―レレウィーゼ古仙洞
一行はエレアルーミンから、ウンディーネに教えられた最後の地、レレウィーゼに来ていた。岩山に囲まれており、標高も高い。至る所から風が吹き抜けていた。
ユーリ「ここがレレウィーゼか?」
胸まである黒髪を風に吹かれながら言う。
ジュディス「ええ。バウルはそう言ってるわ」
リタ「でも、エアルクレーネも
レイヴン「ここから、降りていけそうだけども……」
先に進んだレイヴン坂のようになっている道をのぞき込みながら指した。ユーリ達はレイヴンの元へ行く。下を見たジュディスが、深そうねと呟いた。それに、エステルがですねと頷く。崖のギリギリにたって双眼鏡を除くパティに、エステルが落ちないように気をつけてくださいねと注意する。大丈夫なのじゃと、パティは双眼鏡を見ながらキョロキョロと顔を動かした。
レナ「降りてみようか」
ジュディス「そうね、それしかなさそう」
ここから降りるの?とちょっと顔を青くしたリタは、バウルで下まで降りることを提案する。しかし、その案はちょっと危険な上に狭く気流の乱れも強すぎることからジュディスによって却下された。
レナ(そういえば、リタは高いところが苦手だったっけ?)
パティ「確かに風が強いのじゃ。ここは、きっと風の生まれ故郷なのじゃ」
腕を組んで彼女は言う。風の生まれ故郷……とレナは口ずさんだ。じゃあ、とエステルが話す。
エステル「この谷は風のお母さんなんですね」
素敵ですとニコリと笑う。カロルが、風のお母さんかぁと空を見上げると、崖の下をのぞきこんで今度ははしゃぐ。
カロル「すごいよ、ずっと下の方に河が見える!」
エステル「河が長い時間をかけて少しずつ地面を削っていって、このような地形になるんですね」
改まって彼女は言う。
レナ「自然ってすごいね……」
レイヴン「まさに大自然の力。一体どれ程の時間をかけて作られていったのかねぇ」
谷の間を吹く風を受けながらレイヴンは思いをはせる。ずっと下を見ていたカロルが顔を上げて、くらくらする〜と目を回した。それを見たリタがバカっぽいと呆れた。
ユーリ「ハハ、はしゃいで足滑らすなよ」
仲間たちに注意を促し、ユーリ達は崖の下へと降りていった。
途中に開けた場所まで降りると、レイヴンがぜえぜえと膝に手を着いて足を止めた。パティがほれがんばるのじゃと声をかける。
レイヴン「ひいこら、こりゃ年寄りにゃ堪えるわ」
息たえたえである。
ユーリ「しっかりしろよ、おっさん」
リタ「そうよ、帰りはこれを登らなきゃならないんだから」
リタの追い打ちに、レイヴンは後ろにばたりと倒れた。それを見て、リタがあ、死んだ、と倒れたおっさんを見た。突然、ラピードが辺りを警戒し唸り始める。
エステル「誰か来ます!」
ジュディス「こんなところに、人……?」
不思議そうにジュディスは首を傾げた。前方から現れたのは、何度かあった人物だった。
デューク「おまえたち……!」
驚いたようにユーリたちを見る。
ユーリ「デューク!あんたか。相変わらず、神出鬼没だな」
ユーリ達もまた、彼が現れたことに驚いていた。すっと武器の構えを解いてパティが言う。
パティ「ユーリとレナを助けてくれてありがとうなのじゃ」
リタ「なんで、あんたがお礼言うのよ……」
と、パティにツッコミを入れる。
デューク「……ここで何をしている?」
ユーリ「ここに
デューク「……精霊とは?」
ジュディス「
エステル「その精霊の力でエアルの問題を根本的に解決できるかもしれないんです」
リタ「エアルをマナに変換してね」
デューク「……そうか。だから……」
何か思い当たることでもあったのだろうか、彼は俯いてそうつぶやく。その様子に、デューク?とユーリが声をかけた。
デューク「……転生……エアルを変換……おまえたち、世界を作り変えようとでもいうのか。元はと言えば人間が引き起こした問題のために、なんという傲慢さだ」
