「僕はただ弔を助けに来ただけだが――戦おうというのならば受けて立つよ。」
ここで話は唐突に戻る。ちょうどねこのバースデイ、
「なんせ僕ァおまえが憎い。かつてその拳で僕の仲間を次々と潰し回ってさ、お前は平和の象徴と謳われる。」
「…」
「
かぶりを振って、大仰な身振りで笑うオール・フォー・ワンの攻撃を強引に打ち消したオールマイトはしかし、血を吐きながらも自身の後方にあるビル群が気掛かりで仕方なかった。積み上がった瓦礫の山の中から逃げ遅れたひとを他のヒーローが助けているに違いないと、そう思ってはいるものの。此奴と戦っていると自然と周辺被害が大きくなってしまう。以前もそうだった…
「ヒーローは多いよなあ、守るものが」
「黙れ」
「貴様はそうやって――人を弄ぶ!!…壊し!奪い!つけ入り支配する!」
「日々暮らす方々を!人の善性を!理不尽が嘲り嗤う!」
「私は!それが!許せない!!」
「――
打ち込んだ拳、その感触はゴムのようにブニとしたもので。己の右半身はもうマッスルフォームの維持ができなくなり、左からも力が抜けはじめていて息も整えられない有様だったが…そのせいか拳は頭蓋で止められて、目も鼻も耳もない…のっぺりとした相貌が工業地帯のようなマスクの内から顔を出す。
「同じようなセリフを
「ワン・フォー・オール先代継承者、志村奈々から…」
「はぁッ、…貴様の…穢れた口で…!お師匠の名前を呼ぶなッ!」
「理想ばかりが先行し、まるで実力の伴わない女だった…!ワン・フォー・オールの生みの親として恥ずかしくなったよ、実にみっともない死に様だった。…さてどこから話そうか……」
「―――ッ!!」
吹き飛ばされ、あわや報道のヘリにぶつかりそうになったところでグラントリノに助けられる。「奴と言葉を交わすな!」「……はい…」ここが修羅場の正念どころ、今ここで私が折れたらほかに――…
「――でもねオールマイト。君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだぜ?」
「僕は君の師を殺したが…君も僕の築き上げてきたものを奪っただろう?失ったものでいうならば僕の方がうんと多いに違いない」
「耳を貸すな!」
「――だから君には、可能な限り醜く惨たらしい死を迎えて欲しいんだ!」
「ッ、避けて反撃しなければ――」
「良いのかな?」
「だから君が守り続けたものを奪う」と、一層苛烈になったその衝撃波めいた攻撃をその身で
「まず、その矜恃からだ。さあ――惨めな姿を世間に晒せよ、
「私は…私が、
「……そっか」
「何故ならば――私の心は依然として平和の象徴!!!其れは一欠片たりとて奪えるものじゃあない!!」
「素晴らしいね!まいったよ…君が強情なのを忘れてた。」
パチパチパチとわざとらしく褒め称えられるのはかえって神経を逆撫でられる。昔からこうだ、人を食ったような態度!嘲りでもなく、いや、多少はあるだろうけれど…本心からこうしているのに違いはない。性善説を語る純粋悪、騙る言葉に真実なんてないのだから
「じゃあ
「――――――――」
「君が嫌がることをずぅっと考えてた。」
「――君と弔が会う機会をつくった。…きみは弔を下したね、何も知らず――勝ち誇った笑顔でさ」
「――――嘘、を」
「事実さ、分かってるだろ?僕のやりそうな事だ。まさか
「
「
「緑谷少女…?彼女と貴様にいったい何の関係が…?どうせ貴様は彼女をグラントリノと同じように
「何がおかしい?」
「いや……なに、平和の象徴。笑顔はどうした?」
両頬を持ち上げてくつくつわらう仇敵の姿がどうにもお師匠の姿と重なって…、最後まで笑って別れたお師匠はこいつに殺された!思わず歯を食いしばり、「き…、さま…!」わなわなと力んだ体はしかし…どうにもできず…
彼が――ご家族。彼が!!!
「〜〜〜、ォオオオ――……!!」
「やはり…楽しいな!一欠片でも奪えたかな、」
…
朧げながら、走馬灯のように…線香花火のような輝きを放つ残り火を感じた。ワン・フォー・オールの残り火。騙し騙し、油を注ぎ足し燃していたこの篝火。宵の明星。ひは没せど…善性という光りを、希望をその
ジリジリと、この身のうちをその焔は焦がす。
――限界だーって感じたら思い出せ
――何の為に拳を握るのか。
『
――
『その為には…
その嵐のただ中にあっても。風雪に晒されても。たとえ
「――お嬢さん、勿論さ。」
「ああ、…多いよ!ヒーローは…!
