目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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伝承

 もう一方の魔導器(ブラスティア)の前まで来たユーリ達は様子を伺う。ジジジ―と魔導器(ブラスティア)から音が出ていた。

カロル「あの魔導器(ブラスティア)、なんか変な音してるよ」

リタ「エアルを充填してんのよ。あともう少しは大丈夫。撃ってこられないわ」

レイヴン「さっさと足元にもぐりこめば、敵さんも手の出しようないみたいね」

上空を見上げたジュディスは走ってくる騎士団に気づく。

ジュディス「そうも言ってられないんじゃなくて?」

カロルが、親衛隊だ!と声を上げた。別方向からも親衛隊が近づいてきており、エステルがそれを伝える。リタが焦ったように、挟み撃ち!?と構えた。

ユーリ「こりゃ、踏ん張っていかねぇとな」

襲いかかる親衛隊をユーリ達は二手に分かれてなぎ倒していく。程なくして、ユーリが全員片付けたか?と確認をとったと同時にパティに襲いかかる親衛隊に気づいたユーリとレナは瞬時に振り返る。レナが瞬発力の優れた魔弾を放ち、ユーリは蒼破刃を放った。パティは目の前に倒れる親衛隊に目を丸くさせていた。

ユーリ「ぼうっとしてんなよ」

レナ「……怪我は、ない?」

パティ「ユーリ、レナ、すまないのじゃ……」

レイヴン「やっぱパティちゃん、船で休んでた方がよかったんじゃない?」

パティ「……じゃの。これしきの戦いでこんなふうに足を引っ張るくらいならやっぱり……」

とパティは俯く。そんなパティにリタが腕を組んで苛立ちを抑えるように言った。

リタ「ここまで来て、ぐじぐじ悩んでんじゃないわよ。もうとっくに仲間なんだから、気にすんなって言ったでしょ」

カロルが仲間って……と驚いたようにリタを見てつぶやき、ジュディスが珍しいことを言うわねとニコリと微笑む。

リタ「う、うるさい!ほら、早くあの兵装魔導器(ホブローブラスティア)、止めに行くわよ」

恥ずかしくなった彼女は照れを隠すように叫んだ。ジュディスは、はいはいと流し、そういうことみたいよ?とパティを見た。先を歩き出すリタに皆がその後を着いていく。立ち止まったままのパティにカロルが置いていっちゃうよ!と声をかけた。リタの言葉で立ち直ったパティは、俯かせてばかりだった顔を上げて、一緒に行くのじゃ!と今度は覇気のある声で言った。

 更に岩山を登っていくとまた親衛隊に邪魔をされるが、ささっと片付け、リタが先陣を切って魔導器(ブラスティア)へ走る。操作盤を出し調べているリタに、ユーリはどうだ?と聞いた。操作盤とにらめっこしているリタは、こっちにも術式暗号がかかってるわと伝えた。解けそうか?と問うユーリに、リタは当たり前でしょ?という顔をして、死ぬ気でやるって言ったでしょと返した。

リタ「こうなったらもう、ミョルゾに行く条件とか関係ないわ。騎士団の手にこの子をそのまま残すなんて絶対できないんだから」

操作盤を叩きながら解読を進めていくリタ。カロルがそっちは任せたよ!と言うと、どこかへ走り出す。

ジュディス「あら、どこ行くの?カロル」

カロル「さっきみたいにまた親衛隊が来るといけないから、下で見張ってる!」

ジュディス「じゃあ、私もお手伝いさせてもらうわ」

カロルはこくんと頷いて走り出し、ジュディスがその後を歩く。うちも行くとパティが二人の後を追いかけた。パティの様子に、エステルはほっとしたような表情をした。

エステル「パティ、元気取り戻したみたいですね」

レイヴンはだといいんだけどねぇと相槌を打つ。

レイヴン「……にしても、みんななんか妙にやる気でコワいわ」

エステルは隣に立っているレイヴンの方を向く。

エステル「……ユーリの影響ですよ」

エステルはそう言って今度はユーリを見た。

ユーリ「とりあえずオレたちはこっちで待機だな」

レイヴン「……当の本人はいたってクールなんだが」

ユーリは不思議そうにしていた。エステルはレイヴンの言葉にですねと頷く。しばらく時間がかかるであろう作業にリタの周りに邪魔が入らないように、ユーリとレイヴン、ラピード、エステル、レナが見張っていた。レナの体力が少し回復し顔色も良くなり数十分経った頃、レイヴンがそう簡単には解けませんってか?と軽口を叩く。

