―ケーブ・モック大森林
辿り着くと、しとしとと雨が降っていた。大森林とつくだけあって木々が連なり上を見上げれば陽の光を覆うほどの葉っぱが視界に入る。
エステル「世の中にはこんな大きな木があるんですね……」
初めて見るであろうその景色に、エステルは感嘆する。
ユーリ「けど、ここまで成長すると、逆に不健康な感じがすんな」
その傍でリタはカロルがヘリオードで言っていたことに確かにと納得する。
リタ「ヘリオードで
ザワりと誰かがいる気配をカロルは感じとって、皆に警戒するように声をかける。沈黙がその場を制する。草木をかき分けるように出てきたのは、ラゴウ邸やノーム港でみかけた紫色の羽織の男性……レイヴンだった。
レイヴン「よっ、偶然!」
ユーリ「こんなとこで、何してんだよ?」
レイヴン「自然観察と森林浴って感じだな」
嘘くさい……リタとレナは心のどこかでそう思った。同じことを思ったのかカロルに至っては口に出ている。
レイヴン「……あれ?歓迎されてない……?」
しかしめげずにひょうきんな態度でユーリ達に近づく。
リタ「本気で歓迎されるなんて思ってたんじゃないでしょうね」
レイヴンに対して今までされたことを思い返し、彼女は冷たくあしらう。
レイヴン「そんなこと言うなよ。俺、役立つぜ」とへらへらと笑っている。
カロル「役に立つって、まさか、一緒に来たい、とか?」
恐る恐るといった感じで聞くカロルにそうよ、一人じゃ寂しいさ、何?ダメ?とおちゃらけたように返すレイヴン。
レナ「……意外と寂しがり屋さんなのね、烏さん」
レイヴン「あら意外だった?って言うか、前も思ったけどその、烏さんってなんなのよ」
どうやら彼はレナが勝手につけたあだ名が気になるらしい。
レナ(レイヴンは私が元いた世界では烏をさす。彼は今、彼自身のことを隠して私たちの前にいる。だから、まだその名前では呼んであげないの)
レナ「……ふふ、烏さんは烏さんよ?」
少し考える素振りをした後にクスクスと少女は笑って言った。レナとレイヴンの会話を聞きながら、あぁと声をもらすリタ。
リタ「背後には気をつけてね。変なことしたら殺すから」
怪しさ満載のレイヴンに対して、彼女は脅し文句を放ち先を歩き出した。
レイヴン「なあ、俺ってば、そんなに胡散臭い?」
ユーリ「ああ、うさん臭さが、全身からにじみ出てるな」
ユーリの言葉を聞いて、レイヴンはどれどれ……と自分の服や体をくんくんと嗅ぐ。この空気でまだおどけることが出来るのかとレナは密かに思った。
ユーリ「余計な真似したら、オレなにするかわかんないんで、そこんところはよろしくな」
レイヴンをちらりと睨みながら、リタと同様に脅し文句をはくと、リタの後を追う。彼に続くようにレナ、エステル、カロル、ラピードは歩き出した。その後ろを、少し離れてレイヴンがついて行く。気づいた一行は後ろに振り返った。一斉に注目を浴びた彼は片目を閉じてユーリ達をみる。
レイヴン「まあ、俺のことは気にせずに、よろしくやってくださいよ」
レナ(後ろを着いてきておいて、気にせずにはいられないでしょう。人の心理をよく分かっててやってるんだからタチが悪い)
エステル「どうします?」
彼女は困ったように微笑みながらユーリ達に言う。
ユーリ「おっさん、なんかオレらを納得させる芸とかないの?」
レイヴン「俺を大道芸人かなにかと、間違えてない?」
頬をポリポリとかき、その手を顎に当て考える素振りをすると、別れ道の方にかけ出す。
レイヴン「ちょいちょい、こっち来て」
カロルに手を振って呼ぶ。呼ばれたカロルは戸惑いながらもレイヴンに着いていく。
その様子に、ユーリ、レナ、エステル、リタは頭にはてなマークを浮かべるしか無かった。ちょっとして、レイヴンだけがこっちに戻ってくる。ユーリがカロルはどうしたんだ?とレイヴンに問いかけた時、カロルの悲鳴が聞こえた。こっちにカロルが来ると、どうやら魔物に追われているようで武器を構えているがその足は震えていた。
レイヴン「ほら、ガンバレ、少年!」
呑気なレイヴンにカロルはくそぉ!と愚痴る。
