猫の命も9つまで!    作:継木

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子供部屋

 

 ねこのうち。つまり、『()』の――…明晰夢の中。ずっと…扉が叩かれている。始めはノックから始まって、ドアノブがガチャガチャされる。それで、壁も軋むくらい強くなったのが今だ。

 ねこはスクリーンに流れる洋画をじっと見ていた。単色の、灰色の丸いクッションを胡座の中で抱えて、それで机に顎なんて置いちゃって耳をぺったり反らしている。この射影機は音量の調節が大雑把で、それに扉を叩く音もそこそこうるさかったためだ。

 

 この部屋の中は、それだけだった。つるりと無機質な電球がヒビのひとつも見当たらない、端の少し欠けた四方のミルククリーム色の壁紙を物言わず照らしているばかりだ。

 スクリーンの中ではクライマックスを迎えていて、で、そのままスルッとスタッフロールに移行した。

 なんとも余韻の無い終わり方だ。黒い画面に白い文字列が流れていくのをジッと見ているさなかにねこは気付いた。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 なんとなく。

 

 

 そう――本当に、なんとなくだ。

 

 何となくで、「はーい」なんてドアの向こうへ声を掛ける。実に静かにドアノブは動き、ヌゥ…とひとり入ってきた。

 

 髪を下ろしていたので一瞬分からなかったけど…ああ、ようやく分かった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()…?」

 

「ネコ ミドリヤ……さっきの映画、もう一回…流してもいいかな?」

「…………今、巻き戻すよ。はじめから。」

 

 

 いつの間にか小さな座椅子が2つあったので片方を彼女に渡して、ねこ達はぼんやりとスクリーンを眺めていた。僕の知っているスターアンドストライプのような苛烈さはすっかり見えなくなっていて、ハリウッド映画の内容に心躍らせるばかりだ。

 

 

 

 

「好きなのか?」

 

 

ああ。…――すごく、好きなんだ」

 

 

 

 

 穏やかに笑うスターアンドストライプは、…キャスリーン・ベイトはいつの間にかラフな格好に変わっているんだった。

 

2回目のエンドロールを迎えて、そこでようやくひと息つく。

 

 

「『新秩序(ニューオーダー)』は他の『個性』と反発する――と、ルールを決めたのは私だ。実際トムラ シガラキ…()()()の身体ではそうだった、」

 

 

 口火を切ったのはキャシーだ。部屋に転がっていたクッションのうち…パステルの黄色と薄緑を抱えて、スクリーンを見つめたままに訥々語る。

 

「なあ、()()()()…いや、()()()()?」

「ううん、僕は()()だ。」

キャット()?」

()()

「ネコ、私の『新秩序』は使えるか?」

「『新秩序(ニューオーダー)』は――…うん、感覚としてはある。ぼんやりだけど」

「よし、それじゃあ――…うん。説明(レクチャー)しようじゃないか!私の『新秩序』は2つのものまでルール付けが出来る。条件は触れて――名前を呼ぶことだ」

「大方予想は合ってたんだにゃあ」

「自分自身への強化は上手くいかなかった……が、ネコだとどうか分からない。…試しに床でも砕いてみる?」

「そのぐらいなら元からできるよ」

「まるで映画の化けもの(クリーチャー)だ、『個性』なしでしょ?」

「うん。僕たち改造手術受けたから…」

「フランケンシュタインの怪物みたいだね」

 

 

 それは、ねこのこれまでの記憶のどこかに引っかかった。あの、頭にネジが付いていて――広い額と体躯の。人造人間、不死身の化け物。フランケンシュタインというのは本のタイトル、あるいは怪物を作ったDr.の名前だ。

 今よりもずっと前…『個性』の発現と混乱によって起きた黎明期のできごと。第三次世界大戦というには小規模で、騒動というにはあまりにも大きすぎたそれはひとつの歴史の節目となって。そこで大きく文学や文化の類も変わった。つまり相当なレトロ趣味だ、2、300年も前の古典を好んで見るのも奇特だし…あるいは暇人?そこを節目に宗教というものの扱いも大きく変わった。

 と――ねこは脳内の教科書をパラパラ捲りながら思いかえす。

 

「ボリス・カーロフの?」

「そう。私、プライマリースクールではずっと本や映画ばかり観ていたんだ。髪もまだ染めてなくて、眼鏡もかけていたからナードだって!からかわれてた。…全員口を閉じさせたけどね。」

