目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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全ての黒幕

 転送先に着いたレイヴンとエステル、レナ。レイヴンはエステルをアレクセイの元に、レナをアレクセイの親衛隊に引き渡す。レナの顔色は悪くぐったりとしていて、確実に命がすり減っているのだろうと長老の話を思い出しながらレイヴンは思う。レイヴンは親衛隊に連れられていく少女を、レイヴンではなく別の顔で見ていた。

 

 一方ユーリ達はその頃、レイヴンやレナが部屋から出ていった後も話し合いを続けていた。そんな中、急に地鳴りようなものが起きて大きな音がする。リタが、何?と不思議そうにした。ユーリが外へ走り出す、リタ達もその後に続いた。今は使われていない魔導器(ブラスティア)が積み上げられているその一角に目をやったリタは仲間に伝えるように声を上げた。

リタ「魔導器(ブラスティア)が動いてる。どうして……?」

人の体がすっぽりと隠れるぐらいの、かなり大きな魔導器(ブラスティア)で、稼働音が聞こえる。リタが魔導器(ブラスティア)に近づいて見る。

リタ「……魔核(コア)が装着されてる」

リタと共に近づいたジュディスがなにかに気づいて、読み上げる。

ジュディス「ここに何か文字が……転送魔導器(キネスブラスティア)……?」

ユーリ「つまりそいつで誰かがミョルゾから出たのか?」

ジュディスは、そう言うことになるわねと頷く。

パティ「でも、ここの魔導器(ブラスティア)は全部、捨てられて動かないものではないのかの?」

パティはジュディスを見上げて言う。ジュディスは、そのはずなんだけどと考え込み始めた。と、後ろから、むという声が聴こえて、ユーリ達は振り返る。長老が立っていた。

長老「なんと魔導器(ブラスティア)が動いているとはこれは一体何事かね」

問うように言う長老に、カロルが誰かが街を出たみたいと答える。その瞬間、リタはハッとして辺りを見渡した。

リタ「エステル……エステルはどこ?」

ユーリ「レナとおっさんも、どこ行ったんだ?」

ユーリは、レナとレイヴンの姿がないことにも気づく。

カロル「え?まさか……三人が?」

どういうことじゃ?とパティも不思議そうにする。ふーむと長老は唸りながら言った。

長老「ここの魔導器(ブラスティア)はみな肝心の魔核(コア)をとうの昔に失ったものばかりのはずじゃが……」

リタ「多分、外から魔核(コア)を持ち込んだのよ。調整無しにただ装着したって動くはずないんだけど、エステルなら別かもしれない。エアルに直接干渉できるのなら魔核(コア)の術式にあわせてエアルを再構築することも出来るかも」

だとしたら……とジュディスが呟き、カロルがどうしたの?ジュディスと見る。

ジュディス「先を見通している彼女なら、エステルの力を使って誰かが街を出ること止めたんじゃないかしらと思って……」

リタがそれに、エゴソーの森で顔色が悪くなっていた少女と長老の話を思い出して、まってと声を上げる。

リタ「そんなことしたら、レナは……!」

ジュディス「そうね、レナは限界を迎えているかもしれないわね」

ジュディスは転送魔導器(キネスブラスティア)の近くに落ちていた血痕をちらりと見て言った。ユーリは、無茶しやがって……と呟く。

カロル「でも一体どうして……」

ジュディスは長老に、仲間が街に居ないか探してくれないかと頼む。ふむ、いいじゃろと長老は快く引き受けると、街の方へ歩き出した。ユーリも仲間に、オレたちも探そうと呼びかけ街の中を探す。

 しばらくして、転送魔導器(キネスブラスティア)の元に戻ってきたユーリ達に長老が報告に来る。

長老「やっぱり三人ともどこにもおらんのう」

カロル「一体どうしちゃったんだろう」

リタ「とにかく降りて探さなきゃ!」

エステルとレナの身を案じてリタは焦っていた。

パティ「降りてと言っても、世界は広いのじゃ。闇雲に探すのは無謀なのじゃ」

パティの言葉に、確かに……とリタは少し冷静さを取り戻す。

長老「三人とも散歩かもしれないぞ?」

カロル「ボクたちに黙って街を出る散歩?そんなワケないよ!」

カロルは長老の話を否定した。ユーリはエゴソーの森でレイヴンが言っていたことやアレクセイと話をしていたことが脳裏に蘇る。

ユーリ(……っ!なんで今になって思い出す……)

