ユーリ達がダングレストから出発して
―背徳の館
夜だというのに何重にも警備が敷かれており、侵入するのは至難の業だ。館の門で入口の様子を伺っていると、誰かが騒いでいる。気づかれないように見てみると、イエガーの部下、ドロワットとゴーシュだった。彼女たちは、
パティ「ビンゴなのじゃ。話を聞くチャンスなのじゃ……」
パティは少し嬉しそうにした。
男「あんたたちは魔狩りの剣が竜使いを狙ってるってネタを探りにいったはずだろ?」
ゴーシュ「だから、テムザ山へ向かう前にドンがここへ向かったという情報を得たと言っている」
ドロワット「そんなの知ったらほっとけないでしょ」
男と二人はまだ言い争っている。
レナ(……ジュディス)
少女は憂いの漂った顔をする。
ユーリ「魔狩りの剣がジュディを狙ってるだと?」
痺れを切らしたドロワットが早く通してよ〜!と声を荒らげる。
ドロワット「戦いになっちゃったらば君たちじゃイエガー様の役に立たないでしょ!」
男はくっ……と仕方ないという顔をすると、何人かつけることを条件に二人を中へ入れた。
レイヴン「ラッキー♪警備が減ったぜ」
ユーリ「オレらも便乗と行きますか」
と言った時、なんだおまえら!とユーリ達を見た黄色いフードの男が、他の人に報告しようと駆け出す。すかさずラピードが防いだ。男は驚いて進めない。ナイスだラピードとユーリは褒めた。ユーリは男をあっという間に片付けると、周りを見渡して気づかれていないか確認する。この騒ぎに気づいたものはいないみたいだった。レイヴンがなら、とっとと入っちゃいましょと誘導する。エステルは悩ましい顔で、どうしてジュディスが魔狩りの剣に狙われるんでしょうと口に出す。
リタ「連中が
レナ(リタの考えはあながち間違いではない。けれど、まだ
レイヴン「連中がベリウスを狙ったのは、ハリーの依頼だからってだけじゃ無いって事か。連中が
パティがジュディ姐……と下を向く。
ユーリ「ジュディも心配だが、ドンのじいさんの方が先決だろ?あの賑やかな女共も入っていったしな」
パティは顔を上げてじゃなと頷く。
パティ「ここをさっさと片付けるのじゃ」
レイヴンも急ぎますかねと入口を見た。ユーリが動かないエステルを見る。エステルはただ、ジュディスが心配でと訴えた。ならテムザ山ってとこに行ってみればいいいよとレナが提案する。エステルはでもドンは……と俯つむいて、悩む。
ユーリ「自分で決める。そうだったよな?」
そのまま行くぞとレイヴン達に言ってエステルに背を向けた。
エステル「わたしも!行きます!今ドンを放ってジュディスに会いにいってもきっと怒られちゃいます。『あなたの目的は何だったの?』って……」
決心した彼女は勢いのままにユーリ達に伝える。
リタ「……大丈夫よ。あの女なら、強いんだから」
まだ不安そうな顔が残るエステルに、リタは安心させるように言った。
ユーリ「じゃ、とっととドンのじいさん連れ戻そうぜ。やらなきゃいけないことがまた増えたしな」
エステルははい!と返事した。
中に入ると、黄色いフードの男たちがそれぞれの配置に付いているらしく気づかれる度にユーリたちは倒していく。2階へと上がる階段に着いて見上げると、刃を交えるドンとイエガーの姿があった。レイヴンがじいさんとよぶ。ドンの元へ行こうとした時、三人の赤眼とゴーシュとドロワットが立ちはだかった。ゴーシュが通さないと一言、ユーリ達を睨んだ。
ユーリ「おっさん、
ドロワット「仕掛けたのはドンの方よん♪」
レイヴン「なんだと?それじゃじいさん、やっぱり……」
レイヴンはドンを見る。
レナ(……もう、しかたない、手遅れ……なんだ)
