目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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船出

 エステル達はキュモールを追ってヘリオードからかなり離れた場所まで来ていた。

エステル「……見あたりません……」

走っていたエステルは立ち止まって辺りを見渡し、悔しそうに言った。

リタ「結局逃しちゃったみたいね」

エステルと同様に、残念そうな顔をした。

カロル「ここはどのあたりなんだろう?」

エステル達の方……後ろに振り返ったカロルが問いかける。

ジュディス「……トルビキアの中央部の森ね。トリム港はここから東になると思うわ」

カロルの質問に、ジュディスが辺りを見渡しながら答えた。

ユーリ「ヘリオードに戻るよりこのまま港に行った方が良さそうだな」

エステル「え?キュモールはどうするんです!?放っておくんですか?」

そんなエステルを横目にジュディスは言う。

ジュディス「フェローに会うというのがあなたの旅の目的だと思っていたけど」

そ、それは……とエステルが口篭る。

ジュディス「あなたのだだっ子に付き合うギルドだったかしら?凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)は」

ジュディスは厳しい表情をして、エステルを咎めた。ジュディスの言っていることは正しい。エステルはハッとして俯いた。

エステル「……ご、ごめんなさい。わたしそんなつもりじゃ……」

レナ「まぁ、落ち着きましょうってことよ」

しゅんとしているエステルをレナはフォローする。

ユーリ「だな、それにフレンが来たろ。あいつに任せときゃ、間違いないさ」と、ユーリがレナのフォローに続けた。

 一人、状況を読み込めていない人がいた。ダングレストで別れたっきりだったリタだ。

リタ「ちょっと、フェローってなに?凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)?説明して」

話に割って入るように、リタはエステル達に説明を求めた。

「そうそう、説明して欲しいわ」

突然、背後から聞き覚えのある声がした。振り向くと、レイヴンが立っていた。リタは驚いて、ちょっと何よあんた!?と不機嫌そうにする。

レイヴン「なんだよ、天才魔導士少女。もう忘れちゃったの?レイヴン様だよ」

顎を触りながら彼は言う。その態度にリタは何よあんたとさらに不機嫌そうにした。一向に思い出す気配がないリタに、レイヴンは、だからレイヴン様……と狼狽えた。

ユーリ「んで?何してんだよ」

レイヴン「おまえさん達が元気すぎるからおっさんこんなとこまでくるハメになっちまったのよ」と恨みがましい目でユーリ達を見る。カロルはどういうこと?と眉をひそめた。

レイヴン「ま、トリム港の宿にでもいってとりあえず落ち着こうや。そこでちゃんと話すからさ」

レナ(……急に現れて、取り仕切り始めたわね、このおっさん)

レイヴン「おっさん腹減って……」

ぎゅるるる……と、おっさんの方から音が聞こえた。

ユーリ「いつまでもここに居てもしゃあねぇしな。とりあえずトリム港へってのはオレも賛成だ」

レイヴンの腹の音を聞いて、仕方ないと呆れながら頷く。

レナ「んじゃ、トリム港だね。みんなもそれでいい?」

主にエステルを見ながら少女は言う。エステルは構いませんと首を縦に振った。そして、ごめんなさいわがまま言って……とみんなに謝罪した。

 じゃ、行くかとユーリが言って、皆はトリム港へと向かった。

 

―港の街カプワ・トリム

 

 トリム港に着けば、以前よりも活気に満ちた様子が伺えた。

カロル「少し前にも来たのに、なんかちょっと懐かしいね」

レイヴン「感慨に耽ってないで、宿に行こうぜ〜。腹減った〜」

腹減った〜とさっきからうるさいレイヴンに、ユーリは呆れ混じりの溜息をつきながらわかったわかったと返事する。宿も混雑しているようで、なかなかチェックインするのが大変だった。やっと、宿に入れたところで、早速レイヴンは食堂に向かう。がつがつとすごい勢いで食べながらエステル達の話を聞き、食べ終わったレイヴンは自分の事情を話す。どうやら彼は、ドンにエステルの監視を言いつけられたらしい。部屋に戻り、レイヴンはベッドに腰をかけ、リタは一つ挟んだ向かい側のベッドに座っている。ユーリは壁に背を預け、エステルは立っている。

レナ(本当にドンから言われたのかしら?アレクセイの間違いではなくて?)

