三日目。きょうもいい天気でした。いやそもそも室内光しか浴びてないけれど…。
今日は朝から三半規管を鍛えるトレーニングだった。かるく身体を解したら前転後転バク転にサマーソルトキック!最後変じゃない?いやそんなことは無い。手加減はしてくれているけれど、途中からプッシーキャッツの四人みんなしてねこの周りに陣取ってFFお構いなしに攻撃してきたからだ!
ねこはそれを決まった範囲外に出ないよう躱さなくちゃいけなくて、その範囲が狭いものだから殴り掛かる腕の上に飛び乗ったり、片手で身体を支えて尻尾で位置調整だとか、はたまた跳び箱みたいに躱す、上体反らしで……
適宜ラグドールが隙をサーチ&マンダレイがテレパス!そして主なデストロイは虎&ピクシーボブが担当していた。気分は下手くそな曲芸!頭もグルングルン動くし目が回って死んじゃいそー!ってねこはずっと思っていたけど、不思議と吐くことも気分が悪くなることも無かった。
しかし車には酔った。今日の午後は街に出てパトロールをしながらサックリと流れの説明をするらしい。遠くを見つめながらねこはぼんやり話を聞きながす。集中すると酔うから。
「普通は行きも帰りも徒歩なんだけどね、今日は私もラグドールも…キティちゃんも詰めっぱなしだったから息がつまらないよう来たの!」
「…虎さんとマンダレイは?」
「あのふたりは留守番!ヒーローは特殊だけど一応公務員で―――――」
手元のカンペを隠そうともせずピクシーボブがヒーローの実務を説明し、それにラグドールが細かな補足を入れる。ヒーローも水商売的側面があるので、時々中断して市民へファンサで応える。
ねこは以前まで激しい高低差のある場所間の移動が苦手だったのだけれど、あんな変なトレーニングで三半規管ってなんとかなるものだったんだ…と思い直した。今は適当な公園に寄って、ねこの
パトロールも恙無く終わり――その後四人全員と組手になった。もちろん、全員と同時に!なんて無茶難題じゃなくてひとりひとりとだ。
「2Dから3Dになったみたいだ。全然ちがう」
「ひと皮剥けたな。動きが目に見えて変わったぞ」
ねこは結局負けたけど、初めて虎に一発当てられた。ほかの三人は辛勝できた!(ピクシーボブとかは『個性』が使えていたら分からなかったけれど…)
ねこはこれまでアクロバティックな動きだったり、激しく動くのがめっきりダメだった。少しなら大丈夫だけれど、5分10分ともなると途中で吐く。ただこれまでの三日間で乗り物以外ならたぶん大丈夫!ってぐらいには克服でき――いやぶっちゃけ椅子でずっとグルングルンされたのは吐くかと思ったけど吐かなかった――、それこそ二次元的な動き、しかも瞬発力がウリなのに速くしすぎると吐く…から三次元的な動きが出来るようになった。
瞬発力…速度のリミッターが解除されて変速的・無理な動きでも柔軟性からある程度は無視して動いてくるようになりマンダレイには身体に密着して交わしながら関節を(なんとか)極めて勝利。ピクシーボブはヒット&アウェイの蓄積した疲労で鈍ったところで両手を拘束。ラグドールに対しては初手から踏み込んで、アクションされる前に何とか勝った。
虎?………………………………………といったふうにコツを掴み、メキメキと技量を吸収し、苦手なところの克服と猫としての特性の活かし方をビシバシ叩き込まれることはや4日。
――――――もう、『ねこ』は帰る時間だ。
事務所の前でひとりひとりとハグをして、言葉を交わして別れを告げてねこは家に直帰した。兄は既に帰宅していたようで、リビングの扉を開けると職場体験先での話を母親に語っていた。そしてねこはゆっくりと荷物を下ろして、そこでようやく声をかけた。
「ただいま」
「「おかえり!」」
兄は何かテレビでやってたらしい敵の確保に貢献したらしい(これは他言無用だそう)、それと…なんかベランダみたいな名前のヒーローの下で、いっぱい学んだと。そう満面の笑みで語る兄も、確かに成長しているようで――――…
