目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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二度目の罪

―マンタイク 宿屋

 

 ユーリ達が宿屋に行くと、店主がよくぞ無事で……!と言って安堵した表情をしていた。しかし、そばに騎士がいることを思い出して直ぐにお帰りなさいませと言い直した。その様子を見たカロルがユーリにまだ監視されてるんだねとボソッと言った。そのまま、部屋に通してもらい騒ぎが落ち着くまでユーリ達は身を隠した。各々、部屋でやれる事をやっていくうちに外から虫の鳴き声が聞こえ始め夜の訪れを知らせていた。

リタ「あのキュモールっての、ホントにどうしようもないヤツね」

作業していた手を止めて休憩していたリタが口を開いた。

パティ「どうして、世の中、こんなにどうしようもないヤツが多いのじゃ」

首を傾げて言ったパティに、ジュディスがあれはたぶん病気なのよと返した。

パティ「それはきっと絶対、バカっていう病気なんじゃな」

リタ「わかってるわね、あんた。きっとそうだわ」

パティの言葉にリタはうんうんと頷きながら共感する。

レイヴン「あいつら、フェローを捕まえてどうすんのかね」

エステル「わかりません……ですけど、このままだと、大人はみんな残らず砂漠行きです」

深刻そうな顔をしてエステルは言った。

レナ「大人がいなくなったら、今度は子供が砂漠に放り出されるんじゃ……?」

エステル「っそんなの絶対にだめです!わたしが皇族の者として話をしたら……!」

少女の呟きに、エステルは弾かれるように声を上げた。

ジュディス「ヘリオードでのこと忘れたのかしら?」

カロル「そうだよ。あいつ、お姫様でもお構いなしだったんだよ」

二人の言葉にエステルは俯いて考え込んでしまう。

レイヴン「あれはお嬢ちゃんの言葉に耳を貸すような聞き分けのいいお利口ちゃんじゃないもんね」

口角を下げておっさんは言う。

パティ「ノードポリカへ行く話はどうなったのじゃ……?」

リタ「とりあえず、自分のことか人のことか、どっちかにしたら?」

リタはエステルに優しく諭す。エステルはリタ……と呟いた。

ジュディス「知りたいんでしょ?始祖の隷長(エンテレケイア)の思惑を、だったら、キュモールのことは今は考えないようにしてはどう?」

リタと同じようにジュディスは言う。リタがジュディスを見てあんたと意見が合うとわね、と意外そうにした。

リタ「あたしもベリウスに会うのを優先した方が良いと思う。キュモールを捕まえてもあたしらには裁く権利もない。どうしようもないなら出来ることからするべきだわ」

二人の話を聴きながら考えていたエステルは、フレンならと呟く。

レナ「そのフレンは、今、どこにいるかわかるの?」

少女の問いにエステルは答えられなかった。

パティ「二つのことをいっぺんにしようたってできないのじゃ」

パティの言うことも聞いて、また落ち込むように考え込むエステル。

リタ「ごめん、エステル……みんな、責めてるわけじゃない。あたしだってムカつくわ。今頃、詰め所のベッドであいつが大いびきかいてるのを想像したら。でも……」

続けようとするリタに、わかってますとやりきれない気持ちを飲み込んでエステルは頷く。

ジュディス「例え捕まっても、釈放されたらまた同じことを繰り返すわね。ああいう人は」

ジュディスの言葉にうんうんと大袈裟にレイヴンが首を縦に振る。

レイヴン「だろうなぁ。バカは死ななきゃ、治らないって言うしねぇ」

ユーリがレイヴンの言葉を聞いて、死ななきゃ治らない……かと呟くのをレナは聞き取った。その後、もう寝るのじゃというパティに続きそれぞれ就寝した。青年と少女以外は。

 みんなが寝静まった頃、壁によりかかって座っていたユーリが立ち上がる。その音を聞いてレナは薄目を開けた。俺は俺のやり方で……か、とユーリが右手を見つめながら呟くと、そのまま宿屋を出ていく。それを見計らって少女は、音を立てないように慎重にベッドからおりてユーリの後を追うように外に出た。