少女は、ユーリの隣で壁に背を預け腕を組み目を瞑っている。

ユーリ「なるほどな。ユニオンとしては帝国の姫様がぶらぶらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」

エステル「ドンはもうご存知なんですね、わたしが次の皇帝候補であるってこと」

レイヴン「そそ、なもんで、ドンにエステルを見ておけって言われたんさ」

レナ(……嘘とホントを混ぜるのが上手いこと)

ユーリとエステルの間に、あぐらをかいて座っていたカロルが、監視ってこと?あんま気分よくなくない?とエステルを見上げる。エステルはそんなものです?とカロルに返した。特に気にしていなさそうなエステルに、カロルはあれ?ボクだけ?と呟いた。

レナ(まぁ、エステルは皇族ってこともあって常にそういう環境だったから、違和感がないのでしょうね)

レイヴン「ま、ともかく、追っかけて来たらいきなり厄介ごとに首突っ込んでるし、おっさんついてくの大変だったわよ」

彼はだからご飯を食べる暇もなくてと肩を落とす。

カロル「……でも、どうしてエステルを?」

リタ「帝国とユニオンの関係を考えたら当然のことかもね」

ユーリ「腹を探りあってるところだからなぁ。動きをおっておきたいのさ」

リタ「んで、あんたらはフェローてのを追ってコゴール砂漠に行こうとしてると」

エステルは、はいと頷く。

リタ「砂漠がどういうとこか、わかってる?」

その表情は心配で、真剣な目をエステル達に向けその身を案じていた。

カロル「暑くて、乾いてて、砂ばっかのところでしょ」

何を当たり前のことをと言わんばかりの口調でカロルが答える。

リタ「簡単に言うわね。そう簡単じゃないわよ」

エステル「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」

それから?とリタは聞く。エステルは顎に手をあてて、考えながら話す。

エステル「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」

あまりにもざっくりとした計画に、リタは声が出ないほど呆れる。

リタ「……ツッコみたいことはたくさんあるけど……お城に帰りたくなくなったってことじゃないんだよね?」

その問いに、エステルはえと……それはと言葉につまる。

レイヴン「おっさんとしては城に戻ってくれた方が楽だけどなぁ」

エステル「ごめんなさい。わたし、知りたいんです。フェローの言葉の真意を……」

レイヴン「ま、デズエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」

レイヴンにとって好都合ということに、ジュディスは疑問を持つ。

レイヴン「ドンのお使いでノードポリカへ行かなきゃなんないのよ。ベリウスに手紙を持ってけって」

ドンから預かったのであろう書状をペラペラと振って答えた。ベリウスという名前に、カロルは立ち上がり、多ものだねと呟く。

エステル「ノードポリカを治める、闘技場の首領(ボス)の方、でしたよね?」

思い出すように彼女は、レイヴンに確認する。

カロル「正確には統領(ドーチェ)っていうんだけどね」

エステルの首領(ボス)という言葉を、カロルは訂正した。

レイヴンは、持っていた書状をユーリに投げて渡す。ユーリは書状を受け取って、内容を確認する。

ジュディス「その手紙の内容知っているのかしら?」

レイヴン「ん、ダングレストを襲った魔物に関する事だな。おまえさん達が追ってるフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物のこと知ってるって事だ」