流石に無理だったのかカロルが逃げ出す。
レナ(今、烏さんの放った矢が魔物に当たっていたような……)
レイヴン「もうそろそろかね……」
おっさんはどこか余裕そうだ。ユーリはレイヴンの呟きに何が?と不思議そうな顔をした。瞬間、魔物が爆発した。カロルは驚いて身を後ろに引く。リタとエステルは目を見開く。
リタ「中で爆発した!?」
エステル「な、何したんです!?」
エステルは両手を口に当て驚いた表情を隠しながらレイヴンに聞く。
レイヴン「防御が崩れた瞬間、打ち込んで中から……ボンてね!」
そんな二人に彼は自分がやったことを説明した。
レナ(へぇ、そんなこと出来るんだ。面白い)
爆発したことに驚きながらも、そういう戦法もあるのかと少女は感心する。
リタ「まったく、悪趣味な芸ね」どうやら彼女には不評みたいだ。
エステル「いいんじゃないでしょうか?」
ユーリの方を向いて苦笑いしながら彼女は言った。ユーリはまだ警戒している態度でいいのか?とエステルに問う。エステルはええとユーリの方に振り返って答えた。彼女のそれにユーリはま、いっかと肩の力を少し抜いた。レイヴンはお、合格?と少し嬉しそうな感じだ。カロルはマ、マジで……?と信じられないという顔をしている。
ユーリ「そばにおいといた方が、下手な真似しやがったときに色々やりやすいしな」
棘のある言い方に、レイヴンはおいおいとつっこむ。レナとリタはユーリの言葉に同意を示した。
レイヴン「なんか背筋が寒くなってきたんだけど……」
身体を震わせる素振りをした。
エステル「えと、それなら、よろしくお願いします」
レイヴン「はい、よろしく」
機嫌よくそう返して手を差し出したが、その手は虚しく宙に取り残された。
しばらく森の中を一行は歩いていく、少し奥に来た頃カロルが何か…声が聞こえなかった?とユーリ達に問いかけた。
「うちをどこへ連れてってくれるかのー」
聞き覚えのある少女の声だ。
エステル「この声、どこかで……」
レナ(……この声は、パティ??)
虫の魔物の羽音が近づく、その下に捕まった海賊帽が特徴の少女が居た。カロルはパ、パティ……!?とその状況に驚いている。レイヴンは金髪の少女のことを当然知らないので、なに?お馴染みさん?とカロルに聞いている。カロルはレイヴンの声にハッとして助けなきゃ……!と武器を構えようとする。
レイヴン「あーほいほい、俺様にお任せよっと……」
余裕のある雰囲気を纏って、彼は弓を構える。虫の魔物とパティがユーリたちの間を通る、その一瞬を逃さず魔物に矢を打ち込む。エステルは当たりました!と声をかけた。
ユーリがパティの落下地点に駆け出し、受け止めた。
パティ「ナイスキャッチなのじゃ」
ユーリはそれを聞いて、パティを落とした。そのまま、エステル達のところに戻る。
レナ(……痛そ)
パティは、服に着いた土をはらって、ユーリ達に近づいた。
ユーリ「で?やっぱりアイフリードのお宝って奴を探しているのか?」
ユーリのアイフリードという言葉にレイヴンが反応した。
パティはユーリの質問にのじゃと返事をした。
リタ「嘘くさ。本当にこんなところに宝が?誰に聞いてきたのよ」怪しい……と眉間に皺を寄せている。
パティ「測量ギルド、天地の窖が色々と教えてくれるのじゃ。連中は世界を回っとるからの」
リタ「それでラゴウの屋敷にも入ったって訳?結局、何もなかったんでしょ?」
パティ「100パーセント信用できる話の方が逆にうさんくさいのじゃ」
レイヴン「ま、確かにそうかもな」
話を聞いていた彼はパティの意見に同意する。
レナ(……まぁ、一理あるね)
リタ「あんたは100パーセントうさんくさいわよね」
隣にいるレイヴンの方を向いて冷たい態度をとった。
レイヴンはひどいお言葉……と落ち込んだ演技をしている。
パティ「とりあえず、うちは宝探しを続行するのじゃ」
エステル「一人でウロウロしたら、さっきみたいに魔物に襲われて危険なことに……」
パティ「あれは襲われてたんではないのじゃ。戯れてたのじゃ」
レナ(あれは……戯れてたの??)