ユーリ「なんか嫌な予感がしやがる」

険しい顔をする青年に、カロルがただならぬ事だと感じ取ったのか、早く追っかけよう!と言った。

ジュディス「気持ちはわかるけれどとにかく落ち着いて」

ユーリとカロルをジュディスは制する。

リタ「あんた!心配じゃないの?!」

ジュディス「心配よ。だからこそ落ち着いて考えなきゃ、ね?」

リタ「そ、そうね……。うん、わかった……ごめん」

ジュディスに言われて落ち着いたリタは、八つ当たりしたことに謝罪した。

ユーリ「何か良い方法はないか?」

ユーリは長老にたずねる。

長老「そうさのう。ミョルゾの主ならなにかご存知かもしれんのう」

ジュディス「始祖の隷長(エンテレケイア)だものね。魔導器(ブラスティア)のエアルの流れを感じ取っていたかも」

ジュディスは頷いて、街を包んでいるクラゲのような始祖の隷長(エンテレケイア)に向かって声を出す。

ジュディス「聞いていたでしょう?教えてもらえるかしら?」

じっとジュディスは耳を澄ます。感じとったことを、ジュディスは口に出した。

ジュディス「……なんとなくの方向でしか……西の方、砂の海……街?もうひとつはっきりとはしないけど、砂漠の街……多分、ヨームゲンの方だと思うわ」

ジュディスは仲間たちの顔を見た。

カロル「前にデュークと会った、コゴール砂漠の街だね」

パティ「砂漠の……あんな何もない街に何しに行ったのかの」

ユーリ「すぐに向かおう」

ユーリの言葉に、ラピードがワン!と答え走り出す。ジュディス以外の皆はその後を追いかけた。ジュディスは長老にお礼を言うとユーリ達の後を追った。フィエルティア号に乗りこみ、ミョルゾからデズエール大陸を目指す。やがて、デズエール大陸の上空に着き、ジュディスが見た景色と似た場所にバウルは降下する。ユーリ達はフィエルティア号から降りた。そしてユーリ達の目にした景色、以前とは違う変わり果てた街に皆唖然とする。

ユーリ「これは……」

カロル「どうなってんの?完全に廃墟だよ……?」

リタ「昨日今日ってものじゃないわ……もう何百年も経ってる傷み方よ」

パティ「大火事があって灰になった……ってわけでもなさそうじゃな」

ジュディス「静かに。誰かいるわ」

皆があっけにとられていると、突然ジュディスが注意を促した。幾重にも重ねられた砂山の向こうに一人の男の姿が小さく見える。ユーリがデューク……!と叫んだ。リタも、リゾマータの公式の手がかり!と声を上げてしまう。デュークと一緒にいる魔物を見て、カロルがカドスの喉笛のヤツだと気づく。ユーリが、デュークのツレだったとはなと呟いた。デュークは、魔物の背に乗るとそのまま上空へ飛び去っていった。

リタ「あいつには聞きたいことあるけどまずはエステルを……」

リタがそう切りかえた時、後ろから逃がしたか……と声が聞こえた。ユーリ達はハッと後ろに振り返る。そこに居たのは、帝国騎士団長アレクセイとその部下だった。二人アレクセイのそばに立っており、その内の一人がレナを抱えていた。

アレクセイ「時間がない。残念だが、こうなればもはや止むをえんな」

ユーリ「アレクセイ。何でこんなとこに……」

ユーリはアレクセイが居ることに驚きを隠せない。

ジュディス「!……レナっ」

ジュディスはアレクセイの後ろで待機している親衛隊がレナを抱えているのに気づく。

アレクセイ「ほう、姫を追ってきたか。よくここが分かったな」

アレクセイは不敵な笑みを浮かべる。

リタ「エステルがどこにいるか知ってるの?!」

リタは前に出るが、武器を構えた親衛隊に止められてしまう。リタは後ろに下がるしかなかった。

カロル「な、何するんだよ!」

親衛隊の急な行動にカロルは反抗する。アレクセイはふんと嗤う。

ユーリ「何の冗談だ?騎士団長さんよ」

ユーリはアレクセイを睨む。アレクセイは静かに話し出した。

アレクセイ「君たちには感謝の言葉もない。君たちのくだらない正義感のおかげで私は静かに事を運べた。古くは海賊アイフリード、そして今またバルボス、ラゴウ。みなそれなりに役に立ったが、諸君はそれを上回る、素晴らしい働きだった。まったく見事な道化ぶりだったよ」

