目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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真相

 アレクセイとユーリ達の戦闘の中、床は上昇を続けいつの間にか水音は消え頭上に空が見えた。ザウデ不落宮の頂上に着く。巨大な魔核(コア)がすぐ上に迫って浮かんでいる。多勢に無勢、アレクセイはもはや肩で息をしている。そんなアレクセイをユーリは見逃さずに斬りつけアレクセイは反撃する間もなくまたユーリに斬りあげられた。

アレクセイ「ぬ……う……おの……れ」

レナ「……!」

その時、目に光が戻った少女がみたのは、血の滴る胸を押さえ、がっくりと膝をついたアレクセイと、アレクセイに剣を向けたユーリだった。

ユーリ「……終わりだアレクセイ」

 

―――

 

 ユーリ達がアレクセイと戦っている間、レナの意識はアレクセイの術式によって深いところにあった。何も無い、空虚な空間、そこをあてもなくぼーっと漂っているそんな感覚。ただひとつハッキリとしているのは、イノラナケレバナラナイということ。

レナ(……イノナラキャ……ワタシハ、タクサンノヒトヲギセイニシタカラ)

本当にそうだったか?少女だけが悪かったのか?否、違う。しかし、それを証明する意思はここにはない。

 ふと、一筋の光が入る。自然と少女はそれを見上げた。目に痛いほど眩しい光は次第に形を取り、人型のシルエットになる。

レナ(……ダレ?)

目覚めて、末代の異空の子……と、澄んだ声が虚無の空間に響く。その声を聞いた少女は直感的に、初代の異空の子だとわかった。

初代「飲み込まれてはダメ……封印が解けてしまう……」

微動だにしない少女に、切羽詰まった声で呼び白い手はレナの頬にふれる。

レナ(ワタシ、ハ……)

初代「……これをみて」

初代の異空の子は、空中に手を出すとそこに映像が浮かび上がった。映ったのはアレクセイと対峙するユーリたち。

レナ(……!)

レナの意識が一瞬だけ浮かび上がった。

初代「……確かに、失ったものはあるかもしれない。けれど、小さなことでも救った人たちもいるはずよ」

レナ(……救ッタ人?)

初代の異空の子はレナを抱きしめる。不思議と温かさを感じた。

初代「……私はずっと、あの凜々の明星から見ていたわ。運命に抗おうと頑張るあなたを。私は知っている、あの始祖(エンテ)()隷長(ケイア)を救おうとしたことも、仲間の傷を命懸けで治したことも……」

初代の言葉を聴きながらレナは思い出す。

レナ(……そうダ、ワタしは……!)

ピシッと空間にヒビがはいり始める。

初代「負けないで……大丈夫。彼らは生きている。あなたも、今までも十分頑張ってる」

ピシピシとヒビが入り遂に空間が割れる。レナは悪夢による洗脳から目覚め、暗闇の空間から白い空間へと切り替わった。

レナ「……ぁ、わたっ、私は、あの人たちも救いたかった!!」

声を張り上げた少女の目からとめどなく涙があふれる。

レナ「頑張ってたの、私、変えられるかもって、未来を。でも、上手くいかなくて、結果的に運命を変えるには命を賭けないといけなくて!」

レナの捲し立てるような悲痛な叫びが空間に響く。

初代「そうね……未来は変えられないかもしれない。だけど、出来うる限り良い方向に持っていくことはできるのよ」

レナ「……いい方向に?」

初代「ええ……結果は変わらないかもしれないけど被害を最小限に抑えたりとか、ね。貴方が、頑張っていたみたいに」

優しい初代の声が、少女にもう一度頑張る力を与える。責められることが怖い、恐ろしい、彼らも私の力のことを知っているとしても、それでも怖いと震えていた心が初代の励ましによって落ち着いていく勇気づけられていく。レナは、また立ち向かう覚悟を決めた。

レナ「ありがとう……私、もう一度頑張ってみる。抗ってみるよ」

初代は頷くと、フワリと姿を消した。そしてレナは、現実で目を覚ました。

 

―――

 

 目に光を宿した少女は、祈っていた手を離し自身の首に巻きついている鎖に掴む。その変化に気づいたジュディスが声を上げた。

ジュディス「……レナっ?」

ジュディスの声に仲間は反応して、レナを見る。ググッとレナは答えるように鎖に力を入れる。

エステル「……レナ!」

火傷で皮膚が引き攣り痛みが走るが、縛りを壊すために少女は頑張る。

アレクセイ「っ……洗脳が……解けたか……」

アレクセイがポツリと零す。と、同時に……

アレクセイ「!?く、くく……」

宙に先程の解析盤が浮かび上がり、アレクセイは低く笑い出した。

リタ「!まだ解析していたの!?」

リタは驚いてアレクセイとモニターを見比べる。

レナ(っまずい!早くこの鎖を解かなきゃ!!)

