次に目を覚ました時、見慣れない建物の中でベッドの上だった。少女が周りを見れば他の仲間たちはもう起きているみたいで、ラピードが少し間を開けてそばに居た。
レナ「ラピード……。おはよう」
ラピードの毛並みにそってひと撫でする。ラピードは大人しくしており、ワフゥと鳴いた。少女はベッドから降りる。ラピードも体を起こし、床に着地した。ユーリ達のところに案内するようにラピードが先導する。レナは素直にその後を着いて外に出た。
外に出ると、穏やかな風が吹き少女の黒髪とラピードの毛を揺らした。水の流れる音や辺りに緑が多いからかとてものどかに感じた。ラピードがワンっとユーリに向かって吠える。
ユーリ「ん?ラピード、どうした?」
エステル「あっ、レナ。目が覚めたんですね」
ジュディス「おはよう」
レナ「おはよう、ジュディス」
ユーリ「体はどうもないか?」
レナ「うん、多分大丈夫そう」
リタ「ほんとに?体とか痛くないの?」
レナ「?うん、特には」
その後一番最後に目覚めた少女は、ユーリ達から誰が助けてくれたのか分からないがもしかしたら魔物であるかもしれないということ、ここは幽霊船にあった日記のヨームゲンという街であることを教えてもらった。
―古慕の郷 ヨームゲン
ユーリ達は赤い小箱をもって街中を歩く。ふと、その箱は……と女性に声をかけれた。
エステル「この箱についてなにかご存じなんですか!?」
女性「その箱は……ロンチーの持っていた……それをどこで?」
レイヴン「アーセルム号って船ですよ。美しい方。知っているのかい?」
女性の問いにレイヴンが気取って答える。
女性「えぇ……あなた方、アーセルム号をご存じなんですか!?」
身を乗り出すように女性はレイヴンに聞く。
レイヴン「え、えぇ。偶然、海で見つけて……」
女性「ロンチーに会いませんでしたか?」
レイヴン「む。ロンチーってどちらさん?」
女性「あ、私の恋人の名前です。……すみません、突然で」
女性はそう言うと頭を下げた。レイヴンは、恋人がいたことにショックだったらしく、カロルにバトンを渡した。
レナ(まったく……このおっさんは)
少女はジトっとした目でレイヴンを見た。
カロル「えっと、ボクたちが見たのはその、船の方だけなんだ」
女性はそ、そうですか……と視線を下にした。
ジュディス「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
女性「あ、私はユイファンと言います」
エステル「アーセルム号の日記にあった名前ですね」
パティ「同じ名前の子孫かの?」
二人はコソッとユーリに話す。
ユーリ「あんた、
リタ「魔物を退けるものらしいんだけど」
ユイファン「結界を作るために必要なものだと賢人様がおっしゃっていました」
彼女はこくりと頷いて、説明する。
ユイファン「ま、まさか、その箱の中に?」
エステルはユイファンの前に進み出て、届けに来たんですと、箱を差し出す。ユイファンはそうだったんですかと言うとポケットから鍵を取りだす。リタがその鍵まさか……と呟く。ユイファンは、箱を貸してもらえますか?と一言断ると、鍵を差し込んだ。ガチャリと開く音が聞こえて、蓋が開く。中から出てきたのは薄い青緑色の宝石だった。
カロル「うわあ……これがもしかして
綺麗なそれにカロルは感嘆の声を出す。リタがみたいね……と呟きながらそれに目を奪われていた。
パティ「ピカピカキラキラ、海面で瞬く夜光虫よりもキレイなお宝なのじゃ」
レナ(……本当に少し透けて綺麗なのね)
四人が
ユイファン「賢人様は、砂漠の向こうからいらしたクリティア族のお偉い方です」
カロルがクリティア族の……?とジュディスを見上げる。ジュディスはそんな人いたかしらと考える素振りをした。
