目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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花の街ハルル

―プロローグ

 

 この世界、テルカ・リュミレース。大地と海がどこまで続くのか、知る人はいない。なぜなら……世界にうごめく魔物たちに比べ、人はあまりにも弱い。我々の住む街を守る結界、我々は己を守るためにその中で生きながらえている。それを成す核となる、魔導器(ブラスティア)。世界に満ちた根源たる力、エアルを使い、魔導器(ブラスティア)は、火、水、光、繁栄に必要な、ありとあらゆるものを、今日まで我々に与え続けてきた。やがて、いつの日か、結界の向こうに、凶暴な魔物が生息する事も我々は忘れてしまうのだろう。繁栄と成長を続ける世界……。すべての人のための平和、魔導器(ブラスティア)の恩恵により更なる発展を遂げていくだろう。平和の礎である帝都ザーフィアスより願う。『世界が穏やかであるように』―TOVエステルのナレーションより引用

 

―クオイ森

 

 デイドン砦抜けてユーリとエステルはそれぞれの目的のためにクオイの森を歩いていた。クオイの森に入ると呪われてしまうという迷信に怯えながらも先に進む。途中、古びた魔導器(ブラスティア)を見つけて安易に触れたエステルが倒れてしまったり、カロルという少年にも出会い、休憩を挟みつつも森を抜けられるというところまで来た時だった。道の先見ていたエステルがなにかに気づいて立ち止まり、振り向いたユーリに声をかける。

エステル「ユーリ、あれ!」

指さすエステルの視線は木に背を預け倒れている女の子に注がれている。

ユーリ「ん?どうした……って」

ユーリはエステルの視線に合わせるように見れば、倒れている子供に駆け寄った。どうやら気を失っているだけみたいで、顔色は悪くないとユーリは冷静に観察する。

カロル「こんなところに、女の子が倒れてる!?」

ユーリに追いついたカロルがなんで!?と驚いた顔で女の子を見た。

エステル「どうしたんでしょう?あっどこか怪我でも……!」

倒れている女の子の傍に膝をついて心配そうな顔で、治癒術をかけるために胸の前で手を握る。

ユーリ「落ち着けってエステル……気を失ってるだけみたいだ。特に外傷もなさそうだぜ」

ユーリは焦って治癒術をかけようとするエステルを宥めながら少女の状態を話す。このまま放っておこうにもエステルが連れていこうとするだろうと見越して、ユーリはそのまま少女を抱き上げた。

カロル「その子、どうするの?」

少女を抱き上げたユーリの隣に立ってカロルは聞く。

ユーリ「どうするって、連れていく」

さも当然のように彼は答えた。

エステル「ハルルに行くんですし、そこで医者に見ていただきましょう」

未だ心配そうな顔をして彼女は言った。

ユーリ「追わねぇと行けねぇが、見なかった振りをする訳にもいかないしな」

ユーリはチラリとエステルの顔を見る。

カロル「じゃあ、急ごう!」

カロルの案内で二人と気を失った女の子一人、犬一匹はハルルへと急いだ。

 

―花の街 ハルル

 

 カロルがあそこだよと指をさし先に行くのをユーリ達がついて行く。街の入口につくと、エステルが辺りを見渡した。

エステル「ここが花の街ハルルなんですよね?」

その質問にカロルはうん、そうだよと頷く。

ユーリ「この街、結界がないのか?」

空を見上げて気づいたユーリが囁く、それにエステルはそんなはずはと空を見上げると、結界が発動している気配がなかった。

カロル「2人とも、ハルルは初めて?」

そんな二人みて、もしかして……と聞くカロルに、ユーリとエステルは首を縦に振った。

カロル「そっか。だったらハルルの樹の結界魔導器(シルトブラスティア)も知らないんだ」

ユーリ「樹の結界?」

疑問を持つユーリにエステルは読んだ書物に記されていたことを思い出した。

エステル「魔導器(ブラスティア)の中には植物と融合し有機的特性を身につけることで進化をするものがある、です。その代表が、花の街ハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)だと本で読みました」

ユーリ「……博識だな。で、その自慢の結界はどうしちまったんだ?」

エステルに感心しながら樹の一部に近づいて触れると役に立ってないみたいだけどとユーリは続ける。

カロル「毎年、満開の季節が近付くと一時的に結界が弱くなるんだよ。ちょうど今の季節なんだけど、そこを魔物に襲われて……」

カロルの話の続きを察したユーリが結界魔導器(シルトブラスティア)がやられたのかと言葉を続けた。カロルはうんと頷くと、魔物はやっつけたけど樹が枯れ始めているんだと言った。用事があったんだと急にハッとしたカロルは去っていった。残されたユーリ達は、少女を見る。

ユーリ「さて、こいつを医者に見せないとな」

少女の顔色に変わりがないのを確認しながら、カロルに事前に教えて貰っていた医者の家へ向かう。そうですねとエステルが頷きかけた時、ユーリの腕の中にいた女の子が身動ぎをした。そして、瞼を開きボルドー色に金が混じった瞳がユーリとエステルをうつしだす。

エステル「あっ」

ユーリ「おっ、お目覚めだな」

女の子は目を何度かぱちぱちとさせてユーリ達を見る。そしてまだ朧気な眼でキョロキョロと辺りを見た。

?「……ここは、どこ?」

  (見慣れない景色……?)

