――…俺はあんたを殺すためにここまで強くなった!!
憎しみを植え付け、俺を殺すためにだけ生き続けた弟。
そんな、弟に対して俺はこんなやり方しか出来なかった。
朝日が差し込み鳥の囀りが床で横になり、寝ていたイタチの耳に聞こえてくる。
「…夢か」
そう、一言呟いて布団から身体を起こすイタチ
だが、その動作はピタリと途中で止まった。
「…フェイト…」
「…んー…兄しゃん…」
可愛らしい寝言を呟いているフェイトがイタチの懐にはいっており、
しっかりと彼の服に片手でしがみついている。
確か…昨日はアルフを助けた後に、違う布団を被って寝ていた筈だが。
何時の間に入り込んでいたのだろう?
そんな疑問がイタチの頭を過ったが、自分の側で気持ち良さそうに寝ているフェイトの寝顔を見て…なんだかどうでもよくなってしまった。
イタチは優しく笑み溢して、彼女の綺麗な金色の髪をそっと優しく撫でてやる。
「…ふぇ…」
「…フフ…、おや? 起きてしまったかな?」
ゆっくりと瞼を開ける彼女に柔らかく問いかけるイタチ、
そして、瞼を開ける彼女は自分が彼の懐に入って服を掴んでいる事に気付くと、一気に頭の中が覚醒した
フェイトは顔を真っ赤にして優しく頭を撫でてくるイタチの前で飛び起きると綺麗に正座をして頭を下げる
「…ご! ゴメンなさい!!」
「…何も謝る事は無いだろう? 兄妹なんだから、甘えるのは妹であるフェイトの特権だ…」
イタチはそう言うと正座をして謝る彼女の頭に手を置く、そして、そんな微笑ましい光景を見ていた第三者は皮肉る様に傍観する。
(…よくもまぁ、しゃあしゃあと…そんな言葉が並べれるもんだね…あんな事、昨日しといて…)
彼女の使い魔、アルフは内心、平然と彼女と触れ合うイタチを見て悪態をつく
昨日の起きた出来事。
それは、彼女を追いまわしていた魔導師達を一人残らず虐殺し、その上、黒い炎により跡形もなく抹消した事…
あれは…ひどく残虐で吐き気がする様な出来事だった。
(…でもあいつが私を助けたのも…また事実だしな…)
そう考えると、彼等を手に掛けたイタチの事を責める事はできないのも仕方ない…彼はああゆう風にフェイトに対して実に優しく接してくれている。
複雑な心境のアルフは溜息を溢して、彼等の微笑ましい光景を見つめる…
結論を出すにはまだ早い、とりあえず、アルフは今後の経過に任せる事にした。
時空管理局の執務官のクロノ ハラオウンは至って真面目で正義感が強い少年だ。
彼は自分の所属する組織に対して誇りを持ち、行動している。
「…あの男…」
だが、そんな彼が会った中で奇妙な違和感を憶える人物がいた。
三つ巴の目を持つ人物。
先日、独自の行動をとっていた彼はその人物と出会し、不可視げな術を掛けられた。
恐らく…自身の情報を彼に話してしまった可能性が高い。
ならば、彼にできるだけ早く接触して、会話を交える必要がある。
それに…彼とは別に動いていた魔導師達との交戦について
独自に裏で手に入れた情報によると、フェイト テスタロッサの使い魔を殺害の指示を受けて勝手に動いていた十六人の魔導師が行方不明になったとか…
不確かなその情報も出来れば、…謝罪を込めて話を聞きたい。
自分が推測するに、今回のフェイト テスタロッサの使い魔の殺害命令を受けた魔導師達を裏で操っていたのは…恐らく管理局の上層部の薄汚い連中。
自分はこう言った輩が反吐が出るほど嫌いだ…例え使い魔と言えど生きている事に違いないそれを奪う等、人道から外れた様な行動だ。
フェイト テスタロッサがその使い魔を大切にしている事もわかっているから尚更、その事を起こした輩がクロノは許せないでいた。
そして、そんな連中の中でその薄汚い事を平気でやってのける輩に彼は身に覚えがある。
なんにしてもひとまず、目撃情報等を元にあの三つ巴の目を持つ男と合流しなければ。
「…確か、ここか」
クロノはそう呟き、ある店の前でその足を止めた。店前には、翠屋と刻まれたプレートが掲げてある
クロノはゆっくりとその店の扉を開いて中へと入る。
「…いらっしゃいませ」
ーーーーーいた。
早速、目的としていた人物の顔が真っ先にクロノの視線の中に映し出された
しかも、何故か執事服で丁重にこちらをもてなしてくれている。
先日、交戦した時のあのプレッシャーが嘘の様だ。
クロノはなんとも違和感を抱きつつも、接触したうちはイタチに案内され、店の中にある一角の席に座る。
「では、お客様、注文が終わりましたらまたお呼び下さい…」
「…あ、あぁ、わかった」
そう言い残して彼はクロノの前から立ち去り次の仕事にへと移っている。
そんな立ち去る後ろ姿を見ていたクロノは接触した彼の自分に対しての行動に疑問を抱く
(…こちらに気付いていないのか?…一度は接触した筈で顔を覚えられていてもおかしく無いんだが…)
そう先日の交戦の際にクロノはイタチから幻術を掛けられ、無理やり口を割らされ情報を聞き出されるという出来事だ
あれだけの事をしといて果たして自分の顔を忘れるものだろうか?