リタ「結界を作るってことは、
ユイファンはたどたどしく、ブラス……ティ……ア?と言ってさ、さぁ?と首を傾げた。
レナ「でも、今の技術だと
リタ「それを作るヤツがいるの。見たでしょ、エフミドやカルボクラムで。その賢人様とやらがあのメチャクチャな術式の
質問ぜめにあうユイファンは申し訳なさそうに首を横に振り、よく分からないんですと答えた。
ユイファン「とにかく結界を作るために
そう続けて言うと、彼女はユーリ達に背を向けた。
ユーリ「……三年、ね。そりゃ心配するわな」
カロル「なんか色々話がおかしくない?」
エステル「なんだか、話がかみあってませんね」
レイヴン「千年の間違いじゃないん?」
リタ「それじゃ、彼女、何歳?」
パティ「三年前にも千年前と同じことがあったのじゃ、たぶん」
レイヴン「歴史は繰り返すとは言うけど、それはどうよ」
レナ「じゃあ、ここと外で流れている時間にズレがある……とか?」
ジュディス以外の皆が、あれこれ考えている中ジュディスはユイファンに話しかける。
ジュディス「その賢人様、この街にいるのでしょう?どこにいるのかしら?」
ユイファンはえ?と急に話しかけれたことに驚きながらも、街の一番奥の家にと教えてくれた。
ジュディス「賢人様という人に話を聞いた方が早いと思うけれど」
エステルがそうですねと同意する。
ユイファン「あのぉ……それじゃあ、
エステルはええ、もちろんと頷くと、ユイファンはお願いしますと頭を下げた。
ユーリ達は教えてもらった一番奥の家に向かった。湖のほとりにあり、小さく、質素な印象だった。ユーリを先頭に家の中に入っていく。
ユーリ「邪魔するぜ」
居間には男……デュークが居た。ユーリが目を見張る。カロルもえ……この人が?と戸惑っている。リタはあんたは……と眉を上げた。事情を知らないパティは誰なのじゃ?と首を傾げた。
ユーリ「ここに来るまで何度かあったってだけだよ」
ユーリはパティにそう説明する。
デューク「おまえたち……どうやってここへ来た?」
向こうも少し驚いているみたいだ。
ユーリ「どうやってって、足で歩いて、砂漠を越えて、だよ」
デューク「……なるほど……だが、一体……?」
様子のおかしい彼に、エステルは不思議そうに首を傾げる。
デューク「いや……ここに何をしに来た?」
彼の問いに、ユーリはデュークの前に進み、こいつについてちょっとなと
ユーリ「いや……まぁなりゆきだしな」
デューク「そうか……だとするなら奇跡だな」
リタがデュークの方へつかつかと歩く。
リタ「あんた、結界
怒りが滲み出る低い声でリタは淡々と言った。
デューク「
リタ「術式が刻まれていない
リタは驚いてデュークに詰め寄る。
デューク「一般的には
レイヴン「これが
探していたものがそれだったことに、レイヴンは驚く。
パティ「おっさんが探してるお宝かの?」
パティは後ろにいるレイヴンを見上げた。
デューク「それに、賢人は私ではない」
リタはえ……?と睨んでいた目を丸くさせた。
デューク「かの者はもう死んだ」
デュークは受け取った
ユーリ「そりゃ、困ったな。そしたら、そいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
デューク「そうだな、私には、そして人の世にも必要ないものだ」
デュークはそう告げると、剣を構えると床に置いた
レイヴン「あ〜、何すんの!待て待て待て!」
おっさんが慌て始める。皆も思わず体が前に出る。ただ一人、少女だけはそうなると分かっていたかのように落ち着いていた。まばゆい術式と光が溢れ、
