デュークの話を仲間と共に聞いていたフレンが、口を開く。
フレン「……それがあなたが人間を滅ぼそうとする理由なのですか」
デューク「私は友に誓ったのだ。この世界を守ると」
エルシフル、ね……とジュディスが、シルフから聞いた友の名を言った。
デューク「……クロームから聞いたか」
レナ「ええ。クロームは、あなたを止めてほしいって言ってた」
ピクリとデュークの体が僅かに揺れる。
エステル「彼女もわたしたちの話を聞き入れてくれて精霊に転生しました。だから、どうか一緒に……」
胸の前で手を組み願うように彼女は言った。
デューク「……ふざけるな。
ユーリ「デューク……やめるんだ!」
デューク「このまま人間が世を治めていけばかならず同じ過ちを繰り返す。そうなれば人の心は荒み、より辛い未来になるのではないか?」
エステル「例えそうであっても自分たちで選んだ道です。傷ついても、立ち止まっても、諦めなければ、また歩き出せるはずです!」
リタ「そうよ。間違ったり失敗したりするのを怖がってたら、新しいことなんて何もみつからないもんね。それに、あたしたちはあんたみたいに勝手に決めつけてこの道を選んだんじゃない。みんなで決めたよ」
カロル「うん。一人じゃ難しいのかもしれない。でもボクたちは一人じゃないんだ。一人で出来なかったらみんなでがんばる。そうやって歩いていけるって事に気付いたんだ。だから!」
パティ「のじゃ。一人で出した答えはいつか必ず行き止まりにぶち当たる。でも、みんなで船を漕げば、どんな風でも嵐でも、いつか海を越えられるのじゃ」
デューク「心が繋がっている者同士はそれでいいのだろう。だが、必ず辛い未来を受け入れられぬものがいる。それがわからぬおまえたちではないだろう?」
ジュディス「そうね。厳しいけど、それが現実でしょうね。けど、変わろうとしていくものを受け止め、考え、また変わっていく。人も世界もね、ね。だから何年…何十年…何百年かかったとしてもいつか受け入れてくれる、今はそう思えるわ。だって、それが生きるという事なのだから」
フレン「変化とは痛みを伴うもの。でも、それを恐れていては前には進めない……。誰もが同じように進める訳じゃないというのなら、僕らがそれを支えます。そのための騎士団、そのためのギルドです」
レイヴン「んだな。守らなきゃならないもんは確かにあるだろうが……、おっさん、次の時代に生きる奴らの
レナは前に進み出た。
レナ「人間は過ちを繰り返す生き物。だけど、その度に乗り越えて、より逞しくなっていく。たとえ道に迷ってしまったって、きっと希望を見つけて歩き出していく。私は、いつだってそう信じてる」
皆それぞれ、デュークにおもいをぶつけた。デュークはレナを見つめる。
デューク「新月の子よ……なぜ、巻き込まれた身でありながら邪魔をする」
レナ「最初は何故この世界にいるのか、戸惑いばかりで、ここにいるとい実感もなかった。夢を見ているような感覚で……。だけど、皆と旅をしていくうちに、ここで生きているという実感が湧いて、この世界に住んでいる人達の事が愛おしく思えた。だから、私は守りたい」
少女にとって、この世界は元々ゲームの世界だった。しかし、ユーリ達と旅をして、この世界の人たちと関わりを持つことでただのゲームの世界では無くなった。ポリーたち子供の未来を、オルニオンの未来を、ギルドや騎士団……全ての未来を守りたいと思えるほどに、愛しいと。この世界は愛しいと少女は感じたのだ。
デューク「人間たちは変わることは無かった。その人間たちのために代々の新月の子は犠牲になった。それでもか」
それは事実。しかし、ただ犠牲になった訳では無い。彼らだって未来を見据えていたのだから。
レナ「彼らは犠牲になったんじゃない。ずっと先を次代の新月の子に託してきたの。今代の私で、世界が呼ぶことはなくなる。それが、あなたを止める理由よ」
少女自身が、最後の新月の子である事を見えているからこそ分かる。だからこそ、デュークの方法は止めたい。
デューク「……やはり分かり合えぬか。残念だ。」
デュークの前に展開していた術式が消え、彼は剣を握っていた。レナ達は武器を構える。
デューク「……さぁ、来るがいい!」
ユーリの剣とデュークの剣が交わる。戦いの最中、分かり合えるはずだとユーリ達は説得を諦めなかった。
ユーリ「オレたちが星喰みを倒すのを邪魔しないでくれ、デューク!」
キンっ、キンっ!と刃どうしが当たる音を響かせた。
ジュディス「
デューク「私がそれに賛同する道理は無い」
ジュディスの槍を受け止めながらデュークは拒絶する。