え?え?と、事情をよく飲み込めないカロルはおろおろとユーリを見る。

アレクセイ「だがもう道化の出番は終わりだ。そろそろ、新月の子と共に舞台から降りてもらいたい」

今までの原因が、アレクセイだという事を察したユーリはそういうことかよと、吐き捨てる。

ユーリ「……何もかもてめぇが黒幕……?笑えねぇぜ!アレクセイ!!」

ユーリはアレクセイに剣を向けたと同時に親衛隊はレナに剣を向ける。ちっとユーリが悔しげに舌打ちをしたその時、騎士団長!と砂山からフレンが走ってくる。ウィチルやソディアも一緒だった。

アレクセイ「ふん。もう一人の道化も来たか……」

前を向いたままアレクセイは言った。フレン……とユーリは目を見開く。

フレン「騎士団長!何故です!帝国騎士の誇りと言われたあなたが、何故謀反など……」

フレンはアレクセイの背後から問い詰める。

アレクセイ「謀反ではない。真の支配者たるものの歩むべき覇道だ」

アレクセイはフレンの方にちらりと振り返る。

フレン「ヨーデル様の信頼を裏切るのですか!」

続けて問う彼に、アレクセイはフレンから視線を外す。

アレクセイ「ヨーデル殿下……ああ、殿下にもご退場願わないとな」

アレクセイの言葉に、フレンは、ばかな……と絶句する。その時、ひときわ高い砂山の上に人影が現れる。

イエガー「マイロード。準備が整ったようでーす」

姿を確認したカロルが、イエガー!と名を呼んだ。

アレクセイ「ご苦労。では私は予定通りバクティオンへ行く。ここはおまえに任せる。……ヨーデルの始末もな」

イエガーは、イエスマイロードと返した。アレクセイは、少女を抱えた親衛隊に何かを伝えるとそのまま歩き出した。

フレン「まて!アレクセイ!」

ユーリ「逃がすかよ!」

前に出るフレンめがけて、親衛隊はレナを投げた。その後ろにいたユーリが驚きつつも構わず走る。しかし、通さないとゴーシュとドロワットが、立ち塞がった。投げられたレナになっ!と驚かながらもフレンは、宙を舞う少女を地面に着くスレスレで抱えた。そのまま、ゆっくりと地面に横たわらせる。

ジュディス「邪魔するのなら……」

リタ「どきなさいよ!」

ジュディスは武器を構え、リタは詠唱を始める。

イエガー「ユーたちのプリンセスもバクティオン神殿でーす」

なんだと!?とユーリは顔色を変える。

ドロワット「早く行かないと手遅れちゃうわよん」

ドロワットはそう言って煙幕を張った。次に煙幕が晴れた時には、イエガーと二人の少女たちの姿は消えていた。フレンは、ウィチルとソディアに急いでアレクセイとイエガーを追え!と指示を出す。

パティ「アレクセイ……許せん、許せんのじゃ!」

カロル「ユーリ、ボクらも!……ユーリ?」

ソディアはユーリに、大人しくしてもらおうと剣を向けた。しかし、フレンとユーリの冷ややかな視線に、ソディアは剣をおさめた。そこで少女は、目を覚まし体を起こした。周りを見渡して砂漠、そしてユーリ達とフレン達が居ることから、状況を飲み込めていても、エステルは!?と少女は叫んでしまう。