 ちょうどユーリはキュモールを起こして脅しているところだろうか、なんて考えながら先回りしてヤシの木の影に少女は隠れる。キュモールが恐怖に染った顔をして流砂に巻き込まれないように立てられている柵ギリギリまで逃げてきた。その後から、まるで恐怖を駆り立てるようにユーリが歩いてきた。殺されたくない一心でキュモールは言い訳を並べて身の潔白を証明しようとする。しかしユーリは一蹴した。キュモールはいよいよやばいと悟ったのか体をガタガタ震わせ後退りながら、ユーリにとってはいい条件を並べて交渉する。ユーリはゆっくりとキュモールに歩いて近づく。キュモールはやめろ近づくな!と声を上げるが、人気のないこの場所では影で見ている少女にしか声は届かない。キュモールはさらに後ずさり足場がなくなってそのまま流砂に落ちた。流砂は容赦なくキュモールの体を徐々に飲み込んでいく。キュモールは必死にユーリに助けを求めた。迫り来る死への恐怖、情けない声でキュモールはユーリに手を伸ばす。

ユーリ「おまえはその言葉を、今まで何度聞いてきた?」

ユーリに言葉に、キュモールはハッとして絶望の表情を浮かべた。そのままキュモールは完全に流砂に飲み込まれた。

レナ(なんとも、思わなかったな……。案外私って冷たい人間なのかも)

少女はキュモールの死に何も感じることは無い、しかしキュモールの悲鳴だけは何故か頭の中で響いてうるさく感じた。ザッザッと歩く音を聞いてレナは悲鳴の余韻からハッとする。

レナ(……フレン!?)

フレン「街の中は僕の部下が抑えた。もう誰も苦しめない」

彼は静かにそうユーリに告げた。

ユーリ「そうか、これでまた出世の足がかりになるな」

フレンは何も言わない。

ユーリ「オレ、あいつらのところに戻るから」

今のユーリの心情を少女には推し量ることなど出来ない。

フレン「ユーリ、後で話がしたい」

ユーリはわかってると静かに返して宿屋へ歩いていった。

レナ(……やべ、フレンが来ることなんて忘れてたから完全に帰るタイミング失った。私バカ過ぎるだろ……)

さてどうしようかと頭を悩ませた時、そこに誰かいるんだろうとフレンの声が響く。少女は露骨にギクリと体をよじった。

レナ(……バレてるんですけど。さすが未来の騎士団長様)

レナは小さくため息をつき、ヤシの木の影から体を出す。

フレン「!君は……」

まさか、こんな時間に子供が出歩いてるとは思わなかったのだろう、彼はレナを見て驚く。こんな時に思うことでは無いが、二人きりでちゃんと話すのはこれが初めてだなと少女は思った。ただ、よりによってこのタイミングになった事が気まずい。

レナ「……こんばんは」

戸惑いがちに少女は挨拶をする。

フレン「ユーリと行動してた子だね?」

確認をとるように聞く彼にレナは首を縦に振る。

フレン「こんな時間に、こんな所で、何をしていたんだい? 「さんぽ」」

もうどうにでもなれと食い気味に少女は即答した。

フレン「さ……さんぽ?」

彼はポカーンとしている。目を丸くしている彼の気持ちはわかる、普通に考えたら子供がこんな時間に散歩なんておかしいもんねとレナは思う。

レナ「そうよ。寝つきが悪くて一向に寝れなさそうだから、外の空気が吸いたくなったの」

聞き返された少女は開き直って堂々とした態度をとる。するとフレンは、っふ……くくくと抑え目に笑い始めた。少女は何かおかしかっただろうか?と首を傾げる。

レナ(……呆れられたか?)