カロル「たぶん、魔物の方はそんなこと思ってないと思うけどな」と呆れたように遠い目をしている。
パティの後ろでカマキリを大きくしたような魔物が迫っていた。気づいたエステルが声をかける。パティはくるりと後ろに振り返り、愛銃をクルクルと回して構えると銃弾を数発、魔物が倒れるまで放った。魔物が地に伏したのを確認してから、可憐に銃をしまう。どんなもんだいとしたり顔で海賊帽を軽くはらった。
ユーリ「つまり、ひとりでも大丈夫ってことか」
パティ「一緒に行くかの?」再度振り返り、ユーリを誘う。
ユーリ「せっかくだけど、お宝探しはまたの機会にしとくわ」
ひらりとユーリはお誘いを断った。
パティ「それは残念至極なのじゃ。でもうちはそれでも行くのじゃ。サラバなのじゃ」
身を翻した彼女は、別れの言葉告げてどこかへ走っていってしまった。
レナ「行っちゃったね……」
エステル「本当に大丈夫なんでしょうか」
心配そうにパティが走っていった方向を見ている。
リタ「本人が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫なんでしょ」
気にかけるエステルにリタはそう言った。一見冷たそうだが、不器用なりのフォローだった。
ユーリ「だといいんだかな。ま、気にしてもしたかねぇ。オレたちも行こうぜ」
みんなにそう呼びかける。
レナ(あの子なら持ち前の運の良さとかで何とかしそうだよね)
ユーリ達は更に奥へと足を進めた。進めば進むほど、樹や草は異常なまでの成長みせており、樹の根を越えるにはよじ登らないといけない。各々、不思議そうにキョロキョロしている。進んだ先に、エアルが濃く出ている場所についた。
リタ「これ、ヘリオードの街で見たのと同じ現象ね。あの時よりエアルが弱いけど間違いないわ……」と彼女が呟いた。
その時ユーリ達の後ろに大きな魔物が現れた。ラピードが威嚇している。
エステル「あの魔物もダングレストを襲ったのと様子が似てます!」
魔物はユーリ達にめがけて攻撃を仕掛ける。皆一斉に武器を構え、迎撃体制に入った。そこら辺の魔物とは違う強さがユーリ達を翻弄する。ユーリとラピードは斬撃を、カロルは打撃を、リタとレナは魔術を、エステルは補助を、レイヴンは後衛で隙を見て矢を放って、皆連携しつつ何とか倒すことが出来た。
レナ「っはぁ……」
(……手強い、必然的に強い魔術を使わざるおえないかったから体がきつい)
リタ「木も魔物も、絶対、あのエアルのせいだ!」
カロル「ま、また来た!」
先程と同じほど大きい魔物がまた現れる。今度は完全に囲まれてしまった。
レナ(……やっぱこうなるよね。)
少女は肩で息をしていた。
レイヴン「ああ、ここで死んじまうのか。さよなら、世界中の俺のファン」
レイヴンが芝居かかった口調で嘆いた。
ユーリ「世界一の軽薄男、ここに眠るって墓に彫っといてやるからな」
嘆いたレイヴンにユーリが冷たく軽口叩く。
レイヴン「そんなこと言わずに一緒に生き残ろうぜ、とか言えないの……!?」ショックという演技をしている。
そうこうしている間にも、魔物たちはジリジリと迫ってきていた。その時、空の上から白髪の男が降ってきて着地したと同時に男の足元に陣が浮かぶ。エステルは誰……?と呟いた。その傍でレイヴンがデュークと答えるように囁く。
レナ(そっか、ここでも会うんだった。じゃあ、エアルクレーネについても話すよね)
白髪の彼は、手にしていた剣を真っ直ぐに高く掲げる。辺りを眩い光が包みこんだ。瞬間、魔物達の体は細かい光の粒となって散った。立ち去ろうとして行く男を、リタがちょっと待って!と追いかける。立ち止まった彼に、その剣は何っ!?見せて!とリタは迫った。迫られた彼はリタの方へと振り返る。
リタ「今、いったい何をしたの?エアルを斬るっていうか……。ううん、そんなこと無理だけど」