ユーリ「こりゃ、オレたちもベリウスってのに会う価値が出てきたな」

エステルはですねと同意する。

レナ(……ベリウス。会ってしまったら、あの結末が待っている)少女は無意識に手をぐっと握る。

レイヴン「っつーわけで、おっさんも一緒につれてってね」

カロル「わかったよ。でも一緒にいる間はちゃんと凜々の明星の掟は守ってもらうよ」

レイヴンは、了解。了解〜と軽々しく返事する。

レイヴン「んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないからそこんとこもよろしくな」

エステル「どうして凜々の明星(ブレイブヴェスペリア)に入らないのです?」

カロル「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。レイヴンだって一応、天を射る矢(アルトスク)の人間だしね」

エステルの疑問に、カロルは丁寧に答える。一応とつけられたレイヴンは、一応ってなんだよと不服そうな顔をした。

リタ「話は終わり?じゃああたしそろそろ休むわ」

リタは眠そうな声でそう告げると、ベッドから立ち上がり部屋から出ていった。

エステル「リタは……どうするんでしょう?」

その問いにさぁ、なとユーリは返す。

ジュディス「明日の出発まで自由行動かしら?」

カロルが頷く。

カロル「うん、そうだね。明日になったら港に行ってみよう」

話がまとまり各々、自由行動にうつった。

 レナは、風が運ぶ磯の匂いを感じながら、砂浜に設置されたベンチに座っていた。月が夜の海に反射してキラキラと光っている。自然が色濃く感じるこの世界が、愛しく思える時間だった。エステル達のことばっかりで自分の事はほぼ後回し、ついでに聞けたらラッキーの状態で、毒と言われたエステルについて思うこともあるし、何よりフェローに何故か憐れむ様な目を向けられたのが、ふとした瞬間に気になって仕方ない。深呼吸をしながら、溢れ出す思考を息と一緒吐き出して霧散させた。人の気配を感じて、その方向に目を向ければ、ユーリが居た。

レナ「……ユーリ、夜の散歩?」

ユーリ「まぁ、そんなとこだ。おまえもか?」

レナ「わたしは、海を眺めに来たの」

ユーリ「こんな暗くて黒い海を?」

不思議そうな顔をして彼はレナを見る。

レナ「うん。何もかも飲み込んで、沈めてしまう色をしたこの海を……ね」

レナは首を縦に振って、どこか意味深に呟いた。

ユーリ「ふーん、何か悩み事でもあるのか?」

レナ「……」

あまりにも分かりやすいほどに悩みのフラグを立てた彼女は、ユーリの問いに無言という形で肯定する。

ユーリ「話なら聞いてやれるぜ?」

おちゃめにウィンクしながら彼は言った。

レナ「……エステルは、フェローに毒って言われたでしょう?そして私には、憐れむ目を向けた。最初はエステルを庇ったことに対して憐れだと言ったのだと思ったの。でも、何だかそれだけじゃない気がして、ずっと気になっててさ。ただ、それだけ」

少し間を置いて、深く息を吸うと少女は悩みを打ち明ける。なぜか、ユーリには話してしまってもいいかもしれないとレナは不思議に思いながら話した。だって誰にも打ち明けず、一人で抱え込むつもりだったから。

ユーリ「そっ、か。おまえも、あいつに何か言われてたんだな」

レナ「ま、でも、エステルの方が一番気になること言われてたし、私のはなんとなくそう思っただけだからさ。きっと、深い意味なんてないと思うし、だから気にしないで」

少女は打ち明けたことに後から罪悪感をきて、自分の事はいいとまくしたてた。その時ユーリは思う、レナはいつも自分を後回しにして他人のことばっかりになると。それは、いい事でもあり、悪い癖でもあると。

ユーリ「ああ、けど、あんまり無理するなよ」

少女のそれは治らないことだと分かっているからか、ユーリは当たり障りのない言葉をかける。無理をするなと言ったところで無駄だと分かっていても。

レナ「うん、ありがと。風に当たりすぎて寒くなってきたし、宿に戻ってもう休むね」

ユーリはああと返事をする。返事を聞いた少女は、ベンチから立つと白いワンピースをふわりと翻してその場を去っていく。

 

