―翌日
宿屋のチェックアウトの手続きをエステルがしていた。ユーリ達は少し離れた玄関ホールでエステルを待っている。手続きが終わったのだろう、エステルがユーリ達の方に振り向いた。
エステル「とりあえず、街の様子を見て回りましょう」
カロル「暴走した
二人の提案に、皆は頷き街の様子を見ながら、
エステル「周囲の異変もおさまってますね」
カロル「うん、あの後は暴走とかしてないみたいだ」
二人は
ユーリ「あれ、あいつら、ノール港で会った……」
エステルとカロル、レナはそれを聞いてユーリの視線に合わせた。そこに居たのは、ノール港で救った家族が居た。
ポリー「あの時のお姉ちゃん!」
男の子も気づいたようで嬉しそうに声を上げて、エステルに駆け寄る。エステルも嬉しそうにポリーを抱きとめる。お元気でしたか?とエステルは嬉しげに問うと、ポリーは元気よく頷いて見せた。事情を知らないジュディスがエステルに近づき、どちら様?と聞いた。
カロル「前に助けたんだよ、ノール港で」
エステルの代わりにカロルがジュディスに答えた。
ケラス「あのときは、本当にありがとうございました」
彼女は手を合わせて頭を下げた。父親の姿が見えないことに気づいたエステルはポリーに聞く。
エステル「お父さんは、一緒じゃないの?」
その言葉にポリーはすごく悲しそうに俯く。何かあったことはすぐに分かった。
ケラス「それが、ティグルの……夫の行方は、三日前からわからなくて……」
心配でたまらないという表情と声で母親は答えた。
カロルがユーリに、あの噂、ホントっぽいよ……と囁く。
ユーリはそれに頷くと、ケラスに心当たりは無いのか?と聞いた。
ケラス「はい……。いなくなる前の晩も、貴族になるためがんばろうと……」
エステル「貴族にってどういうことです?」
ケラス「この街が完成すれば、私たち、貴族としてここに住めるんです」
エステルはその言葉に首を傾げた。
エステル「え?それ、ちょっとおかしいです」
おかしいと言われ今度はケラスがえ?と首を傾げた。
エステル「貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得ることの出来た者に与えられるものである、です」
エステルの説明を聞いたケラスは動揺する。
ケラス「で、ですが、キュモール様は約束してくださいました!貴族として迎えると!」
レナ(キュモール……?確か、カルボグラムでルブランに怒られたやつだったっけ)
エステル「キュモールって……騎士団の?」
ケラス「はい。この街の現執政官代行です」
レナ(……うわぁお、あの後そうなるんだっけ?存在感薄くて忘れたよ)
ユーリはキュモールがねぇ……と呟く。
カロル「けどさ、今皇帝の椅子は空っぽなんだし、やっぱり、おかしいよ」
エステル達の話を聞いていたカロルは指摘した。
ケラス「そんな……じゃあ、私たちの努力はいったい。それに、ティグルは……」
ケラスはエステル達の話を聞いて顔を俯かせてしまった。
ポリーが、お父さん、帰ってこないの……?と眉を下げてエステルを見上げた。エステルはそんなポリーをみて胸を痛める。どうにかしてあげたいと、ユーリを見た。ユーリはギルドで引き受けられないかってんだろとエステルの言いたいことを代わりに言うと、
エステル「報酬はわたしが後で一緒に払いますから」
エステルとユーリに見つめられるカロルは戸惑ったように二人の顔を交互に見る。選択を迫られたカロルは言葉に詰まりながらも、ギルドで引き受ける許可を出した。
ケラスがえ?ですが……と、本当にいいのかと不安そうな顔をする。そんなケラスを遮ってジュディスは、次の仕事は人探しねとカロルに確認をとる。
ユーリ「ま、キュモールがバカやってんなら、一発殴って止めねぇとな」
レナ「だね。一度、お灸を据えないと」
急に物騒なことを言うユーリとそれに同意するレナにカロルは驚いて体を後ろに引いた。
エステル「はい。騎士団は民衆を守るためにいるんですから」
やる気満々のユーリとエステルとレナに、行動は慎重にねとカロルは念押しした。
カロル「騎士団に睨まれたら、ボクらみたいな小さなギルド、簡単に潰されちゃうよ」
あとから理由も説明して、カロルは再度忠告した。ユーリは了解と頷く。
エステル「わたしたちがきっとお父さんを見つけます。待っててね」
