万華鏡と魔法少女   作:パトラッシュS

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※今回は過激で残酷な描写が含まれます。苦手な方は読まないことを推進します。


決別

彼女達が幸せになれるのなら…、自分はどんなに泥を被っても構わない。

憎まれても、例えどれだけ嫌われても自分は守りたいと思う人間が救われるのなら喜んでそれを演じる、綺麗ごとや正義なんて掲げようとは微塵も思わない。

幸せなその絵図を汚さないように…、自分がその場には不必要な人間であることは知っているから。

サスケ、はやて、フェイト、俺は弟と彼女達を導く礎となればそれでいい、どんなになっても自分は…彼女たちを…そして弟を…心から愛しているのだから。

 

 

 

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八神はやては孤独であった。

両親はおらず一人で広い家に取り残され、満足に足を動かすこともままならない、家事や洗濯は一人でこなし、暇があれば図書館で借りた本を読んでその一人でいる時間を紛らさせていた。

特に生活には困ってはいなかった、なぜならこんな自分を援助してくれる変わったおじさんがいたから、理由はよくわからない、けれど一人で生活する分には困ることもなく平穏な生活が過ごすほどの余裕はあったと思う。

しかし、自分は一人でさびしかった、何もない虚しい時だけが流れているように感じられた…彼に会うまでは…

彼は自分の事をとても優しく扱ってくれた、兄妹がいない彼女にとってはとても嬉しくそしていつも傍にいてくれる兄のような存在であった

「イタチ兄ィ!ご飯出来たから皆で食べよう!」

「あぁ、そうだな…ならシグナム達も呼んでくるか…」

そう、彼女の元には彼と共にいつしか家族が増えていた、それは彼女が望んだものだ。

家族と過ごすというごく普通の環境、そして幸せな時間、はやてはそれだけで十分であった

それが例え、幻想であったとしても…

そう、ここは闇の書の作り出した世界の中、現実に絶望した彼女が望んだ居場所

ここなら、皆と一緒にいられる、一人ぼっちじゃない、騎士たちもイタチもまた皆でこんな風にご飯を食べたり過ごしたりできる、大好きな人達と離れるなんてことはない。

幸せな居心地を抱いた彼女は闇の書によってあの絶望から救われていた…この時までは…

次の瞬間、キッチンで出来上がった料理を机の上に運ぼうとした彼女の視界は暗転し真っ黒な世界に移り変わる。そうして、眼の前に広がる恐ろしい光景は現実と言う世界から逃れてきた彼女にとって戦慄するほど悲惨なモノであった。

彼女が望んだ当たり前の幸せ…それが音を立てすべて崩れ去る

血の海…白と黒の無色に近い世界の中で十字架に張り付けられた自分の家族である騎士達

その身体には無数の刃が突き刺さっており、彼らの瞳には光も失われ最早、虫の息といった状態であった、辛うじて声を漏らしているあたり意識はあるのだろう。

呆然とするはやての手から皿が落ち、パリンっと無機質な音を立てて地面に触れ割れる…

「…なんや…これ…」

戦慄と恐怖の色に染まった顔色…

彼女の目の前が今まで見てきた幸せなモノとは別物であると気付くと同時に背筋が全て凍りつくような錯覚、それは、色がない白と黒の世界

「現実から目を背けて自分が望んだ世界を壊された気分はどうだ…?」

そういって、彼女の後ろから仮面の男が現れた、その表情は仮面に阻まれ笑っているのかそれとも怒りに満ちているのかはわからない、

ただ、一つだけわかることと言えばその仮面の下から覗かせる紅の氷の様な眼差しは常人がするようなそれとは大きくかけ離れた別のものだということ。

そうして、彼女の前に現れた仮面の男は張り付けになった騎士達の傍に立ち非情なまでに冷め切った声色で彼女に語り始める。

「君が…現実を受け止めないのなら俺が教えてやろう、幻想はどれほど美しく見えてもそれに過ぎない、真実とは残酷であるからだ、…このようにな、大切な者を失って現実から背を向けて歩みを止めた君は死人と変わらない…」

