「飽きた。もうねこだけ先に帰りたい。」
「ここらでちょうど半分ぐらいだ。帰るのにはオススメしない」
「まだあるの!?…もういい、弔が代わりに歩いてくれ」
「は?…あ゛〜……引っ張れって?尻尾ひっ掴むぞ」
「それも
「黙って歩け」
「「…………」」
…
動く屍体かサラリーマンか。
「ここだ」
「えらく殺風景な事務所だな」
「ゴチャついたレイアウトは好みじゃないんだ。」
「地下をグルグル30分」
「蟻か土竜にでもなった気分だ。」
「ああ、どうなってんだヤクザの家ってのは」
「どちらか一方が話せ、聞いてて頭が痛くなってくる」
「じゃあ弔だな」
「ああ。」
「で、だ!先日の電話の件、本当なんだろうね。条件次第でウチに与するってのは」
「…都合のいい解釈をするな。そっちは敵連合の名前が欲しい、俺たちは勢力を拡大したい。お互いニーズは合致している訳だ」
二人掛けのソファに弔はドサリと大きく座る。ど真ん中に掛けたのでねこは座ろうか座らないか悩んで…ちっちゃい奴みたいに肘置きのとこに腰掛ける。ちっちゃい奴は顔もクソも分からにゃんだが
ねこは明るくても暗くても目が効くので、相手の
「「下ろしてくれないか?」と言えよ、若頭。本来頭を下げる立場だろ」
「行儀悪いぜ、弔」
「ねこは黙ってろ」「横暴だな」
「…先ず、傘下にはならん。俺たちは俺たちの好きなように動く。五分だ――いわゆる提携って形なら協力してやるよ」
「それが条件か」
「…もう一つ。おまえの言っていた
「調子に乗るなよ。自由すぎるでしょう色々」
「さっきから何様だチンピラがァ!!!」
肩を竦めたねこは、爪を弄る…フリをして後ろに立つのとちっちゃい奴の様子を伺っていた。顔が見えずとも姿勢で、態度である程度は推し量れるもので…弔が話すたび不機嫌になっていってるのがあからさまに分かった。
予め決めていた二つ目の条件を提示するや否やソイツらは身を乗り出して弔に銃口を、肥大化した腕を突きつけて。ねこはそれらの首元に爪を添えるだけだった。
「随分血の気が多いな、スジモンってにゃあ。」
「…そっちこそ何様だ?ザコヤクザの使い捨て前提肉壁と
「そうだそうだ。マグネはねこに煮干しをくれる」「黒霧からも貰ってるだろ…、それにプラスして腕一本分だ。びた一文まけられない」
「………クロノ、ミミック。下がれ――それと
「…」
「せっかく前向きに検討してくれて来たんだ。――最後まで聞こう、話の途中だった。」
「…うん。コレ見ろ、コイツを撃ち込まれてからコンプレスは暫く『個性』が使えなくなってたぞ。」
「何だこれは?これで何をするつもりだ?「教えろよ」」
「はぁ、――――理を、壊すんだよ。」
取り敢えず将棋持ってこい。と配置された将棋盤…だけど死柄木はルールを知らなかった。
「指した事ないのか」
「やらん」「知らん」「「片付けろ」」
「まァそう言うな、これを機会に嗜むといい。局面が見渡せるようになるぞ」
「ふーん」
「将棋の面白いところは――相手から奪った駒を使えるところにある。黒霧か渡我、分倍河原を八斎會に入れる。好きに動かれちゃあコッチも不安だ。」
「好き嫌いは良くないぜ。ソイツら便利すぎる、欲張りは
「動きは削ぐってか…ウチの要だそいつらは!!ンなにやれるか、せめて黒霧の代わりに
「…役に立つのか?」
「体術メインだ。後で手合わせでも見せようか」
「乱波を呼んどけ、…信頼を築こう。今はまだ遺恨を遺している。こっちは計画の全貌をさらけ出した、次はそっちの番だ――――
「死合かオバホ!」「オーバーホール様だ」
なんかうるさいのが来たにゃあ…。ねこは二重の意味でそう思った。かたや見るからに