エステル「花の街ハルルですよ」

少女の掠れた声にエステルは答える。

?「花の街……ハルル?」

ユーリに支えてもらないながら立った少女は周りを見渡して不思議そうな顔をした。

?(……花の街ハルル?どこかで聞いたことある名前。なんだったかな。確かゲームで……。あっ、もしかしてここtovの世界??……じゃあ黒髪長髪の彼はユーリで薄桃色の彼女はエステル……かな。目覚めたらここってどういうこと??私、どうしてここに……)

二言発すると黙りこくって考えはじめた少女は次第に戸惑いの表情を浮かべユーリとエステルを見上げた。そんな彼女に、エステルが視線を合わせるようにしゃがんで大丈夫です?と聞く。

?「……だ、大丈夫。えっと」

  (名前知ってるけど言ったら怪しまれるよね……)

エステル「初めまして、私はエステリーゼです。エステルって呼んでください」

エステルはしゃがんだままニコリと笑った。ピンクの髪が風に揺れる。

?「初めまして、レナです」

 (……実際見るとかわいらしい人だな)

戸惑いながらも少女は自身の名を伝える。

エステル「彼はユーリです」

エステルは立ち上がると、ユーリを手で示して教えた。

ユーリ「よろしくな」

レナ「よろしく……」

ニカッと笑ったユーリに、レナもニコリと笑って見せた。

ユーリ「んで、なんでお前あんな所で倒れてたんだ?」

レナ「?……あんな所って?」

   (あんな所?ハルルって言ってたから、その前だとクオイの森……かな?)

少女はあんな所という言葉に首を傾げてユーリを見る。

ユーリ「森だよ。おまえ、森の中で倒れてたんだぜ」

レナ「……そう、なんだ」

エステル「何があったのか覚えてます?」

エステルの問いに、少女は思い出そうとしたが。何も出てこなかった。不安そうな顔で思い出せないとレナは横に頭を振る。

レナ(どうして私クオイの森で倒れてたんだろう?そもそもどうやってこの世界に??だめ、前にいた世界のことは覚えてるのにどうやってここに来たのかだけは思い出せない……)

ずっと考え込んでいるレナにユーリは思い出せない?と首を傾げた。

レナ「あっ、その、森で気を失う前の記憶が全く思い出せなくて、分かるのは自分の名前と年齢だけ……」

ユーリの声で考えるのを一旦止めて今わかることを伝える。

レナ(なんで子供の体に若返ってるんだろう?それに名前と年齢はハッキリと頭に浮かぶのに、ここでのことを思い出そうとするとモヤがかかるように思い出せない。元いた世界でこのゲームをしてた時の記憶はある程度覚えてるみたいだけど……)

ユーリ「それって、記憶喪失ってやつか?」

眉の間に皺を寄せて考え込むレナにユーリは優しく声をかける。

レナ「……記憶、喪失……」

少女的にはどこか腑に落ちないけれど、ユーリたちからみれば的確だ。そういえばとエステルが話し出す。

エステル「レナはその、幼いように感じますけど、大人しくてしっかりしていますよね。いくつなんです?」

レナ「……10歳だよ」

十歳と聞いてエステルは思わず、えっ、と声を出して驚く。

ユーリ「十歳か。親は……っと、わからねぇんだったな……。そういえば、エステル、フレンは探さなくていいのか?」

ユーリが隣にいたエステルに声をかけるが、既にそこにはおらず、村人の方にいて怪我を治しに行っていた。

ユーリ「急に、自由だな……」

ユーリは呆気にとられた表情で呟く。あっ今のうちに言っとかないと、と思い少女は口を開く。

レナ「……ねぇ、ユーリ。私、ユーリに着いて行ってもいい……かな?その、色々見て回ったら何か思い出すかもしれないから」

レナ(この世界で単独行動はさすが魔物とか色々不安。森からハルルってことはストーリー的にまだ序盤あたりっぽいし……、ユーリといた方がストーリーの動向も追えて状況を把握しやすいし、なぜ私がここにいるのかを知らないといけない気がする)

ユーリ「ん?あぁ、構わねぇよ。ただしちゃんと言うこと聞けよ」

服の袖を引っ張られ何だとレナを見れば、着いていきたいと言われたユーリは、拾っちまったもんは仕方ないかと承諾した。

レナ「それはもちろん」

少女はユーリの顔を見てこくりと大きく頷いた。

 

 村人と話しているエステルの所へユーリと歩いていく。途中から話を聞いたユーリが村人に聞いた。

ユーリ「その騎士様って、フレンって名前じゃなかった?」

それに村人の女性がえぇ、フレン・シーフォと答えた。

エステル「フレンはまだこの街にいますか?」

別の村人がいえ、結界を治す魔導士を探すと言って旅立たれましたと続けた。

ユーリ「行先までは分からないか」

村人「東の方へ向かったようですが、それ以上のことは……」と申し訳なさそうに話した。

レナ「ねぇユーリ、そのフレンって人を探してるの?」

ユーリにだけ聞こえるようにボソッと聞く。

ユーリ「あぁ、エステルが……な。俺はちょっとものを取り返しにな」

レナ「そうなんだね」

  (その物って多分、水道魔導器(アクエブラスティア)魔核(コア)……だよね?)