フレン「ははっすまない……。見た目の割にかなりしっかりしたお嬢さんだと思ってね」

それのどこが笑う要素だったのだろうか……というかシリアスな雰囲気は完全にぶっ壊れてしまった。いや、まぁ、少女のさんぽという発言からもう壊れていたかもしれないが……。笑っていたフレンは息を吸って吐いてを繰り返して落ち着く。

フレン「君は、ユーリの事をどう思う?」

落ち着いたと思ったら真剣な顔で突然の質問に少女は声が出ないし、頭の中はえ?どう?どうって?と真っ白になった。質問した彼は、レナが喋るのをニコニコとじっと待っている。

レナ「えっと……、ユーリの事は、その優しい人だなって思うよ。相手の意志を否定はしないし、一度通した筋は曲げない、芯の強さのある人だと思う」

少し詰まりながらも少女は答える。

フレン「……そうか」

ふわりと彼は微笑む。

レナ「もう、いいかな?そろそろ帰らないと、仲間に何も言わないでここにいるからユーリに心配かけちゃう」

フレン「ああ……構わないよ。おやすみ」

レナ「……おやすみなさい」

少女は足早に宿屋に帰る。

レナ(どうにかなった……つかれた)

宿屋に着くと、入口前にユーリが立っていた。レナはあ、ユーリと呟く。

ユーリ「あ、ユーリじゃねぇよ。ったく、こんな夜中にどこいってんだ」

レナ「……さんぽ?」

ユーリ「さんぽ……って」

疑問形で言った少女に、ユーリは少し呆れる。

レナ「そういうユーリは、そんな所でなにしてんの?中、入らないの?」

ユーリ「あー、もうちょっと外の空気吸ってるから、先入ってろ」

レナ「ふぁ〜……はーい、おやすみ」

少女は欠伸をして雑に返すと、ユーリがおやすみと言うのを聞いてレナは覚束無い足でベッドに向かった。

 

―翌日

 

 明け方、まだまだ日が覗いてない中、外が騒がしくなる。どうやって布団に入ったかなんて忘れるほど眠かった少女はまだ眠い目を擦りながらもぞもぞと起き上がる。エステルがはしゃぎながらみんなを起していた。その後は夜までもうどんちゃん騒ぎで、仲間たちは外ではしゃぎまくっていた。そのうち帰ってきたレイヴンは受付の隅に寄りかかって休憩しており、その後でカロルたちが帰ってきた。

カロル「本当はこんなに賑やかな街だったんだね」

ジュディス「ええ。解放されてよかったわ、本当に」

エステル「まさかフレンが来てくれるなんて」

嬉しそうにする彼女に、ほんとうそみたい!とカロルは興奮して言った。

エステル「でも逃げたキュモールはまたどこかで悪事を働くかもしれません」

カロル「すぐにフレンが捕まえてくれるよ。ね、ユーリ」

ユーリ「……ん、まあ、そうだな」

彼はカロルの言葉に曖昧に返した。そんなユーリを変に思ったカロルがユーリに歩み寄よろうとした所で、レイヴンが床に崩れる。どうやら眠ってしまったみたいだ。

レナ(……タイミング、良すぎるのよ。ユーリを思っての狸寝入りかもしくは本当に寝たか……)

カロルがレイヴン風邪ひくよと起こそうとする。

ジュディス「子どもと一緒になって騒いで疲れたのね。いい歳して」

ジュディスはクスッと笑って微笑ましそうにした。ガチャりとドアの開く音が聞こえてリタが帰って来る。エステルがおかえりと迎え入れた。

リタ「もうバカ騒ぎ。まったくあきれるわ」

一緒に出ていったはずのパティが居ないことにジュディスが気づいてリタに聞くと、まだ踊っているらしい。まったく子どもってのは……とリタは呟く。

カロル「リタも楽しんでたでしょ?ダンス上手だね、リタ」

からかうように言ったカロルに、リタは顔を赤くしてうっさいと叫びながらチョップをかました。カロルはうっと頭を押えて蹲る。

リタ「って……あれ?おっさん寝たの……」

エステル「もうあっという間でした」

エステルはニコリと笑って言った。ふと立ち上がるユーリに、エステルは声をかける。

ユーリ「ちょっとフレンに挨拶に行ってくる」

そういって彼は宿屋から出ていった。そんなユーリをエステルは不思議そうな顔をして見ていた。

レナ(……ユーリは、フレンとエステルにあのことを話すんだろうな)

