目覚めたらTOVの世界でした   作:雛鶴 梅綾

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タルカロンの塔

 レナは丘の上で夜空を見上げていた。

レナ(……とうとうここまで来たんだなぁ)

ここまでたくさんの出来事があった。最初、目覚めた時はハルルだった。ユーリたちが言うにはクオイの森で倒れてたんだっけ。どうしてここにいるのか分からなくて、知りたくて、いや知らないといけない気がしてだから旅に出た。気がつけば、ユーリ達と共にエステルを救ったり、果てには世界を救うとこまで行っていた。自分は、異空の子であり、新月の子で、エステル(満月の子)とは対極にある存在なのだと知った。今は、精霊の力を授かった結果、精霊そのものになりつつある。きっと人間である部分は限りなく少なくなっている。

 ふと、空気が揺れて、レナを中心に四つの存在が顕現する。

レナ「……ウンディーネ、イフリート、ノーム、シルフ」

軽く目を見張り、四精霊に目線を向ける。

ウンディーネ「すまぬ、そなたを助けたかっただけなのじゃが」

きっと、私が人間ではなくなることを言っているのだろう、とレナは思う。

レナ「謝らないで、気持ちはわかってるから」

そう、これ以上レナの命を削らないように力をくれたことを、レナ自身もわかっている。

イフリート「その事だけではないのだ」

え……?とレナは彼を見る。ノームは静かにこちらを見ている。

シルフ「いずれ、長い眠りにつくかもしれないのです」

レナ「……長い、眠り……」

イフリート「そなたは聖核(アパティア)から精霊へと変化したのではなく、人間から精霊へと変わりつつある。故に、いずれその力を馴染ます為に眠りにつかなければならないだろう」

イフリートから告げられた話は、長い眠りの中で世界の変化に置いていかれるということで。

レナ「いずれって、いつ?私、少なくとも彼が天寿をまっとうするまでは起きていたい」

ユーリと未来を歩みたいと少女は強く思った。

ウンディーネ「……うむ、我らで何とかしよう。わらわが招いたことなのだ。そなたのその望みは叶えよう」

シルフ「そうですね。安心なさい、第五の精霊となるものよ」

いいの?とレナは不安げに瞳を揺らす。ウンディーネは安心させるように微笑み、四精霊は空気に溶けるように消えた。

レナ(……ありがとう、ウンディーネ達)

心の中でそっとお礼を言って、そろそろ寝ないと、と少女は立ち上がり丘をおりて草原をを経由して街へと帰る途中、草原でユーリに呼び止められた。

ユーリ「……レナ」

レナ「ユーリ……?」

レナ(あれ?エステルと話してるはずじゃ……?)

最終決戦前、ユーリはエステルと話していたはずだ。

ユーリ「こんな所にいたんだな」

レナ「うん、丘の方でね空を見てたの。ここまで来たんだなぁって感慨深くなっちゃってさ」

レナはユーリに近づき隣に立つ。

ユーリ「そうか、今から決戦だからなちゃんと休息とれよ」

レナ「ユーリもね」

にっこり笑ってレナは返した。

ユーリ「……消えないよな……?」

急な言葉にレナはえ?と振り返る。振り返って見た彼の顔はどこか不安そうで、下町の時と同じような雰囲気だ。

レナ「大丈夫だよ。ユーリが生きている間は消えないよ」

安心させるようにレナはユーリの手を握った。

ユーリ「そっか。悪ぃ、弱気になっちまった」

ははっと笑みを浮かべる彼。

レナ「謝ることじゃないでしょ?誰だって大きな物事の前では不安にだってなるよ」

ユーリは、ああと頷く。心のどこかで、カロルみたいなことを言うなとユーリは思った。

レナ「だからね、ユーリが不安に思う度に、大丈夫って言うよ」

ふふっ、私だけの特権だねと、レナは花が開いたように笑った。風に濃色のリボンが揺れる。ユーリは、だなと頷いてレナと共に街へ帰った。

 

―翌朝

 