エステル「ではここで待っていたらフレンに会えるんですね」

ユーリ「良かったな、追いついて」

エステル「はい……会うまでは安心できませんけど良かったです」

エステルは嬉しそうに頷く。

ユーリ「ハルルの樹でも見に行こうぜ。エステルも見たいだろう?もちろんレナも一緒にな」

レナはこくりと頷き、エステルはあ、はい!と返事する。

エステル「ユーリはいいんです?魔核(コア)ドロボウを追わなくても」

ユーリ「樹見てる時間くらいはあるって」

 

 3人はハルルの樹を見に行く、橋のところでカロルが座り込んでいた。エステルがカロルに声をかける。しかしカロルは気づいていないようだ。もう一度エステルはカロルに声をかけていたが気づかずユーリが1人にしといてやろうぜといって別ルートから3人はハルルの樹を見に行った。

ユーリ「近くで見るとほんと、でっけ〜」

レナ「本当……大きい」

エステル「もうすぐ花が咲く季節なんですよね」

ユーリ「どうせなら花が咲いてる所を見たかったなぁ」

レナ「確かに、どんな形の花を咲かせるのかな」

エステル「そうですね。満開の花が咲いて街を守ってるなんて素敵です。私、フレンが戻るまでケガ人の治療を続けます」

ユーリ「なぁ、どうせ治すんなら結界の方にしないか?」

エステル「え?」

ユーリ「魔物が来ればまたケガ人が出るんだ」

エステル「それはそうですけど、どうやって結界を?」

レナ「これ、私達で治せるの?」

   (エステルの力で後に治るけども……)

ユーリ「こんなでかい樹だ。魔物に襲われた程度で枯れたりはしないだろ」

エステル「何か他に理由があるってことですか?」

ユーリ「俺はそう思うけどな」

レナ「……何が原因なんだろう?」

村人がこちらに歩いてきて、何をなされているのですか?と聞かれた。

エステル「樹が枯れた原因を調べているんです」

村人「難しいと思いますよ。フレン様にも原因までは分からなかったようですから」

とっ言った所で、カロルが目の前を通り過ぎる。

気づいたエステルはカロルに声をかけた。カロルは今度はこちらに気づいたようでなにやってるの?と問いかけてきた。レナが樹が枯れ始めている原因を調べてるのと答える。それにカロルがなんだそのことと零す。エステルは、なんだじゃないですと悲しそうに言った。

カロル「……理由なら知ってるよ。そのためにボクは森でエッグベアを……」

ユーリ「ん?どういうことだ?」

土を指さしてカロルは続けた。

カロル「土をよく見て変色してるでしょ。それ、街を襲った魔物の血を土が吸っちゃってるんだ。その血が毒になってハルルの樹を枯らしてるの」

村人がなんと!と驚きの声を出し、そしてなるほどと得心した。

エステル「カロルは物知りなんですね」

エステルは感心するようにカロルを褒める。少し落ち込んだままカロルは、ボクにかかればどうって事ないよと言った。

レナ「ねぇ、その毒をどうにか出来る代物ってないの?」

カロル「あるよ、あるけど……誰も信じてくれないよ」

俯いてしまうカロルにユーリは目線を合わせてしゃがむ。

ユーリ「なんだよ、言ってみなって」

優しさが含まれた声でカロルに促す。

カロル「パナシーアボトルがあれば治せると思うんだ」

ユーリは立ち上がると、万屋にあればいいけどと言った。

エステル「行きましょう、ユーリ!レナ!」

2人は頷くと、ユーリ達は万屋に向かった。

 

―万屋

 

 店に入ると店主が元気よく迎えてくれた。

ユーリ「パナシーアボトルはあるか?」

店主は首を振り、生憎と今は切らしていると続けた。それにエステルはそんなと俯く。それを見た店主が素材さえあれば合成できると言う。

レナ「何があれば作れるの?」

店主「可愛いお嬢ちゃんだね。そうだな、『エッグベアの爪』と『ニアの実』、『ルルリエの花びら』の3つだよ」

レナ「ありがとう」

  (可愛い?そういえば、私どんな姿してるんだろう……鏡で確認なんてしてないし、まぁそのうちわかるか)

レナはニコリと笑ってお礼を言った。店主はあいよと言って、続けてパナシーアボトルなんて何に使うんだ?と聞いてきた。この間も同じようなことを聞いた子供がいたらしい。エステルがハルルの樹を治すんですと顔を上げて言った。それに店主が驚いて、パナシーアボトルを樹に使うなんて聞いたことがないよと言った。それに、ユーリは合点したと言わん顔でなるほどと囁く。

