目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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運命

―闘技場 宿屋

 

 ユーリ達は夜まで宿で一休みした。夜、宿屋の前にみんなは集合していた。

ユーリ「みんな覚悟はいいか」

カロル「……い、いいよぉ……」

緊張からかカロルの声は震えていた。それにリタが震えてるわよと指摘する。

レイヴン「ま、ギルドの大物に人魔戦争の黒幕って話だしな」

ユーリ「なに、相手は同じ人間だ。怖がることはねぇって」

ユーリはカロルを励ます。カロルはだってぇと俯いた。リタの隣にいたパティが往生際が悪いのじゃと愚痴る。

レナ(……ベリウスは人間じゃないんだけど)

ジュディス「パティは肝がすわってるのね」

レイヴン「見ろよ、お嬢ちゃんも大したもんだぜ」

チラリとエステルに視線を向けるレイヴン。

エステル「……わたしはもうけっこう、いっぱいいっぱいです……」

どうやらエステルも色々と考えて緊張してるみたいだった。リタが無理しなくてもいいと思うよとエステルを気にかける。エステルは首を横に振った。

エステル「もう、後には引けません。引きたくありません。わたし、ちゃんと知りたいんです。自分のことを」

覚悟の決まったその表情にジュディスはいい覚悟ねとニコリと笑った。一言も喋らず俯いてる少女に、ユーリは声をかける。

ユーリ「レナも、心の準備はいいか」

レナ「……え、あ、うん。大丈夫……」

レナは反応をおくらせながらもこくりと頷いた。

レナ(……もうすぐ、もうすぐ、あの時が……くる)

自然と少女の体には力が入った。その様子にレイヴンがあれ?意外にも緊張してる?とレナをからかう。レナは、少し肩の力を抜こうと息を吐いてそうかもねとだけ返した。元々レナは口数が多い方では無いと思うが、ユーリはいつもとなんだか様子が違うことに気づいていた。しかし、まぁレナでも緊張することくらいあるよなとユーリは気にしないことにした。

ユーリ「それじゃあ、ベリウスに会いにいくぞ」

闘技場の受付の後ろの階段を上がり、ベリウスの部屋に向かう。向かった先にはナッツが見張りのために立っていた。

ユーリ「ベリウスに会いに来た」

ナッツ「あんたたちは……たしか、ドン・ホワイトホースの使いだったかな」

レイヴン「そそ、そゆことだから通してもらいたんだけど」

ナッツは鋭い視線をみんなに向けてから、レイヴンだけを見る。

ナッツ「そちらは通っても良いが……他の者は控えてもらいたい」

カロルがそれにえー!どうしてですか?と聞く。続いてリタが私はが信用できないっての?と噛み付く。

ナッツ「申し訳ないがそう言うことになる」と冷静に言った。

そんな……とエステルがどうしようと悲しい顔をする。

パティ「口を開かないシャコガイよりうちらの方が信用できること、間違いないのじゃ」

パティがそういった時、ドアの奥から、良い皆通せ、と低い女性の声が聞こえた。ナッツが統領(ドーチェ)!しかし……と抗議する。良いと言うておると統領(ドーチェ)は続けた。

ユーリ「話がわかる統領(ドーチェ)じゃねぇか」

ナッツは少し考えたあと、わかりましたとドア越しに返事をすると、ドアの前から退いた。そして一言、中で見た事は他言無用で願いたいとナッツは言った。カロルが他言無用……?どうして?と首を傾げる。それが我がギルドの掟だからだとナッツは返した。

ユーリ「わかった、約束しよう」

真っ直ぐにナッツをみて言う。この先に我が主ベリウスがいるとナッツはドアを視線で指す。ユーリ達は、ドアを開けて中へ入った。

 部屋の中に入るとあたりは真っ暗であかりひとつも無い。カロルがえっええっ!何これ?とビビっていた。ユーリは皆がちゃんといるかどうか確認をとる。仲間たちは各々返事をした。やがてぽつぽつと紫色の人魂のような形のあかりが灯り始めた。あかりによって浮かび上がったベリウスの姿に、カロルが魔物!と武器を構える。

