目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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壊す理由

―テムザ山

 

 ユーリ達は海を渡りコゴール砂漠の北西部にある山脈のひとつ、テムザ山に辿り着いた。

レイヴン「到着〜。ここがテムザ山よ」

先頭を歩いていたカロルがラピードの吠え声に反応して振り返り足元を見る。

カロル「これ、人の足跡だよね?ずいぶんたくさんあるな」

エステル「魔狩りの剣、でしょうか?」

ユーリ「騎士団かもな」

カロルは先の道へと駆け出す。エステルは、え?どうして騎士団が?とユーリに問う。

ユーリ「フレンも聖核(アパティア)を探してた。魔狩りの剣が聖核(アパティア)を狙ってここに来てるんなら、騎士団も聖核(アパティア)を狙ってきているのかもしれない」

エステル「何故みんな聖核(アパティア)を手に入れようとするんでしょう?」

パティ「ピカピカキラキラ光っててとてもキレイだったのじゃ。すごく貴重なものに違いないのじゃ」

リタ「結局ドンには聞けなかったし……」

レナ「ジュディスが知っていることを話してくれたら、何かわかるかもしれないね」

パティ「ジュディ姐……話してくれるかの……?」

ユーリ「さぁな。話す話さないは、ジュディが決めることだ。話さないってんなら……」と険しい顔をする。

パティは不安そうな顔でユーリを呼びかけた。

レナ「大丈夫、そんなことにはさせない」

凛とした態度で少女はユーリを見上げて言った。少し目開いてレナを見るユーリ。と、先を進んだカロルがユーリ達を呼ぶ。仲間たちはなんだ?と思いながらカロルの元へ歩いた。カロルのところまで行くと、山が大きく削られておりその中でも大きなクレーターがいくつかあって凸凹としていた。

リタ「なによこれ。山が削れてる……」

エステル「ここで一体なにが……」

二人はいくつものクレーターを見下ろして驚いている。

レナ(……人魔戦争、跡を見るとこんなにも酷いものだったのかと思い知らされる)

少女は軽く目を見張り、そして哀愁漂う眼差しを向けた。

カロル「こんなんでホントに街なんてあるのかな……」

レイヴン「十年前には確かにあったんだがなぁ。今はどうかわかんないわ」

ユーリは十年前?と驚きつつレイヴンに振り向いた。

ユーリ「そんな前の話なのか。その時はなんでこんなとこに来たんだ?」

そりゃ……とレイヴンが答えようとした時、山のどこかから竜の鳴き声が響く。リタが、バカドラ!?とすぐに反応した。鳴き声は今までと比べてどこか痛々しげで、明らかに何か起こっているのをユーリ達は察する。レイヴンがなにかマズイことになってんじゃないのと呟けば、エステルが急ぎましょう!と先を急かした。

 山道を歩き、先程のクレーターの所までユーリ達は来ていた。近くで見るとより酷いなとユーリは見渡しながら呟く。

パティ「こんなでっかい穴ボコ見たことないのじゃ」

リタ「どう見ても、自然現象じゃないわね」

エステル「何かが爆発したあとみたい……」

カロル「爆発って……。こんなことできる魔物なんているの?」

レイヴン「ああ。その魔物なら、とっくに退治されたから」

カロルの疑問に答えたレイヴンに、更にエステルが質問する。

エステル「退治されたって、どういうことです?」

レイヴン「ここが人魔戦争の、戦場だったってこと」

え!そうなのとカロルはレイヴンの方を向いて驚く。

エステル「ということは……ここで人と始祖の隷長(エンテレケイア)が戦ったんですね……。戦いは人の勝利で終わったが、戦地に赴いた者に生存者はほとんどおらず……その戦争の真実は闇に包まれている……。公文書にも詳しいことは書かれていません」