エステルはポリーにニコリと微笑んだ。そういう訳だ。引き受けたよとユーリはケラスに伝える。ケラスはありがとう、ありがとうございます!とユーリ達に感謝した。
ユーリ「んじゃ、さくっと探ってみるか」
レナは辺りを見渡すと、明らかに怪しいところがある。ジュディスも目をつけていたようだ。
ジュディス「あそこの先なんてとても怪しいわよ」
ジュディスが指を差したのは、立ち入り禁止と札があり一人の騎士が見張りをしていた。
ユーリ「ああ、立ち入り禁止で部外者が入れないってのがいかにもだな」
エステル「なんとか入れないでしょうか……」
カロル「し、慎重に、を忘れないでよ」
何をしでかすか分からないとカロルは主にユーリを見て言った。多分、大丈夫よ
ユーリは見張りの騎士に声をかけた。レナやエステル達はそれを見守っている。
ユーリ「ちょっと、この先に行きたいんだけど」
騎士「ダメだダメだ。この先にある労働者キャンプは危険だからな」
ふーん……とユーリは昇降機を見る。ユーリは一旦皆の元に戻った。帰ってきたユーリを見てカロルはホッとする。
カロル「よかった……ユーリのことだから、強行突破しちゃうかと思った……」
ユーリ「慎重に、が
レナ「聞いても行けないんじゃ、どうやって通るの?」
考えが出ないユーリはチラリとジュディスに視線を送る。
ジュディス「やはり強行突破が単純で効果が高いと思うけれど」
それは禁止だよ!とカロルが拒否する。
カロル「とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ」
エステルがそれにどうやってです?とカロルに聞く。ちょっと考えてから、色仕掛けとか?とカロルは言った。じゃあ……とユーリが口を開き、レナを指名した。指名されたレナは、え?わたし……?と驚いた顔していた。
ユーリ「意外といけるかもしれねぇぜ?」
レナ「え……えっと、やれってんならやるけど……」
少女は戸惑いながら、ユーリが言うならと了承する。
ジュディス「じゃ、何か素敵なお召し物を探しにお店に行きましょう」
ジュディスの提案で、エステル達はレナを連れてお店に向かった。
ジュディス「意外な趣味ね」
ユーリ「オレの趣味じゃねぇよ。あいつ顔整ってるし、子どもだし、か弱いイメージを持たれやすいからと思ったんだよ」
ふーん、まぁ確かにねとジュディスは同意し、ユーリと共にエステル達の後を追った。
ジュディス「どんな男の子もイチコロになっちゃうような服ってないかしら?」
お店に着いて早々にジュディスが店主に聞いた。
店主「イチコロって……その女の子が着るの?」
それにジュディスがええと答える。店主は商品の中からゴソゴソと手を動かし、じゃあこれはどうかな?とエステル達に見せた。エステルは綺麗な衣装に素敵です!と目をキラキラさせて言った。それに、ユーリとジュディスがダメだと却下した。カロルはダメなの?と首を傾げた。
レナ(色仕掛けするから……ね、うん)
エステルは、これもカワイイのに……と残念そうにしている。
ジュディス「それだったら、今着てる服の方がいいわ」
レナは、もうどうにでもなれといった感じだ。
あっ、とエステルが何か思いついたようで店主に相談する。店主はその相談にそうだねぇと考え、作るのに必要な素材をエステルに伝えた。柔らかい尻尾、バジリスクのうろこ、小型鳥の羽毛がいるらしい。因みに、この周辺にいる魔物からドロップするそうだ。エステルは、行きましょう!と気合いの入った声でお店から出ていく。ユーリはなんか面倒なことになってきたな……と、やれやれと言った感じだ。
レナ(……なんでだろう、エステルがすごいウキウキしてる)
エステルは来ないユーリ達に、ほら早く!と急かした。
ジュディスは張り切ってるわねと呟いた。ユーリはだなと同意した。エステルを追いかけ、ユーリ達は街の外に行くと魔物を倒し素材を集め、先程の店に戻った。
戻ってきたユーリ達をみて、おっ持ってきたなと店主が声をかけた。集めた素材を店主に渡し、すぐ作るからまってなとユーリ達に声をかけると作業に取り掛かった。
しばらくして店主から出来たぞと声がかかり、レナは早速、衣装を受け取って着替えた。