ドン「何しにきやがった!バカやろうが!若いのまで連れてきやがって」
ドンの怒号が響く。
イエガー「エクセレントな演出、感謝感激、サンキューよ!」
ドンはイエガーに剣を振るう。イエガーはそれを避けて別の場所へ移動した。ドンもそれを追いかける。
リタ「一体どういうことなのよ!」
ユーリ「ちっ、邪魔なんだよ!」
ユーリは剣を構え、仲間たちも構える。二人、三人と赤目を倒した後、レイヴンはドンは?と見渡す。
レナ「イエガーを追って、奥に行ったよ!」
ユーリが追うぞ!と声をかけて、階段を上がり奥へ急いだ。
部屋のドアをユーリが乱暴に開ける。ゴーシュとドロワットがドンとイエガーの邪魔をさせないように立っていた。
イエガー「まさかユーがこんな強引なプランでくるとは……」
ドン「てめぇに生きてられると世の中ややこしてしょうがねんからな」
イエガー「ユー自らがユニオンの掟に反して私闘なんてすると他の五大ギルドも黙ってナッスィン」
ドン「覚悟のうえよ。だが、夜が明けちまった」
ふと窓の方を見れば、空が白んできていた。
ドン「てめぇの力量を測り損ねてたみたいだな。時間切れだ。もうダングレストに戻らねぇとバカ共がケンカ始めちまう」
イエガー「ふ、ふん。今更ユーが戻っても衝突はさけられないでしょう」
ドン「タダじゃあな。払う代償は用意してある」
レイヴンが代償……か……と呟く。
レナ(……代償は、ドンの命)
少女は、左腕を右手で握って、少し下を向く。
ユーリ「こっちの落とし前がまだだぜイエガー」
ユーリは剣の柄に手をかけた。
イエガー「さすがに旗色悪いでーす。グッバイでーす!」
じりじりと後ずさりしていたかと思うと、窓を蹴破って姿を消した。ゴーシュとドロワットも後に続く。
ユーリ「ちっホント逃げ足の早い」
ドン「おまえらは何だ。雁首そろえてこんなところにまで来ちまいやがって」
レイヴンに向かってそう言うと、ドンはパティを見てん?そこのチビっこいのと眉を上げた。
パティ「チビっこいのではないのじゃ。パティなのじゃ」
ドン「すまねぇな、パティか。ちょっと面ぁコッチに見せてみろ」
パティはドンに近づき、ドンはパティの目線にしゃがむ。
ドン「……こりゃあ、驚いたな……」
ドンは少し目を大きくする。パティは不思議そうな顔をした。
ドン「てめぇ……アイフリードにそっくりだ……まさに生き写しだぜ……」
エステル「え……じゃあ、やっぱり……パティがアイフリードの孫ってのは本当……?」
ドン「孫?孫か……奴に孫がいるなんて話、全然、知らなかったぜ」
ユーリ「なるほどな……パティのたぶんに間違いなかったってことか……」
ドン「例の事件のことは、身内として色々とやるせないことも多かっただろうな」
レナ(……あの事件、か)
パティ「ある理由があって、うちはアイフリードの足跡を追ってるのじゃ。友達だったドンなら、何か知ってるかと思って訪ねてきたのじゃ」
ドン「ふん、友達なんてそんな大層なもんじゃねぇ。自由気ままな奴だ、俺はあいつがどこで何をしてたのか。そして今はどうしてるのか、そこまでは知らねぇさ」
パティ「そうか……前に……どこかで会ってなかったかの……?」
ドン「ん……?俺と、か?さあな」
ドンは立ち上がりながら答えた。ユーリがドンに蒼穹の水玉を差し出す。
ユーリ「じいさんの盟友の形見だ。あんたに届けてくれって頼まれた」
ドン「そうか、世話をかけたな……ちっ……こんな姿になりやがって……」
ドンは
リタ「ねぇ、その
ドンはこいつはなと説明しようとした時、ドアの外が騒がしくなる。
ドン「話してる暇はねぇ、か。すまねぇがザコの相手は任せる」