レナは鎖を解こうと、もがく。しかし、弱った体がだす力なぞたかが知れていた。ふと、頭の中で、力を貸してあげる……と初代の声が聞こえた気がした。

アレクセイ「ザウデの威力……共に見届けようではないか」

レナ「ダメぇええええ!!」

叫びと共に鎖を壊すとレナはアレクセイに、無事だったダガーナイフに手をかけ振る。少女は大きな声を出したせいで爛れた喉に痛みが走った。疲労困憊のハズのアレクセイはそれを剣で弾いた。

レナ「っ……!」

そのまま仲間の元へと転がる彼女を、エステルが受け止める。転がった時に潰れた水脹れの痛みにレナは顔を歪める。

エステル「レナっ!」

エステルと呼び返したレナの声は掠れていた。エステルは急いでレナに治癒術を使った。

レナ「エステル、無理、しないで……」

エステルは驚いた顔をしながらも心配するレナを安心させるようにニコリと笑った。レナはエステルが、エアルに干渉しないためにエアルを使うことが出来ないことを知っていた。その代わりに生命力で術技を行使していることも。傷は少しずつ癒え、赤黒かった火傷も元の肌の色に戻っていた。レナがエステルの治癒を受けている間に、入れ替わるようにユーリが床を蹴りアレクセイに向かう。

アレクセイ「馬鹿め」

アレクセイはユーリに剣先を向けていた。それに気づいたフレンがユーリを押し飛ばし、アレクセイの攻撃を受けて床に倒れる。フレン!とユーリが叫び、ソディアが隊長!!とフレンに駆け寄った。恨めしそうにソディアがユーリを見ているのを、目の端に捉えたレナは複雑な気持ちになる。再び、ユーリはアレクセイの元へ駆け出し、アレクセイが振るう剣に(デイ)()戒典(ノモス)をぶつけるように跳んだ。

ユーリ「ええい!」

アレクセイの剣が弾ける。爆風でユーリとアレクセイは床に転がった。

レナ「っユーリ」

未だ掠れた声で呼び、ユーリを心配する。ユーリが先に立ち上がり、仰向けのままのアレクセイに近づく。

アレクセイ「く……やはり、その剣……最後の最後で仇になったか……だか、見るがいい」

アレクセイはそう促した。ユーリ達は言われるまま空を見上げ、息を飲んだ。

レナ「……ぁ」

少女は小さく声を漏らし間に合わなかったことを察する。決められた世界の道筋を変えることはとても、難しい。しかし、まだレナにはやるべき事があるため、諦めてはいない。

 巨大な魔核(コア)が光ったと思うと、空いっぱいに結界術式が広がる。その一部がひび割れたと思うと、黒々としたものが地上に向かってゆっくりと伸びてきた。

レナ(……星喰み)

アレクセイは目を見張った。

カロル「な、な、な……」

カロルは空いた口がふさがらなかった。フレンは剣を杖代わりにして、見上げる。

リタ「な、なによ、あれ!?」

リタは空を指さし、戸惑っていた。

パティ「どこかで……見たことがあるのじゃ」

パティが思い出すようにつぶやく。

ジュディス「あれは……あれは壁画の……」

ジュディスは目を細めて言った。

エステル「災厄!?」

ユーリ「星喰みか!!」

2人の声が重なった。

アレクセイ「あれがザウデの力だと!?……そんなはずは……まさか……」

アレクセイはザウデ不落宮の真実に狼狽えていた。

レイヴン「どうなってんだ!?星喰みって、今のでそんなにエアルを使ったのかよ?」

レイヴンはアレクセイにくってかかった。レナは静かに口を開いた。

レナ「違う、昔の星喰みは消えてなんかいない」

その言葉にアレクセイは額に手を当てた。カロルは、どういうこと?と震える声でレナに聞く。

レナ「ザウデ不落宮は、災厄を打ち砕いたものじゃなく、封じ込めていたの」

アレクセイ「……子供の戯言だと私が笑った君の言う通りだった訳だ。そして今、還ってきた。古代にもたらすはずだった破滅をひっさげて!よりにもよって、この私の手でか!これは傑作だ、ははは!」

