目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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悪夢

―フィエルティア号

 

 あの後、リタは駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)をみていて、カロルは考え込んでいて、ユーリも何考えているようで、レイヴンは周りの様子を見つつもギルドのことを考えていて、エステルは今まであった事を振り返りつつも整理がつかず甲板でボーっとしていて、少女はまだ力を使ったことによる痛みを引きずりながら甲板にある船長室の壁に背を預けて空を見上ていた。

レナ(……空はいつだって綺麗だな。運命……か。そういえばベリウスは先を知っていることについてどこか納得というか予想がついていたように、異空の子だからと言ってたな。私の他にも同じように異空の子と呼ばれる人達がいたと思うけど、その人たちも先を知っていたってことだよね。でも、それを変えることは、デキナイ?これまでシナリオ通りにいっているということは、そういう事だよね。被害の軽減は許されるけど、改ざんすることは許されないって事、なのかな〜)

少女はベリウスの死を通して、今回のことを振り返る。ある程度のところで思考を止めて、空から目を離し、ふぅ〜と息をついた。ギシッと木の板がしなる音が聞こえて顔を上げると、ユーリが居た。

ユーリ「……体は、大丈夫か?」

彼も色々あったのに、人の心配とは、ほんとにお人好しだな、なんて少女は思った。

レナ「うん。へーき。痛みもそんなにもうないし、急いでる時に倒れちゃってごめん」

本当は平気なんかじゃない。まだズキズキと痛む。命を削った痛みがある。それでも、心配かけたくないからあえて元気にニコリと少女は笑ってみせた。でも、彼は、少女の引き攣った笑みを見逃さなかった。

ユーリ「あー、痛いんだろ、本当は。子供がそんな嘘つくんじゃねぇよ」

少女は意地で笑顔を崩さない。

レナ「なんで?嘘ついてないよ?後、私子供じゃな……」

いと言おうとたらユーリに遮られる。

ユーリ「顔が引き攣ってんぞ。んな辛そうに笑うな。確かに中身は18かもしんねぇけど、オレからすればちょっと大人っぽい子供だぜ」

辛そうに笑うなと言われて少女は目を見開く。

レナ「……ごめん」

ユーリ「あやまるなよ。おまえ、ベリウスに会う前、様子変だったろ?それは、何が起こるか分かってたからなんだろ」

ふっと彼は笑って、次に真剣な顔をした。

レナ「……気づいて、たんだ。うん……そうだよ、知ってた。でも、知ってて、私は、何も出来なかったっ!助けたかった命も、助けられなかった!…………っあ、ごめん」

肯定してしまえばあの時のことが脳裏に蘇って、少女はユーリに八つ当たりしてしまった。ハッとすると謝ってバツが悪そうにユーリから顔を逸らす。

ユーリ「なんも出来てないなんてことないだろ。ベリウスを助けようとがんばってたじゃねぇか」

え?とレナはユーリの方を向いた。

ユーリ「一人で抱え込むなって、オレ……オレ達は、そんなに頼りないか?」

レナ「っそんなこと!……そんなことないよ」

少女は思わず前のめりになって否定する。

ユーリ「なら、今度からは一人で抱え込もうとするなよ」

ユーリはレナの頭に手を乗せて、左右に動かした。少女は何も言わない。少しの静寂、波が船にぶつかる音だけ。

レナ「……ユーリも、ユーリもラゴウやキュモールのことみたいに一人で背負い込まないでね」

ゆっくりと顔を上げて、静かに少女は言った。ユーリは、ああとだけ返事して、撫でるのに満足したのか別の人の所へ行った。

レナ(……ごめん、ユーリ。私は、これから起こる事を知っているから、一人で抱えこないって約束できないや。それに、話す事出来ないから)

少女はユーリが来る前と同じように顔を空に向けて、一番輝く星、凜々の明星を見た。星はいつだって綺麗だと、レナは思った。

 

―翌朝

 

