万華鏡と魔法少女   作:パトラッシュS

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運命

うちはイタチは静かに息を潜め、一人、また一人と夜の竹林の中で人を殺めていた。

暗部の上層部からの任務という名目で他里の住民を殺し目撃者を消して極秘の情報を入手するというのが今回の作戦であったのだ、情を捨て彼は心を殺しこの場所に立っていた

子供であろうが命を奪う、それが後の憂いを残さないように…

血にまみれて命を狩る忍はこうして暗闇の中に同化してゆく、次の命を刈り取るためにその姿はまるで死神の様だった、

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綺麗な星が見える丘、夜の静けさと伴って夜風が仮面に素顔を隠し、瞳を瞑るイタチの頬を掠める、

 

彼は今まで自分が行ってきた事を思い返していた、別に任務であったし暗部に所属していた時からそういった任務が回ってくることも自分はわかっていた。

 

それが愛する里や人々の笑顔を護るためだと割り切っていたし、なにより戦争だったから自分は他の里の人間を殺めなければならない立場だった。

だから、今回自分が成そうとしていることももちろん割り切っている、情は無い。ただ自分が定めた責務をやりとげる為、なにより今度は里や多数ではなく、ただ自分が大切だと思える人達を護るために

イタチは静かにその時を待つ、彼女たちが自分のところにやってくるその時を

「……来たか…」

イタチは紅に光る瞳を静かに開けた。

 

何十、何百という人を葬り去り、その死に様、悲しみを捉えてきた呪われた一族の目を彼は鋭く闇夜の中に光らせた。

理由はただ一つ、自分に対するものに対抗するため、自分がこの時の為だけに彼らを利用し、闇の書、自分が守ると決めた少女を苦しませるその元凶を完成させるこの時の為に彼は偽りの仮面を被り機が熟すのを待っていた

彼の隣には車いすに乗せられたまま瞳を瞑るその少女がいた、身体は闇の書に蝕まれ日に日に衰弱の一途を辿るしかない自分を兄と呼んで慕ってくれた彼女を自分が成そうとする事柄の為だけに連れてきた

そうして、今、彼の前に彼女たちは現れたその手に武器を持ち自分が主と定めたその忍と同じ少女を救い出す為に、彼女とそして彼女の兄となった一人の忍との笑顔で送った日々を取り戻すべく

仮面を被ったイタチは自分の前に現れた彼女たちに実に冷静な口調でゆっくりと話し出す、その仮面の下から覗く紅色の瞳は彼女たちを真っ直ぐに捉えていた

「遅かったな…君らの到着はもっと早いものだと思っていたが…」

「テメェ!はやてを誘拐してどういうつもりだ!」

彼の詫びれもなく冷静に答える言葉に彼女を助けるために闇の書の蒐集を行っていた騎士の一人であるヴィータは激情し怒鳴り声を上げて怒りを露にする、一時とはいえ蒐集を妨害する輩を退けさせた彼を自分達の味方と彼女は思っていたために車いすに乗せて主を誘拐しこの場所に連れ出した彼に対するその怒りは計り知れないものがあった

だが、仮面を着けた忍はそんな怒りを露わにする彼女に冷徹な口調のままこう言い放ったまるで彼女を煽るかの様に

「…さて、それは君らがよくわかっている事だと思うが…?」

「貴様ァ!主をどうするつもりなんだ答えろッ!!」

「…愚者か…滑稽だな、闇の書の蒐集が完了した今やることと言えば一つだろう?だから君らをわざわざ待った」

そういうと仮面を被ったイタチは懐からゆっくりとあるものを取りだした、それは書物、少女が所持していた筈のそれを彼は彼女らの前に提示した

それは絶望の始まり、希望を抱き少女を救おうと足掻いた彼女らを陥れるための…

彼女たちはすぐさまそれを提示する仮面の忍に驚愕の表情を浮かべ身構える、そうそれは目の前の人物が持っている筈のないものであったから、本来なら自分たちが持っているものが彼の手の中にあった