アレクセイは狂ったように笑う。

リタ「そんな……じゃあ!」

エステル「危ない!」

魔核(コア)の異変に気づいたエステルが上を見て叫ぶ。巨大な魔核(コア)からは稲妻が走り、不落宮の頂上を少し抉りとった。

アレクセイ「我らは災厄の前で踊る虫けらに過ぎなかった。絶対的な死が来る。誰も逃れられん。はーはははは!!」

アレクセイは狂気の宿った目で空を見上げ、笑い出す。

ユーリ「いい加減、黙っときな」

ユーリはアレクセイに鋭い一太刀を浴びせた。アレクセイは口から血を零した。

アレクセイ「もっとも愚かな……道化……それが私とは、な……」

巨大な魔核(コア)が、段々と下に降りてくる。レナはユーリの元へ駆け出した。アレクセイの瞳から涙が一筋零れたと同時に、魔核(コア)は彼目掛けて落下する。破壊された不落宮が巨石となって宙を舞う。レナはそれらを避けながらユーリと同じ方向に走った。

ユーリ「……『星喰み虚空へと消え去れり』確かに、滅ぼしたとは言ってなかったが……ろくでもねぇ遺産を残していきやがって」

星喰みを見上げてユーリが呟いた。

レナ「ほんとにね……」

コツコツとブーツの音を鳴らしてユーリの元に行き少女は、しゃがれた声で言った。

ユーリ「レナ!?おまっ、エステルたちと一緒にいたんじゃなかったのか?」

驚いたユーリはレナの方に振り向くそう捲し立てた。

レナ「ユーリを一人にしておくなんて心配だもの」

酷い目にあったというのに少女はそれをなんとも思っていないかのようにユーリに笑顔を向ける。ユーリとレナの後ろから甲冑の音が響く。

ユーリ「……フレンか?…「危ないっ!」」

一瞬だった。レナはユーリを横に突き飛ばした。明るい茶髪がレナの上でサラリと揺れる。その下で、少女の胸には刃が突き刺さっていた。刺したのはソディアだ。ハッとした彼女は短剣を少女から抜き、手から滑り落とす。カランっと地面に短剣のあたる音を聞きながら、グラりとレナは海に向かって体を倒した。ソディアはそのまま後ずさりこんなはずじゃと言いたげな顔で去る。今までの光景がスローモーションのように見えていたユーリは、ソディアの走る足音でハッとしてすぐさま駆け出す。

ユーリ「レナっ!!」

ユーリは海へと落ちる少女を追いかけるように空へ身を投げ出した。

 

―――――

――――

――

 

 先に気がついたのはユーリだった。周りを見渡す彼は、ここが自室であることを確認する。

ユーリ「……っ!レナは!?」

自分を庇って怪我をした彼女。意識が途切れる直前まで、確かにレナを抱きしめていたはずだ。人肌の体温がユーリの手に触れ、ユーリがベッドの右を見るとレナが眠っていた。

ユーリ「……これほどまでに恨まれていたとはな」

自分を刺そうとしたソディアの事をユーリは思い出しながら、隣に少女がいることにホッとしつつレナの額を撫でた。それから、ベッドの上に本が置いてあるのにユーリは気づき読む。

ユーリ「満月の子……古代の指導者たちは特殊な力を持っていた。彼らは満月の子と呼ばれた。ザウデは彼らの命と力で世界を結界で包み込み、星喰みの脅威から救った」

と、そこまでユーリが読んだところでドアが開く。中へ入ってきたのはデュークだった。

デューク「……目が覚めたか。新月の子はまだ目覚めていないのだな」

デュークはユーリを見てからレナを見る。

ユーリ「デューク……そうかあんたが助けてくれたのか」

デュークは無言で肯定し、ベッドに立て掛けられた(デイ)()戒典(ノモス)を持つ。

デューク「この剣を海に失う訳にはいかなかったからな」

ユーリ「まぁいいさ、それでも礼は言わせてもらう。ザウデ不落宮は満月の子の命で動いてたのか?」

ユーリの疑問にデュークは答える。

デューク「星喰みを招いた原因は人間にあり、彼らはその指導者であったという。償い……だったのだろう。そしてわずかに生き残った満月の子が始祖(エンテ)()隷長(ケイア)と後の世界のあり方を取り決めた。帝国の皇帝家はその末裔だ」

