目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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救いのその先

 ユーリ達は食堂をでて、城の奥に向かった。ようやく来ましたねと女性の声が聞こえ、ユーリ達の背後からコツコツとブーツの音が響いてきたのは、謁見の間に足を踏み入れた時だった。ユーリ達はハッと振り返ると、そこには長い耳を持ち、青い髪を長く伸ばした女性が立っていた。

ジュディス「クリティア族!?いえ、あなたは確か……」

ジュディスは首を傾げた。

レナ(……ヘリオードでアレクセイと一緒にいた人、名は確かクローム)

レイヴン「帝国騎士団特別諮問官クローム、……要するにアレクセイの秘書殿よ」

パティ「アレクセイの……ってことは!?」

リタ「敵!?」

と、臨戦態勢をとりかけた。クロームは首を横に振る。

クローム「いいえ違います。……少なくとも今は」

ユーリ「引っかかる言い方だな。悪ぃが、こっちは急いでんだ。戦うか、でなきゃ後にしてくんねぇかな」

ユーリは苛立ちを隠さず、クロームを睨む。

クローム「誰かためにあなたたちは戦うのですか?」

急な質問にカロルがえ?ときょとんとする。

クローム「あの哀れな娘のためですか」

その言葉を聞いたリタがキレる。

リタ「哀れだとかあんたに言われる筋合いなんかない!」

レイヴン「回りくどいわねぇ。何が言いたいのよ?」

レイヴンの表情にも怒りが見え隠れしている。しかし、クロームは全く動じることはない。

クローム「あの人があなたたちに何を見たのか分かりませんが……あなたたちがあの人を止めてくれるのを願っています」

彼女は冷静に言うと、そのまま謁見の間から出て行った。

リタ「意味不明。ワケわかんないんだけど……」

カロル「アレクセイを止めて欲しいってこと?」

リタとカロルは顔を見合わせる。

ユーリ「さぁな。ま、考えても仕方ねぇ」

ジュディス「そうね。もう、この先にエステルたちは居るのだから」

ユーリにジュディスも同意する。

パティ「のじゃ、止めるなんて生ぬるい。ぶっ倒すのじゃ」

レイヴン「あとはぶっつけってことかねぇ?」

レナ「当たって砕けろってところ?」

カロル「いや、砕けちゃダメでしょ……」

ユーリ「とりあえず、行くぜ!」

ジュディスはクロームが歩み去った方をじっと見ていたが、すぐにユーリたちのあとを追った。

レナ(……なんだろう、胸騒ぎがする)

頂上に向かうための長いスロープを登っている最中、少女は嫌な予感を感じていた。それを抱えたまま、頂上につくと球体に入れられたエステルとその横にアレクセイが立っていた。

アレクセイ「……呆れだものだ。あの衝撃でも死なないとは」

アレクセイは眉を下げ、からかうようにユーリ達を一瞥した。その掌には、聖核(アパティア)が浮かび、内包する光がゆっくりと回転を続けていた。

ユーリ「あやうくご期待に沿えるところだったけどな。エステル返してぶっ倒されんのとぶっ倒されてエステルを返すのと、どっちか選びな」

ユーリが不敵に笑い、アレクセイへ一歩近づくと共に仲間たちは武器を構える。

アレクセイ「月並みで悪いが、どちらも断ると言ったら?」

ユーリ「じゃあオレが決めてやるよ」

ユーリは剣を抜く。

アレクセイ「姫の力は本当に素晴らしかった。いにしえの満月の子らと比べても遜色あるまい。人にはそれぞれ相応しい役回りというものがある。姫はそれを立派に果たしてくれた」

アレクセイはエステルの方を向いてそう言った。

ユーリ「用が済んだってなら、なおのこと返してもらうぜ」

怒りをおさえた低い声だった。

アレクセイ「いいとも」

アレクセイは聖核(アパティア)を操作する。球体の中でエステルがゆっくりとユーリ達の方に体を向けた。彼女の瞳には、光がない。球体が消え、床に着地したエステルの手には剣と盾があった。ジュディスがエステルを呼ぶよりも早く、エステルはユーリに斬りかかる。