ありえない事たが例えるならそうだとリタは話す。
デューク「知ってどうする?」
彼は無表情にリタに訊ねる。
リタ「そりゃもちろん……いや……それがあれば、
デューク「それはひずみ、当然の現象だ」
リタ「ひず……み……?」
彼女は首をひねり意味を考えている。その傍にエステルが進みでた。
エステル「あ、あの、危ないところをありがとうございました」
デューク「エアルクレーネには近づくな」
突然でてきた単語にエステルは頭にはてなマークを浮かべる。
リタ「エアルクレーネって何?ここのこと?」
デューク「世界に点在するエアルの源泉、それがエアルクレーネ」
リタはエアルの……源泉……と呟いた。デュークの視線は、レナに向いていた。気づいたレナは不思議そうにデュークを見つめ返す。
デューク「……その娘は」
エステル「?……レナがどうかしました?」
デューク「その娘はここの者ではないな。……ふむ、この世界に連れてこられたか」
ガンっと頭を殴られたような衝撃がレナに走る。
レナ(どう……して……?この世界の人じゃないことがわかるの??連れて……来られたって??)
本人にしか知りえないことを言われて、えっ?と小さく声を出し目を見開いて困惑している少女をおいて、カロルがどういうこと?と呟く。
デューク「そのままの意味だ」
レナ「……どう、して……ここの人じゃないってわかるの?連れてこられたって……どいうこと?」
未だ混乱する思考をまわしながら震える声でデュークに問う。傍から聞いていればレナはこの世界の人間じゃないと認めているような会話だ。しかし少女はそれどころではなく気づかない。彼は無言のままで、答える気は無いらしい。それを察した彼女は俯いてしまった。ラピードがレナに寄り添う。ユーリがデュークにあんた、いったい……と問おうとして、ふっと息を吐くと質問の意図を変えた。
ユーリ「こんな場所だ。散歩道ってことでもないよな?」
彼は何も答えない。
ユーリ「ま、おかげで助かったけど。ありがとな」
お礼を聞き入れるとデュークはその場から歩み去っていった。
リタ「まさか、あの力が、リゾマータの公式……?」
リタが考え込んでいる間に、ユーリはそういえばときりだす。
ユーリ「レナ……お前記憶が戻ったのか」
レナ(……まってデュークの発言に戸惑いすぎて記憶喪失設定だったの忘れてた……ここは戻ったことにした方が自然だね)
レナ「……うん」
少女は俯いたまま肯定する。カロルがレナに、未だ理解できないと視線を向けて話す。
カロル「さっきの人、レナがこの世界の人間じゃないって」
レナ「私……は、元々、別の世界に居たの。目覚めたらハルルでユーリ達が助けてくれた。私がいた世界のことは覚えてる。でも、連れてこられたって言われたけど、どうやってここに来たのかは覚えてない。私の世界から、この世界に来る時の記憶が全く……ないの。だから、私はどうしてこの世界に来たのか知りたい」
レナは不安そうな顔をして、言葉につまりながらも今わかることを全て打ち明ける。
エステル「レナ……わたし協力します。それにまたあの人に聞いたら何か分かるかもしれません。別の世界から来たなんて、なんだか素敵です」
ニッコリと元気づけるように微笑むエステルに、レナはエステルと呟いて、ありがとう、そうだね……と笑った。
リタ「……ここだけ調べてもよく分からないわ。他のも見てみないと」
考え込んでいたリタは、顔を上げてユーリ達の方へ振り向いた。
カロル「他のか……。さっきの人、世界中にこういうのがあるって言ってたね」
それにレイヴンが言ってたねぇと便乗する。
リタ「それを探し出して、もっと検証してみないと確かなことは何も分かんない」
エステル「……じゃあ、もうここで調べる事はないんです?」
エステルの質問にリタはこくりと頷いた。