 仲間たちはもう集まっていた。

ユーリ「よく眠れたようだな」

はい、とエステルが言い、もうぐっすりとカロルが言った。

レイヴン「最初に来たときとはダンチで快適なベッドだったわ」

ユーリ「ああ、随分としっかりした街になったなからな」

周囲を見渡して彼は頷く。

ジュディス「もうここは立派な街なのだから名前をつけないとね」

リタ「それならうちの名付け係の出番ね」

と、エステルを見た。その横で、はいはいはい、とカロルが声を上げる。リタは容赦なくチョップをくらわした。カロルは不服そうに、ぶーと唇を震わせた。

エステル「ええと……雪解けの光って意味の……オルニオン、なんてどうです?」

丁度聞こえていたのだろう、いい名前ですね、とヨーデル殿下とフレンがやってきた。

レナ「殿下にお墨付き貰ったし、決まりだね」

エステルと顔を見合せて微笑んだ。

リタ「そうそう、こっちもできてるわよ」

リタは剣を構えて見せた。

パティ「明星壱号じゃな?」

じっと、剣を見ていたエステルが呟く。

エステル「……これ、ヨーデルの剣、ですね」

カロル「ええ!?そんなの使っちゃっていいの?」

カロルは殿下の剣と聞いて驚く。

リタ「構造といい、大きさといい、ちょうどよかったのよ。これレアメタル製だしね」

なんでもないようにリタは言うと、ユーリに手渡す。

エステル「レアメタル……確か、非常に高い硬度が特徴の希少金属、ですね」

ヨーデル「みなさんが議論しているのを聞いて、この剣のことを思い出したんです。どうせ私は剣はからきしですし、お役に立つなら本望ですよ」

レイヴン「でもなんかもう別物って感じよ」

ユーリは受けとった剣を数振りする。

ユーリ「剣としても使えるな」

カロル「それじゃ、壱号改め、明星弍号だね♪」

にっこり笑って言えば、リタは額に手を当てて、もうなんでもいいわよ……と呆れた。

フレン「いよいよだね」

ユーリ「ああ、今度こそ本当の本当に最後の決戦だ」

フレン「魔導器(ブラスティア)ネットワークの構築は我々に任せてくれ」

ソディア「……いえ、隊長も彼らと共に行ってください」

フレンは驚いてソディアを見る。

ソディア「何があるか分かりません。彼らには隊長の助けがいるはずです」

フレン「騎士団は魔導器(ブラスティア)のことで人々を説得する任務もあるんだぞ」

ソディア「分かっています。人々の協力なくして成功しない。肝に銘じています」

ウィチル「大丈夫です。僕だっているんですから」

フレンはヨーデル殿下に指示を仰ぐように視線を投げると、ヨーデル殿下は許可するように頷いた。

フレン「……分かった。ただし、ソディア、ウィチル。たとえ別々に行動していても俺たちは仲間だ。それだけは忘れないでくれ」

二人は勢いよく頷いた。ユーリとフレンは互いに顔を見合せた。

ヨーデル「魔導器(ブラスティア)と精霊の件は、私たち指導者は納得し、その後の方策を話し合いましたが、全ての人々がこの変化を受け入れるのには時間がかかると思います」

フレン「そうですね……。戸惑う人は大勢いるでしょう」

ヨーデル「ですが、受け入れなければ新しい世界を生きていくことはできません」

ユーリ「ああ、そうだな」

ヨーデル「まずここにいる人たちから話してみます。ただの野原から、このオルニオンという素晴らしい街を生み出した彼らなら……」

フレン「ええ、きっと受け入れてくれるでしょう」

ユーリ「頼むぜ、オレが言ったって誰も聞きやしないからな」

レナ「そんなことないと思うけどね」

ヨーデル「エステリーゼ、それにみなさんも気をつけて」

送り出すヨーデルの言葉にエステルはゆっくりと頷き、ユーリ達はオルニオンから出発するが、様子が気になり、ヨーデル達を入口で見守っていた。ジュディスが大丈夫かしら?と心配する。