ユーリ「だが、エアルの問題を解決しなけりゃ星喰みが世界を滅ぼしちまうだろ」
エステル「ベリウスもわかってくれたんです。ウンディーネとなってわたしたちに力を貸してくれています」
ジュディス「フェローも、そうよ。彼はイフリートとして生まれ変わったわ」
デューク「テルカ・リュミレースのあるべき形。それは
カロル「けど、エアルを調整してくれようと頑張ってたグシオスも、限界を超えちゃって危なかったんだよ!」
レイヴン「ああ、ノームに転生してなかったらどうなってたことか……」
パティ「のじゃ。だから人も
デューク「……たとえそうであっても私は認める訳にいかぬ。私はこの世界を守る」
結果的には世界を救おうとしているデュークとユーリ達、けれどそのやり方は相容れぬものだった。
ユーリ「前にもそう言ってたな。じゃあ、あんたはどうやって世界を守ろうとしてるんだ?」
デューク「……おまえたちの邪魔はすまい。が、私の邪魔もするな」
ユーリの問いに答えることも無く、彼はその場から離れようと歩く。
デューク「この先には世界で最も古くから存在する泉のひとつ。相応の敬意を払うがいい」
去り際に彼は言った。
ジュディス「肝心な話は答えてくれないのね」
目を細めて言うジュディスに、デュークは答えようと息を吸って小さく吐くと、さらばだ。もう会うこともあるまいと残して去っていった。
レナ(デューク……彼のやり方に賛成は出来ないけど、けど……)
デュークの過去に何があったのか、覚えている少女は自身の手の甲のマークを見つめながら辛そうに眉をひそめた。彼が去った後、レイヴンは相変わらずとっつきにくい御仁だわ、と顎を触った。
エステル「あの人……なにをしようとしてるんでしょう?」
デュークの遠くなった背中をエステルは見つめた。
ユーリ「わかんねぇ、けど、あまりいい感じはしないな」
先程からずっと考え込んでいるリタにジュディスが、どうかした?と声をかける。
リタ「え、うん。あいつの剣、
エステル「追いかけて貸してくれるようお願いしてみます?」
レナ「んー、どうかな。彼もその剣が必要みたいだし、もう貸してはくれないんじゃない?」
レナの言葉に、レイヴンが、だな、と頷く。その後ろでカロルも頷いていた。
ユーリ「なんにしても、精霊がそろわなきゃ始まらねぇんだ。今はそれに専念しようぜ」
みんなは頷いて先を歩いた。
下に降りて奥に進み、深いところまで来た頃。あたりの空気は澄み渡り、エアルクレーネと見慣れない白い花がたくさん咲き誇った場所にでた。これがデュークの言っていた泉だろう。エレアルーミンとはまた別の幻想的な空間と荘厳な雰囲気がユーリ達を包み込んだ。レイヴンは感嘆の声を出す。
ジュディス「これがもっとも古くから存在する泉……」
エステル「とても静か……空気も澄んでて、なんだか神聖な雰囲気です」
ユーリ「あの岩山の下にこんなところがあるなんてな」
レナ「だね、とても特別な場所に感じる」
パティ「落ち着くのじゃあ……」
カロル「落ち着いてる場合じゃないと思うんだけど、でも……確かに……」
口々に感想を話すユーリたち、カロルがふと、泉の水に近づこうとして、リタが止めた。
リタ「そこに溜まってるのはエアルよ。相当濃いわ、近づかないで」
来ましたね……という女性の声に、ユーリ達はその方向を見た。カロルが、え?この人!?と驚きの声を出す。そこに立っていたのは、アレクセイの隣にいつも控えていた女性、クロームだった。パティが、お城であったのじゃ!と言う。
ユーリ「アレクセイの仇討ちって訳じゃなさそうだな」
クローム「……デュークはあなたたちの話を受け入れなかったでしょう?あの人はあの人のやりかたで世界を守ろうとしていますから」