 夜通しリタが駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)を見てくれたおかげでなんとか船が動くようになった。パティは、他の部分のチェックも済んでおる、準備万端なのじゃと頷いた。

カロル「……よかった。とりあえず船を動かせるんだね」

カロルはホッと安心した表情をする。

レイヴン「なら、とりあえず、ダングレストにこいつを連れていきたいんだけど」

ユーリ「オレたちもダングレストだ」

カロル「ベリウスの聖核(アパティア)を渡すため、だね」

レイヴン「だったら、おっさんが持っていったげるよ、ほれ」

レイヴンはカロルに向かって手を出した。カロルは、レイヴンには頼めないよと断った。

レイヴン「おや、悲しいねぇ。一緒に旅してきたってのに、俺って全然信頼されてない?」

レイヴンは口をへの字に曲げる。

カロル「正式な依頼じゃないけど、ベリウスの最後の願いだから……これを果たさないのは、義にもとるでしょ」

真剣な顔をしてカロルは言う。

ユーリ「ああ。それにベリウスがああなったのはオレたちの責任でもあるんだ。オレたちがケツもたなきゃな。それに、ドンならなぜ聖核(アパティア)が色んなヤツらから狙われるのか、しってるかもしれねぇ」

レイヴンがドンも欲しがってたからねぇと頷く。

ユーリ「聖核(アパティア)の事がもっとわかればフレンの気にいらねぇ動きの理由も少しはわかるかもしれねぇ」

レイヴン「じゃ、ドンヘの橋渡しはおっさんがしてあげるよ」

カロルがほんとに?と嬉しそうにする。

レイヴン「袖振り合うも他生の縁って言うからね。それくらいなら凜々の明星のために働くわ」

ずっと考え事をしながら話を聞いていたリタがレイヴンの方に振り向いて、あたしもドンのところに行くと言った。カロルはリタが……?と不思議そうにする。リタは色々あったでしょと話を続ける。

リタ「それって全部、この聖核(アパティア)につながってる気がするのよ。だから……」

レイヴン「ドンは俺たちに聖核(アパティア)を探せって言ってたしね。確かに何か知ってるかも」

レイヴンは顎を触りながら答えた。

ユーリ「じゃ、リタもドンのところまで一緒ってことで」

ユーリが話をまとめる。

パティ「……うちも、ダングレストに行くのじゃ」

ユーリ「オレたちと来た方が得なんだっけか?まぁ操船してもらう以上、オレたちにも都合はいいけどな」

パティ「別にそれだけじゃないのじゃ。ダングレストに記憶の手がかりありそうだから一緒に行くのじゃ」

パティはレイヴンの方を向いて、聞く。

パティ「前にダングレストのドンは、アイフリードの友達だって言っとったよな?」

急に話を振られたレイヴンは、ん?あぁと言って答える。

レイヴン「帝国と戦った時にアイフリードがドンに協力したって話だけど」

パティ「もしかしたら、ドンにうちの記憶の手がかり教えてもらえるかもしれん」

希望が見えてきたとパティは改まった声で言った。

ユーリ「そういうことなら……じゃあ、一緒に行くか」

ユーリは口角を上げる。

レイヴン「なんか、じいさん、大人気だな。忙しくて目回さなきゃいいんだが」

カロルが後はエステルなんだけど……と船室のドアを見つめた。リタがしばらくはそっとしときましょとカロルと同じように船室のドアを見た。だなとユーリは頷く。

レイヴン「そういえば、レナちゃんは?姿が見えないけど」

ユーリ「昨日の夜、話したっきりあってねぇな」

レイヴン「あら珍し……いつも、嬢ちゃんと一緒にいるイメージだからてっきり知ってるもんだと……」

リタ「確かに……。あんた、あの子かエステルとセットの時が多いわ」

ユーリ「って言われてもな、知らねぇもんは知らねぇよ」

カロル「あっ、レナ」

少女はおはよぉとまだ眠そうな目を擦り、ユーリ達に挨拶する。レイヴンがまだ起きてなかっただけなのねと言った。レナはそれに不思議そうに首を傾げると、レイヴンは気にしなくていいわよと伝えた。