リタ「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」と叫ぶ。
レイヴンは額に手を当て、あちゃ〜せっかくの
デューク「
リタ「……エアルに還す?今の、本当にそれだけ……」
彼女は考え込んでしまった。
ユーリ「おいおい、だからって壊すことはねぇだろ」
パティ「せっかくのお宝に乱暴なことをする御仁なのじゃ」
エステル「
デューク「この街に、結界も救いも不要だ。ここは悠久の平穏が約束されているのだから」
エステルの問いに、デュークはそう答えた。
ユーリ「確かにのどかなとこだけどな」
エステル「でも、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
デュークはフェローという言葉に反応して振り返る。
デューク「なぜ、フェローのことを知っている」
ユーリ「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知ってんだな」
デュークは黙ってしまった。無言は肯定の意。エステルはデュークの前に歩み寄った。
エステル「知っていることを教えてくれませんか?わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」
デュークはエステルを見て、なるほどと呟いた。
エステル「何か知ってるんですね?」
デューク「この世界には
彼は静かに言う。
エステル「それが、わたし……?」
デューク「その力の使い手を満月の子という」
エステル「……満月の子って伝承の……もしかして、
その通りだとデュークは肯定した。
エステル「どうしてその
デューク「真意は
エステル「やっぱりフェローに会って直接聞くしかないってことですか?」
デューク「フェローに会ったところで、満月の子は消されるだけ。おろかなことはやめるがいい」
デュークは冷ややかな口調で告げる。エステルはでもでも!と声を上げた。
レナ「……私のことについても教えて欲しい」
エステルの隣にいつの間にかレナが立っていた。エステルはレナ……と小さく名を呼んでレナを見ていた。
レナ「あなたは私がこの世界に連れてこられたって言った。どうして私は連れてこられたの?」
デューク「……この世界のエアルを安定させるためだ」
レナ「……安定させるため?」
デューク「この世界は
ユーリ「なんでレナがこっちに来ることで安定するんだ?」
デューク「こちらの世界に来る際に、安定させる分だけのエアルを運んだり、逆にいらない分はその世界が吸収するからと言われている。そして、エアルの量を調節することができ、エアルクレーネを抑えたり、満月の子の力を抑える役目も持つ」
レナ「エステルの……力を?」
デューク「別世界から来ることから異空の子、または満月の対になる存在として新月の子と呼ばれる」
レナ「……新月の子……」
リタ「だからヘリオードの時、
リタはヘリオードの
レナ「でも、私、エアルを使って魔術を使ったりは出来ないよ?調節が出来るなら、魔術も使えるはずじゃないの?」
話を聞いた上で疑問がでてきた少女はデュークに問う。
デューク「根源たる力を操ることは出来ても変換することまた別の力になるからだろう」
少女はそう言われて、何となく納得してしまった。そもそも変換するためには
デューク「話は以上か?再度言っておくが、フェローに会うなどとおろかなことはやめておけ」
エステルは、眉を下げて俯いてしまった。レナは、教えてもらった事に理解するために頭を働かした。
レナ(……私がこの世界にいることはイレギュラーだから、知らない設定が私を混じえて加わってる。でも、エステルの力を抑えることが出来るなら、ベリウスを救えるかもしれない?)
