宿屋に入り、ユーリがとまれるか?と店主に聞くリタ店主は、いらっしゃいませ、水と黄砂の街マンタイクへようこそと愛想良く出迎えてくれた。隣には、騎士が立っている。気になったのかリタは隣に立つ騎士をみて、この騎士何?と店主に質問する。店主は困ったように、ええーと、と言葉を詰まらせた。騎士は無言のままで変な空気になる。店主はご宿泊ですか?と話を進めた。
ユーリ「ああ。砂漠へ行くんで、その準備と、少し休憩にな」
店主はああと納得が言ったように声を出す。
店主「砂漠に向かう準備をして欲しいと言うのはあなた方ですか。しかし……」
店主は顔をくもらせる。ユーリは、危険なのはわかってると返す。店主はそうですかと引き下がった。
店主「では、発たれる前までに準備できるものをご用意しておきます。ご宿泊に400ガルド頂きますがよろしいですか?」
ユーリがああと返事をすると、店主はゆっくりお休みくださいと朗らかに笑った。
食事を済ませ、ユーリ達は部屋でくつろいでいた。ユーリはベットに寝転び、リタとカロルは別々のベッドに腰掛けている。エステルは本棚の前に立って、本を見ていた。レイヴンは壁に背を預けてあぐらをかいている。レナは、ユーリの隣のベッドにカロルと向かい合うように座っていた。ジュディスは既に端のベッドで寝ていた。
リタ「なんか変な雰囲気よね、この街」
カロル「やたらと騎士が目につくし」
レイヴン「とにかく今夜は寝よ、寝よ」
レイヴンはそそくさとベッドに入る。
カロル「でもさあ、騎士に入り口に立たれると、落ち着かないよね……」
レナ「わかる。変に緊張しちゃう」
子供組の会話に、エステルが気になります?と口を挟む。カロルとレナは、なるなると声を合わせて即答した。
レイヴン「ま、守ってくれるってんなら、いいんじゃない?」
レナ「……そうだね」
レナ(守る……なら、ね。でもあれは、監視目的だよ)
ユーリ「さ、みんな寝よ寝よ」
話を早く切り上げてねなさいとユーリに諭される。カロルは納得いかない顔でうーんと唸りながらも、ベッドに横になった。
翌朝、早い時間にユーリは世話になったなと店主に声をかけてチェックアウトを済ませる。まだ、騎士は来ていなかった。
店主「あのぉ……どんな理由があるか、存じませんが……やはり砂漠へ行くのはおやめになった方が……」
心配からだろうか、眉を下げて店主は言った。
ユーリ「サンキュ、でも、みんなで考えて出した結論だからな」
店主「そうですか。ではお約束のものを……」
店主は、カウンターの下から緑色の水筒を取り出し、カウンターの上に置いて見せる。カロルは、水筒こんなに小さいの!?と驚いている。しかし、リタは十分じゃない?と水筒を見て言った。ジュディスがそうねと、同意する。
ジュディス「砂漠に生えているある種のサボテンは、水を多分に含んでるから」
ジュディスの説明に、そうとリタは頷く。
リタ「そこからこまめに水を補給すればこれで事足りるの。よく知ってるわね」
リタはジュディスに感心する。ジュディスはニコリと頷いた。
エステル「ありがとうございます。助かります」
エステルは店主に頭を下げる。
店主「いえいえ。そちらは差し上げるので、遠慮なく使ってください。ここを出て、すぐそこの分かれ道を右に曲がった突き当たりに湖があります。そこで水を汲んでいくと良いでしょう」
店主は親切に色々と教えてくれた。ユーリはわかったと首を縦に振る。
リタ「ところでさ、ここにいたあの騎士、何?」
リタは腕を組み直して店主にたずねる。
レイヴン「ずっと見張られてて、おっさん、緊張しちゃったよ」
後頭部で手を組み、芝居かかった口調でおっさんは言う。カロルがウソばっかり……と、レイヴンを睨む。
店主「……あれは、監視です。住民が外から来た方と勝手に話をしないように」
店主は声をひそめて話し出す。エステルが不思議そうに首を傾げ、どうしてそんなことを?と聞く。
店主「理由はわかりませんが執政官命令で、私のような商売人以外は外出禁止なのです」
レナ「なるほどね、だから、街中に住民の姿が見えなかったわけね」
少女とユーリは、納得するように顔を見合わせる。
カロル「ここでも執政官が悪だくみしてるのかな」
ユーリ達に小声で話し、ユーリは軽く頷く。
店主「つい最近まで執政官なんていなかったのに、とうとうここに来て……」