ユーリ「あいつらはオレたちを信じて送り出した。オレたちも信じようぜ」

レナは、うんと頷く。

ユーリ「さぁ、オレたちはオレたちの仕事をこなさなきゃな。カロル、締めろ」

少し嬉しそうに、うんと元気よくカロルは返事する。

カロル「みんな!絶対に成功させるよ!凜々(ブレイブ)()明星(ェスペリア)、出発!」

そう呼びかける彼の声に、皆は頷いた。

 バウルに乗り、ユーリ達はタルカロンの塔に着いた。中に入ると、圧倒的な大きさだった。パティは、はえ〜と感嘆している。

ユーリ「すげぇ、でかさだな」

カロル「まさに天まで届けって感じだね」

リタ「こんなのがアスピオの傍に眠ってたなんて、いろんな意味でショックだわ」

フレン「あの周りに展開しているのが、生命力を吸収する術式だろうか」

辺りを見渡したフレンが気づいて言う。リタは、パッと見て、そうみたいねと頷いた。

リタ「まずいわ、結構早く組み上がってきてる」

レイヴン「あまり時間は残されてないってか」

パティ「いいことなのじゃ、時間が差し迫った方が人はやる気になるものじゃ」

カロル「それはそうかもしれないけど、ボクらもやばいんじゃないの?」

ジュディス「確かに全ての人間ということなら影響があってもおかしくないけれど」

ふと、エステルの体が淡く光り始める。ユーリが、エステル?と聞く。

エステル「精霊の力が……私たちを包んでくれています」

光がおさまり彼女はそう伝える。

レナ「うん、私も感じる」

リタ「あの術式より精霊の力が勝っている間は大丈夫なようね」

パティ「その間に、てっぺんまで走って昇るのじゃ」

カロル「星喰みとやる前にばてちゃうよ……」

カロルはちょっと呆れたようにつっこみをいれる。

レイヴン「バウルに乗ってビューって天辺に行く訳にいかないの?」

ジュディス「バウルに影響がないとしても私たちが耐えられ無いと思うわ」

リタ「あんた、塔登るのが嫌なんでしょ」

レイヴン「あったりめぇよ。俺様を誰だと思ってんの」

ユーリ「おっさんには悪ぃが、歩きで登るしかないな」

とほほ……とレイヴンは頭を下に向けた。そんなおっさんに、レナはドンマイと笑った。

フレン「気を引き締めよう」

ユーリ「ああ。何が待ってるかわからねぇ。油断するなよ」

 

―古代塔市 タルカロン

 

 奥に進むと、幾重にも連なった半透明の薄紫色の階段、光の柱、巨大な魔核(コア)のような物、上を向けば果てしなく見える。

ユーリ「すげぇな、これが全部、今まで土の下に埋まってたってのかよ」

フレン「アスピオ周辺で多くの魔導器(ブラスティア)が発掘されたのも、ここがあったからなのかもしれないな」

エステル「古代ゲライオス文明……本に書いてあったものよりずっとすごいです」

リタ「なんだか変な感じね。星喰みに使うってくらいだから、これは兵器なんだろうけど、外からの眺めは都市みたいだった。都市を改造して兵器にしたのかな」

パティ「星喰みと対等に戦うにはこんな大きな街を犠牲にしなくてはならかったのかの」

ジュディス「これだけの規模ならさぞ大勢の人が暮らしていたことでしょうね」

レナ「それが今では、たった一人、彼が全人類を滅ぼすために立てこもってるだけなんだね」

目を伏せがちにして少女は言った。

レイヴン「デュークか……できればやりあいたくないねぇ。やっこさん、人魔戦争の時、すでに大した英雄だった。今となっちゃどれほどの力を身に付けてることやら」

一人、仲間に背を向けて、おっさんは言う。

ユーリ「なぁに。デュークとケンカする前に星喰みを倒しちまえばいいんだよ」

ニヤッとユーリは笑う。

カロル「そうすればデュークだって人間を犠牲にする理由はなくなるもんね」

そうだといいけどねぇ……とレイヴンはため息を着く。

レナ「そうね、この世界に人間が要らないと思っているような人だし、星喰みを倒したからって簡単に諦めそうな気はしないね」

と、レイヴンの意見に同意した。皆は、黙ってしまった。

リタ「まぁとりあえずこの話は置いといて、先進むわよ」

リタは階段を登り始める。それに仲間たちは続いた。

 