ユーリ「うおっ!!」

かろうじて剣で攻撃を受け止めたユーリは、その力の強さに驚いていた。

カロル「エステル!どうしたんだよ!!」

レナ「ストップ、彼女、操られてる」

身を乗り出すカロルをレナが制した。

パティ「ぐっ……!卑怯じゃ……卑怯なのじゃ、アレクセイ!」

パティはアレクセイに対して怒りを溢れさせる。

アレクセイ「取り戻してどうする?姫の力はもう本人の意思ではどうにもならん。我がシステムによってようやく制御している状態なのだ。暴走した魔導器(ブラスティア)を止めるには破壊するしかない、諸君ならよく知っているはずだな」

アレクセイは低く笑う。カッとなったリタが声を上げた。

リタ「エステルを物呼ばわりしないで!!」

アレクセイ「ああ、まさしくかけがえのない道具だったよ、姫は。おまえもだ、シュヴァーン。生き延びたのならまた使ってやる。さっさと道具らしく戻ってくるがいい」

アレクセイはしみじみと言ったかと思うと、レイヴンに視線を当てた。するとレイヴンの唇に、皮肉っぽい笑みが浮かんだ。

レイヴン「シュヴァーンなら可哀想に、あんたが生き埋めにしたでしょうが。俺はレイヴン。そこんとこよろしく」

ユーリ「役回りがあるってのは同感だけどな、その中身は自分で決めるもんだろ」

ユーリが言葉を投げつける。だがアレクセイは首を振った。

アレクセイ「それで無駄な人生を送る者もいるというのにかね。異な事を」

カロル「自分で選んだんなら受け入れるよ。自分で決めるってのはそういうことだ!」

カロルは武器をグッと握って叫んだ。

パティ「無駄かどうかなんて、おまえに決める権利なんかないのじゃ!」

続けてパティが言った。

アレクセイ「残念だな。どこまでも平行線か」

アレクセイが剣を抜く。柄の付け根には薄青の聖核(アパティア)が光り輝いていた。

ユーリ「やめろ!」

ユーリはエステルの剣を受け止め続けながら、目だけアレクセイにむけて訴える。そのとき、エステルの腕に新しい力が加わった。

ユーリ「よせ、エステル!くっそおお!!」

ぎりぎりまで逡巡したユーリが、エステルの剣を跳ねのけると〈爪竜連牙斬〉で斬りつける。むろん急所ははずしているが、カロルが泣きそうになって叫んだ。

カロル「ボク、できないよ! エステルと戦うなんて!」 

それでもやらなければいけないとわかっているのだろう、〈落破スパイダーウェブ〉のクモの糸でエステルを拘束しようと試みた。だがそれはあっさりとエステルの剣に斬り捨てられる。ジュディスが〈風月〉の回し蹴りをエステルの体に沈める。

レナ「っエステル!」

少女はエステルによって傷つく仲間たち、仲間たちによってエステルの傷が増えていくのを見て、悔しさと悲しみでどうにかなってしまいそうだった。ふと、横にいたリタを見れば辛そうな表情をしており、彼女のことを思うならその気持ちがレナにも想像がつく。レナはタガーナイフを構え、エステルの剣を落とそうとギリギリを狙う。しかし、いとも簡単に弾かれてしまう。次にユーリがエステルに挑む。刃と刃のぶつかり合う音が響いた瞬間、レイヴンの放った〈天の閃き〉の矢が、エステルを翻弄した。リタは魔術を発動させる。エステルは、それでも仲間たちを攻撃する手をとめなかった。

ジュディス「エステル、目を覚ましなさい!」 

ジュディスが声を張る。こちらの声はまるで聞こえていないらしい。

リタ「あたし、リタよ! あんたの友達よ!」

リタは焦った声で叫び両手を広げた。だがエステルの虚ろな目はリタを素通りし、カロルとレイヴンを捉える。彼らを攻撃しようとした彼女は、突然足をもつれさせ、よろけて膝を突いた。

