万華鏡と魔法少女   作:パトラッシュS

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日常と忍

 

 

 

 とある日の午後、

 

 一人の仏頂面の青年がある商店街の市場にて買い物をしていた

 

 そんな、彼の傍らには笑みを溢す金髪の少女の姿がある

 

 

「……イタチさん! 今日は何にします?」

「……そうだな……」

 

 

 フェイトの質問に顎に手を添えて考えるイタチ

 

 自分がこの少女から助けてもらい、彼女の家に滞在してから一ヶ月が経とうとしていた。

 

 

 信じがたい話ではあるが、どうやら自分は何かの拍子で忍五大国が存在しない、違う世界へと飛ばされたということが判明した

 

 ……最近、ようやくこの世界に馴染めてきたところだ……

 

 やはり、自分が以前いた世界とはまるで別のものだと把握した時は驚きが隠せなかった

 

 文化も国の在り方も全てが根本から違っている

 

 この国の科学も最先端をゆき、空を飛ぶ鉄の塊がある事にも携帯電話というものにも驚いた

 

 そして、何よりもこの自分が居る国の在り方も……

 

 巨大な国によりパワーバランスをとっているこの世界では、よほどの事が無い限り戦争が起こらないという。

 

 

 その規模も様式も俺がいた里同士の様な戦争とは違っている

 

 

 何処にいても人が居れば争いがなくならない事を痛感した。

 

 しかしながら、自分がいた忍の世界よりかは平和である事は間違い無い

 

 ここ最近になって、この町に住んでいる人々の光景を目の当たりにした自分は昔を思い返す様になっていた

 

 自分が護りたかった理想とした平和の形、人々が笑顔を振りまいて、争いのない穏やかな毎日を家族や友人と過ごす。

 

 だが、同時にそんな光景を目の当たりにした自分に対して戸惑いがあった

 

 

(……まぁ、今更だがな……)

 

 

 大勢の人間を手に掛け、真っ赤に染まった自分自身の穢れた両掌

 

 任務であるがゆえに、そして戦争で自身が生き残るために大勢の人の屍の山を積んだその中には女性もそして幼い子供もいた

 

 許されることのない残虐な行為とそれにより引き起こされた犠牲

 

 いまさら後悔したところで致し方無い事であり、こればかりはどうする事も出来ない一生消えない罪である、

 

 

 イタチは自身がこれまで平和の為にとやってきた事とこの平和な世界を見比べながら自嘲するかの様な笑みを溢して、目の前で首を傾げている少女の質問に関してゆっくりと口を開き応える

 

 

「……そうだな、今日は久々に焼き魚が食べたいかな……、秋刀魚を買って帰ろうか?」

「……秋刀魚……ですか? イタチさんは和食が好きなんですね」

 

 

 そう言ったイタチの夕飯の要望に対して クスリ、とフェイトは口元に手を添えて微笑む、意外と生真面目な彼の一面が知ることができて思わず笑みが零れてしまった

 

 

「……まぁな、フェイトが言う様に俺は洋食よりもどちらかと言えば和食が好ましい、バランス良く食事が摂れやすいからな……」

 

 

 そう言って、魚屋の前で立ち止まるイタチは後ろからついて来るフェイトへと振り返り質問を投げ掛ける

 

 

「……フェイト、アルフは今日は帰って来るのか?」

「……はい、一応、晩には帰って来るって確か今日の朝に言ってましたよ?」

 

 

 

 晩に帰る……か、

 

 

 イタチは妙にその言葉が頭の中に引っかかるが、とりあえずアルフについて答えてくれたフェイトに向き直り、アルフの夕飯について述べる

 

 

「……そうだな、彼女? がいつ帰って来るかは分からないなら、作り置きにしとけば問題ないだろう」

「……すいません、アルフったら、最近、ひょっこり居なったりする事が何故か頻繁で……」

 

 

 そう言って申し訳なさそうにイタチに謝るフェイト

 

 

 しかし、イタチは左右に首を振り、申し訳なさそうに謝る彼女へと告げる

 

 

「……別に謝る必要などないだろう? 仮にも俺も未だに居候の身だ、申し訳ないのはむしろ俺だ……感謝してるフェイト……」

「……イタチさん……」

「かぁー、流石はあんちゃん、相変わらずかっこいいねぇ」

 

 

 そう言って、イタチとフェイトとのやり取りにへと介入してくる秋刀魚を抱えた魚屋の主人

 

 

 あの出来事から、フェイトがイタチと住み始めてから毎回、買い物の度にこの商店街にある魚屋に立ち寄っている為かイタチはすっかり顔馴染みとなってしまっているらしい……

 

