猫の命も9つまで!    作:継木

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緑谷 寝子:オリジン

 

 その後、その後――は…あまり、覚えていない。なぜだか思い出せない。ただ、少年が死んだという事だけは。ハッキリと覚えている。

 

 むしゃくしゃする!()()()()()()()()()()と猫の耳を――彼女(ねこ)は乱暴に掻き混ぜた。

 ――――――少女の名前は緑谷寝子。()()()()()――()()()()だ。

 

 

 

「えーーーおまえらも三年という事で!!」

「本格的に将来を考えていく時期だ!!」

 あー来たよ。この時間。…

 折寺中学校。季節は春。窓際からは春風にさらわれて桜の花弁も舞うようなタイミング。そして3階教室で皆やるだろう――進路希望だ!

教卓の前で教師は進路希望のプリントを整え、そしてぶちまけた。

 

 

「皆!!だいたいヒーロー科志望だよね」

 

ハ〜イ!

 

 やんちゃなあの子も、大人しそうなメガネ君だって堪らず手を挙げる。各々が『個性』を発動し、岩になったり、物を浮かせたり首を伸ばす!俯いているアイツだって髪をピンと伸ばし、武骨なあいつは制服を破いた。

 そんな、とっても個性的な生徒達の陰でこっそり手を挙げるくせ毛の()()()。…もちろん、ねこの兄(緑谷出久)しか居ない。なんの縁か、双子揃って同じクラスになることが多く「今年もかー」「そうだな」とクラス発表を見に行って話し合っていた。ツマラナイ。

 

 促しておいて、校則にある個性発動の禁止を説くというのもこれまたつまらない。ねこ――緑谷寝子は机に突っ伏して、それでチラッと窓際を見てから寝ることに決めた。

 

 しかし早速寝子の眠りを邪魔する者がいた。

「せんせえーーッ『皆』とかいっしょくたにすんなよ!」

 

(うるさ…)

「俺はこんな没個性共と仲良く底辺なんかいかねぇ。」

 爆豪勝己だ。その全方位攻撃する本人の『爆破』めいた宣誓と、先生の言った――ヤツの志望校で教室がにわかにザワつく。

 倍率300倍以上。偏差値79オーバー。そう、国立の――()()高校志望だったからだ。どうやら模試はA判定、自信満々にトップヒーローになり!それで――と野望を口にする爆豪をよそに投下されたひと言。

 

「あ。そいやぁ緑谷()も雄英志望だったな。」

 

 

 色めきたっていた教室内の全員が兄を振り向いた。それから一拍。教室は嘲笑の嵐で、兄は肩身狭そうに――まるで(ヴィラン)に囲まれてるみたいにくしゃりと顔を歪める。

 

「緑谷ァ!?ハハハハッ!ムリっしょ!」「いくら勉強が出来てもおツムだけじゃヒーローにはなれないんでちゅよ〜」「ギャハハハハ」「お前面白いジョークも言えるんだな!見直したわ〜!」「せめて100歩譲って()の方じゃない?」「ぷッ、どっちも無理でしょ」「違いない!」

 

「…そっ、…そんな規定もうないよ!ただ…」

「うん。前例がないだけだね…」

「おい こら」

 

「デク!」

 

 

 机が爆破されて兄もすこし吹き飛ぶ。あーあ、新学期だっていうのに関わらず、早々に机がプスプスと煙を上げている。

 

()個性どころか無個性(デクの坊)のお前がさァ、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」

「待っ、違、…いや違うよまってかっちゃん!いや、別に張り合おうとかそんなの全然ッ、思ってもみなかったし。」

「あ?」

「ただ、………小さい頃からの、目標。夢なんだ。それに、その…」

 

「やってみないと、わかんないし……」

「何がやってみないとだ!記念受験のことか!?」

 

 

 

 それを、ただ見ているねこが居た。ねこの事だ。ずっと見ていた。兄を、出久を。

 ねこは、ずっとねこだった。そしてその瞬間でも、やっぱり、『猫』だった。

 

 

 事の始まりはなんか中国!光る赤子の電撃ニュース!以降各地で超常は発見され…時は流れ…世界総人口のおよそ8割が何らかの『特異体質』=『個性』、かつて誰もが憧れたあの職業(ヒーロー)架空(ゆめ)から現実に。脚光を浴びていた。

 

 ――しかし、だとしてもやっぱり何も変わらない。それがねこの得た結論だ。だって、あまりにもソレ(英雄)は無力過ぎた。

 齢四歳にして知った社会(みんな)現実(常識)。ヒーロー飽和社会ののけもの(無個性)。こんな時代になってもまだ――人は生まれながらに平等じゃない。勿論ねこは除くよ。ねこだから

