目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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決着

 ノール港に着いたユーリ達は街中へ入っていく。星喰みの影響か、人通りは少ない。

ユーリ「えらく閑散としてるな」

エステル「氷刃海を通って避難したんでしょうか」

あのような騒ぎがあった後だ、ハルルに避難していた人も居たとカロル達から聞いていたため、エステルはそう話す。街を見ていたカロルがユーリたちに振り返った。

カロル「隣りのルビキアじゃないかな。トリムとかさ」

ジュディス「船がまた使えるようになったのかもしれないわね」

レイヴン「なんにしてもこんな空の下じゃ逃げ出したくもなるわな」

レナ(逃げても……あんまり変わらなさそうだけど)

リタ「んじゃ、あたしは買い物してくる」

エステル「わたしも行っていいです?」

エステルのお誘いに気恥しそうにリタは頷いた。

リタ「じゃ、あんたらは宿屋で待ってて」

リタとエステルはお店に向かっていった。それ以外のものたちは宿屋に向かう。

 宿屋に入ると、主人が出迎えてくれた。

主人「お客さん、こんな時に旅行かい?こっちは閑古鳥だから助かるけど」

ユーリが、まぁそんなとこだ、と返すと、主人はゆっくりしてってくださいなとにこやかに言った。部屋の中に入ったユーリ達は各々休憩する。

カロル「ティグルさんちも避難したらしいよ」

ユーリ「エフミドの丘が通れるようになったとしても頭の上があれじゃあな」

レナ「確かにね……」

レナが頷いたところで、ドアが開いた。両手いっぱいに荷物を抱えたリタとエステルが入る。

リタ「こんな時でも港町はやっぱりものがあるわね。おかげでなんとかなりそうだわ」

ユーリ「なに買ってきたんだ?」

エステル「術式紋章ひと揃えと、筐体(コンテナ)パーツです」

それらで何を作るのだろうかとレナは思う。そう思ったのはレナだけではないらしい。

レイヴン「何しようってのよ」

ベッドの上であぐらをかいたレイヴンがリタに問う。

リタ「精霊の力を収束するための装置を作ってるの。即席の(デイ)()戒典(ノモス)をね」

と答えた。

カロル「(デイ)()戒典(ノモス)かぁ……デューク、今頃なにしてるんだろうね」

ユーリ「さぁな……あいつ、相当思い詰めた感じだったが……」

どこかボーッと考え事をしているパティにレナが声をかける。

レナ「パティ、どうしたの?」

パティ「……む?うちは腹が空いたのじゃ」

カロルはそれを聞いて、なにか作ろうか?と申し出る。

パティ「その気持ちだけで、感謝感激なのじゃ。でも、今食うと太るのじゃ。空腹を紛らわすのは寝るのが一番なのじゃ。おやすみ、なのじゃ」

パティは捲し立てるように話すと、そのまま横になった。

レナ「お、おやすみ」

明らかにパティの様子が変である。

レイヴン「寝る子は育つって言うけど、パティちゃんは育たないね」

レイヴンがすかさず茶々を入れた。

ユーリ「……リタの方も時間が必要だろうし、その間、オレたちは休ませてもらおうぜ」

エステル「そう、ですね」

ベッドで横になっているパティを見て、エステルは頷いた。

 その夜、眠る必要のないレナは見張りのような感じでドアに近い壁に体育座りで背を預けていた。ユーリもその隣で、同じように壁に背を預けている。その前をパティが通り外へ出ていった。みんなには内緒で頼むと小声でレナに伝えて。パティの気配が少し離れたところでレナは立ち上がった。エステルは少し驚いた顔をしたが、ユーリの方に近寄る。