「…もしかしてコイツらとやるの?」
「闘うのは
「ケンカか!」
くいっと親指で、それぞれ拳闘士の方とねこの方をさして若頭…オバホは立ち上がった。手合わせできるとこに案内してくれるらしい…、ねこはハーやだなめんどくさいにゃ〜ダルいにゃ〜寝た〜いなんて思いながら弔に手を返す。ねこは噛みつきも充分にするので帰って邪魔だし、破損なんかしちゃったら普通に申し訳なくなるからだ。
「!お前…」
「神野区の…、天下の雄英生が
「ねこは
「殺し合いだ、本気でいこう」
「手合わせだろ…殺すなよ」
「なんだつまらん」
「ステゴロでいいか」
「分かってるなお前。良いネコだ、ケンカに銃や刃物は無粋だろう」
「爪…」
「その身に宿した力だ、ルール無用の何でもありで行こう」
「乗った」「乗るな。…いいか殺すなよ」
「…何、
ラッパとの
『個性』が何かは知らにゃあが、ラッシュの勢いがやばい。膂力も見た感じヤバそうで…肩系の増強型とねこは見る。シンプルイズベストで強いから下手な搦手は逆効果だ、直ぐに反応して後ろに向き直るソイツの背中に爪を突き立てて…ラッパが振り向いた勢いのままにもう一度距離をとる。
「反射神経バケモンか?ねこじゃなきゃ…わっ!避けれてにゃんだろ」
「俺も拳を避けられたのは久々だ!やるなネコ!」
「ギリッ、ギリだよ!」
「
「攻める隙が無い…!」
矢継ぎ早に迫り来る拳を避けるだけでねこは割と必死なのに、距離をとろうとしたらより一層踏み込んでくる。…本当に腕二本?四本腕の『個性』とかじゃなくて?
体格差や『個性』を鑑みると一発当たるだけでも
ねこに戦闘狂のケは微塵も無かったけれども、明確な成長を感じとり――そしてそれはこの闘いの最中でもしていて――ねこ自身、その成長と高揚を確かに自覚していた。
「膠着状態か…」
「思ったよりは動けるな。…………気は…本っ当に進まないが、多少の欠損ぐらいなら治してやれる。」
「あ、そう。」
攻勢に転ずることは出来なくとも、反撃は出来る。腕を伸ばして、戻る時のその刹那にどうしようもないことだけれど――独特なリズムと隙をねこは見出した。
乱波も、始めのうちはカスっていたりしたこの拳が…その服にすら当たらなくなったという事実に高揚していた。
「全然当たらなくなった!力のぶつけ合いとはまた違うがコレも良いな!!」
「おまえみたいな奴から受けたらッ、一発でねこはダウンだぜ!…ハハハハ…ねこが疲れるのと、おまえが疲れるの!どっちが!早いかな!?」
ねこは賢いので、空中に跳び上って回避なんてバカなまねはしなかった。堅実に、着実に、そして時には予想外に地を蹴りラッパを掴み尻尾で方向転換から後ろに退いて脇をすり抜けて。直ぐ詰めてくると分かってきてからは付かず離れずの距離で避け続けていた。
お互いに決定打が無い。乱波にはねこに当てる方法が、ねこには一撃必殺の火力が。ワンチャン狙いでかかと落としや顎を狙う手もなくは無かったけれども確実性が低い。腕一本は覚悟しないといけないだろう。
ねこは、生まれてはじめての壁にぶち当たったことを自覚する。今までは流されるまま、ついて行ったり、あるいは理不尽に、『個性』の相性が悪くて、そんな負けだった。雄英の入試だって、何となくで入れてしまったものだし…――――たのしい。愉しい、楽しい!
ここまで真正面から立ちはだかる
これまで選ばない策、選ばなかった策すら
「次で決めよう!!」
余談だが、猫の爪は切り裂くというよりも――引っ掛けるという方に向いている。鉤のように引っ掛けて、抉りとるような。
乱波は先程よりも一振り一振りに力を込めて、しかしその拳は僅かに遅くなった。ねこはそこに賭ける!
