―フィエルティア号
ユーリ達は船に戻り次なる場所を決めつつバウルに運んでもらっていた。ハルルの花の色をした髪を風になびかせながらエステルはウンディーネが教えてくれた地名を思い出し、呟く。
エステル「輝ける森エレアルーミン、世界の根たるレレウィーゼ……」
カロル「聞いたこともない地名だよ」
エステルが言った地名に、カロルは首をかしげる。
パティ「どこかに見えんかのー」
パティは船の高いところにのぼり、双眼鏡を覗いてぽつりと言う。
レイヴン「見てわかれば苦労しないだろうねぇ」
レイヴンはボソッとつっこんだ。ずっとバウルを見上げて交信していたジュディスが口を開く。
ジュディス「バウルは知ってるそうよ。ただ……」
レナ「どうしたの?」
ジュディス「教えるのをためらっている。
エステル「仲間を危険な目に遭わせたくないんですね……」
その気持ちに同情するように彼女は言った。それ聞いたユーリが、バウルを見つめて口を開く。
ユーリ「バウル、聞いてくれ。オレたちは世界を護りたい。けど、そのために誰かを犠牲にしていいなんて思ってない。一方的に
ユーリの真剣な声が響く。
レナ「お願い、バウル」
続いてレナが懇願する。
ユーリ「頼む、教えてくれ。
少しの静寂、バウルからの言葉を受け取ったジュディスはみんなに伝える。
ジュディス「……エレアルーミンはトルビキア大陸の北東部、レレウィーゼはウェケア大陸……だそうよ」
エステル「ありがとう、バウル」
エステルがバウルにお礼を言った。
ジュディス「フェローのいるコゴール砂漠へも行かないとね」
ああと、ユーリは頷く。リタがトルビキア大陸の北東部……と思い当たるように呟いた。
リタ「最近になって結晶化した大地が生まれたところかしら」
レイヴン「ウェケア大陸ってのは帝都のあるイキリア大陸のさらに南のヤツっしょ?」
続いてレイヴンは言った。エステルはウェケア大陸……と口ずさむ。
エステル「時の皇帝カルクス三世が開拓のために四度にわたって調査隊を派遣したが、いずれも交信が途絶え、戻るものもなかった。テルカ・リュミレースに残された最後の秘境、です」
エステルは本に書かれていた知識を説明した。
カロル「そ、そんなとこなの……?」
エステルの話を聞いていたカロルは少し怯えるように呟いた。
ユーリ「ウェケアのレレウィーゼは最後に回した方が良いかもしれないな」
ユーリの言葉にレナは頷いた。バウルがひと鳴きしてジュディスは交信を受け取る。
ジュディス「どうするかは……任せるそうよ」
ユーリ「サンキュ、バウル。行こう」
ユーリ達はまず、エレアルーミンへ向かうことにした。
道中、カロルがお腹空いたなぁと呟き、おっさんが俺も〜と便乗した。レナが私も〜といつもはいうが今日は言わなかった。エステルが、じゃあお昼にしましょうと微笑み、支度をして作り始めた。今日の料理当番は、エステルだったらしい。旅の初め、エステルにとっては何もかもが初めてで、料理もそのひとつだった。段々と上手くなり始め、長い時間旅をしたのだと実感する。レナはご飯ができるまで空を眺めていた。
レナ(……なんか、最近お腹空かないなぁ。カロルが言い出すまでご飯のことすっかり忘れてたし……)
思えば、ウンディーネに力を授かってから徐々に空腹を感じなくなったように思う。出来ましたよーっとエステルがみんなを呼ぶ声がする。はっとしてレナは船室へ向かい、続々と仲間たちは船室へと入っていった。レナも中に入り、椅子に座る。近くにいたのであろうジュディスが料理の入った皿をエステルから受けとって机の上に置いていた。ジュディスとエステルが席に着くと、みなそれぞれ食べ始める。
レナ(……おいしい、けど。あんまり食べれないかも……)
レナの食に進む手は、いつもより遅かった。残すのも申し訳ないと感じたレナは、無理やりつめてごちそうさまするとエステルにすごく美味しかったと伝えて外の空気を吸いに船室を出た。その様子をユーリは見つめていた。
レナ(この旅を続けてきて、何日もお腹空かないことなんてなかったのになぁ……)
珍しいこともあるんだなと少女は気楽に考えた。