ユーリ「……レナって、やっぱり、朝弱いよな……」

カロル「だね。ダングレストの時も、あんな感じだったし」

リタ「……ねぇ、いつもの髪飾りはどうしたのよ」

リタはレナの髪を指さし三つ編みはしてあるが、白いリボンが着いたバレッタでとめていないことを指摘する。少女は欠伸を噛みころして目尻にうっすら涙をのせながら答えた。

レナ「んっとね……昨日の夜、気がついたらなかった。どこかで落としたみたい」

レナはなんでもないように言った。特に気にしているようでは無い。ユーリは、昨日話したけど確かに頭を撫でた時に白いリボンは見てないなと思い返していた。リタはふーんと返す。

カロル「……ジュディスは、どうしたのかな……。ねぇ、ドンに聖核(アパティア)届けたら、ジュディスに会いに行かない?」

カロルの提案に、ああそうだなとユーリはカロルを見る。

ユーリ「掟を破った人間を、見過ごすわけにもいかねぇし」

カロル「う、うん。ちゃんと理由を知らないと」

レナ(……ジュディス。今頃どうしてるかな……)

ユーリ「でも、まずはダングレストだ」

レイヴン「トルビキア大陸の南岸に船がつけられる砂浜があるよ。そこから上陸した方が、ダングレストに近いかな」

よく知ってるものだなと少女は思う。ユーリが、んじゃそこ目指すかと言うとパティがあいあいさー!と敬礼して操船する。一、二時間後、フィエルティア号はトルビキア大陸の南岸に停泊し、ユーリ達はダングレストへ向かった。

 

―ギルドの巣窟 ダングレスト

 

レイヴン「こいつ連れて、ドンのところに顔出してくる。長くなりそうだから宿屋で待っててよ。終わったら行くからさ」

ダングレストに着くなり、レイヴンはハリーの首根っこを押さえてそう言った。歩き出すレイヴン達をカロルがまって!と呼び止めた。

カロル「ボクも……行っていい?」

レイヴン「うん?こりゃユニオンの問題だ。来ても話にゃ混ざれないと思うぜ?」

カロル「あの……その話とは別に聞きたいことがあって……」

レイヴン「あとで聖核(アパティア)を渡す時、みんなで聞きゃいいじゃないの」

カロル「みんなとは……聞けない……」

カロルは下を向いた。

ユーリ「長い話じゃないんなら、行くだけ行ってこいよ」

ユーリがカロルを送り出す。

レイヴン「ま、ダメもとで良いんなら」

カロルはユーリにありがとう、行ってくるよ!とニコリと笑うとレイヴン達に着いていった。カロル達の背を見送りながら、エステルは口を開く。

エステル「聖核(アパティア)のことも聞けないでしょうか」

レナが、それは長い話でしょと言えば、リタがそうよね……と頷く。パティがユーリ達の横を通り抜けようとして、リタにどこへ行くのよ?と聞かれる。

パティ「うち、この街に来たことがあるのじゃ……たぶん……」

リタは、また、たぶん、ね……と呟く。

ユーリ「そりゃ、アイフリードにもゆかりがある街だしな。じいさんについて来てたとしてもおかしくないんじゃないのか?」

パティは、ほじゃなと首を縦に振る。

パティ「ちょっと、辺りに話を聞きに行ってみるのじゃ」

ユーリ「ノードポリカやマンタイクん時みたいにならないよう気をつけろよ」

わかってるのじゃとパティは駆け出す。その背にユーリは、宿屋で待ってるからなと声をかけた。

ユーリ「さて、と……。大人しく宿で待ってようぜ」

レナとリタとエステルにいうと、四人と1匹は宿屋へ向かった。

 宿屋に着き、ユーリ達は受付を済ませた。

リタ「あたしとエステルは中で休んでるから」

何かしようとするエステルに対して先手をうつリタに、エステルは、え……で、でも……わたし……戸惑うようにリタを見る。リタはいいからと優しく言うと、あんた達はどうすんの?とリタはユーリとレナに話を振る。

