少女、フェイト テスタロッサは夢を見ていた。
夢に出るそこは、海鳴町とは違う何処か遠い場所
そんな場所に一人で立ち尽くしている人影があった
その人物の足元には重なる様に血だらけで倒れている二人。
ひたすら真っ赤だった。
池溜まりの様に朱色の血が辺りを浸し。
そこには、ただひたすら静寂な空間しか広がらない
そんな、血だらけで重なり合う二人を見下している人物もまた紅蓮の様に衣服が血の色に染まっている。
暗く重苦しい空気が辺りを漂う。
────ーそして、その人物が此方にへと振り返るその瞬間だった
フェイト テスタロッサは何かに引きずり上げられる様に目が覚め、寝る為に掛けていた自身の布団から跳ね起きた。
「……はぁ……はぁ……」
彼女の頬からは伝う様に汗が垂れ落ち、呼吸が安定せずに荒々しい、そうなってしまうのも無理もない。
彼女にとって、あれは今までに無い様な何処か現実味のあるような夢だ。
それも、死体などが出てくる血生臭く吐き気がする様な恐怖を抱かせる残酷な夢。
すると、そんな跳ね起きた彼女の音を聞いてか、隣の床で寝ていたはずのイタチが上半身を布団からゆっくりと起こした。
「……どうしたフェイト? 眠れないのか?」
表情を曇らせて跳ね起きた彼女にへと訪ねるイタチ、 彼女の額や頬を伝う様に流れ出る汗をみればただ事では無いのは間違い無い
イタチは心配な面持ちで呼吸を乱す彼女を見詰める。
暫くして、フェイトは荒くなった呼吸を落ち着かせて、深く息を吸い込んで深呼吸をする。
そして、イタチはそんな彼女に台所から冷水が入った水を渡して、落ち着きを取り戻してきた彼女を催促する様に優しく頭を撫でてやった
「……ありがとうございますイタチさん……だいぶ落ち着きます」
「何、大した事はしてはいない……」
イタチはそう言って、俯いて御礼を述べるフェイトに微笑む。
イタチに頭を撫でてもらっているフェイトの顔は羞恥心のせいか耳まで真っ赤に染まっていた
「……どうした? 具合でも悪いのか?」
「い、いや!! そんなこと無いですよ!!」
イタチに指摘され、慌てて彼女は顔を左右に振ってそれを否定する。イタチは彼女のそんな様子に首を傾げていたが、暫くしてその場から立ち上がり、自身の布団に戻ってゆく。
「……今日は遅い、早く休んだほうがいい」
すると、そう言って自身の布団にへともどろうとしたイタチの足がピタッと止まる
「………………」
彼がゆっくりと後ろへと振り返るとそこには顔を真っ赤にしたまま俯いて、服の裾をギュッと握りしめているフェイトの姿があった。
イタチはそんな彼女の行動に眼を丸くして驚いたが、 ふと、彼女が先程まで夢にうなされていた事が頭を過ぎりその行動の意図を把握した。
イタチは俯いている彼女へ振り返ると、身体を屈ませて優しく微笑む。
「……怖いから、今日は一緒に寝たいのか?」
「…………」
俯いて顔を真っ赤にしたまま、イタチのその言葉に静かに頷いて応えるフェイト、イタチはふぅ、とため息を吐きながらもそんな彼女にへと優しく応じた。
そして、彼女は暫くして自身の布団にへと戻り横になったイタチの懐にへと潜り込む。
なんだか安心する……
ふと、イタチの懐にへと身体を丸めて入り込んだフェイトは思った
イタチの懐は何故か暖かく心地良い、これならば先程の様な悪夢を見なくても済むだろう。
すると、彼の懐に潜り込んでいた彼女はふとイタチの顔を顔を真っ赤にしたまま見詰める
「……? 、どうした?」
