暗闇の中で飛び交う魔導服を身に纏う男達と鋭く研ぎ澄まされた眼差しを持つ忍、その決着はまさしく、一瞬にしてけりがついてしまった。
ほんの一瞬……だ。
山中での魔導師達と、自身の内に秘めた眼を開眼した忍、うちはイタチの殺死合い。
まず、行動を起こしたのは魔導師達だった。
構えていたデバイスから、対峙するうちはイタチに向けての一斉攻撃。
イタチが立っていたであろう地面からは魔法での攻撃で、爆風と爆発が引き起こされ。
一瞬にして彼の姿はその中にへと埋れてゆく。
「……手を緩めるな、殺傷設定を完全に解除した状態なんだ……息の根を完全に止め、この場からやつを死体ごと隠滅しろ……」
魔導師達のリーダーらしき男からの冷徹な指示。
男達は只々、イタチに向けての攻撃を手を緩める事無くひたすら続ける。
だが、そんなイタチがいた場所の一点に攻撃をし掛けていた彼等の中から突如、悲鳴が上がる。
「……ぎゃあああああああ!!」
咄嗟に悲鳴が聞こえた方に振り返る彼等、
そして、彼等は眼に映る光景に驚愕する。
「……手裏剣の位置がズレていたか……まぁ、いいだろう」
そこには、眼を手裏剣で射抜かれ、背中から刀で貫かれ、血塗れの変わり果てた仲間の魔導師の姿。
それとその血塗れで絶命している仲間の魔導師の背中に刀を突き刺した先程まで、攻撃の対象となっていた赤雲のマントを身に纏った男が立っていた。
「……では、次はこちらから行かせてもらう」
そう言うと同時に、凄まじい速さで、魔導師達に向かい駆け出すイタチ。
勿論、魔導師達はそんなイタチに向かい近づかせまいと攻撃を集中させる。
先程の過ちを何か把握していない彼等、こうして彼等は自身の破滅への道を辿らされてゆく。
烏分身
イタチが最も使用する分身の術の一つ、Cランクの難易度忍術
そう、魔導師達は先程からイタチがすり替えた烏分身だけを攻撃しているだけなのだ。
しかし、そんな事を彼等はまったく理解していない。
その上、自身達の視界まで魔法での攻撃でより悪くし、イタチにとっては動きやすいことこの上ない。
また一人、また一人と魔導師達は狩られてゆく。
「……火遁……豪龍火……」
「……後ろだと!! ぐぁあああああ!?」
イタチから繰り出される火遁の術に焼かれ、のたうちまわる魔導師の男、イタチは更に数人の魔導師達の間合いを一挙に詰め、写輪眼で動きを見極め、手に構えていた苦無を同時に二人の魔導師達の首元を突き刺し、切り裂く。
吹き出る噴水の様な血。
だが、イタチは一切表情を変えない。
もう、既に次の標的にへと仕留めに掛かる為、行動に入る。
「……ば、化け物め」
「……生憎だが、その言葉は聞き飽きてる……」
そう魔導師達を統べていたであろう男に対して言い放つイタチは、次の瞬間には既にもう印を結び終え、彼の背後から、影分身の一人が術を発動する形になっていた。
「……終わりだ、水遁、水牙弾」
「……何時の間に!!」
背後から、聞こえた声に慌てて振り返る魔導師の男。
だが、時は既に遅く、彼の顔面を見事に圧縮回転した水の塊が直撃した。
そして、彼の身体は力無く後方にへと吹き飛び、赤い鮮血をぶち撒けたのちに、暫く、もがき苦しむと声も発さないまま絶命した。
それは、そうだ、彼の顔はイタチの放った水遁により、削り取られていたのだから。
そして、そんなグロテスクなイタチによる魔導師達の殺害現場に居たフェイトの使い魔であるアルフは眼を見開いたままその場で立ち尽くしていた。
辺り一面が血の海。
首元を刀で刈り取られて血を噴き出したまま木に寄りかかる者。
あるいは、首もろとも、吹き飛び身体だけの者。
そして……人間を生で焼き殺した様な焼死体となった者共。
その、光景を目の当たりにしたアルフを凄まじい吐き気が襲う。
「……う……ぷ……ぐ、ぐぇぇ」
思わず、そこから眼を逸らし近くの草むらで胃の中をぶち撒けるアルフ。
そして、彼等を全員残らず殺し尽くした本人は血塗れのまま月夜に照らされ、彼女の視界の中に映る。