―翌日

 

 宿屋のチェックアウトをすませ、ユーリは皆にじゃあ、行くかと声をかけた。エステルはまた来ていない親友のことを思い、リタはどうするんです?とユーリに聞く。かわりにジュディスが、あの子にはあの子のやることがあると返した。ユーリもそれにそういうことだなと頷く。噂をすればエステルの後ろドアが開き、リタが出てきた。出てきた彼女は開口一番に、で、港から船、だっけ?と言って、エステルに満面の笑みを見せた。その様子を見るに着いてくるき満々だ。カロルがえ、それって……と察する。

ユーリ「おまえもついてくんのか?」

レイヴン「なんか用事があったんでないの?」

エステル「エアルクレーネの調査ですよね」

三人はいいのか?と確認をとる。リタはエステルの前を通り階段を降りて、出口に向かいながらみんなに話す。

リタ「騎士団長から依頼された、ケーブ・モックの方は、既に調査、報告済み。他のエアルクレーネは、どのみち旅してしらべるつもりだったから」

ジュディス「つまり、調査のために私たちを利用するってことかしら」

リタ「まぁね、ヘリオードの時みたいに調査中、酷い目に遭わないとも限らないわけだし。一人よりもあんたたちと一緒の方がとりあえず安心よね」

機嫌よく答える彼女に、レナはちゃっかりしてるなぁなんて思う。

ユーリ「相変わらず良い性格してるぜ」とレナが思ったことと同じことを言った。

エステル「また一緒に旅できるんですね。わたし、うれしいです」

エステルはそう言ってにっこりと微笑んだ。声や態度からも素直に嬉しいと口にする彼女に、リタはそ、そう……あたしは別にといつも通り気恥しそうにそっぽを向いた。

リタ「そ、それより、港に行くんじゃなかったの?」

気まずさからか、リタは先に行こうと誘導する。

レイヴン「まったく、若人は元気よのう〜」

おっさんは、リタとエステルの様子を揶揄う。

リタ「ふざけてんの!?」

そんなおっさんにリタは逆ギレする。レイヴンはわざとらしそうに怯えた振りをする。

レナ「じゃあ、港に行こっか」

怯えた振りをするおっさんを無視して、レナは皆を外へ行くように促した。ちょ、ひどい……とレイヴンはぼやきながらみんなの後に続いた。

 外に出ると、太陽が海岸通りを照らし、波がより返す音と海鳥の鳴く声がよく聞こえた。日の眩しさに目を細めながらも港に向かっていると、対面側からヨーデルが歩いてきた。気づいたエステルが声をかける。声をかけられた彼は、嬉しそうにみなさんとにっこり笑い、また会いましたねと返した。

ユーリ「次期皇帝候補殿が、こんなとこで何やってんだ?」

ヨーデル「ドンと友好協定締結に関するやり取りを行っています」

エステルはうまくいってます?と聞けば、ヨーデルは順調とはいえませんとすこし残念そうな顔をした。

レイヴン「だろうなぁ。ヘラクレスってデカ物のせいで、ユニオンは反帝国ブーム再熱中でしょ」

ヨーデル「その影響で帝国側も友好協定に疑問の声があがっています」

レイヴン「ドンが帝国に指示した条件は対等な立場での協定だったしな」

ジュディス「あんなのがあったら、対等とはいえないわね」

ヨーデル「ええ……事前にヘラクレスのことを知っていれば止められたのですが……」

レナ(あれ?ヨーデル殿下ってヘラクレスのこと知らなかったんだ)