「ねこはどうだった?」
「ねこは、――――どれから話そうかな。話したいことが沢山あって…」
「じゃあまずはさ――――――」
ベッドの中に入っても、クスクス話してた僕たちは夜更かしも程々にとの声でようやく静かになって――でも最後にはおやすみなさい。で寝たんだった。
そして翌日。いや、薄々気付いていたしなんなら分かってもいたけど……
「ねこの職場体験、ナンカチガウ………!!!」
兄の背中にへばりついているねこも、そりゃあ少しぐらいは変化があったと思うけど…でもあいつの8:2頭とか、ウラウラの目覚めにはまける気がする。
メガネも、クラスメイトも何かはあったみたいだけど…
「そろそろ始業だ!!!席につきたまえ!」
ねこは聴こえが良くなってしまったその耳をパタリと伏せた。
「ハイ私が来た。」
「ヌルッときたな」
「そして緑谷妹はまた居ると…」
「ハッ…!ねこくん早く降りなさい!」
「フ…今のねこを捉えようなどと無駄なことを…」
「訳分からん動きで捕まるまいとしてる…」
「今のねこはまさにスター状態!つまり…あにゃ〜〜〜〜」
「じゃあ気を取り直して久しぶりだな少年少女!元気か!?」
「締まらないな〜」
残念!あえなく捕まって放流されたねこは大人しく説明を聞き流す。(かなしいことに、今のねこは聞き流していても頭に内容が入ってくる…)
密集工業地帯を模した運動場γは複雑に入り組んだ迷路のような細道が多いそうで、ここのどこかで救難信号を出したオールマイトを五人で競争しながら助けに向かうといった内容だ。兄は1番はじめのチーム…全体的にこれに有利そうな『個性』持ちのチームに組み込まれてしまった。
「クラスでも機動力高いやつが集まったなー」
「飯田まだ完治してないんだろ?」
「強いていうなら緑谷さんが不利だけれど…」
「ま、確かにぶっちゃけまだあいつの評価は定まらないよね」
「何か成す度大怪我してますから…ねこさんはどうです?」
「なんか変に自信あるみたいだから
「俺瀬呂が一位だと――」
「デクは最下位。」
「ケガのハンデがあっても――」
そんなことをよそにSTARTと合図はかかる。まず瀬呂がいの一番にテープを使って上から行こうとするけれど、その脇を兄が通り抜けていった。
足場にしたところは一部抉れていたりで、なにかの動物…猫というよりも兎みたいにピョンピョン…ダンダンドムドム跳ねる。そしてその身体はどこも瑕疵がない!
「制御出来るようになって――――あ。」
(!!!)
足を踏み外してズルっと落下一直線だった兄はやっぱり最下位。抜けてる…。何やらオールマイトに耳打ちされ、ズムズムねこの方に来た!
「ねこ、これ終わったら一緒についてきてほしい」
「うん」
「じゃあそろそろ次の組も位置についてくれ!」
「もう行く。一位とってくるよ」
「次は――常闇くん麗日さん上鳴くんに…かっちゃんか、頑張って!」
無言のサムズアップで返し、ねこはとっとと位置についた。必ず建物の1番上で立っているということだから楽だ。
「―も…どこまでやれるかな」
兄もこんな気持ちだった?この一週間で鍛えた力を試せる環境、修行できるって嬉しさ!らしくもなくドキドキしてる胸を押さえつけて、ジャケットのボタンを留めて…母から貰っていた耳が出せる航空帽も固定した。でっかいゴーグルをつけて…
「START!!」
勢いよく飛び出した。
手頃な裏道に入って少しの窓枠、僅かなパイプ。僅かな突起や時には壁を蹴って最優先で上まで上がる。
辺りを見渡せば――――ねこの耳にオールマイトの微かな声が引っ掛かった。もちろんそれ以外の余分な音も。飛んでいった先にある壁に手をつき32°修正。
兄のように――といってもあれほどカッ飛んでいるわけでもなく、細いパイプの上を渡ったりだとかは普通にする――トットッ、トッと渡って走って駆けて落ちて遊んで…凄い!全然気持ち悪くならない!