彼女は咄嗟に、そんなイタチとの間合いを詰めて荒々しく彼の胸倉を両手で掴み上げた。
「……あんた!! なに考えてんだ!!」
月夜の中、血塗れのままのイタチに詰め寄り、迫るアルフ
だが、イタチは一切表情を変えずに辺りに散らばる死体を見渡した後に静かに口を開き話し出す。
「……悪いが、質問の意味を理解しかねるな、 彼等は君を殺しに来た……俺はそれを阻止しただけに過ぎない……」
淡々と無表情のまま口からアルフにそう語るイタチ。
だが、それでは納得出来ないアルフは更に声を荒げ、イタチに言い放つ。
「……全員殺す必要なんてなかっただろうが!!」
「……そこまでだ……ここで言い争うだけ時間の無駄だ」
そう答えたイタチは胸倉を掴んでいたアルフから手を引き剥がし、背を向ける
そして、彼女はそんなイタチの言葉に拳を握り締め静かに俯く。
悔しかった。
あの殺し合いに無理やりにでも介入して、止めるべきだった……。
少なからず、彼女は自身が行わなかった行動を心の内で後悔していた
それに……イタチの正体の事だ。
こんな得体も知れず危険な男をフェイトに近づけた。
それに少なからず、信頼を最近、彼に寄せ始めていた自分がいた。
それが、こんな平気で人を殺し、尚且つ、今まで力を、正体を自分達に隠していたなんて。
「……彼等は俺の姿を見た……俺の存在を知らせる可能性を潰す……忍ならば当然の行動を起こしたただそれだけの事だ」
ふと、彼女の耳にそんな独り言を呟くイタチの声が聞こえた。
それに反応する様に彼女は自身の頭を上げてイタチを見る。
「……君は早く帰れ……フェイトが心配していた……」
月夜の光に照らされてそう言い、自身の殺した死体を担いで運んでいるイタチの表情は何処か哀しげに見えた。
彼の身体に運んでいる死体の血が服にべったりと付着する。
だが、彼はそれでも死体を運ぶのをやめようとはしない。
そして、暫くして彼の分身や彼が持って来た魔導師達の死体が一箇所に集められた。
そんなイタチの異様な行動に眼を見開くアルフ。
「……な、何をするきだい?」
「……証拠隠滅の為に彼等の死体は消せさてもらう……」
冷徹にそう言い放つイタチは一箇所に集められた魔導師達の死体を見て静かに眼を閉じる。
そして、ゆっくりと彼は瞳を開けると、呟く様にこう宣言した。
「……万華鏡写輪眼……天照!!」
一箇所に集められた魔導師達は突如、まっ黒な炎に包まれて燃え盛る。
イタチが出したであろう異様なその炎にまたもやアルフは度肝を抜かされ唖然となった。
「……な、なんなんだよコレ……」
「……後はほっとけばいい……引くぞアルフ……」
そう言って天照を目の当たりにて立ち尽くす彼女の真横を通り過ぎてそう告げるイタチ。
だが、彼女はイタチのそんな冷徹無比な行動に通り過ぎた彼の肩を掴み自身の方に彼を向かせると、自身の持っている力一杯に彼の頬を思いっきり平手で打った。
顔を殴られたイタチは無言のまま、殴る彼女の姿を見つめる。
「……フェイトがどんな風にあんたの事を考えてたのか知ってんのかい!! あの子を哀しませる様な事を平然として!! あんなに簡単に他人の命を……!」
「……君が納得出来ないなら別にそれでも構わない……だが、これが現実だ……俺は殺す必要性があると思ったから実行したに過ぎない……君にとっても……彼女にとっても……」
イタチはそう告げると彼女に近づいて、首元に手刀を入れて気絶させる
「……イタ……チ……あ……んた……」
力無く倒れそうになる彼女をイタチが受け止める
このまま、ここにいても時間の無駄だ……早めに切り上げて足がつかない様にしておいた方がいい。
イタチは気絶させたアルフを抱えると、先程、天照で燃やした魔導師達の死体を確認する。
彼の視線の先には既に死体は無くなっており、あるのは黒く燃え上がる炎のみ
それを確認したイタチは力を足に込めて跳躍しその場から姿を消す。
そうして、再び、海鳴町の外れにある森には静寂した空気が戻る。
そこにあるのは……ひたすら燃え盛る真黒とそれを囲うように生える木々のみであった。