そうそれは、闇の書、彼女たちを蒐集に駆り立てた書物

「な、なぜ貴様がそれを!!」

「それを…か…その疑問に意味はない、お前たちはこれから蒐集されるその事実だけあれば十分だ」

仮面を着けた忍は冷徹にそして静かに騎士の一人であるシグナムにそう言って、手に持ったそれを虚空へと投げる

彼が投げたその書物は空中で何回か回転すると、その場所の空間が歪むと同時に現れたもう一人の仮面の魔導師の手の中に納まっていた、そして別の空間からもう一人の仮面をつけた魔導師が頃合いを見計らったように姿を現す

突如現れた彼らに対し、ヴィータ達は直ぐに武器を構え身構える、だが、そうした時には既に事はもう収まっていた

バインドという拘束魔法、彼女たちは一瞬の間に虚空から現れた仮面の魔導師によって身動きを封じられていた、この短時間にこれだけ早くバインドを掛けるところをみると相当の手練れであるということがわかる。

そして、仮面を着けた忍は手を挙げて彼らに闇の書の蒐集の合図を出す

 

「…良いのですか?」

「構わない、始めてくれ」

 

仮面の魔導師たちは忍からの指示を受けて、早速、蒐集の作業へと取り掛かる

そうして、仮面を着けた忍は隣にいる車いすに乗せた少女、八神はやての前にゆっくりと腰を落とすと印のようなものを目を瞑る彼女の前で結び、自分が掛けた忍術を無理やり解除させた、それは今から彼女を絶望へと誘う光景をわざわざ目の当たりにさせるために仕組んだも

そう本当なら彼女を巻き込みたくはなかった、だが、もうそんなことは言ってはいられない

仮面の下でイタチは彼女がゆっくりとその瞳を開いてゆくのを目で確認する、自分が掛けた忍術がちゃんと解けて彼女が目を覚まし自分の目で起きている光景を目の当たりにさせるために…

「…ん…寒い…なんでうちこんなとこで寝て…」

眼を覚ました彼女は重い瞼をゆっくりと開ける

そう、確か自分は病室で寝ていた筈だ、なのにこんな寒い風が吹く場所にいつの間に出てきて寝ていたのだろうか

今日は確かクリスマス、自分は騎士や酷い事を言ってしまった自分の兄と言ってくれたやさしいイタチとの仲直りも兼ねて今日は病院で小さく楽しいパーティー開こうって思ってたつもりだった

彼女は自分がイタチに酷い事を言ってしまった事を酷く後悔していた、彼は倒れた自分の為に背負って病院まで運んでくれたと騎士の一人であるシャマルから後で話を聞かされて謝りたいと思っていた

だが、イタチはあれから一度も病院にいる自分の前には現れてくれなかった、あのときちゃんと素直になっていればこんな事にはならなかったのに

だから、寒いと思った彼女は眼を開いた時に思った、そこは見覚えがある場所、そう自分が夜にイタチに連れ出されて彼がいつも自分の傍にいると約束してくれた場所

もしかしてイタ兄が自分をこの場所にまた連れてきてくれた!!

そう思った彼女は喜びを胸に秘めて、自分の瞳を開き突き放してしまったイタチの姿をその眼で確認しようと意識をはっきりと覚醒させる、またあの楽しかった日々の様に騎士とそしてイタチとクリスマスを過ごすことができる、そう信じて

だが、そんな風に楽しい時間を過ごすことができると信じて眼を開けた彼女を待ち受けていたものは…

「きゃあああああああああ!!!」

「グアアアアァァァァァァ!!!」

「…主…わ…たし…は…」

「はやて…すまねぇ…」

そう、そこには自分が一緒に居てほしいと願っていた自分の騎士であり、家族であるシグナムたちが仮面をつけた魔導師が持つ本にへと言葉を残して消えてゆく絶望の光景が広がっていた

彼女は目の前に広がる光景に眼を見開きながら辛うじて声をポツリと溢した、それは自分の目の前で起きている現実がそうでないことをまるで祈るような、そんな弱々しい声であった

 

「…なんや…こ…れ…」

 

いつも笑っていた彼女の面影は最早そこにはない、あるのは目の前にある消えてゆく家族を何もできないまま、車いすの上からただ見つめる事しかできない一人の少女の姿しか存在しない

