目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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青年の罪

―歯車の楼閣 ガスファロスト

 

 ふと、リタの視線がジュディスの槍に向く。あんたも槍使うのねとリタは呟いた。

ジュディス「ってことは、誰かあなたのお友達も使っているのかしら?」

聞いていたジュディスはリタにそう問う。

リタ「そういうわけじゃないわ、ちょっとイヤな奴思い出しただけ」

リタはそう返して槍から目を離した。

カロル「それって、もしかして、あの竜使い?」

まぁね……とリタは頷き、そう言えば、ちょっとあんたとユーリを呼ぶ。ユーリはえ、オレ?と呼ばれると思わなかったらしく驚いていた。

リタ「そう。肝心なバカドラはどこ行ったの?」

ユーリ「屋上ではぐれてな。無事だとは思うけど……」

リタ「無事でいてくれないと殴れないじゃない!」

彼女は拳を作りながら言った。

レイヴン「おいおい、それが目的でここまで来ちゃったの?」

すごい執念だねぇとおっさんは引いていた。

リタ「あと、あのバルボスってやつが許せないの!魔導器(ブラスティア)に無茶させて、可哀想じゃない!」

ユーリ「だからってそっちのお姫様まで連れてくるかね、こんな危険なところにさ」

レナ「私も一応止めたんだけど、あんな強い意志が灯った瞳をされちゃあ無理だったわ」

少女は仕方なかったのよと、片手をブラブラさせた。そんな少女を片目にユーリはフレンの方を見る。

ユーリ「フレン、お前も止めなかったのかよ」

フレン「すまない、ダングレストで入れ違いになったんだ」

ユーリ「それで慌てて追いかけてきたってか」

エステル「リタもレナもフレンも悪くありません。自分から行くって言ったんです。ユーリひとりで行かせたままになんてできません。それに人々に害をなす悪人を放っておくわけにはいきません」

ジュディス「そうよね。あなたいいこと言うわ」

話を聞いていた彼女はエステルの言葉に同調した。

ユーリ「カロル先生、頼りにしてるぜ。貴重な戦力だからな」

カロル「うん、もちろん!さあ、この調子で行こう!」

片手を上に振り上げて気合を入れる。ユーリ達は先を急ぐ。

 

 塔は、最上階に近づくほど新しくなっており、最近建て増しされたような感じだ。各所で動く巨大な歯車が不気味な雰囲気で光っているほかは、灯りもなかった。ようやく最上階まで辿り着くと、そこにはバルボスが立ちはだかっていた。

バルボス「性懲りも無く、また来たか」

待たせて悪ぃなとユーリが軽口を叩く。

リタ「もしかして、あの剣にはまってる魔核(コア)水道魔導器(あくえブラスティア)の……!」

バルボスの持っている剣をよく見ていたリタが気づいてユーリに話す。

ユーリ「ああ、間違いない……」

魔核(コア)をじっと見つめて呟く。あの酒場では薄暗く見えずらかったか、確かに青く輝く魔核(コア)がはめこんであった。

バルボス「分をわきまえぬバカどもが、カプワ・ノール、ダングレスト、ついにガスファロストまで!忌々しい小僧どもめ!」

エステル「バルボス、ここまでです。潔く縛に就きなさい!」

フレン「間もなく騎士団も来る。これ以上の抵抗は無駄だ!」

リタ「そう、もうあんた終わりよ」

エステル、フレン、リタが叫ぶ。

バルボス「ふんっ、まだ終わりではない。十年の歳月を費やしたこの大楼閣ガスファロストがあれば、ワシの野望は潰えぬ!あの男と帝国を利用して作り上げたこの魔導器(ブラスティア)があればな!」

 フレンがあの男……?と気にするように呟く。バルボスはユーリ達に剣を向け、魔導器(ブラスティア)を起動させたかと思うと光の弾を放った。爆発による轟音が鳴る。ユーリ達は後ろに下がった。

ユーリ「下町の魔核(コア)を、くだらねぇことに使いやがって」

バルボス「くだらなくなどないわ。これでホワイトホースを消し、ワシがギルドの頂点に立つ!ギルドの後は帝国だ!この力さえあれば、世界はワシのものになるのだ!手始めに失せろ!ハエども!」

バルボスは再びユーリ達に剣を向け、光弾を数発発射させる。

レナ(魔術障壁!!)