 上まで来たような雰囲気を感じ取り足を進めると、大きく開けた場所に出た。そして、聞いたことのある、正直にレナにとっては存在をわすれかけていたあの人、ザギが立ちはだかった。しかし、その体は魔導器(ブラスティア)が半分ほど占めており、待ちかねたぞというその声は機械のようなノイズ混じりだった。

ザギ「どこに行こうってんだ?おまえにはオレが居るだろう?」

フレンは一目見て、あいつは!と声を上げる。

ジュディス「生きてたのね。信じられないしぶとさ」

少し怒っているのか語気が強い。

パティ「こんな高いところまで疲れたじゃろう。わざわざご苦労さんじゃの」

ユーリ「ホントにしつこい野郎だな。何度も言わせるなっつったろ?てめぇに用はねぇんだよ」

苛立ち紛れに吐き捨てると、ザギを睨む。

ザギ「世界を救うため、か?くっくっく……急がないと世の中ぐちゃぐちゃだからか?」

カロル「わかってんなら邪魔しないでよ!」

ザギ「おいおいおいおいおい!だからこそ意味があるんだろうが!」

リタ「こいつ……何言ってんの?」

ザギはこいつを見な!と、左腕を上げる。魔導器(ブラスティア)によって補われているそれは禍々しいオーラを放っていた。

ザギ「この先の封印式の構成式よ。つまり、この腕をぶっ壊さない限りこの先には進めねぇなぁ」

上に続く階段のその先に、渦巻くように術式が行く手を邪魔している。

フレン「なんてことを……」

ユーリ「てめぇ……」

ザギを見る目がさらに鋭くなった。

ザギ「クハハハハハ!ユゥゥリィィィ!世界とやらを救いたければオレとのぼりつめるしかないみたいだぜぇ?」

面白くなってきた、と言わんばかりにザギはニヤニヤ笑い、前のめりになる。

エステル「どうして!なぜこんな無意味なことを!」

ザギ「無意味?無意味だと?意味ならあるだろうが!この方が本気(マジ)()れるだろう?」

ユーリ「ザギ……ここまでイカれたやろうだっとはな。いいぜ。ケリつけてやる」

ユーリは剣をぬき構える。レナ達もそれを合図にして武器を構えた。

ザギ「はーっはっは!怒れ!もっとだ!もっと昂ぶれ!本気(マジ)で来い!でないと……のぼりつめられないからなぁぁぁぁ!」

興奮状態のザギはそのまま、ユーリに突っ込む。ユーリはザギの攻撃を剣でいなし、バックステップを踏んでから再び突っ込んでくるザギに『爪竜連牙斬(そうりゅうれんがざん)』をぶつけた。ユーリから繰り出される斬撃と蹴りを愉しそうに受け止めつつ隙を見てザギは攻撃する。まさに互角。しかしそれは、ユーリだけでの話だ。エステルは補助魔術をユーリにかける。リタは、『ファイアーボール』でザギの気をそらし、レイヴンが続けるようにして『土竜なり』を放ちザギのバランスを奪う。足元を邪魔されたザギはよろけながらバックステップを踏み、そこをジュディスが『旋月刃』でさらに後ろに飛ばす。咄嗟に受身を取るが壁に激突するザギ。

ザギ「ぐっ……はぁ、まだだ、もっと、もっとだぁ!」

立ち上がるとザギは再び武器を構えユーリの方へかけ出す。凄まじいスピードにその進行を邪魔することは出来ない。一直線にユーリに向かい、振り下ろされる武器をユーリは剣で受け止める。『三散華・追蓮』を繰り出しザギに拳を食らわすと剣で二回斬っていき、一旦後ろに下がったユーリと入れ替わるようにフレンが『瞬迅剣』でザギを突きそのまま繋げるように『秋沙雨』を放った。高速の突きにザギの体に細かい切り傷が出来ていく。パティは愛銃をザギに向け『トリガーチューン』という技で撃った。一、二発避けるが、三発目は食らってしまうザギ。クソがっ!悪態をつきザギの闘気が急激に高まる。

レナ(!……秘奥義がくる?!させない!)