エステル「ユーリ、起きてください……」

ユーリ「……起きてるよ。パティ、だな、今の」

レナ「みんなには内緒でって言われたけど、心配」

三人は目を合わせ頷くと、宿屋を出た。パティは船着場の方へと走っていった。

エステル「……こんな夜中に一人で出ていくなんて……心配です」

眉を下げて彼女は言う。

ユーリ「ああ、そういえば、何か考えてるふうだったな」

レナが多分……と言いかけたところで、コツコツとジュディスが後ろから歩いてくる。

ジュディス「アイフリードのことでも考えてたのかしら?」

レナ「だと思うな」

レナはジュディスと顔を見合せ頷く。

エステル「ジュディス……!起きてたんです……?」

自分以外に起きてる人がいるとは思わなかったらしい。続けてリタが来た。

リタ「そう言えばあの子、最近、アイフリードのこと口にしなくなったわね」

エステルは、リタまで……!と驚きて口に手を当てた。

レイヴン「おっさんも起きてるわよ」

と、こちらに来ながら言った。

エステル「……わたし、ちょっと様子見てきます」

レナ「私も行く」

ジュディス「私も行くわ。女の子二人が夜にフラフラ出歩くと危ないもの」

レイヴン「いやいや、ジュディスちゃん、女の子三人でも危険よ。おじさんも護衛につくよ」

リタ「あたしも行く」

結局みんな、パティが心配なのだ。

ユーリ「しょうがねぇな、まったく」

ユーリは少し笑い、腰に手を当てた。

カロル「……みんな、どうしたの……?」

まだ半分寝ている目を擦りながらカロルは宿屋から出てきた。

ユーリ「起きたか。ちょっと出てくるから留守番しててくれるか」

留守番という言葉に一気に目が冴えたのか、カロルは焦る。

カロル「え?何、どこ行くの?お、置いていかないで!」

リタ「ガキんちょも行くってさ」

カロルを呆れたように見てリタはユーリに言った。

ユーリ「じゃあ、みんなでこそっと見てきますか」

ユーリ達は桟橋の方に向かった。

 桟橋に着くと、一番端にパティが手に何かを持って立っていた。そして、天に掲げる。すると、それは光を帯び海上に一筋の光を放った。まるで共鳴するかのように、光を放った方向から、別の色の光がかえってくる。眩い光が辺りを包み、目を開けると、大きな船が浮かんでいた。

リタ「あ、あれって……!」

行くぞ!というユーリの声で仲間たちはパティに駆け寄った。

エステル「パティ、待ってください!」

エステルの声に振り返ったパティは、みんなどうして……驚きの表情をした。

レイヴン「それはこっちのセリフよ。一人で何してんのよ」

パティ「精霊もそろった……この先は命を賭けた大仕事なのじゃ。でも、その大仕事の前に、自分の中の決着をつけようと思ったのじゃ」

ユーリ「それはアイフリードのことか?」

パティは無言の肯定をする。

パティ「これはうちの問題なのじゃ。誰にも任せられない、うちの……」

カロル「だからって、一人で行かなくても」

レナ「……頼って欲しいな」

パティは俯く。

リタ「あれ……アーセルム号、よね……?」

海上にある船を見て呟く。

エステル「どうしてここに……?」

不思議そうにエステルは首を傾げた。

ユーリ「パティ、お前が呼び出したのか?」

レイヴン「そういえばパティちゃん、(マリ)(ス・)()(テラ)かがけてなかった?」

ユーリ「つまり(マリ)(ス・)()(テラ)ってのは、あいつを呼び出す道具だったってことか」

パティは(マリ)(ス・)()(テラ)を見つめる。

パティ「こいつの片割れと引き合っておるのじゃ」

ジュディス「つまりあの片割れがあの船の中にあるってことね」

カロル「でも、(マリ)(ス・)()(テラ)って……あれ?」

リタ「そ、それはあんたの言う問題ってのと何か関係あんの?」

パティは首を縦に振った。

ユーリ「じゃ、行こうぜ」

パティ「え……?」

パティは目を見開きユーリを見つめる。

ユーリ「行かないのか?」

パティ「ついてきてくれるのか……?」

レナはパティに歩み寄る。

レナ「私たちと一緒にいて一人で行かせてもらないのは分かってるでしょ?」

ね?とユーリに振れば、彼は頷く。

パティ「……ありがとうなのじゃ。だが、最後の決着だけはうちがつけるのじゃ」

ユーリ「ああ、わかってるさ」

辺りを見渡したジュディスが指さす。

ジュディス「あそこにボートがあるわ、乗っていきましょ」

指さされたボートをみると、既にラピードが座っていた。

カロル「ねぇ、もしかして……あの船にアイフリードがいるってことかな?」

ユーリ「さぁな……ま、行ってみりゃわかるさ」

ユーリ達はボートに乗り、アーセルム号へ乗り込んだ。

 アーセルム号は何年も年月が経っているからか、木が朽ちている部分が多く、甲板には穴が空いている。帆は破れ、ロープが垂れ下がっていた。月明かりだけしか光源がないため、足元に気をつけなければ破片などにつまづいてしまいそうだ。