 光弾はユーリ達の近くで爆発する、しかしその衝撃はレナが発動した魔術障壁によって防がれる。轟音に地面が揺れるのを感じる。フレンがみんなに無事か声をかけた。見覚えのあるそれにユーリがレナの方を向く。

ユーリ「サンキュー、レナ。にしても、あの剣はちっとやばいぜ」

レイヴン「やばいっていうか……こりゃ反則でしょ」

ジュディス「圧倒的ね」

レナの魔術障壁が無ければやばかったであろうあまりの威力に、レイヴンとジュディスは顔を見合わせる。

バルボス「グハハっ!!魔導器(ブラスティア)と馬鹿にしておったが使えるではないか!」

魔導器(ブラスティア)を掲げ、さらに爆発を誘引させる。力の強さにエステルはそんな……と声を失った。

バルボス「どうした小僧ども、口先だけか?」

煽るようなその口調に、ユーリがまだまだと返す。

バルボス「お遊びはここまでだ!ダングレストごと、消し飛ぶがいいわ!」

魔導器(ブラスティア)を再び掲げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。その時、伏せろとどこかで聞いた覚えのある声が聞こえた。声の方に視線を向ければそこにはデュークが居た。ユーリ達は彼の姿を見つけると慌てて体を低くする。描かれた術式の中心に立つデュークの剣から、まばゆい光が溢れる。バルボスがなにっ!?と叫ぶ声が聞こえたかと思えば、バルボスの剣から爆発音がなる。光が落ち着き体を起こした時、デュークの姿は既に先程の場所にはなかった。バルボスが剣を振るうが黒煙を出し不発に終わった。

ユーリ「形勢逆転だな」

バルボス「賢しい知恵と魔導器(ブラスティア)で得る力などまがい物にすぎん……か」

そういって、もうひとつの剣を抜く。ユーリ達も武器を構え直す。

バルボス「所詮、最後に頼れるのは、己の力のみだったな。さあ、おまえら剣を取れ!」

レイヴン「あちゃ〜、力に酔ってた分、さっきまでの方が扱いやすかったのに」

おっさんは額に手を当てて言った。

リタ「開き直ったバカほど扱いにくいものはないわね」

腰に手を当ててため息をつく。

バルボス「ホワイトホースに並ぶ兵、剛嵐のバルボスと呼ばれたワシの力と……ワシが作り上げた紅の絆傭兵団(ブラットアライアンす)の力。とくと味わうが良い!」

 ユーリ達はバルボスに挑みにかかる。部下達はユーリ以外ですぐに片付いた。あとバルボスだけ、ユーリがじりじりと端まで追い詰めていく。剣と剣が交わり金属音が響く、弾かれたバルボスは後にひいた。

ユーリ「……もう部下もいない。器がしれたな。分をわきまえないバカはあんたってことだ」

バルボス「ぐっ……ハハハっ、な、なるほど、どうやらその様だ」

体力などもう残っていないに等しいのだろう、荒い息を吐きながら剣を杖にして片膝をついている。なら大人しく……!とエステルが声を上げる。

バルボス「こ、これ以上、無様をさらすつもりはない……ユーリ、とか言ったな?おまえは若い頃のドン・ホワイトホースに似ている……そっくりだ」

ユーリ「オレがあんなじいさんになるってか、ぞっとしない話だな」

バルボス「ああ、貴様はいずれ世界に大きな敵を作る。あのドンのように……そして世界に食い潰される。悔やみ、嘆き、絶望した貴様がやってくるのを先に地獄で待つとしよう」

ユーリはじっとバルボスを見ていた。バルボスはそのまま後ろ向きに倒れ、遥か彼方の地上へ吸い込まれて行き、姿は見えなくなった。上空を吹く風の音だけが耳に残った。

 

