万華鏡と魔法少女   作:パトラッシュS

7 / 42
なのはと忍

 

 

 うちはイタチさん、私が彼と出会ったのは暗闇を照らすある月夜の晩の事だった。

 

 自然と眠りにつくために布団に横になった私の耳元で微かに誰かが何かを呼ゆような声が聞こえた。

 

 

「……な、何?」

「……? どうしたんだいなのは?」

 

 

 聞こえてきた声に耳を傾けるなのはに心配そうに訪ねるユーノという名のいたち、なのははそんな彼の言葉に反応せず、静かに耳を澄ませる。

 だが、何も聞こえない気のせいだったのか、と彼女は首を傾げる。

 

「……なんでも無いよ、寝ようか?」

 

 

 そして、やはり声は自分の気のせいだという事にしておいて、彼女再び布団に潜り目を瞑った。

 

 暫くして、彼女は眠りの底につく。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 暗闇の底……彼女は何処か違う場所に立っていた。森を抜けた湖の畔の様な場所。

 

 彼女は上、空を見上げる。そこには、湖に映る美しく綺麗な満月が出ていた。

 

 そして、そんな場所で一人の男性が両手で顔を覆い隠し、膝をついていた。

 

 隠していても、その人物の頬からは涙が零れ落ちているのが少し離れた彼女から見てもなんと無く分かった。

 

 なのはは、膝を地面に着けて顔を両手で覆い隠している人物にへとゆっくりと近づく。

 

 すると、その人物から溢れるように微かに誰かの名前を呼ぶような声が聞こえた。

 

 

「……父さん……母さん……シスイ…………そして……サスケ……済まない……許してくれ……」

 

 

 誰か聞いたこともない様な名前を呼びひたすら、流れる涙を両手で隠して懺悔するその人物。

 

 なのははゆっくりとその人物に声を掛け様としたその時だった。

 

 何かを眼で捉えた彼女はピタッと身体が硬直してしまう、

 

 

 ────ー……彼女の視線の先。

 

 

 そこには、先程と変わらず両手で顔を覆い隠す人物の姿だ。

 

 だが、彼女が動きを止めた理由はそこでは無い。

 

 彼の流す涙の色が真っ赤な血の色になっている事。

 

 そして、涙となって流れ出たそれは綺麗な筈の満月を映し出していた湖に流れ込む。

 

 瞬く間に湖はその映し出していた月に覆い隠す様な真っ赤な血の色に染まる。

 

 なのはは眼の前で起こるそれを黙って見ているしかなかった。

 

 本当なら、これはきっと怖くて、恐ろしい夢に違いないのだろう。

 

 だけど、これを見ていたなのははどうにもそうは感じられなかった。

 

 そうじゃなく、物凄く悲しい気持ちにさせられた。

 

 彼は血の涙を流し、照らす月を見上げている。

 

 ひたすら懺悔する彼のその姿と血の涙で染まる湖。

 

 気がつけば彼女の頬に冷たい何かが流れ落ちていた。

 

 彼女は思わず擦る様にそれを左手で軽く拭き取る。

 

 透き通った、涙だった。

 

 

「……? あれなんで?」

 

 

 眼から流れ出る涙が止まらなかった……締め付けられる様な哀しみを感じている様な感覚。

 

 そして……彼女の意識は再びそこで途切れる。

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 

 勢いよく、先程からの夢から覚めて布団から飛び起きるなのは。

 

 そして、彼女は何かに引っ張られる様に立ち上がると衣服を着替えるとすぐさま自身の部屋の扉に手を掛ける。

 

 その、彼女が扉を開く音を聞いてか、丸くなって寝ていたユーノは慌てて飛び上がる様に跳ね起きると急いで彼女に追いつき、肩に乗る。

 

 

「……!! 一体どうしたんだいなのは?」

「……何か呼ぶような声が聞こえる!」

 

 

 急ぎ、走る彼女はそう一言だけ述べ、駆ける。

 

 そして、玄関の扉を開けて家からパジャマ姿のまま飛び出した彼女は疾風の如く、何かが呼ぶような声が聞こえる方へと向かう。

 

 暫くして、彼女は見通しの良い公園にへと辿り着いた。

 

 勿論、時間帯が夜遅いので人の気配は殆ど皆無。

 

 だが、ポツリと公園の真ん中に立ち尽くしている人影が一つだけそこに存在していた

 

 彼女はそれに気付いて思わず近くの木の影に隠れる。

 