ユーリ「それが帝国の起こりってか。だからザウデの鍵ともなるその剣が皇帝の証になるんだな」

納得したようにユーリは言った。

デューク「エアルを用いる限り星喰みには対抗できない。あれは、エアルから生まれたものなのだから」

ユーリ「……あんたもあの星喰みを止めるつもりだった。だからエアルクレーネを鎮めて回ってた、違うか?」

デューク「そうだ」

デュークは窓の外を見つめながら頷く。

ユーリ「なんで帝国やギルドに協力を求めなかったんだ?そうすればアレクセイを止めることだって出来たかもしれねぇ」

チラリとレナを見ながらユーリは言う。

デューク「私は始祖(エンテ)()隷長(ケイア)に身を寄せた。人間と関わり合うつもりは無い。それに人間たちは決してまとまりはしないだろう」

ユーリ「ならどうするってんだ?星喰みは古代文明だって手に負えなかったんだろ」

デューク「方法はある」

どこか覚悟を決めたような声だった。デュークは身を翻し部屋から出ていく。

ユーリ「あんた、人間嫌いみたいだけど、オレたちだって人間だぜ?なんで(デイ)()戒典(ノモス)を貸してくれた?なんで協力してくれたんだよ」

デューク「おまえたちだけが敢えて始祖(エンテ)()隷長(ケイア)と対話を試みた。だから……いや、もはや終わったことだ」

どこか意味深な言い方に引っかかるユーリ。

ユーリ「……なにをするつもりだ?」

デューク「私は世界を、テルカ・リュミレースを守る」

ユーリ「どういう……「ユー、リ?」」

去っていくデュークを引き留めようとユーリが声をかけようとした時、眠っていたレナが目覚めた。ユーリは驚いてレナを見る。

ユーリ「!……レナ」

どう声をかけようか彼は迷っているようだった。レナは上体を起こす。胸の傷が痛んだ。

レナ「っ……よかった。ユーリ……怪我してない?」

胸をおさえながら少女は、ユーリを見て酷い傷がないことを確認した。自分よりも真っ先に彼を心配するレナに、ユーリは顔を俯かせた。やっぱりどこか痛いところがあるのかとレナはユーリの顔を覗き込む。

ユーリ「ぁんで……なんで、オレを庇ったんだ?」

そう言った彼は怒った顔をしていた。レナは少し驚く。

レナ「危ないと思ったら……体が先に動いてた」

眉下げて微笑む彼女に、ユーリは眉をひそめる。

ユーリ「もしそれで死んでたら……!」

彼はあの時、珍しく本当に肝が冷えたのだ。何度言っても無茶をする目の前の少女は、自分よりも他人のことばっかり。そして今回、自分が受けるはずだった罰を、レナが庇って代わりに受けた。一歩何か間違えていれば少女は今ユーリの前で、微笑むことすらなかったかもしれない。その事実が、ユーリに焦りと不安を促した。

レナ(珍しい……どうしたんだろう)

動揺している彼に、レナは痛む体に鞭を打ちベッドから立ち上がるとユーリを抱きしめた。

レナ「大丈夫。大丈夫だよ」

たった二言。安心させるように手が届く範囲でユーリの背中を撫でながらレナは紡いだ。少し震えていたユーリの手はゆっくりとレナの頭を撫でる。

ユーリ「……いなくならないでくれ」

弱々しく呟かれたその言葉に、レナは心の中でごめんねと謝り、答えるようにユーリを抱きしめる腕に力を入れた。しばらくそのままでいたが、さすがに胸の傷をそのままには出来ない。レナはたしか今ならエステルがいるはずだとと思い出し、ユーリから離れると外に出ることを提案した。