 

 それもそうだ、まぁ、イタチの容姿は他から見ても端麗であり、その傍らにはいつもひょっこりとついて来る西洋人形の様に可愛らしい少女が居るのだ

 

 

 商店街の話好きな方々からすれば、話題に取り上げられない方がむしろ、おかしいと言ってもいいだろう

 

 

 だが、毎回毎回こうも様にいきなり話に割り込んでもらわれるのはあまり好ましくは無い、勘弁して欲しいものだ……とイタチは心の底でため息を吐く

 

 

 しかしながら、差し出された秋刀魚とそれを嬉しそうに抱えた魚屋の主人を前にしたら、彼もどうやらそう言った事を口に出す事なんて出来ない様だ……

 

 

 秋刀魚を袋へと詰めて差し出す満面の笑みを溢す魚屋の主人にイタチは諦めた様に微笑み口を開く

 

 

「……柴さん、相変わらず元気の様ですね」

「まぁなぁ! 相変わらず嫁の尻には敷かれてたまんまだが……」

「聞こえてるよ‼ アンタ‼」

 

 

 やばいやばい、と店の奥にいる自分の嫁に叱咤されて参ったと言わんばかりの反応をする魚屋の主人

 

 

 イタチとフェイトはそんな魚屋の反応にクスクスと笑っていた

 

 

 そんな、自分の嫁に叱咤された魚屋の主人は2人の方へと振り返ると手に持っていた秋刀魚の袋を手渡し、次は店の奥にいる彼女へと聞こえない程の小さな音量で囁く様にイタチ達へと話出す

 

 

「……あー、おっかねぇおっかねぇ……、フェイトちゃんはあんな凶暴な女にならない様にな……、

 ……ま、そんなかっこいいお兄ちゃんがいれば心配いらねぇと思うけどよ」

 

 

 そう言って先程、秋刀魚を詰めていた袋を差し出しながら、奥の方にいる彼女に聞こえない程の小さな音量で囁く様に話す魚屋の主人

 

 

「……買い被り過ぎですよ柴さん」

 

 

 少しだけ、間を置いて、自嘲気味に笑みを溢し、イタチは魚屋の主人が差し出してきた袋を受け取る

 

 この時、袋を受け取る彼の横顔がフェイトには少しだけ寂しそうに見えた。

 

 まるで、何かを懐かしむ様なそんな表情だ。

 

 魚屋の主人はそんなイタチの言葉を聞いていつも通りの声に戻り、腰に手を当てて嬉しそうに話を続ける

 

 

「いやぁ~、やっぱり良い男は言う事が違うねぇ~、 しょうがねぇから今日の所は安くしておいてやるよ‼」

「……いつもいつもありがとうございます」

 

 

 そう言ってイタチは柴さんと呼んだ魚屋の主人に感謝を込めて頭を下げる

 

 その後、会計を済ませて魚屋を後にする2人

 

 その帰路で、ふとフェイトは魚屋の主人に言われた一言が妙に気になっていた。

 

 

(……私とイタチさんが兄弟……)

 

 

 魚屋で購入した秋刀魚が入った袋を手渡されたイタチの方へとフェイトは視線をやる

 

 確かにイタチさんをどことなく物腰が落ち着いた雰囲気があって、とても優しいと思う

 

 本当にとても頼り甲斐があって、しっかり者のお兄ちゃんの様だ。

 

 私には兄妹は居ないから、もしイタチさんが兄さんならってつい想像してしまう、だけど……何故だろうか良くわからないが兄弟の事に関する話になると彼は決まっていつもどことなく悲しい表情を浮かべる。

 

 それは、確かイタチさんが、家に居候し始めて間もない頃だった。

 

 アルフがそんな感じの質問をしたのを覚えてる。

 

 イタチさんは結局何も話してはくれなかったけれど、その時の顔だけは今でも頭から離れなかった。

 

 一ヶ月も一緒の家に住んで居るのに、私はイタチさんの事を何も知らない、本当にこのままで良いのかと未だに自問自答している。

 

 今は彼の事を何も分からない事だけど、いつかは。

 

 

「……フェイト? どうした?」

 

 

 ふと、頭の中で先程の魚屋の主人から言われた事を深々と考えていたフェイトの顔色を伺う様にイタチが声を掛ける。

 

 

「……ふ、ふぇ‼、あ、はい! …… なんですかイタチさん?」

「……いや、先程から呼んでも反応がなかったものでな……、具合でも悪いのか?」

 

 