リタ「この石頭っ!どうして、どうして分からないのよ!」
リタの叫びに、一瞬デュークの動きが鈍った。そこをレナは、ダガーナイフで斬り込む。
デューク「なるほど犠牲ではなく、先を繋ぐために残したものか」
レナ「あなたのその覚悟も強いと思うよ」
レナ(あなたは、強い。友のために、友との約束のために、そう、あれるのだから)
デューク「おまえには、この先に何が見えている?もし知れたなら、違う道を歩んでいたのかのしれぬ」
レナ「言うことは出来ない、伝えることは禁忌だから。けど、違う道を歩むのなら今からでも遅くは無い」
デューク「いや、もう遅い。この空に星喰みが覆ったとき、私の道は決してしまったのだから」
デュークはレナに背を向ける。
レナ「っデューク!」
レナがデュークに手を伸ばし名を呼んだと同時に、デュークは剣を床に突き刺した。剣を中心に赤い光がデュークを包む。
デューク「世界の永続にとって最善の道、それは世界を自然な形に戻すこと……それが私の選んだ道!私はそれに殉じる。友よ!力を!!」
赤い光が弾け、天へと登る。そして四方にあった石に光が当たる。石が中心に光で繋がる。辺りを眩いほどの光が埋めつくし、床も輝いている。術式が床に拡がる。光が収束し姿を変えたデュークが現れた。デュークを止めるため、ユーリたちは立ち向かう。その途中、旅の最中に集めた間装具がひとりでに動き始める。ユーリは目を見開き、エステルはなんなんです!?と驚く。宙に浮かぶデュークの元に、魔装具が囲むように浮かんだ。再びデュークは光に包まれる。
デューク「まさか……これはスパイラルドラコの……」
ジュディス「魔装具が
リタ「
ありえない事象に、ジュディスとリタは焦りの表情を浮かべた。やがて光が弾け、世界の色が反転する。
レイヴン「なんてこった……!」
フレン「あれが魔装具の真の姿……!?」
カロル「さっきまでとは全然違うよ!」
パティ「これはちょっと歯応えありそうじゃの」
さっきと姿の違うデュークに皆は驚く。
デューク「このお互い引けぬ一戦において古の
反転していた色が戻り、魔装具がユーリたちの元に帰る。
レナ「例えそうであっても、私たちもそれを認めることは出来ない!」
ユーリ「自分の正義は自分で決める。あとはこいつで白黒つけるしかねぇだろ」
ユーリは再び剣をかまえる。
デューク「どうあっても受け入れないというのだな。……それもよろかろう」
デューク「この一戦、世界のために!」
デュークとの戦いは凄まじいものだった。お互いにひけぬ意思が、力を強くする。デュークはかつて誓った友との約束……世界を守るために、ユーリたちは犠牲なく世界を救うために。パティが最初に秘奥義を放った。『サモンフレンズ』で召喚されたサイファーがデュークに向かって攻撃していく。デュークは同じように『サモンフレンズ』でサイファーを召喚して相打ちさせる。続けてフレンが、『炎覇鳳翼翔』をデュークにぶつける。炎の鳥が舞い上がった。デュークはまた同じように『炎覇鳳翼翔』をぶつけて相殺。『煌華月衝閃』で雷を纏った槍を持ったジュディスはデューク目掛けて突き刺したした……思っていたが、デュークはそれを、『煌華月衝閃』で受け止める。それを見越していたレイヴンが、『ブラストハート』を放ち、その膨大なエネルギーがデュークを襲うが地上に降りた彼は、『ブラストハート』でほぼなかった状態にする。まだまだ、とリタが詠唱する。布のはためく音ともに術式が構築された。
リタ「万象を為しえる根源たる力……太古に刻まれしその記憶……我が呼び声に応え、今ここに蘇れ!エンシェントカタストロフィ!!」
四つの術式から放たれたエネルギーが、一点にデュークを襲う。しかし同じようにデュークは『エンシェントカタストロフィ』を発動した。嘘っ!とリタは身を引く。続いて、ラピードが『斬!』で突っ込むが、デュークも同じ技で受け止める。カロルがボクも!と、『豪覇連刃インパクト』でいくつもの武器をデュークに投げつける。デュークは、飛んでくる武器たちを『豪覇連刃インパクト』と同様の武器をぶつけた。ユーリが『漸毅狼影陣』で素早い動きでデュークに剣を振るう。デュークも『漸毅狼影陣』でユーリの剣を弾き、お互い凄まじいスピードで金属音が響いた。ユーリは舌打ちをして一旦距離をとる。そしてエステルが最後に『セイクリッドブレイム』を放った。仲間たちの回復とデュークに光のダメージを負わせる。レナは背中に冷や汗を流し、一人焦っていた。
レナ(まずい……!順番が違うけど、これは、あの技が来る!)
