万華鏡と魔法少女   作:パトラッシュS

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見舞いと忍

 

夕暮れ時、病室

ベッドに横になっている八神はやてはそこから紅色に染まる雲空を黙って眺めていた

その側には果物包丁で食べやすい様に林檎を剥いているシャマルの姿

そして、ベッドから窓の外を眺めている彼女を病室の扉の前で腕を組んで壁に身を任せているシグナムと椅子に座るヴィータがいた

ザフィーラは狼の姿の状態ではやてのベッドの横で丸くなり眼を瞑っている

静寂した空気が流れる病室

そんな中、彼女達は容体が良くなったにも関わらず何処か元気のないはやての姿に悩まされていた

その、彼女の元気のない原因は勿論分かっている

義理の兄、うちはイタチがこの病室にまだ一度も足を運んで来てくれて無いからだ

はやての倒れたあの日から未だに容体が回復した彼女に姿を見せないイタチ

シグナム達もこればかりははやての力に成れずに困っていた

「…一体、なにしてんだよ兄貴の奴…」

「…………」

退屈そうに椅子に座ったまま、不満の声を溢しているヴィータに対して壁に寄りかかるシグナムは何も答えない

それはあの日、イタチの見せた事の無い表情を見て何かしらの理由があるからではないのかと心の中でシグナム自身が分かっていたからだろう

だから敢えて言葉には出さない、そんな事は無駄だと分かっているからだ

それに、洞察力が鋭い彼なら、はやての病室にくれば自分達が犯した後ろめたいモノがバレる可能性がある

そうそれは、はやての為の一般人を巻き込んだ彼等の持つリンカーコアの収集

何日か、はやての前から彼女達もまた姿を消して彼女の負担を削るべく動いていたのだ

シグナムやヴィータ等ははやてがそれを望んでいないとわかっていながらも致し方なく、そのような強引なやり方でしか彼女たちもまたはやてを救う方法を見い出せなかった

はやてがこうなってしまったのは自分たちのせいだと言うのだから、尚更、自身たちの手で不始末をどうにかして着けようと行動が先走ったのだろう……

自分達が行うこの行動は決して正しくはない物だとはわかっているが、最早、後には引くに引けない状況に彼女達が陥り始めているのは明確になりつつあった

だが、この強引にシグナム達の行った行動によって良い兆候もあった事もまた事実

そのお蔭と言えばあまり聞こえは良くないが、はやてを蝕んでいたリンカーコアの負担を一般人から回収したそれにより減らした事で、先日からようやく彼女の顔色も良くなり、身体の健康状態が回復したのだ

そんな彼女と、はやてが倒れたあの日から彼女の異変に気付けなかった自分を責めて続けていたイタチを早く会わしてやりたい、それがその場にいた騎士たち全員の総意である

だが、現実はそうも上手くはいかない、あの日以来イタチの足取りも掴めず、一度も自分たちの前に彼は姿を見せていないために手の打ちようがないのが現状

ただ、自分達にはどうする事もできない歯痒さと、何もできずに病室にいるはやてを傍らで見守る時間だけが刻々と過ぎてゆくだけ

はやてのいる病室はヴィータとシグナムのやりとりを経て、またリンゴの皮が剥かれる音だけの全員が沈黙する空間にへと還る

……と病室が静まり還っていたそんな時であった

ふと、はやてと騎士達が居る病室の扉がゆっくりと音を立てて開かれる

「なんだ、随分と静かじゃないか」

病室に足を踏み入れてきた人物の第一声がそれだった、彼女達は当然ながら声のした方へ顔を向け、その姿を肉眼で確認する

見覚えのある黒髪に綺麗に整った顔立ちの男性、彼は片手に美しい彩りのある花と果物の入った籠を持っていつも通りの優しい笑顔を浮かべていた

はやてはようやく自分の前に姿を見せてくれたその男性の名前を問いかける様に声に発する

「イタ…兄…?」

「そうだ……すまなかったな見舞いに来るのが随分と遅くなって」

イタチはそう告げるとはやてのベットの近くに近寄り、彼女の傍らにある机の上に果物が入った籠とシャマルに後で花瓶に加える様に託けして、彩りのある花束を手渡した

そうして、見舞いの品を置き終えたイタチは改めてベットにいるはやてにへとゆっくりと向き直る、だが、不思議な事に彼女は何故かその目を自分には向けようとはしてくれなかった

どうしたのだろう?久々に顔を見せたものだから照れて顔を合わせられないのだろうか?