エステル「あの、『ニアの実』ってどういうものです?」

ユーリ「エステルが森で美味しい美味しいって食ってたあの苦い果実だ」

レナ「なら、エッグベアは?」

店主は魔物は専門外だからと謝られた。魔狩りの剣なら知っているらしい。

ユーリ「あいつ、そのために森にいたのか……」

エステル「ルルリエの花びらというのは?」

店主は言うにはハルルの樹の花びらのことらしい。本来なら別のものを使うらしいがここには無いので代わりに使うらしい。

エステル「でも、花は枯れちゃってるし……」

と肩を落としてしまった。店主は花びらは長が持っているから聞いてみてよと続けた。

ユーリ「わかった。素材が集まったらまた来るよ」

3人は万屋を後にすると、カロルを誘った。カロルはクオイの森に行くと聞いてびっくりする。

ユーリ「森で言ってたろ?エッグベアかくご〜って」

カロル「パナシーアボトルで治るって信じてくれるの……?」

不安そうに少年は言う。ユーリはカロルに向き直り、嘘ついてんのか?と聞いた。それにカロルは首振って否定する。

ユーリ「だったら、オレはお前の言葉に賭けるよ」

その言葉にはにかむ少年。

カロル「ユーリ……も、もう、しょうがないな〜。ボクも忙しいんだけどね〜」

聞いていたエステルが手をグッと握り、決まりですね!と意気込んだ。

レナ「みんなで結界を治そうね」

(私、魔導器(ブラスティア)持ってないし、いざ戦闘になったらどうしよう……戦えないなりに何か出来ないかな。足手まといだけにはなりたくない)

カロル「エステルもその子も来るの?」

エステル「当たり前じゃないですか」

レナ「そっかまだ名乗ってなかったよね、私はレナ。その記憶がなくて思い出すためにユーリと行動してるから……行くよ」

ついて行くと口にしたレナにユーリは僅かに硬い顔をした。なにせレナは子供だ。魔物と戦う(すべ)もないということをユーリは知っている。

ユーリ「レナ、外は危険だ。ここで待っていた方がいい。それにエステルはフレン待たなくていいのかよ」

レナ「っ私だけ……ここで待ってるなんて嫌。足でまといにはならないように頑張るから!」

ここで待っていた方がいい……その言葉に目を見開き、ついて行きたいと必死になるレナ。

ユーリ「言うこと聞くっていうのそうそうに破るんだな……。分かった」

呆れ口調で、仕方ないという顔で表情を和らげる。

エステル「治すなら樹を治せって言ったのはユーリですよ」

ユーリ「なら、フレンが戻る前に樹治して、びびらせてやろうぜ」

はいっと頷くエステルと共に一行はクオイの森へと向かった。

 

―クオイの森

 

 エッグベアを討伐する道中、カロルは不審に思っていたことを口にした。

カロル「ねぇ、疑問に思ってたんだけどふたり……ラピードもなんだけどなんで魔導器(ブラスティア)持ってるの?普通、武醒魔導器(ボーディブラスティア)なんて貴重品持ってないはずなんだけどな」

ユーリがカロルも持ってんじゃんと言う。

レナ(なんで持っているのか……ね。ゲームの知識である程度分かるけど、ユーリが騎士だったっていうのは最初プレイした時意外に思ったなぁ)

カロル「ボクはギルドに所属してるし、手に入れる機会はあるんだよ。魔導器 (ブラスティア)発掘が専門のギルド、遺構の門(ルーインズゲード)のおかげで出物も増えたしね」

ユーリ「へぇ、遺跡から魔導器 (ブラスティア)を掘り出してるギルドまであんのか」

感心したようにユーリはカロル見た。

カロル「うん、そうでもしなきゃ帝国が牛耳る魔導器(ブラスティア)を個人で手に入れるなんて無理だよ」

それを聞いたエステルが説明する。

エステル「古代文明の遺産、魔導器(ブラスティア)は、有用性と共に危険性を持つため、帝国で使用を管理している、です。魔導器(ブラスティア)があれば危険な魔術を、誰でも使えるようになりますから無理もない事だと思います」

ユーリ「やりすぎて独占になってるけどな」

エステル「そ、それは……」と困ったように言葉を詰まらせた。

カロル「で、実際のとこどうなの?なんで、もってんの?」

興味津々な顔でユーリに聞いている。

ユーリ「オレ、昔騎士団に居たから、やめた餞別に貰ったの。ラピードのは、前のご主人様の形見だ」

カロル「餞別って、それって盗品なんじゃ。……えぇと、じゃあエステルは?」

エステル「あっ、わたしは……」

エステルの困ったような反応にユーリが代わりに答える。

ユーリ「貴族のお嬢様なんだから魔導器(ブラスティア)くらい持ってるって」

カロル「あ、やっぱり貴族なんだ。ユーリと違って、エステルには品があるもんね」

レナ「ユーリと違ってって……」

本当の事だとは思うけど、失礼では?なんて思いながらレナは呟いた。

ユーリ「バカ言ってねぇで、さっきんとこにニアの実、取りに行くぞ」

レナ(カロルって素直すぎてたまに余計なこと言うよね。まぁそういう所がカロルらしいというか)

その言葉に各々足を動かした。

 

 