レナ「茨よ、戒めとなれ!……ローズバインド!」

ザギの体に茨が動きを封じるように絡みつく。

ザギ「こんなもので、オレは止まらねぇ!」

ブチブチと茨を無理やり引きちぎった。

レナ(っ止められない!)

ザギ「……魔導光天陣!!」

天井に術式が浮かび、そこから赤い雨のような光弾が、ユーリ達に向かって降り注ぐ。避けることに集中していたユーリ達はザギの攻撃を避けられない。エステルはザギの攻撃を盾で受け止めるが、力の差に後ろに弾かれ光弾に足を撃ち抜かれる。そのまま転けるように倒れる彼女を見て、エステル!と叫んだリタに赤い光線の中素早い動きでザギは近づき一撃をくらわせる。ハッとしたリタは、直ぐに避けようとしたが身を躱すことも出来ずもろに受けてその勢いのまま近くの壁にぶつかる。なかなかに密度のある光線を避けながらジュディスはザギに攻撃を仕掛けるが、簡単に軽々と彼は避け、ジュディスが目の前を走った赤い線に気を取られた瞬間、ザギはその隙を見逃さず回し蹴りを横っ腹に入れた。ジュディスは目を見開いたと同時に受身を取りつつも床に転がる。その間、一、二分の出来事だった。レナは雨のように降る赤い光弾を避けながらその状況に焦りを覚える。ユーリもフレンもこのままではまずいとザギを止めようと駆けるが、未だ展開されているザギの秘奥義に翻弄されいた。止まることを知らないザギは、今度はジュディ姐!と駆け寄ろうとするパティに向かって走る。足音で気づいたパティは臆することなく愛銃を構えてザギにパンッパンッと狙い撃ちするが、蛇行しながら走る彼には掠りはするが当りはしない。ザギの『魔導炎爆衝』で一気にゼロ距離になった時、パティが後ろに身を引いたと同時にザギは、手から発生した光をパティに向けて放った。パティは受け身をとるが後ろに吹っ飛ばされてしまう。パティ!とカロルが叫び、体格の小ささを活かして光線を避け切るとよくもっ!と上に飛んでカロルは『烈震ドロップ』をザギに放った。技を使ったばかりだったザギは反動で動けなかったのかもろにくらっている。そうしてやっとザギの行動が止まる。その隙をレイヴンは鷹のように逃さない。レイヴンが『インヴェルノ』を発動させ、ザギを巨大な氷柱に封じる。氷を壊すのには少し時間がかかるだろう。やがてザギの秘奥義も収束し光弾がやむ。見渡せばパーティーの半分がやれている状況だった。ユーリ、フレン、レイヴンは今のうちに体勢を整える。レナは見渡して、素早く治療の優先順位を決める。

レナ(この状況で一番酷いのはリタだね、順にパティ、エステル、ジュディスかな)

少女はリタに駆け寄る。痛みに顔歪ませ、固く目を閉じている彼女は、意識はあるもののどこか折れていそうだとこれまでの経験からレナは推察した。次に、パティだ。こちらもリタと同様で痛みが強いらしい。気丈な表情をしているが、辛そうだ。ジュディスは横っ腹を押えてはいるが、軽傷に見える。エステルは足を撃ち抜かれていたが、自分で治したのかほとんど傷は浅くなっていた。これならば、と少女はリタを中心に治癒術を発動させる。

レナ「瞳を閉じし者、鼓動の旋律を奏でよ……リジェネレイト」

少女の治癒術によってリタの傷が治っていき、同時に範囲内にいたパティ、ジュディス、エステルも完全に治していった。先程よりも表情がやわらいだリタの呼吸も落ち着いてきた。

レナ(よし、あとは全体に…………まずいっ)

レナが周りを見渡した時、氷柱に亀裂が入る。ピシピシと砕け始める氷にザギが動き始めるということを示していた。バキンッと氷が舞い、ザギはユーリに駆け出した。難なくユーリはザギの攻撃を受け流す。

レナ(はやくっ!)