俯きがちになって店主は話を続ける。エステルはそうなんです?と言った。店主はええと頷く。
店主「最近、ノードポリカで騎士団が動いているとか。ついに騎士団がベリウスの捕縛に乗り出したみたいですね。この街に帝国の執政官が赴任してきたのもその波紋みたいですね」
少女はベリウスの捕縛という言葉に反応して、僅かに体を揺らす。
カロル「騎士団がベリウスを捕まえるの!?」
カロルはぎょっとする。
店主「なんでも闘技場の
店主の言葉に、一同は驚く。ジュディスがベリウスが……?と聞き返す。店主はこの街ではそう言われていますと答えた。
店主「まぁ
そこで、騎士が宿屋に入ってくる。店主は先程までの態度とは一変して、ご利用ありがとうございましたと淡白に言った。カロルはえ……ちょ……と、唖然としている。察したユーリが、世話になったなと返して、みんなに湖に水汲みにいくぞと声をかけた。
ユーリ達は教えてもらった湖に向かい、水筒に水を入れた。
カロル「水も汲んだし、準備OKだね」
エステルはですねと頷いた時、子供の叫ぶ声が聞こえた。ユーリとレナはその方向へかけ出す。あとからエステルも追いかけてきていた。どうやら、外出禁止令を破った子供を騎士が叱っているところだったらしい。レナは子供達を庇うように騎士の前に立つ。
ユーリ「執政官様とやらの代わりにオレが叱っといてやるよ」
ユーリは騎士を睨みなが言った。よそ者は口出しするなと騎士が言う。
エステル「許してあげてください。わたしが直接、この子たちに代わって執政官に頭を下げます」
ハッキリと言った彼女に、騎士はどこか見た事があると首をかしげる。姫であることに気づいたのだろう、慌てて失礼しました!と騎士は言うとその場から逃げるように去っていった。
エステル「もしかして……まずかったでしょうか?」
やってしまったかも?と不安そうな声を出す彼女に、ユーリは結果オーライだなと返した。
男の子「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
元気よくお礼を言った男の子に、エステルはしゃがんで子供たちの視線に合わせて名前を聞いた。
男の子「ぼくはアルフ、妹はライラって言うんだ」
子供たちは素直に名前を教えてくれた。
ジュディス「お父さんとお母さん、どうしたのかしら?」
アルフはうーんとねと頑張って言葉にする。
アルフ「シッセイカン様の馬車に乗せられて砂漠に連れてかれちゃった……フェローのチョーサするんだって」
その名を聞くとは思わなかったエステルはビックリしてフェローって……!と言いながらユーリを見る。ユーリはああ……と顔を険しくした。
レイヴン「でも、フェローの調査って何する気よ?」
カロル「それに街の人を利用してってことだよね?ひどくない?」
ライラ「ねぇ……お兄ちゃん、お父さんたち探しに行かないの?」
レナ「ダメよ。君たちが砂漠に行っても死ぬだけ」
少女は少し睨みながらキツく止めた。アルフがえっ!と悲しそうにして、それを見たエステルはレナっと咎めた。レナは素知らぬ顔でそっぽを向く。ちらりとレナを見てジュディスが口を開く。
ジュディス「私たちが探すわ。だから、砂漠に行ってはダメ」
彼女は優しい眼差しを子供たちに向けた。アルフが、ほんとうに?と不安そうに聞く。
ジュディス「私、ウソはつかないわ。……いいでしょう?カロル」
カロルは二つ返事でいいよと言った。リタがいやにあっさりしてるわねとつっこむ。
エステル「義をもってことを成せ、ですよね」
後ろにいたリタがそういうことなの?と言いたそうな顔で頭をかいた。
ライラ「ありがとう!お姉ちゃんたち」
アルフ「お礼にこれあげる!」
子供たちは嬉しそうにお礼を言って、ジュディスに何かを手渡すとどこかへ走っていった。ジュディスは手渡されたものを見つめている。レナが、ガラス玉?とジュディスの手に乗っているものを見て言った。
ジュディス「素敵な宝石だわ」
ジュディスは嬉しそうに微笑んだ。エステルが、仕事の報酬ですねと胸の前で手をぎゅっとした。
ユーリ「先払いしてもらった分、きっちり働かないとな、カロル」
カロルはそうだねと頷いた。
ユーリ「……にしても……帝国がフェローの調査、か……」と独り言ちる。
砂漠へ行くために街を出ようという時、ユーリが不意に立ち止まった。
レナ「?……ユーリ、どうしたの?」