少女はデュークに教えてもらった事からヒントを導きしだしていた。
カロル「ね、
レイヴン「ノードポリカを作った古い一族、だっけ」
リタ「フェローがノードポリカを?そんなわけないじゃない」
デューク「立ち去れ、もはやここには用はなかろう」
ユーリ達からデュークは背を向ける。
リタ「待って!あたしもあんたに聞きたいことがある。エアルクレーネであんた何してたの?あんた、何者よ、その剣はなに!?」
デュークの持っている剣を指さした。
デューク「おまえたちに理解出来る事ではない。また理解も求めぬ。去れ。もはや語る事はない」
リタ「ちょっ何よそれ!」
振り向きもしないデュークにリタは拳を振り上げそうになっている。そんな彼女をユーリはリタと名を呼び止めた。不満そうだが仕方ないと踏ん切りを付けてリタはユーリ達と外に出た。
ジュディスは家のすぐ出たところで立ち止まって何かを考えている。エステルはジュディスに振り返り、助けてくれたのはデュークかもしれないですねと話しかけた。聞いていたユーリがどうだろうなと返した。
エステル「……わたし、お礼を言ってきます」
ユーリ「やめとけ。そういうのガラじゃねぇだろ、あいつも」
ユーリはエステルを止める。エステルはそうでしょうか……とぽつりと言う。ユーリは、ああ多分なと言った。
ユーリ「あいつの言ってた満月の子って、前に言ってた凜々の明星の妹だよな」
エステルはええと頷き続ける。
エステル「地上満つる黄金の光放つ女神、君の名は満月の子。兄、凜々の明星は空より我らを見る。君は地上に残り、賢母なる大地を未来永劫見守る」
レイヴン「それなんか意味あんの?」
エステル「わかりません。でも、ただの伝承ではないのかもしれません」
ユーリ「地上に残り、大地を見守る、ね」
リタ「大地を見守るっていうのはこの世界を支配するってこと?」
カロル「じゃあ、皇帝になる人ってこと?エステルが満月の子なら、それでつじつまが合わない?」
レイヴン「だとすると、代々の皇帝はみんな、フェローに狙われるわな」
エステル「そんな話は聞いたことないです」
カロルはうーん……とうなり始めた。
ユーリ「ってか、新月の子って伝承になかったよな」
エステル「え?確かに、新月の子という言葉が出る伝承は見たことないです」
エステルは首を傾げて考えるが、首を横に振った。
レナ「新月の子については知らないけど、エステルだけが狙われてる理由は知ってる」
エステルが驚いたように少女を見る。仲間たちはレナに注目した。
レナ「エステルが狙われてしまうのは、満月の子としての力が、他の皇帝よりも遥かに強いから」
ユーリ「なんでそんなことお前知ってんだ?」
レナ「……どうしてだろうね?」
悲しそうな曖昧な笑みを少女はユーリに向けて浮かべた。この時の少女の心象をユーリは読み取ることが出来なかった。
パティ「……なんか難しい話になっとるみたいじゃのう」
レイヴン「そうねぇ、パティちゃんにはちょっと難しい話かもね」
パティ「おっさんにも難しい話じゃの」
ジュディス「後であなたにリタがゆっくり話してくれるわ」
話についていけないパティにジュディスは励ます。巻き込まれたリタは、あたし……!?と自分で自分を指して驚いていた。
ジュディス「今はこれからどうするのかを決めた方がいいんじゃない?」
リタ「あたしはこの街に残る。調べたいことがあるから」
エステル「調べたいことです?」
彼女は首を傾げてリタに聞く。
リタ「
お別れねと言ったリタに、エステルはえ!と口に手を当てて驚く。
レナ「そっか……寂しくなるね。砂漠を一人は大変だと思うけど、頑張ってね」
レナにそう言われて思い出したリタはうっと頭に手を当てた。
リタ「そうか……砂漠越えないとダメなんだった」
レイヴン「調べもんの間くらい俺らもいていいんでない?