だんだんと頭が働かなくなってきた少女は欠伸をしながら、部屋のベッドへ歩き出す。

ジュディス「あら?レナ、もう寝るのかしら?」

レナ「……ジュディス、うん。昨日夜更かししたし今日は早起きだったしでもう眠くて……。ユーリには先に寝てるって言っといて……」

ワンテンポ遅れて、眠いまぶたを擦りながら少女は答える。ジュディスはええ、わかったわと返事した。

 夜中、少女は喉の乾きに目が覚めた。相変わらず、砂漠の夜は昼間とは真逆で肌寒い。部屋を見渡すとユーリ以外は眠っていた。ベッドから音を立てないよう気をつけながらに降りて、軽く髪を整え食堂、受付を通り過ぎて外へ出た。さぁーと吹く風に闇に溶けやすい髪が揺れる。そのまま少女は湖に向かった。

 湖に着くと、ユーリが砂浜に座っていた。三日月の薄い光が、闇色の髪を照らしてそれがなんだか寂しそうな感じで今だけは頼れる背中が小さく少女の目にうつった。砂のズレる音でユーリは後ろに振り向いた。

ユーリ「……レナ、だったのか。寝てたんじゃなかったのか?」

少女は青年の傍に腰を下ろした。

レナ「喉が渇いて、起きたの」

そう答えて少し前のめりになると湖の水を手で掬い口に運んで飲み込んだ。

ユーリ「食堂になかったのか……?」

レナ「もうこの時間だよ?片付けであるに決まってるでしょ」

ユーリ「それも、そうか」

視線は湖の水面で俯いたまま。

レナ「何か……あった?」

ユーリは何も言わない。

レナ「私はどんな貴方でも受け入れるよ」

少女は真っ直ぐにユーリを見つめる。

レナ「ごめんね……私、知ってるの。ユーリかラゴウを殺した事も、キュモールの事も」

明らかにユーリは動揺する。レナの方を向いて目を見開いていた。

ユーリ「……いつから」

レナ「最初から。ダングレストでラゴウの罪が軽くなった時、フレンのもとへ行ったでしょ。その後ユーリと別れて宿屋に帰るフリしてユーリをつけたの」

たんたんと少女はつげる。

ユーリ「オレのこと、怖くないのか」

レナ「怖くない。怖いわけないでしょ、だってあなたは森に倒れていた私を助けてくれた。記憶を思い出すために一緒に旅することを許してくれた」

優しくユーリの手に、自身の手を重ねる。

ユーリ「もしかしたら、いつかお前を殺すかもしれない」

レナ「それはきっと私が、いけないことをしちゃった時だと思うから」

レナは眉を下げてニコリと微笑む。

レナ(それに私はその先をわかっていて誰にも伝えず、知っているとおりに進む物語を何もせず傍観していた。ユーリ以上に私は許されざる者だよ)

ユーリ「……エステルと同じようなこと言うんだな」

レナ「!ふふっ、そうなんだ。確かにエステルもいいそうだ」

一瞬だけ肩がびくりと震えるがすぐに笑った。

 

 

―翌日

 