 4人と1匹はニアの実を確保した。

カロル「あとは、エッグベアの爪、だね。ニアの実1つ頂戴、エッグベアを誘い出すのに使うから。エッグベアはね、かなり変わった嗅覚の持ち主なんだ」

ユーリからニアの実をひとつ貰うとカロルは実に細工をした。瞬間、とてつもない異臭がたちのぼる。

ユーリ「くさっ!!おまえ、くさっ!」

あまりの匂いに、ユーリ、エステル、レナは鼻をおさえる。

カロル「ちょ、ボクが臭いみたいに!」

エステル「先に言っておいてください」

と少し責めるような目でカロルを見ていた。その後ろでラピードが倒れる。

エステル「あ、ラピード、しっかりして」

レナ「ちょっとラピードが可哀想。それにしても臭すぎ……」

カロル「みんな警戒してね!いつ飛び出してきてもいいように。それにエッグベアは凶暴なことでも有名だから」

ユーリ「その凶暴な魔物の相手はカロル先生がやってくれるわけ?」

カロル「やだな、当然でしょ。でも、ユーリも手伝ってよね」

これには焦りなのか震えが少し混じっていた。エッグベアを誘い出し見つけるために歩き出す。

カロル「き、気をつけて。ほ、本当に凶暴だから……!」

怯えているようだ。

ユーリ「そう言ってる張本人が、真っ先に隠れるなんていいご身分だな」

カロル「エ、エースの見せ場は最後なの!」

唸るようにユーリに言った。

レナ「……私は、離れたところで待機してた方がいい……よね?」

ユーリ「そうだな、そうしてくれ。レナは魔導器(ブラスティア)も持ってないからな、今まで通り戦闘の時は下がってな」

レナ「わかった」

と答えたところで、巨体を持つ魔物が茂みから飛び出た。カロルがビックリして悲鳴をあげる。

エステル「こ、これがエッグベア……!」

ユーリ「なるほど、カロル先生の鼻曲がり大作戦は成功って訳か」

カロル「へ、変な名前、勝手に付けないでよ!」

ユーリ「そういうセリフは、しゃきっと立って言うもんだ。んじゃレナ、後ろに下がってな!」

各々、武器を手に取り構える。

指示されたレナはこくりと頷いて、後ろに走って木の影に潜む。

 エッグベアはその大きな爪を使ってユーリ達に攻撃を仕掛けるが、ユーリ達はかわして攻撃を入れていく。

レナ(戦いって生で見るの初めてだけど、凄い。ユーリの動き素早くて目で追いかけるのが精一杯。みんなそれぞれ役割がきちんとわかってるって感じ。怖いとも思うけど、いつか私もあんな風に戦うことが出来たら……みんなの役に立てるかな)

少女は木の影に隠れつつも彼らの戦いに目を奪われていた。エッグベアは大きな爪をユーリに向かってまた振り上げた。不利な体勢になっていたユーリは受け止めきれず、刹那バランスを崩してしまった。その隙を、相手は逃さない。

エステル「!ユーリ!!」

気づいたエステルがユーリを呼びかける。ラピードが剣を咥え直し、エッグベアに向かってユーリから気をそらそうとしているが、しかし距離があって間に合わない。見ていた少女は木の影か体が乗り出しそうなり、彼の名を呼びそうになる。

レナ(ユーリっ!私は……やっぱり、目の前で人が傷つくのを見ているだけなんて耐えられない!確かに戦いは怖いと思う。でもっ!それ以上に助けたいと思うから!)

レナはグッと手を握り、震える足を拳でぶっ叩き、木の影から勢い良く飛び出した。考えている暇なんて無い、ぶっつけ本番。ゲームの知識で覚えている魔術を一か八かで唱える。

レナ「っ、揺らめく焔、猛追!」

レナ(確か、リタはこう言ってたはず!)

詠唱するレナの声に大気中に存在するエアルとは別の何か……内側から溢れるエネルギーが反応した。レナの足元に赤色の魔法陣が敷かれ光の粒が舞う。

レナ(っえ?これ魔術を発動できてる?だったらこのまま!)

少女は数秒ほど戸惑いの表情を浮かべたがすぐに真剣な顔付きになる。エネルギーが体の中心から手へと集まるのを感じる。力は熱へと変換され構築されていく。術式が完成された時。

レナ「ファイアーボール!!」

レナは力強く魔術名を叫んだ。魔術によって出来た火の玉が二つ彼女のそばを舞うとエッグベアへと飛んでいき、その内の一つが直撃した。どうにか間に合ったようでエッグベアはユーリに攻撃する前に体勢を崩す。

ユーリ「なっ、魔導器(ブラスティア)なしで……。いや助かった」

助けられた彼はその情景に一瞬目を瞠る。

レナ(何かわからないけど、魔術使えた?ユーリは!?良かった怪我してない……。っ!?な……に……??体が痛いっ、まるで全身にトゲが刺さるような……!)