ユーリ「ったく、豪華なお食事付きかと期待してたのに、罠とはね」

ジュディス「罠ではないわ。彼女が……」

ベリウス?とエステルがジュディスの言葉に繋げるように言った。

ベリウス「いかにも。わらわがノードポリカの統領(ドーチェ)戦士(パレス)()殿堂(ラーレ)を束ねるベリウスじゃ」

その姿は狐に似た面差しと羽のように長い耳と触覚を持っている。レイヴンがこりゃたまげたと驚いた顔をして言う。エステルはベリウスの前に進み出た。

エステル「あなたも、人の言葉を話せるのですね」

ベリウス「先刻そなたらは、フェローに会うておろう。なれば、言の葉を操るわらわとてさほど珍しくもあるまいて」

ユーリ「あんた、始祖(エンテ)()隷長(ケイア)だな?」

その問いに左様じゃとベリウスは頷く。

カロル「じ、じゃあ、この街を作った古い一族ってのは……」

わらわのことじゃとベリウスは答えた。

パティ「この街ができたのは、何百年も何百年も昔……ってことは……」

ベリウス「左様、わらわはその頃からこの街を統治してきた」

パティは、すごいのじゃ!と興奮した。レナは何も喋らず事の運びを見守っている。

レイヴン「……ドンのじいさん、知ってて隠してやがったな」と呟く。

ベリウスがそなたは?とレイヴンに視線を向けた。

レイヴン「ドン・ホワイトホースの部下のレイヴン。書状を持ってきたぜ」

レイヴンはベリウスに書状を渡し、ベリウスは渡されたそれに目を通す。

レイヴン「いまさらあのじいさんが誰と知り合いでも驚かねぇけど、いったいどういう関係なのよ?」

ベリウス「人魔戦争の折に、色々と世話になったのじゃ」

ベリウスは書状に目を通し終わると顔を上げて答えた。

カロル「人魔戦争……!なら、黒幕って噂は本当なんですか?」

あまりにストレートに質問するカロルに、ベリウスはほほっと軽く笑って、確かにわらわは人魔戦争に参加したと答えた。しかしとベリウスは続ける。

ベリウス「それは始祖の隷長(エンテレケイア)の務めに従ったまでのこと。黒幕などと言われては心外よ」

人魔戦争が始祖の隷長(エンテレケイア)との戦い……とカロルは呟いて俯いた。

ベリウス「いずれにせよ、ドンとはその頃からの付き合い。あれは人間にしておくのは惜しい男よな」

レイヴン「じいさんが人魔戦争にかかわってたなんて話、初めて聞いたぜ」

ベリウス「やつとてはなしたくないことぐらいあろう。さて、ドンはフェローとの仲立ちをわらわに求めている。あの剛毅な男も、フェローに街を襲われてはかなわぬようじゃな。無碍には出来ぬ願いよ。一応承知しておこうかの」

レイヴン「ふぃ〜、いい人で助かったわ」

レイヴンはそこで初めてほっと安堵の息をついた。

ユーリ「街を襲うのもいれば、ギルドの長やってんのもいる。始祖の隷長(エンテレケイア)ってのは妙な連中だな」

ベリウス「そなたら人も同じであろう」

パティがうむうむその通りなのじゃとベリウスの言葉に頷く。

ベリウス「さて、用向きは書状だけではあるまい。のう。満月の子、新月の子よ」

ベリウスはエステルとレナに視線を向けた。リタが目を見開いて、わかるの?レナが新月の子でエステルが満月の子だって……と言った。

ベリウス「我ら始祖の隷長(エンテレケイア)は満月の子と新月の子を感じる事が出来るのじゃ」

レナは特に聞きたいことなどない。この世界になぜ連れてこられたのかも今はもう知っている。エステルは覚悟を決めた顔でベリウスに近づく。

エステル「エステリーゼといいます。満月の子とは、いったい何なのですか?わたし、フェローに忌まわしき毒と言われました。あれはどういう意味なんですか?」

レナ(……そろそろ魔狩りの剣が押しかけてくる頃合か。魔術障壁をはっておくか)