 ユーリ達は下町の魔核(コア)を手に取ると、塔を降りた。

ユーリ「まったく、魔核(コア)が無事でよかったぜ」

エステル「水道魔導器(アクエブラスティア)魔核(コア)ってそんなに小さいものだったんですね」

カロル「さて、魔核(コア)も取り戻したし、これで一件落着だね」

エステル「でも、バルボスを捕まえることができませんでした……」

彼女は顔を俯かせる。

フレン「ええ……それだけが悔やまれます」

リタ「何言ってんの、あんな悪人死んで……」

当然と続けようとした彼女をユーリが顔をつついた。

レナ(死んで当然の人間なんて、いないものね)

フレン「それにまだ一件落着には早いな」

ユーリ「ああ、こいつがちゃんと動くかどうか確認しないと」

リタ「魔導器(ブラスティア)魔核(コア)はそんなに簡単に壊れないわよ」

カロル「ふ〜ん、そうなんだ。知ってた、レイヴン……?」

少年の問いかけに、返事はなかった。いつの間にかどこかに行ってしまったらしい。

リタ「また、あのおっさんは……本当に自分勝手ね」

リタは小言を言う。それをリタが言うんだ……とカロルはつっこんだ。

ジュディス「人それぞれでいいんじゃない?」

ユーリ「ダングレストに帰ったんだろ。会いたきゃ会えるさ」

フレン「僕も一足先に戻る。部下に仕事を押しつけたままだから。……エステリーゼ様もどうか私とご一緒に」

エステル「ええと……わたし……もう少しみんなと一緒にいてはいけませんか……?」

フレンは首を横に振る。

ユーリ「聞き分けのない姫さんの面倒はもう少しこっちで見てやるよ。その方がそっちも楽だろ?責任をもってダングレストには送り届けるから」

仕方ないと溜息をつきながら、フレンに提案する。

フレン「……わかった。その代わり、絶対に間違いのないように頼む。寄り道も駄目だ、いいね?」

まるで子供に言い聞かせる親のように念を押すフレン。そんな彼に笑いかけながらわかったわかったとユーリは返した。

 では、エステリーゼ様ダングレストでと伝え、一礼するとフレンはその場を後にした。エステルはユーリの方をむくと、浮かない顔をしていることに気づき、どうかしましたか?と聞く。

ユーリ「いや、まだデデッキの野郎を、ぶん殴ってねぇと思ってさ」

どこか不完全燃焼と言わんばかりの表情だ。

カロル「魔導器(ブラスティア)魔核(コア)は戻ったんだからいいんじゃないの?そんなコロ泥なんて」

レナ「もし、またどこかであったら殴っちゃえばいいのよ」

うわ物騒……とカロルがレナの方を見て呟いた。

ユーリ「ま、それもそうだな。会ったら絶対にぶん殴る」

   「……地獄で待ってる、か。やなこと言うぜ」

どこか遠くを見つめるユーリをエステルは眉をひそめて心配そうに見ていた。

カロル「ほらほら、いいかげん、ダングレストに戻ろうよ」

少年はユーリ達を促す。

ジュディス「じゃあ、私はここでお別れね」

後ろで控えていた彼女が口を開いた。

ユーリ「相棒のとこ戻るのか?」

エステル「相棒?誰です、それ?」

エステルの問いを聞かなかったことにして、ジュディスはユーリ達に背を向ける。

ジュディス「ここからは別行動。お互いの行動に干渉はなしね」

ユーリはじゃあなと言えば、彼女はええ……と返事をしそれを確認したユーリ達はダングレストへ戻った。

 

―ギルドの巣窟 ダングレスト

 

 ダングレストに戻ってきた時、ちょうど騎士団も戻ってきたようでカロルがそれに気づいてユーリ達に言う。騎士団の人達に取り押さえられていたのはラゴウ。ラゴウは無実です!騎士団の陰謀です!と身動ぎしている。往生際悪いじいさんとリタが独りごつ。エステルがフレンは?と辺りをキョロキョロと見渡した。ここからじゃ見えないなとユーリは言った。ラゴウは相変わらずありもしない嘘を話して民衆に訴えている。そんなラゴウにフレンが近づく。