しばらく空を泳いでいると、傷だらけのフェローがフィエルティア号の近くを通る。その状態を見たジュディスは慌てて、フェローと呼びギリギリまで近寄った。ジュディスの声にみんなが集まる。
リタ「傷ついてるのに何で飛び回ってるの?」
焦った声でリタは言う。
ユーリ「あんな状態で馬鹿なヤツに襲われたらひとたまりもねぇだろうからな」
レナ「人間に
パティ「人の欲望は果てしないから、空と言えども安全ではないのじゃ」
カロル「って言っても、じゃあ、どこにいても……」
ジュディスはフェローと心配そうに呟いて見つめていた。フェローは徐々に高度を下げて地面へと降りていく。
エステル「なんだか……呼んでるようです」
ユーリは行こうと声をかけ、フェローの元へと降りた。
フェローはぐったりと横たわっていた。かつての威圧的な雰囲気は微塵もなかった。が、己の信じる道に殉じたものだけがまとう威厳は残っていた。その傍に、ジュディス、レナ、エステルが寄る。
ジュディス「フェロー、フェロー、しっかりして。ごめんなさい、私たちのために……」
フェローの姿を見てジュディスは珍しく取り乱し、彼の首にすがりついた。それを聞いたカロルが、どういうこと?とフェローを見つめる。
ジュディス「ザウデでフェローは私たちのオトリになってくれたのよ」
フェローの目がゆっくりと開く。
フェロー「世界の命運は決し、我らはその勤めを果たせず終わる。無念だ……」
弱々しく、今にも消えそうな声。そこには無限の悔恨が込められていた。
ユーリ「長年、がんばってきた割に諦めが早いんだな。悪いけど、まだ終わっちゃいないぜ」
フェロー「ザウデが失われ、星喰みは帰還した。人間も我らも昔日の力はない。これ以上なにができよう」
エステル「まだ望みはあります!まだ新しい力があるんです!」
諦めないでと訴えるようにエステルはフェローに言う。
リタ「あんたに精霊に……エアルをもっと制御できる存在に転生して欲しいの」
俯きながらもリタは伝える。
ユーリ「そのためには……あんたの
ユーリの言葉に、フェローの目に剣呑な光が宿った。
フェロー「……我が命をよこせというか」
空気が張りつめる。レナはずっとフェローを労わるように撫でていた。瀕死に近い傷を治せる程の力を少女は持っていないから、唯一できる事といえばこれしか思いつかなかった。ジュディスの瞳から涙がこぼれ落ちるが見えた。フェローは目を閉じ考え、ゆっくりと目を開いた。
フェロー「心で世界は救えぬが世界を救いたいという心を持たねば、また救うことはかなわぬ、か……。どのみち遠からず果てる身……そなたらの心のままにするが良い」
フェローは精霊化を受け入れ、後事を委ね、目を閉じた。と同時に体は光に包まれ、消えた。
レナ(……ありがとう)
静かな空気をさくようにレイヴンが軽口を叩く。
レイヴン「……精霊になっても協力してくれなかったりしてね……」
カロルが、ちょっとレイヴンを口を開く前にジュディスが言った。
ジュディス「フェローは世界を愛しているもの。きっと大丈夫よ」
ジュディスは力強く言った。そしてエステルとレナのそばに行く。エステルはジュディスを見つめて、頷き、みんなにやりましょうと声をかけた。
カロル「でもここエアルクレーネが涸れてるんでしょ?」
カロルがどうするの?と首を傾げる。
エステル「エアルの流れの跡を辿れば、深みから引き寄せることができると思います」
パティ「そんなこと、できるのかの?」
エステルは手を後ろで組んで言った。
エステル「ウンディーネが……教えてくれるんです」
ユーリはわかった、頼むとエステルを見つめた。エステルは頷き、リタ、ジュディス、レナをもとに転生処置を施す。程なくして、地面から炎が吹き出し、その炎に包まれて新たな精霊が誕生した。リタはやった!と嬉しそうにガッツポーズをした。
エステル「火の……精霊……」
生まれ出た精霊を見て呟く。
「おお……無尽蔵の活力を感じる」
炎の中で精霊は言う。ウンディーネが姿を現した。
ウンディーネ「お久しゅう、盟主どの。転生、お祝い申し上げます」