仮面の男はそういうと手から刃を作り出す、何もない空間からスッと現れたそれにはやての眼差しは釘付けになる。

自分の世界に踏み込んだ仮面の男、彼が一体何者であるのか、何が目的なのか、彼女にはよくわからない、けれど一つだけわかった事は【この世界が壊される】という事実。

自分が逃げた筈の安息を保つことができるその世界が現実の様にまた自分から奪われるという実感だけが彼女の中に生まれた。

「…な、なにをするつもり…」

「…それを問う事が最早、愚者に等しい…」

そう、無関心の様なひと言を仮面の男が告げた次の瞬間、彼女の目の前に張り付けになっている騎士の一人であるシグナムの身体に凶刃が突き立てられる。

ブシュ…っと肉に刃が突き刺さると同時に張り付けになっていたシグナムの身体が勢いよく反り返る、その激痛からか眼は見開かれ身体は痙攣を起こし、口からは紅い血液が流れだす。

彼女の響くような絶叫が木霊したのはそれから数秒もしない後の事だった、耐え難いその声ははやての眼を、身体を恐怖のどん底にへと誘う。

「…がぁああああああああああああああああああああああああああ――!?」

仮面の男はシグナムの悲鳴をものともせずに、そうして突き刺したその刃を捻る様に回し、彼女の肉を抉る、そして、グロテスクな音を立ててその刃を片手でゆっくりと横に動かし裂き始める、それは言うなら意識を保ったままの狂った殺人ショーである。

シグナムの瞳からは涙と悲鳴が溢れ、口からは留まることなく血が流れ落ちてくる。

「…イタ…チ…助け…ある…じ…、…っぁあああああああああ…!?」

 

「………………………」

凶刃によって身体が引き裂かれる彼女の口からこぼれる様に助けを求める声が発せられる、しかし、それでも仮面の男はその刃を止めることはなかった、ゆっくりと痛みが全身に達する様にその刃はシグナムの身体を徐々に裂いてゆく。

彼女の身体から流れ落ちた赤い血液は血だまりとなり池の様に広がり、辺りを満たす、現実のような鉄の様な匂いと、その色ははやての傍まで這いより、やがて勢いを無くして止まる。

「……やめ……シ…グ…ナ…」

彼女の口から涙と声が零れ落ちる、現実と言うあの絶望的な世界から逃げてきたのに何故こんなにも酷い光景を目の当たりにしないといけないのか、そこまで、自分は何か望んではいけないものを望んでしまったのか…。

気が付いて見ればはやては恐怖からか耳と目を塞いでいた、見たくない、聞きたくない、彼女の苦しむ姿を…、だが、彼女の悲鳴はそんなはやての意思と関係なく頭に響く様に入り込んでくる。

そうして、眼を背けていた彼女はふと悲鳴と悲痛の声がピタリと止んだことに気が付く

絶望と地獄の中で彼女は涙で濡れる目をゆっくりと上げる、それは意思とは関係なしに身体が勝手に動いてしまった、家族と呼び親しい者の安否を確かめたい、その気持ちが見てはならないと拒否すべき光景だと自覚しているはやての意思に反して動いていたのだ。

そして、彼女は目撃する吐き気を催す程の残酷で無慈悲なその光景を…

「…あ…う…」

そこには、髪の毛を掴みあげ四つの首をぶら下げた仮面の男の姿があった、瞳の先には張り付けられた無残な姿の騎士たちの屍と血の泉、五人の顔は瞳孔が開き切り、最早、ただの生首にすぎない、

絶え間なく、その首を失った騎士達の身体からは血が噴水の様に吹き出し呆然と座り込んでいるその光景を目の当たりにしていたはやてに降り注ぐ、慈悲はない、ただそこには当然のように自分が家族と呼んだ者たちであった者の屍があった。

仮面の男は四つの首を掴みあげたまま静かに座り込んでいる彼女に近づき、こう告げるそれは、まるで死神の囁きのような凛とした声色であった。

 

「…お前の求める真実は…ここにはない…」

「う、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…ッ!?」

それは、彼女の正気と精神が音を立てて崩れ去る、幻想の世界ははやての拒絶と崩壊を受けて虚しくも虚無へと消えてゆくのであった。

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高町なのはとフェイト・テスタロッサは現在、闇の書もとい、激しい戦闘の異常が観測された丘の上空に向って物凄い速さで向っていた

自分の過ちとそしてなのはと和解を果たした彼女は、今、その彼女から衝撃の真実を伝えられ、それをその眼で確かめるべく自分の限界の速さを保ち、その話を思い返していた

(イタチ兄さん!…兄さんが生きてる!)