パティ「また砂漠へ行くなら、のんびりと準備でもするのじゃ。もう行き倒れは勘弁なのじゃ」
ユーリ「そうだな。出発は明日にするか。リタ、一日あればいいだろ?」
リタ「ええ。十分よ。あ、ありがと……一応礼いっとく」
気恥しさからかリタはそう言うとユーリから背を向けてしまった。カロルはリタが礼を言ったことに口をポカーンとさせて驚き、エステルはニッコリと微笑む。少女は珍しい……と心の中で思った。
ユーリ「はは。どういたしまして。じゃあ明日の朝、街の出口集合な」
みんなそれぞれ返事をし、それを合図に調べ物をしたり観光したり食事にいったりと別行動を始めた。
レナ(さてと、どうしようかな。特に用があるって訳でもないけどデュークの所にはリタが行ってるだろうし……適当にぶらぶらしてようかな)
少女は仲間たちと別れてから宛もなくただフラフラと湖を見たり草木を眺めたりしていた。途中、ユーリとエステルが話してるのを見かけたり、ジュディスとすれ違ったり、レイヴンが女性にナンパして振られているのを尻目にスタスタと歩いて回る。また賢人の家の近くを通った時、デュークが外からでてきた。
レナ「……デューク」
つい呼んでしまったその声に、デュークは反応して少女を見る。何も言わずただ少女を見つめるデュークに気まずい空気が流れた。
デューク「……用がないなら行くが」
沈黙を破ったのは彼の方からだった。
レナ「え、あ……その、ケーブ・モックの時、なんで私がこの世界の人じゃないってわかったの?」
ユーリ達にバレることもつっこまれることもなかったのに彼はあっさりと少女がこの世界の人間じゃないことを告げた。それが不思議だったのだ。
デューク「異空の子には特徴がある。深い紅色の瞳の中に金色が混じっている事だ」
レナ「……瞳」
少女は目元に手を当てて呟いた。
デューク「その瞳を持つものは、異空の子だけ」
だから分かったのだと彼は言った。
レナ「そう、なんだ。聞きたかったのはそれだけ……呼び止めてごめんなさい」
少女は頭を下げた。
デューク「構わない……」
彼はそのままどこかへ去っていった。
レナ(自分の瞳の色なんて、ただ深紅色なんだなくらいしか思ってなかったけど金色も混じってたんだ。宿屋の洗面台とかで何度か見たはずなのに気づかなかった)
少女は柵のない湖に向かって、しゃがんで水面を覗き込む。少女の顔が水面に反射した。改めてじっと瞳を覗くとデュークに言われた通り確かに、金色が混じっているように見えた。
ひな(光に当たると、もっと分かりやすいかな)
後ろから足音がしてそのままの態勢で振り返り少女は見上げた。振り向いた先にはユーリが立っていた。
ユーリ「レナ?何してんだ?」
不思議そうな顔をして首を傾げる。
レナ「水面にうつる自分の瞳を見てたの」
ユーリ「自分の瞳をか?」
レナ「私の瞳の色って深紅でしょ?その中に金色が混じってるんだって。それが別世界から来た人の特徴って、デュークに聞いたから確かめてたの」
未だ疑問を持つように首を傾げたままのユーリに、レナは事情を説明する。
ユーリ「なるほどな……確かに、光に当たると金色が混じってるのがわかりやすいかもな」
納得したように頷いたユーリは、少女の瞳をじっと見つめた。
レナ「ユーリ……見すぎじゃない?」
なんだか恥ずかしくなった少女はユーリから顔をそらす。
ユーリ「わりぃ、改めて見ると綺麗だったから……つい、な?」
頬をポリポリとかきながら彼は言った。
レナ「綺麗……?えっと、ありがとう」
なんとも言えない空気に少女はなんとなく礼を言った。そのままスクっと立ち上がると、早口でわたし先に宿屋に帰ってるねっとユーリに告げて少女はその場から去る。急なことにその場に残されたユーリはポカーンとしていた。ユーリからは照れていないように見えた少女の顔は、後からじわじわと赤くなっていた。照れからか、暑くなったレナは手をパタパタと動かして自分を扇ぎながら宿屋に入っていく。部屋につくとパティが居た。