――
体は腕ひとつ持ち上げるだけで軋んで、体躯に合わない戦闘服はうちに風をはらんで僅かにひらめいた。とうに限界は超えているのは、この片腕だけのマッスルフォームが雄弁に物語っているだろう。それがどうした?限界すらも
『八木俊典?』
『――この国には今、柱がないんだって。だから自分がその柱になるんだと、』
ごうごうと燃え盛る焔は私の腕のかたちを取り、この総てを燃やし尽す。
「――渾身。それが、最後の一振りだねオールマイト。…手負いの
「――――なんだ貴様…。その姿はなんだオールマイトォ!!!」
「なんだその、ッ情けない背中は!!」
「応援上映か?人気ものだなあオールマイト!観客なら観客らしく…第四の壁なんぞ踏み越えてくれるなよ」
「抜かせ破壊者、俺たちは助けに来たんだ。」
「!」
「我々…にはこんなことしか出来ぬ、あなたの背負うものを…少しでも…!」
「虎…」
「あの邪悪な輩をどうか止めてくれ!オールマイト…!皆あなたの勝利を願っている…!!」
「――みんな、あなたの未来を…信じている!」
「煩わしい。…精神論で物事を語るなよ、現実の話をしようじゃないか」
『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3『増殖』『肥大化』『鋲』『エアウォーク』『槍骨』…それらを掛け合わせたと語るオール・フォー・ワンの腕はソイツ自身と同じほどに歪。
隕石の落ちてきたような衝撃を、遥か高くまで吹き飛ばされる衝撃を。
「――先生としても君の負けだ。」
「そうだよ、」
「――――先生として、私も…!――」
燎原の火さ。全部燃して、
「浅い」
「――――そりゃアッ、腰が入ってなかったからな!!!」
――このことは
晩ご飯前の時間になって、うつ伏せで寝ていた出久は携帯の通知を見…海浜公園に駆け出してった。息を切らしながらも直ぐさま駆けつけた彼は…到着するなりオールマイトに駆け寄ろうとして…
「――テキサス…SMASH!」
オールマイトに殴られ転がった。十中八九、あの日
「ごめん…っ、ごめんな緑谷少年…!ねこくんの安否はまだ、分かってないんだ…!!!」
「――――――」
「彼女は、私の目の前でワープゲートに呑まれてしまった…!」
「…はい。」
「私のせいだ、不甲斐ない…………!!!」
「…………そんなこと、」
「いいや私が油断したから――彼女は連れ去られてしまった!」
「〜〜――――…!」
「――今後私は君の育成に専念していく。ワン・フォー・オールの残り火も消え、燃えカスだ。そして緑谷少年、君は毎度毎度飛び出して行っては身体を壊し続ける…!」
「…はい」
「だから今回!君が初めて――怪我をせずに窮地を脱したこと、凄く嬉しい。」
「でも、オ゛ォル゛マ゛イト…っ僕…」
「ねこくんは、きっと生きている…!」
「一度振り払われてしまった手でも…助゛けら゛れま゛ずかっ」
「ああ」
「きっと彼女の本心じゃないさ。ヤツになにかされてしまったんだろう…!」
「うう゛っ……………あ゛…」
「君たちは…………いや、……」
「ゔあ゛あ゛あ゛あ゛…」
――その泣き虫、なおさないとって言ったろう。
僕のほほに残る、じんじんとした痛みと、それからピリと涙が沁みた引っかき傷が。僕に
ねこの僕よりも暖かな体温。僕にそっくりで、でも確かに違うあの顔。産まれてから殆どくっついていたとお母さんは話していたけれど――別離にしてはあまりにも無機質すぎる別れが、まさか来るなんて思ってもみなかったけれど………
その日は散々に泣いて、休校のメール配信があったと伝えられて。小学校の時みたいに部屋に引き篭って、でも…無遠慮に腕を掴んで連れ出してくれるねこはもう居ない。
トレーニングすら最低をこなして、広すぎる部屋に。繰り返し観た動画は、そらで浮かぶぐらいなのでとうに消していた。がらんどうの部屋に、のしかかってくる重みに、広すぎるベッドに泣いて、泣いて泣いて。
「出久?今日…家庭訪問だよ…」
それでも、僕よりもひどく憔悴したお母さんを無視することなんて出来なくて…
キンコーン。ひとり分うら寂しくなった家にチャイムが鳴って。何を話すわけでもなくプログラミングでもされたようにリビングテーブルに座った僕たちの空気はひどく重かった。
「――先ずは、一人の人間として。緑谷寝子少女が攫われてしまったのはひとえに私の責任…ひいては、学校の責任になります。」
「…はい。」
「しかしそれでもなお、話を聞いてくださると。私どもの事をまだ信じてくださるということに…心よりの謝罪と感謝を。」
「本題を話しましょう。雄英の全寮制の話…ですよね」
「全寮制!?」
「はい。度重なる敵襲撃とそれに関わる防犯面の件から――」
「その件、ですが……………私嫌です。」
「娘が帰って来ないんです。…寝子……あの子。いい子なんですよ」
「はい。存じております…」
「その上息子も…出久も。知ってますよね、八木さん。出久は『個性』が出なくて…それでもあなたに憧れ続けてきました。」
「ふたりとも…ボロボロなんです。雄英に入ってから、ボロボロになっていくんです。――出久の腕のこと知ってますか?これ以上怪我が増えると動かなくなるかもしれないって…!」
「……はい。」
「先日の戦いはテレビで拝見しました。一人の一般市民としては感謝しています。
が…親としては心配で仕方が無かったです、八木さんの事もですけど…
「…………………はい。」
「わ、わた…私…『無個性』のまま、ヒーローの活躍を嬉しそうに眺めている方が…そしてそれに付き合っていた方が二人にとっても幸せだったんじゃないのかって。…そう、思ってしまったんです…!」
「お母さん!」
「出久、あなた達に言ったわ。応援してるけれど…心配しないって事では無いって…このまま雄英に通いたいよね、――でも、ごめんね出久、寝子……!!」
「…………」
「ハッキリ、申し上げます。私はふたりの親として…――今の雄英高校を信用しておりません。そこまで、肝が据わっていません。」
多分後日くらいに修正入れます。夢中で書いていたらこんな時間だと気付いたからです。
追記:入れました!