すると暫くして、自分自身が座っている机に何時の間にか一枚の紙が置かれている事に彼は気付いた
クロノは左右を見渡し誰かに見られていないかを確認すると、
先程、自分をこの席へと案内した店で働いているイタチの姿に一度視界を止め、ゆっくりと視線を落として机に置かれた紙を手に取り、
それをゆっくり開いて内容を確認し始める
『 本日、夕方五時に海鳴町の外れにある浜辺にて待つ 』
短く、至極簡単な文章であったが、それが自分自身の事を既に向こうが把握している事をクロノが悟るには充分な物であった…
同時に彼は働いているイタチにもう一度視線を戻した。
だが、視線の先のイタチは一人の少女となにやら軽く会話を交わしている。
確か、ユーノが連絡先で言っていた魔法少女の高町なのはだ…
大体ここは、彼女の両親や家族が働いている店だ彼女が居てもなんら不思議は無い
そう、わかっていた。
だからこそ、疑問があった、彼がこの店で働いている事。
まぁ、それは後ほど聞けば分かる事だ
ひとまず、店を訪れたクロノは適当に店にある食べ物を注文し、彼によって書かれた文章が刻まれた紙をジーンズのポケットへと仕舞うと翠屋から静かに姿を消した
その立ち去るクロノの後ろ姿を眼でチラリとだけ確認するイタチ
そんなイタチの視線に気付いたのか、先程まで話していたなのはは不思議そうに首を傾げている。
「…?どうしたのイタチさん?」
まるで、何かを確認するように視線を外した彼に問いかけるなのは、
イタチはそんな彼女に対して柔らかく微笑み、何事もなかった様にこう答えた。
「ーーーーーいや、何…ちょっと小煩さそうな小鳥がいただけだ」
「ーーーー小鳥?」
イタチの奇妙な言動に思わず聞き返すなのは、イタチはそんななのはに、あぁ と簡単な返事を返すと先程までの言葉を紡ぐ様に話しを続ける。
「…色んな事で悩み苦しんでいる哀れな小鳥…さ…」
「…………」
イタチの呟く様に紡ぐその言葉に理解が出来ず目を丸くするなのは。
すると、イタチはそんな彼女の表情にクスっと笑いいつも通り、柔らかくこう言った。
「…さて、仕事に戻らないと…なのは、また後でゆっくり話そう」
そう言ってイタチは素早く店の仕事にへと再び戻り始める
そんな優しいイタチの背中をは黙って見つめるなのは。
謎に包まれてばかりの彼は果たして、自分の知らない、何を知っているのだろうか?
これまで、彼と話してきて彼の人柄や優しさに触れたなのはは、魔法少女である自分の事を、そして、自分とユーノが集めているジュエルシードについてイタチが既に知り尽くしているのではという疑惑が少なからず頭の中から離れないでいた
彼はもしかしたら、何か重大な秘密を自分に隠しているのでは無いか…と
だが、今のなのはにはそんな事をイタチに問いただす等出来ない
親しい間柄のイタチとのこの関係をなのはは壊したくない。
(…イタチさん…何者なんだろう…)
心の底でイタチに対する疑問を呟くなのは。
彼女は一人、暫く沈黙したまま、働くイタチの背中を見つめたまま、なんとも言えない感情を抱えてその場で立ち尽くしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
日が沈みかけ、綺麗な夕焼けが海鳴町を照らす夕刻五時。
一人の少年はとある人物を静かに波を立てる砂浜の近くにて探していた。
(…確か、この辺りの筈なんだが…)
先程、訪れた翠屋という店で今回の接触するターゲットから他の人物に悟られない様に渡された白い紙。
そこには、簡単な文章の表記されており、現在自分がいる場所が合流地と記されていた訳だが、
それとは他に、何時の間にか場所を細かく表記された用紙が少年自身のポケットの中に忍び込まされていた。
(…なんて奴だ…)
こんな、早技を身につけている人物に対して、最早少年は驚きの言葉しか出てこない。
少年はこれから接触する人物が只者では無い事を改めて実感した。
そうしている内に、夕焼けが沈みかけた砂浜に腰掛けている一人の人物が彼の視界に入ってきた
彼は哀しく儚げな瞳で沈みゆく、夕焼けを眺めている。
クロノはそんな彼の元にゆっくりと歩を進め、静かに腰を下ろしている彼の側で立ち止まった
「…海の向こうに沈む夕焼け…か、随分とロマンチックだな」
「…そう…だな、久々にこんな綺麗なモノを観た気がするよ…」
彼の側で立ち止まったクロノの言葉に笑みを溢して応える男。
そして、男は一息つくと砂浜から立ち上がり、彼に向かってゆっくりと口を開いて話し出した。
「ーーーー自己紹介がまだだったね…」
立ち上がった彼はそう言うとゆっくりと彼の目の前に右手を差し出す
「ーー…うちはイタチだ…君は?」
「…クロノ ハラオウンです…」
自分の名前を名乗ると同時に差し出されたイタチの右手に左手で握手を交わすクロノ。
ーーーーこれが…管理局の執務官である彼と…罪人…うちはイタチとの出会いだった。