リタ「じゃあ、この有様は始祖の隷長(エンテレケイア)の仕業ってことか……すさまじいわね」

リタは殺伐とした風景をまじまじと見た。

パティ「……人魔戦争……十年前……」

そのつぶやきを聞いて、エステルがパティはまだ小さい頃ですねと言う。じゃのとパティは頷いた。

ユーリ「でも、ここが戦場だったって話、聞いたこと無いぜ」

ユーリは少し高い位置にいるおっさんを見上げながら言った。

レイヴン「色々、情報操作されてんのよ。帝国にね。知られたくないことが一杯あったんじゃない?」

レナ「……」

レナ(知られたくないこと……)

リタ「魔物が人間相手に戦争っておかしいと思ってたけど……」

エステル「その魔物というのが始祖の隷長(エンテレケイア)だということも知られたくない事実だった……」

リタの言葉に続くようにエステルが呟く。カロルはクレーターだらけの土地からレイヴンに視線をうつして、レイヴン随分詳しいねと言った。レイヴンは何か考え事してたようでほんの少しの間を開けて、少年少女の人生の倍生きてれば色々あんのよ、ほんとに、と戦争の跡地に視線を向けた。

ユーリ「歴史の勉強はもういいだろ。オレたちはジュディを探しに来たんだ」

エステル「……先程の魔物の声、ジュディスたちもう追い詰められてるのかも」

パティ「ジュディ姐は強いのじゃ、簡単にやられるとは思えないのじゃ」

リタ「当然でしょ。それに……あのバカドラは、あたしがぶん殴るんだから。先を越させないわ」

先を急ぎましょうとエステルの言葉で、一同はまた歩き始める。

 さらに登ったところでユーリがなにかに気づいて足を止めた。近くにいたレナがどうしたの?とユーリに声をかける。

ユーリ「いや、ジュディが前に言ってた。『バウルが戦争から救ってくれた』ってな……それって人魔戦争の事だったのかなって」

リタ「じゃあもしかしてあの女って人魔戦争の時にバカドラと一緒に帝国と戦ったのかな?」

パティ「ジュディ姐が人間の敵だったら、うちはちょっと切ないのじゃ」

レナ「……人魔戦争があったのは十年前、その時のジュディスは歳がまだ一桁の子供よ。多分戦いには参加していなんじゃないかな。むしろ戦争に巻き込まれた側だと思う。逃げていた所をバウルに助けられたんじゃないかな」

ユーリ「なるほどな……で、どうなんだ?レイヴン?人魔戦争に参加してたんだろ」

レイヴンはへ?なんで?と間抜けな声を出して首を傾げる。

ユーリ「色々詳しいのは当事者だからだろ」

カロル「そうなの?でも、生き残った人、ほとんどいないんでしょ?」

レイヴン「ああ、さすがの俺様も、あんときは死ぬかと思ったね。あ〜、あんとき、死んでりゃもうちっと楽だったのになぁ」

リタが死んでりゃってあんた……と悲しそうな目をした。

レナ(まぁ、本来なら死んでるはずなのに、心臓魔導器(ブラスティア)のせいでいきているものね)

悲しげに少女は目を伏せる。

エステル「それで、戦争中にジュディスに会ったりしました?」

レイヴン「いやいや。いくら俺様でも十歳にもならない女の子は守備範囲外よ」

アホか……とリタがつっこむ。

パティ「てことは、レナの推測通りジュディ姐は人魔戦争には参加しとらんかったみたいじゃな」

パティは腕を組みうむうむと頷く。

カロル「そうだねー、だって十年前ったらレナが言った通りジュディスが九歳だよ?僕より年下だもん」

レイヴン「まー、あのバウルってのも見かけなかった気がするし、どっかに逃げてたんじゃない?」

レナ(……まぁミョルゾにいたみたいだしね)

ユーリ「戦争の相手はやっぱり始祖の隷長(エンテレケイア)だったのか?」

レイヴン「そうなるんだろうなぁ。当時はとんでもない魔物としか思ってなかったけども」

カロル「でもホントにレイヴン、戦争に行ってたんだね。すごい、そんなの騎士団だけかと思ってたよ」

レイヴン「大人の事情ってヤツさ」

尊敬するようなカロルの眼差しに、レイヴンはユーリたちからさりげなく顔を逸らした。

レナ(その時は、騎士団だったものね。……あ、だったじゃなくて今もか)