レナ「天の遣いの姫君よ、その壮麗たる抱擁の力を……ナイチンゲール」

半ば早口で詠唱する。慈愛の天使が顕現し、ユーリ達を包み込む。

レナ(これで、大丈夫なはず)

ダメージの回復は十分。問題は、ザギの無力化だ。元気に剣を振るって戦うザギを見る限り、大技でもぶつけないともう止まることはなさそうだとレナは感じる。

レナ(どうしたら……。!っそうだ、ずっと考えてたあの大技、一か八かやってみるか……)

今まで術技を使うことに対して負担がデカすぎた彼女は、秘奥義を使ったことがなかった。使えば命を落とす可能性すらあったからだ。しかし、今なら、精霊に変わりつつあるこの体なら、もしかしたら耐えられるかもしれなかった。この際迷う暇があるのならやってしまったほうがいい、と覚悟を決めた少女はイメージと詠唱に入る。レナの闘気が高まっていることに気づいたザギが、面白そうなことしてんなぁ!!と叫びながらレナに斬りかかる。レナはハッとして身構える。が、ザギの剣は近くにいた剣でフレンが受け止めた。金属音が響く。

フレン「大丈夫だ……フォローする。構わず、集中してくれ」

その声にレナはこくりと頷き、術式の組み立ての続きを始める。剣を受け止められたザギは明らかに苛立ちを滲ませていた。そこに、リタが放つファイアーボールが来る。舌打ちをしながらザギはバックステップを踏んで避ける。その間にレナは集中して術式を組み上げていく。

レナ(光……貫く……闇……)

白み帯びていた術式に、紫色が混じり始めた。その様子を見ていたリタは、あの子何発動させようとしてるの……?と困惑が混じった目をしていた。

レナ(捕らえて……穿つ……)

レナはイメージを鮮明に持ちつつ瞼を開ける。一点にザギを見た。ザギはニヤリと笑っている。背筋がゾクリとする感覚をレナは受けるが、しっかりしろと心の中で鼓舞した。少女は口を開き、頭の中をイメージを言葉にのせた。

レナ「……縋り付く陽炎の幻影……」

唱えた瞬間にレナを中心に術式が展開し、ザギの足元に同じ術式が浮かぶ。ザギの方の術式から揺らめく影の手が彼に縋り付くように動きを封じていく。ザギは剣を振って、影の手を斬り裂こうとするがまるで空気を斬るようにするりと抜けて影を裂くことが出来ない。

レナ「……(そら)に輝く九の夢見鳥……」

そのままレナはザギに向かって手のひらを突き出す。するとザギの頭上に、九頭の光り輝く蝶が一頭ずつ顕現し、クルクルと旋回し始めた。

レナ「今此処にかの者に天誅を……!影縛光蝶乱舞(えいばくこうちょうらんぶ)!!」

レナが術式名を叫び、ギュッと突き出した手を握ると同時にうねうねとしていた何十本もの影の手はピンと糸が張るようにしっかりとザギを掴み、蝶はそれを狙うように光線となってザギに突っ込む。逃げる隙もない大技をもろにくらった彼は、呼吸を乱してその場に膝をついた。

レナ「……できた……」

少女はひとまず初めて秘奥義を失敗もなく発動出来たことに安堵する。

ザギ「くくく、痛みがねぇ、全然ねぇ。おお?体が動かねぇな。なんてヤワな体なんだ。次は体も魔導器(ブラスティア)に変えてこよう。そうすりゃ、もっと楽しめる、そうだろう、ユーリィ?」