着替えたレナは、ユーリ達の前でくるりと一周してみせる。エステルが考えたデザインは淡いピンクを基調にした服で、普段のレナのいつもの服よりもフリルが使われふわふわ感が増している。スカートは膝よりも少し上で、フリルの付いたハイニーソックス、白色のレースブーツシンプルを履いてな感じから甘めの所謂、ロリータ系の感じになっていた。メイクは大人っぽく、赤い口紅がひかれており少女はミステリアスな雰囲気をまとっていた。
レナ「どうかな?似合ってる?」
ユーリ「……意外といけるかもしんねぇな……」
エステル「バッチリです!レナ!絶対似合うっても思ってたんですっ」
カロル「うん、可愛いと思うよレナ」
ジュディス「こういう服を着ると、本当にお人形さんみたいね」
ユーリ「んじゃ、見張りの所へ行くか」
こくりとレナは頷いた。
レナ(……多分、大丈夫だよね)
少しの不安を抱えながら少女とユーリ達は見張りの元へ行くのだった。
予定通りレナが騎士に声をかけ、他の者達は離れた場所で見守っている。騎士は、お人形のような少女に目を奪われつつあった。
レナ「あの、私と、あちらで、お話しませんか?」
少女は騎士にこりと微笑みを作り、緊張を感じさせない演技をする。
騎士「い……いえ、持ち場を離れる訳にはいきません」
ギリギリ誘惑に負けずに断る騎士。
レナ「少しくらい息抜きしたって、誰も文句は言わないわ」
騎士「しかし……」
意外に頑なな騎士に、レナは考える。
レナ(……しょうがない。本当はすごい嫌だけど、やるか)
少女は、スカートの裾を少しずつたくし上げ、下着が見えないギリギリまで太ももを覗かせた。月明かりに照らされた素肌に、な、なにをっと戸惑いながらも騎士は釘付けになる。
レナ「素敵な夜だもの、無粋な輩は出ないわ。……ね、私と、イイコト、しましょう?」
齢十歳とは思えないほどの妖艶な声、人形のような顔立ち、紅をひいた唇を三日月の形してさらに色気を引き立たせる。
騎士「そ、そうですね。分かりました」
ゴクリと騎士は喉を鳴らす。
レナ「ふふっ、ありがとう、騎士様。では、こちらに……」
ふんわりと
カロル「……結局、最終的には殴り倒すんだね」
ユーリ「これ以上はレナには無理だろ」
レナ「そう……ね。この先のやり方は知らないから」
この先も求められていたら……と少女は考えて、身体を震わせる。
ジュディス「でも、あんな大胆なことするなんてびっくりしたわ」
エステル「そうです見ててヒヤヒヤしました」
レナ「そうしないと誘導できなさそうだったから」
ユーリ「……さて、着替えて、こいつを預けに行くぞ」
皆頷いて、騎士を引渡し、少女はいつもの服に着替えた。
騎士の身につけていた鎧などを取ると、ジュディスは次はコレとユーリを見た。カロルは何をする気?と訝しげな顔をする。
ジュディス「騎士の格好をしてた方が動きやすいでしょ」
オレがか?とユーリは不思議そうにする。それを見て、カロルでもいいわよと兜をジュディスはカロルの方へ向ける。え、ボ、ボク?と体をのけぞらせてカロルはビックリしていた。
ユーリ「しょうがねぇな、オレがやるわ。にしても、よりによって騎士かよ」
ユーリは服の上から騎士の鎧を身に纏った。
ユーリ「ま、この方がごまかしきくからいっか」
っと言ったところで、後ろから騎士が一人走ってくる。おい!声をかけ、こんな所で何をしているとユーリを怒った。ユーリはどうした?と騎士にきけば、詰所が大変なことになっているんだぞ!と言う。どうやら捕まえていた魔導士が暴れているらしく、騎士と共にユーリは駆けて行った。レナ達は慌ててユーリを追いかけた。
―労働者キャンプ
ユーリを追いかけて来て見れば、床一面に倒れている十人程の騎士達と、リタが居た。リタが新しく魔術を発動しようとしているのを、ユーリが羽交い締めにする。
リタ「は、はなしてよっ!」
暴れるリタに、ユーリは落ち着けオレだ、オレと声をかける。
リタ「……ユーリ……?」
聞き覚えのある声にリタは大人しくなった。
エステル「だ、大丈夫ですか!?」
倒れている騎士にエステルが声をかけながら駆け寄る。よく知る親友もいて驚いていた。ひとまず、興奮しているリタを広場まで連れ出す。エステルは後ろを見ながら追っ手が居ない確認する。
エステル「落ち着きました?」
リタ「ええ……」
先程から降り出した雨が、血が上ったリタの頭を冷やしてくれているようだ。
レナ「リタはどうしてここにいたの?」
リタはユーリ達に背を向けて、答える。