そういうとドンは窓から飛び降りた。と同時に、赤目達が部屋に突入してきた。
ユーリ「こりゃオレたちも逃げようぜ」
レイヴンがユーリの隣に来て、弓を構える。
レイヴン「悪い。時間稼いでやってくれ」
エステルがレイヴン?と首を傾げると、レイヴンは真剣な目をして頼むわと言った。ユーリはしゃーねぇなと呟くと剣を構える。それを合図に仲間たちも武器を構えて赤目達を倒していった。区切りがついたところで、そろそろ潮時だぜとユーリが告げる。だなとレイヴンが頷く。エステルとユーリ、レナ以外は窓からさっさと飛び降りた。エステルは、ここから……?と怖気つくが、ユーリがエステルをお姫様抱っこして一緒に飛び降りた。きゃっとエステルの小さな悲鳴が聞こえた。
レナ(……この世界に来てから身体能力上がってるみたいだし、多分、大丈夫だよね)
少女も、窓から思いっきり飛んだ。が、この高さからの着地なんてしたことがない。あ、やばいかも……と一瞬頭によぎった。目を瞑ってとりあえず衝撃に備えたが、地面に当たったような衝撃はなく誰かに受け止められていた。
レイヴン「……っと、大丈夫〜?」
上から降ってきた声はレイヴンだった。
レナ「っ……レ、烏さん……。ありがとう」
予想してなかった人物に少女は思わず名前を呼びそうになって言い直した。お礼を言って、下ろしてもらう。
ユーリ「どうもいやな感じだ。オレたちもダングレストに戻るぞ」
―ギルドの巣窟 ダングレスト
ユーリたちがダングレストに戻り街中へ歩いていると、ユーリを見つけたカロルがこちらに走ってくる。
カロル「ユーリ!大変だよ!ユニオンと
喧騒の中、カロルは声を張ってユーリたちに訴えた。
レイヴン「ドンは間に合ったようね。けど、やっぱりか……」
少女はレイヴンから目を逸らしていた。
エステル「やっぱりって、どういうことです?」
レイヴン「じいさん、最初から死ぬつもりだったのよ」
リタ「なんでよ!ワケわかんないんだけど」
リタが声を荒らげる。パティがケジメ……かの……?と呟いた。
レイヴン「ハリーが先走って、結果、ベリウスが死んだ」
少女は体をビクッとさせた。誰も気づくことなく、レイヴンは続ける。
レイヴン「ノードポリカの
レイヴンは静かに説明した。
エステル「じゃあ背徳の館でドンが言っていた代償って……」
ユーリ「じいさん自身の命か……。腹切る覚悟を決めてたから掟を破ることになってもイエガーを討ちに行ったってのか」
カロルは、そんな!そんなのって!と叫ぶと、ドンの方へ走っていった。
エステル「きっと他に方法があるはずです!」
レナ「あったとしても、この状況じゃ時間が無い。カロルの話を聞くからに一触即発みたいだし」
悲しみと自身に対する怒りでごちゃまぜな表情とは裏腹に淡々と少女は言った。レイヴンが頷く。
レイヴン「このままだとユニオンと
パティ「他の方法を探してる時間はもうないってことなのかの……」
悲しげにパティはぽつりと言った。エステルは俯いていた。
ユーリ「……オレもじいさんのところ行ってくる」
ユーリと一緒に仲間たちがドンの所へ着いた時、人だかりの先にドンと話しているカロルの姿が見えた。人だかりの中から金髪の青年がドンの方へ飛び出す。ハリーだ。ドン、オレも一緒に……!と言う彼を、レイヴンがバカ野郎が!と感情のままに殴り飛ばす。そのままレイヴンはドンの方に振り向くと、じいさんあばよとドンに言った。
ドン「レイヴン、イエガーの後始末頼んだぜ」
レイヴン「ははっ、俺にゃ、荷が重過ぎるって」
ドン「おめぇにしか頼めねぇんだ」
レイヴン「……ドン」