ユーリ「いや、ここの執政官は何を企んでるんだろうなってな。フェローを探したりしてさ」
聞いていたエステルは考え込む。
ユーリ「ま、帝国としては、姫様を狙う化け物は、排除したいだろうけどな」
リタ「でも、あいつら、エステルが狙われてることも気づいてないんじゃない?」
じゃあ、何のためよとレイヴンが口を挟む。リタはあたし知るわけないでしょと返した。
ジュディス「外出禁止というのもわからないわね」
話せば話すほど、執政官のやっている事が分からなくなってくる。
カロル「とにかく、まずはコゴール砂漠でしょ」
ユーリ「ああ。この街のことを調べるにしても帰ってきてからだ」
レイヴン「早くあの二人の親を助けてやんないと、この暑さでぶっ倒れちまうわよ」
ユーリの意見に頷きながらおっさんは先をせかす。考え込んでいたエステルはそうですねと頷いた。
レナ「で、砂漠の中央部は、この先を抜ければいいんだよね?」
少女の確認にジュディスはそうねと答える。
ジュディス「おそらくあの子たちの両親が連れていかれたのはそっちの方だと思うわ」
ユーリはわかった、行こうぜと皆に声をかけ、砂漠の中へ入った。
―コゴール砂漠
ユーリ達は照りつける太陽の眩しさと暑さに耐えながら影ひとつできない砂の上を進んでいく。
エステル「……影一つない、ですね」
カロル「この暑さ、想像以上だね……」
レナ「……うぅ〜あつ〜」
ユーリ「準備なしで放り込まれたらたまんねぇな」
ユーリあまりの暑さに膝をついている。
リタ「あのおっさんは準備なしでも平気そうよ」
前を向けば先に行くレイヴンが身軽そうに動いていた。
ユーリ「おっさん……暑くないのか?」
不思議そうにきくユーリにレイヴンはケロリと答える。
レイヴン「いや暑いぞ、めちゃ暑い、まったく暑いぞ!」
アクロバティックに動きながら答えるその様は、リタからうっとうしい……と不評だった。
エステル「暑いって言われるたびに……温度が上がっていく気がします」
レナ「……わかる」
レナ(ユーリ、多分黒色だから余計に熱を溜め込みやすくて暑いんだろうなぁ……私も同じような感じだからキツイけど)
エステルに同意しつつ、膝を着いたままキツそうにしつつも、はあはあと荒い息をしているラピードを撫でているユーリをみて少女は思う。
レイヴン「水の補給を忘れないようにしときゃ大丈夫よ」
既にバテ気味の二人に、おっさんは元気よくガッツポーズをする。
エステル「サボテン、ですね……」
ジュディス「でもあの子たちの両親は、何も準備してないのよね」
エステル「フェローも探さなきゃ、だけど……」
ゆっくりとエステルはジュディスの方へ振り返る。
ジュディス「ええ……アルフとライラからの依頼を先、にしていいかしら?」
カロルがで、でも……とエステルを見る。
エステル「わたしとの依頼は終わったはずですから」
エステル……とカロルは呟く。少し休んで復活したユーリが立ち上がり、二人の両親を探そうぜと言った。その後すぐに、聞き覚えのある鳴き声が聞こえた。それはダングレストで聞いた鳴き声。エステルが今のフェローの?とぽつりと言った。
カロル「やっぱりフェローはこの砂漠にいたんだ!」
元気のなかったカロルが、復活する。
ユーリ「急かすなって。あの子どもたちからの依頼が終わったら、存分に相手してやるからさ」
ユーリはフェローの声がした方向を見た。
少し進みサボテンを見つける。リタがここらで水分補給しましょと提案した。でもこれって……とカロルがサボテンを触ってトゲが刺さり、いたたと仰け反る。リタはカロルの行動を見て、バカっぽい……と呆れたように頭を抱える。ユーリが、ソーサラーリングをカロルに見せて、こいつの出番ってこったと教えた。ユーリはソーサラーリングをサボテンに向けると緑の光が指輪から放たれ、サボテンから水が溢れる。少ししぼんだサボテンから中に残っている水を汲むために、ユーリは水筒を出して汲んだ。カロルは嬉しそうに次ボクね♪と笑った。
エステル「マメな水分補給が必要ですね」
ユーリ「ああ……日干しになりたくないしな。全員済んだら、先進むぞ」
はーいとレナは返事して水分補給を済ませる。
更に砂漠の中を進んでいく、相変わらずおっさんは元気そうだ。
レイヴン「ほら、たらたら歩くとよけい疲れるぞ」
カロル「なんで、そんな元気なの……?」
レナ「……不思議よね……」
ユーリ「いるよな、人がばててる時だけ、元気なヤツ……」