リタ「ここの
ユーリ「で、余計なことに首を突っ込んだと。面倒な性格してんな」
エステル「一体、何に首を突っ込んだんですか?」
リタ「夜中こっそりと労働者キャンプに
レナ(……確かに怪しいけれど、無茶するわね)
ユーリ「それでまさか、こそこそ調べまわってて捕まったってわけか」
リタは首を横に振り、違うわ、忍び込んだのよとユーリの言葉を否定した。カロルが、で捕まったんだと続けた。
リタ「だって、怪しい使い方されようとしてる
リタの話に、皆が顔を見合せた。それは、噂と一致している部分があったからだ。
カロル「じゃあティグルさんもそこで働かされてるんだろうね」
エステル「こんなの絶対に許せません」彼女は憤る。
レナ「それで、リタが見た
リタ「
カロル「まさか……またダングレストを攻めるつもりなんじゃ!」
カロルは少し考えて、慌てたように言った。
エステル「でもどうして?友好協定が結ばれるって言うのに……」
彼女は、疑問をうかべる。
レナ「……それは、戦争を起こして、武器が売れるようにするため」
少女は、どこか虚ろな瞳でボソリと言う。エステルが驚いた顔をして少女を見た。
エステル「どういうことです?」
レナ「……えっ?わたし、今なにか言ってた?」
少女の瞳に光が戻り、エステルを見る。ハッとした表情をしており、自分が何を言ったのか分かっていないようだ。
エステル「?ええ、さっき……」
ユーリ「とりあえず、キュモールの奴だろ。きっとギルドの約束なんて、屁とも思ってないぜ。しかも戦争を起こそうとしてんならな」
エステルの言葉を遮り、吐き捨てるように彼は言った。ユーリも知ってる人なの?とカロルが聞く。どうやら少年はカルボクラムで一度会っていることを忘れているらしい。ユーリがその事をカロルに伝えれば、気持ち悪い喋り方する人だねと思い出した。話を聞いていたジュディスがみんなの前に進み出る。
ジュディス「ここで話し込むのもいいけれど、何か忘れてないかしら?」
彼女のその言葉に、カロルはハッとする。
カロル「そうだ!ティグルさんたちを助け出さなきゃ」
エステル「それから強制労働を止めさせて、集めてる
カロルに続いて、エステルがするべきことをまとめながら羅列する。
リタ「
そう言われてエステルは確かに……と呟く。
エステル「じゃあ回収のためにアスピオの魔導士に連絡を……」
レナ「アスピオの魔導士なら、エステルの目の前に居るじゃない」
エステル「あっそうですね……」
トントン拍子に話が進み始めるのに、カロルが焦ったように待って、慎重に行こうってば……と声をかける。エステルはでも……と、気持ちが焦っている。
ユーリ「とりあえず、一つずつ片付けていこうぜ」
そんなエステルをみかねて、ユーリは落ち着くように助言する。エステルは素直にはいと返事した。
カロル「それじゃあ、当初の予定通り、下へ行こう」
話に一区切りついたところで、カロルは昇降機の方を指す。
皆、昇降機の方へ向った。人気に気づいたリタがみんなに隠れるように言う。慌てて
スーツの男「おお、マイロード。コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
キュモール「ふん、アレクセイの命令なんて耳を貸す必要はないね。僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
スーツの男「そのときがきたら、ミーが率いる
キュモール「ああ、わかっているよ、イエガー」
そっぽを向いていた顔を、イエガーと呼んだ男に向けた。
イエガー「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」
その言葉に、カロルの顔をが険しくなる。
キュモール「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
イエガー「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイ。それをリメンバーですヨ~」
キュモール「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
イエガー「尊敬はしていマース。バット、