 しばらくまた岩山の道を登り続けていると、開けた場所に出た。石造りの建物が崩壊し、朽ちている。滅び去った街の残骸だった。各々、街の跡を散策する。

エステル「ここがクリティア族の街……?」

リタ「街というより、街の跡ね」

崩れた建物を見ながらリタは言う。

パティ「こういう場所にお宝があったりするもんなんじゃが……」

パティは比較的形が残っている建物を見上げた。

カロル「ジュディスはここに何しに来たんだろう……?」

ユーリ「故郷を懐かしんで……ってワケじゃなさそうだな」

レイヴンの近くにいたラピードがグルルルとしっぽを高くあげて低く唸り始める。と、そこに男が二人、枯れ木の影から転がり出てきて倒れる。それをみたカロルが魔狩りの剣!と声を上げる。男達が出てきた所をみると、槍を持ったジュディスが顔を出しエステルが驚いて名前を呼ぶ。名前を呼ばれたジュディスも目を見開き、あなたたち……とユーリたちを見た。男達はくそ!と悪態をつくと、ティソンさんとナンにしらせろ!と片方がもう片方に指示を出す。

ユーリ「おまえら!うちのモンに手ぇ出すんじゃねぇよ」

ジュディスが叫んだユーリをみて少し嬉しそうに微笑んだのがレナの目にうつる。

ユーリ「掟に反してるのならケジメはオレらでつける、引っ込んでな!」

魔狩りの剣達は、この奥に行って魔物を狩りたいだけ、邪魔をするなとユーリに向かって怒鳴る。

リタ「もう、面倒くさいなぁ。ぶっ飛ばしちゃおうか」

話しても埒が明かない相手に、リタがイラつきだし詠唱陣を浮かび上がらせる。リタに同意するようにレイヴンも武器に手をやった。

レイヴン「そうねぇ。こいつらじゃ話にならないしねぇ」

続いてパティは器用に銃を取りだしクルクルと回しながら魔狩りの剣に向ける。

パティ「話の邪魔をする奴は永久にそこに倒れとけなのじゃ」

レナ「立ち去りなさい。本当に一戦やる気?」

いつもより低い声で、魔狩りの剣に告げる。少女は静かに怒っていた。ここで退かなければ多勢に無勢の戦いになると思ったのだろう、魔狩りの剣は逃げていった。ジュディスはユーリ達に歩み寄る。

ジュディス「追ってきたのね、私を」

ユーリ「ああ。ギルドのケジメをつけるためにな」

カロル「ジュディス。全部話して欲しいんだよ」

リタ「何故魔導器(ブラスティア)を壊したのか。聖核(アパティア)のこと。始祖の隷長(エンテレケイア)のこと。フェローとの関係。知っていること全部ね」

ユーリ「事と次第によっちゃジュディでも許すわけにはいかない」

レナとラピード、ジュディス以外の皆は驚いたようにユーリを見た。

ジュディス「不義には罰を……だったかしらね」

ジュディスは視線をユーリからエステルに向けた。

ジュディス「……そうね。それがいいことなのか正直分からないけど。あなたたちはもうここまで来てしまったのだから」

来てと続けると、ジュディスは歩き出す。それにレイヴン、エステル、リタ、パティが続いた。

カロル「ユーリ……ジュディスでも許さないって……」

ユーリ「ドンの覚悟を見てまだまだ甘かったことを思い知らされた。討たなきゃいけないヤツは討つ。例えそれが仲間でも、始祖の隷長(エンテレケイア)でも、友でも」

カロル「フレンやフェローでもってこと?」

ユーリ「……ああ、それがオレの選んだ道だ」

静かに話す彼に、カロルは俯いて考え始めた。

レナ(ユーリ、また一人で抱え込んで……)