誰にもバレないように気をつけながら魔術障壁をベリウスの前にはる。ベリウスには気づかれてそうだな……なんて少女は思った。

ベリウス「……ふむ。それを知ったところでそなたの運命が変わるかはわからぬが……」

ジュディスが、ベリウスその事なのだけど……と口を挟む。エステルはどうしたのだろうとジュディスの方を振り向いて名を呼んだ。

ベリウス「ふむ。何かあるというのか?」

フェローは……とジュディスが何かを言いかけた時、外で大きな音がなった。レイヴンが、何の騒ぎだよ一体とドアの方を振り向く。勢いよく扉が開き、武器をたずさえた男たちが乱入する。

ディソン「遂に見つけたぞ、始祖の隷長(エンテレケイア)!魔物を率いる悪の根源め!」

カロルが、ディソン!首領(ボス)!と二人に駆け寄る。

ディソン「これはカロル君ご一行。化け物と仲良くお話するとは変わった趣味だな」

クリント「闘技場で凶暴な魔物どもを飼い慣らす、人間の大敵!覚悟せよ、我が刃の錆となれ!」

レナ「……失礼なヤツらね」

少女は二人を睨んだ。

パティ「カロルの知りあいにしては、ガラが悪いのじゃな」

パティが悪態をつくと、ディソンはなんだこのちっこいのはのイラッとする。

パティ「残念なのじゃ、乱暴者に名乗る名前は持ち合わせておらんのじゃ」

パティはキッパリと言いきった。

ディソン「ふん……名乗れねぇ事情でもあんのか?」

カロルが、ナンは?とディソンに聞く。ディソンは、闘技場で魔狩りを指揮してるだろうよと返した。

ディソン「俺ら魔狩りの剣の制裁を邪魔する奴ぁ、人間だって容赦しやしねぇぜ」

手を鳴らしながら彼は言う。

クリント「かかってこないなら、俺から行く!さあ相手になれ、化け物!」

大剣を構えると、動きの早いディソンと共にベリウスに一直線に向かった。ディソンをユーリがいなし、クリントの大剣をレナがはった魔術障壁によって受け止められる。ベリウスは少し驚いたようにレナを見た。

ベリウス「……先程なにかしたような力を感じたが、これだったか……」

クリントは大剣が見えない壁に弾かれたことにすこし驚いているようだったが、すぐに体勢を直し次の攻撃へ動きをうつしていた。

レナ「っ……来るような予感がして……ね」

2度目のクリントの攻撃で、障壁にヒビが数センチはいる。

ベリウス「こやつらはわらわはが相手をせねば抑えられぬようじゃ。新月の子よ、これを解くのじゃ」

ベリウスは障壁を指さし少女をみる。少女は嫌と伝えるようにと首を横に振る。ベリウスは、わらわは平気じゃと安心させるようにレナを見つめる。

レナ「……わかったわ」

渋々目を閉じて嫌だと思う感情を抑えて少女は魔術障壁を解いた。瞬間、クリントの大剣がベリウスを襲うが、ベリウスは軽々と大剣を受け止めた。ベリウス……!とレナが悲痛な声を出す。ベリウスは大丈夫じゃと言った。

ベリウス「そなたら、すまぬがナッツの加勢に行ってもらえぬか」

ユーリがおまえは大丈夫なのかよ!とベリウスを心配する。

ベリウス「たかが人などに後れは取りはせぬ」

ユーリはわかったと頷くと、仲間たちに行くぞ!と声をかける。不安そうな顔でレナはベリウスを見る。

レナ(私の魔術なら、エアルを使わないから負担になって暴走することは無いはず……)

仲間たちがユーリに続く中、レナはベリウスに向かってシャープネスとバリアーをかける。全身に鋭い痛みがはしり一瞬顔を歪めるがすぐに持ち直す。エアルを使わない少女の魔術はバフだけをちゃんとかけることに成功していた。