ドンは、パティを見る。
ドン「お嬢、街の酒場の倉庫から地下に降りてみろ」
急なことにパティは驚く。そんなパティをお構い無しにドンは続けた。
ドン「そこにアイフリードの名前が彫り込まれた壁がある。おめぇも奴の孫なら、奴がどんなことにかかわってどう生きたか、片鱗を見ておくのも悪くねぇだろ」
パティは無言のままドンを見つめた。
ドン「それとそこの黒髪のお嬢」
私……?!とドンと目が合ったレナは目を見開く。
ドン「変えたいものがあるなら、迷うな」
レナ(……どこまで察して)
レナは、呆気にとられながらこくりと頷いた。
やがて、
ドン「すまねぇことをした。あのバカ孫もれっきとしたユニオンの一員だ。部下が犯した失態の責任は頭が取る。それがギルドの掟だ。ベリウスの仇。俺の首で許してくれや」
エステルはじっとその様子を見ていて、リタはドンに背を向けて悲しげに文句を言った。気がつけば周りは街の人やギルドの人、ドンを慕っていた人たちの悲しみの声で溢れていた。ドンが刃物を鞘から抜き準備する。
ドン「すまんが誰か介錯頼む」
その場にいたほとんどの人が重さを背負いたくないのかドンから目をそらす。目を逸らしていないのはユーリ、エステル、レナだった。数秒の沈黙の後、ユーリがオレがやろうとドンの方へ歩き出す。リタがユーリの方へ振り返った。ユーリとドンが会話を交わす。それからその場にいるもの達に言葉を遺した。
ドン「てめぇら、これからはてめぇの足で歩け!てめぇらの時代を拓くんだ!いいな!」
ドンは自らの腹に刃をあて横にひく、腹から血を吹き出しユーリがつかさずドンの首を斬り落とした。より一層、悲しみの声が大きくなった。
ドンの死を悼む声が落ち着いてきた頃、介錯人をやったユーリと、見守っていたエステル、リタ、ラピードはユニオン本部で休んでいた。一方、レナは街の中をぽつぽつと歩いていた。何かしながらじゃないとこの痛みを紛らわすことなど出来ないと思ったから。
レナ(……変えたいものがあるなら、迷うな……か。ベリウスの件、私は知っていながら黙っていた。ドンの事も。変えたいなら迷うな、これからは迷わないよ。たとえ、仲間を傷つけるかもしれなくなっても)
少女は宛もなく街を歩いていると、ユーリとカロルが話しているのが見えた。
カロル「ギルドの
その言葉が聞こえた瞬間、レナは弾かれるようにカロルの方へ走った。ユーリが驚いたようにこちらを見ているが、レナは気にしない。カロルも、レナっ?と少女を見た。レナはカロルの手を引く。カロルはえっちょっと言いつつもレナに手を引かれて立ち上がった。少女はカロルがちゃんとたったのを確認して小さくごめんと呟くと、パシンっと乾いた音が響いた。カロルは叩かれた頬をおさえて呆然としている。
レナ「……あなたにとって、ギルドって、
淡々と、けれど確かに怒りを感じる声で少女はカロルに言った。
カロル「っ一流のギルドを作りたかった!そしてドンの役に立ちたかった!認められたかったよ!ドンはボクの憧れだったんだ……」
力なくその場に座り込むカロル。
カロル「でも、もうドンはいないんだ……」
レナ「だから、やめるの?」
カロルは答えない。レナ達の後ろに立っていたユーリがいつの間にか隣にいた。
ユーリ「ドンは何を守って死んで行った?それがわからないおまえじゃないだろ」
カロル「なんでも出来るユーリとレナにはボクの気持ちなんてわかりっこない!ボクはユーリやレナ達みたいに強くないんだ!ユーリやドンみたいにはなれないんだ!もう……」
ユーリ「カロル!ドンがおまえに伝えた事は何だった?ドンが見せた覚悟も忘れちまったのか?」