話を聞いていた少女は、少し悔しげな表情をしてジュディスの後を追いかけた。ユーリ達も続く。

ジュディス「ここが……人魔戦争の戦場だったことはもう知ってる?」

ユーリは、ああと頷き、おっさんに聞いたと答えた。

ジュディス「人魔戦争……あの戦争の発端はある魔導器(ブラスティア)だったの」

リタがなんですって!と目を見開いてジュディスを見る。ジュディスは続ける。

ジュディス「その魔導器(ブラスティア)は発掘されたものじゃなくテムザの街で開発された新しい技術で作られたもの、ヘルメス式魔導器(ブラスティア)

エステル「ヘルメス式……」

リタ「初めて聞いたわ……それに新しく作られたって……」

パティ「魔導器(ブラスティア)って新しく作れないんじゃないかの?」

ジュディス「ヘルメス式魔導器(ブラスティア)は従来のものよりもエアルを効率よく活動に変換して魔導器(ブラスティア)技術の革新になる……はずだった」

ユーリ「何か問題があったんだな」

ジュディスは無言で肯定する。

ジュディス「ヘルメス式の術式を施された魔導器(ブラスティア)はエアルを大量に消費するの。消費されたエアルを補うために各地のエアルクレーネは活動を強め、異常にエアルを放出し始めた」

リタ「そんなの人間どころか全ての生き物が生きていけなくなるわ!」

レイヴン「ケーブ・モックやカドスの喉笛で見たアレか。そりゃやばいわな」

ジュディス「人よりも先にヘルメス式魔導器(ブラスティア)の危険性に気づいた始祖の隷長(エンテレケイア)は、ヘルメス式魔導器(ブラスティア)を破壊し始めた」

レナ「それがやがて大きな戦いとなり人魔戦争へと発展した……」

静かに話を聞いていた少女が続きを話した。

カロル「じゃあ、始祖の隷長(エンテレケイア)は世界のためにひととたたかったの?!」

エステル「どうして始祖の隷長(エンテレケイア)は人に伝えなかったんです?!その魔導器(ブラスティア)は危険だって!」

レイヴン「互いに有無を言わずに滅ぼしゃいいってなんもよ。元々相容れないもの同士そこまでする義理は無かった。そんなとこかねぇ」

パティ「あるいは何か他にも理由があったのかもしれんの。でも……この話がジュディ姐に何の関係があるのじゃ?」

ジュディス「テムザの街が戦争で滅んで、ヘルメス式魔導器(ブラスティア)の技術は失われたはずだった……」

カロル「まさか!そのヘルメス式がまだ稼働してる?!」

カロルは驚いてジュディスに訊ねる。

ジュディス「そう。ラゴウの館、エフミドの丘、ガスファロスト。そして……」

ユーリ「フィエルティア号の駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)か……」

パティ「交換した駆動(セロス)魔導器(ブラスティア)がヘルメス式だったんじゃな」

エステル「それじゃあ、ジュディスは始祖の隷長(エンテレケイア)に替わって魔導器(ブラスティア)を壊して……」

リタ「なら、言えばよかったじゃない!どうして話さなかったのよ!一人で世界を救ってるつもり?バカじゃないの?!」

怒りに震えていたリタはエステルの言葉に我慢の限界がきて叫ぶ。リタの叫びに周りは静かになり、岩肌を撫でる風の音だけが聞こえていた。静寂の中、ちょうどユーリの背後の方から眩い光が溢れる。カロルは、な、何?と仰け反った。ジュディスがバウル!と友の名を呼ぶ。突然ジュディスを狙ってティソンが切り込みにかかりジュディスは間一髪で避ける。あとから赤茶色の少女も隣に立ち、カロルがナン!と呼んだ。