リタ「ぶっとばしたい……」
彼女が不穏なことをつぶやく。
ユーリ「無駄に動くなよ」
ユーリは彼女のやりかねない行動を止めた。
リタ「そんな元気もないわ……ね、あれから声聞こえた?」
覇気のない声でリタはエステルに聞く。エステルは、いえ全然と首を横に振った。
リタ「ところで、あんた、こんな砂漠に何しに来てたの?」
話題を変えてリタはジュディスを見た。
ジュディス「ここの北の方にある山の中の町に住んでたの、私。友達のバウルと一緒に。だから、時々、砂漠の近くまで来てたのよ」
リタは砂漠に……?と考える仕草をした。
ジュディス「それにしても何かを探す余裕はなさそうね。これは」
ユーリ「まったくな。自分の命繋ぐのに精一杯だ……」
カロル「早く何か手がかりを見つけなきゃ……」
レナはそうだねと頷き、エステルははいと返事する。
ユーリ達は子供たちの両親を探しながら砂漠をあちこち歩いていく。
カロル「う、もう水がない……」
どうやらカロルの持っていた水筒の中身が空になってしまったらしい。ユーリが仕方ないと、自分の水筒を全部飲むなよと言いながらカロルに渡した。カロルはありがとうとお礼を言って受け取る。
リタ「ちょっと……このへんで……休憩にしない……?」
疲労を感じる声を出した彼女は腰に手を組み下を向いて、肩で息していた。レイヴンは、まったくしょうがないねぇと余裕そうな表情をして、頭の後ろで手を組む。ラピードがなにかに気づいたようにその方向に歩く。カロルがそれを視線で追って、あ〜!!と大声を出すと、そのまま走っていく。お?ついにひとり壊れた?とレイヴンは茶化す。ユーリはカロルの急な行動で呆気に取られていた。オアシスでもあったのかな?と少女は思いながら、カロルの走った方向を見ると、水が確かにあった。続いてリタが水っ!と言ってカロルの方に走る。
エステル「あ、ちょっと、気をつけて、砂に足を取られたら、危ないですよ!」
彼女はそんな二人を注意しながら追いかけていく。
ユーリ「なんだよ……まだ元気じゃねぇか」
ユーリはガックリと肩を落として安心した。おっさんも行くか!とレイヴンははしゃぎながらかけていく。
ユーリ「みんなして、力の出し惜しみしやがって」
そう言ってユーリはジュディスと顔を見合わせる。レナはゆっくり歩きながらエステル達の方へ行った。
湧き出る水の中に、エステルとリタ、カロルは服を着たまま浸かっており、レナはしゃがんで手だけを水につけていた。ユーリとレイヴン、ラピードはその後ろに立っている。
リタ「生き返った……」
カロル「ほんと、もうダメかと思った」
レナ「……冷たくてきもちいい」
レイヴン「おお、おお、これからの未来しょって立つ若者が情けないね」
揶揄うレイヴンをリタがうっさいと切り捨てる。
カロル「この先、進むのも危険だよね……」
ジュディス「でも、ここで引き返したら、あの子たち悲しむわね、きっと」
リタ「とりあえず力の続く限り、行くわよ」
ユーリがその傍らで水筒に水を汲む。ジュディスもリタとカロルの分の水筒も持って、よく冷えた奥の方の水を汲む。レナも汲まなきゃなと思い、同じようにした。冷えた水が少女の胸あたりまで包み、照りつける太陽によって熱くなった体温を下げていく。水を汲んで、元の場所まで戻った。
エステル「あわよくば、フェローだって見つかるかもしれないですから」
カロルはそっか、そうだよねとエステルを見てニコッとした。
ユーリ「そんなことよりカロル、ちゃんと水筒に水入れたか?」
そう言われてあっという顔をしてカロルは立ち上がる。水を汲んでいたジュディスが振り返り、汲んどいたわリタの分もと水筒を持ち上げて見せる。カロルはさっすがジュディス!と嬉しそうに水筒を受け取った。リタは戸惑いながらありがとうと言って受け取る。他は平気だな?とユーリが確認をとると、エステルとラピード、レナがそれぞれ大丈夫と返事した。
オアシスで休憩した後、また砂漠なのかを歩いていると、砂の中に何かが埋まっていた。それにレイヴンが気づいておっ?と声を出し立ち止まる。ユーリが立ち止まったレイヴンに、何やってんだおっさんと近づく。
レイヴン「いやほら、そこなんか変な生き物がいるなーって」
おっさんは指を指す。ユーリがん?とその方向を見ると、確かになにかいる。
レナ(……確か、あれは、パティだよね……?)