ユーリ「そうだな。オレもそうするわ」

レナ「……私も、休もうかな」

部屋に着くと各々、休息をとる。ユーリは早々にベッドに横になっていた。今横になると寝てしまいそうだな、なんてレナは思うが昨日の疲れがまだ残っている体は横になりたいと訴えている。武器の手入れとか考え事とか色々とやらなきゃいけないことがあると思いつつ体の要望に抗えないまま、少女はユーリの隣のベッドに横たわった。瞼が重くなり意識は暗闇へと沈んでいった。

 ハッと顔をあげればそこはノードポリカの闘技場で、首から血を流した魔狩りの男が転がっている。これは夢だと何となく理解していた。しかしわかっていても、あの日の情景がはっきりと再現されていて少女を動揺させる。あの時の罪悪感は確実に少女を蝕んでいたのだ。動けるはずのない死体がずるずると動き出し、少女の足首を掴む。レナは冷たい感覚がした気がして思わず、ヒッと後ずさろうとするが、足首を掴んでいる手に阻まれた。どうして……どうして、殺した……と恨みが詰まった恐ろしい声で体を引きずりながら少女の体に這おうとする。冷たさが足首から膝へ、膝から太腿へと上がってくる。恐ろしくて、助けて欲しくて、焦りつつも周りを見るとベリウスがいた。必死にレナはそっちに手を伸ばす。ベリウスの表情は見えない。ただ一言発する、生きたかった、と。それは心の底では思っていたかもしれない事で、少女はヒュっと喉がなる。気がつけば、魔狩りの男とベリウス、見殺しにしたラゴウやキュモール、見捨てる形になったものたちが少女を囲んでおり、闇よりも暗い泥のようなものに足が浸かっていた。どんどんと下へ下へと引っ張られていく。あの中に入ってしまったら自分が自分じゃなくなる気がして怖くて逃げたいのに、囲まれているからそれが出来ない。ふと、遠くから、誰かが少女の名を呼ぶ声が聞こえた。

 しばらくして、レイヴンが宿屋に来た。リタとエステルはそれを出迎えて、エステルはユーリを起こす。ユーリはレイヴンの言葉に起きたばかりの回らない頭で相槌をうっていると、隣に寝ていた少女から、いや……たすけて……とか細い寝言が聞こえてきた。気になったユーリがレナの方を見ると、酷く魘されていて、顔色が悪い。青年は寝ぼけていた頭がスーッと冴える。レイヴンも聞こえていたのだろう、寝ている少女に近づいた。リタが、おっさんなにしてんの?と訝しげな表情して言う。レイヴンは、いや別に〜?なんて言いながら、少女の肩を揺すって起こす。

レイヴン「……お嬢ちゃん、朝よ〜」

朝なのはもちろん嘘だ。レイヴンなりのからかいでこれで起きてくれればと考えていた。けれど、少女は起きる気配はなく、むしろ更に眉にシワがよっていて手は固く握られていた。やばいかもしれないと思ったユーリがベッドから降りる。

ユーリ「……レナっ!起きろ!」

少し大きめの声で肩を揺らして今度はユーリがレナを起こした。レナはハッと目を見開いて体を勢いよく起こした。その勢いでユーリとぶつかる。

ユーリ「っ痛ってぇ!」

ぶつかった反動で後ろに下がり、痛む額をユーリはさすっている。一方、少女は肩で息をしながら震えていた。

レイヴン「ちょっ、大丈夫〜?青年」

レイヴンが痛そ〜と気にかける。あきらかに様子のおかしいレナに、エステルが心配なって近づく。

エステル「レナ?大丈夫です?」

少女は何も答えない、否、エステルの声すら届かないほど余裕がなかった。エステルの問いに答えないレナにリタが、あんたねぇエステルが心配してんだからと言い出すのをエステルが止めた。