 朝、仲間たちは宿屋から出てノードポリカに向かうための準備を済ませていた。

レイヴン「久しぶりによく寝た〜ふわぁあっ……」

大きな欠伸をするおっさんに、あんた寝すぎとリタが呆れた。ユーリの傍でレナも欠伸をかみころす。

ユーリ「もう街出んだから。しゃんと目を覚ませよ」

パティ「おっさん、目がとろけてるのじゃ」

レイヴン「なにっ!?それは大変っ!?」

大袈裟なリアクションをとるおっさんに、リタはうざっ……と引いた。

カロル「……あれ?騎士団が少なくなってる……?」

ユーリ「ああ。フレンたちならノードポリカに戻っていったぞ」

ジュディス「夜のうちに、移動してたみたいね」

カロル「なにか急ぎの用事でもあったのかな?」

パティ「海の魚が食いたくなってノードポリカに帰ったのじゃ」

レナ「それはパティが今食べたいものでしょ……」

頭が働き出したレナはツッコミを入れると、パティはバレたか?と愛らしく笑った。

リタ「前に魔物が逃げたりして大変だったでしょ。あれの後処理じゃないの」

カロル「たぶん、戦士の殿堂(パレストラーレ)が騎士団に協力を仰いだんだよ、きっと」

ユーリ「さあ、どうだろうな」

ユーリの言葉に、エステルは首を傾げた。

ユーリ「いや、なんか、封鎖がどうとか言ってたし」

ジュディス「封鎖?何のことかしら?」

エステル「まさか例の人魔戦争の件で、ベリウスを捕まえるため……?」

カロル「そう簡単に戦士の殿堂(パレストラーレ)が、騎士団に後れを取るとは思えないけどな」

ユーリ「何であれ、ゴタゴタしそうな予感はする」

レナ「同感」

うんうんと頷きながら少女は言った。

レイヴン「今はノードポリカに近寄らない方がいいかもね」

レナ「かといって、新月の夜を逃したらベリウスに次はいつ会えるかなんて分からないよ?」

パティ「うちはノードポリカへ行かないと船に乗れないのじゃ。船に乗らないと麗しの星 (マリス・ステラ)とら記憶を探す旅が続けられないのじゃ」

レイヴン「でもな〜。俺様、あんま騎士団と関わりあいたくないのよねぇ」

顎を触りながら嫌そうにレイヴンは言う。

ユーリ「そりゃオレもできればな」

カロル「じゃ慎重に進もうよ。慌てず急いで、ね」

こういう時のカロルは頼りがいのある少年だ。

リタ「カドスのエアルクレーネの事も忘れないでよね」

ユーリ「ああ、わかってるさ。行こぜ」

レイヴンは嫌そうにやれやれと手を振りユーリ達の後を歩いて行く。

 カドスの喉笛へ向かうために砂漠を歩いていると、行商人らしき人とすれ違う。エステルがこんにちはと挨拶した。あんた方、カドスの喉笛へ?と行商人から聞かれる。ユーリがそうだけどと答えると、カドスは騎士団が封鎖していると行商人は言った。どうやらノードポリカへ行くルート自体が全て封鎖されているらしい。理由としてはノードポリカは今危険だからとしか聞いていないらしく、仕方ないからマンタイクへ戻るのだと行商人は話してくれた。

パティ「うちらもマンタイクに戻って、のんびり待つか?」

うーんどうっすかねぇとレイヴンは呟く。

エステル「フレンが封鎖を指示しているのでしょうか?」

エステルはユーリに聞く。ユーリはどうだろうなと返した。

ユーリ「どちらにしろ、ここで足止めを食らうわけにゃいかねぇだろ」

ジュディス「新月すぎちゃったら、どうしようもないもね」

カロル「でも頼み込んで通してもらえる状況じゃなさそうだよ」

カロルはユーリを見上げた。

レナ「それは実際、状況をみてから入り方を考えるとしてさ……問題は中に入ってからだよね」

少女は顎に手を当てて考えながら話す。

エステル「中に入ってからってどういうことです?」

レイヴン「封鎖されてるってことは、容易に外には出られないって状況よね。それを想定しておいた方がいいってきと」

だよね?と代わりに答えたレイヴンはレナに目配りする。レナはこくりと首を縦に振った。

リタ「だったら、マンタイクでちゃんと準備しておいた方がいいんじゃない?」

ユーリ「大丈夫だろ。このまま行こうぜ」

ユーリの言葉に、皆は先に進む。

 