ユーリ「次の皇帝候補が、何も知らなかったのかよ」

眉をひそめて彼は疑問に思っている。

ヨーデル「ええ、今私には騎士団の指揮権限がありません」

エステル「騎士団は、皇帝にのみその行動をゆだね、報告の義務を持つ、です」

エステルがヨーデルの代わりに、理由を説明する。

ユーリ「なら、話は簡単だ。皇帝になればいい」

エステルが、それはといい淀み、顔を俯かせた。

レナ「……話は簡単でも、実際問題簡単じゃないんでしょ?」

ヨーデル「ええ、私がそのつもりでも、今は帝位を継承できないんです」

リタがなんでよと不思議そうにする。

ヨーデル「帝位継承には宙の戎典(デインノモス)という帝国の至宝が必要なのです。ところが宙の戎典(デインノモス)は十年前の人魔戦争の頃から行方不明で……」

レナ(今は、デュークが持っているものね)

レイヴン「ふーん、次の皇帝が、決まらないのはそういう裏事情があったのね」

彼は感心したように頷く。

ユーリ「……だからラゴウは宙の戎典(デインノモス)を欲しがっていたのか……」

納得するようにユーリはボソリと言った。何か言った気がしたのかカロルはユーリに何?と聞くが、ユーリはいや、なんでもないと返した。

リタ「それにしても皇帝候補が道ばたへもへも歩いてて良いの?」

レナ(……へもへも?)

少女は心の中で、リタの言った擬音にはてなマークを浮かべた。

ヨーデル「今、ヘリオードに向かうところなんです」

レイヴン「ここよりダングレストに近いからなぁ。その方がやり取りしやすいわな」

ヨーデルはええとにこりとして頷いた。お付きの人が、そろそろまいりましょうと促す。ヨーデルは首を縦に振り、ユーリ達に一言断りを入れると、その場から去っていった。

 

 あの後ユーリ達も再び港に向かい、桟橋の所まで来た時何か騒ぎがあったようで、もう無理だ〜などと声が聞こえる。ユーリが何があったんだ?と不思議そうにした。その中でエステルは身に覚えのある人を見つける。

エステル「あの人、確かデイドン砦で」

エステルの言葉に、ユーリも思い出したようであの時のと呟く。カロルは、し、知り合いなの?と顔をひきつらせながらユーリ達に聞いた。ユーリはいや、前に一度だけと返し、知ってそうなカロルにおまえこそ知り合いか?と聞き返す。

カロル「知り合いって……五大ギルドのひとつ、幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の社長だよ」

それだけではユーリにはピンと来ないらしい。それにレイヴンが分かりやすいように付け加える。

レイヴン「つまり、ユニオンの重鎮よ」

ふーんとユーリは頷いた。急にカロルがいいこと思いついた!と声を上げた。そんなカロルにどうした?とユーリは言う。

カロル「あの人なら、海渡る船出してくれるかもしれないよ」

その提案をのみ、ユーリ達は幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の社長の元へ行く。

 赤い髪に眼鏡をかけた女性が、ユーリ達の足音を聞いて振り返る。

カウフマン「あら、あなたはユーリ・ローウェル君。いいところで会ったわ」

フルネームで知られていることに、ユーリは手配書の効果ってすごいんだなとちゃかす。

カウフマン「ねぇ、あなたにピッタリの仕事があるんだけど」

ユーリにピッタリといえば、思い当たるのは荒仕事。荒仕事かとユーリが言えば、カウフマンは機嫌よく察しのいい子は好きよと言った。

カウフマン「聞いているかもしれないけど、この季節、魚人の群れが船の積荷を襲うんで大変なの」

カロル「あれ?それっていつも、他のギルドに護衛を頼んでるんじゃ……」

いつもとは違うことにカロルが口を挟む。

カウフマン「それがいつもお願いしてる傭兵団の首領(ボス)が亡くなったらしくて今使えないのよ。他の傭兵団は骨なしばかり。私としては頭の痛い話ね」

レナ(……身に覚えがあるなぁ……)