カロル「パティはアイフリードが隠した宝物を探してたんだよね。アイフリードに会って記憶を取り戻すために」

パティはカロルに振り向き、んじゃと頷く。

カロル「で、みつけたのがその(マリ)(ス・)()(テラ)……なんだよね?」

パティはカロルから(マリ)(ス・)()(テラ)に目線を移す。

パティ「そうなんじゃが……ちょっと違うのじゃ。(マリ)(ス・)()(テラ)はアイフリードが探してたお宝なのじゃ」

話を聞いていたリタがは?と驚きの声を出す。

リタ「あんたが探してたものとじいさんが探してものが同じってこと?それでじいさんに会えるの?」

パティは何も言わない。それを見て、リタは頭を掻いた。

パティ「(マリ)(ス・)()(テラ)を使えば会える……それは間違いではないのじゃ」

カロル「ってことは、やっぱりアイフリードがこの船に……」

それは……とパティは言葉に詰まりかけた時、不気味な声が辺りに響く。豪風のような声にレイヴンが、なによ!?と体を後ろに引く。

ユーリ「上だ!」

見上げた彼は声を張った。彼の言葉に従って上を見ると、紫色の不気味な光を纏った骸骨の魔物が立っていた。

ジュディス「あの魔物、ここで倒したわね、前に」

パティが魔物の方に駆け出した。

カロル「まさか、あれがアイフリード……」

エステル「あれが?そんな、でも……」

レナ「とにかく、私達も行こう!」

ジュディス「ええ、確か船長室から上に上がる梯子があったわね」

皆はパティを追いかけた。

 上に着くと、魔物とパティが対峙していた。

リタ「うわっ……!で、出たっ……!」

お化けが苦手な彼女は悲鳴を出す。パティは魔物にさらに近づく。

パティ「サイファー、うちじゃ!わかるか……!」

パティは魔物にうったえる。

カロル「サイファーって……アイフリードじゃなくて?」

レイヴン「サイファーはそのアイフリードの参謀の名前だわね、確か」

サイファーと呼ばれた魔物は、パティの呼びかけに反応することはなく武器を振り上げた。パティは攻撃を受けて後ろに倒れる。パティ!!とジュディスが叫び、レナとエステルがすぐに駆けた。パティは眉間に皺を寄せている。エステルが状態を見て、レナがすぐに治癒術を使った。

レナ「聖なる活力、ここへ……ファーストエイド」

かすりギズ程度しか治すことが出来ない術のはずだが、パティの傷は綺麗さっぱり治っていた。ジュディス、ユーリ、リタ、レイヴン、カロル、ラピードは瞬時に武器をとり構えた。

ユーリ「こりゃ、うだうだしてる暇さなさそうだぜ……」

パティはエステルに支えてもらいがら立ち上がる。

パティ「サイファー……今、決着をつけるのじゃ!」

 ユーリ達はサイファーに攻撃を開始する。ユーリの剣とサイファーの武器がかちあい、金属音が鳴る。レナとエステルは回復・支援を中心に術を発動させ、リタとレイヴンは後方から術を放ち足止めする。ジュディス、カロル、ラピードはユーリと入れ替わりながらサイファーに術技をうちこんでいった。やがて、ガクリとサイファーは膝をつく。そして船のマストにそって上へと浮かんだ。カロルがまだ生きてるよ!と声を上げる。パティが駆け出し、梯子を駆け上がる。上にたどり着いたパティの話し声が聞こえる。

パティ「サイファー、長いこと、待たせてすまなかった。記憶を失って時間がかかったが、ようやく、辿り着いたのじゃ」

ユーリ「……やっぱり……記憶戻ってやがったか……」

サイファー「アイ……フリード……」

パティは目を丸くさせる。

リタ「あ、あ、あれは……」

魔物の体は光を帯び、その前に半透明の生前のサイファーの姿が浮かび上がった。

サイファー「アイフリード、か……久しいな……」

カロル「ア、アイフリードって、え、まさか……?」

パティ「アイフリードは……うちのことじゃ!」

レナ(そう、パティはアイフリードの孫でもなく、本人。あの事件で、霊薬によって体が若返り、記憶を失ってしまった)

エステル「ど、どういうことです……?」

戸惑った表情で、パティの方へ見上げる。

パティ「サイファー、うちがわかるのか!?」

サイファー「ああ……だが、再び自我を失い、おまえに刃を向ける前にここを去れ」

パティ「……そういうわけにはいかないのじゃ。うちはおまえを解放しにきたのじゃ。その魔物の姿とブラックホープ号の因縁から」

サイファー「俺はあの事件で多くの人を手にかけ、罪を犯した……」

レイヴン「じゃあ、ブラックホープ号事件ってのは……」

レナ「……帝国の実験に巻き込まれた民間人が魔物へと変貌し、混乱の最中、彼がその人々を殺すことで救った。帝国はその事実を伏せ、海精(セイレーン)の牙が悪なのだと噂を流した……」