ベリウス「!……新月の子よ、感謝する」

少女はこくりと頷いてみせると、ユーリ達を急いで追った。

 ユーリ達を追って外に出ると、戦士の殿堂(パレストラーレ)のメンバーであろう人達が倒れていた。カロルがひどい……これをナンが?と眉を顰める。ユーリが倒れている一人に駆け寄って声をかける。苦しそうな声で、ナッツが魔狩りの剣と戦って、お願いしますと言った。エステルが治癒術をかけようとするが、助けてという言葉を最期に息を引き取った。エステはもう少し早ければ……と悔やむ。ジュディスはエステルに悔やんでる場合ではないでしょと言う。続いてリタが、ナッツって人を助けなきゃ……!と叫んだ。ユーリは頷き、みんなは闘技場へ急いで向かう。

 闘技場につくと、魔狩りの剣の一員であるナンが忠告していた。カロルが、ナン!もうやめてよ!と声をかける。ナンは、カロル?なんでここに、と驚いていた。

カロル「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょ!」

ナン「何言ってんの!これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから!」

レイヴンが何だと……?と呟く。ナンの後ろから金髪の青年が出てきた。レイヴンがおまえ……ハリー!?と驚いている。

リタ「あいつ……ダングレストであったユニオンのやつ……?」

レイヴンがドンの孫のハリーだとみんなに教えた。ドンの孫……?とカロルが囁く。

レイヴン「ちょっと、何がどうなってるのよ?」

レイヴンはハリーに詰め寄る。

ハリー「おまえもドンに命令されたろ?聖核(アパティア)を探せって」

レイヴン「ああ、でもこの聖核(アパティア)とこの騒ぎ、何の関係があるってんだ?」

二人が話している時、ジュディスがなにかに気づいて走り出す。レナもジュディスの後をついて行く。後ろでカロルがジュディス?レナ?どうしたの!という声が聞こえた。魔狩りの剣に囲まれているナッツに駆け寄る。ユーリも追いついたようだ。

ユーリ「あとは一人じゃ物足んねぇだろ?オレらが相手してやるよ」

貴様らもベリウスの配下か!と屈強な男が武器を構えながら言った。

カロル「ボ、ボクらは凜々の明星だ!」

負けじとカロルがギルド名を叫ぶ。なんかしらねぇが魔物に味方するやつは死ねぇ!という一言でナッツを囲んでいた魔狩りの剣たちは襲いかかってきた。

一人、一人ずつの戦闘になる。当然弱そうに見えるのだろう俗に言う細マッチョな男がレナに襲いかかった。振り上げてきた剣を、ギリギリでダガーナイフで受け止め流す。そのままバックステップを踏んだ。

レナ(……まずい、攻撃を流しながらの詠唱が難しい。受け流すので精一杯。仕方ない……シャープネスとバリアーだけかけて、あとは自力で!!)

金属と金属がぶつかる音が闘技場に響く。体の小さい少女はそれを利用して相手の懐に潜り込み、腹を切った。人間を切った感覚にゾワリとする。しかし致命傷にはなり得ないその攻撃に相手はまだまだと腹から血が出るのを気にせず剣を振り上げる。慣れない感覚に気分が悪くなりそうになりながらも少女はもう一度攻撃を避けつつ隙を狙って今度は首を切った。切った傍から血が吹きでる。相手はそのまま倒れた。吹き出た生暖かい血が少女に服にべったりとついた。無我夢中だったレナはハッとする。振り返れば、首から血を流し倒れている魔狩りの剣の人がいた。

レナ(殺ってしまった……。人を、人を、人を切ってしまった。殺してしまった……。ううん、今は考えることじゃない。考えたくない。ベリウスのことを考えなきゃ)

ダガーナイフを握る手が震え、バクバクと心臓がなり、音が遠く感じる感覚を覚えなが、罪悪感に苛まれる思考を片足を地面にダンっ!と蹴りつけて喝を入れた。周りを見渡せばみんな片付け終わった所で、エステルはナッツに治癒術をかけていた。

レイヴン「何とか間に合ったようね」

レイヴンはほっとする。

ナッツ「あんた治癒術師だったんだな。おかけで命拾いしたよ」

ナッツはエステルに感謝を述べた。

パティ「ベリウスの方は大丈夫なのかの……?」

心配そうにパティは呟いた時、上空からガラスの割れる音ともにベリウスとクリント達が降ってきた。ベリウスは地面にそのまま叩きつけられるように落ち受け身も取れていなかった。カロルは驚き、ナッツはベリウス様!と声をかける。少女は心配そうにベリウスを見た。