カロルは何も言えず、ただうずくまっていた。
ユーリ「オレはギルドとしてけじめをつけるためにジュディを探してテムザ山に行く」
そういったユーリに、カロルがえ……と顔を少しあげる。
ユーリ「おまえがやめても
ユーリは言い切ると踵を返す。
レナ「……カロル、よく考えて。本当にここでやめてしまったら、後悔、するよ。ここを出るギリギリまで待っているから」
レナはカロルにそう残すと、ユーリの後をついて行った。
街の出入口の近くまで行くと、エステルがいた。
エステル「……カロル……大丈夫でしょうか……」
エステルはカロルを案じて顔を曇らせる。そんな彼女に、ユーリの後ろからひょこっと前に出て、大丈夫だよとレナは言った。エステルはでも……と胸に手を当てる。
イエガー「ボーイアンドガール、ナイストゥミートゥユー?」
エステルがイエガー……!と名を呼んだ。ユーリとレナはイエガーの方に振り返る。ゴーシュとドロワットを連れていた。
ユーリ「よく顔を出せたな。ケンカの種をまいといて」
イエガーを睨み、いつもよりも低い声でユーリは話す。
イエガー「ケンカの種を?ナンノコトデスカ?」
ゴーシュ「
ドロワット「そうそう、ウチらは情報を教えただけよん☆」
イエガー「そうでーす。ドゥユーアンダースタン?」
レナ「……いい度胸だこと」
詠唱陣の光を纏いながら静かに少女は言う。
イエガー「……今日はやめましょう。ドンがお亡くなりになったのです。オトムライが大ナッスィンです。本当に惜しいミスター、亡くしましたデス」
少女は心の中で舌打ちをして光を納めた。
ユーリ「おまえらの狙いはなんだ?ドンを消してユニオンを掌握しようってのか?」
イエガー「ノンノン、確かにドンがいなくなってビジネスはイージーになりましたが……」
どこから出したのか、イエガーは青いラッピングが施された花束を持っていた。
イエガー「……やめまショウ……トゥディは個人として来てるのでーす」
ユーリはイエガーに背を向けた。
ユーリ「……ドンの前で無粋な真似はしたくねぇ。オレの気が変わらないうちに消えろ」
イエガー「ミーもドンの死を悼む気持ちは同じデース。今日のところはシーユー」
イエガーはそう告げると、ゴーシュとドロワットを連れてドンの墓へ去っていった。
エステル「イエガーもドンを悼んでいる……わたし、わかりません……自分でドンを陥れておいて……」
レナ「ギルド
エステル「ギルドと個人は別物ってことです?」
ユーリがそうかもなと言いながら、視線をイエガーが去っていった所からエステルに移動させる。
ユーリ「ドンにとってのイエガーもギルドと個人じゃ思うとこが違ったようだしな」
エステル「ドン自らが掟を破って私闘を挑む程ですしね」
ユーリ「さぁ、もう行こうぜ」
エステル「あ、はい。リタとは街の出口で待ち合わせてます。パティにも宿屋に言付けをお願いしておきました。でも、カロルは……」
レナ「心配しなくても、彼なら大丈夫」
ユーリ「そうそう、ほら行くぞ」
ユーリ、エステル、レナ、ラピードはリタがいる街の出口に向かう。リタはやっと来たという顔をして振り返る。見当たらない顔がいることに気づいたリタは聞く。
リタ「カロルとパティは?」
やはり、エステルと同様に心配なのだろう。
レナ「二人なら大丈夫」
エステルとリタを安心させるようにレナは言う。
ユーリ「それより二人ともこれからどうするつもりなんだ?」
リタ「あたしはもちろん一緒に行くわよ。言ったでしょ?エアルクレーネの調査はあんたたちとするって決めたの」
ユーリがそうだったなと頷いた。