ユーリ「んじゃ、ダングレストに戻ってドンに会おうぜ」
入口へ戻る道中もリタはブツブツと考えていた、その時字面が揺れ魔物の足音や羽音が森に響く。カロルがまた魔物の襲撃?と驚いている。ユーリ達は身をかがめて、魔物たちから姿を隠す。直後、離れた場所ですごい量の魔物たちが横断していた。頭をあげそうになるカロルにユーリが注意する。しばらくして落ち着いたのを確認しユーリ達は立ち上がった。ユーリが魔物が通った所を見ているのに気づいたエステルがその方向に視線を向けると、街で見た顔ぶれがいた。カロルも気づいて、ドン!と嬉しそうに駆け出していく。ユーリ達はその後を追う。ドンは剣を杖の代わりにして膝を着いている。
ドン「……てめぇらが何かしたのか?」
なんの事か分からないユーリは、何かって何だ?と返す。休んで落ち着いたのか、ドンはゆっくりと立ちがる。
ドン「暴れまくってた魔物が突然、おとなしくなって逃げやがった。何ぃやった?」
察したエステルがユーリに話す。
エステル「ユーリ、あれです。エアルの暴走が止まったから……」
カロル「ボクたちが、エアルの暴走を止めたから、魔物もおとなしくなったんです!」ここぞとばかりに少し得意げに話す。
ドン「エアルの暴走?ほぉ……」
どこか含みのある言い方に、リタが何か知ってんの!?と聞く。
ドン「いやな、ベリウスって俺の古い友達がそんな話をしていたことがあってな」
レナ(ここまでゲームのとおりに進んできたけど……。ベリウスの件はエステルの事もある、先のことだけどなんとか2人とも助けたいな)
聞いていたカロルが、ドンが南のベリウスと友達って本当だったんだ……と呟いた。つぶやきを聞いていたリタはベリウスについて聞く。ノードポリカで闘技場の
ドン「で?エアルの暴走がどうしたって?」
カロルはドンの近くにさらに寄る。
カロル「本当大変だったんです!すごくたくさん、強い魔物が次から次へと、でも……!」
嬉しそうに話すその姿にドンは渋い顔をしながら、そういうことは、ひっそり胸に秘めておくもんだ、と言った。カロルはへ?とポカンとした。
ドン「誰かに認めてもらうためにやってんじゃねぇ、街や部下を守るためにやってるんだからな」
ドンに窘められたカロルはごめんなさいと俯いた。エステルはドンの近くにいる部下に傷を癒すために近づく。一言断りを入れて、治癒術を施した。治してもらった部下たちは感謝をエステルに述べる。ふと、ドンの視線が茂みにいった。
ドン「……ん?そこにいるのはレイヴンじゃねぇか。何隠れてんだ!」
バレたレイヴンはチッと舌打ちをして、渋々と姿を現した。
ドン「うちのもんが、他人様のとこで迷惑かけてんじゃあるめぇな?」
レイヴン「迷惑ってなによ?ここの魔物大人しくさせるのにがんばったのよ、主に俺が」
カロル「え!?レイヴンって、
びっくりしたカロルが大声を出す。どうもそうらしいなとユーリは言った。ドンはレイヴンにいきなり剣の柄で小突き出した。
レイヴン「いてっ、じいさん、それ反則……!反則だから……!」
後ろにひいて逃げるレイヴンに、うるせいっ!とドンが一喝した。ユーリがドン・ホワイトホースと呼びながら、前に進みでる。ドンは何だ?と返した。
ユーリ「会ったばっかで失礼だけど、あんたに折り入って話がある」
ドン「若ぇの、名前は?」
ユーリ「ユーリだ。ユーリ・ローウェル」
ドン「ユーリか、おまえがこいつらの頭って訳だな?」
何かを察したレイヴンが、ジトっとした目でドンを見る。
レイヴン「あのー、ちょっとじいさん、もしもし?」
ドン「最近、どうにも活きのいい若造が少なくてたいくつしてたところだ。話なら聞いてやる。が、代わりにちょいとばかり面貸せや」
レイヴン「あちゃー、こんな時にじいさんの悪い癖が……」とため息をつく。