ユーリ「親衛隊つったか?結局、連中、この魔導器(ブラスティア)でなにをするつもり……」

だったんだ?と続けようとしたユーリが下でジュディスが親衛隊を薙ぎ払っているのに気づく。カロルは急いでこちらに走ってくると、騎士団もどってきた!とユーリ達に報告する。ジュディスとパティもユーリ達に合流し、騎士団達を退ける。騎士団を倒した後、ふと後ろを振り返るとリタが魔術を詠唱していた。エステルが驚いて、リタ!何を!と声をかける。

リタ「もうこいつ壊して……!そいつらぶっ倒す!」

魔導器(ブラスティア)を壊す事を嫌う彼女が言ったことに、エステルはそんなどうして!と悲痛な声を上げた。

リタ「もうそんな時間かけてられないでしょ!だってこのままじゃあんたらが……」

辛そうに言うリタにエステルはリタ……としか言えない。

ジュディス「私たちが倒される、そう言いたいの?あなたは私を、私たちを信用できないの?死ぬ気でやるんでしょ?」

ジュディスは心外だわという声で敵を槍でなぎ払いながら言う。

エステル「わたしたち、負けませんから。リタ、その魔導器(ブラスティア)を助けてあげてください」

レナ「そうそう。こっちは大丈夫だから、そっちに集中して!」

パティ「ああ、がんばるのじゃ!ここはうちらで絶対守る!だから!がんばれ!!」

リタはあんたたち……と呟いて、詠唱していた手を止めた。そして下で戦っているジュディス達に向かって叫ぶ。

リタ「……わかったわよ!死ぬ気でやってやるわよ。その代わり、あんたらも死ぬ気でやんなさいよ!」

レナはその言葉にニヤリと笑う。

レイヴン「はぁ……やれやれ、んじゃま……死ぬ気でやりますか」

やる気を出すように言うレイヴンに、ユーリが輝いてる若人(わこうど)の仲間入りか?と茶化した。みたいねとレイヴンは肯定して、敵に向かって矢を射る。十何人と倒していく中、リタの止まったわっ!という声が仲間たちの耳に届く。さすが、リタ!とカロルは上にいるリタを見上げる。

レイヴン「あらら……やったじゃない」

レイヴンも嬉しそうに見上げる。カロルが下に目を向けると、騎士団が引き上げていくのを確認した。

ジュディス「魔導器(ブラスティア)が止まったから?なんだったのかしら、彼らの目的は」

ジュディスは不思議そうに首を傾げた。

ユーリ「まぁいいさ、とにかくこれでトートとの約束は果たした。ジュディ、頼む」

ジュディスはええと頷いた。ジュディスは鐘を取り出し、青い空に向かって、二度、三度と鳴らす。その音色は不思議なくらい澄みきっており、雲の向こうまで届くんじゃないかと思わせるほど響き渡った。空でなにか光ったかと思えば、巨大なクラゲのような生物が浮かび上がる。カロルはあ、あ、あ、と空を見上げてぽかんとしていた。よく見てみると、巨大なクラゲのような生物の中に街が飲み込まれている。

ユーリ「なんだ、ありゃ……!!」

ユーリも、仲間たちと共にただ呆然とそれを見上げた。

レナ(実際に見てみると、驚いてしまうものね……)