アレクセイ「ふむ……パワーが足りなかったか?」

その様子を顎を撫でながら見ていたアレクセイはそう言うと、手にしていた剣をひと振りした。

エステル「きゃあああああ!!」

エステルの体が再び球体に飲み込まれる。

ユーリ「エステ……うぐっ!!」

エステルから発せられた衝撃をユーリ達はくらう。

アレクセイ「諸君のおかげでこうして(デイ)()戎典(ノモス)にかわる新しい『鍵』も完成した。礼といってはなんだが、我が計画の仕上げを見届けていただこう。……真の満月の子の目覚めをな」

アレクセイは虚空を見上げた。ただならぬ様子に、ユーリ達は身を硬くする。

風が変わった。濃厚なエアルがアレクセイの剣に吸い寄せられて結界が歪み、そのまま消滅した。やがて爆発的な光が、剣の先から逬り出てそのまま雲を突き抜け、はるか西にある海まで達した。海面に途方もない大きさの術式が展開されるのを見て、ユーリたちは息を呑む。海中に潜ったと思われた光は、一気に天に向かって駆け上った。そのあとからゆっくりと出現したのはひと目で古代のものとわかる様式の建造物だった。土台となる部分は土台となる部分は指輪の台座のような形をしており、頂上には城からでもそれと分かるほどの巨大な魔核(コア)を戴いている。

レイヴン「く……なんだ、ありゃ……」

片膝をついたレイヴンが苦しげに胸をおさえ、呻くように言う。

ジュディス「あれは……ミョルゾで見た……」

パティ「あの壁画の……輪っかなのか……!?」

レナ(……ザウデ不落宮)

アレクセイ「くくく……ははは……成功だ!やったぞ、ついにやった!!」

アレクセイは広げた腕を上下させながら、浮き立つ気持ちをかみ締めている。興奮のために声が上ずっていた。

アレクセイ「あれこそ、古代文明が生み出した究極の遺産!ザウデ不落宮!かつて世界を見舞った災厄をも打ち砕いたという究極の魔導器(ブラスティア)!」

リタ「魔導器(ブラスティア)!?あれが……」

リタは信じられないという顔で、ザウデ不落宮を見つめる。

レナ(……あれはそういう魔導器(ブラスティア)じゃない!打ち砕いたんじゃなくて、封印しているだけ)

少女は唇を噛んだ。

ユーリ「誰もいないところでやってくれ。聞いてて恥ずかしいぜ」

ユーリは皮肉を言った。

アレクセイ「……ショーは終わりだ。幕引きをするとしよう。……その前に」

アレクセイは、一点を見つめる。その視線の先にいるのはレナだった。レナの嫌な予感は的中する。

アレクセイ「新月の子としては不要だが、異空の子としての使い道はある」

ニヤリと笑うアレクセイに、レナは鳥肌を立たせて一歩引く。

レナ(新月の子と異空の子が同一であることを知らない……?)

レナ「私は、あなたとは行かない。私は私よ。道具じゃない。それに、あの魔導器(ブラスティア)は……」

レナが拒否の言葉を羅列すると、アレクセイは何かを引っ張る動作をした。瞬間、レナの右手首に魔術の紋章と共に魔術でできた鎖が巻き付きアレクセイの方へと引っ張られていく。

レナ「……!いやっ!」

レナ(いつの間に……この術式を?!)

抵抗しようとレナは踏ん張るが、ズリズリとアレクセイの方へ手繰り寄せられていく。

アレクセイ「あの時、何もせずに返したと思っていたのか?」

レナ(まさかっ……エステルと共にレイヴンに連れていかれた時に!?)