パティ「あれ?レナ、顔が赤いのじゃ」
レナ「パ、パティ……居たんだ」
急に声をかけられて少女は裏返ってしまった声で戸惑いつつ返した。
パティ「うむ、うちはここでリタ姐とお話したあとずっとおったのじゃ。顔が赤いのは暑さにやれたのかの?」
少女はいやあのこれは暑さのせいじゃないと言うか……と、心の中で言い訳をしつつも適当に誤魔化す。
レナ「あー、うんそんなところ……」
パティ「んじゃ、ゆっくり休むのじゃ」
レナ「そうだね、そうする……」
レナはそのままベッドに横になり、暑いままの頬から意識を逸らして落ち着こうと目を瞑った。次に目を開けた時にはいつの間にか眠っていたようで朝になっていた。
―翌日
街の出口に仲間たちは集まっていた。ユーリが遅れてやってくる。助けた夫婦たちもユーリ達に着いていくそうだ。
カロル「で、ボクたちはこれからどうする?」
リタ「あたしはカドスの喉笛のエアルクレーネにいくわ。
レイヴン「俺様はベリウスに手紙渡さないとなぁ」
カロル「ボクもベリウスに会ってみたい。ドンの双璧と言われるギルドの
カロルは興味津々という感じで元気よくそう言った。パティがその後ろでベリウス……?と呟く。
カロル「そう、ノードポリカを治める
カロルはパティに説明してあげる。
パティ「カロルはそんなスゴイ奴と友達なのじゃな」
感心たようにカロルをみるパティ。
カロル「え?と、友達っていうか、えっと……」
違うといいたいのか……でも、その顔は満更でもなさそうだ。
ユーリ「オレもノードポリカか。マンタイクの騎士団の行動、フレンに問いたださなきゃな。ま、ノードポリカにまだ居れば、の話だけど」
エステル「わたしは……
レナ「理由を知りたいのはわかる。だけど、デュークに言われた通りフェローに会うのはやめた方がいいよ。別の方法を探した方がいいと思う」
少女は心配そうな顔をし、リタはうんうんと頷く。
ユーリ「そうだな……砂漠を歩いてフェローを探すのはちっと難しそうだぜ」
ジュディス「だったらみんでノードポリカに向かうのはどう?
彼女はみんなにそう提案し、エステルを見た。エステルはえ、ええと戸惑いがちに頷く。
ジュディス「ベリウスに会えば、わかると思うわ」
レナ(……ベリウスが、
リタ「闘技場は
レイヴン「確かにイエガーがノードポリカの
ユーリ「ヤツの言葉を信じるならな」
レイヴン「ま、ベリウスに会いに行くのなら途中でカドスの喉笛通るわけだし、魔導少女にとっても都合いいわな」
一通り話をまとめると、ユーリはだなと同意した。
カロル「うん。まずはマンタイクに戻ろう」
ユーリがパティは……と、どうするのか聞く。
エステル「確か、ノードポリカには、パティをよく思ってない人が……」
エステルは気にかけるようにパティを見た。
パティ「平気なのじゃ。あんなのは相手にしなければいいだけなのじゃ。さっさと海に出れば問題ないのじゃ」
特に気にしてない顔で強気に言った。
ユーリ「じゃあ……一緒に来るか?」
ユーリの問いに、のじゃとパティは頷いた。
ユーリ達は砂漠をぬけ何とかヨームゲンからマンタイクへ戻ることが出来た。
リタ「はぁ〜……やっと帰ってきた。砂漠はもうこりごりだわ……」
リタは暑さと疲れでダルそうにしている。カロルがほんとだよ……と同意する。ふと、エステルが街の人が外に出ているのを見つける。ジュディスが、外出禁止令ってのが解かれたのかもねと言った。よく見ると、キュモールがたっている。リタは思わずキュモール!とその名を呟いた。手が出そうになるリタをレイヴンが止める。ここは様子見なのじゃとパティは望遠鏡を覗き込んだ。
キュモール「ほらほら、早く乗りな。楽しい旅に連れてってあげるんだ、ね?」
そう言われた夫婦は乗るを渋るように、子供たちの心配をする。
キュモール「翼のある巨大な魔物を殺して死骸を持ってくれば、お金はやるよ。そうしたら、子どもともども楽な生活が送れるんだよ」