 そして、彼女は隠れた木の影から覗く様に公園にいる人物を見る。

 

 月夜の光に照らされ人物の姿がはっきりと見える

 

 綺麗な黒髪に凛々しい顔立ちの男性。

 

 彼は眼を瞑ったまま、両手に苦無を持ち構える。

 

 彼女がそんな彼の行動を観察していた刹那、公園にいた筈の彼の姿が彼女の前から消え去る。

 

 彼女は慌てて木の影から彼が何処に消えたのかを眼で追う。

 

 

「……上だよ、なのは」

「……え?」

 

 

 肩に乗るユーノの言葉にすかさず、視点を上へと向けるなのは、そこには、空中で舞う先程の人物がいる。

 

 なのははその信じられない光景に思わずゴクリと唾を飲み込む。

 

 魅了させられた。

 

 最初は私が聞こえる声の元を探り、その原因を探るのが目的だった。

 

 しかし、私は今、こうして月夜の空を舞う人物から眼が離せないでいる。

 

 一体何故……? どうしてだろう……? 

 

 理由は簡単だ……ただその光景がまるで一つの芸術品の様に圧倒的に美しく、華麗だったから。

 

 木の影から覗いていた私は思わずその美しい光景に見惚れてしまった。

 

 月明かりがあるせいかも知れないけど、よりそれは綺麗に輝いて見える。

 

 そして、次の瞬間、彼の手元がキラリと光り、何かが放たれた。

 

 鳴り響く金属音と樹々に次々と何かが突き刺さる様な音、そして、突き刺さる様な音を立てた樹々に私は視線を向ける。

 

 そこには、樹々に取り付けてある的とそれの赤い円のど真ん中に突き刺ささっている鋭利な苦無。

 

 幾つものそれが、見渡せば全て私が見た的の様に、的のど真ん中に突き刺さっている。

 

 それから、それを放った人物は何事もなかった様に綺麗に音を立てずに着地する。

 

 綺麗な黒髪に月明かりが当たり、凛々しい顔立ちがより一層際立つ。

 

 胸の中が熱くなった。

 

 彼のその姿に、先程見た夢が頭を過り重なる。

 

 この気持ちは何だろう? 

 

 苦しい、悲しい、辛い、そして切ない。

 

 様々な気持ちが中でごちゃごちゃと渦巻いて……締め付けられる。

 

 木の影から覗いていた私は目頭が熱くなる。

 

 そんな時だった。

 

 

「……出てきたらどうだ?」

 

 

 唐突に私の耳に声が聞こえた……その声に私は心臓が跳ね上がる。

 

 この時……初めてうちはイタチという人物と私は出会った。

 

 そして、今……彼は私の側に彼は執事服を着て立っている。

 

 色んな人達と触れ合い、楽しそうに振る舞いながら翠屋で働く彼、そんな彼は、いつも仕事中も仕事が終わった後も私に構ってくれる。

 

 一時は彼に対して焼きもちをやいたお兄ちゃんが彼を道場に呼び出してよく、争ったりしたみたいだけど。

 

 今ではすっかりイタチさんの事を認めて、彼の友達みたいに親しい中になっている。

 

 

「……イタチさん、今日ね、家庭科の授業で料理作ったんだー」

「……凄いじゃないか、確かになのはは器用だから、上手く作れそうだな」

 

 

 彼はいつもこうやって私の話を聞きながら優しく頭を撫でてくれる。

 

 嬉しかった、多分、初めて出会った頃からだろう。

 

 それから、ずっとずっとイタチさんの事を思うと胸が苦しい。

 

 私はこうして毎回イタチさんと会うたびにこの気持ちが確信に変わるのが分かった……

 

 恋……だった

 

 よく、頼り甲斐のある年上の男性に憧れる様なそう言ったものとは別……とは確かに言い難いかも知れない。

 

 けど、間違いなく、私は会った時からこの気持ちで心の中がいっぱいに満たされていた

 

 

「……ん? どうしたなのは?」

「……え? あ、ちょっと考え事してただけだよ」

 

 

 私はそう言って心配そうに顔を覗かせてくるイタチさんに答える。すると彼はそうか、と優しい笑みを溢してくれた。

 

 綺麗な青空が広がる中に……こうして語り合う私とイタチさん。

 

 この、ひと時は……短くそして切ない。

 

 ────でもこれが、この時が

 

 初恋をした私にとってのひどく、甘酸っぱい至福の時間だった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。