少女がなんなのか思い出していた時、それは砂を泳ぐぎながらユーリ達に近づいていく。カロルがうわわわ!と後ろに退く。おなじみの金髪のふたつのお下げと海賊帽がユーリの足をつかみ、ユーリなのじゃ!と顔をのぞかせた。
レナ(……やっぱり)
エステルはびっくりした……とドキドキしている胸を抑える。カロルは尻もち着いていた。
ユーリ「そりゃ、オレの台詞だ。まさか砂ん中で宝探しか?」
ユーリは若干驚きつつ言い返す。ご名答なのじゃとパティは砂の中から這いでる。服についた砂をぱたぱたと払いながら立ち上がる。そして、手に持っていた木箱を置いた。ユーリがなんだそれ?と聞くと、アイフリードが遺した宝なのじゃと元気よくパティは答えた。
カロル「でも、よく砂の中の宝物なんか見つけることできたね」
感心したようにカロルはパティを見る。
パティ「冒険家の勘はイルカの右脳よりも鋭いのじゃ」
リタが勘?非科学的〜と囁く。そんなリタにあら侮れないわよ勘ってとジュディスは腕を組み言った。
ユーリ「まさか、それか?探してたお宝ってのは」
パティ「違うのじゃ。これはガラクタなのじゃ。それにうちはお宝を見つけるのが、目的ではないのじゃ」
おさげを揺らして否定し、人差し指を振りながら説明する。
エステル「記憶を取り戻す、ですよね?」
パティ「そうなのじゃ、そのためには祖父ちゃんのお宝の
ユーリ「んで?まだその記憶とやらは戻ってこないのか?」
パティはうむ、そのようなのじゃと腕を組みうんうんと頷く。
パティ「でも、うちの旅はまだまだこれからなのじゃ」
明るく話すパティに、レイヴンが立ち直りの早い子だねぇと言う。
ジュディス「あら?わたしはそういう子の方が好きよ?」
お、俺もそうだけど?とレイヴンが同意を示す。それを聞いてジュディスはニコッと微笑んでレイヴンと顔を見合わせる。
リタ「ねぇ、こんなところでおしゃべりしてたら、行き倒れになるわよ」
レナ「水も限られてるしここから進もうよ」
二人に言われて、ユーリがそうだなと頷く。エステルが一緒に行きましょうとパティを誘った。パティはむ?と首をかしげ、宝探しの続きがあるんじゃがのと困ったような声を出す。リタはごちゃごちゃ言わないでついてくると、めんどくさそうな態度をした。
パティと共にユーリ達はまた砂の上を歩いていく。ときたま動物の骨が転がっているのを見ながらキョロキョロしているとカロルが倒れている人を見つけてあそこにいるのは!と声を出した。ユーリ達は急いで、そばに駆け寄る。カロルとレナはそれぞれに大丈夫!?と声をかける。エステルは二人に治癒術を施す。旦那の方が起き上がり、妻は、妻は……とうわ言のように呟く。楽になりました?と言ったエステルの声は届いて無さそうだ。
レナ「奥さんはここにいるわ」
レナは旦那さんの方の手を掴み、奥さんの手と重ねる。エステルはすぐさま治癒術をかけた。奥さんは起き上がり、まだ焦点があって無さそうな目で旦那さんを見る。エステルが、まだじっとしていてくださいと声をかけた。み、みずを……と掠れた声で奥さんは言った。レナは持っていた水筒の蓋を開けて、奥さんの口元に運ぶ。この暑い中倒れていたのだとても喉が渇いていたのだろう。夫婦は水筒を受け取るとすごい勢いで飲み干した。レナとユーリ、一本ずつ飲んだのだが、どうやらまだ体は水分を求めているらしく飲み足りない……と夫婦は呟く。旦那さんはでも、ありがとうございますと深々と妻と共に頭を下げた。あなた方のおかげで助かりましたと奥さんが続ける。エステルはいえ、そんな……と謙遜した。
ユーリ「安心するのは、生きて帰れてからだ」
パティ「なに、なんとかなるのじゃ」とニカッと笑った。
リタ「この状況でその台詞言えるなんてあんた上等だわ」
と言ってリタはそっぽを向いた。
旦那「お礼を……といっても、今は何も持ち合わせがなくて……」