レナ「……ユーリ、エステル達と合流しようよ」

ユーリ「あぁ、そうだな」

とユーリの返事を聞いてから歩き出そうとしたレナの体は地面から離れる。

レナ「……へ?」

気づくとレナはユーリにお姫様抱っこされていた。ハッとしたレナは、ユーリに下ろすように頼み彼の腕の中で抵抗する。

ユーリ「ちょっ、おい、暴れるなって」

レナ「わ、わたしは大丈夫だから、下ろして……」

激しく動いた時にズキッと胸に痛みが走ったことで、レナは大人しくなった。

ユーリ「はぁ……おまえ怪我してんだから、大人しく抱っこされておけよ」

困り眉をして笑われると、さすがにレナも何も言えなかった。

レナ(……こんな至近距離で、その綺麗な顔で、そんな表情されちゃ、何も言えないじゃん)

彼からすれば見た目は子供で無茶をする女の子かもしれないが、精神年齢はエステルとほぼ変わらないのだ。

レナ(……勘違いしちゃうよ)

レナはユーリはあくまで仲間として見てくれていると思っている、それに自分はどこまで生きていられるかなど分からない。だからこそ、少女はそういう勘違いはしたくなかった。ユーリに運ばれながら外に出る。しばらくすると、ワウ!とラピードの吠え声が聞こえ、ユー……リ?レナ……?とエステルの声が聞こえた。石畳の階段の上からだった。

ユーリ「エステル?ラピード……?」

遠目に見るエステルの顔がぱっと輝く。

エステル「ユーリ!レナ!」

ラピード「ワウ!ワン!」

エステルとラピードは同時に階段を駆け下りる。最後の一段を飛び降りるとエステルはレナごと包み込むようにユーリを抱きしめた。

レナ「わっ……」

ユーリ「うおっ」

エステル「あははっ!」

嬉しそうに笑う彼女に二人はなんだか気恥しい。エステルは更にぎゅっと抱きしめる力をこめた。

レナ「うっ……」

ユーリとエステルの間に挟まれた少女は圧によって胸の傷に痛みが走る。

ユーリ「おい、ちょっと」

ユーリの抗議する声をエステルの声が遮る。

エステル「ユーリ、ユーリですよね、レナも、ちゃんと生きてますよね。おばけじゃないですよね。ちゃんと影ありますよね?」

捲し立てる彼女を落ち着かせるようにユーリは抱きつくエステルを少し離す。腕の中にいるレナのために。

ユーリ「生きてる生きてる」

レナ「うぅ、生きてるよ〜、胸の傷痛いもん……」

二人の声にエステルは再度、抱きしめる。

エステル「よかった、本当によかった……」

レナのいててっという小さな声を聴きながら、ユーリは微笑んだ。

 ユーリはレナを抱えたまま石畳の階段に座る。エステルは手早くレナの傷を調べた。エステルは治癒術をかけ始め、光がレナの傷を癒してゆく。

エステル「ラピードったらこんな時間に急に外に走り出すんですよ?もうびっくりしちゃいました」

レナ「ありがとう、もう大丈夫そう。ユーリも、ありがとう。だから、下ろしてくれない?」

少女の眉間のシワはなくなり、にこりと微笑む。

ユーリ「んだよ、もうちょっと俺の膝の上にいろよ」

エステルの前にもかかわらず、少し甘えたような声で言う彼に、レナはぎょっとする。

レナ「……わ、わかった」

レナ(え、ほんとに、ユーリ、どうしちゃったの?)

エステルも少し驚いていたが微笑ましいとこちらを見ていた。エステルはユーリ達の隣に座る。

エステル「傷……やっぱりザウデから落ちた時のです?」

レナ「うん、そうなの」

ユーリより先にレナが口を開いた。

エステル「でもほんとによかったです」

ユーリ「悪かった。心配かけたな」

エステル「みんなも喜びます。早く伝えてあげたい」

嬉しさを噛み締めるようにエステルは言う。

レナ「そういえば、みんなはどうしてるの?」

エステル「リタはジュディスと一緒にザウデに行きました。古代の遺跡だから調べたいことが一杯あるんだって」

ユーリ「リタらしいな」

エステル「パティもフィエルティア号の手入れをしながら手伝ってます。カロルとレイヴンはダングレストに戻ってます。……帝国とギルドの関係がまたよくないみたいなんです」