「その気配は……ベリウス?そんか、そなたも……」
ウンディーネ「水を統べるようになった今はウンディーネと呼ばれております」
「在りようを変えし今、我もまた新たな名を求めねばな。我を転生せしめたそなた、我を名付けよ」
火の精霊はエステルをじっと見つめる。
カロル「めらめら火の玉キン……」
カロルらしいネーミングセンスが飛び出そうになったのを言い終わる前にリタが、カロルに走り寄りチョップをくらわしてとめた。
エステル「力強く猛々しい炎……灼熱の君イフリート」
イフリートと名付けられた彼は、手らしきそれをひろげて頷いた。
イフリート「世界と深く結びついた今、すべてが新しく視える。この死に絶えた荒野でさえ力に満ち溢れている。はははは、愉快だ」
重荷から解き放たれた彼は、自由を謳歌していた。そのまま空へと飛んで行った。レナは手の甲が熱くなりハッとみると、ウンディーネが付けた雫のマークの下、左右に炎のマークがついていた。きっと、イフリートの力だろう。その仕草を見ていたウンディーネが言う。
ウンディーネ「イフリートの力をうけたそなたなら、水と同じように命を削らずとも火の属性を扱えるであろう」
エステルが嬉しそうにレナを見た。レナはそれに答えるように微笑む。どこかへ飛んで行ってしまったイフリートを呼ぶパティとカロル。
ウンディーネ「案ずるな。我らはそなたらと結びついておる。どこであろうと共に在るのじゃ。
そう言ってウンディーネは姿を消した。
レイヴン「なんつーか、精霊になる前と後でずいぶんとノリ違うもんねぇ」
イフリートが去っていった空を見上げるレイヴン。
リタ「きっと価値観がまるきり変わるのよ。魚が鳥に変わるどころじゃなくね」
ニコッとリタは笑った。
ユーリ「あの方が健全で良いじゃねぇか。世を憂う賢人然としてるより、さ」
その後、ユーリ達はバウルの元へ戻った。その頃にはもう陽が暮れ始め太陽が夜を連れてきていた。砂漠の夜は相変わらず肌寒い。夕食を終えた仲間たちはそれぞれ自由時間を過ごしていた。レナは船の甲板にでて夜風を浴びていた。夜の空は星喰みもあってか不気味な雰囲気だ。星は見えそうにない。いつもの寝る時間まで風でふわふわとあそばれる髪を撫でながら、ぼーっとしていた。しかし、一向に眠気がくることはなく、欠伸ひとつすらでない。ふと、空気が揺れるような感覚を受けてそちらに目を向けるとウンディーネが姿を顕現させていた。
ウンディーネ「こんばんは」
女性はニコリと笑う。
レナ「こんばんは、ウンディーネ」
エステルが居ないのに、姿を現すなんて珍しいと思いつつも少女は挨拶を返した。
ウンディーネ「……眠れないのですか?」
何かを察した彼女はそう言う。少女は否定することなく、頷いた。
レナ「ウンディーネは、どうしたの?」
今度はレナがウンディーネに聞く。
ウンディーネ「あの子はもう寝ているのに、そなまがまだ起きているのが見えてのう」
それで来たんだね、と少女は微笑む。ウンディーネはそうじゃと穏やな表情で頷いた。
レナ「……寝ないと明日、困るのは分かるんだけど、目を瞑ってもなんかダメで」
少女は困ったように笑う。
ウンディーネ「……」
ウンディーネは少し考えるような仕草をすると哀しげな面持ちをする。少女がそれに気づくことは無かった。
レナ「……ねぇ、ウンディーネさえよければ、みんなが起きるまでお話しない?」
多分、もう寝れないから……と少女は付け加えた。ウンディーネは、よかろうと頷いた。ふたりは朝日が顔を出すまで他愛もない話を静かに語り合った。
翌朝、結局眠気はなく欠伸も一度もすることは無かったレナはみんなが起きてくるよりも先に洗面台に行って顔を洗った。鏡に映る自身の姿は変わらず、クマもできない。これなら、寝れなかったことはバレなさそうだと、少女は思う。それから、仲間たちは起きてそれぞれ支度と朝食を済まして、次の目的地であるエレアルーミンへと向かった。
―エレアルーミン石英林