ティソン「どうやら獲物はそこにいるようだな」

光を放っている奥へ行こうとするティソンをジュディスはやりを構えて立ち塞がる。

ジュディス「行かせないわ」

ナン「人でありながら魔物を守るなんて理解できない!」

ナンは自身の武器、飛来刃に手をかける。

ユーリ「手下どもに聞かなかったか?うちのモンに手ぇ出すなっつったろ?」

カロル「い、いくらナンたちでもギルドの仲間を傷つけるのは許さない!」

リタ「まだ話の途中なのよ!邪魔すんな!」

パティ「まったく、無粋な連中なのじゃ」

レイヴン「アツいのは専門外なんだがなぁ」

ジュディス「あなたたち……」

驚いたようにジュディスはユーリ達を見た。

レナ「ジュディス、今はひとりじゃない私たちがいる」

ジュディス「……レナ」

エステル「魔狩りの剣がなぜ人に危害を加えるんですか!」

ティソン「魔物に与するものを、人とは呼ばんだろ」

エステルの叫びに、ティソンは皮肉っぽく返す。

ナン「カロル。魔狩りの剣の理念も忘れたの?邪魔しないで」

カロル「魔物は悪……。魔狩りの剣はその魔を狩る者……」

思い出したかのようにカロルは呟く。

カロル「でも!始祖の隷長(エンテレケイア)は悪じゃない!世界のために……」

カロルはナンに向かって叫んでいた。

ユーリ「雇われて見境無くなってるんだろ。狙いは聖核(アパティア)のクセにカッコつけてんじゃねぇよ」

ユーリがティソン立ちに向かって言い放つ。ティソンはふんと鼻で笑い、話にならんなと言った。

ティソン「どうしても邪魔立てするのなら……」

ナン「仕方ありませんね」

ティソンとナンは武器を構えた。ユーリの抜刀を合図に仲間たちも武器を構える。ティソンが必殺技の舞蛟龍「覇道」でユーリ、エステル、リタの中へ突進してゆく。強烈なかかと落としを槍で防ごうとしたジュディスにレナが魔術障壁を急いで展開させるが、ジュディスは衝撃で跳ね飛ばされる。

レナ「ジュディスっ」

思わず少女は彼女の名を呼んだ。ジュディスは平気よと言わんばかりに少女をちらりと見た。

一方、小太刀を咥え、弓を構えたレイヴンが、〈流れ星〉の加速する矢でティソンに反撃する。少女がカロルの方を見れば、ナンの方に武器を構えながら突撃していた。カロルにナンの技〈踏歩斬〉の、横に回転する飛来刃の刃が迫る。カロルはかばんをうまくつかってそれを避けた。刃とハンマーが何度かぶつかった後、ナンの攻撃のスピードのほうが上回りカロルに襲いかかる。

リタ/レナ「がきんちょ/カロル!危ない」

リタは魔術を発動させて軌道を、レナはカロルの前に魔術障壁を展開させた。カロルはハンマーを構え直すと、渾身の力をこめて地面に向かって振り下ろし、その衝撃にナンは吹っ飛ばされそのまま意識を落とした。ユーリ達の方も決着がつき、ティソンは地面に伏せている。

カロル「ナン……ごめん」

倒れたナンを見下ろして、カロルは呟いた。

 ユーリ達は岩穴の方に入る。そこには光を纏ったバウルの姿があった。

ジュディス「バウルは成長しようとしているの……始祖の隷長(エンテレケイア)としてね」

カロル「苦しそう……」

カロルまで辛そうに眉をひそめていた。

ジュディス「がんばって……バウル」

祈るようにジュディスはバウルに声をかける。パティも頑張るのじゃぞと応援していた。怪我を見つけたエステルがバウルに近づいて治そうとするのを、レナとジュディスが慌ててダメ!と止める。二人の鋭い声に、エステルはハッと手を引っ込めた。