ユーリ「!レナ、目が覚めたのか」

起きた少女に、リタが駆け寄る。ジュディスもその後に続いた。

ジュディス「アレクセイが連れていったわ……」

レナは、やっぱり……と呟く。

リタ「レナっ、体は平気なの……?」

気にかけるような表情でリタはレナを見た。レナは、痛いところも無く、強いて言うなら体がだるいくらいだなと思い、それなら言わなくていいかと判断した。

レナ「平気だよ。それより、早くエステルを助けなきゃ」

リタは頷き、ジュディスは少し疑問を持つような顔をした。

フレン「……バクティオン神殿はヒピオニア大陸にあるそうだ」

フレンは静かに伝える。

ジュディス「ヒピオニア……デズエールの東の大陸ね。エゴソーの森がある」

カロル「イエガーの言葉を信じるの?!」

カロルは驚いたようにジュディスを見上げた。

リタ「アレクセイも向かったってんならきっとエステルもいるわ!」

レナ「じゃあ、そこに行ってみよう」

パティ「なのじゃ!あの男、このままほっとくわけにはいかんのじゃ!」

何時になく険しい顔をしている彼女に、カロルがおかしいと感じて、どうしたのパティ?と問いかける。リタがそういえば、アイフリードがどうとか言ってたけど……と呟く。

パティ「あの男がすべての元凶なのじゃ。あいつを倒せば、エステルも戻ってくるのじゃ」

カロル「でも、レイヴンは?」

リタ「エステルを渡してどっかに逃げちゃったんでしょ!」

カロルの問いに、リタはイラついたように答えた。

カロル「そんな……レイヴンがそんなことするはずがない……!ねぇ、レナも一緒にいたんでしょ?何か知らないの?」

レナ「……彼は」

その先を伝えようとして口をパクパクとした。レナが言おうとした裏切ったという言葉は、まだ仲間たちに伝えることを許されない。少女は、唇を噛む。カロルが、レナ?と顔をのぞき込む。

レナ「烏さんのことは、知らない。ミョルゾで魔導器(ブラスティア)の発動を止めた後からここまで、気を失ってたから」

ジュディス「なら、彼も捕まったのかもしれないわね」

リタ「……とにかく!行くわよ!ユー……」

ユーリと名前を言いかけてリタは止めた。フレンが先にユーリと言ったからだ。ユーリは、ちょっと顔貸せと静かに言う。フレンはそれに応じた。少し離れたところで話出す二人、やがて白熱して言い合いになっている。一刻も早くエステルの力が使われて命を削られるのをふせぎたいレナは正直イライラした。二人に近づこうとするリタを少女は制し、ズカズカと歩く。

レナ「言い合いしたり、嘆いたりするのがあなたの仕事?」

ウィチルが無礼だよ!と少女を咎める。それをフレンは制した。

フレン「いや、彼女の言うとおりだ。僕は責任を取らないといけない。エステリーゼ様は僕が救い出す」

何を言い出すんだ?とユーリはフレンを睨んだ。

ソディア「隊長!それじゃヨーデル様はどうするんですか!今、殿下の身になにかあったら、帝国は……」

焦ったように彼女はフレンに意見した。

フレン「その通りだ。だからこそ我が隊の総力をあげてヨーデル様をお守りするんだ」

ですが隊長は……!とソディアは言う。フレンは頼むとお願いした。ソディア達は何も言えない。

ユーリ「ったく、オレはおまえにそういうけじめをつけさせたくて怒鳴ったワケじゃないっての。それにエステルを助けるのはオレたち凜々(ブレイブ)明星(ヴェスペリア)だ」

フレンはユーリに近づく。

フレン「……なら、僕も入れてくれ凜々(ブレイブ)明星(ヴェスペリア)に」

フレンの発言にソディアは、隊長!?と驚く。

ユーリ「騎士がギルドにって、お前、冗談きついぜ」

フレン「親衛隊がエステリーゼ様を連れ去るのを僕は阻止できなかった。僕には彼女を助け出す義務がある」

ユーリ「やめとけって。お前にギルドは合わねぇよ。けど、一緒に来たいってんなら、好きにすりゃいい」

ユーリ……!とフレンは、ユーリを見つめた。

ユーリ「けど分かってんだろうな。お前の本当にすべきこと」

フレン「ああ、エステリーゼ様を助け次第、ヨーデル殿下の護衛に戻る。帝国を混乱に陥られるようなことにはさせない」

ユーリに誓うように言ったあと、フレンはソディア達の方に振り返る。

フレン「すまない、ソディア、ウィチル。……ヨーデル様を頼む」

ソディアはなにか言いたそうにしていたがそれを飲み込むように頷く。

ソディア「……できるだけ早くお戻りください。殿下にもそうお伝えします」

フレンはわかったと返事する。それを聞いてソディアは名残惜しそうにしながらもヨーデルの元へとウィチルを連れて駆けて行った。フレンは、ありがとうユーリとソディアを見送りながら言う。ユーリはお互い様になと笑った。