事件の詳細を話を聞いて、レイヴンは胸糞悪いと顔を顰めた。

パティ「ああしなければ、彼らは苦しみ続けたのじゃ。今のおまえのように。あの事故で魔物化した人たちをサイファーが救ったのじゃ」

サイファー「だが、彼らを手にかけた俺はこんな姿で今ものうのうと生きている……」

パティ「おまえはうちを助け逃したくれた。だから……今度はうちがおまえを助ける番なのじゃ、サイファー」

サイファー「アイフリード……俺をこの姿から解放してくれるというのか」

パティ「おまえにはずいぶんと世話になった。荒くれ者の集まりだった海精(セイレーン)の牙をよく見守ってくれた。そして……うちをよく支えてくれたのじゃ。でも……ここで……終わりなのじゃ」

パティは愛銃の銃口をサイファーに向けた。苦しげな表情で。

パティ「……くっ……」

引き金にかけた指は震えている。

パティ「サイファーだけは……うちが……」

サイファー「つらい想いをさせて、すまぬなアイフリード」

サイファーから目を逸らしかけていた視線を、再び合わせる。

パティ「つらいのはうちだけではない。サイファーはうちよりずっとつらい想いをしてきたのじゃ。うちらは仲間じゃ。だから、うちはおまえのつらさの分も背負うのじゃ。おまえを苦しみから解放するためお前を……殺す」

ずっと震えていた声が、決意を新たに固めることで低くなる。

サイファー「その決意を支えているのはそこにいる者たちか?……そうか……記憶をなくし、一人で頼りない想いをしていないかそれだけが気がかりだったが、いい仲間に巡り会えたのだな、アイフリード。受け取れ、これを……」

パティの前に紫色の光を放ちながら、宙に何かが浮かびでた。

パティ「これは……(マリ)(ス・)珊瑚(ゲンマ)……」

パティはそれを受け取った。

サイファー「これで、安心して死にゆける。さぁ……やれ」

霊体のサイファーは手を広げて、銃弾を受け止める姿勢をとる。嫌なくらい静かになり、風の音だけが聞こえる中、銃音が海に響き渡った。

 ユーリ達は、アーセルム号から離れて桟橋に戻った。

パティ「……サイファー……」

涙を耐えるように彼女は手をにぎりしめる。

ユーリ「我慢しなくてもいい。泣きたければ泣いた方がいい」

気遣う彼の声は優しい。

パティ「つらくても泣かないのじゃ。それがうちのモットーなのじゃ……!」

エステルがパティに寄り添う。

パティ「うちは泣かないのじゃ、涙を見せたら、死んでいった大切な仲間に申し訳ないのじゃ。うちは海精(セイレーン)の牙の首領(ボス)、アイフリードなのじゃ。だから……泣かない……」

幕を張った涙が、瞳から零れ落ちた。レナはパティに近づき、固く握られた手を包み込んだ。

パティ「……絶対、泣かない。泣きたく、ない……」

とうとう我慢できなってきたパティの声を掠れていき、やがて嗚咽混じりになり、仲間を失った悲しみに痛々しいほど泣き叫んだ。エステルはパティを抱きしめた、泣き顔を隠すように。レナはエステルに抱きつくパティの背を優しく撫でていた。

 パティの涙が落ち着いた頃、ユーリ達は宿屋へ戻っていた。朝になり、パティはベッドで泣き腫らした顔を見せないように、壁の方を向いて横になっている。反対側のベッドに、リタがあぐらをかいて座り、作った物とにらめっこしていた。エステルはそれを覗き、カロルも同じようにしている。ユーリは壁に背を預けて腕を組んでいる。レイヴンは床に横になり肘をついていた。レナは床に体育座りして、心の中でサイファーとその仲間たち、巻き込まれた民間人に、安らかな眠りを願った。パティ以外は起きていた。程なくパティは目覚めて、上体を起こした。