ベリウス「ナッツ、無事のようだの。まだやるか人間ども」

ナッツの無事を確認すると、ベリウスはクリントに視線を向けた。

クリント「……この……悪の根源……め……」

フラフラとしながらもまだ武器を構える。

ユーリ「あいつが悪の根源?んなわけねぇだろ。よく見てみやがれ!」

クリント「魔物は悪と決まっている……!ゆえに、狩る……!魔狩りの剣が、我々が……!」

クリントはそこまで言って限界だったのか再び倒れ伏した。レイヴンがこの石頭ども!と愚痴る。立ち上がったディソンがベリウスに駆け寄るのをジュディスが止めた。パティはジュディ姐!と走る。ベリウスはがくりとひざをついた。ベリウス様!ナッツが叫んだ。エステルがベリウスにかけて行くのを瞬時にレナはエステルの手を引いて止めた。

エステル「……レナ?」

レナ「ダメ、エステルの力は使っちゃダメ」

いつになく真剣な目をした少女がエステルを見つめる。

ベリウス「!……そなた、知って……。そうか、そなたはやはり、新月の子。否、異空の子。先を知っているのじゃな……」

少女は、はっきりとベリウスのつぶやきが聞こえて少し驚く。その隙にエステルはでも!と声を上げ、レナの手を振り払った。そしてすぐ治しますと治癒術を発動させる。レナは急いでエステルの手を握り力を抑えた。レナの体が淡く赤い光に包まれる。

レナ「ぐっ……ぅ」

エステルの力は強い。でも、ベリウスに繋げるにはいかない。

エステル「レナ……、どうして!」

ここまでましてレナが止めることにエステルは訳が分からないと困惑する。当のレナは抑えることに必死でエステルの声も周りの音も聞こえなくなっていた。

レナ「っ……はぁ……ぐっ」

とめどないその力、一度発動すればエステルには制御出来ないのか抵抗はしていないが抑えることもしていない。

ベリウス「レナ……、やめるのじゃ、そなたが」

流石のベリウスも焦ってたような声を出していた。

レナ「やめっ……ないっ……。だっ、て……、や、め……たら……。貴方がっ……」

ベリウスの声は届いたようで苦しそうな声で少女は言う。段々と抑えることが出来なくなった力が少女の体の中で暴れ出す。それは魔術を使った時と同じような鋭い痛みが体を支配した。

レナ「っ……ぅぐ……ぁあああっ!!」

少女の苦痛の声が闘技場に響いた。エステルはレナっと名前を呼び、どうすれば……と焦っている。ユーリ達も気が気でない。

ジュディス「力を抑えきれていない……!満月の子の力が強すぎてレナの体の中でエステルの力が暴走しているんだわ」

ジュディスの言葉に皆、驚く。

ベリウス「もうよい……レナよ。わらわなら大丈夫じゃ。もう限界であろう」

少女の肩にベリウスは触れる。瞬間、少女は激痛から解放されベリウスが光を纏って苦しみ出した。

レナ「っ……はぁ……はぁ……?え……あ……う、そ」

肩で息をしながらレナは急に痛みがなくなって不思議に思う。が、すぐにベリウスの苦しむ声でハッとして、声を震わせて信じられないと瞳を揺らす。少女は膝から崩れ落ち、ただ呆然とした。目から頬に涙が伝っている。エステルは、わたしの、せいで?と呆然としていた。ベリウスの暴走によって闘技場が揺れ始める。このままでは闘技場が崩れてしまうだろう。