エステル「わたしもユーリと一緒に行きたいです。ジュディスが魔狩りの剣に狙われているかもしれないのに放っておけない……」
リタ「あの女を助ける義理なんてないでしょうに」
レナ(……リタはきっと、
エステル「……ジュディスは一緒に旅してきた仲間です……」
リタ「でも、船の
そっぽを向いて腕を組んで言った。エステルはでも……と下を俯いた。
レナ「私たちが行くのは、助けに行く為じゃなくて、ケジメをつけるため」
リタとエステルは少女を見つめた。
ユーリ「ジュディが一体、何を知っていて何を知らないのか……全部話してもらう。ギルドとしてケジメをつけるために」
リタ「ま、結果助ける事になるかもだけど」
レナ(……リタからすれば複雑だよね。許せないし、けど心配なのも本当だし)
エステル「三人ともジュディスが心配なんですね」
エステルはニコリと笑って言った。
リタ「な、何言っての!あくまでついでよ!」
エステルの方を向いてリタは反論した。
リタ「それよりギルドのケジメっても肝心の
レナ「強い子だから、大丈夫。必ず、来るよ」
話をしているとパティが宿屋の方からこちらへ歩いてくるのが見えた。エステルが足音に振り返って、パティが来ましたと仲間に報告した。
ユーリ「じいさんの足跡、ちゃんと見てきたか」
パティ「うむ……しかと、心に刻み込んだのじゃ」
ユーリ「で、何か少しでも記憶を取り戻す材料になったか?」
パティ「そううまくはいかないみたいなのじゃ……でも、これしきのことでめげてもいられないのじゃ」
困り眉を作り浮かない顔を見せるが、すぐに立ち直るパティに、ユーリはニヤッと笑ってだなと返した。
レナ(……パティも、強い子、だね)
パティ「もう少し……うちも一緒に行ってもいいかの?」
ユーリ「構わねぇぜ。じゃ、行くか」
歩き出す彼に、エステルがレイヴンはどうするんです?と投げかける。
リタ「さすがに来ないでしょ。ドンを失ったこの街をほっとけないだろうし」
ユーリ「だろうな、おっさんにはおっさんのやることがある」
エステルは寂しくなりますねと静かに呟いた。
レナ「でも、烏さんのことだから、またすぐに会えるよ」
エステルは、少女のすぐという言葉に首を傾げる。
リタ「で、テムザ山っていうのはどこにあるの?」
ユーリ「コゴール砂漠の北の方じゃないかと思う。バウルってのと砂漠の北の山に住んでたって言ってたしな」
エステル「確かにデズエール大陸の北西部には山脈が広がっています」
ユーリ「とりあえずそこから当たってみよう」
パティ「デズエール大陸までは船、うちの出番じゃな」
パティはニコリと笑った。ユーリはああと頷くと、船に行こうぜと声をかけて皆は船へ向かった。
ユーリ達は準備をすませ、船に乗り込む。遠くの海鳥がないているのがよく聞こえるほどの静寂の中、皆カロルを待っていた。どれくらい待っただろうか短いようで長い時間が経った頃、遠くからカロルのまって〜!!と叫ぶ声が聞こえた。リタはハッとして嬉しさを隠すようにそっぽを向く。船頭に立っていたパティが甲板に飛び降り、タラップの方へ走り出す。ラピードもその後を続くように駆ける。エステルとパティのカロルと呼ぶ嬉しげな声が重なった。すごく急いできたのだろう、肩を弾ませて待ってともう一度繰り返し、僕も一緒に行くとカロルは言う。リタがまったくというようにカロルの元へ歩き腰に手を当てながら微笑む。レナはちょっとほっとしたように肩の力を抜いた。先がわかっていて皆には大丈夫などと言っても、結局レナも心配だったのだ。息を整えたカロルはしっかりと立つと、ユーリと隣にいたレナの方を向いた。
カロル「ドンの伝えたかったこと、ちゃんとわかってないかもしれないけど……