ジュディス「レナっ!」

ユーリ「アレクセイ!てめぇ!」

ユーリがレナに繋がれている鎖を断ち切ろうとするがまるで歯が立たない。くそっ!とユーリが焦っているのがレナの目にうつる。やがて、アレクセイとレナの距離はほとんど無くなった。

アレクセイ「さぁ、私と共に来て頂こう」

レナ「お断りと言ったら……?」

レナはアレクセイを睨む。

アレクセイ「ほう、強気なお嬢さんだ。では、致し方ない」

アレクセイは鎖をグッと握ったかと思えば、鎖を伝ってレナに電流が流れる。

レナ「っ……きゃあああ!!」

ヒュっと息を飲み、少女は体に流れる電流の痛みに絶叫する。

レイヴン「レナちゃん!!」

まだ苦しそうなレイヴンが、目を見開いて少女の名を呼んだ。レナは、耐えきれず、その場に崩れる。鎖に引っ張られ、地面に倒れてはいないもののぐったりとしていた。

アレクセイ「フッ。さて、姫。ひとりずつお仲間の首を落として差し上げるがいい」

アレクセイはレナを抱き上げる。

ユーリ「てめぇ!!」

アレクセイ「姫も君たちがわざわざここに来たりしなければ、こんなことをせずにすんだものを、我に返ったときの姫のことを思うと心が痛むよ。では、ごきげんよう」

アレクセイは、少女を抱いたままユーリ達に一礼すると、アレクセイの周りに竜巻のような術式が展開され、レナと共に姿を消した。

ユーリ「待てってんだ、アレクセイ!てめぇ、戻ってこい!」

アレクセイが背を向けたと同時にユーリは駆け出して剣を振るうが、空を斬るだけだった。ユーリはアレクセイが去った先を睨み、アレクセイの名を怒りを込めて叫ぶ。

パティ「くっ……あいつ…!!」

リタ「レナっ。……エステル……やめて……!」

リタは俯いていた顔を上げて、悲痛な声でエステルに訴えた。しかし、エステルは聞こえていないようで構わずユーリに剣をふりかざした。

 

―ザウデ不落宮

 

 まるで地下にいるかのような肌寒さに少女は目を覚ました。神殿のようなつくりの部屋で、見たことがあるような場所だと思った。ふと、こつりと音が聞こえて、ハッと少女は音の方に振り返る。アレクセイが居た。

レナ「……ここは?」

アレクセイ「目を覚ましたか。君なら知っている場所では無いのかね?」

レナは、私なら?と首を傾げる。

アレクセイ「この魔導器(ブラスティア)について知っているような口ぶりだっただろう」

レナ「っ!……ザウデ不落宮」

フッとアレクセイは笑う。

アレクセイ「教えてもらおうか。災厄を討ち滅ぼしたこれが、他にどんなことが出来る兵器なのかを」

レナ「……そもそもの前提が違う」

アレクセイ「なに?」

片眉を上げるアレクセイ。

レナ「ザウデ不落宮は災厄を滅ぼした兵器じゃない」

アレクセイ「ならば、なんだというのだ」

自分がしてきたことを覆されるような言い分にアレクセイは信じられないなという目を少女に向けた。

レナ「ザウデ不落宮は、災厄を……」

声にならなずに空気だけが口から出る。災厄から守ったと言い替えたくてもそれすら許されない。言い淀むような少女に、アレクセイはフッと笑った。

アレクセイ「なんだ、はったりだったか。所詮子供の戯れ言という訳だ」

レナ(……言いたくても言えない、迂闊だった)

レナは悔しげに唇を噛む。

アレクセイ「さて、この魔導器(ブラスティア)の起動には、異空の子の祈りが必要」

切り替えるように彼は少女に繋がれている鎖を引っ張る。レナは引っ張られて、無理やりその場から離れさられる。

レナ「っ……祈り?」

アレクセイは少女の問いに答えることはない。けれど、確実に祈れば世界が危険にさらされることは分かっていた。抵抗するだけ無駄と言わんばかり、ズルズルと引っ張り、首と足首に鎖が巻き付き少女は宙に磔の状態にされる。かわりに、手首の鎖が解かれた。