少し距離をとって詰めてくるのを待ち、避けるフェイントを織りまぜながらねこが
「ッ、ギ……ィィ…!」
「これでまだ止まらないか!いいな!楽しい!!」
「絶対、…勝つ!!!」
ねこは乱波の懐に潜り込んで…そのまま下から顎を狙ってカチ上げ――――――るわけでもなく、スルリと背中側に回り込んで思い切り爪を立てる。肉を抉りとられながらも直ぐ振り返ろうとする乱波の背に、冒頭のようにしがみついて…左腕の骨はいよいよ砕けた痛みを激しく主張し始めたけれども、辛うじて使えなくもない左の爪をその首に突き立てて――
そして
「天蓋!!バリア解け!まだやれる!!!」
「これは
「命を賭した
「ウチのを勝手に殺されちゃ困る…」
「乱波」
「………。…またこいつと闘えるか?」
「どうでもいい。早く治してやってくれ、今ので充分だろ?可愛い妹分なんだ」
「…………はぁ、言った手前…やるしかないか。」
オーバーホールはずっと着けていたその白い手袋をおもむろに外し…激痛から気絶していたねこに近寄る。
「は?お前何する――」
「黙って見ておけ」
飛び出そうとした弔の周りにバリアが貼られ、そしてオーバーホールはねこの体に触れて…バツン。マグネのように弾け散ったと思いきや…次の瞬間には元通り、…いや上半身の服は無くなっていたけれど………
「…!?痛くない!イヤ痛かったけども!」
「『個性』か…?」
「今日のところはさっさと帰れ。……………」
ねこはビクリと痙攣して…それから何も無かったみたいに起き上がり自身の体をぺたぺた触ってほへ〜と間抜け顔を晒しているので、弔は何だか損したような気持ちになったけれど。まア無事ならいいとかぶりを振って…促されるままにさっさと帰りを急いだ。
ケンカしてたせいで遅れた!なんてパァってわらうねこと、
「
「あー――…」
「協力する方向だ。いやあ楽しかった!もっと頑張りたかったにゃあ…」
「八斎會と協力するだって……!?」
シュッシュッとシャドーボクシングするねこは、口元も緩んで(割と珍しいことに!)あからさまにご機嫌だったけれど…その口から出てきた内容はご機嫌なものじゃなかった。
「ああ!何度も言わせるな、あちらの計画には充分な旨みがある。」
「
「つまんねぇ冗談だ面白えよ死柄木…!!!」
「黒霧も持ってかれそうだったのをねこにした。」「実際、あいつはあいつで今大事な案件に取りかかってるしな。ああ、移動については地下の―――……」
「何が旨みだよ!!」
「…」
「冷徹ぶりゃリーダーか!?ねこちゃんもねこちゃんだ、二人して感化されちまったかあのマスク野郎によ!!!――あいつはマグ姉を殺したんだぞ?コンプレスの腕もぶっ飛ばしたんだ!」
「ついでにねこも吹っ飛ばされてきた」
「…、あいつは…!
その双肩を掴んで、トゥワイスは慟哭する。弔の表情は手で覆われて見えない――ねこはというとこちらも不思議そうな…きょとんとした、イマイチぴんと来ないような顔を浮かべていた。
「ねこちゃんは付き合い短ぇから…あんまり分かんないと思うけどさ、…トガちゃんもよォ!!何とか言えよ!!!」
「――――弔くんにとって、
ト、と腰掛けていた机から降りて、トガはクルクル回る。クルクル回って近付いて、クルクル回ったままにナイフを突き付けた。
「―私にとって
「出来るものならしてみたいと思うのです。
――ねェ弔くん、何のために辛くて嫌なことしなきゃいけないの?」
「………」
「…そうだな。――俺と、おまえたちの為だ。」
「トゥガイスは有用。おまえ達を外堀から取り込んで…懐柔、従えたくて仕方が無いらしい。」
「ハナから対等になんて考えてないのさ、」
「これが
「ああ、俺はおまえたちを――信じてる」
相槌をポンポン挟んでテンポよく話が進む、トゥガイス…トガとトゥワイス、それとおまけにねこは――こうして死穢八斎會への出向が決まったんだった。
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