止策提案書~。」
「ワタシのはコンプライアンス報告書ですね!どうせなにもありませんでしたで済ませるのに面倒くさい!」
「俺は無駄なことはやらせない。お前はまずこの会社でどうすれば生き残れるか考えることだ。」
社内通貨を増やす方法を考えるんじゃなかったのかよと突っ込みは入れない。殴られることが目に見えているからな。
そうこう考えているうちにボスが部屋から出ていきその空間は静寂に包まれる。仲が悪いからとかではなく単に話すことがないからだろう。カタカタとキーボードをたたく音だけが部屋に満ちていた。
「…。」
なんとなく、自分の席につく。そしてパソコンを開いた。ボスはキャリアの増やし方を考えろと命令してきたが、んなもんちょっと社内ルールを漁れば――
「……。」
起動したばかりのデスクトップを埋め尽くすファイル群。その一つ一つに漢字で書かれた名前が付いている。ドラッグアンドホールドで退かせど退かせど底が見えてこない。
「……………。」
適当にそのうちの一つをダブルクリックする。するとエクスプローラーが開かれ中から大量の.txtが昼間に襲い掛かった。
キャリアの増やす方法と俺の生き残る道。その関連性に俺はようやく気が付いた。このパソコンはまさしく俺だ。魚は水を吸い込みプランクトンを食べエラから水を吐き出す。赤子は泣き叫んで空腹を知らせることで母乳を貰う。だが俺は自分の生存方法すらわからない。何も情報が見つけられずただ時間が過ぎ焦りだけが増大していく。
「それなんにもわかんないだろ。」
ふと背中から声をかけられる。山だらけになった額を軽く均してから振り向くとプラチナブロンドボブヘアーの女みてーな恰好をしているにやついた表情の同僚がいた。たしか雪村真とか言ったか、昨日の清掃中に話しかけられたのを覚えている。当然無視したが。
「お前が無言になってから3時間。ずっとパソコンに向き合ってたけど情報集まったか?」
「…いや、何もわからねえ。」
「はは何その顔おもしろ。」
この雪村とかいう同僚は人を酷くイラつかさせる才能があるらしい。骨格ごと顔面を陥没させたくなる衝動を必死に抑えて俺は雪村の顔を睨むのに留めた。本当なら舌打ちでもして会話を切り未だ進展がない仕事を片付けるべくまたパソコンに向き合うところだが、なにもイラつかせる為だけに俺に話しかけたわけではあるまい。同僚として助ける為か。それとも、陥れる為か。
「あんま警戒するなよ。俺だって入社初日の同僚が消えるのは心苦しいさ。一つアドバイスしに来たんだよ。」
「他人に頼る事を恥だと思うなよ。俺達は同じ班の仲間なんだからさ。」
「……。」
まるで風船にナイフが差し込まれたような衝撃。その言葉に思わず俺は瞠目して黙ってしまった。要因はそれだけじゃない。雪村の人を気遣うような表情と物腰、その態度が。
「く、クク、」
「?」
「だーーはっはっは!!」
――あまりにも面白すぎた。
「…なにか壺に嵌まるようなこと言ったかな。」
不機嫌そうに顔を歪ませる雪村の前で俺は胸を押さえ、机に額を打ちつけるほど笑い転げた。息が続かず、涙まで滲む。腹が攣りそうになっても笑いは止まらなかった。
「クク、だってお前、俺を騙くらかす為だけにそんな、お前みたいな
跳ねる心を落ち着かせるため天井を見上げて口の端を指でグニグニと歪ませる。くそ、まだ腹がいてえ。何が仲間だ馬鹿が、人を騙すことしか頭にねえ癖に白々しすぎなんだよてめーは。まるで厚化粧した雌ザルだ。そのコントラストが面白すぎる。
…ようやく壺が外れてきたぜ。それにしても油断ならない野郎だこの雪村とかいう奴は。あのキメー表情と態度と言動は俺の思考に『他人から教えを請いたい』という欲を生まれさせるトラップだ。当然タダなわけがない。いや今回は快く知識を渡してくれるかもしれないがその願いを対価に俺から牛のように可食部全てを奪うだろう。タダ程高いものはないというがこいつの作り出すタダ程怖いものはないだろう。
新人から騙して、奪う。そんな欲望がアリアリと見える。こうして対面で話せばこいつの願いが俺には良く見える。メンヘラ女の欲しがる言葉をその場で適当に考えんのが昔から得意だったからな。
「ナルホドね。アンタ相手じゃあかなり相性が悪いみたいだ。確か昼間とか言ったっけ、けどどうすんの?誰から何も聞かずに自分で考えてもまた時間を浪費するだけだよ。」
「だから自分に聞けってか?詐欺はそこの鉄腕アトムにでもしてろよ。」
「ワタシが雪村君から騙されたことがあるか賭けません?」
「この会社にいるのはお前らだけじゃねえだろロクデナシ共。」
ケツが痛くなる硬い椅子から立ち上がりオフィスから出る。後方で「まさかボスから?」と聞こえてくるがんなわけがない。というかまだ俺も相手は決めていない。
情報だ。とにかく情報が足りねえ。キャリアとか依然に俺はここで生き残るために何ができて何を避けなけりゃあならねえんだ?なにもかもが足りてない。
適当に会社をうろつきつつ考えているとふと前に影が差す。対面からこちら側に歩いてくる肥満体型の男が原因だ。飲み過ぎ食い過ぎが原因で内臓脂肪が溜まりまくってでかくなる典型的なリンゴ型肥満。ついでに眼鏡もしている。その容姿は全ての衣服を脱がせた上で原始時代に放ったら真っ先に食われそうな
普段なら目に留まるどころか無意識に存在を排除する類の赤の他人だが昼間は横を通り過ぎようとするその男に向け腕を伸ばした。
「おい。」
「…は、はい!?せ、拙者に話しかけたでござるか!?」
(たりめーだろびしょ濡れの野郎の肩を掴んでまで話しかけてんだから。)
逃げられないよう真正面から視線を合わせるがその男の目線は逃げるように何もない天井、床、壁と次々に向けられ逸らされスカされ中々目が合わない。まだ要件も話していないというのにビクビクしている男に対して話しかける相手ミスったか…と思いつつも聞きたいことを脳内でまとめつつ質問をぶつける。
「キャリアってのはなんだ?つーかてめーは誰だ。」
「拙者はエンゲルでござる!…もしかして、キャリアも知らないようなカラス銀行ニュービーでござるかぁ?」
ニチャア…と擬音語だか擬態語だかが聞こえてきそうな笑みでようやく昼間と目を合わせるエンゲル。
(勝ったな。)
今すぐにでも知識マウントを取られそうな昼間はとりあえず初仕事を終えられそうな事に肩の力を抜いた。
次のゲームを考えるために罰ゲームアンケートをします。確定ではないですが参考程度に皆さん投票お願いします。
あと早くアニメ化して。
次のゲームの罰ゲームは?
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火
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水
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風
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毒
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圧
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刺し
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出血
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温度
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空気
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折り
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飯
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色
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爆発
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絞め
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閉め