リタはなにそれ?とレイヴンに聞いた。
レイヴン「骨のありそうなの見つけるとつい試してみたくなんのよ」
ドンに少し呆れつつもリタにそう説明する。
カロル「た、試すってなにを!?」
レイヴン「腕っ節を、よ!」
ドン「そういうことだ。ちょいと年寄りの道楽に付き合え」
レイヴン「いやいやいやいやいや、俺様はやらないわよ」
勘弁と言うかのように両手を前に出して、ストップのジェスチャーをしながら顔を横に振ったこと思えばどこかへ逃げていった。リタがあ、こら、逃げた!と怒る。
ユーリ「いいぜ、ギルドの頂点に立つ男とやりあうなんざ、そうある機会じゃないだろうしな」
とノリ気で剣を構える。
ドン「はっは、それでこそだ。こい!」
ドンも剣を構えた。
圧倒的な力にユーリは後ろにひく。まだまだと声をあげれば、ドンはここまでだとストップをかける。
ドン「これ以上は本気の戦いなっちまうからな。久々に楽しかったぜ。それじゃ話を聞こうか?」
満足気に話し、ユーリの話を聞いてもらえるとなった時部下が割り込んできた。どうやら急用が入りダングレストに戻らないといけないらしい。あとで、ユニオンに訪ねてくれと残してドンはダングレストに戻って行った。ドンが去った後、ユーリは結構本気だったんだがな。ギルド、か……と呟いた。ユーリの傍に来たカロルは作るん、でしょ?と言った。そんときが来たらなと青年は少年に返した。先程逃げていったレイヴンが戻って来た。
レイヴン「で、どうよ?やっと俺様の偉大さが伝わったかね?」
レナ「あら、偉大なのは烏さんじゃないんじゃない?」
いつの間にかユーリの傍に来ていたレナが、おっさんに向かって鋭いツッコミをいれる。
レイヴン「なによ、すぐケチつけるんだから」
ユーリ「さ、ダングレストに戻ってドンに会ったらバルボス探しの続きだ」
エステル「リタ、ユーリの用事が終わったら、私たちはアレクセイに報告へ」
エステルはリタにそう伝えたが、返事がなかった。不思議に思った彼女はリタの方を見ると考え込んでいる様子で、もう一度リタ?と声をかける。
リタ「……あ、何?」
少し遅れて彼女は返事をした。エステルは先程の内容をもう一度話始めるが、リタはまた思考の海に潜ってしまっているようでエステルはリタに近づくと、どうしたんですか?と言った。
リタ「な、なんでもない。ほら、戻るわよ」
明らかに様子がおかしいリタを不思議に思いながらもエステルはユーリ達と共にダングレストへと戻る。
ーギルドの巣窟 ダングレスト ユニオン本部
ダングレストに戻ったユーリ達はそのままユニオンへ向かった。門番に話を通し、ドンの元へ行く。ドンの部屋につくと、先客がいた。レイヴンはそそくさとドンの横に立つ。
ドン「よぉ、てめぇら、帰ってきたか」
その声を聞いて、先客のフレンは振り返る。ユーリと少し驚くように呟いた。
ドン「なんだ、てめぇら、知り合いか?」
フレン「はい、古い友人で……」と説明する。
奥の椅子に座っているドンは、ほうと相槌をうった。
フレン「ドンもユーリと面識があったのですね」
ドン「魔物の襲撃騒ぎの件でな。で?用件はなんだ?」
ユーリ「オレらは
フレン「なるほど、やはりそっちもバルボス絡みか」
ユーリ「……ってことは、おまえも?」
まさか、そこで繋がるとは思わなかったようでユーリは目を見開いた。フレンは頷くと、ドンの前に進みでる。
フレン「ユニオンと
ドン「……なるほど、バルボスか。確かに最近のやつの行動は少しばかり目に余るな。ギルドとして、けじめはつけにゃあならねぇ」
フレン「あなたの抑止力のおかげで、昨今、帝国とギルドの武力闘争はおさまっています。ですが、バルボスを野放しにすれば、両者の関係に再び亀裂が生じるかもしれません」
ドン「そいつは面白くねぇな」
フレン「バルボスは、今止めるべきです」