リタ「起きたわよ、泣き虫が」

決してバカにしたような言い方ではない。

ユーリ「どうだ。ひとしきり泣いたら楽になったか」

優しく声をかける。パティは、鼻をすすった。

パティ「全然、大丈夫なのじゃ」

まだ声は震えているものの、しっかりと返事をした。

ユーリ「よし……で、これからパティはどうするんだ」

レイヴン「そうね、記憶も戻ったようだし会いたい相手にも会えたわけだしね」

そのままの状態でパティを見上げて言った。

パティ「もちろん、ユーリたちと一緒に行くのじゃ」

エステル「いいんです?それで」

パティ「んじゃ。さすがに星喰みを放っておくわけにはいかんのじゃ。それに、ここまできたのじゃ最後まで付いていかせろ」

ユーリ「んじゃ、改めてパティ、よろしくな」

パティ「うむ、よろしくするのじゃ」

にっこり笑って応えた。

カロル「えっと……ちょっと色々聞きづらくて、聞けなかったことがあるんだけど……」

レナ「確かに気になることはあると思う、けどパティにはパティのペースがあるから、パティが話そうかなってなった時に聞いていこうね」

パティ「のじゃ。気が向いたら、話をするのじゃ」

で、でもさ……と俯くカロル。ふと伏せっていたラピードが、立ち上がった。瞬間、地面や建物が揺れ始める。ジュディスが状況を確かめようと外に出ていく。その後を、ユーリ達は追いかけた。

ユーリ「ジュディ!何があった!」

ジュディスはユーリたちに振り返る。出てきたリタが、ジュディスが見ていた方向をみて、声を上げた。

リタ「ちょっと!あっちってアスピオの方じゃない!」

カロル「な、なにが始まるの!?」

やがて、アスピオから巨大な建造物が上へと出てきた。

リタ「あれじゃ、アスピオは……」

リタは育ってきた街が崩れているかもれないという衝撃を受ける。

レイヴン「あの馬鹿でかいのはなによ!?」

パティ「……山……んにゃ……建物みたいなのじゃ……」

エステル「タル……カロン……」

カロルが突然呟いたエステルの言葉にえ?と反応する。

レナ「……そうだね。タルカロンの塔、だよ」

続けてレナが肯定すれば、エステルは目を見開いてレナを見た。

エステル「……です。精霊たちもそう言っています」

ユーリ「……デュークだな。それしか考えられねぇ。あれで星喰みをどうにかしようってんだろ」

どいて、どいてくれ!と男性の叫び声が聞こえた。そのまま人混みをすり抜けて、男性がユーリの傍に来る。

男性「黒くて長い髪のあんた、ちょっといいか!?」

ユーリは渋々、なんだよと男性の方を向く。

男性「あんたみたいな黒髪の人を見かけたら教えて欲しいって騎士団の人に言われててな、なんでも新しい騎士団長フレン殿について話したいことがあるとか」

なんだと?とユーリの顔は一気に険しくなる。人違いじゃなさそうか?と確認をとる彼に、ユーリは頷いた。

ユーリ「なぁ、オレを探してたヤツって猫みたいなつり目の姉さんとリンゴみたいな頭をしたガキか?」

男性は、言われてみればそうかもと言いたげな表情で、頷く。ユーリは仲間たちの方を見てから、宿屋でまっていることを伝えると、男性は呼んでくると去っていった。

 ユーリたちが宿屋で待っていると、ドアを開けてウィチルとソディアが入ってきた。

ウィチル「ようやくつかまえましたよ!どこほっつき歩いてたんですか」

開口一番に彼はそう文句を言う。ソディアは、レナとユーリを見て気まずそうに顔を逸らした。どこか様子のおかしいソディアに、ウィチルは不思議そうな顔をする。

ユーリ「んで、フレンがどうしたってんだよ」

ウィチル「あ……はい、あの怪物が空を覆ってから、大勢この大陸から避難してるんです。でもギルドの船団で帝国の護衛を拒否する者がいて、隊長はそれをほうっておけなくて」

レナ(……船団のギルドといえば、幸福(ギルド・)(ド・)市場(マルシェ)かな……?)

ウィチル「魔物に襲われた船団はヒピオニアに漂着、僕たちは戦ったけど段々、追い詰められて……」

ソディア「私たちだけが救援を求めるため、脱出させられた……でも騎士団は各地に散っていて……」

顔を逸らしながらもソディアは続けた。

ウィチル「もうみなさんにお願いするしか方法はないんです」

泣きそうな顔でウィチルはうったえた。

ソディア「しかし……時が経ちすぎた……隊長はもう……」

勝手に諦めるようなことを言う彼女に、レナは近づいて飛び、くるりと体を捻って頬を叩いた。ウィチルは目を丸くし、ユーリは歩き出そうとした一歩で止まる。仲間たちも驚いたような顔をしていた。