ユーリ「戦って止めるしかないのか!?」

リタ「でも、こんなの相手に手加減なんて出来ないわよ!こっちがやられちゃうわ!」

カロル「そんなのって……」

パティ「でも……やるしかなさそうなのじゃ」

ジュディス「ベリウス……」

ユーリたちはおそるおそる武器を構える。リタはエステルにしっかり!と声をかける。慌てるみんなの声が遠く感じて頭に入ってこない、なんだか他人事のように感じてレナは戦う気力が湧いてこなかった。否、正確にはエステルの力を抑えるのに体力を使ったがために体に力が入らず座り込むことしか出来ないのだ。レナは、ただユーリ達が暴走を抑えるためにベリウスと戦うのを見ることしか出来なかった。両者が傷付いていくの少女は何も出来ないままようやくベリウスが正気に戻った時には、ユーリもエステルも他の仲間も皆、フラフラになっていた。

カロル「お、おさまった……」

カロルは荒い息をしながら肩を上下させている。ナッツがベリウス様!ともう一度叫んだ。ベリウスの体が再び光り始める。ジュディスがこんな結果になるなんて……と悲痛な声で言った。少女は重たい身体を引きずってベリウスの近くに歩み寄る。

レナ「い、や……。ごめんなさい、ごめんなさい。こうなることを、ふせぎたかったのに……!私は、私は、なにも、できなかった……」

少女は涙をボロボロ流し、嗚咽混じりに言うと顔を下に向けた。エステルもベリウスの前にひざまつき、ベリウスに深く詫びる。

エステル「ごめんなさい……。わたし……わたし……」

ベリウス「気に……病むでない……」

弱々しい、けれど優しさのこもった声がエステルとレナに届く。

ベリウス「そたならは……わらわを救おうとしてくれたのであろう……」

エステル「……でも、ごめんなさい。わたし……」

レナ「ほんとに、ごめんなさい……。救えなかった……、おさえ、こめられなかった……」

ベリウス「力は己を傲慢にする……。だが、そなたらは違うようじゃな。他者を慈しむ優しき心を……大切にするのじゃ……。フェローに会うがよい……。己の運命を確かめたいのではあれば……」

エステルは涙ぐみながらフェローに?と呟くと、ベリウスは更に強い光に包まれる。

ベリウス「ナッツ、世話になったのう。この者たちを恨むでないぞ……」

ベリウス様!!と抑えきれない涙を流しながらナッツは大声を出した。

エステル「ま、待ってください!だめ、お願いです!行かないで!」

エステルは慌てて立ち上がり叫ぶ。

ジュディス「ベリウス……。さようなら……」

ジュディスは悲しそうに目を逸らし別れを告げた。

レナ「!っ……いやぁぁぁ!」

少女は悔しそうに闘技場の地面を握った。ベリウスは体全体を光に包まれて、美しい聖核(アパティア)がエステルとレナの前に現れた。

リタ「これは……幽霊船の箱に入ってたのと同じ……?」

カロルが聖核(アパティア)だ……と呟く。

パティ「どういう……ことなのじゃ……?」

パティは困惑した表情をしている。

―わらわの魂、蒼穹(キュア)水玉(シエル)を我が友、ドン・ホワイトホースに。

殺伐とした闘技場に、ベリウスの声が響いた。また強く光が放たれ、エステルは聖核(アパティア)を受け取りそのまま膝をついた。

レイヴン「ハリーが言ってたのはこういうわけか」

レイヴンがそう囁いた時、クリントがその石を渡せとよろよろと立ち上がる。

ユーリ「こいつがてめぇらの狙いか。素直に渡すと思うか?」

怒りの表情をしたユーリが魔狩りの剣の前に立ちはだかる。

クリント「では素直に……させるまでのこと」

レナ「ふざけるなっ、聖核(アパティア)は渡さない……!」

珍しくドスの効いた声を出したレナにユーリは内心驚く。少女は無理やり体を立ち上がらせダガーナイフを構え、クリントが大剣を構えた時、そこまでだ!全員、武器を置け!と若い女性の鋭い声が闘技場に響き渡った。フレンの部下、ソディアだった。

ユーリ「ちっ。来ちまいやがった」

ユーリは舌打ちをした

ソディア「貴様……闘技場にいる者を、すべて捕らえろ!」

ソディアの指示で、沢山の騎士が一斉に闘技場に入っていく。

レイヴン「さっさと逃げないと、俺らも捕まっちゃうよ?」

リタ「あたしら、捕まるようなこと何にもしてないわよ!」

カロル「きっと何が捕まえる理由こじつけられちゃうに決まってるよ!」

ジュディス「そうね。逃げた方がよさそう」

ラピードが近づいてくる騎士を倒してワン!と吠えた。パティが煙幕を投げて逃げ道を確保する。ユーリがエステルに今は逃げるぞと声をかける。しかしエステルは拒否し、その場に蹲ったままだ。