 

 彼女はその豊かな髪を梳かして…元は目の色のような赤褐色だったの、と(まなじり)を緩める。アメリカ人なんて殆どが金髪だと思ってた!ちょっとしたカルチャーショックだ。

 ――あ、いや…この『個性』社会なんだ。蛍光色から目の覚めるようなブルー、それこそ文字通り燃える炎髪だってあるだろうし多様性ならば吐いて腐るほどだろ…なんせ自由の国!仮にそうじゃなくても、日本でも髪色なんて充分にカラフルだった。

 

 

「へえ。兄さんもからかい…ううん、虐められてた。クソナードって言われて、幼馴染ににゃあ」

「イズクミドリヤ?オールマイトの弟子だろう、一体彼がなぜ――…?」

「『無個性』だったからだよキャスリーン、今の兄さんの『個性』はオールマイトから受け継いだものだから。」

 

「―――――」

 

 

 

 

 ゆるく笑った顔も身体も強ばらせ、言葉も失った様子の彼女にねこはもたれた。動揺して、何かしらの危害を(ねこ)に加えるのかしらとも思ってはいたけれど…でも、今はこうしていた方がいい気がしたからだ。思ったままにつらつら語る。ボタンの掛け違いは正されないままに在る。

 

 射影機はとっくに再生をやめていて…スクリーンはただそこに在るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 体感数分ぐらいが経ったかな、キャスリーン・ベイトはひとつ深呼吸をして――ねこの意識が落ちる前。あいつらの身体が弾けた、その内で起こったことを話す。

 

 

「『新秩序』と、トムラシガラキの持っていた数多くの『個性』らが反発しあったんだ。勿論(いず)れは『私』も反発されまくって消えていた」

()()()()()()()()()

「…ああ。ネコの中に在る『個性』と『新秩序』は何故か反発しなかった。霧を掴むようだった。本当は消えて――世界の脅威と私一人の1:1交換ぐらいにはなると思っていたんだ。」

「――だけど、磨耗してしていたみたい。…止まってしまったんだ。(スターアンドストライプ)は。」

「さっきの映画?」

「――きっと、それもある。大切なんだ、それに…ネコ。おまえは…リンダに似ていたから。……何だか、…うん、何も――出来なくなった。」

「リンダって?」

「仔猫の名前。ハイスクールの時に、近所の野良猫が仔猫を産むところを見ていたんだけれど、綺麗な白だった。シャムの様に鼻の頭が少し茶けていて…ネコのソバカスみたいに」

「飼ったの?」

「ダメだって。でも、偶に様子を見に行ったりミルクをあげていたんだ。綺麗なオッドアイだった。水色と黄色の………、轢かれて死んだけどね」

 

 

 振り上げた拳を、何処にやればいいのか分からなくなってしまったとキャシーは語る。世界の(脅威)ならこの正義(ちから)容赦(まよい)なく振るえた。

 でも…ネコはそうは思えなかったと。たしかに、酷いこともした。お兄ちゃん達を、私を挫かんとしていたけれど――…でも、何でだろうか。私には、スターアンドストライプには………おまえ(ネコ)が――(ヴィラン)ではあるけれども、()()()()()()()()()()()()んだ。…と。

 

 

 

「悪?変なことを言う…ヒーローだろ?敵か、(そう)じゃないかぐらいじゃにゃあの」

「平和への貢献の為、(オールマイト)の――私の心の師がために。恩返しのため私はヒーローになった。」

 

「………」

 

「悪に怯える人々を救け…その絶えぬ笑顔で安心させてくれた。悪なんだ、(ヴィラン)じゃなくて…」

 

「………………」

 

「甘いかもしれない、そう言われるかもしれないけれど。――それでも『私』は…ネコを悪とは思わなかった。彼もそうするだろうと……ただ、おまえの――あなたの為に、力になりたいだなんて気の迷いが生まれてしまったんだ!」

 

「―――…それで?(ねこ)ウロ(虚ろ)だ、何も無いぜ」

「やりたいと思える事を探そう!」

 

「無意味だ()()()()ねこに(人じゃないんだから)救けは要らない」

「キャスリーン・ベイトのお節介だ!」

 