難しい年頃にはちょっとばかり早い気はするが、どうやら今日、病室に訪れて見た限り顔色もよさそうだし状態は自分が必死になって運び込んだ時よりも良さげだ

まあ、大方、恐らく闇の書に関連性のあるこの守護騎士、シグナム達がなにかしらの事を起こした結果として成ったものなのだろうが、まあそれは、後々グレアムか闇の書について探っているクロノに連絡を取れば分かる事だ

今は推測でしかないが、そもそもあれだけ苦しんでいた筈のはやての状態が回復することを疑うのは忍として生きてきたイタチの性なのだろう

とりあえず、闇の書についてのことは保留として

イタチは再び目の前に居る、未だに思いつかないパジャマを着た少女との話題について思考を凝らし考え始める

……さて、何から話せば良いだろうか

彼女と向き合ったイタチは静かにベットに横になっている彼女との話題を必死に思案していた

折角、見舞いに現れたイタチもはやてに何を話せばよいか思い浮かばず言葉に詰まってしまっているようで未だに何も言い出せずにいる、元々不器用である為か、この手の話題作り等は自分で言うのもなんだが、どうも苦手らしい

長らく姿を見ていなかったせいか何だか性にもなく緊張しているらしい、我ながら情けない

二人はこうして互いに向い合ったまま言葉を言い出せず静かに沈黙する、はやてと話す為に来たのがこれでは本末転倒である

そんな雰囲気を互いに出し合っていることを感じたのか、ちょうど良いタイミングで彼がはやての見舞いに来ることを望んでいたヴィータは嬉しそうにようやく姿をイタチにへと駆け寄ると彼の背中にへと飛びつきイタチの首に手を回して笑っていた

