猫の命も9つまで!    作:継木

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笑えよヒーロー

 

 

 緑谷出久も一足遅れて退院の日取りだ。

 病院からお見舞いに来ていた緑谷引子は、ようやく現実に立ち返って…そして現在(いま)()る。

 

 

「…その力(『OFA』)は…無個性だから保持できて………だから悪い人に、狙われる」

どうなっちゃうんですか。…どう、なってしまうんですか?

「…守る手筈は進めています。雄英であれば――」

「雄英には戻りません。」

「少年…」

「出久…!そんな、()()()()()()()()()()()()…………

 

 

 

 緑谷引子(母親)には、緑谷寝子()はもう死んだという事になって情報が伝えられていた。幸いな事に、情報は完全に隔離されていて――緑谷引子は積極的に外出することも無かったので。彼女は空がよく見える部屋でベッドと、机に本棚…アルバム。そこでずっと静養をしていたのだ。

 

「死柄木弔は僕の居場所を捕捉できる。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その前に死柄木とAFOを止めなきゃなんだ」

「でも適わなかったから、こんな事に…なって………」

 

「――強くなる」

やだ……!こんなの、()()()()()()()()………。…やだよ…!…出久………!…あなたまで、あなたまでもを失いたくないの…………!!」

「―――……。、――ありがとうって、笑ったんだ。

 

 

 

「ねこが(ヴィラン)役で――僕がヒーロー役の。いつかの日に、ありがとうって…笑ってくれたのが、嬉しくて。僕はそれが―――嬉しくて。()()()、お母さん。大丈夫だよ―――……」

 

「――だから。()()()()()、あの想いが――僕の心にある限り、大丈夫!僕は必ず帰ってくる!

 

 

 

 

 泣きながら崩れ落ちる引子(母親)を支えるのは、少し歪んだ右手と未だ残る傷跡が痛々しい右腕の――緑谷出久。

 約束しますと。彼を守り育てると――(しっか)りと約束した記憶が、オールマイト自身の脳内で鮮明に思い起こされる。それから、緑谷少年と若かりし頃の己が重なって――……揺さぶった。

 

…どうせ…!止めても行くんだろう……!!―――ならば私も…!たとえ君が嫌だと言おうとも………!!!」

 

 

 

 

 

 その後はすんなりと。現在のトップ3とチームアップを組むことになる、とトントン拍子に物語は進む。

 未だ横たわったままのグラントリノからの激励と――

 

「――どうするにせよ、敵連合(あいつら)に落とし前つけてこい。」

 

 

 そのマントをもらって、四月。

 

 緑谷出久は、ヒーローアカデミアを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在――雄英や士傑を筆頭とした避難所で生活をしている者と、ダツゴク…、徒党を組んだ敵にヒーロー。それから…自衛はする!と息巻く居残り組があった。もちろんその中の一部には脳無も含まれているが、個体数は少ないので割愛――

 警察はダツゴクへの対応もあって手一杯な訳で。自警団を組んだ居残り組などは…ただ目を付けられないように息を潜めるのみ。とある者は「まるで超常黎明期(時代が逆行しているか)のようだ」とも。

 デトネラット社の不正に横流しされたサポートアイテムや訓練されていない者による『個性』の行使は甚大な被害をもたらし、また先の全面戦争で多くの優秀なヒーロー達が没したことで人手も足りず民衆の鬱憤は溜まるばかりだった。エンデヴァーやホークスなどは石を投げられる始末。

 

 この暗雲たちこめて鬱屈した空気感でいっぱいの人々の矛先は――ヒーローに向いた。

 当然の帰結だ。

 一桁代に居たヒーローですら辞職したことを皮切りにヒーローがどんどん減っていく。辞めていく。一の罵声が、十の、百の声援に勝り…奇しくも。かつてステインが問いかけたような――()()()()()()

 ヒーローであることの、その意味が問われている。

 彼ら(ヒーロー)は今一度(ふるい)にかけられているんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――ではここで一方の(ヴィラン)側――…死柄木たちと、その周辺の話をしよう。このご時世(ヴィラン)なんて大雑把な括りだと…市民たちですら違法行為をしてるんだ、それ(ヴィラン)は異様に多くなってしまう。

 

 さて、死柄木弔の肉体――その精神と人格は今…(AFO)の予想外になるまで渾沌としていた。本来では――二ヶ月の休養…後にセントラル病院での解析結果で出ることになるその期間をかけて完全に『AFO』がマスターピースと成る(死柄木弔の肉体を乗っ取り)、掌握する予定であった。