仲間たちは足を踏み入れて、キョロキョロと見渡す。エレアルーミン石英林は、低密度に結晶したエアルが幻想的な光を放っている。足元に敷き詰められた結晶だけでなく、あちこち背の高い結晶も見られ、樹木のように並んでいた。
ユーリ「ここが結晶化の中心みたいだな」
エステル「綺麗……夢の中にいるみたいです」
キラキラと光る結晶にエステルは感嘆の声を出す。その後ろでジュディスはここにいるであろう
リタ「低密度で結晶化したエアルか。……むしろマナ?サンプルを採取しておかなきゃ」
リタは懐から小さな瓶を出すと中にその欠片たちを入れていく。
レナ「……幻想的だね」
薄紫にみえる結晶は、アメジストを想起させる。
パティ「うーむ、森全体がお宝なのじゃ。でも船には運べないのじゃ……」
レイヴン「なんでああも反応に差があるかねぇ」
それぞれの反応を聞いていたレイヴンは後頭部に手を回して言った。
カロル「バリバリ砕けるよ、あはは面白い」
足元の結晶を踏んで楽しんでいるカロル。年相応な反応で可愛らしい。
リタ「のんきなものね。これ自然にできたんじゃないわよ?」
それに、カロルが驚いたようにどういうこと?と首を傾げる。
ジュディス「結晶化によって新たに生まれた地の中心……ここにそれを行った何者かがいる」
冷静に彼女は言った。それに、リタが、それとエアルクレーネもねと付け加える。と、ラピードがワン!とひと鳴きした。なにか見つけたらしいラピードはユーリを案内する。ユーリはその場にしゃがみ確認する。リタも傍により同じように確認して、これって……と呟く。レナとカロルとパティも近くに来て確認する。
レナ「これ、踏み荒らした後だね」
カロル「ボクらのじゃないね」
パティ「こんなところに来るなんてどこの物好きなのじゃ」
次々に子供組は言った。
ユーリ「どうやら先客がいるらしいな。みんな、用心しろよ」
と、仲間に注意した。
奥へと進んでいた時、前方から空を切って何かが飛んできた。ハッとしたレナは瞬時に魔術障壁をつくり弾く。弾かれたそれは鋭い音をたてて地面に落ちた。見た事のある形に、ジュディスがこの武器……!と声を上げる。カロルもそれを目に入れた瞬間、ナン!とその武器の持ち主を呼んでいた。ナンは肩で息をしながらも、ユーリ達に忠告する。
ナン「……警告する。ここは魔狩りの剣が活動中だ。すぐに立ち去り……」
と、途中で力つきたように地面に倒れ伏せる。カロルはナン!と慌てて呼び駆け寄った。続いて、レナとエステルが駆け寄る。ナンは酷い怪我をしていた。レナは水に属する癒しの術をかけ、エステルは治癒術を彼女にかける。
カロル「しっかり!ナン!」
レナの癒しの術とエステルの治癒術でナンはすぐに目を覚ました。
ナン「カロル……」
カロル「一人でどうしたんだよ!首領やティソンたちは?」
ナン「……師匠たちは奥に……」
ゆっくりと上体を起こし、弱々しい声でナンは伝える。
カロル「え!?ナンをおいて!?首領はともかく、ティソンがナンをつれてかないなんて……いったい、何があったのさ!」
カロルはナンの言葉に驚くと、詰め寄った。
ナン「不意に標的とここで戦いになって。あたし、いつもみたいに出来なくて……師匠が、迷いがあるからだって」
カロル「迷い?」
ナン「魔物は憎い。許せない。その気持ちは変わらない。でも今はこんなとこまで来て魔物を狩ることよりも、しなきゃいけないことがあるんじゃないかって……それを話したら……」
レイヴン「置いていかれたってか」
それまでじっと聞いていた彼が言った。エステル、レナ、カロル以外の仲間たちもカロルとナンを見守るように囲んでいる。
ジュディス「愚かね。この期に及んで生き方を見つめ直せないなんて」
カロル「ひどいよ!ナンは間違ってないのに!」
カロルは石英林の奥を睨みつけた。そんな少年をユーリは、おちつけと宥める。
ユーリ「なぁ、魔狩りの剣の狙いは
ナンは無言で肯定した。
リタ「急いだ方が良さそうね」
ああ、とユーリは頷く。
カロル「さぁ、ナン、歩ける?」
と言って、ナンの顔を覗き込んでいる。
ナン「え?う、うん。けど……」
どこか遠慮するような彼女に、エステルは言う。
エステル「こんなところに一人でいては危険です」