デュークはダメージなど受けていないかのように、翼のようなものをひろげて、上に飛ぶ。
デューク「汝らの写し身!我が掌中にあり!……散れ!
高火力のその技に、レナは素早く魔術障壁を展開したがすぐに破られユーリたちは地面に叩きつけられた。エステルたちの悲鳴が上がる。
レナ「っ……くっ……」
痛みはないが何本か骨がイカれたか。治りつつあるとはいえ言うことを聞かない体を少女は悔しく思う。しかし、諦めきれない。ここで諦める訳には、いかない。レナは悠々と立っているデュークを見据えた。
レナ「……す…ぁり…っ……く、かげ…ぅ…の、げ…ぇい」
肋骨が折れて肺を圧迫しているからか息が上がり途切れ途切れになる詠唱。終わったと思っている彼の足元から影の手が伸びてとらえる。
デューク「!……何。そうか、おまえは人あらざるものだったな」
デュークは目を見張る。レナは地面に手を付き、ぐぐぐっと上体を起こす。軋む体に顔を歪めるが、その瞳の奥には希望を宿していた。その表れか、デュークを縛る影の手は振り払われない。
レナ「
フラフラとしながらも立ち上がった少女は空に向かって手をつきあげる。次々に光で出来た蝶が舞い始める。ザギの時と違うのは、色を纏っているという事。水色、黄色、赤紫、青、橙、緑、藍、桃、濃色。その色は、少女が仲間たちに持つイメージだった。
レナ「今此処に…彼の者に天誅を……!」
レナの体の周りには、傷を治すためのエアルの光が集まり、神秘的な雰囲気をまとっている。少女はしっかりと、目の前の彼を見つめる。空を泳いでいた蝶達は、動きを止めデュークに狙いを定める。逃れることが出来ないと悟ったデュークは目を閉じ静かにそれを待っていた。
レナ「……
九つの光はデュークに向かって落ちる。デュークは静かにその場に倒れた。レナは仲間たちの治癒にあたる。
レナ「戦いに傷つきし者たちを癒す……清らかなる雨よ……ニュンフェレーゲン」
薄く光を帯びた緑色のキラキラとした雫が、ユーリ達に降り注ぎ傷を癒していく。ユーリ達は癒えた体を起こした。
デューク「すまぬ……エルシフル……約束を……守れそうにない」
回復から立ち上がったユーリが、デュークに近づく。
ユーリ「エルシフルがどんなヤツだったのかもしらねぇオレが言っても説得力ねぇけど、人魔戦争で人のために戦ったエルシフルってヤツは、ダチのあんたに人間を否定して生きる事なんて望んじゃいないと思うぜ」
デューク「エルシフルの望み……世界を守ること……いきとしいける者、心ある者の安寧……」
デュークはそっと目を閉じる。
フレン「ユーリ!急がないと!」
ユーリの元にフレンが駆け寄る。
ユーリ「ああ、やるぞ」
仲間たちはユーリを中心に囲むように立ち位置に着く。準備が出来たのを確認して、リタが術式を展開させた。
リタ「いくわよ……エステル、レナ、同調して、ジュディス、サポートお願い」
エステルとレナ、ジュディスはそれに返事をした。
リタ「ユーリ、いくわよ!」
ユーリは、答えるように明星弐号を持つ手に力を込める。
パティ「ドキドキなのじゃ……」
フレン「……」
レイヴン「たのむぜ〜。大将〜」
ユーリ「ああ!」
