ねこ本来の治癒力にリカバリーガールが『個性』でブーストすると…ねこはぐったりしたけれど、みるみる内に怪我が回復していくのでリハビリまで付き合ってくれている主治医先生は自分の顎が外れても自分で嵌め直すようになっていた。
引子もいろんな驚きで、どんな顔をすればいいのかわからない…というように当惑しながらもねこを応援した。
個性社会バンザイ。つまり、ねこは
いま現在ねこはオールマイトと、兄とねことで叙〇苑に来ていた。もちろん彼の奢りで。
悪いですよ〜なんて当初遠慮していた兄だって黙々と肉を喰らい注文し、焼いている合間になんとか理性を取り戻している有様だった。ねこ?ねこって完全肉食性動物なんだよね。
快気祝いと銘打って来た
肉だけじゃない、もちろん米も野菜も何もかも美味い。ドカ食い気絶部の勢いでたいらげるねこと兄を見て満足そうに笑いながらチビチビやるオールマイトの皿からも、たまにかっ攫う。(彼は胃袋と…あとなんだっけ、何かないらしいのでとってくれて構わないと言われていた)
実際来たものの
「でもオールマイト、ほんとに良いんですか?」「食べ放題以外の焼肉の味を初めて知った…」
「ハハハ、この位なんてことないさ。気にせず食べてくれ。」
ナムルや、偶に肉…それとねこ達からたまに少し米をもらって、ゆっくり食べる男は下瞼を持ち上げて笑う。
ねこも兄も本当によく食べるので、ドガガガーッと注文して卓の上はほとんど肉の皿で埋まる。網の上に肉が上がりきった皿を片っ端から重ねてひとまとめにして奥に皿を移動させていく、その間にオールマイトが適当に肉を注文しておく。あと、絶えず米。
一番初めに焼いた肉と、タレと米を一緒に食べようと考えた
たまの気まぐれでサラダをつまんだりするけど。ねこは基本に忠実、肉肉米肉タレ肉米タレ肉タレ米肉米タレ米タレ肉タレ米タレ米タレ……タレが多くない?当たり前だ、米はタレでイケる。
逆に兄はというと肉肉肉肉肉肉タレ肉タレ肉肉肉タレ米肉タレ米冷麺サラダ肉肉その他色々肉…というように満遍なく
兄とねこは、あの
差し入れと称してス〇バの新作ドリンクやプロテイン入りスムージー、時にはファストフード店のテイクアウトを持ってきてくれるのが
まあ、そんな訳ですっかり
お勘定は気付いたら終わっていたらしく、あまりのスマートさにねこ達は震えた。オールマイトって凄い…!いつもはねこと兄もトントンくらいでよく食べるのだけれど、今回は怪我を治すための減った体力ぶんまで食べたので…ねこは兄の1.5倍ほどは悠に食べていた。
「めちゃくちゃ美味かった…………」「だね………………」
「何よりだ。このまま君たちの家まで送るよ」
「いつもながらありがとうございます……!!!」
「たすかる…」
満腹で食後の運動も出来ないくらいのふたりは大人しくシートベルトをつけて、後ろに流れていく景色をボンヤリ見つめていた。もう夜7時だ、道路も混み始めて来たぐらいの時間帯。
彼は法定速度も遵守するし、ゆったりと落ち着いた運転なので…ラジオパーソナリティの選んだ知らない曲と、とても小さな鼻唄の流れる車内でねこはこっくりこっくりと寝てしまった。
フ、と目が覚めたら
朝からねこは保健室に寄っていた。一応リカバリーガールに診せに行かなければいけないためにひとりトボトボ来ていた。
「来た…」
「もう松葉杖もいらないなんて…一昨日も診たけど本当にびっくりするさね」
「うん、リハビリも終わらした」
「『個性』…。ねこちゃん、個性は異形型で合ってるかい?」
「見たまんまじゃにゃあの」
「それが見たまんまともいかないのさ」
「ねこだから分からんにゃ〜」
話しながらもテキパキと触診や状態の観察と診断を済ませる
「問題は完全にナシ。
「つまり…」「ケチの付けようもない健康体ってことよ、この後職員室に寄りなさいな。担任が待ってるよ」
「
「調子はどうだ、緑谷寝子。」
無言のサムズアップ。つまりバッチグーだ。
「大体ぜんぶ治った。でもまだ一応無理は禁物って」
「早ェな。体育祭はどうする?」
「出る!やりたい!たのしみだよねこは!」
いつもは兄に流されがちのねこだけど、体育祭だけは毎年ワクワクで観てた。ねこ自身がその中に入るとは露とも思わなかったし――実際流れで受かっちゃっただけだけど、この日ばかりはテレビの中継をコップ片手に前のめりで観ていた。
突然だが、寝子の趣味はパルクールだ。『個性』もあって、靱やかな筋肉と柔らかな身体…高所でも物怖じしないので中学生とかそのぐらいからやっている。体を動かして遊ぶのも好きだったために、出久や勝己の遊びに平然とついて来る…むしろ追い越して居なくなったと思えば後ろに着いてきていたり。