痛覚が麻痺しているらしい。動かせない体に悪態をつく彼に、戦いしか見えていないのね、と少女は哀れみの目で見た。戦いにしか意味を見いだせなかった彼は痛々しく見えて、ジュディスは、魔導器(ブラスティア)を壊していた時の自分が今もあのままだったら……と考えて眉を寄せた。

ザギ「ひっひっひ、あーはははは……」

楽しそうに笑う彼に、ユーリは歩いて近づく。何かを察したフレンが、ユーリ!と止めるように名前を呼ぶと同時に、ユーリはザギにトドメをさした。

ユーリ「地獄でやってろ」

静かにそう言って、あわれむような目でザギを見た。斬られた反動でザギは後ろにフラフラとよろつき、壁と床の間に空いていた隙間から足を踏み外して落下した。レナは下に遠くなっていく彼をじっと見つめていた。

レナ(……次の生では、彼の理解者が現れますように……)

少女は胸の前で手を握り、黙祷を捧げた。

ジュディス「人から理解されず、戦いに無理矢理意味をつけて……哀れな人」

レイヴンがユーリの横に来る。

レイヴン「あれでもその筋じゃ結構、知れた名だったんだけどねぇ。おたくらと関わってから、なんだか妙なことになってた」

エステル「あの人、本当に戦いを楽しんでるみたいでした。ユーリとなら本気で戦える、そう思ったんじゃないでしょうか?」

カロル「それってユーリくらいしか本気で戦える人がいなかったってこと?」

ユーリはザギが落ちた所から背を向けた。

ユーリ「知るかよ。あんないっちまったヤツのことなんざ」

レナ「……彼はその生き方しか分からなかった。過ぎてしまったことを考えてもどうにも出来ないことだよ」

パティ「んじゃ、力をもてあましたヤツの成れの果て、じゃの」

重たい雰囲気を消し飛ばすようにつとめて明るい声でレナは促す。

レナ「ほら、私たちはやるべきことがあるでしょ?前に進もう?」

ユーリ「……だな。つまんねぇ事で時間をくっちまった。行こうぜ」

ふと、レナがジュディスに目を向けると、交信しているようだった。何かあったのかとユーリは声をかける。

ユーリ「バウルがどうかしたのか?」

ジュディス「大丈夫、外の様子を聞いてただけ」

リタ「生命力吸引の術式、どれくらい組み上がってる?」

ジュディス「バウルは術式のことわからないから」

すこし申し訳なさそうに彼女が答えれば、リタはそうよね……と頷いた。

ジュディス「バウルには自分の判断で動いてって伝えておいたわ。私たちも先に、ね?」

カロル「うん、急ごう」

上に進むと、とても長い階段がユーリたちの前に現れた。階段の先には光が漏れている。ユーリたちは、階段に近づいた。

フレン「どうやら、この上が頂上みたいですね」

ユーリ「ここが正念場だな。みんな、覚悟はいいか?」

リタ「とっくに出来てるわよ」

カロル「うん。ボクたちがやらなきゃいけないんだもん」

パティ「ここで逃げたら、今晩の食事がまずくなるのじゃ」

レイヴン「そゆこと、おっさんもさすがにがんばっちゃうよ」

エステル「わたしたちを信じて待っている人たちのためにも必ず星喰みを倒します!」

ジュディス「フェローやベリウス……始祖(エンテ)()隷長(ケイア)たちの想いのためにも、ね」

レナ「みんなで未来を紡ぐために」

ラピード「ワン!」

皆それぞれ、覚悟をしっかりと持つ。ユーリとフレンは顔を見合せて、頷く。

ユーリ「行こう!」

長い階段の果てにデュークが居た。流れる水の音が清浄な空気をつくりだしている。デュークは、祭壇のような広間に立ち、その前には術式が展開されていた。ユーリたちはデュークに近づく、その足音で気づいたデュークが少しだけ振り返った。