ユーリは明星弐号を星喰みに向けた。中の核が光を帯びる。ユーリを中心に眩い光が広がった。四隅に、ウンディーネ、イフリート、ノーム、シルフが顕現しそれぞれの力を中心に集める。リタはその光景を嬉しそうに見上げた。世界中からまるで流れ星のように
デューク「本当に魔導器を捨てたというのか……」
収束した力は明星弐号を要にして、星喰みにぶつかる。しなし、突き抜けることはなく途中で光の柱は止まってしまった。
パティ「と、止まった……!?」
カロル「まさか効いてないの!?」
そんなことない!と否定するリタの声がカロルたちに届く。
リタ「ただあと少し、あと少し足りない!」
エステル「そんな、ここまできて!」
レイヴン「なんとかならんのか!?」
ジュディス「お願い……!」
フレン「まだ終わっちゃいない……!」
レナ「諦めちゃダメ……!」
デュークが立ち上がる。
デューク「
デュークが手に持っていた
エステル「精霊……」
見上げていたエステルがそう呟く。
カロル「あれ全部が!?すごい……」
リタ「星喰みになってた
レイヴン「星喰みも世界の一部だった……そういう事ね」
レナ「流れ星みたい……」
ジュディス「綺麗……とても……」
パティ「じゃの」
ユーリとデュークの元に、フレンが歩み寄る。
フレン「……やったな」
フレンとユーリは、顔を見合せて微笑み、ユーリは頷く。
デューク「……本当にこれで正しかったのか」
ユーリ「さぁな。
デューク「強いのだな」
デュークはユーリを見つめてそう言う。
ユーリ「なに、ひとりじゃないからな」
デュークは瞬きすると同時に身を翻してその場から歩いていく。そんな彼を、ユーリは呼び止めた。デュークは歩みを止める。
ユーリ「デューク!またな」
デュークは何も言わず、それに軽く頷いて、タルカロンの塔から去った。ユーリ!とカロルを先頭に、レナたちはユーリに駆け寄った。まだまだ、転生していく
ユーリ「っレナ」
ユーリは弾かれたようにレナを見た。眩い光を纏う彼女は、やがてそのシルエットを変えていく。眩い光がとけて、少女が目を開けた時、視線の高さに違和感を持った。
ユーリ「レナ、なのか?」
目を見開いて確認するユーリに、レナは頷いた。レナの姿は成長していた。ユーリ達から見た今の彼女は、十歳ではなくエステルと同じくらいに見える。低かった身長は伸びて、リタより少し高いくらいだろうか。肩の上くらいだった髪も、胸下まで伸びていた。まだ状況は呑み込めていないレナに、エステルが口を開く。
エステル「ウンディーネ達が、それは、今までの新月の子たちからの贈り物……だそうです」
凜々の明星に囚われていた
レナ(……ありがとう)
心の中で彼女はそっとお礼を言った。
あれから、数日、ユーリ達はありえないくらいの忙しさに追われていた。
レナは未だ踏み出せないことについて考えながら街道を歩く、依頼で街道に出る魔物の一掃を頼まれていたからだ。しかし、考え事をしてしまっていた彼女は、自身を狙っている魔物に気づかなかった。ガサリっと音がして、ハッとレナが振り返った時には狼のような魔物が、彼女目掛けて牙と爪を向けていた。
レナ(……しまった!)