この一週間まともに動けやしなかった!そもそも、あの時間ですらまともに動いてない!…なのでめちゃくちゃ動きたい盛りだった。
担任…相澤は眉間を解し、首をゴキゴキと回して、フゥーー…と嘆息する。
「あのなぁ、緑谷妹。時間は有限だ…にしたって、身体はひとつっきりだ。わかるか?」
「つまり?」
「いいよ!!」
体育祭まであと一週間だが、しっかり保健室に通えよ。と締めくくってねこと担任は教室へと向かった。
「お早う。」「おはようございます!!」
彼は開きっぱなしのドアに向かって手招きをした。クラスには一週間前から空席がひとつある。
「早く入れ、
「――ねこ、復活。」「早く席に戻れ」「ウス」
なんとも間の抜けた様子で、怪我なんてなかったよとばかりにピンピンしている寝子は当然めちゃくちゃ質問責めにあって…暫く出久の背から離れなかった。家でも、引子からの心配や心配に心配が多くてずっと出久に張り付いていたんだった。
兄の背から離れないままに、時は流れてついに体育祭当日。
「皆準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
控え室にクラスメイト全員が集まって、入場時間を待っていた。雄英体育祭では、公平を期すために生徒全員一律で体操着を着ることになっている。(雄英ブランドの周知もあるが、)
「
「轟くん……」「何だ。」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「会話をしろ」「へ!?まあでも、うん…」
「「それはそうだな。」」
「おまえ達はオールマイトに目ぇかけられてるよな。そこを詮索するつもりはねぇが………緑谷
「!!」
「
「ねこには!?」
「どうせ病み上がりだろ。」
「ンだとこんにゃろ〜〜〜〜!!!!!」
「ねこ待って!ステイステイステイキャット!ねこ〜!」
「宣戦布告か!!?直前にケンカ腰はやめろって…」
「仲良しごっこじゃねぇ。分かってんだろ」
…
「轟くんがっ、何を思って言ってるかは、わかんないけ、ど…。そりゃ君の方が上だ、よ。客、観的にみても実力なんてっ大半の人に敵わないと思う。それこそ、
轟に殴り掛かろうとするねこを羽交い締めにしながら、出久は言う。
「出久もネガティブなこと言わねえ方がいいんじゃ…」
「でも…!!」
「皆…それこそ他の科の人も、全員…本気なんだ。」
「僕だって………遅れをとるわけにはいかないんだ。」
「――――僕も本気で獲りに行く!」
「ねこだってライバルさ」
もちろん!とハグをして、呼ばれたので入場口の前にふたりも移動した。
出久の口の中は乾いていて、深呼吸を繰り返したとこで過呼吸気味になってやめた。寝子は体を揺らして、しきりに片方欠けてしまったままの耳をピコピコ動かしていた。楽しみだけど、緊張もしているんだ。
いつも繋いでいる手は各々で握りしめていて。まだ扉は開いていないので暗く、出久は――ねこの顔をチラと覗いたけれど、微かに口もとが見えるぐらいで…それはゆるく弧を描いていた。
しんと冷えた
マイクのスイッチが入ったことで、キーーンとハウリングのような音が会場に響く。観客、ヒーローたちのさざめきも引く波のように静まり。会場全体がひとつのいきものの如く、不思議な一体感をもっている。その異様な光景には思わずテレビ中継から見ているものですら固唾を飲んだ。
『雄英体育祭――!!ヒーローの卵たちが我こそは、とシノギを削る年に一度の大バトル!!』
『どうせてめーらアレだろ!?
『――――ヒーロー科!!』
『1年!!!――――A組だろぉぉ!!!?』
ワアアァッと歓声があがる。観客たちの目線も、関心もカメラですらも――1ーAに向けられていた。プロヒーローたちの見定めるような視線。敵からの襲撃を凌いだかの組への無邪気な期待の眼差しは、大衆から。子どもからの無垢な憧れも、潜伏する敵からの悪意も、その一瞬ばかりは全て1ーAに向いていた。
「わあああ…人がすんごい…」「これもまたヒーローの素養を養うための一環だ。」「緊張するな…!」「ただただアガるだけだろ」
思い思いにしているけれど、彼らに共通して言えることは――優勝を目指す。ということだった。
『B組に続いて――普通科C・D・E組…!!』
『サポート科、F・G・H組もきたぞー!そして経営科――――……』
彼らが知る知らないにせよ、想いは交錯する。その果てには一体どうなるのか?――それはまだ、誰も知らなかった。