フレン「我らは騎士団の名の下に、そのような不実なことをしないと誓います」

フレンの声にラゴウはぴたりと声を上げるのを止め、フレンの方を向きその名を呼んだ。

フレン「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれることになりました」

フレンから告げられる話に、ラゴウは驚いているようだ。

フレン「今ドン・ホワイトホースとヨーデル様の間で、話し合いがもたれています。正式な調印も時間の問題でしょう」

ラゴウ「どうして……アレクセイめは今、別事で身動きが取れぬはず」

フレン「確かに、騎士団長はこちらの方に顔を出された後、すぐに帝都に戻られました」

ラゴウ「では……誰の指示で……」

フレンはその問いに答えない。少しの間沈黙がながれた。

ラゴウ「くっ……まさかこんな若造に我が計画を潰されるとは……」

ラゴウは悔しそうにそう呟き、騎士達によって連行された。一部始終を見ていたエステルが口を開く。

エステル「これでカプワ・ノールの人々も圧政から解放されますね」ほっと胸を撫で下ろす。

ユーリ「次はまともな執政官が来りゃいいんだがな」

ユーリのつぶやきを聞いたエステルは振り向く。

エステル「いい人が選ばれるように、お城に戻ったら掛け合ってみます」

カロル「お城にって……エステル、帝都に帰っちゃうの?」

少年は寂しそうな表情でエステルを見上げる。

エステル「……はい。ラゴウが捕まって、もうお城の中も安全でしょうから」

ふと、フレンを見つめるエステルの表情を見ていたユーリがホントは帰りたくないと囁いた。エステルはえっ?と驚いたようにユーリを見る。って、顔してるとユーリは言った。

エステル「そんなこと、ないです……」

己の立場を分かっているがために、それが本音とは言えない彼女は否定するものの、言葉に少し詰まる。

ユーリ「ま、好きにすりゃいいさ、自分で決めたんだろ」

エステル「……帰ります。これ以上フレンや他の方々を心配させないように……」

彼女はフレンのが居る方に向き直り、静かにそう告げる。

ユーリはフレンと互いに合図を送ってフレンが去ったのを見た後、寂しくなるな、ラピードと話しかける。ラピードはくぅんと喉を鳴らすとそっぽを向いた。

 

 それから各々は、宿屋にチェックインし今までの疲れを癒した。ユーリは宿屋のベッドに横になり、天井を見て何かを考えている。レナは隣のベッドに腰をかけて足をブラブラさせていた。ドアの外でバタバタと忙しない足音が響き、バタンっと音を立てて開いた。中に入ってきたのはカロルで、随分と慌てた様子だ。

カロル「大変だよ!ユーリ!レナ!」

ゆっくり寝かせろってとユーリがぼやく。レナはどうしたの?とカロルに聞いた。カロルは慌てすぎて、ラゴウが、ラゴウが!とだけ。ユーリは落ち着かせるように、ラゴウがどうしたって?と聞く。

カロル「評議会の立場を利用して、罪を軽くしたんだって!少し地位が低くなるだけで済まされるみたい!ひどいことしてたのに!」

ユーリの顔が険しくなり、レナは目を見開いていた。

レナ(人を魔物の餌にしてた人間なのに……?!)

ユーリ「面白くねぇ冗談だな」その声は少し低くくなっていた。

カロル「冗談じゃなくて、ほんとなんだよ!」

ユーリは訴えるカロルから顔を背ける。

ユーリ「これが今の帝国のルールか。ったく、ホントに面白くねぇ」

レナ「……全くね。今までどれほどの人が傷ついたと思って」少女は腕を組み、苛立ちから唇を噛む。

カロルはどうしよう、ユーリと呟いた。ユーリはさて……なと顎に手を当て考える。

カロル「ちゃんとした罰も受けないなんて、こんなの絶対おかしいよ」

徐々に落ち着きを取り戻したカロルは悔しげに言う。

カロル「そうだ!エステルに言えば、なんとかなるかもしれない!」

少年はそう言うと部屋から走って出ていった。

レナ(……落ち着きのない子ね)