キュモール「ふふっ……僕はそんな君のそういうところ好きさ。でも心配ない、僕は騎士団長になる男だよ?ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよねそのくせ、友好協定だって?」
レナ(少なくとも、キュモール、貴方がバカにできる男ではないわ、アレクセイは)
聞いていて不快すぎるその内容に、レナの右の手は力がはいり拳になっている。
イエガー「イエー!オフコース!」
イエガーは後ろを伺うように視線だけを振り向せる。
レナ(……バレてるな)
キュモール「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。君たちから買った武器で!」
そう告げると、イエガーは昇降機のボタンを押した。二人は下へと降りていき姿が消える。
下の方で、キュモールが僕がユニオンなんかに、つまずくはずはないんだ!と豪語していた。イエガーはそれを不敵に笑いながら肯定していた。
ユーリ達は、
リタ「あのトロロヘアー、こっちを見て笑ったわよ」
レナ「明らかに私たちのこと、気付いてたね」
リタ「あたしたちのことバカにして……!」
彼女は許せないと憤る。
ユーリ「本当にくだらないことしか考えてないな、あのバカども」彼は呆れた声で言った。
ユーリ「とりあえず、この下に閉じ込められてる人たちがいるんだな」
リタはユーリの言葉にええと頷く。
ユーリ「みんな、解放してやろうぜ、あのバカどもから」
その言葉に、その場にいた全員がもちろんと首を縦に振る。
ジュディス「とりあえず、強制労働してる人見つけたら逃げるように伝えましょ」
ユーリ達は昇降機を使って労働者キャンプへ向かった。
―労働者キャンプ
労働者キャンプはリタが捕らえられていた詰所よりも奥にあり、点在するテントからは煮炊きの匂いが漂っていた。食事も自分たちで作らされているのだろう。重たそうな木箱を運び、積み上げているのは街の人達で、男ばかりではなく女も混じっているようだった。皆揃って顔色が悪く、今にも倒れそうな程、察するに休みも十分取れていないに違いない。ユーリ達は周りを見て、酷い状況だと思った。
ジュディスが、あら?さっきの人たちよと足を止めた。
エステル「それに赤眼の一団も……!」
ダングレストで見た、
ユーリ「キュモールが赤眼の連中の新しい依頼人って事みたいだな」
物陰に潜み様子を伺っていると、イエガーは赤眼達になにか指示していた。
カロル「ねぇ、もしかして、あの変な言葉のやつが赤眼の
見ていたカロルがユーリにそう言うと、ユーリはそうっぽいなと同意した。っと、ドサッと人が倒れる音がする。目を向ければ、男の人が胸を押えて倒れていた。
キュモール「サボっていないで働け!この下民が!」
甲高いの声が、労働者キャンプ内に響き渡る。
男の人はうぅ……と辛そうにしている。よく見ればその人は、ティグルさんだった。気づいたカロルが、ティグルさん……と呟く。
キュモール「お金ならいくらでもあげる、ほら働け、働けよ!」
聞いていてイライラするほどの不快な声にユーリ達の顔が険しくなる。ふとユーリが、キュモールたちの方へ歩き始めた。カロルが待って……と静止をかけるがそれを無視する。そのままユーリはその辺にあった石を掴み、キュモールの額目めがせて投げた。見事にそれは命中し、キュモールはだ、だれ!と声を上げ、周りを見て投げられた方向を見た。
キュモール「ユーリ・ローウェル!どうしてここに!?」
エステルもユーリの隣に進みでる。キュモールは、ひ、姫様も……と驚愕の表情をうかべ、すぐにエステルを睨む。
エステル「あなたのような人に、騎士を名乗る資格はありません!力で帝国の威信を示すようなやり方は間違っています。その武器を今すぐ捨てなさい。騙して連れてきた人々もすぐに解放するのです!」
彼女はキュモールを指さし、凛々しい声で一気にまくしたてた。
キュモール「世間知らずの姫様には消えてもらった方が楽かもね。理想ばっか語って胸糞悪いんだよ!」
それまでカロルの騎士と大事にはしたくないと言っていたことを思い、冷静でいなくちゃと憤りを押えて黙っていた。が、エステルに向けられた侮辱の言葉にとうに我慢の限界を超えていた少女は殺気立つ。少女はそんな顔を見られたくない、気づかれたくないと顔を俯かせているが、普段の彼女からは想像できないほどの殺気にユーリ達にはバレバレだ。