はやては目の前で広がる光景に絶句していた、そして、自分がようやく手に入れたと思った幸せが同時に崩れ去る虚無感が胸の中をいっぱいに覆ってゆく

なんなのだこれは、自分がここに居るのはイタチが連れてきた訳じゃない?なんで、家族であるシグナムやヴィータ、シャマルとザフィーラが目の前で消えていく、悲鳴を上げて自分に謝りながら…

はやては震えていた、そして同時に胸を締め付けるような悲しみと絶望が一気に押しつぶそうとこみ上げてくる、彼女は動くことのできない車いすから身を乗り出して精一杯彼女たちに向って手を伸ばす、行かないで、一人にしないでと呟いて

 

「嫌や!シグナム!ヴィータ!消えんどいてぇ!」

だが、車いすが身を乗り出した彼女の体重に耐えられずにバタリと倒れる、しかしながら彼女はそれでも消えてゆく騎士たちに向って精一杯手を伸ばし続け、そして縋るように必死に声を上げていた

だが、彼女の悲痛の叫びは闇夜の虚空の中にへと消え、そして、やがて彼女たちの姿はすべて消え闇の書の中にへと納まる

彼女はどうしようもない気持ちがこみ上げ、そして自分の中でプツンと何かが切れたような感覚に襲われる、この時、全ての気持ちが彼女の中に溢れかえる、彼女たちと過ごした思い出と共に

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

彼女は涙を流し闇夜に星がきらめく星空に向って絶望、悲しみが籠った悲痛の叫び声を上げた、

何もない失ってしまった、自分が望んだ家族は消えてしまったイタチもいない自分を見捨てて何処かに行ってしまったんだ、自分はまた一人、一人になった、誰もいなくなってしまった…

彼女は涙を流していた、自分がただ一つだけ望んだものさえも消えてしまう、あのみんなが一緒にいる時間だけでよかった他に何も望まなかった筈なのにどうして自分から奪ってしまうのだ

 

絶望を目の当たりにした彼女の下には魔法陣ができていたそれはまるで彼女に呼応するように悲鳴と共に輝きを増す、

仮面を着けた忍は静かにその光景を見ていた、彼は待つその時を、彼女が絶望しそして取り込み姿を現すそのもの

 

禍々しい魔力、はやては必然の様に闇の書に取り込まれそして別の存在にへと姿を変えてその場所に君臨する

「…二人は下がれここからは俺一人でやる…」

やがて、魔法陣の光は薄れはやてと彼女が姿を現す、騎士たちの最後の者「管制人格」、闇の書そのものと言っても相違ない人物、主と肉体・精神の融合を果たすことで主の魔法の手助けとなる「融合型デバイス」としての機能も発揮し、これまでに蒐集した膨大な魔法データを蓄積したストレージとしての「闇の書」を用いて、莫大な魔法を使うことができるいわば兵器

仮面の忍は紅い目を万華鏡にする。それは、これから始まる彼女とのすさまじい戦闘を予期しての事であった

「…私は闇の書の意思、主へ害を成すあなた方を排除します」

「…なら、俺も少しだけ力を出すことにしよう、お前を倒すには骨が折れそうだしな…」

現れた彼女に特に驚きもせずそういって、忍は万華鏡の目を限界にまでチャクラを込めて印を結ぶ

それは神の名を冠した術、これから行う事は自分が彼女たちを救い出す為に必要な事、己の身などは知らない護るためにもう一度自分は心を鬼とし修羅となって大切な者たちの為に命がけで戦う

紅蓮の戦士は降臨する、それは彼の呪われた一族の眼によって、そして、忍の身を削る思いを受け取って剣を握り、そして術者である彼を護るために盾を突き出す、巨大な存在を放つその術を彼はこう呼んだ

「…これが…須佐能乎だ…」

彼女を苦しませてきた闇の書とこの一連の出来事全てを終わらす戦いの火ぶたは切って落とされる、そう彼女を絶望に追い込みこれを発動させることが彼が描いたシナリオであった

あふれ出るような膨大な魔力は闇の書の意思である彼女の手中に納まってゆく

闇夜の丘に対峙する二人、今、己が大切な者たちを護るために一人の忍の死闘はこうして幕を開けた

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