カロルはエステル、リタ、パティ、ラピードの方に振り向いて続ける。
カロル「ここで逃げたら……仲間を放っておいたらもう戻れない気がする……後悔すると思ったんだ。だから!ボクも行く!一緒に連れてって!」
ユーリ「カロル先生が
カロルはユーリの方を向いてありがとうと言うが、でも……と下を俯く。
カロル「もう
ユーリはん?と疑問に思って首を傾げる。
カロル「ボクは……まだ
決意を新たにしたカロルに、ユーリは優しく微笑む。
ユーリ「……わかった、カロル。がんばれよ」
カロルは元気よくうん!と頷いた。
リタ「ほんとギルドって面倒。アツ過ぎ。バカっぽい」
パティ「きっとそこがギルドのいいところ、なのじゃ、たぶん」
うんうんと首を縦に振り、腕を組んでパティは言う。エステルは微笑ましそうにユーリ達を見ていた。んむんむ青春よのうと、上から声が降ってくる。見上げるとレイヴンが居た。リタがうわっ!お、おっさん……?!と身体を仰け反らせる。レイヴンは甲板に飛び降りると、若いって素晴らしいねぇと言ってカロルを見た。
ユーリ「おっさん、何してんだよ」
レイヴン「えー、おっさんがここにちゃだめなの?」
体を項垂れさせて露骨に落ち込むレイヴンをユーリはウザったそうに目をそらす。
エステル「だって、ドンが亡くなった後で大変って……」
レイヴン「んー、色々と面倒だから逃げてきちゃった」
すくっと体を起こすと船尾の方へ歩きながら言って、後頭部で手を組む。カロルがレイヴンに近づいて、ドンに世話になったんでしょ悲しくないの?と聞く。
レイヴン「ああ、悲しくて悲しくて、喉が渇くくらいに泣いてもう一滴も涙は出ない」
大袈裟な演技を披露しながら、それっぽい声でいうレイヴンにリタが全然そうなふうに見えないけど、と冷たく言った。
ユーリ「さすがのおっさんもドンの最後の言葉を無視できないって事だろ」
レイヴン「ん、んなわけないってーの。言っただろ、俺には重荷だって。あっちはあっちで残ったやつがやってくれるって」
レイヴンは動揺を隠すように並べたてた。
レナ「まぁ、そういうことにしてといてあげましょ」
少女はユーリの顔を見上げてウィンクした。レイヴンが全く最近の若人は怖いわねと呟く。
パティ「大勢の方が賑やかでいいのじゃ」
パティの言葉に、楽しいものねとレナは首を縦に振る。
リタ「これは賑やかじゃなくて、うるさいって言うのよ。前にも言ったでしょ」
口では文句を言いつつも、リタの顔はにこりと楽しそうに笑っているのをレナはユーリから視線をずらして見ていた。
レナ(ふふっ、リタったら素直じゃないなぁ)
エステル「じゃ、デズエール大陸に出発ですね」
カロルが不思議そうに、なんでデズエールなの?と首を傾げる。
レナ(あ、そっか。カロルは知らないんだっけ)
少女はそう思いつつレイヴン達から視線を外す。
レイヴン「良いカンしてんじゃないの。察しの通りテムザ山はコゴール砂漠の北にある。あそこにゃ、確かクリティア族の街があったしな」
随分詳しい彼に、リタがなんでそんなこと知ってんのよとつっこむ。
レイヴン「少年少女の倍以上生きてると人生、色々とあるのよ」
リタはなにそれとレイヴンから目を逸らした。
レナ(色々、ね)
二人のやり取りを聞きつつ、海を眺めていたレナは憂い帯びた目をしていた。レイヴンは、ほれ行くならいこうやと手を叩く。
カロル「コゴールの北って船で回りこめるかな?」
カロルの問いに、ユーリは行ってみりゃわかるさと笑って返した。パティがフィエルティア号出発なのじゃ、と船を動かすために駆け出し、やがて船が動き出した。