エステル「怪我を治してあげたくても、何もしてあげられない……。あなたにとってわたしの力は毒なんですよね……」

悲しそうにエステルは言った。そんなエステルにユーリが歩みよる。

ユーリ「傷を癒せるってのがエステルの力じゃないぜ」

え?とエステルはユーリを見る。続いてリタが歩み寄った。

リタ「べリウスの言葉……覚えない?」

エステルは思い出す、最期にべリウスが彼女に遺した言葉を。慈しむ心……とエステルが呟く。レナは、エステルの手をとった。

レナ「その優しさはあなたにしかないもの」

ジュディス「バウルにも伝わっているわ。きっと……あなたの気持ち」

レイヴン「ま、今は見守ろーじゃないの」

エステルは胸の前で手を握り祈る。バウルを包む光が強くなり、やがて輝きがおさまる。咆哮をきいて上を見上げれば、成長したバウルが飛んでいた。レイヴンがおほーと感嘆の声を上げる。すごい……とカロルが囁く。ジュディスは一歩前に出た。

ジュディス「がんばったわね、バウル」

労うように、安心したように、彼女は言った。

ユーリ「どうやら相棒はもう大丈夫のようだな」

ええとジュディスは頷くとユーリ達の方に振り向く。

ジュディス「ありがとう。バウルを守ってくれて……私だけだときっと守りきれなかったわ」

カロル「仲間だもん。当たり前だよ!」

じゃの!とパティが大きく頷く。

バウルは空を泳ぐように飛び回るとジュディス達の方に近寄る。ジュディスはエステルの手を取りバウルにそっと触れさせた。バウルは目を細めて、エステルを受け入れてくれていた。

ジュディス「言ったでしょう?ちゃんと伝わってるって」

エステルは嬉しそうに笑う。つられてレナも頬が緩んでいる。

ジュディス「フェローにも伝わるかもしれない」

エステルはバウルを撫でる手を止めて、ジュディスを見る。

ジュディス「会う?フェローに」

レナ「決めるのは、エステルだよ」

ジュディスの問いに少し間をあけてエステルは答えた。

エステル「……会います。それがわたしの旅の目的だから」

リタ「いいの?殺されちゃうかもしれないのよ」

心配そうにリタはエステルに言う。

エステル「はい。わたしも覚悟を決めなきゃ……」

後ろを伺っていたレイヴンがユーリ達に伝える。

レイヴン「そろそろ魔狩りの剣の増援が来そうよ」

カロル「でも下りる道ひとつしかないよ。鉢合わせちゃう」

パティ「上が開いてるのじゃ」

レイヴン「んな無茶な……」

ジュディス「乗って、とりあえずフィエルティア号まで飛ぶわ。話の続きはそこで、ね」

ユーリ達はジュディスに誘われて、バウルの上に乗る。バウルはみんなを乗せると、空へ羽ばたいた。そのままフィエルティア号に進む。船に着くと、バウルから船へ移動し、バウルに船を吊るす。そしてまた、空へと旅立った。飛んで少したったあと、ジュディスの体が地面に向かって倒れていく。近くにいたレナが頭をぶつけないように受け止めてゆっくりと倒れさせ、膝の上にジュディスの頭をのせる。ユーリがジュディ?!と焦ったように振り返った。エステルも同じように振り返って、ジュディス達の傍に寄る。

レナ「ジュディス、お疲れ様。バウルを守るために頑張ったんだもの。今は休ませた方がいいよ」

さらりとジュディスの髪ごと額をひと撫でしてレナは労うようにジュディスを見る。そして、ユーリとエステルにそう伝えた。

レナ「このままは体に悪いし、ユーリ、船室のベッドまで運んでくれる?」

頼まれたユーリは、ああと返事をしてジュディスを抱える。そしてそのままレナに言われた通り船室に向かった。その後をレナとエステルが着いていく。船室に入ると、ユーリはベッドの上にジュディスをおろした。ジュディスの顔がすこし安らいだように見えた。三人が船室から出ると、ほかの仲間達が心配そうにこちらを伺っていた。