 爆豪勝己――兄いわくかっちゃん、と遊んでるのを見ながら人間はよく分からないなぁとねこはやっぱり思った。それが、ねこの結論(諦観)だ。

 

 

「諦めた方が――…」

「そんな――」

 

「――やっぱり()()()()()()()()()?」

 

 兄の顔は真っ青で、母親も色んな顔が混ざっていた。あんなに大切にしていたやつ(オールマイト)の玩具が落ちた時のガシャッて音がやけに大きく響いて、うるさかった。

 

「――昔『超常』黎明期に一つの研究結果が発表されてね」

 兄の足の指のレントゲンを指して、医者は言う

 

「足の指の関節が()()() ()()()――」

「いやあ出久くんは珍しい。この世代じゃあ珍しいですよ」

「医者、つまり」

 おっとお嬢ちゃんきみもか、と言うその医者の視線はねこ…の目より上に向いている。

 

「はあ、…ええとつまり何の『個性』も宿ってない―関節が2つある型ってことだよ」

「ねこも」

 ?。…この場にいる人間の目が全てねこに向く。一挙一動が見られている。

「ねこも、小指よくまがるぞ。ほら。」

 履いてたスリッパを脱いでニギュニギュ動かす。

 

 

「透過斎くん、ちょっと簡易的に撮ってくれ」

「はい。」

 

 

 

 数分後、隣のものほど細かくはないけど、白黒写真が持ってこられた。ねこのだ。

「ううんたしかに。関節が2つある…。本来『個性』のない型のはずなのに。」

 ちょっと触らせてもらっていいかな、と聞かれてねこはうんって答えた。

 

「その、血族に猫や動物に関する個性などは」

「ないです」

「――これは珍しいね」

 さしずめ個性は『猫』?そう聞かれて、なんだかゾワゾワする。落ち着かない、落ち着かない。

 かえって変に落ち着いた出久は、寝子が居心地悪そうに体を揺らしていた事をやけに覚えている。自分が無個性だって事が分かったのもあって、半ば焼き付いたような思い出(トラウマ)。お母さんとお医者さんが話してた事は全く覚えてなかったけど、けして忘れられ(忘れる訳)ない記憶だった。

 

「大丈夫…大丈夫…。お兄ちゃん(ぼく)、が、居るから………!」

「ねこは平気だよ。平気だよ、平気…………。」

 ねこよりも酷い顔してるくせに、兄はねこを安心させるように抱きついて、ねこの背中を撫でていた。ねこの肩は濡れてたけど、あまり気にならなかった。

 

 

 帰りは雨が降っていて。結露で曇った窓に兄が何かを書いて、またすぐ曇った。ワイパーがこまめに動いていて…薄暗い車内でぼんやりカーナビを見つめるねこと運転する母親。

 誰も何も話さない。湿度が重さを持ったみたいに気まずかった。椅子の下からエアコンで暖かい風が吹き付けてくる。

 より一層窓ガラスは曇って、斜め後ろから見える母親の顔はあまり伺えなかった。兄は、…ぼんやりと外を覗いていて、もちろんガラスは曇っていたので。その、震える背中しかねこにはわからないんだった。

 

 

 

 

 

 

 

「兄、ぃッ!」

 

 どぷりと、粘着質な音がする。後ろからだ。息を荒らげ、ハァハァと整えようとするソイツが見ているのは――緑谷出久だ。

 

 ひと声もあげれずに呑まれる。(ヴィラン)!?

 

 いきなり現れて、僕の身体全体を包み込んでまとわりつく敵に僕は何もすることが出来ずにいた。

「Mサイズの隠れミノ…。ハ――ハ―ハ…、大丈―夫身体を乗っ取るだけさ。落ち着けよ少年。」

「兄を、離、せッ!」

「おいおい邪魔するなよクソガキ――掴めるわけないだろ、流動的なんだからさァ!!」

「うるせェーッ!ねこは母親にッ、兄を、守れって!!!」

 ねこがその敵に襲いかかる。が、『猫』とはいえ爪が生えてるわけでもない、ナゾの個性。なにも出来ない。

 

「たったの45秒だぜ…すぐ楽になるよ」

 死にもの狂いで僕から敵を引き剥がそうとする寝子だけど、言った通りに流動体なものだからほとほと意味をなさなかった。

 

 

 息、出来なッ…身体が…力入ら…

死ぬ! 死ぬのか!?僕っ!誰かっ!!助け、っねこ!寝子!死ぬっ!!まだ、まだ何も為せてないのに…!ここで死ぬのか!?