レイヴン「……お嬢ちゃん、うなされてたみたいだけど」

いの間にか水が入ったコップを持ったレイヴンがそれを少女に差し出そうした時、レナにはそれが夢で見た黒い手と重なり、夢での恐怖がフラッシュバックして、ヒッと怯えた声を出してコップごとレイヴンの手を弾いた。パシャッと水がベッドとレイヴンの服を濡らす。ユーリ達は少し驚き、数秒ほど静寂がおとずれて、すぐに少女はハッとして謝る。

レナ「ぁ……ちがっ、ごめ、ごめんなさい……!」

少女の顔色はさらに悪くなり、カタカタと震えて怯え、呼吸がヒュっ……ハッ……と不自然になっていく。ちゃんと息が出来なくなってきてレナは焦りだす。

レナ「……ヒュッ……くるっ……しっ……ハッ……」

レイヴンが、過呼吸か……!とつぶやく。エステルはワタワタと慌てるばかりでどうしていいか分からないようだ。リタも同じようで動けないでいる。そんな中、素早くユーリが過呼吸の対処を始めた。

ユーリ「大丈夫だ……オレに合わせて息をしろ」

普段の声とは違う、酷く優しい声でユーリはレナを宥めるように言った。はじめは上手く出来ず涙目になる少女だったが、だんだんと元の呼吸に戻っていく。すかさずエステルはそっと、レナの手を両手で包んで、その調子です大丈夫ですよと微笑んだ。

レイヴン「……落ち着いたみたいね」

そういって濡れてしまった紫の羽織を脱ぐ。リタが、ホッと胸を撫で下ろす。

レナ「ごめん。……みんな、ありがとう」

エステル「落ち着いたみたいで良かったです」

ユーリ「んで、だいぶ魘されてたけど、どんな夢見たんだよ」

レイヴン「そうよ、あんなに取り乱すの珍しいよねぇ」

レナ「どんな夢……。魔物に襲われる、夢かな」

レナ(ホントは違うけど、エステルが今辛い思いをしてるのは私が防げなかったせいだから。私が辛いと思うのは、違う)

少女は嘘を言った。

リタ「魔物に襲われる、夢?」

リタは不思議そうに首を傾げる。なんで今更?と思ってるみたいだ。

レナ「よりによって苦手な虫系の魔物だったから……」

少女は今にも思い出すだけで鳥肌が……と腕をさする演技をする。しかし、レイヴンとユーリは内心なんだかそういう夢じゃないような気がした。少女なら、その夢であんなに怯えて震えるか?と二人は疑問に思った。