少女も目を見開いて、仲間と同じように動けないでいた。

ジュディス「扉が開いた……あれがミョルゾ。クリティア族の故郷よ」

冷静なのはジュディスだけだった。

ジュディス「あまり長いこと扉を開けておいてはもらえないみたい、急ぎましょ」

バウル!と空を見上げて、ジュディスは相棒を呼ぶ。咆哮を上げてバウルは姿を現すと、ユーリ達は吊るされているフィエルティア号に乗り込んだ。

レイヴン「まさか飛んでる街とはねぇ」

レイヴンはフィエルティア号の甲板で顎を撫でる。

リタ「それ以前に、あのばかでかいのはなに!?生物みたいだけど……」

パティ「フワフワクラゲさんじゃ……」

レナ(フワフワクラゲ……ね〜、かわいい)

少女は心のなかでパティの言葉に癒されながらニコニコとしている。

ジュディス「あれも始祖の隷長(エンテレケイア)だそうよ。話をしたことはないけど」

ユーリ「始祖の隷長(エンテレケイア)!?それがなんで街を丸ごと飲み込んでんだ?」

さぁ、そこまでは知らないわとジュディスは返した。

エステル「こんな街があるなんて、まったく知りませんでした」

改めてミョルゾを見てエステルはつぶやく。

ジュディス「気が遠くなるほど長い間、外界との接触を断ってきた街だからね、ミョルゾは」

カロル「このまま近付いても襲ってきたりしないよね」

不安そうに聞いたカロルにジュディスはニコリと笑った。

ジュディス「大丈夫。バウルがいれば、中に入れてくれるはずよ」

そのままバウルは進み、クラゲの笠の部分から侵入すると、街に着地した。フィエルティア号から降り立ったユーリ達は、不思議な光景にしばし見とれる。

 

―クリティア族の街 ミョルゾ

 

カロル「なんか、不思議な景色だよね」

リタ「ちょっと、あれ……!」

急にリタが指さしたと思えば、クリティア族の人達がこちらに近付いてきていた。クリティア族がたくさんとエステルは驚いている。物珍しいのかユーリ達を囲むようにクリティア族達は立った。その様子に、カロルは歓迎されてない?と不安そうにする。

クリティア族の男性「こりゃ驚いた。本当に外から人がやってきたぞ!」

クリティア族の女性「あら、まぁまぁ。ミョルゾを呼んだのはあなたたち?」

クリティア族の老人「おやおや?これはまた妙な感じだ。変わった飾りを着けてるね」

マイペースに口々に言ってくるクリティア族達に、リタは戸惑いを隠せない。

リタ「ちょっとあんたら、いい加減にしなさいよ」

クリティア族の女性「あなたたちみたいな小さな子がどうやってここに来たの?」

リタはパティに向かって、あんた言われてるわよと肘でつつく。あぅ……?とパティは首を傾げた。リタっちもでしょとレイヴンはつっこんだ。

レナ(……すっごいゆったりとした人達だよねぇ)