アレクセイ「この鎖は魔導器(ブラスティア)に接続済み。あとは君が祈るだけだ」

興奮が抑えられないように高笑いをするアレクセイを、レナは軽蔑したように見る。

レナ「残念だけど、世界が大変なことになるってわかってて、祈るバカはここにはいないよ」

ぴくりと眉を動かしたアレクセイ。

アレクセイ「ならば、その気にさせるまで」

アレクセイは片腕を上げ、何かを操作するように手を動かすと少女の体に、囚われた時と同じ電流が流れる。気絶させるような強さではなく加減されているようで、それが腹ただしい。

レナ「っ!ぐっ……ああ!」

痛みに少女はからだをよじる。痛みが来なくなると、はぁはぁと息切れを起こしていた。

アレクセイ「辛いのは嫌だろう?」

レナ「フフっ、これくらい何ともないよ。世界が守れるなら!」

アレクセイ「そうか……フンっ」

再びアレクセイは、少女に電流を流す。

レナ「ぐっ!!ぅああ!!」

レナは同じように痛みを逃すように体をよじる。服が電流で焦げたのか、少しの煙と焦げ臭くなっていた。

アレクセイ「祈る気になったか?」

レナ「……っ、いいえ……お断りよ」

アレクセイ「では暫く、そのままでいるといい」

アレクセイは片腕を上げると、少女に電流が走る。レナの悲痛な声がザウデ不落宮の深層部に響いた。

 あれからどのくらい時間が経ったのだろう。定期的にレナを襲う電流は今もまだ蝕んでいる。陽の光も届かないここでは、朝なのか夜なのかさえ分からない。コツコツと音がする。来たのはアレクセイだ。

アレクセイ「どうかね?……祈るかね?」

何度も電流を受けたレナの体は、至る所に火傷をおっていた。黒いカーディガンは地面に焦げ落ち、白いワンピースも所々焦げて穴が空いている。白いリボンのバレッタも髪が焦げて、毛先から落ちかけている。

レナ「……い、いえ」

内臓もそれなりのダメージをおっており、喉も声を発するのが痛いと感じるほどだった。

アレクセイ「頑固なお嬢さんだ。では、こうしよう」

アレクセイはなにか詠唱すると、レナの周りに霧がまとわりつく。急激な眠気にレナは抗えず、そのまま意識を暗闇に落とした。

アレクセイ「悪夢(良い夢)を」

アレクセイはその場から去る。

 レナは暗闇でハッと顔を上げた。体の痛みは無い、夢の中だろうかと少女は思う。キョロキョロしていれば、周りにユーリ、エステル、カロル、リタ、ジュディス、レイヴン、ラピードの順に姿が浮び上がる。

レナ(……ユーリたち?)

レナが首を傾げていると、ユーリたちは口を開いた。

ユーリ?「どうして、教えてくれなかったんだ?」

エステル?「どうして、助けてくれなかったんです?」

カロル?「レナっていっつも、自分のことばっかだよね」

リタ?「あんたが居ない方が、エステルもこんなことにならなかった」

リタがそういった時、エステルはユーリに剣で刺されて倒れていた。ヒュっとレナの喉がなる。

ジュディス「ベリウスも救ってくれなかった」

レイヴン「ドンも死んじまった」

ラピードは静かにレナを、睨んでいる。ラピード以外はみな、顔を俯かせていて表情は分からない。けれど確かに、少女に対して、恨みを持った声だった。

レナ「……救いたかったよ、助けたかったよ。でも……私には……!」

レナ(……なんて夢なの!)

剣に刺されたエステルが血を垂らしながら人形のように起きた上がる。その手には剣があった。レナは、嫌な予感がした。瞬間、エステルの剣はユーリたちの首を切り落とした。レナは目を見開くことしか出来ない。声も出なかった。ラピードに至っては(はらわた)が出ている。あまりに惨い状況に少女は顔を逸らした。が、それすら許さないも言わんばかりに、見えない何かが少女の顔を正面に固定する。切り落とされたユーリたちの生首が、レナを一点に見つめる。目は窪み、血の涙を流したその顔は恐怖でしかなくジリジリとレナに近寄ってくる。

レナ「っ……い、や……」

後ずさることも出来ず、距離は近づいていき、囲まれる。ユーリ達はずっと、どうして、どうしてと悲痛な声で繰り返しており、いつの間にかそこにベリウスも犠牲となっていった人達も混ざっていた。

レナ「あ……ぁ……ご、めん、なさ……」

小さく震える声だった。次第にどうして、という声は"いのれ"という言葉に変わっていく。思考が恐怖と強迫概念に侵されて、グルグルとうずまき混濁していく。

レナ(……イノ、ラナキャ……?)