ユーリの言葉は無視して、クロームはそう言った。何か知っているようだ。
カロル「え!デュークが何やろうとしてるか知ってるの?!」
クローム「あの人は世界のために、すべての人間の命と引き換えにしようとしています」
リタがなんですって?!と声を上げる。続けてエステルが、どうしてデュークはそんなことを!?と困惑した。
クローム「あの人は人間を信じていないのです」
カロル「けど、デュークはボクたちを助けてくれたよ!?」
パティ「大事な剣も貸してくれたのじゃ」
二人はそんなことは無いんじゃないかと意味を込めて言った。
クローム「多分、あなたたちの中に、自分と同じものを見たからでしょう。あるいはあなた方がいれば自分が手を下さずに済むと思ったか」
エステル「それは一体……」
エステルはその意思が読み取れず、首を傾げる。
ユーリ「オレたちにデュークの事話してどうしようってんだ?いい加減正体をあらわしな。
レナとジュディス以外の皆が驚いたようにユーリを見た。クロームは静かなまま、その体に光を纏い次の瞬間には大きな羽をもった鳥のような魔物の姿に変化していた。その姿は、カドスの喉笛のエアルクレーネで見たのと一致している。ジュディスは、見たことある姿に目を見張っていた。
ユーリ「あんたの目的はなんだ?遠回しに協力するつもりがねぇっていいたいのか?」
クローム「私も人間は信用できません。……それでもあの人が同族に仇なす姿は見たくない。世界を救えるというなら協力を拒むつもりはありません。ですが、あの人と違う方法を選ぶということは対決することになるでしょう」
ユーリ「そうかも……しれないな」
クローム「もしあなたたちがあの人に力及ばなければあの人を止めるものが居なくなる。あなたたちの力、試させてもらいます!」
来るぞ!というユーリの声で、クロームは襲いかかってきた。さすが、
ユーリ「レナ!!」
目の前の事に驚きつつも彼は、少女の名を呼んだ。
レナ「っ……?……!」
腕と胸に風圧と冷たい感覚が走ったはず。その感覚は確かにあった、あったはずなのだ。なのに、痛みもなく血すら流さず、切り裂かれた傷はうっすらと光を帯び、光の粒が傷を閉じていく。エステルが治癒術を使ったわけでも、レナ自身が使ったわけでもなく、勝手に治ったのだ。今起きたその現象に、レナは目を見開く。
エステル「っ、治癒します!」
慌ててレナに近寄るが、エステルはそこで違和感に気づく。血の匂いがしないことに。
エステル「っえ?」
そして傷を見ようとエステルはレナに触れて驚き、その場に硬直する。エステルを庇ったはずのレナが傷一つなかったから。クロームも少し驚いていたようで攻撃の手が緩んでいた。しかし直ぐに、クロームは攻撃を開始する。ユーリ達も攻撃を続けた。最終的にユーリ達は勝った。
クローム「……見事です……あなたたちなら……救えるかも……しれない……」
全ての力をだしきった彼女は、息絶えたえながらに言う。その体は徐々に光に包まれる。ジュディスが、クロームと名を呼んだ。
クローム「あなたたちの……望むように……」
最期の言葉を話すと、クロームは
ジュディスがエアルの流れを読み、エステルはエアルを操る。リタはエステルによってマナへと変換されたエアルを
ウンディーネ「また新たな同志が生まれたのじゃな」
イフリート「……時に凪ぎ、時に荒ぶ風を統べるものか」
ウンディーネ「ノームの時のようにエアルに侵されている訳ではない。程なく目覚めよう」
微笑みを浮かべてウンディーネはエステルを見下ろした。エステルは、ありがとうとお礼を述べる。それを聞いたウンディーネ達は姿を消した。
パティ「前にクロームが止めて欲しいと言ったのはデュークだったんじゃな」
エステルをアレクセイから救出する時に言われたことをパティは覚えていたらしい。