その言葉に同意するようにジュディスとリタ、レナが頷いた。
カロル「一緒に行こう、ナン」
カロルがもう一度力強く言うと、ナンはまぶしそうに彼を見上げて、うんと返事をし自分で立ち上がった。
奥に駆け込むと、あたりはエアルで満ち溢れていた。
カロル「グシオスってあいつ!?確かガルボクラムで……」
ユーリ「なるほど、魔狩りの剣にとっちゃ因縁の相手ってとこか」
パティ「で、うちらの茶飲み相手はどっちかの」
パティはレイヴンに言った。
レイヴン「どっち、ってあのねぇ」
レイヴンはこの状況で何言ってるのよと呆れたようにパティを見た。ジュディスがグシオスに駆け込もうとするのを、エステルがまってと呼び止め、レナが様子が変だよと伝える。クリントとティソンは深手を負いながらも、グシオスへと立ち向かっていく。グシオスに攻撃を弾き飛ばれたティソンが、地面に叩きつけられる。それを見たナンが、師匠!と叫んだ。
クリント「く……なぜだ、なぜ攻撃が効かない……!?」
グシオスは満ちているエアルをくらう。
リタ「エアルを食べてる。でもこれって……?」
ナンがユーリ達の横を飛び出してクリント達に近寄る。カロルが、ナン危ない!と声をかけて追いかける。やれやれとユーリが手を広げる。ジュディスもグシオスの方に駆けた。
クリント「ナン……なぜ来た!」
ティソン「迷いを持ったままじゃ足手まといだと言ったろうが!」
クリント「逃げろ!おまえではどうにもならん」
二人はナンを怒鳴る。
ナン「いやです。あたしにとってギルドは家族。見捨てるなんてできない!」
ナンは二人の言葉を拒否して、叫んだ。ユーリ達は、クリントたちの前へ割り込む。
クリント「貴様ら……」
憎らしそうに彼らユーリたちを見た。エステルとレナの体がエアルに反応してか光帯びる。
レナ「っ……」
広い範囲にわたって満ちるエアルを抑えようとする力にレナの体は痛みを訴えていた。
ジュディス「落ち着いて、グシオス!どうしたというの!」
ジュディスは焦ったように彼に呼びかける。グシオスはジュディスの声に反応することもなく咆哮をあげると、その巨体でクリント達とユーリ達を一薙した。皆、地面に叩きつけられる。すぐにユーリ達は立ち上がった。ふと、エステルが宙を見上げる。そこに、ウンディーネが現れた。その後ろにイフリートもいる。エアルが静まりあたりの空気が一瞬にして変わった。エステルとレナの体から光は消え、レナの体の痛みも消える。エステルがウンディーネ!と驚く。クリントは、突然現れた者達に戸惑っているようだった。ジュディスがクリントに精霊よと教える。ナンが、精霊……と、ウンディーネ達を見上げた。
ウンディーネ「……グシオス、そなた……」
彼女は微かに眉を顰める。
ユーリ「ウンディーネ、あいつ、いったいどうしちまったんだ?」
レイヴン「なんか話できる状態じゃないみたいよ!?」
ウンディーネ「
何かを察したリタが、まさか!と声を上げた。
ウンディーネ「……星喰みとなる」
彼女は静かにそう告げた。ユーリが、なんだと!?と目を見開いた。レナはグシオスを見つめる。
ユーリ「それじゃ、こいつは世界を守ろうとして、あんなことになっちまってたのか」
ジュディス「グシオス……」
グシオスを見つめて、ジュディスは心が痛めた。
イフリート「……救ってやってくれ。この者がまだ、グシオスという存在でいる間に……」
ユーリは静かにああ……と返し、エステルは、はいと返した。レナはこくりと頷く。ウンディーネとイフリートは、姿を消した。ユーリ達は、グシオスを助けるために挑んだ。
しばらくして、グシオスは静かに息を引き取り
ジュディス「グシオス……ごめんなさい……」
彼女は涙をためつつも流さず、言った。ナギーグでその心を受け取れる彼女は、きっとグシオスを誰よりも正気に戻してあげたかったはずだ。それを察せるからこそ、レナはとても胸が痛かった。クリントとティソンは、まだ恨めしそうに、
ユーリ「ったく、まだこいつに恨みがあんのか?」
クリント「……そいつはあの化け物の塊だ。壊さずにはすまさん」