―カドスの喉笛 入口前

 

 岩陰から中を伺ってみると、騎士団が集結しているのが見えた。エステルがフレン隊です……と呟く。

ジュディス「封鎖っていうのはあれ?」

カロル「やっぱりフレン隊がやってたんだね……でも、あの魔物は何……?」

レイヴン「騎士団で飼い慣らしたってとこかね」

フレン隊らしくない、飼い慣らされた魔物をみてレイヴンは呟く。

ユーリ「なんか、フレンに似合わねぇ部隊になってんな。……まったくフレンのやつ、何やってんだ……」

ため息まじにりにユーリが言ったフレンに似合わないという言葉に、リタとジュディスとレナは頷いた。

レイヴン「これだけ大掛かりな作戦ならやっぱ人魔戦争の黒幕って話と関係あるのかもねぇ」

カロル「この検問、どうしよっか……」

カロルは困った表情をユーリたちに向ける。その後ろでしゃがんだレイヴンとパティがこそこそと話をしていた。パティと話いや交渉が終わったレイヴンは立ち上がって、こういうのはどうよ?と弓を構えた。放たれた矢は魔物の足を少し掠めたようだ。それで十分なほど急なことに驚いた魔物は暴れ始める。騎士団が慌てて魔物を抑え始めた。ジュディスの今よという合図でユーリ達は洞窟内に走って入り込んだ。

 

―洞窟内

 

 ある程度中に入った所で、ユーリ達は立ち止まった。

ユーリ「珍しく派手に動いたな、おっさん」

レイヴン「なになに、パティちゃんの助言あってよ。人間ご褒美があるど頑張れるじゃない?」

リタ「何よ、ご褒美って」

少し機嫌のいいおっさんに引きながらリタは聞く。

レイヴン「ヒ・ミ・ツ♥約束お願いね、パティちゃん♪」

テンション高いおっさんに、リタはうざっとこぼすのだった。気になるようにエステルがパティを見るが、ウィンクしながらヒ・ミ・ツ♥なのじゃ‪☆とレイヴンと同じように返した。リタは何よ、あれ……と呟いた。

レナ「どうせしょうもない約束でしょ?」

ユーリ「だな、今はそれより先を急ぐぞ」

ユーリ達は洞窟内を進み、エアルクレーネまであともうちょっとという所まで来た。

カロル「ふ〜。追っかけてこないみたい」

カロルは息を整えながら後ろを振り向いて確認する。

パティ「なかなか楽しかったのじゃ」

ユーリ「遊びじゃないぜ。ったく……」

楽しいというパティにユーリは指摘する。

レイヴン「いやいや、これぞパティちゃんのブレインと俺様のテクニックの融合ってね」

レイヴンはウィンクしながらパティを見る。パティはニコリと笑って一人より二人の力なのじゃと言った。

レイヴン「しっかし、こんな危険なとこまで封鎖してノードポリカを孤立状態にしよってんだから。連中、かなりマジ気みたいねぇ」

リタ「まったく。魔物まで出して来ちゃって」

ジュディス「きっと、ロクでもない事しようとしてるのね」

エステル「フレンがこんな事を指示するとは思えません……」

彼女は溜息をつく。

パティ「のう、フレンっていうのはどういう奴なのじゃ?」

カロル「ユーリの友達だよ。子供の頃からの長いつきあいなんだって」

そういえばパティは知らないんだったか……と少女は思いながら、パティに説明するカロルの話を聞いていた。

レイヴン「下までは指示が行き届かない、上からは理不尽な指令が来る。隊がでかくなって、偉くなると色々手が回んなくなるんじゃないかね」

レナ(……騎士団に所属しているからこそわかることね)