カロル「クローム、なんかデュークのこと色々知ってるみたいだったね」
ジュディス「ええ、目覚めたら、もっと詳しく聞けるかも」
ジュディスは眠っている精霊を見上げた。眠っている精霊はそのまま姿を消す。ふと、レナは右手に風がかすったような感覚を受けて見てみると、地のマークの下に鳥の羽根を象ったような緑色のマークが追加されていた。他と同様に風も命を削らずに扱えることになったということだろう。四精霊の力を授かったからなのか、レナは体が軽く感じた。ユーリが、戻ろうぜとみんなに声をかける。戻りながら、エステルはレナに話しかけた。
エステル「レナ、いつ治癒術を使ったんです?」
エステルが慌てて近づいた時には既に傷は塞がっていた。知らないうちに治癒術を使ったのだと、エステルは解釈したようだった。
レナ「……使ってない」
しかし、レナは気まずそうに否定した。え?と呟き、ピタリとエステルが足止める。他のみんなも立ち止まって、エステルとレナに振り返る。
エステル「使ってないって、どういうことです?だってあの時、確かにレナは傷を負ったはずです」
私を、庇って……とエステルは申し訳なさそうに肩を縮こませた。
レナ「わからない。私も、まだ、理解出来てなくて。ただ一つわかるのは、勝手に治ったってことぐらいなの」
おおよそ何が起こっているのかまだ整理出来ていない少女は、戸惑っている表情でエステルを見つめた。話を聞いていたリタがどういうこと?とレナに近寄り、調査するために術式をレナの前で展開させる。
ユーリ「奇妙なこともあるんだな、勝手に治るなんてよ」
ユーリはまじまじとレナを見る。ジュディスはどこかソワソワしていた。
リタ「この数値……ほぼ、精霊と同じ……?」
調べていた彼女は、尚更意味がわからないと術式を操作する。精霊と同じ……という単語を拾ったレナは、思い当たる節があった。それは、精霊の力を授かっているということ。そしてほぼ変わりなく、精霊と同じようにエアルをマナにしてその属性の魔術を行使するということ。
リタ「もしかして……人間から、精霊へと変化してるの?」
ありえないとレナを見るリタは、複雑な表情をしていた。それもそうだろう、世界を救うために必要な精霊。それが一人増えるかもしれない。けれど、それは大事な仲間であるレナで人間ではなくなるということなのだから。
ジュディス「つまり、レナは、人のままではあれないということなのかしら?」
ジュディスの言葉に、リタはわからないけど、そうだと思うと述べる。レナは、リタの言ったことに納得していた。傷が勝手に治ったのも、授かった力で周りのエアルを利用していたのだろうと。
レナ(でもそれって、エアルが存在している限りはほぼ不死身に近いってことだよね。もう長くは生きれないと思ったら、今度はとても長く生きることになるなんて……)
エステル「人間が……精霊に、なんて有り得るんでしょうか?」
ジュディス「レナだから、かもしれないわね」
カロルが、レナだから?と首を傾げる。
ユーリ「どういうことだ?」
首を捻る彼。彼らとレナの違う部分、それは元々住んでいた世界だ。レナはエアルとは無縁の世界で育った。そして、ここへ世界によって連れてこられた。だからこそ、その体はエアルが侵入するのを拒む傾向にあった。
レナは「……私が、元々この世界の人間では無いから?」
それしかないだろうとレナは言う。一緒に旅をしてきてすっかり馴染んでいたからこそ、皆、忘れかけていた事だった。
リタ「つまり……空っぽの器同然だったレナに、精霊の力が入ったからそれに染ったってこと……?」
エアルをマナに変換する術式を精霊から授かったレナの体 は、無意識に出ていた防衛反応をくぐり抜けてすんなりと馴染んだ。それは