ユーリ「ちった安心したぜ。久々にらしいところ見れて、な」

フレンとユーリがレナ達に近づく。

ジュディス「アレクセイ……彼が……ヘルメス式の技術を持ち出していたのね」

ユーリ「ああ。良くも悪くもひとつにつながったって訳だ。よし!バクティオン神殿にいくぞ。エステルとレイヴンを助けてアレクセイのヤツをぶっ飛ばす!」

ユーリの言葉にみんなは頷き、心をひとつにした。

 バクティオン神殿を目指して、ユーリ達はヒピオニア大陸へ飛んだ。

カロル「見て!あそこ!」

カロルがフィエルティア号の手すりにつかまりながら、遥か下方を指さす。指す先をみてユーリ達は驚く。

パティ「なんじゃ、あのばかでっかいの」

フレン「ヘラクレス……!」

ユーリ「アレクセイが呼び寄せたのか」

山脈の裾野にほど近いところに、移動要塞のヘラクレスが見える。帝国が誇る超巨大魔導器(ブラスティア)であるヘラクレスは、山肌に接近して空への砲撃を繰り返していた。狙っているのはバウルよりも小さい始祖(エンテレ)隷長(ケイア)のようだ。翼を必死に動かして、砲撃を避けている。やがて、山肌に黒々と口を開けている洞窟へと追い込まれてしまった。

ジュディス「……あれは始祖(エンテレ)隷長(ケイア)アスタル……。アレクセイはまだ聖核(アパティア)を狙っているのね」

ジュディスは気遣わしげに呟き、アレクセイに対して静かに憤っていた。レナは、ギリっと奥歯を噛んだ。

リタ「逃がされたように見えたけど」

ユーリ「ああ。あの遺跡に追い込まれたみたいだった」

ジュディス「どうやらあの遺跡がバクティオンで間違いなさそうね」

カロル「アレクセイ、今度はなにを企んでいるんだろう」

レナ「……さぁね」

これからおこる未来に少女は苦しげな表情で腕を抱いた。

リタ「アレクセイが何を企んでるかなんて関係ないわ」

ユーリ「ああ。オレたちはエステルを助けるだけだ」

ジュディス「でもこのまま接近するとアスタルの二の舞よ」

レナ「なら、少し離れたところから降りて行ったらどうかな」

そうだなとユーリは頷くと、ジュディスはバウルにお願いする。

 

―忘れられた神殿 バクティオン

 

 神殿の入口までユーリ達は急いだ。そこには、術式で形成された透明な球体の中に囚われた気を失ったエステルと、その傍に聖核(アパティア)を手に持ったアレクセイがいた。ユーリがアレクセイ!と叫び、剣を抜く。

アレクセイ「イエガーめ。雑魚の始末も出来ぬほど腑抜けたか」

フレン「アレクセイ、あなた一体、エステリーゼ様に何を……!」

カロルは、アレクセイに、エステルを返せ!と叫ぶ。

リタ「エステル、目を覚まして!エステル!」

カロルに続くように訴えるようにリタも叫んだ。アレクセイはよかろうと言うと、手に持った聖核(アパティア)を高く掲げる。それと同期するように球体に囚われているエステルも浮いた。エステルの体がびくりと動いたかと思うと強烈な力が球体から溢れ出る。

エステル「あ……あああ!!」

エステルが絶叫する。溢れ出た力がユーリ達を襲おうとしたと同時に、構えていたレナが新月の力で相殺した。

レナ「……っぐぅ」

少女は、胸をおさえて膝を着く。ユーリがレナ!と駆け寄る。

エステル「レナ!う……あ……。あ、ああ!!」

アレクセイはまた、エステルの力を使う。連発されてしまえば、一発抑えるので精一杯な少女では無力だった。ユーリ達は宙に放り出され、石畳に激しく叩きつけられてしまう。エステルは苦しそうに顔をゆがめて気を失ってしまった。

レナ「エス、テル……!」

アレクセイ「このとおり、何の補助もなしに力を使えば姫の生命力が削られる。そこの、新月の子と同じように。諸君も姫のことを思うならこれ以上邪魔をしないことだ。くくく……」