ユーリ「ずいぶん、物識りだな。さすが天を射る矢の一員ってか」

レイヴン「組織なんてもなぁどこもそんなもんでしょ」

ユーリ「問題は……フレンのやつがどこまで本気かってことだ」

レナ「ノードポリカに行けば、色々わかってくるんじゃない?」

少女の言葉にそうですねとエステルが頷く。

ジュディス「でも警戒はしておいた方が良さそう。まさかノードポリカが武力制圧されてるってことは無いと思うけど」

カロル「戦士の殿堂(パレストラーレ)が黙っちゃいないもんね」

ユーリ「悪い。リタ。エアルクレーネ調べる時間もあんまり取れねぇぜ」

先に謝ったユーリにリタはおしそうにうーと唸る。

リタ「でもしょうがないか。追っ手とか来ると面倒だし……」

ユーリはそういうことだと頷くと、先に歩き出す。

カロル「何だかユーリ、積極的だね」

珍しいそうにユーリの先に行く背中を見ながら呟く。

レイヴン「なんだかんだ言ってお友達が心配なんでしょうよ」

パティ「……そんなにフレンってのとユーリは深い絆でつながっとるのかの」

レナ「そうだね、なんせ幼馴染みだし深いとは思うけれど……どうしたの?パティ、もしかしてやきもち?」

パティがうむと頷くと、ユーリを取られないよう作戦会議をしなくてはと意気込む。

レナ「……ユーリも大変ね」

ボソリと少女はパティに聞こえないように言った。

 ユーリ達はエアルクレーネのところまで来ていた。リタが調査し始める。ユーリが手短になと声をかけた。リタはわかってると返事をすると調査を続ける。

リタ「今は完全におさまってる……。一時はあんなに溢れてたのに。あれでエアルを制御したって事?何で魔物にそんなことが……」

思考し出すリタにエステルがそのエアルクレーネはもう安全なんです?と聞いた。

カロル「前みたいにいきなりエアルが噴出したら危ないよね?」

その心配はなさそうとリタはカロルの言葉に答えた。

ユーリ「じゃあ、なんだってあんときはいきなりエアルが噴出したんだ?」

ユーリの疑問に、リタも問題はそこねと頷く。自然現象では無いんです?とエステルは意見をだすが、リタはその可能性は低いわね、もしそうなら定期的に同じ現象が起こるはずよと返した。

ジュディス「エアルが定期的に噴出するなら周囲に影響が出るはず」

話を聞いていたジュディスが補足する。

リタ「ケーブ・モックみたいに、植物が異常に繁殖するとかね」

リタは例を出してエステルに分かりやすいように言った。レイヴンが見たとこそういう異常はないわなと辺りを見渡たした。

リタ「だとすると、何かがエアルクレーネに干渉してエアルを大量放出する……?でも、いったい何が……。エアルに干渉するなんて術式か、魔導器(ブラスティア)ぐらいしか……」

リタはブツブツ言いながら思考をめぐらせていく。少女はなんとなく答えが分かっているのでそこまで興味はない。ラピードが唸り始めたと同時に甲冑の音が聞こえ始めた。

ユーリ「ちっ、追っ手か。隊長に似てくそまじめな騎士共だぜ。リタ、いくぞ。調査は終わったんだろ?」

リタがもうちょっと考えさせて……と返す。それにレナが、考えをまとめるくらいなら後でも出来るよとリタを見る。リタはむーと唸ると、ああもう!と大きい声を出して分かったわよとユーリ達と共に走り出した。