カロル「その傭兵団のなんてところ……ですか?」

カロルにも心当たりがある訳で、恐る恐るカウフマンに聞く。カウフマンは紅の絆傭兵団(ブラットアライアンス)よと答えた。カロルとレナはやっぱりという顔をする。リタは誰かさんが潰しちゃったからとユーリを見て囁いた。みんな、同罪だろ……とユーリは呟いた。

ユーリ「生憎と今、取り込み中でね。他を当たってくれ。じゃあな」

ユーリはカウフマンに背を向けた。その態度にカロルがえ!と声を出し、ユーリを呼び止めた。船のことお願いするんでしょ?と続ける。カウフマンはあら、船って?と付け入る隙を見つける。仕方ないとユーリはカウフマンの方に振り返り、オレたちもギルド作ったんだよと話す。

カロル「凜々の明星(ブレイブヴェスペリア)っていうんです!」

カロルは嬉しそうに堂々と名前を言った。

カウフマン「素敵。それじゃ商売のお話しましょうか。相互利益は商売の基本。お互いのためになるわ」

カウフマンはじゃあと、提案した。

ユーリ「悪いが仕事の最中でな。他の仕事は請けられねぇ」

頑なに断るユーリにカウフマンは別の提案をする。

カウフマン「それなら商売じゃなくて、ギルド同士の協力って事でどう?それならギルドの信義には反しなくってよ。うちと仲良くしておくと、色々お得よ〜?」

レナ(さすが商売をやっているだけある。言葉が巧みね。このままいけば、ユーリが折れて引き受ける形になる)

ユーリ「分かったよ。けどオレたちはノードポリカに行きたいんだ。遠回りはごめんだぜ」

なかなかひかないカウフマンにユーリはおれた。

カウフマン「構わないわ。魚人が出るのは、ここの近海だもの。こちらとしてはよその港に行けさえすれば、それでいいの。そしたら、そこからいくらでも船を手配できるから」

それ程大きなギルドである事に、カロルはさすが幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)……と改めて凄いと感じているようだった。

カウフマンは、契約成立かしら?とメガネの位置をなおす。

リタ「なんか、いいように言いくるめられた気がする」

レイヴン「さすが天下の幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)、商売上手ってとこだねぇ」

ジュディス「いいじゃない?これでデズエール大陸に渡れる訳だし」

カウフマン「もうひとついい話をつけてあげる」

いい話?何それとカロルが興味を持つ。

カウフマン「もし無事にノードポリカに辿り着いたら、使った船を進呈するわ」

船をあげるというカウフマンにカロルはほんとに!?と驚く。

レナ「ボロい所はあるけど、破格の条件ってのは違いないね」

レナの言葉にでしょ?でしょ?とカウフマンが頷く。

ユーリ「どうだかな。魚人ってのがそれだけ厄介だって話だろ」

カウフマン「そこはご想像にお任せするわ」

彼女はいい笑みで答えた。ユーリとカロルは顔を見合わせる。ユーリは仕方ねぇなと、カウフマンの話を承諾した。カウフマンは素敵!契約成立ねと嬉しそうにした。

カウフマン「さ、話はまとまったんだから、仕事してもらうわよ!準備できたら声かけてちょうだい」

切り替えが早いのも流石である。ユーリ達は足りないものがないか確認し、無いものは補充をして準備を済ませ、カウフマンに声をかけてカプワ・トリムから出港した。

 

 船は穏やかな海をすべるように進む。安定してきた所でカウフマンは船の名前をユーリ達に教えた。船の名前はフィエルティア号。そして、カウフマンの隣に立つ人物についても紹介する。彼は、ウミネコの詩というギルドに所属しているトクナガというらしい。

カウフマン「急ぎじゃないけど、重要な商談だったから本当、助かったわ」

彼女はすこしほっとしたようにユーリ達に感謝を述べた。

エステル「積荷はなんなんです?」

エステルの問いに、カウフマンはそれは、秘密よと返した。少々不安になったユーリは、やばいもんじゃねぇだろうなと確認をとる。カウフマンは安心して、その辺の線引きはしてるからと言った。さあ、ノードポリカを目指すわよ!とカウフマンが気合を入れ、数人の船員たちが見張りなどに動く。ユーリ達はしばらく船旅を楽しむことにした。