どこかジュディスと似たような雰囲気だと少女は様子を見ていた。

クリティア族の男性「この魔物ってひょっとして、始祖の隷長(エンテレケイア)かい?」

ジュディスは近付いて、バウルよ、忘れてしまったの?と声をかける。

クリティア族の娘「あら、あなた、何年か前に地上に降りた……」

クリティア族の女性「……確か、名前はジュディス、そうジュディスよ。何かすることがあったのよね、それで……」

ジュディスは頷きながら街の奥の方へ目をやる。

ジュディス「もういいかしら?長老さまに会いたいのだけれど」

クリティア族の男性「そりゃもちろん好きにするといい」

彼らはずっと微笑みを絶やさないまま頷く。また散歩してるかもしれないけどねぇと囁き、クリティア族達はリタ達から離れ街の方へと入っていった。

レイヴン「なんか、おかしな連中だな」

リタ「ああいうのは失礼って言うのよ」

リタが言うんだとカロルが呟く。リタがカロルの頭を叩き、叩かれると知っていたカロルは間一髪でしゃがんで避けた。

ジュディス「基本的にクリティア族ってああいう人たちなの」

ああいう、人?とエステルが首を傾げる。

ジュディス「明るくて物怖じしない。楽天的で楽観的。よくも悪くも、ね」

ジュディスはそう言って微笑む。

パティ「……地上に住んでるクリティアもあんな感じじゃ」

腕を組んでパティはうんうんと頷く。

レイヴン「人間と一緒に住んでるぶん、地上のクリティア族の方が、少しすれてるって感じかね」

ユーリ「で、長老ってのもそんな感じなのか?」

ジュディス「なんて言うか……まさにおかしな人の長老って感じかしら?」

レイヴン「なんか凄い人っぽいね……色んな意味で……」

口をへの字にしてレイヴンは言った。

ユーリ「会ってみてのお楽しみだな」

 広場に出ると皆足を止めた。

パティ「こんなところに街があるなんて驚きなのじゃ」

レナ「……そうだね」

二人はキョロキョロとする。

リタ「あたしの知らない魔導器(ブラスティア)がたくさんある……」

無造作に積み上げられた魔導器(ブラスティア)を見てリタは呆然とする。

ユーリ「魔導器(ブラスティア)を作った民……どうやら本当ってことか」

リタは頷く。

リタ「……そうね、こんな魔導器(ブラスティア)を見せられれば、その話も信じられるわ」

レイヴン「お嬢ちゃんの力を何とかする方法、ここで案外、さらっと見つかったりして」

レナはその言葉に目を伏せ、ぐっと手に力を入れる。

レナ(残念ながら、ここで知れるのは、残酷なことよ)

エステル「そう……だったら、いいんですが……」

レナは痛む胸に気付かないふりをした。カロルが積み上げられた魔導器(ブラスティア)を覗き込む。

カロル「……動いてないね」

リタ「魔核(コア)がない。筐体(コンテナ)だけだわ」

ジュディス「この街は魔導器(ブラスティア)を捨てたの。ここにあるのはみんな大昔のガラクタよ」

どういうこと?とカロルが聞く。それがワシらの選んだ生き方だからじゃよと、ふいに後ろから老人の声が聞こえた。振り向くと、すらりと背の高い老人が立っていた。

ジュディス「お久しぶりね。長老さま」

長老「外が騒がしいと思えば、おぬしだったのか。戻ったんじゃの」

ジュディス「この子たちは、私と一緒に旅をしている人たち」

ジュディスはユーリ達のことを長老に紹介する。長老はふむと頷くと、ジュディスの隣に立っていたユーリの手首にある魔導器(ブラスティア)に目を向けた。

長老「これは……魔導器(ブラスティア)ですな。もしや使ってなさる?」

ユーリはああと頷き、武醒魔導器(ボーディブラスティア)を使ってると答える。

長老「ふーむ。ワシらと同様、地上の者ももう魔導器(ブラスティア)は使うのをやめたのかと思うていたが……」

エステル「ここの魔導器(ブラスティア)も特別な術式だから使ってないんです?」

エステルがそう訪ねると、長老は笑って答えた。

長老「魔導器(ブラスティア)に特別も何もないじゃろ。そもそも魔導器(ブラスティア)とは聖核(アパティア)を砕きその欠片に術式を施して魔核(コア)とし、エアルを取り込むことにより……」

リタ「ちょっ!魔核(コア)聖核(アパティア)を砕いたものって?!」

長老の話をリタが遮る。

長老「左様、そう言われておる。聖核(アパティア)の力はそのままでは強すぎたそうな。それでなくても、いかなる宝石よりも貴重な石じゃ。だから砕き術式を刻むことで力を抑え、同時に数を増やしたんじゃな。魔核(コア)とはそうして作られたものと伝えられておる」

衝撃的な事実に皆、黙るしか無かった。皮肉な話だなとユーリは溜息をつきながら呟く。

カロル「うん……魔導器(ブラスティア)を嫌う始祖の隷長(エンテレケイア)の生み出す聖核(アパティア)が、魔導器(ブラスティア)を作り出すのに必要だなんて……」

レイヴン「フェローが聖核(アパティア)の話をしなかったのは触れたくなかったから……かもねぇ」

ジュディス「長老さま。もっと色々聞かせてもらいたいの」

ジュディスは長老にお願いする。

ユーリ「オレたちは魔導器(ブラスティア)が大昔にどんな役割を演じたか調べているんだ。もしそれが災いを呼んだのなら、どうやってそれを収めたのかも。ミョルゾには伝承が残ってるんだろ?それを教えてくれないか」