リタ「ふーん。で、もう大丈夫なわけ?」

チラチラとレナを見ながら、心配そうな顔で聞くリタ。こういう所は不器用で、だけどとても仲間思いな彼女にレナは首を縦に振る。

レナ「うん。もう、へーき」

平気といった少女に、僅かに眉間に皺を寄せるユーリ。レナが平気じゃないのに大丈夫な振りをする時は、へーきと言う癖を青年は気づいていた。

レナ「ねぇ、そういえばカロルがいないけど……?」

部屋をキョロキョロ見渡した少女がレイヴンに聞く。

レイヴン「あぁ、ユニオン本部で別れたきりなんだけどな、戻ってないみたいだね」

エステル「どうしたんでしょう……」

エステルは胸に手を当てて心配そうだ。

リタ「おっさんが戻ってきたんだからユニオンの話はまとまったんでしょ?ドンにあってるんじゃない?」

レイヴンが、それがなぁと気まずそうに話し出す。

レイヴン「ハリーとノードポリカの一件を聞いたら、ドン、一人で出てっちまった」

ユーリ「一人で?らしくねぇな。どこに行ったんだ?」

レイヴン「これは俺様の勘だが……おそらく背徳の館っつー海凶(リヴァイアサン)の爪の根城に向かったんじゃないかな」

ユーリがなんだと?と低い声で呟く。

エステル「海凶(リヴァイアサン)の爪の首領(ボス)って、あのイエガーですよ!危険です!」

レイヴン「ま、イエガーは手出さないだろうけどねぇ。それが元でユニオンと正面切ってぶつかるハメになったら商売上がったりだろうからな」

リタが、じゃあドンはなんで……とレイヴンに問うが、レイヴンは答えられなかった。

レイヴン「っつーわけで、悪いけど今ドンはこの街にいない」

ユーリ「んじゃ、行くか。海凶(リヴァイアサン)の爪の根城とやらに」

リタ「おっさんの勘を信じるの……?」

その言葉にレイヴンは酷いわねぇと悲しそうな顔をした。

ユーリ「じいさんの相手が海凶(リヴァイアサン)の爪かもってんなら放ってもおけねぇ。手を出さねぇとは限らねぇ連中だしな」

リタ「……まぁ、いっか。待ってるのは性に合わないし」

ユーリ「パティの奴も戻ってないのか。しょうがねぇ……置いてくか。……エステルは待ってるか?」

エステルは首を横に振り、わたしも……ついていきますと返した。そばに居たリタがエステルに振り向いて、エステルに無理しちゃダメという。闘技場の一件からまだ立ち直っていない彼女が治癒術を使うこともストレスになりかねないとリタは心配だった。

エステル「いえ……だいじょうぶですから」

そう言って気丈に微笑む彼女に、リタはもう止めることはしなかった。

ユーリ「レナはどうする?」

レナ「一緒に行く」

即答した少女は、大丈夫なの?と思っているリタの視線を感じとった。

レナ「もう、へーきだから。それに、夢は夢だしね」

少女はリタを見ながらそう言って、微笑んだ。

レイヴン「……背徳の館がどこにあんのかわかってんの?」

レイヴンは話の区切りがついたところでユーリに聞く。その目はなんだかジトっとしていた。

ユーリ「おっさんが知ってるだろ。一緒に来るよな?」

さも当たり前のように言ってのけたユーリに、そりゃま行くけどもと二つ返事でレイヴンは言う。

ユーリ「決まりだな。じゃあ、カロルを拾って……」

と言いかけた時、外でなにやら大きな音が聞こえた。ユーリが何だ?!と驚く、リタが橋のある方から聞こえたみたい……と呟く。レイヴンがあちゃぁ……と額に手を当てた。

レナ(……ギルドの連中が動き出したんだ)

エステルが行ってみましょう!と提案して、ユーリ達は外へ出た。

 宿屋を出て橋の方に行くと人だかりが出来ており、リタが何この人だかり……呟いた。エステルが人だかりの中からカロルを見つけてユーリに教える。レイヴンが人だかりの中の男たちに声をかける。

レイヴン「待て待て、落ち着けおめーら。こりゃ何の騒ぎよ?」

男は、戦士の殿堂(パレストラーレ)の連中がヘリオードの辺りまで乗り込んできてるらしいんだとレイヴンに教える。

レイヴン「こっちの非で向こうの頭が殺られたんだ。話をつけに来るのは当然よ」

男は、ドンがいないとわかったら、奴ら暴走するかもしれないと危惧しており、オレたちがドンが戻るまで街を守るんだと意気込んでいた。レイヴンは、ったくおまえらがそんなだからドンは……とため息をついた。

レイヴン「ギルド同士がぶつかったりしたら、また騎士団の連中が首つっこんでくるかもよ?」

別の男が、ダングレストは帝国から独立したんだ!と、だからなんだと言うんだと主張する。レイヴンは協定はまだ結ばれてねーっつのとウンザリしたように言った。カロルがユーリ達に気づいてこちらに駆け寄ってくる。