レナはふぅとため息をついてカロルの出ていった先を見ていた。

ユーリ「おい、あんまお姫様に迷惑かけんじゃねぇぞ」

走っていくカロルにユーリはそう忠告した。

ユーリ「ったく、なにやってんだよ、フレン」

レナ「……彼のところに行ってみない?」

ユーリ「オレも行こうと思ってた所だ、駐屯地のテントにいるかもな」

2人は宿屋をあとにして、駐屯地へと出向いた。

 

―騎士団 駐屯地

 

 外は真っ暗で、星あかりだけが輝いている。いくつものテントが張られいた。ユーリは迷いなくひとつのテントに歩き、その後ろをレナが着いていく。ユーリが中に入ろうとして、ノックくらいしたらどうだい?とフレンの声がした。ユーリは律儀にノックして、来るのわかってたろと外からフレンに話しかける。少ししてフレンがテントから出てきた。レナがいた事にほんの少し驚いていた。

ユーリ「おまえ、その格好」

フレン「本日付で隊長に就任した」

レナは騎士服の違いが暗闇もあってよく分からなかったが、ユーリはすぐに分かったらしい。

ユーリ「フレン隊の誕生か。また差をつけられたな」

フレン「そう思うなら、騎士団に戻ってくればいい。ユーリなら……」

そう続けようとする彼をユーリは、オレの話はいいと遮った。少し間を開けて、隊長就任おめでとさんと続けた。フレンはありがとうと礼を言う。

フレン「僕を祝うために来たわけじゃないだろう?ラゴウの件か」

ユーリは先程の柔らかい表情とはうって変わって真剣な目付きで頷く。

フレン「ノール港の私物化、バルボスと結託しての反逆行為、加えて街の人々からの掠奪、気に入らないという理由だけで部下にさえ、手をかけた。殺した人々は魔物のエサか、商品にして、死体を欲しがる人々に売り飛ばして金にした。」

フレンの口から告げられるラゴウの罪は、想像していたよりも酷いものだった。ユーリは眉間に皺を寄せ、外道め……とこぼす。

フレン「これだけのことをしておいて、罪に問われないなんて……!思っていた以上だった……評議会の権力は……!」

絞り出すような声にかたく閉じられた瞼、力が入り拳を作っている手、その全てが悔しいと表していた。

フレン「隊長に昇進して、少しは目的に近づいたつもりだった。だが、ラゴウひとり裁けないのが僕の現実だ」

ユーリ「……終わったわけじゃないだろ?それを変えるために、もっと上に行くんだろ」

フレン「そうだ、だか、その間にも多くの人が苦しめられる。理不尽に……それを思うと……」

フレンは再び怒りに震える。

ユーリ「短気起こして、ラゴウを殴ったりすんなよ?出世が水の泡だ」

くっ……とフレンは、奥歯を噛み締める。

ユーリ「おまえはラゴウより上に行け。そして……」

フレン「ああ、万人が等しく扱われる法秩序を築いてみせる。必ず」

ユーリに続くようにフレンは再び志を確かなものにする。

ユーリ「それでいい、オレも……オレのやり方でやるさ」

どこか不穏な雰囲気を纏い出す彼に、フレンはユーリ?と名を呼ぶ。

ユーリ「法で裁けない悪党……おまえならどう裁く?」

己が出した答えにまだ少し迷いのある表情でフレンに問う。

フレン「まだ僕にはわからない……」

その言葉を聞いたユーリの横顔は冷たく引き締まり、覚悟を決めたような瞳でフレンから去る。

張り詰めたようなその空気に、話を聞いていたレナはただユーリについて行くしかなかった。

 

レナ(……ユーリは、ラゴウを殺す気なんだよね)

