海馬の姉は転生者 作:バージェストマン
星条旗を模したバンダナを頭に巻き、サングラスで目元を隠した男は如何にも不承不承といった風にチラシを配り歩いていた。
ソレは世界有数の巨大コングロマリット、海馬コーポレーションがその進退すら賭けて展開する超大型アミューズメント施設『海馬ランド』の開園記念イベントの告知チラシである。
本来であれば大々的にテレビCMを流し、飛行船でも絶え間なく告知をし続け…あまつさえ各種新聞や週刊誌達が挙って取り上げるこの一大イベントに態々手配りのビラなど必要ないのだが……
男は面倒臭いという態度を隠しもせずに…さりとてビラ配りをやめること自体はせずに道行く人々に渡し続けていた。
そして、ようやく…その時が来た。
「おっ、なんかやってるぜ!
見に行こうぜ遊戯、本田!!」
「城之内、お前ホント学校終われば元気だよな」
「あはは…でも、本当に凄い人集りだね」
金髪の少年に角刈りの少年、そして星型とでも言えばいいのか…冗談のような髪型の少年達三人組が通りがかる。
バンダナの男は少年達を見つけると素早い手捌きで持っていたチラシを懐に隠していた別のチラシに持ち替える。
「おいそこのガキ共、ちょいと待ちな!
なぁに、悪いようにゃしねぇさ…コイツぁ海馬ランド開園記念イベントの告知チラシなんだが、面白い事に『アタリ』付きでな
なんとアタリを引いたラッキーな野郎はどんなセレブだろうと参加すら出来ねぇ特別イベントにご招待っつー寸法よ!」
男はそう言うと手に持つチラシを少年達に押し付けるように無理矢理持たせる。
「運が良いぜガキ共!なにせ今日のチラシはそれで終いだからな…もしかするともしかするかもしれねぇぜ?」
男はそう捲し立てると足早に去って行く。
まるで、少年達にソレを渡す事が目的だったとでも言うように。
「な、なんだったんだ……?」
「アタリ付きねぇ…宝くじみてーなモンか?」
「いや、二人共…そんなレベルじゃないよ」
呆然と立ち尽くす二人に、ヒトデ頭の少年が目を輝かせながら言う。
「あの海馬コーポレーションの特別イベントなんて…当たってれば宝くじの一等なんかよりスゴイぜ!
僕、ワクワクしてきた…!!」
「お、おう…そうか……」
少年の気迫に押され気味で生返事を返す。
しかし、その隣では…
「宝くじの一等より…!?
じゃ、じゃあなにか?そこらでタダで配ってるビラが何百万にもなるってのかよ…っ!!」
家庭の事情で金銭に意地汚い金髪の少年が目をドルマークにしながら興奮気味に鼻息を荒げていた。
『フフッ、当たってると良いな…相棒』
「うん!当たったら皆で行こうぜ!!」
「グッ…当たってりゃあ何百万……でも、遊戯は皆でって……
オレは、オレは……」
「あのなぁ…当たる前からなに言ってんだ
そういうのを取らぬ狸のナントカってんだよ」
少年達はギャアギャアと騒ぎながら帰路に着く。
それが、誰かの手のひらの上だとも知らずに。
「ハァー…ったく、このオレにこんな雑用させやがって」
男はバキバキと首を鳴らしながら巨大なビルのエントランスを抜けてエレベーターホールへ歩を進める。
「おやぁ?もう件の少年へ招待状を渡してきたのですか、キース」
エレベーターのボタンを押し、到着を待っている男の背に声が掛かる。
その間延びした独特な口調と声に男は嫌そうな顔をしながらゆっくりと振り向く。
「チッ…そういうテメェこそ瀬人の小僧を捕まえられたんだろうな?」
男…キース・ハワードは如何にもといった風体の仮面の男にそう問い返す。
「勿論問題ありませんとも!
既に瀬人様とモクバ様の予定は抜かり無く抑えてあります
我らが社長の命とあればこのパンドラ、粉骨砕身の心持ちで臨むに些少の躊躇いもありません!!」
「へーへー…ご立派なこって」
キースはパンドラの声に眉をひそめながら耳に手を当てて聞き流す。
そうこう言っている間にエレベーターも着いた事だと乗り込む。
「……なんでテメェも一緒に乗るんだよ」
「社長へ報告に上がるのでしょう?