エステル「魚人の群れに会わなければいいですね」

リタ「でも世の中、そんなに甘くないわよ」

少し高い位置に居るレイヴンが、若いのにずいぶん悲観的なのねと言った。現実的って言って〜とリタは言い返した。

カウフマン「それにしても助かったわ。なんとか間に合いそう」

トクナガ「ええ、海凶(リヴァイアサン)の爪に遅れをとるところでした」

ユーリ「海凶(リヴァイアサン)の爪か、ちょくちょく名前を聞くな」

カウフマン「そう?兵装魔導器(ボブローブラスティア)を専門に商売してるギルドよ」

レナ「なるほど、それでヘリオードで……」

カウフマン「最近、うちと客の取り合いになってるのよね。もし海が渡れなかったらまた大口の取引先を奪われるところだったわ」

カウフマンの傍にいるボディーガードが、連中はどこから商品を調達してるんでしょう?と疑問を口にする。カウフマンはそれなのよと頷く。

カウフマン「兵装魔導器(ボブローブラスティア)なんでそう簡単に手に入れられるもんでもなし」

リタ「……まさか、帝国が……?ううん、でも管理は魔導士の方で……」

リタがぶつぶつと魔導器(ブラスティア)の出処について考えている時、船体が大きく揺れた。カウフマンは来たわねとつぶやく。トクナガが皆さん気をつけて!と声をかける。魚人が船に飛び乗ってきた。そのうちの一体から、船酔いしたのじゃと聞き覚えのある少女の声がした。カロルが魔物が喋った!?と驚いている。エステルがもしかしてフェローと同じ……と呟く。余波で揺れる船体、エステル達にユーリが喋ってると舌噛むぜと注意する。みな武器を構えて、襲い来る魚人の殲滅に取り掛かった。

レナ(確か、水属性だから……土が有効か)

レナ「細やかなる大地の騒めき……ストーンブラスト!」

一体の魚人に、無数の礫が襲う。フェイタルストライクを狙って手早く片付ける。それを何度も繰り返すが、如何せん数が多い。初級魔術とはいえ、何度も発動していれば痛みは蓄積される。突然、魚人がレナに突撃する勢いでむさってくる。すぐに、ダガーナイフを構えようとしたレナだが、急なことで手元がおぼつかない。はっと気がついた時にはどうにも出来ない間合いに入られ、魚人の鎌が少女に牙を向いた。

レナ「!……しまっ」

咄嗟に避けることは出来ないと判断し腕で体を庇い攻撃を最小限に抑えるが、それでも鮮血が散る。

レナ「ぐっ……ぅ……」

痛みから声が漏れる。少女は切られた箇所が痺れ、血が流れていくのを感じた。とりあえず止血……と思い、手で傷口を抑えるが意味を成していない。周りを見渡すと、エステルのいる位置まで下がるには先に魔物を片付けなければならなかった。

レナ(先に、魔物を片付けるか。詠唱、省略っ、ロックブレイク!!)

魔術で出来た岩が何度も隆起し、魔物を貫く。レナは魔物が消えたのを確認してエステルのそばに行った。腕から血を滴らせている少女に気づいたエステルがレナっと名を呼び、治癒術を急いでかけた。レナは痛みからくる熱がひいていくのを感じる、と同時に目眩がした。ふらつくレナに、エステルが大丈夫ですか?と声をかける。

レナ「だ、大丈夫。ちょっとふらついただけ、ありがとう」

レナ(治癒術も、体質が関係してくるのかな……?)