少女は無我夢中で魔術を放ち、ハッとしてユーリの無事を確認した瞬間。突如体の痛みに襲われ、レナは急なことに耐えきれずへたへたとその場に座り込んでしまった。火の粉を振り払い体勢を直したエッグベアの標的は攻撃の邪魔をしたレナだ。それに少女も気づく。

レナ(うそっ!どしよう……!動けないっ)

今まで感じたことの無い痛みに耐えることと襲いかかる巨体に対する恐怖で精一杯の彼女は動けず、既に攻撃をかわそうにもかわせない間合いに入っていた。

レナ(……もうダメかも。迷惑……掛けたくなかったのに結局いつも私は肝心なところで)

襲いかかる痛みに耐えるようにレナはギュッと目を瞑った。エステルが息を飲む。カロルが彼女の名を呼ぶ。

ユーリ「レナ!!チッ、蒼破ァ!!」

レナが動かない……否動けないということに気づいたユーリが今までよりも1番素早い速度で蒼い斬撃を放つ。それはエッグベアに向かい、レナに襲いかかる爪が彼女の頭上数センチ上まで来ていた所でその身を切り裂いた。

それがトドメになり、エッグベアはその巨体を地面に叩きつけた。

ユーリ「っレナ!大丈夫か、おいしっかりしろ!」

体の痛みに動けず、恐怖で目を瞑っているレナにユーリは急いで駆け寄る。

レナ(助かった……の?……あれ、痛みも落ち着いてきたっぽい……?)

少女はゆるゆると目を開き、未だ震えている体を両腕で包み込むように抱える。心配そうな青年の顔が瞳いっぱいにうつった。

レナ「っユーリ……助けてくれてありがとう」

その声は、未だ恐怖に震え弱々しい。

ユーリ「まったく無茶しやがって、けど助かった。ありがとな」

ユーリの顔は心配そうな表情から、優しい微笑みに変わる。

レナ「うん……ごめんなさい、ユーリが危ないと思ったらじっとしてられなくて気づいたら体が動いちゃってて、でも結局助けられちゃった……」

エステル「怪我はしてないですか?どこか痛むところは?」

レナ「ないよ。大丈夫、ありがとうエステル」

少女の震えていた体は次第におさまる。

エステル「私、レナが飛び出した時肝が冷えました。もうあんな無茶はしないでくださいっ」

少し泣きそうな声と心配そうな顔で叱るそれは、どことなく母親のような姉のような温かさがある。

レナ「ごめんなさい、もうしない」

カロル「ほんと、どうなるかと思ったけど、何とか倒せたね」安堵するようにそう言った。

ユーリ(魔導器(ブラスティア)なしで術ってだせるもんなのか?レナが動けなくなったのって、魔導器(ブラスティア)なしで魔術を使ったから……か?)

レナを支えて立たせると少し考え込むようなユーリの様子に、カロルが声をかけた。

カロル「ユーリ?どうしたの?」

    (もしかして……レナのことかな)

ユーリ「いや、なんでもない。レナももう大丈夫そうだしな。んじゃ、カロル、爪とってくれ。オレわかんないし」

レナの顔色が大丈夫そうなのを確認すると、カロルをみてエッグベアを指差す。

カロル「え!?だ、誰でもできるよ。すぐはがれるから」

どうやらカロルはまだ怖いらしい。

ユーリ「たくしかたねぇな」

ユーリ達はエッグベアの爪を手に入れた。

カロル「も、もう動かないよね」

各々が与えたダメージ、レナのファイヤーボール、次いでトドメのユーリの蒼波刃までも受けたエッグベアがもう動くことはないと頭では分かっていても、もしかしたら動くかとしれないとカロルは不安らしい。

レナ「えーとっ、あれだけのダメージをおっているんだしもう動かないと思うよ?」

レナ(ん?あれ?ユーリ、なんか悪そうな笑いしてる)

少女がユーリの方をちらりと見ると、悪巧みをしていた。

ユーリ「うわぁぁあ!!」

ユーリが突然大声を出し、それに驚いたカロルがぎゃぁと悲鳴を出した。すごく震えている。なんだか可哀想だ。

エステルも肩を揺らし声は出さなかったがやビックリしているようだった。ユーリの悪そうな笑顔に気付いていたレナはわかっていても大声にビックリして心臓がばくばくいっている。

ユーリ「驚いたフリが上手いなぁ、カロル先生は」

からかい口調で楽しそうに言っている。

カロル「あ、うっ……はっはは……そ、そう?あ、ははは……」

カタカタと心配になるほど震えた体と弱々しい声で答えている。何度か深呼吸し、落ち着きを取り戻したカロルは残りの材料を確認する。

カロル「これで、ルルリエの花びらがあればいいんだよね?」

エステルは頷く。

エステル「ハルルの長のところへ行きましょう」

一同はハルルへ帰るために森を歩き始めた。

 

?「ユーリ・ローウェル!森に入ったのは分かっている!素直にお縄につけぇ!」

遠くから聞こえてきたそれにユーリはウンザリそうな顔をした。

ユーリ「この声、冗談だろ。ルブランのやつ結界の外まで追ってきやがったのか」

レナ「……ユーリ、追われてる身だったの?」

カロル「え?なに?誰かの追われてんの?」

ユーリ「ん、まぁ、騎士団にちょっと」

カロル「またまた、元騎士が騎士団になんて……」

レナ「なにか悪いことでもしたの?」

(おそらく脱獄とエステルの事なんだろうけど……)