彼女は焦る。一歩身を引いても、傷を負うことは確定だろう。痛みはなくとも、恐怖はある。グッと防御の構えをとった瞬間、腕の隙間から見えたのは、見慣れた黒髪と服装の青年だった。ザシュリと魔物を斬り伏せる。斬られた魔物は、ワオーン!と雄叫びを上げ、それに反応した魔物がワラワラと集まる。気がつけば完全に囲まれてしまっていた。しかし、レナの意識は、魔物達ではなく、目の前に現れた青年に向けられていた。
レナ「……ユーリ」
呆気に取られたまま、ポツリと名前を呼べば、呼ばれた彼は振り返る。
ユーリ「ったく、ボーっとしてんなよ」
軽口を叩きつつも魔物を前にしてニヤリと笑う彼は、とても頼もしいと、レナは思う。
レナ「っごめん!ありがとう!」
子どもの姿だったときよりも、ほんの少しだけ低くなった声で返す。
ユーリ「お礼はあとだ。今は、こっちに集中しようぜ」
ユーリは、目の前の魔物の群れを見つめる。レナは、うん!と頷くとダガーナイフを構えて、詠唱を始めた。その間に、ユーリは次々に魔物を蹴散らしていく。
レナ(もう
術式を組み立ながらも、ユーリを見ていたレナは、
レナ「聖なる雫よ、降り注ぎ、我に力を……ホーリィレイン!」
発動した魔術は、聖なる雨を降り注ぎ魔物にダメージを与えていく。針のように鋭い雫と聖なる力で、魔物の群れの半分は倒せたはずである。その間にも、ユーリは斬りまくって魔物を倒していた。
レナ「っ風円刃!」
魔術の攻撃とユーリの斬撃をくぐり抜けてきた魔物達に気づいたレナは、素早くダガーナイフを構え横に円を描くように、風の力をのせてふるった。ダガーナイフの後を追うように、風の刃が周りに放たれ魔物を切り裂く。残りの半数をそうやって片付るとユーリとレナは息を切らしてその場に座り込んだ。数が数だったため、疲労が二人を襲う。先に息を整えたレナが、ユーリに話しかける。
レナ「っねぇ、どうしてここに?」
そう、ユーリはここより離れた街の井戸を掘りに出ていた。ここにいる訳がなくジュディスに運んでもらわない限りはいる訳が無いのだ。
ユーリ「ん?あぁ、たまたまだよ」
レナから目をそらす彼に、嘘なのだと何となくレナは勘づく。
レナ「ふーん、ほんとに?」
少し疑うようにユーリを見て首を傾げれば、彼はやっぱ誤魔化せねぇかと口を開く。
ユーリ「……おまえが依頼を受けた時、嫌な予感がしたんだよ」
レナは目を見開いて、嫌な予感?と呟く。
ユーリ「オレも、ここの街道は通ったことあるからな。妙に、魔物が多く感じたつっーか」
レナは納得したように頷く。
レナ「なるほどね、でもどうやってここに?ここって、ユーリが受けてた依頼の街よりも離れてるよね?」
ユーリ「ジュディに運んでもらった」
そう言われてレナは、やはりそうなんだと言う納得となぜかモヤモヤした気持ちになる。ちょっとしてから立ち上がった二人は座り込んだ時に付いた砂を振り払う。
レナ「ほんとに助かった。ありがとう、ユーリ」
少し恥ずかしそうに照れを隠すように微笑みを浮かべてレナは改めてお礼を言った。ユーリは、おうと返す。
近くの街へ歩き始める。日が落ち始めて、空がオレンジ色に染まり出す。日本の四季で例えるなら秋に近い季節、少し日が落ちるのが早くなると同時に冷たい風がそよぎ肌寒くなっていく。ユーリとこんなにちゃんと話せたのは何時ぶりだろうかとレナは思った。別に避けていたわけでもなく、ただ忙しくて話す機会がなかった。だからか、今までどう話していたのか分からず距離がつかめない変な感じがして、なんだかレナはムズムズした。
ユーリ「……なんかこうしてると旅のこと思い出すよな」
切り出したのはユーリからだった。
レナ「うん、そうだね。いろいろと大変だったなぁ」
彼女は懐かしむように微笑む。
ユーリ「レナは、いつも無茶しがちだったよな」
ふはっと笑う彼に、自分の名前を呼んだ彼に、レナはドキリと心臓が跳ねた。
レナ「うっ、でも、今はもうそんな無茶しないよ」