ユーリとレナが歩く音だけが響く。ふと、ユーリが立ち止まってレナの方を向いた。

レナ「……ユーリ?」

ユーリ「悪ぃレナ、ちょいと野暮用があってな。先に宿屋に戻っててくれるか」

柔らかい表情を浮かべているがその瞳は鋭く冷たいままだ。

レナ「私がいたら、邪魔になるの?」

少女はユーリが何をするのか理解した上で、あえてそう聞く。

ユーリ「そーだな。それに、子供はもう寝る時間だろ」

少女は口を閉じたまま俯いてしまっている。

レナ(子供……か。私、ユーリが思っているほど、子供じゃないんだよ)

ユーリ「……レナ?」

レナ「ほ……ぉは、……ぁん……ょって……っ……ら、ぉ……る?」

小さくボソリと少女は言う。あまりにも小さくて、何を言っているのかユーリには聞き取れなかった。

ユーリ「わりぃ、もう一度言ってくれるか?」

レナ「っやっぱりなんでもない、先に宿屋に戻ってる」

少女は宿屋の方へ足を向ける。ユーリはレナの様子が少し気になりつつも、己の正義のためにラゴウの元へ向かった。

レナ(本当の年齢を言ったからってユーリと対等であるはずないのに、それに10歳の体じゃ信じて貰えないでしょ。……何も出来ないし自己満足かもしれないけど、せめて見届けさせてね)

レナは宿屋へ向けていた足を、ユーリの方へを進める。もちろん、気づかれないように注意を払って。

 

 目的の場所に着き、建物の影から橋の方を見る。ちょうどユーリが駆け出し、兵のひとりを斬ってその勢いで橋から川へ落としていた。ラゴウが兵がいた方を見て足音がした方を向く。その視線の先にはユーリが居た。ラゴウが何か喚いているのが聞こえる。ユーリは構わずにラゴウに近づいていく。その手には剣をが握られており、鋭く冷たい瞳で殺気を纏っている。逃げ出すラゴウの背を迷いなくユーリは斬った。体をぐらつかせたラゴウはそのまま橋から川へと身を投げた。ユーリは落ちた先をただ静かに見下ろしていた。

レナ(……これがユーリなりの正義。彼が選んだ道)

 親しい青年が殺人を犯したところを見たというのに、なぜか恐怖は不思議となく、月明かりに照らされた黒髪が風になびくのを少女は静かに見つめる。

レナ(ユーリ、今日寝れるのかな。っと、宿屋に居ないと不審がられる。さっさっと宿屋に帰ろう)

一部始終を見届けた少女は、急いで宿屋に帰った。

 

 少女が宿屋に着くとラピードが寝転がっていた。素通りして中に入ろうとしたところで、ユーリが遠くから帰ってくるのが見えた。

ユーリ「……ラピード、レナ」

ラピードは視線だけをユーリに合わせ、それ以外は特に態勢を変えない。

レナ「やっと帰ってきた、ユーリ。遅いから探しに行こうかなって思ってたところなんだよ?」

少女は息を吐くように嘘をつく。少女からすれば演技なんて御茶の子さいさいだ。

ユーリ「……子供は寝る時間だって言ったはずだけどな」

軽口を叩く彼に、少女はそうだったと言って、いつもと変わらない雰囲気でふふっと柔らかい笑みを浮かべた。そのまま二人は宿屋の中に入る。青年の持っている剣から微かな鉄の匂いを感じながら。

 

―翌日

 

 一足先にユーリは目を覚ましていた。否、きっと眠れなかったのだろう。レナは昨日遅かったこともあってかまだすやすやと眠っている。ユーリはベッドから起き上がることもなく、昨日の事を思い返しながらただ天井を見ていた。そろそろエステルが街を出る頃だろうとユーリが考えているとコンコンっとノックが聞こえ、続いてカロルの声が聞こえる。