ユーリは沈黙している。恐る恐ると言った感じでカロルは聞く。

カロル「……ねぇ、何したの?器物破損?詐欺?密輸?ドロボウ?人殺し?火付け?」

ユーリ「脱獄だけだと思うんだけど……ま、とにかく逃げるぞ」

そう言って先に進むユーリにエステルとレナは着いていく。

カロル「わ〜、まってよ〜」

置いていかれそうになったカロルが駆ける。

 

―花の街ハルル

 

 ハルルに戻った一行は、早速長と思わしき人にルルリエの花びらを持っていないか聞いていた。長はもっているがなぜ?と聞いてきたので、パナシーアボトルを使って樹を治すということを説明した。事情を納得した長からルルリエの花びらを手に入れた。長にお礼を言い万屋へと向かう。

 万屋に着くと店主に材料を渡し、しばらく待つとパナシーアボトルが出来た。カロルは嬉しそうにしている。

カロル「これで毒を浄化できるはず!早速行こうよ!」

待ちきれないと表情と雰囲気が物語っている。

ユーリ「そんな慌てんなってひとつしかねぇんだから、落としたら大変だぞ」

ユーリは今にも走り出しそうなカロルを諌める。

カロル「う、うん。なら、慎重に急ごう!」

 ハルルの樹に着くと、村人が集まっていた。ユーリが預かっていたパナシーアボトルをカロルに渡す。カロルは、ハルルの樹の近くの土にパナシーアボトルをまいた。

エステル「カロル、誰かにハルルの花を見せたかったんですよね?」

ユーリ「たぶんな。ま、手遅れでなきゃいいけど」

レナ(……でも、パナシーアボトル1本だけじゃ、足りないんだよね)グッと服の裾を掴む。

 樹が淡く光り始める。近くの村人が祈っているのが聞こえた。レナは結末を知っているだけにその声に少し胸が痛む。淡く光っていた樹は直ぐにその輝きを失ってしまう。村人、長はガックリと肩を落としてしまった。

カロル「うそ、量が足りなかったの?それともこの方法じゃ……」

少年はその光景に悲しいような悔しいような声をだした。

エステル「もう1度、パナシーアボトルを!」

彼女は諦めきれないと声を上げる。村人がそれは無理ですと答える。もう花びらが残っていないからと。エステルはそれを聞いて、樹に近づいた。

エステル「そんな、そんなのって……」

レナ(エステルの力がどうにかするってわかってる。でも、ただ見ているだけなんて……。結末を知っているからこそ、せめて私もこの樹に、村人達の思いに、力を貸したい……!)

エステルは胸の前で祈るように手を握り、そして目を閉じる。レナも同じ様に祈るが、背の低さと殆どがエステルに注目していることもあって誰もそれに気づくことは無い。

レナ/エステル(……お願い)

レナの想いとエステルの想いが重なる。エステルの体の周りに光の粒が漂い始める。レナの力もエステルの力に混じり、エステルの近くを漂う光がより更に強くなる。ユーリはエステルと樹を交互に見みている。

エステル「咲いて」

祈るように紡がれだ言葉を皮切りに、光の柱が立ち上る。

樹に蕾がつき、待ちきれんばかりに花開いた。

根に近い枝にも葉がつき、魔核(コア)に刻まれた術式が展開され結界魔導器(シルトブラスティア)が発動した。

 ユーリは無言のまま目を見開いている。カロルはぽかんと口を開けて樹に見入っていた。レナとエステルはゆっくりと目を開く。眼前にあるのは淡いピンクの花をつけた大樹だった。ふわりと花の甘い香りが風に漂う。

レナ「……きれい」

(ゲームでも綺麗だなと思ったけど、本物はこんなにも綺麗なんて!花の香りが風に乗って街を包んでる。良かったちょっとでも力になれたかな……)

力が抜けるような感覚に一瞬身体がグラつくが、足に精一杯の力を込めて踏みとどまる。カロルはエステルに近づいて、すごい!と褒めていた。エステルは力を使った反動でその場に座り込み少し息が上がっている。村人から感謝を告げられるが、当の本人は何をしたのか分かっていないらしい。しばらくその状況についていけなかったユーリだったが周りの村人たちの声に思考がはっきりとして、エステルの方に向かう。

ユーリ「……すげぇな、エステル。立てるか?」

驚きつつもエステルに微笑みながらユーリはエステルのそばに膝をつき、手を差し出す。その手を受け取り、エステルは立った。

ユーリ「フレンやつ、戻ってきたら、花が咲いてて、ビックリするだろうな。……ざまぁみろ」

エステル「ユーリとフレンって、不思議な関係ですよね。友達じゃないんです?」

ユーリ「ただの昔馴染みってだけだよ」

ユーリを見るエステルの目は、羨望に染まっていた。

人一人分ほど離れた所で見ていたレナはその様子に気づく。

レナ(エステルはお城の中にずっと居たから……ユーリとフレンの関係が羨ましいんだね)

ラピードがユーリのそばを離れる。ユーリがそれに気づく。エステルはラピードが動いた方向に視線を合わせた。

エステル「あの人たち、お城で会った……」

ユーリ「住民を巻き込むと面倒だ。見つかる前に一旦離れよう」

踵を返すユーリにカロルはきょとんとしレナは察する。

レナ(……フレンを狙う殺し屋が来たのか)