ならば同じく社長の元へ向かう私が同行するのは当然でしょう」
キースの眉間に更に皺が寄るも、パンドラは気付きもせずに喋り続ける。
ビルの最上階まで約1分程…キースは右から左へ聞き流しながら、疲れ切ったようにエレベーターの階層表示を見つめていた。
「ボス、例のガキへの招待状はしっかり渡してきましたぜ」
「社長、各種アトラクションの建設及び人員の確保も滞りなく進んでおります」
巨大な海馬コーポレーションの本社ビル、その最上階は巨大な一つの部屋となっている。
その部屋は、今尚飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続ける海馬コーポレーション、その成功の立役者と巷で噂される一人の女性の為だけの部屋である。
「ご苦労、大田と大瀧からも同じ報告が上がっています
今回のイベントも問題無く進みそうで何より」
広いデスクに山積みの資料を手早く片付けながら話す一人の女性。
彼女こそが海馬コーポレーションの社長にして数多の経営者や
「しかしよぉ…ボス、あんなガキ共に一体何の用があるんで?」
赤を基調としたゴシックロリータ然とした衣装に緩いウェーブを描く金髪。
一見すれば十代の半ば頃にすら見える矮躯…それが海馬オルコットである。
先代の海馬剛三郎から僅か14歳で全事業を引き継ぎ、そこから十年間…戦争特需による成長である程度の土台があったとはいえたったの十年間で海馬重機工業を世界有数の大企業へ成長させた。
海馬オルコット、彼女の名を知る者達は皆口を揃えてこう評する───怪物、と
「……実を言うとあの少年達本人には用がありません」
「本人
「まさか…ただ、彼のお祖父様……
かつて闇のゲームと関わりながらも、五体満足に老後を過ごしておられる
キース、貴方ならこの【異常性】が理解できるでしょう?」
書類を一通り片付け、キースとパンドラに目を向ける。
キースは彼女の言葉にサングラスの奥の目を鋭く引き絞る。
「闇のゲームの経験者…っ!
おいおいボス、なんだってそんなのに喧嘩吹っ掛ける?」
「武藤双六氏がかの超レアカード、
軽くそう言いながらデスクの引き出しから特殊素材で創られたネックレス型のカードスリーブを取り出す。
「既に3枚は瀬人クンにあげましたが…折角ですし全てをプレゼントしたいと想うのが姉心というものでしょう?」
世界に4枚しか存在しない究極のレアカード、青眼の白龍。
その内の3枚は既に、海馬コーポレーションの副総帥
子供でも知るような事実…だが、その青眼の白龍を誰がどうやって蒐めたのかは────
この場にいる、3人以外は。
「そりゃあ弟想いで結構…」
キースががっくりと肩を落としながら項垂れる。
彼女が一度そうと決めれば梃子でも動かないと知っているからだ。
「成る程!瀬人様とモクバ様の予定を抑えよとの命もこの為だったのですね!!」
パンドラが意を得たりと大仰に天を仰ぐ。
「ええ、ですが…一つだけ問題があります」
「問題ぃ?」
「社長!是非このパンドラにお任せ下さい!!」
訝しげに眉をひそめるキースと内容すら聞かずに胸を張るパンドラ。
「
「瀬人の小僧が負けただぁ!?おいおいボス…冗談にしても笑えねぇぜ」
海馬瀬人、眼の前の上司の義弟にあたるその人物の実力などもはや論ずるに値しない。
遊戯王史上最強との呼び声高い青眼の白龍を
その実力は
「冗談…それならばどれ程良いでしょうね」
腰に着けたデッキホルダーから自身のデッキを取り出すとその中からとある
「キース、パンドラ」
こちらを見つめるその目に、パンドラは今から下されるであろう新たな命令に心を踊らせ
キースはまた彼女の
「私は彼が…武藤遊戯クンが、欲しくなってしまいました」
それは──美しい赤いドレスが、不気味な血の色に見えるような
そんな、得体の知れない微笑みだった。
その少女は、昔から【欲しがり】だった。
あの服が欲しい
あの人形が欲しい
あのカードが欲しい
その少女の父親は、笑顔で少女に全てを与えた。
しかし、少女の欲しがりは───とどまるところを知らなかった。
あの街が欲しい
あの地位が欲しい
あの人の心が欲しい
そして、少女は遂に父親に笑顔で言った。
貴方の全てが欲しい
海馬コーポレーションの先代社長、海馬剛三郎が病死した事は世間一般に広く知られている。
しかし、彼女が全てを欲しがった…その日に【病死】した事は───彼女の義理の弟である海馬瀬人以外、誰も知らない。