「兄貴!来るのがおせえっての!そんでもってなんで二人して気まずそうにしてんだよ普通喜ぶとこだろ?折角、見舞いに来てくれたのにさ、な、はやて」

「…そうだ、まったく心配させてこの馬鹿」

後ろから飛びついてきたヴィータに続くように言葉を紡ぎ、腕を組んだままため息を吐いてそうイタチに告げるシグナム

彼はそんな久々の穏やかなやりとりに思わず頬が綻び、笑みを溢した

……いろいろ、はやてについて思い詰め過ぎイタチは忘れていた、そう自分もまた彼女達にとって欠けてはいけない家族の一員であるということを

自分が彼女たちを守りたいと望むように彼女達また自分を必要とし、そして大切な者として傍らに常に共に居たいと願う存在

はやてという存在を取り巻き彩る、色の一つとして自分もまた彼女達の中でそう位置づけさせられているのだろう

イタチは背中に飛びついてきたヴィータの頭を柔らかく一撫ですると、ベットから上体を起こしているはやてに言葉を紡ぎはじめる

「……すまないな、はやて遅くな……」

「…っていって……」

それは、小さく潰れそうな短い言葉だった

言葉を紡ごうとしたイタチの声はベットから上体を起こしている弱弱しく、そして今にも崩れそうな少女の声によって打ち消されてしまったのだ

…誰が予想できただろうか、そんな言葉をいつも変わらないその笑顔で自分達を支えてくれた心優しい者がその口から発した言葉などと…

その時、病室にいる少女以外の者達はその耳を疑った

そうして、少女は改めて強く勢いのある言葉を見舞いに訪れた筈のイタチにへと俯いたまま、彼にその表情を窺わせることなく浴びせかける

「……出て行ってよ!嘘吐き!」

賑やかだった筈の場の空気が途端に凍りついた

シグナムもヴィータもシャマルもその姿を変えていたザフィーラでさえ、イタチが来ることを望んでいた筈のはやてが発したイタチを突き放す言葉、行動に唖然としていた

イタチ自身は浴びせかけられたその少女の叫びに完全に言葉を失う

嘘吐き……と彼女が闇の書に蝕まれているその幼い小さな身体から自分に向けて発せられた言葉がそれだった

その彼女の声は震えていた、自分を見放して傍にいると約束した筈のイタチは今まで、何日も顔を見せずに消息を絶ち、騎士達と違い自分がいる病院に足を運んでくれなかった

彼女は寂しかった、騎士達も時折、姿を消して何処かへと自分に何も告げないまま行ってしまう

まるで、自分が省かれて何か取り残されていく、そんな感覚、言い表す事のできないどうしようもない感情ががこの時の彼女の中を満たしていた

だから、今更になって約束を破って変わらない顔で自分の前に姿を見せたイタチが許せなかった

……ただの我儘や八つ当たりと相違ないはやての感情

イタチはこのとき彼女をまた孤独な環境を追いやってしまったのではないかという、変わらず表情を窺わせない俯いたままの彼女を見て彼はそう悟った

彼は静かにその瞳を閉じると、笑みを浮かべたままやさしくはやてに一言だけこう告げる

「……すまなかった」

短く、はやてに寂しい思いをさせた事に向けて詫びた言葉だった

彼は身体に引っ付いているヴィータの手を自身の身体から剥がすと沈黙したままその踵を返して、病室の扉を開ける

そうして、イタチははやての病室から立ち去ってしまった

「…待て!イタチ!」

声を上げて、立ち去る彼の背中を呼び止めるように後を追って、病室の扉を開けて曲がるシグナム

誰もこんな風な形の体調が良くなったはやてとイタチとの再会を望んではいなかった

ただ、また自分たちを含めて彼女とイタチとまた楽しい時間が過ごせるんじゃないかと思ってそう願った筈だったのに

……バラバラになってゆく、残酷に…

ヴィータはイタチが病室を立ち去ると同時にはやてに向き直る

「……おいはやて!」

彼女は酷い言葉をイタチに投げかけたはやてを怒鳴るつもりでいた、それは彼がどれだけはやての身を案じていたか知っていたからだ

あんな言葉は、自分たちの事もはやての事も一番に考えてくれる人間に向けるようなものじゃないそう言うつもりだった

だけれど、はやてに向き直った彼女がその言葉を発する事はなかった

「……う…グス……ェゥ…」

 

向き直った少女の頬を伝って流れ落ちる幾つもの滴

彼女の小さな身体から絞る様にに声が溢れては透明なそれがポタリ、ポタリと病院のシーツの上に零れ落ちては消えてゆく

本当はイタチが自分の前に来てくれて嬉しかった筈なのに酷い言葉を無意識に発していた自分自身をはやては責めていたのだ

そんな、痛々しい彼女の姿を見てヴィータはそれ以上、責め立てる気は起きなかったのである

こうして、少女がいる病室は彼女の小さな泣き声と沈黙した騎士たちが佇む空間にへと変わる

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はやてから出て行けと促され彼女の病室から出たうちはイタチは静かに病棟の廊下をただ沈黙したまま一人歩いていた

病室を出て一人歩く彼ははやてから自分に向けて発せられた『嘘吐き』という言葉を思い返す

嘘吐き、自分は確かにそうかもしれない、修行を見てくれとせがんだ弟との約束も一緒に買い物に付き合うというフェイトとの約束も結局は守ることは無かった

今更ながらそんなことを言われた所で自分は納得せざる得ない、反論なんて出来ない事実なのだから

そう、少女の傍にいるという約束さえ守れない無力な忍

ふと、そんな他愛のない事を物思いにふけっていると彼の横を小さな少女が通過するのが視界に入ってきた

なんだろう、背丈もはやてとそんなに変わらないような小さな少女だ

はやてについて考え込んでいた筈のイタチはついその自身の横を通り過ぎた少女の姿を気が付けば振り返り確認していた

…今、見覚えのあるような金髪の髪が病棟の廊下の角に消えたような…

いや、まさかそんなことは恐らくないか、多分気のせいだろう

イタチは角に消えた少女の姿を確認し終えると、やがて、はやてが運び込まれた病院から静かに立ち去ってゆく

病院の扉を出てすぐイタチは振り返り、見上げる様にはやてが居る白い病棟の窓を無言で見つめた、それはやはり彼女を裏切ってしまった罪悪感から来たのかもしれない

…これで、どちらにしろ俺はこの日を境にこの病院に彼女の前に姿を見に来ることはもうないだろう…

そう、後戻りはできないのだから…

忍はこうして、孤独な道へと一人、夕暮れの日に照らされながら誰からも悟られる事無くその姿を消す

離れゆく絆、悲惨な連鎖、別れゆく夜天の少女と赤雲の忍

…運命の歯車は回り始める

 

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