長老は二つ返事で許可した。

長老「ここよりワシの家にうってつけのものがある。勝手に入って持ってなされ」

そう言って長老はどこかに歩き出す。思わずレイヴンがおいおいどこに行くのよとつっこみをいれながら止める。

長老「日課の散歩の途中なのでな。もう少ししたら戻るわい」

レナ(……ほんと、マイペース、だねぇ)

レナは遠くなっていく長老の背中を見つめる。

ユーリ「聖核(アパティア)魔導器(ブラスティア)、エアルの乱れ、始祖の隷長(エンテレケイア)……色々繋がって来やがった」

リタ「伝承ってのを聞いたらもっと色々繋がってくるかも」

ジュディス「長老さまの家は屋根の色が違うあの大きな建物よ」

ジュディスがそう言って指さした先に、確かにほかの建物とは色の違うオレンジの屋根の建物があった。ユーリ達は長老の家の中へと入った。

 人の家に勝手に入って待つということに、エステルはソワソワしながら、本当に入ってよかったんでしょうか?と呟く。

リタ「本人が入って待ってろって言ったんだから良いでしょ」

椅子に座った彼女は言う。

カロル「やっぱりクリティアの人ってなんか変わってるよね」

レイヴン「のほほんとしているというか……」

レナ「マイペースな人たちだよねぇ」

三人のつぶやきに、ジュディスはおかしな人たちでしょう?とにこやかに言った。

カロル「ジュディスも何となく似てるけどね」

ジュディス「おかしいわね。随分違うと思うのだけれど」

カロル「パティもノリが合いそうだね」

パティ「それじゃあ、ここに住むのもいいかもの……」

なんてくだらない話をしていると、長老がただいまと言って帰ってきた。エステルはおかえりなさいと微笑む。

長老「待たせたの。それじゃ、その奥へ行くと良い」

長老にすすめられてユーリ達は奥に行く。そこには何も書かれていない無地の壁だけで、ユーリやほかの仲間たちは不思議そうにした。

長老「これこそがミョルゾに伝わる伝承を表すものなのじゃよ」

レイヴンがでも、と口を開き、ただの壁だぜ?と言う。

長老「ジュディスよ、ナギーグで壁に触れながら、こう唱えるのじゃ。……霧のまにまに浮かぶ夢の都、それが現実の続き」

長老に促されたジュディスは、壁の前に立ち復唱する。

ジュディス「霧のまにまに浮かぶ夢の都、それが現実の続き……?」

すると驚いたことに、さっきまで無地だった壁一面に、絵が浮かびあがった。これは……とリタは息を飲む。ほー、ナギーグってのはこんなこともできんのねとレイヴンが感心したように呟く。

長老「ナギーグを知ってなさるか。この力と口伝の秘文により、この壁画は真の姿を表すのじゃ」

な、なんな不気味な絵だね……とカロルは壁画を見上げて言う。壁画に描かれているのは、巨大な化け物のようなものと、そのまわりに何かが渦巻いている何かだった。その端に、文字のようなものが並んでいるが、まるで読めない。ジュディスは読み上げ始めた。

ジュディス「クリティアこそ知恵の民なり大いなるゲライオスの礎、古の世の賢人(さかびと)なり。されど賢明なる知恵は禍なるかな。我らが手になる魔導器(ブラスティア)、天地に恵みをもたらすも星の血なりしエアルを穢したり。そこに異界から使者、その名を異空の子が現れ一時の間エアルの穢れを抑えたり」

エステル「やっぱりリタ言ったとおりエアルの乱れは過去にも起きていたんですね。そして、その時も異空の子がいた」

エステルは壁画を見つめながら言った。

レナ(私みたいな人が昔にもいたんだ)