レナ「でも、まぁ、元々短い命だったかもしれなかったのが、長くなったんだしいいんじゃないかな」
まるで気にしていないかのようにレナは明るく振る舞った。
リタ「あんたねぇ……」
その声は呆れたような感じだったが、気づけなかった己に少し怒っているかのようだった。
ジュディス「レナらしいわ」
ジュディスはレナの気持ちをくみ取ったのか、ふふっ、と笑った。一気に雰囲気が軽くなる。だが、きっとみんな複雑な気持ちを抱えているかもしれないとレナはそう思ってユーリの方を見ると、何か考え事をしているようだった。あまり気にせず、さぁ、行こ?と、先歩き出すレナにジュディス、ラピードと続々と続いた。そして仲間たちは地上へと上がって行った。
来た道の半分まで戻ってきたところで、レイヴンは息をつく。疲れたと言わんばかりの顔でぜぇぜぇと呼吸している。
ジュディス「せめて気流が安定していればバウルに来てもらえるのだけど」
ふと、辺りに風がおこり先程の精霊、クロームが姿を現した。
クローム「……知覚が……これが精霊になるということ……。……これは……こんなにも多くのことが隠されていたとは……」
目覚めた彼女は精霊になったことで他の精霊たちと同様にさまざまなことを感じとっているようだ。パティがおはようさんなのじゃ、と挨拶する。
ユーリ「目覚めたんだな。えっと……」
そういえば名前はどうするか決めてなかったと、ユーリは口を閉ざす。レナの話で忘れかけていたのだ。それを見て、ジュディスが助け舟を出す。
ジュディス「あなたは……クロームと呼ばれる方がいいかしら?」
クローム「いえ……私はもう
エステルは少し考えて口を開く。
エステル「なら……シルフって名前はどうです?風を紡ぐ者、って意味です」
シルフ「シルフ……ではそれを我が名としましょう」
ニコリとシルフは微笑んだ。
カロル「それじゃ改めてよろしく、風の精霊シルフ」
ええ、とシルフは頷いた。ユーリは今だけ気持ちを切り替えてシルフにたずねる。
ユーリ「……シルフ、デュークがなぜ人間を嫌うのか教えてくんねぇか」
シルフ「……わかりました。……人魔戦争は知っていますね」
ユーリ達は頷く。シルフは話を続けた。
シルフ「
レイヴン「で、戦いはデュークという英雄の活躍により人間は勝利を納め人魔戦争は終結した」
と、レイヴンが続けた。カロルが、デュークが英雄?と驚いた。エステルはそうだったんですか……と呟く。
レイヴン「帝国が隠してた真相の一つってやつよ」
パティ「都合のいい噂を流して、具合の悪いことを隠す。単純だけど効果的なのじゃ」
エステルは棘のある言い方に違和感を覚えて、パティ?と気にかける。
レナ(それに振り回されたんだもんね、パティは)
シルフ「あの戦争は人間の力だけで勝利をつかんだのではないのです。共存を唱える
レイヴン「マジかよ……そんな話、俺も知らなかったぜ……」
シルフから語られる真実に、レイヴンは驚いた。
レイヴン「けんども……この話がデュークの人間不信にどう繋がるってのよ?」
続けて、首を傾げる。
シルフ「エルシフルはデュークの友でした。デュークはエルシフルと共に人を拒むものの長と戦い倒したのです。しかし、戦争が集結したとき、エルシフルの力を恐れた帝国は……」
レナ「戦いで傷ついたエルシフルを襲って、その命を奪った。静観するってデュークと約束していたのに」
続きを少女が話す。シルフは驚いたようにレナを見て、貴方は新月の子でしたねと納得していた。
エステル「そんな……」
悲しそうに彼女は眉を下げる。
レイヴン「なるほどな……。人間を信じられなくなる訳だ」
ジュディス「戦争の陰でそんなことがあったのね」
パティ「デューク……哀れなのじゃ……」
ユーリ「……あいつがどんなにキツイ裏切りにあってたとしても、すべての人間の命を犠牲にする権利なんてねぇよ」