フェイトは嬉しさのあまりに気が付けば身体が無我夢中に動いていた、あの日、自分とアルフそして母親を救うために汚名を一身に受け、自分に殺されることを選んだ自分の優しい義理の兄。

ずっと…彼の事だけが頭から離れなかった、大好きだった彼の笑顔が彼女の脳裏に焼き付いて離れなかった。

謝れるんだ、もう一度彼と一緒に幸せな日々が過ごせるんだ、もう我慢しなくてもいいんだ、なのはと自分とクロノ達とまた…。

彼女は胸にあるロケットを強く握りしめて涙を流していた、そんな彼女の様子を見てなのはは内心で彼女が喜んでくれてよかったと胸を撫で下ろしていた、それと同時に彼女がイタチを慕う表情を見てちょっとだけ妬けてしまった。

(愛されてるんだね…イタチさん、ちょっとだけフェイトちゃんがうらやましいな…)

イタチが彼女に自分が生きている事について話さないでほしいと言った理由も分かる、大方、彼女をこの事件に深く関わらせないようにしようとした心遣いからなのだろう。

恐らくはクロノも彼女に黙っていたのは同じ理由でイタチの事をよく理解した上での行動だったのだろう、前の状態の彼女が、イタチが闇の書の持ち主と接触しているとわかれば嫌でも事件に深く首を突っ込んで挙句に無茶をしでかすに違いないと恐らく踏んでいた。

そうして、彼女達は間もなくして戦闘があったと報告があった丘の上空に到着する。

「…なに…これ、…すごい惨状…、戦うって言っても、こんな事が出来るものなの?」

「…うん、とても想像できないくらい激しい戦闘だったみたいだね…もしくはまだ続いているのかも」

慎重な口調と冷静な態度でなのはに返答するフェイト、

そこは、至る所に破壊の跡や木々が燃えて尽きた後、そして、地面を抉るようなドでかいクレーターと地面の破片が辺り一面に飛び散り、その惨状を物語っていた

しばらくして、地上に降り立った二人はこの惨状の当事者である人物を探し始める

間違いなくこの戦闘に介入しているだろう、うちはイタチ、

これだけの惨状を目の当たりにしたなのはのその胸中はこの戦闘を繰り広げた当事者たちの姿が見えない事に対する警戒と同時にうちはイタチの身の安否であった

半年前のあの悪夢が頭を過る、自分やフェイトが気付くことができなかった彼の優しさと思いやり、そして、擦れ違い

うちはイタチという人間を知っているから、尚更、彼の身にもしもの事があると考えると…、それだけで心の中が押しつぶされそうになる。

彼女たちがしばらく歩くと、夜のせい薄暗く見えづらかった視界がだんだんと開けてくることに気が付く、ただ、この時、なのはの頭の中に直感的にだが一瞬だけ、その開けてゆく光景に背筋が凍りつくようなそんな感覚が走った。

…だめだ…見てはダメ…、これを見てしまったら…。

彼女のその感覚とは別に身体が勝手に動く、動かしたその足は止まらない、例えそれがどんなに非情な現実を示していても、頭では分かっていても動かした歩みは止められなかった。

そして、二人が目の当たりにした光景…それは…。

「………、な…んで…」

膝から力なく、なのはは崩れ落ちる。

きっとそんな事は無いだろうと思っていた、それだけは起きてほしくないと思っていた、自分の大切な友達にもう一度会わせたいとそんな単純な願いだった、 彼が何かを成そうとしていたのは知っていた、何か駆り立てられるような使命を抱いていることも感じていた。

 

「に…ぃ…さん……?」

 

消えそうな程、小さくそして悲しい呼び声であった。そこにあるのは絶望だった、再開を望む少女をどん底に落とす事実があった。

 

月の照らす夜の元に映し出されたその光景、彼女の小さな胸の中にぶら下がるロケットに透明の一滴がぽとりと静かに流れ落ちた。

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