そんな彼女の行動に首を傾げて、横になったまま訪ねるイタチ、 フェイトはそんなイタチに対して恥ずかしそうに口を開いて話し始める。
「……あの、えっと……この間からずっと思ってたんですけど……イタチさんの事、
……お兄ちゃんって呼んでいいかな?」
「……何?」
不意を突かれた様にイタチの表情が固まる。
そして、イタチは深刻な面持ちになり、その話をし出したフェイトにへと言葉を述べ始める。
「……生憎だが、俺の様な……」
「……嫌……」
距離を離す為にイタチが発しようとした言葉がフェイトのつぶやく様な言葉によって打ち消される。
気が付けばフェイトがイタチの衣服を掴む力も自然と強くなっていた。
フェイトは困った様な表情を浮かべているイタチに続けて話をし出す。
「……私にとって……イタチさんは優しいお兄ちゃんなんです……」
「……フェイト……」
イタチはフェイトの言葉に何も言い返す事をしなかった。
フェイトのイタチに対する我が儘、今まで、親から愛情を与えられず、只々、道具としてジュエルシードという物質を集めていたのだ。
そう考えるとこうやって、自分に対して甘えてくる事も大体予想がつく。
イタチは自身の服をギュッと握りしめているフェイトに視線を移してにっこりと微笑んだ。
「わかった……、仮ではあるが……今日から俺はお前の兄貴だ……」
「……本当に?」
困った表情で応えるイタチの言葉に思わず聞き返すフェイト、それに対して、イタチは静かに頷く。
すると、フェイトの表情は陽光の様にパァ、と明るい笑みを溢した。
そんな、嬉しそうに笑う彼女の頭をイタチは優しく撫でてやる。
兄貴……か……。
イタチはふと、自分の死んだ筈の世界に置いてきた唯一の弟の事を思い浮かべた……。
あの時、あの場所で力果てるまで殺し合った。
あいつは今頃、木の葉に住む彼等の為に駆けているだろうか。
イタチはふと、寂し気になりながら自身の服を握りしめているフェイトにへと視線をやる。
「……? ……フェイト?」
自身の服を握りしめているフェイトに話し掛けるイタチ、しかし、彼女からの返事は無い。
イタチは覗き込む様に丸くなって寝ているフェイトを見る。
すると、彼女は静かに寝息を立てて嬉しそうな表情で寝ていた。
イタチはそんな彼女に対して微笑み、彼女が掴んでいた自身の服からゆっくりと手を剥がし自身の布団から起き上がる。
そして、寝ているフェイトにへと優しく自身が先程まで使っていた布団をゆっくりと掛けてやる。
さて……
──────……仕事だ……
起き上がったイタチは静かに赤雲が入ったマントに袖を通し、横に傷が入った木の葉の額当てを身に付ける。
そして、儚気な表情を浮かべて寝息を立てているフェイトにへと視線を移して眼を閉じる。
「……ありがとう」
イタチは感謝の言葉をフェイトにへと発した。
こんな、血で身を真っ赤に染めた自身の事を兄と呼んでくれた彼女に、彼は部屋の窓を開いて身体を屈める。
刹那、彼の姿は目にも止まらぬ早さでその場から疾風と共に消えていた。
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本来ならば、暗く静寂が支配する筈の海鳴町の夜。
「……ハァハァ……」
だが、そんな静けさが支配する筈の夜も今夜だけは違っていた。
ここは、海鳴町から少し外れた山中
そこでは、土煙と何かから必死で逃げる一匹の使い魔の姿があった。
(……クソ!! なんなんだあいつらは!!)