カロル「ユーリ?レナ?起きてる?」

ユーリは仰向けからカロルに顔を見せないように横になる。レナはノックの音で目を覚ますが、ぽやぽやしている。カロルは返事がないのを気にして、中に入ってきた。

カロル「エステルもリタも、行っちゃった」

ユーリはそっかと返す。レナは体を起こし伸びをする。

カロル「今、追えば、まだ間に合うかもしれないよ」

ユーリ「その気になりゃ、いつだって会えるさ」

レナ「……おはよう、ユーリ、カロル。」

まだ眠そうな声でマイペースな少女は二人に挨拶した。

カロル「おはよう、レナ。レナも今なら間に合うかもよ」

レナ「……大丈夫」

起きたばかりで、返事がワンテンポ遅れている。カロルは大丈夫って……と呟いた。

カロル「ユーリ達のバカ。もう知らない」

二人に呆れたカロルはそう言うと部屋から出て行った。

ユーリ「言っても帰りづらくするだけだっての……」

青年は独りごちる。少女はやっときちんと目が覚め、状況をのみこんだ。

レナ(……エステル達、行っちゃったのか。眠りすぎたな)

 この街に来た時と同じ、魔物の襲撃を知らせる警鐘が町中に鳴り響いた。くつろいでいたラピードは起き上がって外へ駆け出す。ユーリ、レナも続いた。宿屋の外に出ると、上空を炎のような翼を持った魔物のような何かが飛んでいく。ユーリ!レナ!とカロルの声が聞こえた。

ユーリ「カロル!ありゃなんだ?知ってっか?」

カロル「ううん、ボクもあんなの見たことないよ……」

レナ(……あれは、フェロー?この時の狙いは確か……エステル!早く行かないとっ)

降りてきたよ!とカロルが言うのが後ろで小さく聞こえる。既にレナはエステルの元へ走っていた。降りていった方向を見て、ユーリとカロルも橋の方へ向かった。

 

 先に走り出したレナがエステルのいる場所へ着く。既に騎士団が魔物と戦っていたが、魔物の方が強いのだろうフレンは剣を杖がわりにし膝をつき他の騎士たちも酷い怪我をおっていた。エステルは倒れた騎士達の傷を治していた。その傍に迷わずレナは駆け寄る。ユーリ達も着いたようで、膝をついたフレンに駆け寄っていた。

レナ「エステル!大丈夫っ!?」

エステル「レナっ、わたしは、だいじょうぶです。でも騎士の方々が……」

 魔物はエステルをじっと見ていた。エステルが治癒術をかけ終わった騎士から魔物に視線を移した瞬間、魔物はこちらに急降下してきた。それはまるでエステル、一人にターゲットを定めたようだった。

エステル「わたしが……狙われてるの?」

ボソッと彼女は言って立ち尽くしたまま。レナはそんなエステルを庇うように前に立ち片腕をあげて、エステルを背に隠した。エステルたちに近づいた魔物が嘴をひらいた。

「忌ワシキ、世界ノ毒ハ消ス……ナゼ庇ウ、異界ノ者ヨ……憐レナ」

エステル「人の言葉を……!あ、あなたは……!」

レナ「……憐れ?どうして……?」

エステルはレナの前に出ようとする。レナは憐れだと言われたことに疑問を持ちながらもエステルを制した。突如、空で爆発が起き魔物に当たる。ユーリがエステルとレナの元へ駆けつけた。エステルはユーリ!と呼んだ。ユーリは、エステルとレナが怪我をしていないのを確認して、無事だなと言った。エステルはその言葉に大きく頷いた。

エステル「はい、レナが来てくれましたから」

彼女はレナを見る。レナは返事をすることはなく、どこか考え込こんでいるようだ。

レナ(フェローは、私のことを憐れだと言った。それは、この世界に連れてこられたことをに対して憐れだと言ったと思う。けど……なんだろう、別の意味もある気がする)

鳥の魔物は、夥しい数の爆撃をヒラヒラと舞うように躱していく。絶え間なく続く爆撃の音に、レナの思考も途切れた。ユーリは大きな兵器のようなものを見て驚いている。

ユーリ「あれは……?」

エステル「ヘラクレス……」

ユーリの問いに、エステルがそう呟く。後ろでカロルがここにいちゃ危ないよ!と逃げるように三人に言った。

ユーリ「オレはこのまま街を出て、旅を続ける」

唐突に言われたエステルはえ?と困惑の声を出す。

ユーリ「帝都に戻るってんなら、フレンのとこまで走れ。選ぶのはエステルだ」

そう告げられたエステルはふとフレンの方を見て考える間もなく、わたしは……と口を開く。

エステル「わたしは旅を続けたいです!」

爆音に負けないくらいの大きな声でユーリに伝えた。エステルの答えにユーリは微笑むと、彼女に手を差し出す。エステルは一瞬、戸惑いながらもそっとユーリの手に己の手を重ねた。