 しかし現実(実際)そうなっていない。本来支配出来たようなその想い――破壊衝動がこれまでの想定を凌駕し膨れ上がった事で――ふたりは侵食――溶融――し合って、A()F()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が生まれようとしていたんだった。

 

 ()()を。ねこは見ている。

 

 

 

 死柄木(『個性』)(なか)から。あるいは(そと)から。両方からただ見ている。ねこは傍らの男(オール・フォー・ワン)以上に死柄木弔の内実(うち)を理解していて――しかしそれを伝える必然性を感じていなかったので、ただ撫ぜられているばかりだった。

 

 いま、コイツ(死柄木弔)の中では――弔と、『AFO』と、それとたまによく分からないのがグルグルになっている。それを9分の1のヒゲが敏感に受けとって、でねこに伝わってくる。

 

 

 

 

 アーキタイプが産声を上げてからおおよそ一週間が経過していた。

 

 まず手始めに服を揃えられて…コイツは、前を開けたシャツに黒のスーツ。ねこはあの個性制御装置から着替えて、スーツはジャケットを羽織るだけしてネクタイピンと()()の金具はシルバー。――そう、首輪だ。割とゴツめの、黒い革の首輪をねこは装着られている。

 それで死柄木弔は、そこらにあったボロきれとスーツというなんともチグハグな姿だった。

 ねこのネクタイは何をどう結んだのか、首輪の金具と絡められていて。長く前に垂らした部分がリードのような感じに(不本意ながら)なってしまっていた。ねこが何かやっちゃってたり、食事の時に服を汚しすぎてたりをすると窘めるようにぐいっと引かれてつんのめる。目も鼻も無い(潰れてる)ってのににゃんでバレるんだ……………。

 

 

 

 

 ここにはねこの他に、こいつと、死柄木弔とスピナーとが居た。

 

 

「いや〜、トカゲもよくこんなしみったれた洞窟に居るよにゃあ…。荼毘とかトガなんて早々にどっか行ったし、スペ…、……?あのネチネチはネット環境を求めて旅立った。」

「燈矢くん達にも夢があるのさ。それに友保くん*1のやりたいだろう事はここだとやりにくいだろうよ。…ああ――、そうだ。伊口くん、今は何時かな」

「は?――ええと、今、は………」

 

 唐突に振られたバトンに困惑しながらも携帯を見れば23時58分、ちなみに今日は4月3日だった。

 もうそろそろだね。だにゃあ。と謎に通じあっているAFOとねこ(ふたりのこと)がよく分からない。

 

 

「――え、聞いてなかったか。そういうの…」

「……?、4月4日に何かあるのか」

「それは――…」

 

 丁度、日付も変わる。

 

 

「「誕生日おめでとう、死柄木弔!」」

 

「え、ぁ――…。……死柄木、ハッピーバースデー…トゥ、ユー?」

「………………。…………」

 

 

「じゃあねこもそろそろ行くよ。誕生日は大切らしいから、これだけでもやっときたかったんだ」

 

 

 

 

 

 呆然としているスピナーと、己の事で手一杯な死柄木弔を置いて、そそくさとねこは黒い液体…『転送』に呑まれていった。

 ポカー…ンとするスピナーはかぶりをふって再起動する。そして想像がつくだろう――…

 

 

 

「どういう事だ!?」

「なに、ちょっとした()()()()だよ。今日明日ぐらいには――灰堀(あそこ)に辿り着く筈だから、本当は昨日の時点で向かわせておきたかったんだけど…ねこの(かわいい)ワガママなら振り回されるのが飼い主ってものだろ?弔を祝ってからと言うものだから、ギリギリになってしまった」

「灰堀…って確か、CRC(異形排斥集団)のアジトがあった………」

 

 

 何に?誰が?なんで?どういう事?数多の疑問符を呑み込んで、聞き覚えのある単語からなんとか連想をしたもの―CRCの元アジトの場所だというのは合っていたらしい。

 

「心ってのは――実に流動的だ。だからちゃあんと契約不履行の場合にも備えておいたよ…」

「契約?って…」

 

「おっと、伊口くん(きみ)は知らないんだったか。僕はタルタロスから出てくる時に幾らかお友達を見繕っていてね――……すこし話しただけですぐに意気投合したよ!()()の望む、ヒーロー社会の破滅のために、その助けになればと思ってね。『個性』(ちから)をあげたんだ。……なに、ちょっとしたものさ。背中を押す程度――、()()()()()()()()()()()!きっとやりとげてくれるだろうよ」