エステルはみんなの近況を教えてくれた。

ユーリ「ったく。まだそんなこと言ってんのか」

エステル「ザウデのせいみたいですけど……それでギルドがまた無茶しないようにって」

レナ「ヘラクレスに続いて、あんなのが出てくればギルドでなくとも警戒するのが当然なんだろうね……」

エステル「ヨーデルも悩んでるみたいです。フレンはフレンであちこち飛び回ってますし」

ユーリ「みんな、がんばってるんだな」

エステル「……ユーリがいなくても自分たちのやれることをやろうって」

ユーリ「そっか」

エステル「きっと……きっと生きてるからって」

話して本当にユーリたちが帰ってきたことを喜ばしいと感じるのと、その時のことを思い出してきたのかエステルの声は段々と震え混じりになる。

エステル「フレンなんか……船で何度も何度も探して……」

涙を我慢するように俯く彼女。

ユーリ「……心配かけたな、悪ぃ」

レナ「……ごめん」

エステルは大丈夫ですと言わんばかりに、軽く首を横に振り顔を上げユーリとレナを見る。

レナ「エステルのおかげで、傷はもう平気だよ。ザウデの時もありがとう」

レナはそっとエステルの手を握って感謝を伝える。エステルは安心した笑みを浮かべて、瞼を閉じ頷く。そして、エステルは石畳の階段から立ち上がった。

エステル「でも今日はもう休んでください。今すぐ会いに行かなくてもリタたちもカロルたちも、きっとだいじょうぶですから」

暗に無理しないでと伝える彼女に、ユーリは少し呆気に取られたように笑う。

ユーリ「はっは。承知しましたよ」

それからエステルをユーリとレナとラピードで、お城へ送り届けると明日の朝に会うことを約束してユーリたちは下町のユーリの部屋に帰って行った。エステルを送り、その帰りもユーリはレナにベッタリと言った形で普段は手を繋がないのに珍しく繋いでいた。

 ユーリの部屋に着くと、ラピードは床にふせて早々に寛いでいる。繋いでいた手を離してユーリは楽な格好に服を緩めた。鏡が置いてあるのが見え、レナはそれで自分の今の格好を確認して目を見開いた。ザウデの時に黒いカーディガンはもうなかったし、服も焦げていた。つまり、レナの今の格好は、所々穴の空いた白いワンピースとタイツ。それを庇うためにユーリはずっと私にベッタリだったのかもしれないと少女は思い、夜中でよかったと心の底から安心した。じっと鏡を見ているレナにユーリは気づいたのか声をかける。

ユーリ「……明日、おまえの服も新調しねぇとな」

レナは、背後から鏡に映る彼を見上げる。

レナ「うん、あちこちボロボロだもんね」

ユーリ「さて、明日に備えてもう寝ようぜ」

ほら、とユーリはベットに寝転がると一人分のスペースを開けてポンポンと叩く。ここにおいでという意味なのだろう。

レナ(ベッド一つしかないし、他に寝転がるところないからなんだろうけど……)

なかなかこないレナにユーリはどうしたんだ?と不思議そうに首を傾げている。

レナ「……お邪魔します」

何故か敬語になってしまった。それにユーリはおうと返事をして少女が落ちないように引き寄せる。

レナ(なんだか、ユーリのペースに巻き込まれちゃって、変に意識しちゃうよ)

しかし良く考えればなんだかんだ面倒見のいい彼のことだ。子供相手にそんな感情はないだろうとレナは思った。夜は気温が少し下がる。ベッドシーツの冷たさとユーリの体温に、レナはどこか張りつめていた心がホッと落ち着いた気がした。

レナ(……そうだ、ユーリを助けることが出来たんだ。ユーリが刺される未来を私が刺される未来に変えた。世界と比べれば小さなことかもしれない。けれど、うん、本当に、良かった)

温もりに縋るようにユーリの胸に顔を埋める。ユーリが驚いたように体をビクリと跳ねさせていたが、レナは気付かないふりした。

 

―ユーリside

 

 レナが起きた時、どう声をかけたらいいか分からなかった。オレを庇って刺されて海から落ちて……謝るのは違ぇ気がするし、礼を言うのもなんだか違う気がした。そんなふうに迷っていると、レナはいつの間にか上体を起こしており、オレの顔を覗くように見上げていた。

レナ「っ……よかった。ユーリ……怪我してない?」

傷が痛むんだろう、胸をおさえながらもオレを心配するレナにどこか苛立ちを感じた。

ユーリ「ぁんで……なんで、オレを庇ったんだ?」

気がつけば口に出していた。レナは目を見開いてそれから眉を下げて困ったように笑った。

レナ「危ないと思ったら……体が先に動いてた」

ユーリ「もしそれで死んでたら……!」

自分でも珍しいくらいに冷静では無いことを自覚する。本来なら、自分が受けるはずだった罰。だが、レナが庇って代わりに受けた。胸の傷は一歩間違えていれば少女は永い眠りについていたかもしれなかった。