ユーリ「騎士団長になろうなんて、妄想してるヤツが何いってやがる」
ユーリは少女の殺気に、すこし焦るがギリギリことを起こさないように保っていることに気付く。
倒れていたティグルが腕をつき上体を起こし、エステルたちを見てあ、あなたは……と驚いていた。エステルはもうだいじょうぶですよと微笑みかける。
キュモール「ふんっ、そこの少女は顔を俯かせちゃって、もしかしてお姫様の理想論に呆れたんじゃない?」
少女はプツンと、頭の中で糸が切れるような音が聞こえた。俯かせていた顔を上げ、深紅の瞳がキュモールを睨む。
キュモール「っイエガー!やっちゃいなよ!」
一瞬キュモールは少女の迫力に目を見開くが、すぐに合図する。イエガーはイエス、マイロードと返し赤眼の一団がばらばらとユーリ達の前に立ちはだかる。
イエガー「ユーに恨みはありませんが、これもビジネスでーす」
イエガーのその言葉を皮切りに、赤眼の一団が襲いかかる。エステルが街の人々に逃げるように伝える。ユーリとジュディスは既に武器を抜いている。
レナは一人、前に出る。気づいたユーリがレナを止めるがキレている彼女には聞こえていない。格好の獲物となっている少女に一団は容赦なく襲いかかる。
レナ「尊貴なる光の斬撃……不滅の悪をも圧倒するっ……ブレードロールっ」
少女の前に一本の魔術でできた巨剣。それは少女のまわりをぐるりと一周し襲いかかった一団を一気に片付けた。上級魔術を使った反動で、激痛が少女を襲う。その痛みで少女は頭が冷えた。圧倒的な少女の力に、なかなかのストロングガールですねと呟く。ユーリはレナに駆け寄る。
ユーリ「落ち着いたか?」
レナ「……ごめん、我慢できなかった」
ユーリ「いや、よく我慢した方じゃねぇか?」
ユーリはレナにニヤッと笑った。レナはふっと笑い返す。
一人の騎士がキュモールに駆け寄りフレン隊が来ている事を報告する。フレンが……!とエステルは驚く。キュモールはさっさと追い返しなさい!と声を荒らげた。騎士は首を横に振り、ダメです調べさせろと押し切られそうです!と続ける。
キュモール「下町育ちの恥知らずめ……!」
チッとキュモールは舌打ちを鳴らす。
イエガー「ゴーシュ、ドロワット」
イエガーは部下を呼んだ。はい、イエガー様、やっと出番ですよ〜と呼ばれた二人の少女がイエガーの前に現れユーリ達に立ちはだかる。
イエガー「ここはエスケープするがベター、オーケー?」
逃がさないとレナとユーリがイエガー達に近づこうとした時、ゴーシュと呼ばれた緑の髪の女の子が何かを地面に叩きつけ、煙が辺りに充満する。カロルは急なことに、うわこれ何!?と顔を覆う。二人の少女は逃げろ逃げろと言いながら、キュモールとイエガーと共に逃走する。キュモールは今度あったらタダじゃ置かないからね!と吐き捨てる。ジュディスがお決まりの捨て台詞ねと囁いた。早く追わないと、とエステルが煙が晴れた場所を見つめる。そんな彼女をカロルが止める。
カロル「待って!今のボクらの仕事はティグルを助け出すことなんだよ!」
言っていることは分かっている、でも……とエステルが悔しそうな顔をする。
リタ「あんたたちの仕事とかよくわかんないけど追うの?追わないの?」
頭を掻きながらリタはカロル達に問う。とその時、フレンが率いる騎士たちが到着した。
フレン「そこまでだ!おとなしくしろ」
その姿を見たユーリが、おっいいとこに来たと笑う。フレンはユーリか!?と目を見開く。ユーリは傍で倒れているティグルに立てるか?と聞く。ティグルはまだ辛そうだが、立てると返事をして立ち上がる。
ユーリ「悪いが最後まで面倒みれなくなった。自分で帰ってくれ。嫁さんとガキによろしくな」
ティグルはお礼を言うと、フレンの方へ歩き出す。ジュディスがユーリを見て、追うのね?と確認する。
ユーリ「ああ。ここはもうフレンが片づけるだろうしな。カロル、それでいいだろ?」
カロル「そうだね。エステルが今にも行っちゃいそうだもん」
そう言って、少年はうずうずしているエステルを見る。エステルはすみませんと一言謝る。
リタ「もう!追うことになったんならさっさといこ!」
いつまでも動かないこの状況に、リタはしびれを切らしてユーリ達を急かす。
まて、ユーリ!とフレンが止める声が聞こえるが、ユーリ達は無視してキュモール達を追いかけた。