化け物、という言葉に反応したエステルが、反射的にクリントの方に振り返った。
エステル「化け物じゃないです!彼らは世界を守ってくれてたんですよ?」
と、訴える。
パティ「さっきの話から想像力を働かせてみればナマコでも分かりそうなものなのじゃ」
パティはエステルの援護をする。
クリント「
クリントは怒鳴る。その言葉は、存在自体を知っていたとも受け取れるものだった。レナは両方の気持ちを察する事が出来る。けれど、グシオスの方に気持ちが傾いていた少女にはどうしても怒りを収めることなんて出来なかった。
レナ「……
レナは自分が思っていたよりも、低い声が出たことに内心驚く。
カロル「知っててまだ狙ってたの?世界がこんなになってるのに!」
クリント「俺の家族は十年前に
レナ(十年前……人魔戦争か)
聞いていたカロルが、それでも間違ってるよと言った。クリントはなに?とカロルを見る。
カロル「そんなこと続けたって、なにも帰ってこないのに」
レイヴン「あの戦争で身内を失ったのは、あんたらだけじゃないでしょ」
彼もその一人で、ジュディス自身も、その一人だからこそ、そうねとレイヴンの言葉に頷く。
ジュディス「それでも、前向きに生きようとする人もいる」
自分たちがそうであるように、と心の中で思いレイヴンをちらりと見て言った。
パティ「憎しみだけぶつかっていっても、誰も……自分も救われないのじゃ」
パティはきっと、ブラックホープ号の事も含めて言っているのだろう。パティは、クリント達に向けていた背をくるりとかえて言った。
パティ「それより残った者を大切にした方がよいのじゃ」
エステル「街をまとって魔物と戦う、立派なことだと思います。けど……」
ユーリ「世界がどうにかなりそうってな時だ。意地になってんじゃねぇよ」
クリント「今更……生き方を変えられん」
クリントは呻くように言った。
レナ「悪さをする魔物もいればそうじゃないのもいる。誰しも生き方をすぐには変えられないと思う。だけど、今だけは……彼だけは、世界のために頑張ったから、手を出さないで」
レナはクリント達の前に一歩でて、
エステル「待ってください、傷の治療だけでも……」
その言葉は届かず、遠くなる彼らの背を見送った。ナンがこちらに踵を返したかと思うと、ありがとうとカロルに呟いて去っていった。
カロル「わかってくれたのかな……」
カロルのつぶやきに、ユーリがさぁなと返した。
ジュディス「さぁ、精霊化を済ませましょ」
ジュディスの声掛けに、仲間たちは精霊化の準備を始めた。
やがて
イフリート「意識すら飲まれかけていたのだしばらくは目覚めまい。さぁ、名付けてやるがよい」
イフリートは名付けを促した。
エステル「属性は……なんです?」
ウンディーネ「大地深く根ざした力……すなわち地」
ウンディーネがエステルの問いに答えた。
エステル「……大地……なら……根を張る者ノーム」
地の精霊ノーム……とカロルが呟く。
ウンディーネ「目覚めたら、伝えておこう」
レナは眠り続ける彼に近づきひと撫でする。
レナ「ありがとう、お疲れ様。今はゆっくり休んでね」
と小さく言って、離れた。ノームの体は光を放ち、空気に溶けるように消えた。手の甲を見ると、クリスタルをもした形の黄色のマークが増えていた。おそらく、地の属性も同じように使えるようになったのだろう。
リタ「……星喰みがエアルを調整してくれようとした
悲しげにリタは瞳を揺らした。
ユーリ「まったく人間ってやつは本当に自分の目で見えることしか分からないもんだな」
レイヴン「んで、巡り巡って結局一番悪いのは人間ってか……。笑えないねぇ」
と吐き捨てた。
パティ「いつだってなにかやらかすのは人間なのじゃ」
今ならその言葉が身に染みてわかる。暗い空気を切り裂くようにエステルはみんなの前にでた。
エステル「じゃ、なおのことがんばらないといけませんね」
旅をする前の彼女と比べて随分と強く成長したものだと少女はニコリと笑う。
ユーリ「……そうだな。その通りだ」
エステルの言葉にユーリは、いや仲間たちは力強くうなずいた。