ユーリ「デューク、オレたちは四属性の精霊を得た。精霊の力は星喰みに対抗できる」

エステル「もう人の命を使って星喰みを討つ必要はありません!」

デューク「あの大きさを見るがいい。たった四体ではどうにもなるまい」

デュークは星喰みが居る空を見上げた。

リタ「四体は要よ。足りない分は、魔導器(ブラスティア)魔核(コア)を精霊にして補うわ」

カロル「世界中の魔核(コア)だもん。すごい数になる はずだよ」

レイヴン「ついでにおたくの嫌いな魔導器(ブラスティア)文明も今度こそ終わり。悪い話じゃないでしょ?」

デューク「……人間たちがおとなしく魔導器(ブラスティア)を差し出すとは思えん。それとも無理矢理行うのか」

パティ「無理矢理なんてしないのじゃ!」

ジュディス「人々が進んで応じるなんて、信じられないのかしら?」

デューク「一度手にしたものを手放せないのが人間だ」

レナ(やはり簡単には分かって貰えないよね)

ユーリ「……分かってくんねぇか……だけど、オレたちはオレたちの選んだ方法で星喰みを討つ。もう少し、待ってくれねぇか?」

ユーリは目の前にある祭壇に続く階段の前まで歩く。

フレン「僕たちは、人々の決断を、そして僕たち自身の決意をむにしたくないのです!」

続いてフレンが訴えた。

デューク「……それで世界が元に戻るというのか?」

リタは元にという言葉に疑問を持った。

デューク「始祖(エンテ)()隷長(ケイア)によりエアルが調整され、あらゆる命がもっとも自然に営まれていた頃に戻るのか、と聞いている」

リタ「そ、それは……」

デュークの声の圧に彼女は身を後ろに退いた。デュークのいう元に戻るとは、ユーリ達が行おうとしているものとは真逆のもの。デュークの望むような結果は得られないとリタは分かっているからこそ、言葉につまる。

デューク「おまえたちは人間の都合の良いように、この世界を……テルカ・リュミレースを作り替えているにすぎん」

リタをフォローするようにエステルが進みでる。

エステル「世界が成長の途中だとは考えられませんか?始祖(エンテ)()隷長(ケイア)たちは精霊になることを進化だと捉えています。同じようには考えられませんか?」

デューク「……彼ら始祖(エンテ)()隷長(ケイア)の選択に口を挟むことはすまい。だが、私には私の選択がある」

ユーリ「分かってくれねぇのはそれをやろうとしているのオレたちが人間だからか?」

レイヴン「人間が信用出来ないからって放っておいて、手遅れになったらいきなり消そうとするってどうなのよ!?」

デューク「……おまえたちはこの塔がどういうものか知っているか?もともと都市だったタルカロンを古代人は自ら兵器に変えた。始祖(エンテ)()隷長(ケイア)を滅ぼすために!」

その言葉に、ユーリたちは目を見張る。

デューク「あくまで魔導器(ブラスティア)の危険を認めようとしない古代人にとって、魔導器(ブラスティア)を攻撃する始祖(エンテ)()隷長(ケイア)は邪魔でしかなかったのだ」

静かな怒りを感じた。

カロル「そしてエアルの乱れにより、異空の子が呼び出されたけど……」

レナ「それも虚しく星喰みが出現した……」

二人はそうやって古代の出来事は引き起こされたのだと理解する。

デューク「そうなって初めて人間は始祖(エンテ)()隷長(ケイア)の言葉に耳を傾けた。今の世界は多くの犠牲の上にある。なのに人間はまた過ちを犯した。必ずまた繰り返すだろう。どうしようもないところまで世界を蝕み、他者を巻き込み、自分たちの存続のためだけに世界のあり方まで変えようとする。そんな存在こそ、星喰みをも凌駕する破滅の使徒だ」

他者を巻き込みと言った時、デュークはレナを見ていた。




夢主の秘奥義やっと出ました。出すまで長かった……。
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