カロル「なになに?どうしたの急に!」

皆、足早にその場を後にした。

 

ユーリ「面倒な連中が出てきたな」

エステル「ここで待っていればフレンも戻ってくるのに」

カロル「そのフレンって誰?」

ユーリ「エステルが片思いしてる帝国の騎士様だ」

からかい口調でカロルに伝えたユーリに、エステルが誤解だと言わんばかりに彼の袖を引っ張った。

エステル「ち、違います!!」

ユーリ「あれ?違うのか?ああ、もうデキてるってことか」

レナ(……これはからかってるな多分)

エステル「もう、そんなんじゃありません」

少し怒ったようにそっぽを向いてしまった。

ユーリ「ま、なんにせよ。街から離れた方がいいな」

エステル「そうですね。街の皆さんに迷惑をかけたくありません」

二人の話を聞いていたカロルは提案する。

カロル「フレンって人の行き先がわかってるなら追いかけたら?」

レナ「確か、東に向かったって言ってたよね」

ユーリ「あぁ……アスピオってのがどこにあるか知らねぇけど、とりあえず、今は急いでここを出た方がいいみたいだな」

遠くからまってくだされと、長の声が聞こえた。

どうやら、花のお礼がしたいので家に招きたいとの事らしい。エステルはお礼なんてと謙遜したが長は少し強引気味にでは家で待ってますと去ってしまった。

ユーリ「このまま、無視していくわけにゃいかんだろ」

エステル「でも、私夢中で何したかもよく分からないのに」

ユーリ「まぁ、とりえず行っとこうぜ、断るなら断るでさ」

エステルは渋々頷き、ひとまず長の家に行くことにした。

 

 長の家に着くと、長が出迎えてくれた。

エステル「ありがとうございます。でも、私たちあまりゆっくりもできないので……」

それに長はまだ騎士様が戻られていないのにですか?と聞いた。ユーリは事情が変わった、まぁ急ぎの用事みたいなもんだと説明する。長は協力すると言ってくれたが、エステルはお気持ちだけでいいと断った。長はではこれをとユーリになにか渡そうとしたかそれも受け取れないとエステルが断る。カロルがじゃあと言っていたがやっぱり要らないと断った。しかしそれではおさまりがつかないと長が言えば、ユーリはじゃあ今度花見の特等席を用意してくれと言った。それにエステルはいいですね、とても楽しみですと乗った。長はそれで納得してくれたようだ。話が一段落したところで、少女は長に聞く。

レナ「あの、アスピオって街に聞き覚えないですか?」

長「……アスピオ?ああ、日陰の街が確かそんな名だったような」

ユーリ「その街はどこにあるんだ?」

長「東の方角だったかと。詳しい位置まではなんとも……」

エステルがこれまでの会話を振り返って気づく。

エステル「フレンが向かったのも東でしたよね?」

ユーリはエステルの発言に頷く。

ユーリ「学術都市ってくらいだから、魔導器(ブラスティア)と関係あんのかもな」

レナ「長さん、ありがとうございます」

レナのお礼に合わせてエステルが頭を下げ、長も会釈をした。ユーリは、まってろよモルディオのやろうと呟いた。

 

 再び街の入口に戻るとエステルが立ち止まる。

エステル「不謹慎かもしれませんけど、私旅を続けられてすこしだけうれしいです。こんなに自由なこと今までになかったから」

レナ(そうだよね……ずっとお城に軟禁状態だったわけだし、確かにお偉いさんや騎士団、ユーリの事情とか考えると不謹慎かもしれないけどエステルが楽しそうで何だか私も嬉しい)

まだそれほど長い時間居た訳でもないが、レナにとってこの3人と1匹で行動することに居心地が良くなっていた。

そんなエステルに少し微笑みをかけるユーリ。

ユーリ「大袈裟だな。で、カロルはどうすんだ?」

カロル「港の街を出て、トルビキア大陸に渡りたいんだけど……」

と、どこか歯切れの悪い感じだった。それを聞いたユーリはじゃあ、サヨナラかと返す。

カロルはえ!?と驚く。ユーリはあっさりとお礼を言って楽しかったぜと言った。エステルも、お気をつけてとカロルに会釈をした。レナもエステルと同様に気をつけてねと。

カロル「あ、いや、もうちょっと一緒について行こうかなぁ」

と慌てたように言った。それにユーリは笑い混じりになんで?と返す。

カロル「やっぱ心細いでしょ?ボクがいないとさ。ほらレナのためにも同年代の子がいた方がいいでしょ?」

レナ「私のため?……まぁどちらでもいいけど」

(同年代と言われると違和感があるなぁ。身体年齢的には間違いないんだけど……)

少女は首を傾げ、それから少しの間を置いてそう返した。素っ気ない態度のレナにユーリは苦笑いする。

ユーリ「ま、カロル先生、意外と頼りになるもんな」

エステル「では、みんなで行きましょう」

という訳で、4人と1匹で旅は続くらしい。

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