 

 ――――――――嫌ぁッ……

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫だ少年。」

 

 

 

 ソイツが出てきたマンホールの蓋が跳ね飛ばされて、天井にめり込んだ。パラパラと塵が落ちてきたことで時間が止まったわけではないと、ねこはようやく理解した。

 

 

「私が来た!」

 

 パノラマみたいなその空間で、オールマイトだけが動きはじめる。

 

 

「TEXAS…………………

   ――――――――――――SMASH!!」

 

 ヒーローは遅れてやってくるっていうらしい。でもそのヒーローは遅れなかった。

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが、天井にめり込んだマンホールの蓋を戻し終えた頃にちょうど兄も目を覚ました。その拳圧だけで流動的な肉体を持つ(ヴィラン)を吹き飛ばしたのだが、やはり、間近だったもので。兄も少しの間気絶していたんだった。

「オッ…………ま………本当(マジ)?」

「兄、おめでとう。そして…オールマイトさん、ありがとうございます。」

「HAHAHAHA良かったーーーー!!元気そうで何より!巻き込んで悪かったね。いつもはこんなミスしないんだけど――――…」

 

 ウカれちゃったからかなーッ?!No.1ヒーロー、オールマイト(生ける伝説)は言う。ねこはソイツを嫌ってほど知ってた。何故って、兄はヒーロー(オールマイト)オタク(ギーク)だからだ。

 

「ねこ!本物………本物だよッ!生だとやっぱり――画風が全然違う!!!!」

「いたい。ねこを叩くな。動物虐待だ、器物破損罪だ。」

 兄は頬を紅潮させて興奮したように(実際してるだろう)ねこの背を叩く。信じられないといった様相だ。

 

「あっそうだ!えと、サイっ、サイン!このノートに!」

 出久は焼け焦げたノートを慌ただしく開く

「してあるーーーー!!!!」

 

「わァあぁ……!ありがとうございます!!家宝に!家の宝にしますッ!!」

「ねこじゃどうしようも無かった。ありがとう」

「じゃあ私はこいつを警察に届けに行くよ!液晶越しにまた会おう!!」

「そんな、まだ…!」

 オールマイトはおもむろにしゃがみこむ。そう、まるで力を溜めているようにして――

「聞きたい事が……!」

 それで、「応援よろしくねー」と間延びした声で言いながら飛んで行った。

 

()()()()()

 

 

 突然だが、ねこの個性は『猫』らしい。かといって見た目に(あらわ)れているのはこの耳と尻尾くらい。身体能力はそこそこいいし、身体も柔らかい。高所だって平気だし、細いところを抜けるのは好きだ。だってねこだもの。

 

 

 そんな訳で――追うのである。

 馬鹿なのか。無個性らしいのに、兄は兎角無謀なんだった。現に今だって空を飛ぶオールマイトに腕力で引っ付いている。

 風圧で口の中とか瞼をめくらせながらなにやら話している感じだったけどもちろん聞こえるはずもない。と、そこでオールマイト(たち)がとあるビルの上に着地した。それを見たねこはパルクールの要領で壁を蹴り昇っていく。

 

 

()()()()()()()()で助けてくれる!」

 

 ねこが上につく頃、(推定)オールマイトのいる場所辺りに煙がもうもうとたちこめていて…兄がなにか話していた。

 

「あなたみたいな()()のヒーローに、僕も………」

 そこから現れたのは――

 

「ぉぉおおああああ――――――――ッ!!??!?!?!!?」

「?!!?!」

 金髪の スケルトンが あらわれた!

 ねこの毛はボワボワ逆立ち兄はギャースカ叫んでる。元気なものだ。

 

 骸骨男は「私はオールマイトさ」と言った。

 兄は、それに「嘘だ――!」と返す。

「プールでよく腹筋力み続けてる人がいるだろう?」骸骨男が言った。

 こくりと頷く。

「アレさ!」吐血しながらオールマイト(仮)は言った。「ちょっ、血、おまえ血が!」

 

 

「ハハ、恐れ知らずの()()ね……」

 病人のにおいだ。その…オールマイトからはどこか…ねこが死ぬ前みたいな、そうじゃないようなフワフワした感じの匂いがする。膿んでいるみたいな…。

 

「おまえ、どうした。」

「ねこ!」

「最近の少年少女ってモンは鋭いね…。いいよ、見られたついでにこれも見せようか。」

 

 ねこと兄が他言無用だぞ?と念押しされて見せられたのは、でかい傷跡だった。

 

 

「5年前…(ヴィラン)の襲撃で負った傷だ。」

「ヒッ」「……おおう」

 中々に壮絶だった。華開いたようなかたちの傷跡を晒しながら淡々と、ただオールマイトは語る。

 

 

 

「呼吸器官は半壊し、胃袋は全摘出した。度重なる手術、後遺症ですっかり憔悴してしまってね。

 

 ――ヒーローとしての活動時間はもう一日に3時間程なのさ

 

 

 

 

 

 

 

 もしかして、ねこ今大変なこと聞いてる?

 

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