 追っ手から逃げて先を進むと出口付近で、ジュディスに隠れて、と言われて仲間たちは近くの岩に身を隠す。騎士が三人待ち構えていた。

レイヴン「まぁ、当然ここも押えてるわな」 

カロル「パティ、なんか突破するいいアイデアないの?」

パティはうーんと考え込む。

カロル「レイヴンは?さっきみたいにうまくできない?」

レイヴン「まじめな騎士にあまり無体なことはしたくないなぁ……」

顎を触りながら言うレイヴンに、リタがあれまじめに見えないわよと騎士たちを見た。騎士たちの様子を伺っていると後ろからも追ってきた騎士たちがくる。その騒がしさに前にいたルブランとアデコールとボッコスが振り返り、エステルとユーリ、ほかの仲間たちを見た。レイヴンとリタは後ろの騎士を警戒している。前からも後ろからも騎士たちがきて挟み撃ちのこの状態にカロルが焦る。レイヴンが、しゃ〜ない!と呟くとルブラン達の前に立ちはだかる。ユーリがレイヴンを心配する。

レイヴン「全員気を付け!」

鋭く低い、大きい声が洞窟内に響き渡った。思わずこちらも背筋が伸びてしまうくらいの威圧感だ。ルブラン達は急に立ちどまり、きをつけをする。その間をレイヴンが駆ける。呆気に取られていたユーリ達はハッとするとレイヴンの後に続いた。カロルが何したのレイヴン?と不思議そうに聞くが、レイヴンはいいからいいからとはぐらかした。

 

―闘技場都市 ノードポリカ

 

 カドスの喉笛を抜けてノードポリカへ駆け込む。街中に入ってから見渡すが、以前と変わらないように見えた。闘技場で魔物が逃げ出して大騒ぎになったのが嘘のように、のどかに海鳥の鳴く声が聞こえる。

レイヴン「騎士の姿はちらほら見えるけど……」

リタ「この前の大会の騒動を考えれば、普通の警備って感じ」

エステル「魔物が逃げ出して、大変でしたからね」

ユーリ「逆に気味が悪いぜ。あんな検問敷いてたってのに。やっぱりおっさんの言うとおり、騎士団め、何か企んでやがるな」

カロル「でも今は目立たなければ街中にいても平気そう」

なロルはユーリの方に振り返った。

ジュディス「ベリウスに会えるのは新月の夜……丁度今夜ね」

空を見ながらジュディスが教えてくれる。

レイヴン「じゃ、宿で一休みしてから、ベリウス似合いに行きますか。ようやくドンの手紙をわたせるわ」

やれやれと言わんばかりにレイヴンは疲れた顔をしていた。レナはキョロキョロとしてこっちに来ないパティを見つけると、声をかける。

レナ「パティ、隠れてなくても大丈夫だよ」

レナはパティに近づいて手をひく。

パティ「うちも、もうすこーしだけ一緒にいてもいいかの?」

パティは不安そうにユーリたちの顔を見回しながら、こちらの反応を伺っている。

レナ「うん、いいよ」

ふわりと微笑んで、引いていたパティの手を両手で包み込んだ。エステルはこくりと頷く。

エステル「この街を出るまでは一緒にいた方がいいですね」

パティ「どうせ、ここで別れても、行った先でまた会うような気がするのじゃ。だったら、一緒に行っても行かなくても同じことなのじゃ」

少しほっとしたように肩の力を抜いたパティはいつもの調子に戻る。

リタ「それ、よくわからない理屈なんだけど」

パティ「きっと、ユーリたちは麗しの星 (マリス・ステラ)がある方向に向かって進んでおるのじゃ」

リタは頭をかきながら、それもよくわかんないと呟いた。パティは下を俯きながら、つまりうちは……と続ける。

ユーリ「……つまり、オレたちと一緒に来たい、ってことなんだな?」

パティ「……一人で行くより、ユーリたちと行った方が色々と……得なのじゃ」

パティはユーリに考えを悟られてちょっと恥ずかしそうにする。

ユーリ「来たいなら、ついてこい。今更、道連れがひとり増えたって困りゃしねぇよ」

パティは元気よく、じゃの!と頷いた。

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