レナ「疲れが溜まってたみたい。今は眠ってるだけだから、安心して大丈夫だよ」

カロル「いきなり倒れちゃうんだもん。びっくりしちゃった」

ユーリ「成長のために動けなかったバウルを寝ずに守ってたんだろう。魔狩りの剣がいつ襲ってくるか分からなかったろうしな」

レイヴン「割と平然としてたけど今までも無理したのかもねぇ」

リタ「バカなのよ。あいつも。不器用なんだから」

パティ「でもよかったのじゃ……ちゃんとジュディ姐を助けることができて」

レナ「ジュディスの話の続きは明日だね」

ユーリ「だな、今は寝かせておいてやろうぜ。オレたちもちょっと休もう」

その一声で、各々やるべきことをやる者や休む者、考える者と別れた。

 レナはジュディスの寝ている横に椅子を持ってきて、目覚めるのを待っていた。周りを見渡せばいつの間にか少し離れた椅子のところにリタが座って考え事をており、少女の隣にラピートがジュディスの様子を伺うようにお座りしていた。レナはジュディスにまた視線をうつして、こうしてみると綺麗な顔をしているとか、髪の色が綺麗だなとか考えながらじっと様子を見ていた。ユーリもジュディスも平気なフリをするのが上手で、分かりずらい。もっと気をつけてみないといけないと改めて少女は思った。

 翌日、少女はいつの間にかそのまま寝ていてしまったらしい。欠伸をして体を伸ばしていると、ピクリとジュディスの瞼が痙攣して目を開けた。ぼーっと天井を見ている彼女に、ハッとしたレナは、ジュディス?と声をかける。起きたばかりの彼女はゆっくりとレナの方に顔を向けた。

レナ「おはよう、ジュディス。気分が悪いとか、痛いところとかない?」

ジュディスはゆっくりと上体を起こしてニコリと微笑みかけて言った。

ジュディス「おはよう、レナ。大丈夫よ。よく寝たからかしら、清々しい気分だわ」

レナ「そっか、よかった」

少女は不安げな顔から、パッと花が咲いたように笑った。

レナ「みんなのところに、行こっか」

ジュディスはええ、と頷き、二人は船室からみんながいる甲板へと出た。

エステル「〜〜エアルは乱れ、世界は蝕まれているかもしれないんですね」

船室からでると、ちょっどエステル達が話していた。話を察したジュディスはそうよと肯定する。パティが嬉しそうにジュディ姐!と振り返る。寝転がっていたレイヴンは体を起こした。

レイヴン「もう大丈夫なのね。ジュディスちゃん」

ジュディスはそのまま話を続ける。

ジュディス「本来、エアルが多少乱れたところで世界には影響はないわ。エアルのバランスを取るために常にエアルの流れを感じているものがいるから。それがフェローやバウルたち始祖の隷長(エンテレケイア)

エステル「始祖の隷長(エンテレケイア)がエアルの調整役……」

ジュディス「長い間、始祖の隷長(エンテレケイア)はエアルを調整し続けてきた。だけど近頃エアルの増加が彼らのエアルの調整の力を上回ってきている」

レイヴン「その原因がヘルメス式魔導器(ブラスティア)か」

ユーリ「だからジュディはヘルメス式魔導器(ブラスティア)を壊してまわってたんだな」

ジュディスは険しい顔で頷いた。

ジュディス「ええ、それが私の役目。私を救ってくれたバウルと歩む道」

ジュディスの道……とカロルが呟く。

レイヴン「そういや、レナちゃんは異空の子でこの世界のエアルをどうとかっていってたよね?それに新月の子はエアルを抑えることができるんでしょ?」

レナ「……それは、一時的なものだよ。増えすぎたエアルを私の世界に流すことが出来るのは、私がこの世界に来る時の一度だけ。だから、今も増えているエアルの分まではどうにも出来ない。それに、新月の子の力で抑えられるエアルの量には限界があるの」

レイヴンはなるほどねと納得したようだった。ジュディスは話を続ける。

ジュディス「最近は聖核(アパティア)を求めて始祖の隷長(エンテレケイア)に挑む人さえいる。始祖の隷長(エンテレケイア)はその役目を果たすことがより難しくなっているわ」