 心配そうに自分の呼び声に反応して、慌ててアタフタしているフェイトにへと訪ねるイタチ。

 

 だが、そんなイタチに対してフェイトは慌てて左右に首を振る。

 

 

「い、いやなんでも無いですよ」

「……? ならば良いが、気分が良く無いなら遠慮なく頼ってくれていい……、それぐらいしか出来ないがな」

 

 

 イタチはそう言って隣で歩いているフェイトに袋を持っていない左手で優しく撫でて微笑み掛ける。

 

 

(……そんな顔されたら直視出来ないよぉ)

 

 

 イタチに優しく頭を撫でて貰うフェイトは恥ずかしそうに顔真っ赤にし、彼から視点を外す様に俯く。

 

 そんな、フェイトにイタチは首を傾げ、何か思いついた様に真っ赤になって俯いている彼女の前へとしゃがみ、自身の背中を見せる

 

 

「……な、何をやってるんですかイタチさん!?」

 

 

 突然しゃがみ込んで背中を見せるイタチに驚いた様な声を上げるフェイト。

 

 すると、イタチは頬を緩ませて彼女へと話し出す。

 

 

「……疲れてるんだろう? あまり無理をしない方がいい……君に倒れられたら俺も困る」

 

 

 柔らかく微笑み声を上げる彼女に言い聞かす様に話すイタチ。

 

 そんなイタチの心遣いにフェイトは思わず口を閉じる。

 

 そして、フェイトは目の前で袋を持ったまましゃがみ込んでいるイタチの背中をジッと見つめる。

 

 

(……大っきい……背中……)

 

 

 まるで、何もかもを包み込む様な……

 

 小さなフェイトにはイタチの背中がそんな風に壮大に見えた

 

 暫くの間、そんな彼の背中を見つめるフェイト

 

 そして、彼女はゆっくりと腰を降ろしたイタチの背中の側に寄り、自身の身体を広い彼の背中にへと委ねた。

 

 それを確認したイタチはゆっくりと立ち上がり再び先程まで歩いていた帰路へと足を戻す。

 

 

(……やはり軽いな)

 

 

 一人の少女を背負い込んだイタチは身体を自分の背中にへと預けるフェイトを横眼にそう感じた

 

 彼女は果たして今までどの様な食生活を送ってきたんだろうか、と

 

 フェイトと共に暮らし始めたばかりの話しだが、彼女の家にある台所に置いてあったのはビタミン剤やインスタント食品ばっかりだった

 

 その事について、口を頑なに閉ざしたフェイトに一時間程説得して問いただした所、

 

 彼女の母親からそんな物しか食べてはいけないと指示されていたと言う事が判明した。

 

 アルフはそんな彼女に無理をしてでもちゃんとした食事を用意させようと何度もしたらしいが、母親に言われた事だからと言う事で頑固なまでにその食生活を変えようとはせずに突き通していたらしい。

 

 なんとも、こんな小さな少女に酷い事をと話を聞いた俺も思わず口に出してそう呟いてしまった。

 

 だが、今はこうして彼女の側に自分がいる。

 

 彼女の食生活も俺が共に生活し始めてからアルフと一緒に協力し説得する事で変える事に成功した。

 

 まだ先がある彼女には健康な身体でいて欲しい

 

 イタチは背中に感じるフェイトの身体を心配しつつもそういった想いを心に閉まったまま帰路を一歩づつ歩いてゆく

 

 そんな、イタチの背に身を委ねているフェイト

 

 彼女は歩く度に上下に揺れる彼の背中にへと自身の頬をピタリと密着させる

 

 

(……あったかい……)

 

 

 イタチの背中から伝わる体温がすごく彼女の頬に伝わる

 

 その暖かさは何故か自分の心を包み込む様な安心感を与えてくれる

 

 暫くの間、フェイトはその安心感を与えてくれるイタチの背に身を任せる

 

 すると、そうしている内に段々と彼女瞼が重くなり、遂には、彼女は眼をすっかりと閉じて揺れ動くイタチの背の中でぐっすりと眠ってしまった。

 

 そんな彼女を様子を背負いながら見ていたイタチはふと、頬を緩ませる。

 

 そんな2人をまるで、包み込む様に照らす真っ赤に染まった夕陽。

 

 照らされた夕陽によって写し出される重なって伸びる影

 

 そんな2人の後ろ姿は本当に兄妹に見える

 

 血で血を洗う忍の世界の中で生きてきた一人の優しい男の安らぎのある時間

 

 

 彼等のゆったりとした平和な一日はこうして終わりを告げた。

 

 

 

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