ドン「協力ってからには俺らと帝国の立場は対等だよな?」
フレンは、はいと返事する。
ドン「ふんっ、そういうことなら帝国との共同戦線もわるいもんじゃあねぇ」
フレンは、では……と続けると、ドンは二つ返事で承諾した。そして、部下にベリウスへ連絡を頼んだ。部下は分かりましたと頷いて直ぐに飛び出していった。カロルはなんか大事になってきたね……とリタに囁くと、リタはそうねというジェスチャーをした。レナはフレンが今から渡す書状に記されている文を知ってるが故に、ドンとフレンから目線をずらす。レナの視線がずれたのにレイヴンは気づくが見てないふりをした。
フレン「こちらにヨーデル陛下より書状を預かって参りました」
フレンは、ドンの前にひざまずくと一通の封書を差し出した。ドンは受け取ると、レイヴンに渡した。レイヴンは渡されたそれを読み上げる。
レイヴン「ドン・ホワイトホースの首を差し出せば、バルボスの件に関しユニオンの責任は不問とす」
フレンは、何ですって……!?と青い顔をする。ドンは、盛大に笑う。レイヴンはフレンに手紙を返す。受け取ったフレンの手は信じられないと震えていた。
ドン「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」
真顔に戻ったドンはフレンを見据えていた。
フレン「これは何かの間違いです!ヨーデル殿下がそのようなことを」
必死に弁解するが、ドンは聞く耳を持たなかった。
ドン「おい、お客人を特別室にご案内しろ!」
腕を振り上げると、屈強な部下がフレンの左右にたった。
フレン「ドン・ホワイトホース、聞いてください!これは何者かの罠です!」
ドンは連れていくように顎で指示すると、部下達はフレンを連れて行った。エステルはフレン……!と叫び駆け寄ろうとするが、ユーリに止められる。思わずエステルはどうして?とユーリを見る、ユーリは早まるなってと咎めた。
ユーリ「下手に動けば、余計にフレンを危険にさらすことになるぜ」
そう言われてしまえばエステルは黙って俯くしか無かった。
ドン「帝国との全面戦争だ!総力を挙げて、帝国に攻めのぼる!客人は見せしめに、奴らの目の前で八つ裂きだ!二度となめた口きかせるな!!」
気勢を上げる。ユーリの用事のことなど忘れてしまっているようで、ユニオンの本部からレイヴン、その他の部下を連れて出ていった。
カロル「た、大変なことになっちゃった!」
リタ「おかげであたしらの用件、忘れられちゃったわよ」
ユーリ「ドンも話どころじゃねぇな」
エステル「わたし、帝国に戻って、本当のことを確かめます!」とじっとしていられないと意気込む。
レナ「さっきもユーリに早まるなって言われたでしょう?ちょっと、様子を見た方がいいと思う」
それまでずっと黙っていたレナが、ユーリとエステルに視線を合わせて言った。エステルは、そうですね分かりましたと引き下がった。ここにいても仕方ないと、ユーリ達はユニオンから出てダングレストの中央付近まで歩く。ふと、ユーリがあれ?おかしいなと呟いた。ユーリの前を歩き、呟きを聞いたカロルがどうしたの?ユーリと振り向く。どうやらユーリは財布を落としてきてしまったらしい、カロルはこんな時になにやってんの!とプリプリと怒る。
レナ(フレンの所に行くんだね。私が着いて行っても何も出来ないだろうし、今回はエステルたちといよう)
ユーリ「ドンのとこで落としたかな?ちょっと探してくる。そのあたりで待っててくれ」
カロル「う、うん。早く探してきてよ!」
カロル、リタ、エステル、ラピード、レナはユーリと別れて歩き出した。
4人と1匹は、ユーリと別れたあとダングレストを歩き回っていた。ふとリタがなにかに気づく。続いてエステルが
3人は、ユーリと別れた所に戻りユーリの姿を探す。ちょうど帰ってきたようで合流することが出来た。