ユーリは静かに怒っているようだった。
シルフ「デュークより先に星喰みを滅ぼさなければ、結局人間は滅びることになるでしょう。急ぎなさい」
ふと、荒ぶ風が穏やかな風に変わっていく。
シルフ「気流を抑えました。これでバウルもここまで来る事が出来るでしょう」
そうしてシルフは全ての真実を語って姿を消した。消えた彼女に、ジュディスはありがとうとお礼を述べた。
カロル「精霊化は順調だけど……」
と、カロルはユーリを見上げる。
レイヴン「ああ。デュークもなんかやばそげ」
ユーリ「……そうだな」
苛立ちを抑えるように息を吸って、ユーリは相槌をうった。その後、バウルを呼びフィエルティア号へと戻る。
―フィエルティア号
カロル「ついに四属性の精霊がそろったね」
ユーリ「ああ。あとは……」
エステル「世界中の
と、続ける。そうね、とリタは頷いた。
リタ「四精霊の力だけで星喰みを抑えられればその必要はないんだけど」
レイヴン「中途半端で挑める相手じゃないでしょーよ。万全を期すべきよね。失敗できねぇもの」
うんうん、パティとレナは頷く。
レナ「私もできる限り協力する。一応精霊の一人だから」
レナ(起きてしまった事を後悔しても仕方ない。受けれていくしかないんだから)
レナは既にその事実を受け止めていた。なったものは仕方ないのだと。
リタ「わかってる、けど……」
世界の命運がかかっているのだ。リタは悩ましそうにする。
ジュディス「精霊を生み出すと言うだけでもテルカ・リュミレースのあり方を変えてしまっている。世界のためとはいえ、ね」
エステル「確かにわたしたちの判断だけで、世界の人々の生活すら変えてしまうのは問題だと思います」
カロルがそうかもね……と、うーんと顎に手を当てる。
ユーリ「オレたちがやろうとしていることを理解してもらわなきゃ、やってることはアレクセイと変わらねぇのかもしれねぇ。けど、理解を求めてる時間もねぇ」
カロルがでも、と顔を上げた。
カロル「帝国騎士団やギルドのみんなにちゃんと話しておくことはできるんじゃないかな」
ジュディス「それで私たちのやり方を否定されてしまったら、私たちはホントに人々に仇なす大悪党よ?」
ジュディスはにこやかに言った。空をきる風の音だけになる。
ユーリ「…………。オレはこのまま世界が破滅しちまうのは我慢できねぇ。デュークのやろうとしてることで世界が救われても、普通に暮らしてる奴らが消えちまっちゃ意味がねぇ。だからオレは大悪党と言われても
沈黙を破ったのはユーリだった。眉に皺を寄せながら自分の意見を述べ、その上で前に進むことを選ぶ。そして、仲間たちの顔を見渡したずねた。最初に口を開いたのはレイヴンだ。
レイヴン「俺はついてくぜ。なんせ、俺の命は
ジュディス「私も。フェローやベリウスが託してくれた気持ちがあるもの。それに……中途半端は好きじゃないわ」
意志を継ぎしジュディスの答えは彼女らしさがでている。
リタ「やらなきゃ後悔するってのを知っちゃったし、ここでやめても後悔するし」
論理的な面でそれを知っている彼女だからこそだった。
カロル「うん、ボクも後悔したくない」
その瞳には強い覚悟が灯っていた。
エステル「はい。自分で選択したことならどんな結果になっても受け入れられる……この旅で学んだことです」
一番の成長はやはり彼女だろう。優柔不断であれもこれもだった彼女は、一つ一つ解決していくことを仲間たちに教えてもらい、培っていった。
レナ「きっと世界のみんなも分かってくれるよ。変わっていく世界を受け入れられないほど弱くなくはないはずだから」
少女は自信に満ちた笑顔を見せる。
ユーリ「そうだな。明日笑って暮らすためのことだ。そう信じたい」