ひとしきりねこが感動したぐらいでオールマイトのもとに一番乗り!についたねこは…彼とほか四人を気分ウキウキのままに待った。
それで顔が煤で汚れたので普通にキレる。気に食わないからといってねこに当たるな。動物虐待!器物損壊罪!
二番乗りの常闇に少し遅れて来たアイツは腹いせにねこの顔を爆破したんだった。もちろんキレて…ふたりしてオールマイトにこってり叱られた。
いつもねこはクラスメイトとは時間をずらして更衣室を利用しているのだけれど、今日はちょっと急がなければいけないのでそそくさと着替える。
「そういえばねこちゃんも女の子だったわね…(2回目)」
「デクくんとそっくりだからいつも全然意識してなかった…!」
「なんだ、じろじろ見ることでもないんじゃにゃいの」
「いやでもねこちゃん超バッキバキ!シックスパックが浮き出てるよ…!!」
「いつもズボン履いてるから男の子かと思ってた」(葉隠さんは体育祭の時早々に着替えていたので女装した出久だと思っていたのだ!)
――一方男子更衣室の方では。出久を手招きする峰田が居た。
「おい緑谷!!やべェ事が発覚した!!こっちゃ来い!!」
「ん?」
「見ろよこの穴ショーシャンク!恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!!隣はそうさ――わかるだろう!?女子更衣室!!」
「峰田くんやめたまえ!ノゾキは立派なハンザイ行為だ!」
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよなァァ!!」
「峰田くん…!覗いても特に利は無いと思う!」
「うるせェ!女兄妹が居るやつにゃオイラの気持ちは分からない!!八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディに緑谷のナイス腰つき!蛙吹の意外おっぱァアア゛ア゛ア゛ーーー!!!!!」
「耳郎さんのイヤホンジャック…、正確さと不意打ちの凶悪コンボが強み!!」
「目から爆音があああ゛あ゛」
「ありがと響香ちゃん」
「なんて卑劣…!!すぐに塞いでしまいましょう!!」
八百万の創造物でさっくりとその穴は厳重封印され。ねこもパッパと着替え終わって仮眠室へ先に向かった。
ねこは先に行ったそうで、僕も遅れて仮眠室に向かった。ドアを開けるとただオールマイトは「掛けなさい」と。
ねこも向かい側の椅子のうち片方に掛けていたので、僕はもう片方に座る。いつもの雰囲気と全然違うからか、なんだか緊張してしまって僕はしきりに唾を飲み込んだ。
「色々――…大変だったな、緑谷少年。近くにいてやれずすまなかった」
「おまえが謝ることではなくないか」
「…、あっ。それより…ワン・フォー・オールの話って…」
「ああ。君ヒーロー殺しに血を舐められたと聞いたよ」
「えっ」
「あ…はい。血を取り入れて体の自由を奪う『個性』で…それが何か?」
「君に力を渡した時に言ったこと、覚えているかい?」
「『食え』…」
「ッ…。たぶんちがっ、ふふ。DNAウンタラカンタラじゃにゃあの」
「ザッツライト。その通りだねこくん、『DNAを取り込められるなら何でも良い』と言った」
「!…じゃあまさか」
「ヒーロー殺しに…?」
「いやないよ。スッカリ忘れてたのね。……ワン・フォー・オールは持ち主が渡したいと思った相手にしか譲渡されないんだ。」
「無理矢理奪われることはない。無理矢理渡すことはできるがね、――特別な『個性』なのさ。その成り立ちですらね。ここからが大事なオハナシだ、よくきけ緑谷くんたち」
「ワン・フォー・オールは元々ある一つの『個性』から派生したものだ。名前は…オール・フォー・ワン。他者から『個性』を奪い己がものとし――そしてソレを他者に与えることのできる『個性』だ。」
「オール………皆は…一人の為…、?」
「世界は僕の為にある…?」
オールマイトの表情はいつになく重く。話の衝撃も僕にとっては凄くビックリするものだった。何より、この『個性』が派生したものなんて考えたこともなかったので、ずっとびっくりしていた。ねこはなんてことないようにツンとすました顔をしていて、オールマイトはずっと俯いていたんだった。ひと口お茶を飲んで落ち着いてから…訥々と話し始めて、僕とねこはそれに耳を傾けている。