ユーリ「どいつもこいつも聖核(アパティア)を狙う理由は何なんだ?」

ジュディス「私にはわからないわ。聖核(アパティア)とは、始祖の隷長(エンテレケイア)が体内に取り込んだエアルを長い年月をかけて凝縮し、始祖の隷長(エンテレケイア)が命を落としたときに結晶となって生まれるもの。私が知っているのはこれぐらい。フェローならもっと詳しいと思うけれど」

話を聞いていたリタが聖核(アパティア)は高密度エアルの結晶と呟やいてハッとして立ち上がった。

リタ「それが本当なら、もし聖核(アパティア)のエネルギーをうまく引き出すことができれば凄まじいパワーを得ることができるわよ、きっと」

エステル「そんな方法があるんです?」

エステルの問いにリタは言葉に詰まる。

リタ「少なくともあたしは知らない」

パティ「でもそれができるなら、欲しがる奴は沢山いそうじゃの」

レイヴン「誰かが悪巧みしてるのは間違いなさそうねぇ」

カロル「でも……どうして最初に話してくれなかったの?」

ユーリ「まったくだ。話してくれればこんなややこしいことにはならなかった、違うか?」

ジュディス「……知っても……あなたたちには無理なこともあるから」

カロルがどいうこと?と首を傾げる。

ジュディス「……あの時私たちがヘリオードに向かったのは、バウルがエアルの乱れを感じたから。エアルの乱れがあるところにヘルメス式魔導器(ブラスティア)はある……。でもそこにいたのは魔導器(ブラスティア)ではなく人間だった。そんなこと今までなかったのに」

ユーリ「ヘリオードにはハナからエステルを狙ってきたワケじゃなかったんだな」

ユーリは意外そうな声を上げる。ジュディスは頷いて続ける。

ジュディス「何故、バウルがエステルをエアルの乱れと感じたか、私は知る必要があったの。私の道を歩むために。そんな時、フェローが現れた。彼はエステルが何者なのか知っているようだった。私の役目はヘルメス式魔導器(ブラスティア)を破壊すること。だけど、エステルは魔導器(ブラスティア)じゃない。だから見極めさせて欲しい……。私は彼にある約束を持ちかけた。彼は私に時間をくれた」

その約束って……とカロルは不穏な雰囲気を察する。

ジュディス「もし消さなければならない存在なら私が……殺す」

あんた!とリタが思わず声を上げてジュディスに詰め寄る。ジュディスの傍に立っていたレナが、リタを宥めた。

レナ「落ち着いてリタ。ジュディスは結果的に手を下していないでしょ」

少女の言葉に、リタは渋々引き下がった。

ユーリ「話はわかった」

これ以上の話は無用だといわんばかりにユーリは言った。

ジュディス「べリウスは言ってたわね。あなたには心があると。フェローにもあなたの心が伝われば、これからどうするべきか、わかるかもしれない」

ジュディスはエステルにそう告げた。

リタ「ね、ねぇ、もうフェローに会う必要なんて無いんじゃない?だって、ほら、問題なのはヘルメス式魔導器(ブラスティア)だってわかったんだし、聖核(アパティア)も悪いことを企んでるヤツに渡さないようにすれば」

心配するリタにエステルは決意した目で伝える。

エステル「……わたし、フェローに会いたいです。そして話を聞きたい」

でも……とリタはまだ不安げだ。

エステル「行かせてください。私も自分の事を知ってそれに責任を持てるようになりたいから」

ハッキリと言った彼女に、リタはまだ何か言いたげだったが、わかったわ……と折れた。カロルがユーリを見上げる。

カロル「ごめん……ユーリ……ジュディスをどうするべきか、すぐには決められないよ……」

ジュディス「あなたたちの言うケジメをつけないまま去ることはもうしないわ。私も責任もたないとね」

ユーリは一同を見回して、語りかけるように言った。

ユーリ「フェローに会いに行こう。オレたちの旅の最初の目的、それをこなしちまおう。後のことはそれからだ」

ジュディス「コゴール砂漠中央部にそびえる岩山、そこにフェローはいる。バウルなら行けるわ」

ユーリ達はフェローの元へバウルに運んでもらい向かった。

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