レナは少し拗ねるように口を尖らせた。
ユーリ「そういってるわりには、さっきは危なかったけどな」
と、痛いところをつかれて、あれは!と思わずレナは声を上げる。
レナ「その、ちょっと、考え事してて……」
レナはモゴモゴと口を動かした。
ユーリ「考え事?なんかあったのか?」
気にかけるような彼の言葉にレナは首を横に振る。
レナ「ううん、大したことじゃないよ」
レナ(ユーリのこと考えたなんて言えないし……)
ユーリ「オレには、話しにくいことか?」
レナ「っえ?」
話しにくいかと聞かれれば、話しにくい。しかし言わなければ彼は納得しなそうだとレナは思う。じっとこちらを見るユーリに、レナはなんだか気まずなり肝心な部分で声が小さくなる。
レナ「……えっと、ュ…リのこと考えてたの」
ユーリ「?わりぃ、もう一度言ってくれるか?」
そう言われて、レナは歩みを止めて顔を真っ赤にしながら叫んだ。
レナ「だからっ、ユーリのこと考えてたの!!」
急に叫ばれたユーリは、びっくりして思わず後ろに身を引く。
ユーリ「オ、オレのこと?」
レナ「そう!最近全く会わないし話せないし、気持ちだって伝えられないしっ」
それはもう勢いで捲し立てる彼女に、ユーリはポカンとする。
レナ「でも、リタとかエステルには会ってるみたいだしっ、ジュディスとだって話してたみたいだしっ!」
彼女はユーリが呆気に取られられていることなど見えていない。
レナ「ずるいっ!私だって、私だって……!もっとユーリと話したいっ!言いたいこと、いっぱいあるんだから!」
後半からは目尻に涙を溜めていた。レナは言い終わって、はぁはぁと肩で息をする。一部始終を聞き終えたユーリは、ニヤリと笑った。
ユーリ「なるほどな。つまり、オレだけじゃなかったわけだ」
オレだけじゃなかったという部分に、レナはえ?と首を傾げる。
ユーリ「オレだって、カロルとレイヴン、ジュディス達は話すくせにオレとは話さねぇし、避けられてんのかと思ったね」
レナは、なっ!と声を出す。
レナ「違っ、避けてたわけじゃっ」
ユーリ「分かってるよ。随分と熱烈に嫉妬してくれたみたいだし?なんなら、オレに伝えたい気持ちってなんだろうなって気になってるところだぜ?」
ぶわわとレナの顔はさらに赤くなっていく。
レナ「あ……う……」
言葉にならない言葉を発する彼女に、ユーリはクスクスと笑う。
ユーリ「なぁ、聞かせてくれよ。その気持ちってやつ」
何時になく真剣な顔をした彼に、熱を持った顔よりも痛いくらいに高鳴る心臓にレナは意識を持っていかれる。少しの静寂、優しい眼差しでこちらを見るユーリ。レナは意を決した。
レナ「っ、わ、私、ユーリの事が好き」
今にも消え入りそうな声だったが、ユーリにはハッキリと聞こえた。レナがチラリと彼を見れば、紫色の空を背にこちらを見つめていてその耳は赤い。彼は顔より耳が赤くなるタイプなのかという感想がレナの頭の中をかけていった。
ユーリ「オレも、レナの事が好きだ」
しっかりと言葉にされると照れてしまう、けれどとても嬉しいとレナは思う。
レナ「両、想い、だったんだね」
まだ赤い顔で微笑むレナに、ユーリは頷く。
ユーリ「そうだな。さて、これから覚悟しとけよ」
レナ「えっ?」
何かを企むような顔で笑う彼に、レナは何故かワクワクした。彼はレナが嫌がることは絶対にしないから。きっと、からかわれたりお互いに愛し合ったり、楽しことが待っていると確信できるから。
レナ「ふふっ、ユーリ」
歩き出した彼をレナは呼ぶ。自然とこちらを振り返ったユーリ。
ユーリ「ん?」
レナ「ずっと、そばにいてね」
それは、精霊と人間という仲で叶うことは無いと知っているけれど、レナは分かっていてお願いするのだ。
ユーリ「もちろんだ。例え、そばにいれなくなったって、寂しい思いなんかさせねぇくらい、素敵な思い出で埋めてやるよ」
自信ありげに頷く彼に、今まで以上に嬉しそうな顔でレナは笑顔を咲かせた。
fin