「!、…超常黎明期からの話だ。社会がまだ変化に対応しきれていない頃…突如として人間という規格が崩れ去った…それだけで法は意味を失い、文明は歩みを止めた。」
「教科書で読んだ。当時の首相やら政治家のもとに異形型が生まれただけで、支持率はガクンと落ちたと。」
「『超常が起きなければ今頃人類は恒星間旅行を楽しんでただろう』って昔の偉い人も言ってましたね」
「そう、そんな混沌の時代にあって一早く人々をまとめあげた人物がいた。と聞いたことはあるかな…。人々から『個性』を奪い、圧倒的な力によってその勢力を拡げ…」
「悪の支配者…?ネットとかだと噂話をよく見ますけど…」
「ただのネットロアじゃにゃあのか」
「裏稼業の所業を教科書には載せんだろうよ。」
「…その話がワン・フォー・オールにどう繋がってくるんですか?」
「――彼には弟が居たそうだ。」
「にゃ?」
「無個性だったそうだ。彼は体も小さくひ弱だったが、正義感の強い男だった…!兄の所業に心を痛め…抗い続ける男だった。そしてそんな弟に彼は力をストックする『個性』を無理矢理与えた。その理由はわからないが…」
「あの…オールマイト、僕が『個性』を受け取る時に下手したら四肢が爆発四散って…」
「『個性』を与えられた人はおおまかに二通りの道を辿る。その負荷に耐えきれず物言わぬ人形のようになるか…『個性』が変異し混ざり合うか。」
「そいつは?無個性だったんだろ」
「いや…一応は宿っていたのさ。自身も周りも気付きようのない、『個性』を与えるだけという意味のない『個性』が!!
力をストックする『個性』と与える『個性』が混ざりあった!――これがワン・フォー・オールのオリジンさ。」
「「………!!」」
「皮肉な話さ、正義はいつも悪より生まれ出ずる。」
「にゃんで今その話を?」
「うん!大昔の悪人だし…きっと死んで…」
「『個性』を奪える人間だぜ?何でもアリさ、成長を止める『個性』か何か…きっと奪い取ったんだろう。」
「!!」
「半永久的に生き続けるだろう悪の象徴…覆しようのない戦力差に当時の社会情勢。敗北を予見した弟は後世に託すことにしたんだ。――今は適わずとも、少しずつその力を培って――…いつか奴を止めうる力となってくれ…と。」
「じゃあ、おまえのその傷…」
「察しがいいな、ねこくんは。…遂に私の代で奴を討ち取った!!ハズだったのだが…――――奴は生き延び、敵連合のブレーンとして再び動き出している。
ワン・フォー・オールはいわばオール・フォー・ワンを倒す為受け継がれた力!君はいつか奴と対決しなければならない……かもしれん。酷な話にはなるが…」
「頑張ります……!!」
「―――」
「オールマイトの頼み…何が何でも応えます!あなたが、…それとねこもいてくれれば僕はきっと何でも出来る…出来そうな感じですから!!」
「…………!………」
「………………ありがとう。」
凄い話だったけど日常はこうして続いてくわけで。
「「遅れました(!)」」
「席に戻れ。えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが丸々ひと月休める道理はない。」
「「まさか…!」」
「夏休み林間合宿やるぞ」
「知ってたよ――やったーー!!」
「!」
「ねこ?」
「にゃんでも。タノシ、ミだ。ニャ〜…?」
途端ワッと沸き立つ教室内。肝試しや花火、カレーやお風呂に…一部の真面目なクラスメイトは自然環境下での活動訓練とか正しい選択をとか言っているけれど、まあ。楽しみなんだ。
「ただし」
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ。」
「みんな頑張ろーぜ!!」
「クソ下らねー」
「女子ガンバレよ!」
結局僕がやるべきことは変わらないのだ。
当初の構想では神野区であっさり終わる予定でしたが予定変更です。無事(?)解放戦線あたりぐらいまで続く…かもしれません!乞うご期待!
連載ってスゴイネー 毎日ストック無いのでひいこら書いてます