ユーリ「こいつがエアルの乱れを表してるのか」

カロル「世界を食べようとしてるみたい……」

ユーリとカロルは思い思いの感想をつぶやく。んむと長老は頷く。

長老「異空の子が来た最初は落ち着き始めていたがすぐに大量のエアルが世界全体を飲み込むかのようだったという」

ジュディスは続きを読み始める。

ジュディス「エアルの穢れ、嵩じて大いなる災いを招き。我ら怖れもてこれを星喰みと名付けたり……」

星喰み……とエステルは囁く。

ジュディス「ここに世のことごとく一丸となりて星喰み、忌まわしき力を消さんとす」

リタ「ねぇひょっとしてこれ、始祖の隷長(エンテレケイア)を表してるのかな?」

リタが、巨大な化け物と対峙している小さな動物らしきものを指さした。

レイヴン「魔物みたいなのが人と一緒に化け物に挑んでるように見えるねぇ」

レイヴンは顎を撫でながら言う。

長老「結果、古代ゲライオス文明は滅んでしまったが、星喰みは鎮められたようじゃの。その点はワシらがこうしていきていることからも明らかじゃな」

リタ「ようするにこの絵はその星喰みを鎮めてる図ってこと?」

リタは長老を見て納得したような顔をする。パティがこれは何じゃ?と指でさし首を傾げる。大きな輪っかみたいね、何これ?とリタもパティと同様に首を傾げた。長老はさぁの何じゃろうのと答えたことから、長老も知らないらしい。

カロル「最後、なんて書いてあるの?」

カロルはジュディスに続きを促した。ジュディスは文字を見つめたまま口を動かさない。不思議に思ったユーリが、ジュディ?と声をかける。ジュディスは、ハッとしたように最後に当たる部分を読む。

ジュディス「……異空の子の祈り虚しく、世の祈りを受け満月の子らは命燃え果つ。星喰み虚空へと消え去れり」

なんだと?とユーリは片眉を上げて、聞き返す。ジュディスは何も言わない。

レナ(異空の子の祈り虚しく……?つまり、過去の異空の子も、私と同様に未来を知っていた?)

エステル「世の祈りを受け……満月の子らは命燃え果つ……」

レナの隣でそう呟く彼女の顔色は青く、震えているようだった。少女はそれに気づいて、心配そうにエステルを見る。

ジュディス「かくて世は永らえたり。異空の子は新月の子と名を改め、命果てるまでその身を世に捧げる。されど我らは罪を忘れず、ここに世々語り継がん……アスール、240」

どういうこと!とリタは長老に向かって叫ぶ。

長老「個々の言葉の全部が全部、何を意味しているのかまでは伝わっておらんのじゃ。とにかく魔導器(ブラスティア)を生み出し、ひとつの文明の滅びを導く事となった我らの祖先は魔導器(ブラスティア)を捨て、外界と関わりを断つ道を選んだとされておる」