エステル「わたし、どこにも行きたくない。わたしの力……やっぱり毒だった……助けられると思ったのに、死なせてしまった、救えなかった……!」

悲痛な声がレナにも伝わる。

レナ「違っ……違う……!」

レナはすぐにエステルの言葉を否定するが、エステルには届かない。

レナ(違う、違うの。わたしは、こんな事になって欲しくなくて、エステルもベリウスも傷ついて欲しくなくてっ!だから、止めようとっ。なのに、私は止めることも抑えることも出来なくて!事前に、ふせぐこともできたかもしれないのに…………っはは、でも、後悔なんてしたって、結局は無力。っこんなの、私が、ベリウスを殺したも、同然じゃないか……!)

少女はギリっと奥歯を食いしばり、左腕を右手で強く握った。

 ユーリが突然、自分の右腕を切りつけた。エステルは、何するんですか!と驚いて立ち上がる。エステルは急いでユーリに治癒術をかけた。

ユーリ「ちゃんと救えたじゃねぇか」

エステル「え……?あ、わたし……」

この役目はユーリでないとダメだと分かっていた少女はこんな時でさえも何も出来ず、ただ見ることしか出来なかった。

ユーリ「行くぞ」

レナはこくんと頷き、エステルは、はいと返事してユーリの後をついていく。ソディアが待て!と叫ぶ。

 闘技場を抜け出し、受付の場所まで走ったはいいが、既に騎士団に制圧さていた。ジュディスが港から海に出ることを提案する。それにカロルが港も封鎖されてるんじゃ?と呟く。

リタ「カドスの喉笛だって封鎖されてんのよ。だったら、いちかばちか港の包囲網に突っ込むのよ!」

カロルはなるほどという顔をした。

カロル「そっか、海に逃げた方がまだマシだもんね」

ユーリ「そういうこった。パティ、悪いがまた操船頼めるか?」

パティ「うむ、任せるのじゃ。うちの腕の見せ所じゃな」

パティは大きく頷いた。

パティ「駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)がちゃんと新しくなってるといいがの」

リタ「上等よ!魔導器(ブラスティア)の面倒はあたしが見るわ!ってあれ、おっさんは……?」

リタは振り向いて、後ろを走っていたはずのレイヴンを探す。

レナ「烏さんなら、ハリーって人を……追いかけて、行ってたよ……」

レナはいまだ息が整わない状態でリタに教える。リタはふーんと返した。

ユーリ「ま、おっさんのことだ、心配ねぇだろ。そのうちひょこっと戻ってくるさ」

ジュディス「そうね。呼ばれてなくても出てくる人だもの」

レナ(……あ、やばい。視界が霞んで……)

フラリと少女の体が傾く。地面につく寸前にジュディスが受け止めた。カロルが、レナっ!と呼ぶ。ジュディスはレナの状態を冷静に診る。

ジュディス「……大丈夫。気を失っているだけみたい」

カロルとリタはホッとする。ジュディスはそのままレナを抱き上げようするが、ユーリが変わるぜと言ってレナを抱き上げる。そうこうしている間に追いついたソディアが、ユーリ・ローウェルそこまでた!と鋭い声をだす。ウィチルも追いかけていたようで、エステリーゼ様もお戻りくださいと言った。エステルは困ったようにわ、わたしは……と呟く。リタが前に出てエステルは帰らないわよ!と言うと魔術を発動させた。ウィチルのファイヤーボールとぶつかり爆ぜる。爆発でうまれた煙を煙幕替わりにユーリたちは港に急いだ。

 ユーリ達はフィエルティア号が停泊している港を目指して走った。しかし、桟橋の入り口には先回りしたフレンが待っていた。リタがこっちの考えはお見通しってわけと独りごちる。