 

「――…その、彼女って言うのは―ぁ、ねこじゃ無いよな?」

 

「まさか!ねこはちょっかいを出しに行っているだけさ。彼女というのは――………叛逆のヒーロー、麗しきレディ・ナガンの事だ。

 

 

 彼女も実に哀れだ!偽りの(超常)社会を維持する為の歯車が――…そのハリボテ(虚像)に憧れ夢見た、いたいけな少女だなんて。そう言ってスピナーが聞かされたのは…、飾り立てられていないであろう超人(いびつな)社会の真実(しくみ)

 

 

 

 

「結局()()まで――いいように使われるだけ。呪うならその恵まれし『個性』を呪え――憐れで――哀しい、レディ・ナガン…」

 

「…………………。………ちょっかいっていうのは別に、そんなに急がなくてもいいんじゃねえのか。別に、そんなに真面目にやらなくても…」

「大真面目だぜ、僕は。こうした遊び心こそ大切にしないと!それに寝子も――兄と会えて嬉しいだろう?僕からも言伝を頼んでおいたしさ、フフ……愉しみで仕方がないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『転送』の行先は、適当に外に居た脳無で。

 なんせあの洞窟、色々が揃ってるのはいいけど…出口までが曲がり曲がって超〜長い。まさか天井を突き破りながら行くわけにもいかないしで、わざわざ一度外に自分を『転送』したんだった。(ねこは『転送』を自身に使えるようになっていた。習熟したためだろうか)

 

 目的地の方向を渡された携帯でブレがないよう確認して…ねこは跳んだ。

 かつて死柄木弔がしたような、『個性』抜きの純粋な脚力をもって跳んだんだった。途中からは『浮遊』して、身体を振るった風圧で(さながらオールマイトのように)移動するようになったけれど…まあ早いものだった。月の光を浴びながら、夜の闇に紛れてねこは翔る。夜の闇に溶け込むような()()髪と尻尾をたなびかせて――

 

 荼毘からもう使わなくなったぶんの染髪料をもらって、癖のある髪も少し短く整えたねこは黒髪黒しっぽ。ツヤもない真っ黒だ。

 減速してきたらたまに着地して、地を割るほどの踏み込みからまた跳躍する。ちょっぴり急ぎ足で着いた洋館はギリギリセーフ!壊れてなかったのでまだだったらしい、中で寝てた荼毘を適当に『転送』(飛ば)してねこは着替え始めた。と、言っても…シャツはそのまま、首輪もそのままに上と下を変えるだけだ。

 あとはここで待つだけだ。大丈夫、ねこは燃費がすごくいい。最悪来なくても一週間内には迎えに来てくれるし…で、ねこは床に横たわって寝た。

 

 

 目覚め(その時)を待って…ぐっすりと寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トップ3、それからMt.レディにシンリンカムイ…エッジショットと共に突き止めたこの――異形排斥集団CRCの元アジトだったらしい洋館に、緑谷出久は来ていた。

 

「皆さんよろしくお願いします」

「慎重にな」

「デク、逸るんじゃない!」

 

(だって――AFOと死柄木は、まだ『OFA』を奪えるような状態じゃないんだから、はやく、早くしないと)

 

 

 黄色いマントをたなびかせて――勢いよく扉を開けた。空は12時前だっていうのに分厚い雲に覆われて、曇天。そのせいかあまり室内は見通せなくて、でも()()が居た。

 出久は見慣れた色彩のそれがなにかなんてすぐに分かった。

 

「雄英の――制服?」

「怪しい、あまり近付くな…他に(ヴィラン)が隠れているやもしれん。様子を見るんだ」

 

 

 

 

 蹲るようにして横たわっているので…誰かなんて分からない。いや、そもそもがブラフかもしれない。それでも…()()()()()()()()()()んだった。

 

「大丈夫――、です、か?」

「…………ん、……ぅ」

「――――――――え?」

 

「デクっ、急いで離れろ!」

 

 

 

 

 見えたのは、己にそっくりな(かお)。エンデヴァーたちは遠く見えた()()に思わず目を見開いて――躊躇いなくそのヘルフレイムで焼いた。

 雄英の制服は、実は意外にも頑丈だ。この個性社会において多種多様な『個性』の持ち主を受け入れる都合上、防火に生地の伸縮…特殊繊維を使用することで並大抵では破けないようになっている。