そこでエステルが部屋を飛び出した。カロルが慌ててエステルを追いかけようとする。だが、ユーリが今はほっといてやれと制した。長老は、話し出す。

長老「そして、新月の子じゃについてじゃが、先を見通す力を持っておりその後も世界を支えたとされておるが、その事実を話すことは無かったらしい」

ユーリは思いたるようにレナを見ていた。レナは、詳しく聞かせて貰えませんか?と長老にお願いする。長老は頷き、話し出した。

長老「知っている事実は、人に伝えることを許されず、絶対に変えられぬことを悟ったからと言われておる。もし変えようと動くならば、命を落とすと」

レナは目を見開く。長老は気づかずに続ける。

長老「あと、新月の子は、力を行使するのに命を削るが故に、短命とされておる。ミョルゾに伝わる伝承はこれですべてじゃ」

リタとジュディス以外が、その言葉に驚いてレナを見た。

レナ「長老さん、教えてくれてありがとうございます」

当の本人は冷静で、長老に頭を下げている。長老はふむと頷き、別の話をしようとするが、ジュディスが結構よと断る。

ジュディス「どこか休めるところを借りてもいいかしら?仲間が落ち着くまでしばらくお世話なりたいのだけれど」

長老「む、ならば隣の家を使うと良い。今は誰も使っておらんでの」

ジュディス「助かるわ。行きましょ」

ユーリ達は長老の家を後にした。隣の家に入る。

カロル「世界の災い、星喰みかぁ」

椅子に座ったカロルがため息混じりに呟く。

ユーリ「あの伝承からだと前に星喰みが起きたのは、満月の子の力が原因とは言い切れないもんだった」

ユーリは壁画のことを思い出すように言う。

レイヴン「けどよ。世の祈りを受け満月の子らは命燃え果つってのは……」

ジュディス「星喰みの原因の満月の子の命を絶ったことで危機を回避したとも取れるわ」

冷静に答えたジュディスに、みんなは沈黙する。

カロル「で、でもさ、ボクたちが確実に原因になってるヘルメス式魔導器(ブラスティア)を止めれば良いんだよね……?」

レナ「ヘルメス式だけじゃないよ。伝承から読み取るに、すべての魔導器(ブラスティア)がエアルを乱してると解釈できるから」

ユーリ「どうなんだ、リタ?」

リタは顔を腕の中に埋めて、じっと考えたあと話し出す。

リタ「長老、魔導器(ブラスティア)に普通も特殊もないって言ってた。つまり違うのは術式によって扱うエアルの量の大小のみって事だと思う」

ユーリ「オレたちが使ってるこいつもか?」

ユーリの武醒魔導器(ボーディブラスティア)をちらりと見て、リタは頷いた。

リタ「武醒魔導器(ボーディブラスティア)は特殊だけど、術式によってエアルを用いる以上、どの魔導器(ブラスティア)も同じよ……それに術技はどのみちエアルを必要とするもの。多分、ヘルメス式も満月の子も本質的には危険の一部でしかない。魔導器(ブラスティア)の数が増え続ければ遅かれ早かれ星喰みが起こる。始祖の隷長(エンテレケイア)はそれを怖れてるんだわ」

リタの説明を聞いて、やっぱそうかとユーリは頷いた。

リタ「認めたくなかった……!悪いのは魔導器(ブラスティア)じゃない、悪いことに使ってるヤツが悪いんだって。そう信じてた……でも……違った……」

リタは苦しげに言った。

カロル「じゃあ全部の魔導器(ブラスティア)を止めなきゃダメなの?このミョルゾの人たちみたいに?」

カロルはリタの方を向いて聞く。

パティ「それじゃ、魔導器(ブラスティア)を全部、捨てればいいのじゃ、船もオールで漕げ、なのじゃ」

レイヴン「そりゃ無理な話だ。魔導器(ブラスティア)はもう俺たちの生活には無くてはならないものだぜ。結界魔導器(シルトブラスティア)水道魔導器(アクエブラスティア)とか……もちろん武醒魔導器(ボーディブラスティア)も、な」

レイヴンは冷静にパティの言葉を否定する。レイヴンの話に、ユーリもたしかにな……と頷く。パティは無理なのかのぉ……と俯いてしまった。

ユーリ「実際、こいつがないと、すげぇ化け物とかの相手は無理かもしれない」

腕に着けている武醒魔導器(ボーディブラスティア)を見て言うユーリに、カロルはそうだよねと呟いた。

ジュディス「魔導器(ブラスティア)を使ってもエアルが消費しなければ良いのだけど……夢物語なのかしらね」

リタはジュディスの言った事に、ハッと腕の中に埋めていた顔を上げ、リゾマータの公式……と言った。ユーリがなんだそれ?と首を傾げる。

リタ「あらゆるものはエアルの昇華、還元、構築、分解により成り立ってるんだけど、そのエアルの仕組み自体に自由に干渉することが可能になるはずの未知の理論が予想されてるの。それを確立させるために世界中の魔導士が追い求めている現代魔導学の最終到達点よ」

カロル「それがリゾマータの公式?」

カロルは、わかったような分からないような顔をした。リタは首を縦に振る。

レナ(……なんだか、私の世界で言う原子、化学みたいなものかな)

リタ「確立されれば、エアルの制御は今よりずっと容易になるはず、もちろんエアルから変換された力をまたエアルとして再構築するような未知の術式が必要だけど……でも現にエステルの力はエアルに直接干渉してる。リゾマータの公式に一番近い存在なのはエステルなのよ。公式でエステルの力に干渉して相殺すればあるいは……」