少女の目にはもう、光は無かった。

 ザウデ不落宮の最深部で、アレクセイの高笑いが響いた。なぜなら、少女が……レナが、祈ったから。

 

―――

 

 一方ユーリ達は、ザウデ不落宮に向かっていた。近くまで来た時、発動しかけているザウデ不落宮の魔核(コア)にフェローが来ていた。どうやら囮になっているくれているようだと、ジュディスは考える。ユーリ達はザウデ不落宮に乗り込み、最深部へと駆け込んだ。

 最奥部にたどり着き扉を開ける。部屋はぐるりと滝が囲んでいる。アレクセイは生え抜きの部下を両脇に従え、静かに待っていた。その奥に、紫色の不気味な鎖が首と足首に巻き付き、宙に磔にされ胸の前で手を祈るように握り、虚ろな目をしたレナがいた。小さい声はほとんど音をなさず、ごめんなさいと口は動いていた。服は、ボロボロでワンピースに幾つもの焦げ跡、むき出しになっている手足は所々赤黒く水脹れになっている所もあった。そんな惨い状態にエステルは開きかけた口を手で押さえて息を飲む。同様にユーリ達も、悔しげに見るものや、眉を顰めるものもいた。

レナ「……ごめ……んな……さぃ」

リタ「……レナ!」

耐えきれずリタは少女の名を叫んだ。レナはピクリとも動かない。ユーリは唇を噛む。

アレクセイ「揃い踏みだな。はるばるこんな海の底へようこそ」

エステル「っそこまでです、アレクセイ。これ以上、罪を重ねないで!」

今更かもしれないと思いつつもエステルは、水音に負けぬように声を張った。

アレクセイ「これはエステリーゼ様ご機嫌麗しゅう」

アレクセイは胸に手を当て、慇懃無礼に微笑んだ。

アレクセイ「その分ではイエガーは役に立たなかったようだな」

アレクセイは姿勢をなおす。

ユーリ「……死んだよ」

ユーリは短く告げた。一刻も早く、少女を取り戻したという気持ちもあって。

アレクセイ「最後くらいと思ったが、とんだ見込み違いだったか」

驚くでもなく、アレクセイは嘲りを含んだ口調で吐き捨てた。

ジュディス「そうやって他人の運命を弄んで楽しいかしら?」

ジュディスは冷静にそう言いうが、その声には怒りがこもっていた。フレンが前に駆けでる。

フレン「アレクセイ!かつてのあなたの理想は……なにがあなたを変えたんです!」

未練がましいフレンの言葉に、ユーリはまだそんなこと、とフレンを見た。

アレクセイ「なにも変わってなどいない。やり方を変えただけだ。腐敗し閉塞しきった帝国をいや世界を再生させるには、絶対的な力が必要なのだ」

アレクセイは肩をそびやかして答えた。

フレン「そのためにどれだけ犠牲を出すつもりです!」

アレクセイ「今の帝国では手段を選んでいる限り、決して真の改革がその実現を見ることはない。お前ならわかるはずだ」

フレンは俯く。

レイヴン「ちょっとちょっと、やつの言葉に呑まれてどうすんのよ」

パティ「世迷言……全部、世迷言なのじゃ!こいつの言うのとはなにもかもが嘘っぱちじゃ!!」

エステル「……どうしてこんな笑顔を奪うようなやり方しかできなかったんです?あなたほどの人ならもっと他に方法が……」

アレクセイ「理想のためにはあえて罪人の烙印を背負わなくてはならぬ時もある。ならば私は喜んでそれを受けよう私は世界の解放を約束する!始祖(エンテ)()隷長(ケイア)から、エアルから、ちっぽけな箱庭の帝国から!世界は生まれ変わるのだ!!」