それでも子供を置いていけないと夫婦は、お許しくださいと馬車に乗るのを拒否する。
キュモール「知るか!乗れって言ってんだろう、下民どもめ!さっさと行っちゃえ!」
なかなか乗らない夫婦にキュモールは怒鳴りつける。ユーリ達の後ろにいた夫婦は思い出すように、私達もあんなふうに砂漠に放り出されたんですと語る。どうして自分で乗っていかないのじゃとパティは首を傾げる。
ユーリ「わかってるからだろ、この砂漠が危ないって。オレたちがヤバかったみたいに」
パティの疑問にユーリが答える。
レナ「翼のある巨大な魔物って、フェローのことよね……」
レイヴン「にしても、フェロー捕まえて何しようってんだかね」
ジュディス「それでどうするのかしら?放っておけないんでしょう?」
ジュディスはエステルを見つめて言った。当のエステルは考え込んで、わたしが……とキュモールの方をむく。察したパティが今は行かない方がいいと思うのじゃと注意した。
ユーリ「あのバカ、お姫様の言うことも聞きゃしねぇしな」
エステルはじゃあどうするんです……?と落ち込むように俯いてしまった。なにか思いついたのか、ユーリはカロルに耳を貸すように言う。カロルは素直にユーリに耳を傾けた。どうやらなにかするらしい、道具が……とつぶやくカロルにジュディスが準備できてるわよとスパナを渡した。スパナを持ったカロルはユーリ達の方に振り向いて、危なかったら助けてよ?と不安そうな顔で言った。レイヴン以外のユーリ達はグッと拳を握ってわかったと合図した。レイヴンはというと、面倒くさそうに耳をほじっていた。カロルは馬車の方に行く。
ユーリ「やっぱり拾ったのか?」
ユーリはジュディスがスパナを持っていたことに関して聞いた。ジュディスは首を縦に振る。
ジュディス「前に落ちてたのを、ね。使うこともあるかと思って」
さすが気が利く彼女のことだ。リタは変なのと呟いてジュディスの隣に立つ。パティはカロルが何をするのか分からないようで何なのじゃ?と首を横にした。
レイヴン「ともあれ、少年の活躍に期待しようじゃない」
レナ(カロル……ファイトっ)
ユーリ達はカロルを見守る。
キュモール「ノロノロ、ノロノロと下民どもはまるでカメだね。早く乗っちゃえ!」
キュモールの部下が街の人々を馬車に押しこめる。その場にいた全員を押し込むと部下は、キュモールに報告した。キュモールはじゃあ君も馬車に乗りなと部下を一人指さす。指された部下は戸惑いながら私も?と聞き返す。
キュモール「仕事が遅いものには罰を与えないと、ね?」
部下は焦ったように、お許しください妻と娘が……と述べる。
キュモール「キミが行かなきゃ、代わりに行くのは……奥さんや娘さん、かな?」
どこまでも人を道具としてこき使うキュモールの姿に、エステルはグッと目を瞑り険しい顔をした。さぁ、出発だというキュモールの掛け声で馬車が動き出そうとする。祈るようにエステルはカロル……と名を呼んだ。
ジュディス「大丈夫よ。できる子よ、あの子は」
エステルはジュディスを見る。ジュディスはニコリと微笑んだ。と、その時馬車が大きな音をたてて馬車の車輪が崩れる。
キュモール「何してるんだ!?馬車を準備したのは誰!?きーっ!!馬車を直せ!この責任は問うからね!」
突然の出来事にキュモールは叫び散らかし、どこかへ行った。
リタ「これがガキんちょに授けた知恵ってわけね」
納得したようにリタは呟いた。カロルが馬車から走ってこっちに来る。ユーリがおつかれさんと声をかけた。
カロル「ふーっ……ドキドキもんだったよ」
まだバクバクいっているであろう心臓を抑えながら言った。
リタ「でも、これって、ただの時間稼ぎじゃない」
ジュディス「これが限度ね。私たちには」
パティ「うちらも旅の途中だからの」
ユーリ「騎士団に表だって楯突いたらカロル先生、泣いちまうからな」
レイヴン「俺たち、気付かれる前に、隠れた方がいいんじゃなあい?」
レイヴンの提案で、ユーリ達は夫婦と別れて宿屋に隠れに行った。