レナはダングレストでの出来事を思い出す。やり取りをしている間に片付け終わったらしく、ユーリ達は武器をおさめていた。

カウフマン「さすがね。私の目に間違いはなかったわ」とユーリ達を労った。

レイヴン「とほほ……凜々の明星(ブレイブヴェスペリア)はおっさんもこき使うのね。聖核(アパティア)探したりと、色々やることあるのに……」

おっさんは息がなかなか整わないのか肩を上下させていた。

ユーリ「聖核(アパティア)って前にノール港で探してたアレか」

そうそうとおっさんは頷く。

リタ「それっておとぎ話でしょ」と疑わしそうに言う。

リタ「あたしも、前に研究したけど、理論では実証されないってわかったわ」

レイヴン「ま、おとぎ話だって言われてるのはおっさんも知ってるよ」

エステル「どうしてそんなものを、探すんです?」

レイヴン「そりゃ……ドンに言われたからね」

うげぇと嫌そうな顔をして言った。

レナ(……ドンじゃなくて、騎士団長に、でしょうね)

と、ユーリの後ろで倒れていた魚人が立ち上がる。エステルがまだ生きてます!と驚く。魚人は苦しそうに体を揺らし、大量の海水と共に女の子を吐き出した。エステルはパティ……!と目を見開く。パティに怪我がないか確認して、しばらくすると目を覚ました。今もうピンピンしている。

パティ「快適な航海だったのじゃ……」

ユーリ「魔物に飲まれてて、航海も何もないだろ」

エステル「こんなところで、何してたんです?」

パティ「お宝探して歩いてたら、海に落っこちて、魔物と遊んでたのじゃ」

ユーリ「よかったな、そのまた、栄養分にされなくて」

カウフマン「……なんでもいいけど、このまま、船出していいかしら」

カウフマンはパティについて特に興味もなく、ユーリ達に確認をとる、ユーリは頼むと返した。 その時、トクナガの悲鳴が上がった。ユーリ達は急いでトクナガの元へ走る。魚人が一匹残っていたようで、トクナガに襲いかかっていた。考えている暇などない、しかし……。

レナ(トクナガと魚人の距離が近い。魔術で攻撃したら巻き込んでしまうっ。最小限の攻撃……。!そうよ、パティのように銃なら……!)

レナは手を銃の形にする。人差し指に力を集中させて、魚人へ放った。魚人に見事命中し、倒れる。

レナ「……でき、た」

少女は倒せたことと、即興で出来たことにほっとしてする。レイヴンがお見事っと手を打つ。エステルはトクナガに駆け寄り治癒術をかけた。

エステル「一応、治癒術はかけましたが……当分安静にしてた方がいいです」

カウフマン「困ったわね……あなたたちの中で誰か操船できる人……いるわけないわよね」

顎に手を当て、彼女は困り眉を作り、ユーリ達をみる。

うちがやれるのじゃとパティがドヤ顔をする。カロルはびっくりしてパティが?と聞き返してしまう。

パティ「世界を旅する者、船の操縦くらいできないと笑われるのじゃ」

カウフマン「それじゃあ、船の操縦はあなたにお願いするわ」

ユーリは本当かよ……と信じられない顔をする。

カウフマン「それと、思ったよりも早く着きそうだから、寄り道してもかまわないわよ。針路はある程度、あなた方に任せるわ」

 

ジュディス「船があるなら、どこへも行きたい放題ね」

カロル「エステルはフェローを探すんでしょ?そんなのんびりしてる暇ないんじゃない?」

カロルは後ろにいるエステルの方を向く。

エステル「どうでしょう……」

エステルは少し悩ましい顔をした

リタ「あたしは、別に、勝手にやるからいいわよ」

レナ「わたしもユーリ達に着いて行くだけだし」

二人はあえて素っ気ない態度をとる。

ユーリ「まだ始めたばっかだし、もっと余裕持ってこうぜ、カロル」

気が焦るカロルは、うんと頷いた。舵の前に立ち、パティはユーリ達の方を向いて、進路の指示は任せたのじゃ!と元気よく言った。船はノードポリカを目指し進んでいく。

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