 つまり、咄嗟に出したような炎だと燃えないという事で…ねこは煤まみれ灰被り。皮膚は黒く炭化して、でも制服は少し焦げたぐらいの何とも悲惨って感じだ。

 

 

 

「――今のって、」

「距離をとれ!何があってもおかしくないぞ!」

酷゛、いにゃ゛あ…。寝起きに早々No.1の豪炎だ、刺激的すぎじゃにゃあの…」

 

 

 

 起き上がるはずもないその身体は、糸に吊られたように持ち上がる。黒化した表皮がカサブタのようにぺりぺりと剥離して…出てきたのは、

 

 

 

 

「―――ね、こ…?」

久しぶりだにゃあ!兄さん!元気してた?レディ・ナガンとの問答はどうだった?」

「いつの間に!」

「おっとエンデヴァー、また灼かないでよ。緑谷出久(兄さん)も一緒に燃えちゃうぜ?」

 

 

 全く――効いていない。ゆらりと立ち上がった死柄木ねこは、いつの間にかデクの隣に立っていて。

 親しげに、再開を喜ぶみたいにハグをし…ベストジーニストによって締め付けられている身体をものともせず。それで肩をすくめるんだった。手なんかひらひら振っている。

 

 

 

 

「ねこ、だよね…?」

()()()()()()()色にゃんてちょっと変わっちゃったけど――()はたしかに君の片割れさ」

違う。…ねこは、()()()って言わないし―――…()だなんて言わない…()()()()()()………」

「…」

 

 

 

 ニンマリとわらって。ホークスの羽根に取り囲まれながらも、ねこは出久の耳元に口を寄せて。

「僕は僕だよ」

 だなんて囁く。

 

 

「言わないよね…そんな事。()()()、………()()()()()()

ねこ()も変わった!いや――戻った!…うふふふ。あは、っはははは!」

 

 

 

 

 真白の髪を揺らして、堰を切ったようにねこはくふくふ笑う。散々笑って――それから、思い出したように話し出した。

 

 

「にゃあ、レディ・ナガンはどうだった?兄さんならああいうの。見捨てられにゃんでしょ?」

「…………………………」

「別に強制はしてないって言ってたよ。あくまでも()()()の意志って事だ、つまずいちゃったから――転げ落ちて。(ヴィラン)だなんて呼ばれるようになっただけの、哀しいヒーロー…」

「死柄木ねこ、いや…()()()()貴様は何故(ヴィラン)側なんぞに寝返った!」

「『個性』だなんだと謳っていても――個人主義と語ろうが、結局は管理社会だ」

「――…?」

 

 

 

 あいつに用意された台本を脳内で思いおこす。社会以前、群生生命体の原則――。

「合わない個は排斥するだけ―――」

 例外無く。民主主義でも、社会主義だろうとも根は同じ。そうだな、トガヒミコだって――…

 

 

 

 

「何が言いたいんだ、()()は。」

お前だなんて言わないでよ!()()って素敵な名前があるんだから――……………あ、伝言があるんだった。ちょっと待って、この辺りに仕舞った筈だから…」

 

 依然としてホークスの羽根に囲まれながら、ねこは棚をガサゴソ漁る。異変を感じたほかヒーローたちも入り口まで来ていて…で、見つかったのかカチリと何かのスイッチを入れた。エンデヴァーはデクを後ろ手に警戒し、張り詰めた空気のなか…オール・フォー・ワンが投影された。

 

 

 

 

 

やあ、こっちが起動されたってことは――あらかたねこが話して(おちょくって)くれたのかな?

「うん」

 

――緑谷出久。君の選んだ道は茨だぜ、戦う度に心がすり減り…終わりは来ない。無為に考え込んでしまうのはよくないと思うけどなあ!

 

 

 

 

 画面の中のソイツは口角を持ち上げて笑う。ねこも口の端っこを親指で持ち上げて、下瞼をもちあげた。

 

 

獄中でね…ずっと()()()考えてた。

 僕の興味は最早あのウド(オールマイト)に無い。そう――

 

 

 

 

『「次は君だ!!」』

 

*1
スケプティックのこと






 日に2度目の更新出来ました!やったー!1度目はド深夜にあげましたがそこそこ見ていただけて――ありがとうございます。昨日の分も取り返したぜ…ということで、ウキウキしながらAFOのエミュしてました(超たのしい)
 評価やお気に入り毎度々々ありがとうございます!がんばります!
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