ユーリ「なんだかよくわかんねぇが、その公式ってのにたどり着けばエステルは安心して生きてけるってことだな?」

ジュディス「増えすぎたエアルも制御できれば星喰みを招くことも無くなる理屈ね」

ジュディスはリタの話を簡単にまとめる。何となく理解したカロルがすごいよ!と興奮する。パティは、眉に皺を寄せながら難しいけどすごそうなのじゃと言った。

レイヴン「で、その世界中の学者どもが見つけられない公式ってのを探すっての?それこそ夢物語でしょ」

皮肉な笑いを浮かべて、レイヴンはユーリ達を見た。

リタ「絶対たどり着いてみせるわ。エステルのためにもあたしのためにも!」

カロルが、ならレナも何かわかるんじゃない?とレナを見る。

レナ「……しってても、言えないよ」

少女は苦笑いした。カロルは、あっと気まずそうにする。そう、言えないのだ、先のことなど。知っていたとしても、長老が言った通り、明かすことは許されない。

レイヴンはそうかい……とリタに返すと部屋を出ていこうとする。カロルが、どこいくのレイヴン?と聞く。

レイヴン「散歩よ。世界を救うとか、魔導学の最終到達点とか話が壮大すぎて、おっさん、ちっとついてけないわ」

そう言ってそのままレイヴンは部屋を出ていった。

レナ「私も、ちょっと外の空気吸いたい」

少女はレイヴンの後を追いかけるように部屋を出た。カロルはレナも?と悲しげな顔をしていた。ユーリや他のみんなは何も言わずにその背中を見送った。

 レナはレイヴンに気づかれないよう慎重に後を着いていく。やがて、下の海を見つめるエステルとレイヴンが合流した。そっと物陰に隠れながら様子を伺う。更に移動する二人の後を追いかける。古い魔導器(ブラスティア)が置いてある場所、その一角にエステルはレイヴンに連れられていく、最終的に着いたのは歪な揺りかごのような物体。物語を知っている少女だからこそ、それが転送魔導器(キネスブラスティア)であることを知っていた。レナはわざとブーツの音を立てて、二人の前に姿を現した。誰だ!とレイヴンは振り返る。遅れてエステルも振り返った。

レナ「そんな怖い顔、しないでよ。烏さん」

ニコリと微笑んで言えば、エステルはホッとしたように肩の力を抜き、烏さんと呼ばれた彼は、感情が読み取れない表情をしていた。

レイヴン「……なんだ、レナちゃんか」

その声は低い。

レイヴン「やっぱり、先を知っているから、来たのか?」

レイヴンの口調が少し変わる。レナは、黙ったままで、それはレイヴンの言葉を肯定していた。レイヴンが今からすることをレナは全て知っているのだ。よく分からない状況にエステルは戸惑いの表情を浮かべている。

レイヴン「肯定、ね。……残念だけど」

レイヴンはそう言って、結晶体を取り出すと魔導器(ブラスティア)に近づけようとする。レナは風のように移動しレイヴンの前に立ち、結晶体……聖核(アパティア)を持つ腕を掴んだ。エステルもレイヴンも驚いた顔でレナを見る。レイヴンはそのままの状態でも魔導器(ブラスティア)を起動させようとした、しかし不発に終わった。レナが、力を使って発動を止めたのだ。ヘリオードの時と同じ、淡い赤色の光を纏った少女。ひとつ違うのは、膝をつきゴホリと咳をして、赤い液体が口から出ていることだけ。今の行動で、生命力を二回大きく使った上に、エゴソーの森での負担もまだ残っていたためその血は必然的だった。レイヴンの表情が分かりやすく少し苦しそうに変わる。エステルは、レナっ!と気にかけるような表情で青い顔をしていた。未来を変えることは難しく厳しい。レイヴンはレナの手を軽く振り払い、再び魔導器(ブラスティア)を発動させた。

レイヴン「……っごめんな」

光がレイヴンとエステル、レナを包み込み、レイヴンの悲しげで苦しそうな声が微かに彼女達の耳に届いた。

レナ(……やっぱり無理だったか)

レナはフッと体が浮くような感覚と共に、意識を沈ませた。

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