地面にふせながら、アレクセイ……!とフレンが言う。く……そ……とユーリは地面の土を握る。

レナ「っふざ、けな、いで……!」

痛むからだを起こそうと必死に力を入れるが、連れ去られるエステルを見つめながら少女は気を失った。

 次に少女が目覚めた時、ソディア達騎士団がアレクセイの親衛隊を制圧していた。ユーリ達も目を覚ましている。まだ傷む体をレナは立ち上がらせた。

レナ「エステル……アレクセイは神殿の中だよ!」

パティが早く追うのじゃ!とユーリ達に言った。ユーリ達は神殿内へと急いだ。

カロル「ヨーデル殿下、ボクたちのために助けを送ってくれたんだね」

神殿内に足を踏み入れて進んだ先でカロルは言う。

リタ「あたしたちっていうか、フレンとエステルのため、でしょ」

ユーリ「来る方も来る方だが、寄越す方も寄越す方だ。ったく自分の立場を自覚してねぇのかね、あの殿下は」

フレン「そういうお方なんだ、殿下は。今回のことだって、人一倍、心を痛めていらっしゃるはずだ」

ジュディス「エステルのことを、かしら?それともアレクセイのこと?」

フレン「……どっちもだ。急ごう」

焦り気味になっている彼を、焦んなってとユーリが声をかける。

フレン「なにをのんきなことを言っているんだ」

ユーリ「どこに敵がいるかも分かんねぇんだ、落ち着けよ」

フレンは、軽く息を吹くとそうだなと俯いた。

フレン「すまない。ユーリたちの方がよほど……」

ユーリは気にすんなお互い様だと言った。ラピードが気を使うようにパティにすり寄る。パティは大丈夫と言って、先を急ぐのじゃ!とラピードを連れて先に走りだした。

カロル「アレクセイ、アイフリードのこと自分の手下みたいに言ってたよね」

レナ(それは……)

フレン「確かに騎士団がギルドを雇うこともない訳じゃないが……」

ユーリ「手下かどうかわからねぇだろ。なんにしてもその話は後だ。行こうぜ」

パティの後を追うように、ユーリ達も先に進んだ。

パティ「さっきもこんな部屋だったのぉ」

ユーリ「似たような部屋ばっかりだな。ひょっとしてずっとこんなんじゃないだろう」

カロルがボクちょっと見てくると行こうとするのを見て、ユーリはラピードに一緒に行くように指示した。

フレン「こういう長々とした造りは通る者を謙虚にさせるためだと聞いたことがある。つまりこれは参道なんだろう」

リタはちんたらしてる暇はないってのに……と苛立ち始める。レナは、落ち着いてとリタをなだめた。カロルとラピードが戻ってくる。

カロル「やっぱりずっと同じようなのがこの先も続いてるよ。ラピードも匂いは分からないみたい」

ユーリ「そっか。迷子にでもなったら厄介だな」

ジュディスが、はいこれと地図用紙を微笑みながら差し出す。

ジュディス「地図作りながら進みましょう」

カロルは、いつも用意良いねと、ジュディスから地図を受け取る。ユーリはカロルに地図を頼む。カロルは任せてよと得意げな顔をした。リタが間違ったら酷いからねと手を振り上げる。カロルはやだなぁ大丈夫だよと頭を守りながら言った。

レナ(私にもっと、力があれば……)