エステルの言葉をさえぎって、アレクセイは語る。

ユーリ「世のためだろうがなんだろうが、それで誰かを泣かせてりゃ世話ねぇぜ。てめぇを倒す理由はこれで十分だ!」

ユーリは鞘から剣を抜く。

フレン「もう……引き返す気はないのですね」

静かに問いながらフレンは剣の柄を握る。

アレクセイ「くどいな、悪いがこれで失礼する。なにぶん忙しいものでね」

突然床が揺れ始め、宙に磔にされた少女と共にアレクセイは上へと逃げ始める。

エステル「レナっ!」

カロル「あ、逃げる!」

パティ「逃がさん!」

ユーリ「みんな飛べ!」

ユーリの掛け声で仲間たちは駆け出しアレクセイの元へと飛ぶ。アレクセイは操作盤をいじっていた。

レイヴン「なぁ大将、どうあってもやめる気はねぇの?」

アレクセイは操作盤から目を離し、レイヴンに振り返る。

アレクセイ「おまえまでもがそんなことを言うのか。なぜだ?おまえたちの誰一人として今の帝国をよいとは思っていないだろうに」

レイヴン「目的は手段を正当化しねぇよ、大将。おらぁこいつら見てて、よく分かった」

エステル「……痛みに満ちたあなたのやり方は正しいとは思えません。やり方を変えられないと言うのなら……」

カロル「ギルドも帝国もいいとこだってある。それを全部壊してからやり直すなんて、ひどすぎるよ」

ジュディス「強行な手段は必ずそれを許さないものを生む、分かるわよね?」

ジュディスはあくまでもにこやかに言って首を傾げた。

リタ「あんたの作る世界が今よりマシだって保証なんてどこにもないわ!」

フレン「僕があなたを信じたのは人々に何かを押し付けるためじゃない。与えるためにまず奪うというのなら僕はあなたを……倒す!」

パティ「おまえの勝手な夢なんかに付き合うのはまっぴらなのじゃ」

ユーリ「てめぇの言い分を認めるやつなんていねぇよ。レナも返してもらうぜ」

アレクセイ「どうあっても理解しないのか。変革を恐れる小人(しょうじん)ども。だがすでに全世界のエアルは我が掌中にある。勝ち目はないぞ」

アレクセイは操作盤とレナを見て勝ち誇ったように笑った。リタがすばやく表示に目を走らせ、操作盤を指した。

リタ「よく言うわ。あんたのそれ、まだ術式の解析中でしょ」

エステル「え?どういうことです?」

エステルは驚いてリタに訊ねる。

リタ「こいつ、まだザウデの制御、完全に手に入れてないのよ。あれを見るにレナの力はあくまで起動装置、発動させるための鍵の一部でしかないってこと」

カロル「時間稼ぎ……!?」

アレクセイは、おやと少し驚いた顔をしていた。

アレクセイ「……リタ・モルディオか。なるほど、これは迂闊だったな」

アレクセイは表示を消した。

ユーリ「小細工がすぎるぜ。そんなんで世界を変えるなんなんざお笑い種だ!」

アレクセイ「いちいちごもっともだ。よかろう、ならばこれもまた我が覇道の試練!」

アレクセイは剣を振り上げた。

アレクセイ「ぬうん!!」

アレクセイの剣に収縮した力が一気に放出され、ユーリたちを薙ぎ倒す。ユーリ達は急なことに対応できず地面に体をうちつけた。

アレクセイ「新世界の生贄にしてくれる。……来い!!」

レイヴン「……おいおい、完全じゃなかったんじゃないの?」

レイヴンが剣の威力に驚いて声を上げる。

リタ「そうよ、あれでもね」

恐ろしい威力だと、リタは剣を睨んだ。

ユーリ「へっ、世界を賭けてんだろ。それぐらいの歯ごたえはないとな。行くぞ」

ユーリが駆け出し斬りかかると同時に仲間たちも攻撃を開始した。

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