フレン「エステリーゼ様と手に入れた石を渡してくれ」

フレンは静かにユーリ達に言った。

エステル「……フレン、どうして、聖核(アパティア)のことを……」

ユーリ「騎士団の狙いも、この聖核(アパティア)ってわけか」

ウンザリしたようにユーリはフレンを見る。後ろでカロルが魔狩りの剣も欲しがってた……と呟いた。

パティ「ヨームゲンの兄ちゃんが言うとった……聖核(アパティア)は人の世に混乱をもたらす、と……」

パティはやっぱり……と俯くと、甲冑の音にすぐさま振り返り武器構え、共にジュディスは槍を構えた。ユーリはレナを頼むと言ってエステルにレナを預ける。フレンは渡してくれともう一度言うと、剣を握る。カロルがうそっ、本気?と驚く。

ユーリ「おまえ、なにやってんだよ」

怒りの表情をしてフレンにズカズカと近づく。

ユーリ「街を武力制圧って、冗談がすぎるぜ。任務だかなんだかしらねぇけど、力を全部抑え付けやがって」

後ろでソディアが、隊長指示を!と剣を握り、剣をを抜く指示を仰ぐ。

ユーリ「それを変えるために、おまえは騎士団にいんだろうが。こんなこと、オレに言わせるな。おまえならわかってんだろ」

フレンは硬い表情をしたまま、何も言わない。

ユーリ「なんとか言えよ。これじゃ、オレらが嫌いな帝国そのものじゃねぇか。ラゴウやキュモールにでもなるつもりか!」

フレンはふっと唇に複雑な笑みが浮かぶ。

フレン「なら、僕も消すか?ラゴウやキュモールのように君は僕を消すというのか?」

カロルがえ……それって……?とユーリに聞く。

ユーリ「おまえが悪党になるならな」

彼の低い声に、パティがユーリ?と振り向く。

リタ「そいつとの喧嘩なら別のとこでやってくんない?急いでるんでしょ!?」

ユーリとフレンの横を通り抜けてリタユーリに向けて言う。ユーリは舌打ちしてフレンの横をすり抜けて走る。行くわよ!というリタの声に他の仲間もフレンの横をすり抜けた。

 タラップからフィエルティア号にユーリ達は乗り込む。みんなが乗り込み終わった時、カロルがユーリになにか聞こうと話すがリタに遮られ今やるべきことを指示される。エステルはレナをひとまず木箱に寄りかかるように寝かせる。気がつくとレイヴンも乗っていた。駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)が動き出し、沖合いにずらりと並んだ帝国船の包囲網を一気に突破する。速度がどんどん増し、すごい揺れがユーリ達を襲う。皆しがみつけるところをつかんで揺れに耐えていた。揺れにレナは目を覚まして、船の上だと理解する。

リタ「何、この出力!この駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)のせい?何よ、この術式……初めて見るものだわ」

リタが魔導器(ブラスティア)を調べながら呟く。レナの隣にいるエステルの持っていた蒼穹(キュア)水玉(シエル)が赤く光っているのが見える。その傍にジュディスが近づく。レナは立ち上がってジュディスの前に立った。エステルがレナ?と起きていたことに驚く。

レナ「……ジュディス?」

名を呼ばれた彼女は何も言わない。

レナ「……私はとめないよ。それがあなたの使命なんでしょ?」

どうなるか分かっていてレナはあえてジュディスをとめることをしなかった。ジュディスは一瞬悲しそうな顔をして小さくありがとうと呟いた後、槍で駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)を壊した。リタのやめてぇっ!!という声と駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)は爆発する音が甲板に響く。ユーリ達が何事かとこちらに走ってきた。リタはどうして?と唇をわななせながらジュディスに訊ねる。ジュディスは、私の道だからと静かに答えた。竜の鳴き声が聞こえて、リタがあいつバカドラ!と叫ぶ。ユーリが、ジュディ!待て!と叫ぶが、ジュディスは竜に乗ると、さようならと悲しげに言って夜空へ舞い上がった。彼女の名を呼ぶエステルの声と、なんで!どうしてよ!?と悲痛なリタの声が夜空に響いた。

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