レナ「もう、諦めてしまうの?貴方にとって、フレンはその程度の人物なの?彼の長い付き合いである友人に、どうしてそんなことが言えるの?」

まくし立てる少女にソディアは呆然とする。

レナ「勝手に諦めてしまったのなら、そこでめそめそしてればいい。覚悟も忘れて立ち止まるようなあなたに、フレンためになんて言わせない」

レナはユーリの心情を考えると、目尻に涙が浮かんだ。ソディアは、覚悟……と呟き俯く。そんな彼女をウィチルは眉を八の字にして見つめた。

ユーリ「……リンゴ頭!ヒピオニアだったな」

レナの勢いに戸惑いつつもユーリは、ウィチルに確認をとる。え、ええとウィチルは戸惑いがちに頷いた。

ユーリ「そういうわけだ。ちょっと行ってくるわ。みんなはタルカロンに行く準備を……」

と、出ていこうとするユーリの手をレナが掴む。

レナ「ユーリ、一人で行かせるわけないでしょ」

エステル「そうです。私たちも行きます」

カロル「うんうん、悪いクセだよ、ユーリ」

少し怒った声でカロルは言う。

ユーリ「そういうけどな、割とヤバそうな感じだぜ?」

ジュディス「なら、なおさらあなたひとりで行かせる訳にいかないわね。それにバウルが言うこと聞かないと思うけど?」

リタ「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために、なんでしょ」

レイヴン「時間ないならちゃっちゃと行って片つけようじゃないの」

パティ「うちは噛み付いたウツボ以上の勢いで、死ぬまでユーリについて回るぞ」

レナ続くように仲間たちは言った。そんな彼らを見て、ユーリはどこか嬉しそうに笑う。

ユーリ「ったく付き合いいいな。そんじゃ行くか!」

カロル「おー!凜々(ブレイブ)()明星(ェスペリア)出撃ぃ!」

片腕を上にあげてカロルがかけ出す。ワン!とラピードが吠えカロルに続いた。他のみんなも急ぐ。最後に、ウィチルの頼みましたよー!という声を聞きながら、ユーリとレナは宿屋を出た。

 

ソディア「ユーリ・ローウェル!」

あとを追いかけるように走ってきたのはソディアだった。ユーリとレナは振り向いて立ち止まる。

ソディア「何故だ!どうしてあの時のことを咎めない?私はおまえの仲間を……」

レナが何かを言うのを止めるように、ユーリが一歩前に出る。

ユーリ「水に流したつもりはねぇ。けどな、オレは諦めちまったヤツに構ってるほど暇じゃねぇんだよ」

ソディア「諦めてなど……」

彼女は俯いた。

レナ「なら、なんで一人でもフレンを助けに行こうとしなかったの?」

レナはソディアをじっと見つめる。

レナ「ユーリを消してでも守りたかった存在なんでしょ?どうして守りにいかないの!」

身をていして守ったレナと、それが出来なかったソディア。その違いは勇気があるかないかだった。ソディアは、体を少し後ろにひかせた。

ソディア「私では……あの人を守れない……頼む……彼を……助けて……」

お願い……とソディアは震える声を抑えながら頭を下げた。

ユーリ「言われるまでもねぇ」

再び、お願い……とソディアは頭を下げたまま言った。

ユーリ「ああ、あんたの言ったことでひとつだけ同意できることがあるぜ」

ソディアは首を傾げる。

ユーリ「オレは罪人。いつ斬られてもおかしくない。そしてフレンは騎士の鑑。今後の帝国騎士を導いていく男。その隣に罪人は相応しくない」

レナ(それでも、フレンの心を支えられるのはあなたしか居ないんだよ……)

ユーリ「オレはさしずめ、あいつに相応しいヤツが現れるまでの、ま、代役ってヤツさ」

レナ(その言葉、フレンが聞いてたら怒りそう……)

ユーリはそう話すと、みんなの元に歩いていく。レナも行こうとしたが、ちょっとまってくれという声に振り向いた。

ソディア「……あの時は……すまなかった……」

眉を下げ苦しそうにいうソディア。そんな彼女を見て、レナは、はぁと軽く息を吐く。

レナ「別に刺されたことに関しては気にしてないから、いいよ」

ソディアは顔を上げる。でも、とレナは続ける。

レナ「私はユーリが大切だから。もしまた同じ事がおきそうになったら……その時は、覚悟してね」

いつもより冷たく暗い瞳でレナはソディアに告げると、仲間たちの元に急いだ。

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