カロル「ユーリ!みんな!どうしよう?!ギルド同士の戦争になっちゃう!ドンがいたらこんなことには……」

カロルは不安そうな顔で、涙目になっている。

ユーリ「ドンは背徳の館って海凶(リヴァイアサン)の爪の根城に行ったかもしれないってさ」

それを聞いたカロルは、え!それほんと!と少し嬉しそうにする。エステルがおそらく……ですけど……と付け加えた。

ユーリ「オレたちは今からそこにいってみる。一緒に来るか?」

カロルはすぐには答えず、でもドンそこにいないかもしれないんでしょ?とユーリに聞く。リタがおっさんのカンだしねと呟く。

カロル「もしいなかったら……ドンを探してる間に戦争になっちゃったら……ユーリ……どうしよう……?どうしたらいいんだろう……?」

眉尻を下げて、カロルは今にも泣きそうな顔をした。

ユーリ「背徳の館はオレたちだけで大丈夫だろ。カロルは自分の思うようにやればいい」

カロルを安心させるようにユーリはニカッと笑った。

カロル「う、うん……じゃあボク、みんなと話してくる!」

カロルはさっきまでの表情とは真逆に、パッと笑顔になって人だかりの中に飛び込んで行った。

エステル「これで良かったのでしょうか?」

リタ「仕方ないわ。ドンを追う事とここに残って街を守ること、同時には出来ないんだから」

レナ「ドンが背徳の館で見つかると、いいけどね……」

ユーリ「オレたちも行くぞ。ドンの遊び相手が本当にイエガーだったらタダですむとは思えねぇ」

レナ(ベリウスが亡くなるのをふせぐことが出来なかった。つまり、ドンが死ぬということ。私の……せいで……)

レイヴンとカロルをおいて、ユーリ達は街の外へ向かう。レイヴンが後ろで、ちょ場所わかってんの?!ずっとにしに行ったとこよ!と叫ぶ。そのまま、ってゆっかおいてくな〜と駆け出した。

 ユーリ達が街の外へ向けて急いでいると、待つのじゃああと女の子の叫び声が街中に響く。ユーリの真後ろに上からパティが降ってきた。レナがパティ……と呟き、ユーリは急なことにビックリしていた。パティはそのまま、どこへ行くのじゃとユーリに問う。ユーリは、ドンに会いに行くんだよと答えた。パティはうちもいくと言う。そっちはもういいのかと今度はユーリが聞く。

パティ「あんま芳しい成果がないから当初の目的通り、ドンに会いに行くのじゃ」

ユーリ「言っとくけど、目的地は海凶(リヴァイアサン)の爪のアジトだぜ」

パティは頭にハテナを浮かべた。

パティ「……どういう理由でそうなったかはよくわからんが、望むところなのじゃ」

腰に手を当てどんと構えるパティに、それじゃあついてこいとユーリはニヤリと笑った。レイヴンがちょいまちと口を挟む。ユーリがなんだよおっさんと不思議そうにした。

レイヴン「わかってんの、敵の本拠地に行くってことがどういうことか」

ユーリ「どういうことかっていわれてもな……」

そう返した青年に、レイヴンはまったく……と額に手をついて首を横に振った。

レイヴン「こっちはアウェイだ、アウェーイ。準備万端の向こうにこてんぱんにやられたら、おしまいだかんねー」

レナ「つまり、ちゃんと準備できてるのかって、言いたいんでしょう?」

少女の言葉に、そゆこととレイヴンが頷く。ユーリは準備万端だっての気合いバッチリに返す。本当に大丈夫かぁ?と心配するレイヴン。

ユーリ「いつになく心配性だな。大丈夫だよ」

レイヴン「そうか?んじゃあ、行きましょ」

 ユーリ達はダングレストから出て背徳の館を目指し西の方へと歩き出した。

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