ラピードも賛成するかのように吠える。まだ、どうするか言っていないパティにユーリは聞く。
パティ「うちも……当然、ついていくのじゃ!」
ユーリ「わかった、みんな、最後まで一緒にいこう」
大きく頷き、想いをひとつにする。
カロル「じゃあ、準備が全部できたら、ヨーデル殿下やユニオンの人たちに話しに行こう」
レイヴン「んで、あと準備しなきゃいけないものってなんなのよ?」
リタが、あたしに任せてと言う。
リタ「ちょっと色々要るからどっか適当な街に寄りたいんだけど」
カロル「じゃ、ノール港はどう?イリキアの端っこだし」
ユーリ「エフミドの丘が通れなくなってからどうなったか気にもなるしな、そうしよう」
パティの様子がいつもと違うことに、レナは気づく。ユーリも気づいているようだった。その後、ノール港に着くまでの間は自由時間となった。
ユーリはジュディスと話しているようだった。レナはその反対側の甲板で外の景色を眺めていた。木の軋む音がしてレナが振り返れば、レイヴンが立っていた。珍しい、どうしたんだろう……と少女は思う。
レナ「レイヴン?どうしたの?」
レイヴン「俺も外の景色を見に来たのよ」
頭の後ろで手を組み、いつもの調子で言う。
レナ「そう」
レナはレイヴンから視線を外して、また景色をうつす。それからは何を話すでもなく、ただ二人で景色を眺めていた。ジュディスと話を終えユーリが船室に行こうと通ると、レナとレイヴンが一緒にいるのが見えた。何か話してる様子はないが、どこかモヤりとした気持ちがユーリを襲う。そして、レナとレイヴンに近づいた。
ユーリ「レナにおっさん、何してんだ?」
ユーリの声に、二人は振り返る。
レナ「特に何も、景色見てただけだよ」
レイヴン「そうそう〜……でも、おっさん、ちょっと冷えてきたから中に入ろうかしら」
何かを察した彼は、そう言って船室に入っていった。
ユーリ「なぁ、本当に景色見てただけか?」
レナ「?うん、そうだよ、どうかしたの?」
ユーリ「いや、別に……」
どこか歯切れの悪い彼にレナは不思議そうに首を傾げて、ふーんと言った。
ユーリ「……不安じゃ、ないのか」
レナ「?何が?」
ユーリ「バウルは精霊化に対して、不安だって言ってたからな。人間から精霊になるお前も、どうなんだろうと思ってな」
彼なりにレナの事を気にかけているようだ。
レナ(そういえば、ジュディスとの話で話題に出るんだったな)
レナは少し考えてから口を開いた。
レナ「不安がないと言えば……嘘になる。そりゃさ、気づいたら人間じゃなくなりかけてるし、この先が不安に思うこともある。でもね、不安だけじゃないの。だってこの世界の未来をずっと見守っていくことができるから。ユーリたちが救うこの世界を」
ユーリの息を飲む音がした。レナは、だけど、と続ける。
レナ「きっと……永く生きてしまうから。だから……だから、寂しくなるだろうなぁって……」
少女ひとりが背負う運命にしてはあまりに大きい。泣きそうな声をしてるのに、ユーリの目に映る少女の顔は笑っていた。寂しさを隠すレナにユーリの心は痛んで、無意識にレナを抱きしめていた。黒の長い綺麗な髪が、レナの肩にかかる。レナは、その行動に驚いていた。
レナ「っユーリ?」
ユーリ「オレはおまえをいつか一人にさせてしまう。それはどうにもできない事だ。けど、一緒にいれる時まで、そばに居る。絶対だ」
真剣な声で彼は言った。レナは何も言えず、戸惑っていた。
レナ「……ほん、とう?」
やっと出た声は信じられなくて、信じることになぜか抵抗を覚えてしまって震えた。
ユーリ「あぁ、本当だ」
彼はレナを抱きしめる力を少し強める。少女の心臓がドキリとする。信じることに抵抗を覚えた意味を、それが恋心からくるものだったことを、レナはハッキリと自覚した。私は、ユーリが好きなんだ……と。