申し訳なさそうなにする旦那を、ユーリは手を振ってそんなのはいいってと返した。
旦那「いえ、そういうわけにはいきません。ぜひ、お礼にマンタイクまで取りに来てください」
リタがマンタイク?と地名に反応する。ピンと来たジュディスがもしかしてと口を開いた。
ジュディス「あたなたたち、もしかしてアルフとライラの両親かしら?」
夫婦はええ、そうです!と驚いたように頷いた。
奥さん「もしかして、マンタイクであの子たちに……?」
奥さんの問いに、エステルがええ会いましたと答える。
カロル「お父さんとお母さんのこと、心配してたよ」
ジュディス「探しに行こうとまでしてたわ」
旦那「ああ……こうしちゃいられない。早く戻らないと……」
焦り出す男に、レナが制した。
レナ「落ち着いて。二人だけで帰れると思うの?」
はっとした表情で、旦那は無理ですねと顔を俯かせた。レイヴンがそうそうちょっと落ちいて、ねと声をかける。
パティ「そうなのじゃ、少しこの辺りで横になるのじゃ」
エステル「ちょっとパティ、それは落ち着きすぎ……」
珍しくエステルがつっこむ。
空から鳥のような鳴き声が響いた。それはやけに近く感じて、カロルが近くない?と呟く。この先みたいねぇとレイヴンは言う。
ユーリ「ようやくご対面か。干からびるとこだったぜ」
ジュディスとリタが先に歩き出す。エステルは夫婦に、おふたりも一緒にと声をかけ、ユーリがつかずはなれずなと注意した。
鳴き声が聞こえた方向に着く、途端に別の鳴き声に変わっていった。
エステル「フェローじゃない……」
ユーリ「ああ……声の調子が変わりやがったな」
カロルがあ、あれ……!と空中を指さす。虚空から、禍々しい渦ができその中から今まで見た事もない魔物が出てくる。鳥のようにも魚のようにも見えるが、顔がなく体全体から黒いオーラなのようなものが立ちのぼっている。
レナ「……あれはっ」
少女は小さく言うと、暑さか恐怖かどちらの汗か分からないが頬を伝う。
ユーリはなにか聞こえた気がしてチラリとレナを見た。
リタ「何!?気持ちワルッ!」
リタは顔をしかめた。
パティ「おとりを使っての不意打ち卑怯な魔物なのじゃ」
カロル「あんな魔物……ボク知らない……」
カロルは目尻に涙をのせ、後ろに下がりそうになっている。
ジュディス「魔物じゃないわねあれは」
レイヴン「魔物じゃなかったら、何よ!?」
ラピード「ワン!ワン!ワン!」
ラピードが珍しく後ずさりながら唸っている。
ユーリ「ラピードがびびるなんて……やばそうだな……」
ユーリは剣を抜き、ジュディスは槍を構え、レイヴンは矢を番えた。レナはダガーを腰のホルダーから抜いた。
カロル「に、逃げよう……!」
エステル「こっちに来ます!」
エステルは盾と剣を構える。
ユーリ「やるしかねぇな!」
リタが詠唱を始めていた。
ユーリ「あんたたちは離れてろよ!」
夫婦は後ろに走って離れる。ユーリ達は取り囲むように散る。化け物はくぐもった声で詠唱を始めたかと思うと、口から球体を吐き出した。熱い空気に包まれた球体が再び口に収まるまでの間に、あたりは真っ暗な夜の闇に包まれてしまう。しばらくして化け物が再び球体を吐く。昼の明るさが戻った瞬間、レイヴンの矢が球体を貫き、向こう側へ突き抜ける。苦しげに身を捩る化け物の体を、仲間たちはいっせいに攻撃した。
やがて、化け物の姿が熱い空気に溶け込むように消えたとき、ユーリたちの息はあがり、疲労も極限に達していた。
エステル「……消えた?」
ユーリはだらりと剣を降ろした。カロルが砂に倒れる音が聞こえ、続いてリタが崩れる。エステルもフラリと倒れた。
レナ「っはぁはぁ……カロル、リタ、エステル……っ」
少女も疲労に襲われた体を支えることも出来ず、もう熱いのかすら分からない砂に倒れ込んだ。