爆発によって引き起こされた土煙を振り切り、何かから追われている使い魔は悪態をつく。
本来ならば、今晩もジュエルシードを軽く探索して早めに帰るつもりだった
それが、この様
帰り道に待ち伏せされて、こんな風に無様に追いただされている。
一時は反撃に転じようとした時もあったが敵の数が多すぎて、やりようが無い。
匂いだけでも大体16人ぐらいは間違いなくいるだろう。絶対絶命という言葉がしっくりとくる状態だ。
(……ちくしょう詰んだなコレ……)
こんな、圧倒的に危機に瀕した状況ならば最早打つ手など無い
彼女は内心諦めかけて、逃げ回っていたその足を止めた
そして、後ろにへと振り返ると、先程から追いかけ回してくる数人の人影と対峙する。
それに応じてか、急に足を止めた使い魔の前に魔導服を身につけた数人の男が闇の中から彼女の前に姿を現した。
狼の姿だった使い魔は姿を形を変化させて、人間の様な風貌へと変わる
そして、彼女は対峙する魔導服を着た男達を鋭い眼差しで睨みつける。
「……あんたら、私を追いかけ回して何が目的だい!!」
殺気が込もった口調で男達に声を荒げる使い魔の少女。
男達はそんな彼女の問答に感情も何も無い無表情でゆっくりと口を開き話し出す。
「……上からの命令だ、フェイト テスタロッサの使い魔を消せ……とな……
生憎だが、これから死ぬお前に教えるのはそれのみだ……」
魔導服を身に纏う男の1人がそう言うとそれに呼応する様に周りにいた男達も再び、手に持っているデバイスを構える。
彼女はその瞬間に逃げ道を見つけ出す様に辺りを見渡すが時は既に遅く、男達に完全に包囲される形になっていた。
そして、完璧に後が無くなった彼女は何かを悟った様に全身から力を抜いてその場で眼を瞑る。
これまでか……。
せめて、彼女、フェイト テスタロッサの顔を最後に見たかった。
自分が疲れ果てても優しい彼女の笑顔が力をくれた。
そんな、あの彼女の笑顔に何度救われた事だろうか。
これで彼女を悲しませる結果となってしまうのは不本意だが仕方がない。
闇夜の森の中、月光に照らされる彼女は再び拳に力を込めて最後の抵抗をするべく行動を起こそうと、自身の周りにいる彼等に特攻を仕掛けようと構えた。
────────……とその時だった。
グショリ……と何かが裂けて崩れ落ちる様な音が、静寂していた森の中から聞こえた。
次にはまるで噴水が吹き出る様な音。
そして、その吹き出た様な噴水の音と共に闇夜の中で男達にへと特攻を仕掛けようと構えていた使い魔の少女の頬に、……なにやら冷たいものが付着した。
突然の事に驚く彼女はゆっくり自身の頬に付着した'何かを'手でなぞる様に確認する。
そして……彼女は頬に付着したその'何かを'確認した途端……眼を見開いた
「……血……」
呟く様に頬を触った手を確認した彼女の全身の背筋が一気に凍りついた。
先程、グショリ……と何かを裂く様な音が聞こえた方へと彼女は慌てて視線を向ける。
「……生憎だが……」
彼女の視線の先。
そこには、闇夜の中で月に照らされながら、1人の男の頭を片手で持ち、顔を返り血で真っ赤に染めた赤雲の模様が入ったマントの男。
──ーそして、彼女は戦慄する。
その男の姿、そして彼が瞳に宿る無限の闇を思わせる様な眼に。
自分の良く知る人物がそこにはいた。
「……イ……タチ……?」
片ことながらも自身の良く知る人物の名前を呼ぶ使い魔。
彼は自身が持っていた男の頭を捨て、彼女に構わず真っ赤に血で染めた顔でまっすぐに先程の頭を掴んでいた男の仲間たちにへと話を続ける
冷たく、感情も何も込もっていない様な表情で。
「……彼女を殺すのは無理だ……」
魔導服を身に纏う彼等は突然、自身達の前に現れ、仲間の一人を殺した赤雲を身に纏う男のその一言に一気に動きが固まる
「……貴様……何者だ……」
「応える義理はない」
訪ねる彼等に対して、冷徹な表情を崩さずにイタチは応える
彼等にとって……完全にイレギュラーな存在が目の前に現れ、
その上、仲間の一人を一瞬の内に葬り去られたのだ……
実力が底知れない……
そんな、なんとも言えない恐怖が彼等の動きを完全に凍結させていた
そして、現れたその男は、身体を血に染めたまま先程まで魔導師達が追いまわしていた使い魔の少女の前に立つ
その行動を見た魔導師達は得体の知れないその男に対して……すぐさま警戒の体制を取る
「……なんの真似だ……」
現れた男に殺気と警戒を込めた口調で問いかける魔導師の一人……
だが、闇夜に現れた赤雲を身に纏う男は静かにに眼を瞑ると訪ねる男に対して当然の如くこう応える……
「……自身達の仲間が殺され、そして俺のこの行動を見て、それを論ずる事は
……最早、ナンセンスだ……」
そして……彼の眼がゆっくりと見開かれる。
三つ巴に怪しく輝く瞳。
両者が対峙し、緊迫する状況が更に拍車をかける様に引き締まり、一挙に息苦しくなる。
そんな彼等を包む様な月明かりを覆い隠す様に夜空に雲が掛かる。
その瞬間……既に魔導師の男達の前から赤雲の男の姿が視界から消える
こうして、闇夜の中……命の削り合いの火蓋は切って落とされた。