ユーリ(いなくなる?レナが?もしまたこの先の未来、同じようなことがあったら、こいつは同じことをする。今度は助からないかもしれない……)

言いようのない不安がユーリを襲った。それに気づいたのか、いつの間にかレナに抱きしめられていた。

レナ「大丈夫。大丈夫だよ」

たった二言。なのにそれだけであれだけ不安になっていた心が落ち着く。レナの存在を確かめるようにオレは手でゆっくりとレナの頭を撫でた。

ユーリ「……いなくならないでくれ」

無意識に出た言葉。あまりにも弱々しい声に自笑しながら、オレは気づいてしまった。レナを愛しい存在として見ていることに。目の前で失いかけたことで、より強く自覚した。レナが返事をするようにオレを抱きしめる力を強くする。しばらくしてレナが口を開く。

レナ「……ユーリ、エステル達と合流しようよ」

ユーリ「あぁ、そうだな」

確かにきっとあいつらも心配しているだろう。服はあちこち穴が開き肌が見え隠れしている上歩くのも辛そうなレナを抱き上げる。

レナ「……へ?」

レナは間抜けな声をだしてぽカーンとしている。それからハッとしたレナは、下ろすように頼みオレの腕の中で抵抗する。

ユーリ「ちょっ、おい、暴れるなって」

さすがにそこまでいやがられると傷つくんだが……なんて思いながら落とさないようにする。

レナ「わ、わたしは大丈夫だから、下ろして……」

言葉が途切れたと思えば、傷に響いたのかレナは大人しくなった。

ユーリ「はぁ……おまえ怪我してんだから、大人しく抱っこされておけよ」

呆れたようにため息を軽くつけば、レナはビクッと小さく体を揺らす。続けてできるだけ優しくそう言えば、レナの顔はどんどん赤くなっていった。りんごのような彼女に、かわいいなという感想が湧く。傍から見ればオレたちは兄妹にしか見えないだろうがそれはそれで得だと思った。

ユーリ(レナの本当の年齢はオレだけが知っていればいい)

小さな独占欲だった。

 それから、ラピードとエステルに再開し、レナはエステルに傷を治してもらっていた。傷が塞がると、膝から降りようとするレナをなんだか名残惜しくて止めた。

ユーリ「んだよ、もうちょっと俺の膝の上にいろよ」

らしくないことをいった自覚はある。事実、レナは目を見開いてオレの顔を見つめた。エステルの微笑ましいという目線が少し痛い。

レナ「……わ、わかった」

動揺しながらもレナはオレの膝の上にちょこんと座った。

エステル「傷……やっぱりザウデから落ちた時のです?」

ユーリ「っ……」

レナ「うん、そうなの」

言葉に詰まりかけたオレよりも早く、レナは即答した。言いたいことはありまくりだが今それを言っても仕方ないことだとのみこんだ。

 それから、みんなの近況を聞き、明日また集合ということでお開きになった。家に着くとレナは鏡の前で自分の姿を見ていた。

ユーリ「……明日、おまえの服も新調しねぇとな」

レナ「うん、あちこちボロボロだもんね」

少し恥ずかしそうにはにかむ少女を愛らしいと思いつつ、寝る準備をしてベッドに向かう。

ユーリ「さて、明日に備えてもう寝ようぜ」

ベッドに寝転がり、スペースをあけてポンポンとレナをそこに招く。なにやら悩んでいるのか、なかなかこない少女を不思議に思いつつもじっと見つめて待っていた。

レナ「……お邪魔します」

こいつに敬語使われることなんてハルル以外で初めてなんじゃないか?と思いながら、寝転がったレナを引き寄せた。子供体温というのだろうか、少し冷えたベッドに少女の体温がより温かく感じた。モゾモゾと動いていたが次第にやみ、最終的にオレにぎゅっと抱きつくもんだから、可愛すぎでビクリと体を揺らしてしまった。幸い、少女は気づいて無さそうだった。

ユーリ(……あぁ、本当に、レナを失うことにならなくて、良かった……)

抱きつく愛しい温もりを受けながらユーリは眠りについた。

 

―ユーリside end

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