さらに先に進んで行くと、行き止まりに着く。親衛隊がおり、その奥に扉のようなものがあった。

カロル「道は間違えてなかったってことだね」

ユーリ「カロル先生、冴えてるな。あの奥にエステルがいんだろ」

リタ「あんた隊長なんでしょ。あいつらにどけって言えないの?」

リタはフレンに向かって言った。

フレン「親衛隊は騎士団長の命令にしか従わない」

ユーリ「時間が惜しい。一気に行くぞ!」

ユーリの掛け声で、親衛隊を蹴散らす。扉を守っている術式をリタが調べる。パティはややこしそうじゃのうと呟く。

リタ「これって……暗号化した術式を鍵として使った封印結界……?」

鎖を張り巡らせ、赤い光を放っている扉をリタはじっと睨む。

ユーリ「開けられるか?」

ユーリの問いに、リタは首を横に振る。

リタ「ろくに研究されたことのない未知の古代技術よ。あたしも本で見たことがあるだけ。まともに解析しようと思ったら、どれだけ時間がかかるか見当もつかない」

カロル「破れないかな?」

ジュディス「鍵をかけるようなものは普通、簡単に破れるようにはできてないでしょうね」

カロルは納得するようにそっかと呟く。

カロル「あれ、でもアレクセイはどうやって通ったんだろ?」

リタ「多分、エステルの……満月の子の力で無理矢理鍵を組み替えたんだわ」

辛そうな表情で彼女は説明した。

ユーリ「つまりまた力を使わせた、ってことだよな」

くやしげな顔でユーリは言う。フレンはエステリーゼ様の力……とつぶやく。

レナ「私なら、新月の子の力なら、エアルを断ち切って強制的に破る事が出来るかもしれない」

提案するように少女が呟いた時、ジュディスが誰?と振り返る。その声に皆も後ろに振り返った。そこに居たのはデュークだった。

ユーリ「デューク……なんでここに」

デューク「おまえたちか……あの娘、満月の子はどうした?」

カロル「アレクセイがこの奥に連れ去っちゃったんだ!」

カロルは扉を指さす。

デューク「……なるほどな。そういうことか」

ユーリ「あんもアレクセイに用があるのか?」

デューク「この地のエアルクレーネが急速に乱れつつある。私はそれを収めに来た」

リタ「……収めにって、あんた具体的になにをするつもりよ」

デューク「エアルクレーネを鎮め、その原因を取り除く」

ジュディス「はっきり言ったらどう?エステルを殺すって」

なんだって!?とフレンは構える。

ユーリ「ったくどいつもこいつも、よってたかって小娘ひとりに背負い込ませやがって」

ユーリは静かに、だが怒りを含んだ口調で言った。

デューク「暴走した満月の子を放置してはおけん」

レナ「私が、私が止める」

レナは覚悟が決まった目でデュークを見つめる。

デューク「ならぬ。そなたでは、止められぬ。限りあるその命では……」

ジュディスは、やっぱり……とつぶやく。

ユーリ「あんたもフェローと同じ石頭かよ。同じ人間同士もう少し話が通じるかと思ったんだけどな」

デューク「人間同士であることに意味などない。ひとりの命は世界に優越しない」

ユーリ「その世界ってのもバラしゃ全部ひとりひとりの命だろうが。いいか、あのバカで世間知らずのお嬢様はオレたちの仲間なんだよ。部外者はすっこんでろ!」

ユーリは怒りを隠そうとせず、デュークに怒鳴った。

デューク「あの娘がどれほど危険な存在が知った上で言っているのか?」

レナは嫌という程知っている、唇を噛んだ。

ユーリ「知ろうが知るまいが、義をもってことを成せ、ってのがうちのモットーなんでな。どうしてもってなら、悪いが相手になるぜ」

数秒の沈黙。

デューク「……いいだろう。ならばフェローが認めたその覚悟のほど見せてもらおう」

デュークは手にした剣を、ユーリに向かって投げた。剣は地面を滑り、ユーリの足元でとまる。

デューク「(デイ)戒典(ンノモス)だ。エアルを鎮めることができるのはその剣もだ。掲げて念じろ。そうすれば後は剣がやる。その少女の負担も減るだろう」

チラリとレナをみて、デュークはユーリ達に背を向けた。ユーリは、(デイ)戒典(ンノモス)を手に取る。デュークは、コツコツとブーツの音を響かせて通路に戻ろうとするのをユーリが呼び止める。

ユーリ「(デイ)戒典(ンノモス)といや行方知れずの皇帝の証の名前だ。なんであんたがそれを持ってる?なんでそれがエアルを制御できる?あんた一体何者だ?」

地面が揺れる。

デューク「その問いに答えを得ることが今のおまえたちの願いではあるまい、行け。手遅れになる前に。始祖(エンテレ)隷長(ケイア)が背負う重荷、それがどれほどのものか身をもって知るがいい」

デュークはそう告げると通路に戻って行った。

パティ「カッコイイけど気難しいやつじゃの」

フレン「あの男、確かガスファロストでも……何者なんだ?」

ユーリ「さあな。敵なんだか味方なんだか」

そう言って、ユーリは剣に力を込めて掲げる。

ユーリ「むぅっ……!」

ユーリの足下に円陣のように広がった術式を見て、リタが驚く。

リタ「……その術式、エステルと同じ。やっぱりその剣……」

ユーリを包んだ光が、扉に届き術式が消える。カロルは開いた……と嬉しそうにした。そして扉の先にユーリたちは進んだ。

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