ユーリ「そうこなくっちゃな」

片目を閉じ、おちゃめにウィンクした彼。

レナ(……爆撃がっ!魔術障壁っ!!)

一際大きな爆発が橋の方まで威力をだす。間一髪でレナの魔術障壁がユーリ達をその衝撃から防いだ。強い光がユーリ達を襲い、咄嗟にユーリはエステルを庇う。光が落ち着いた頃、カロルは1番に駆け出し、ユーリはエステルの手を引いて走る。レナも慌ててその後を追う。その直後、ユーリ達がいた部分が崩れ落ちた。街の外へと走るユーリ達の視界に青い髪がうつる。エステルは、すぐにジュディスだと気づくと振り返ってそばに行った。レナも万が一の為にジュディスのところに行く。

エステル「危ないことしないで!」

レナ「エステルが言えたことじゃないでしょっ」

二人が居ないことに気づいたユーリがこちらに来る。

ユーリ「おまえも人のこと言えないだろ」

レナ(……なんも言えない)

ジュディス「心配ないわ。あなたたちは先に」

そういうジュディスの声を無視して、エステルは、さぁ、早くと言うとジュディスの手をとって走り出す。ジュディスは、あら、強引な子と満更でもない声で連れて行かれた。ユーリとレナはその後に続いた。

 

 橋の出口付近に着いた時、魔物はどこかへ飛び去って行くのをカロルが気づく。

フレン「待つんだ、ユーリ!それにエステリーゼ様も」

街の方からフレンの声が聞こえる。声の方に向けば、崩れた橋の向こう側で傷だらけの体で立つフレンが見える。ユーリは面倒なのが来ちまったなぁ……と囁く。

エステル「ごめんなさい、フレン。わたし、やっぱり帝都には戻れません。学ばなければならないことがまだたくさんあります」

フレンに聞こえるように彼女は声を張り上げて自分の考えを話す。

フレン「それは帝都にお戻りになった上でも……」

エステルはその言葉に横に首を振った。

エステル「帝都には、ノール港で苦しむ人々の声は届きませんでした。自分から歩み寄らなければ何も得られない……それをこの旅で知りました。だから!だから旅を続けます!」

意思の強い瞳をして、彼女は旅を続ける理由を話した。

フレン「エステリーゼ様……」

 ユーリは何かを握るとその腕を思いっきり振り上げて、握っていたものをフレンに投げる。綺麗な放物線を描いた青いそれは魔導器(ブラスティア)魔核(コア)だった。フレンは投げられたそれを少し複雑な表情をして受け取る。

ユーリ「フレン、その魔核(コア)、下町に届けといてくれ!帝都にはしばらく戻れねぇ。オレ、ギルド始めるわ。ハンクスじいさんや、下町のみんなによろしくな」

フレン「……ギルド。それが、君の言っていた君のやり方か」

ユーリ「ああ、腹は決めた」

レナ(……別の意味も含めて、ね)

フレン「……それはかまわないが、エステリーゼ様は……」

フレンの話を聞かず、ユーリは頼んだぜと言葉を残すと街の外の方へと振り向く。ユーリ!と叫ぶ声が聴こえるが、それも無視した。

ユーリ「言うのが逆になっちまったけどよろしくな、カロル」

カロルは嬉しそうに、うん!と言うと、ユーリとハイタッチをかわした。

ユーリ「さぁ、とっとと街を出ようぜ。ウダウダしてると騎士どもが追っかけにきちまうぞ」

エステルに伝えると、ユーリ達は街の外へと歩き出した。エステルはフレンに頭を下げると、ユーリ達を走って追いかけた。

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