「要らないんだよ!」

「いいや、()独断(身勝手)だ。」

 

「個性因子に宿っただけの人格(死人)なくせに」

「それで今はネコ(おまえ)の一部だ。だからトムラシガラキに奪われても『新秩序(わたし)』は反発しようとするだろうね」

「ああ言えばこう言う…」

「何だか――…妹の反抗期にそっくりだなあ!」

 

「は?」

 

 

 キャシーはクスクス笑ってねこを正面から抱きしめる。30センチ近くも違うので――ねこはすっぽり包まれた。

 こんな風に抱きしめられたのなんていつぶりだろうか?風化した記憶をさらっても分からない。跳ね除けようとしても不思議と腕は持ち上がらないで、あたたかくもつめたくもないキャスリーン・ベイトの…『新秩序』の個性因子に宿った意識(彼女)に抱きしめられるがままでいるんだった。体温だとか、温もりだなんてあるはずもない。現実ですらないし、そもそもが死人だ。

 

 あるはずもないことの原因は誰も知るはずが無いけれど…でも、強いてあげるとするならば生前のスターアンドストライプだ。彼女は…『『新秩序』は他の『個性』と反発する』――とルールを決めた。そのルールは…ねこにそうと判らない形で顕れているのだ。

 そもそも、『OFA』や『AFO』などの『個性』に(宿る意識と)直接干渉でき、触れることなんて出来ないはずの『』と『新秩序』同士だ。…志村菜奈の『浮遊』は…『OFA』と『AFO』に触発され形を得たために例外としよう。

 その、『『新秩序』は他の『個性』と反発する』というルールの顕れ(解釈)――それこそが、今キャスリーン・ベイトの意識がねこの心象風景の中に形をとって現れている。と――いう事なのだ。

 死柄木弔の内だったらこうはいかなかった。この、ぼんやりとしたねこのうちでのみ――こう在る事が出来たのだ。ハッキリと反発が出来ないほどの曖昧さ。

 

 人の自我や趣味思考なんて曖昧で、ほかから刺激を得てようやくあれが好きこれが嫌いあれはああでそれはどうだった――なんて比較してようやく輪郭を得る。よく分からないという一点においては、名前を付けられる前の怪物のようなものだ。

 個性因子に宿るキャスリーン・ベイトの意識――スターアンドストライプが生前『新秩序』に付けたルールというのは今、その彼女の意識の周囲をかたち作る線、輪郭、そういったものに変質していた為に…『新秩序(キャシー)』は形をとって顕れて。一時はトムラシガラキ――彼らのうちで多少の『個性』たちと反発したので、そんなふうに成ってしまったのだ。

 

 

「異常者め」

「馬ァ鹿、人が人を助ける限り意志は継がれるんだ。」

「英雄気取りか?」

そうだとも。英雄は、その意志は必ず悪を討つ――……でも、ネコは悪じゃないから」

「………ばかだな、ほんとうに…」

「でも。…最悪じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねこに『新秩序』が与えられた後。現実の――死柄木弔とねこ、それから残った幾つかの戦闘機の顛末(その後)を簡潔に語ろう。

 もしも仮に、ねこが居なかったのならば――その身に爆弾を抱え、後引かれつつも()は『新秩序』の保管を考え速やかな退避を行っていただろう。がしかし現実はそうはならない。

 『新秩序』を与えられたねこの意識レベルはGCSで表すならば3点だ。そこまで落ちて…そんな状態に()の前でねこがそうなるのは、息の根がある状態では見た事が無かった。死体も同然のねこには弔も、『AFO』の意識も動揺して…咄嗟の『個性強制発動』で『超再生』を促しながらの迅速な引き揚げだ。

 先ほど一瞬でも反発する『新秩序』を受け入れたものだから――身体のダメージもさることながら個性因子の混線もあって、今は死柄木弔ではなく『AFO』がこの肉体の主導権を握り『翼』の個性のみでねこのつめたい身体をかき抱いて遁走した。

 あの僅かな間にいくつもの『個性』は破裂し混線し不調をきたしはじめている。僅かばかりの個性しか使えないような状態で、――…その強靱な肉体と『翼』のみでなんとか追跡を撒ききったんだった。

 

 

 

 

 今ねこのうちにある個性は『超再生』『猫』『悪食』に――『新秩序』………、外見(みかけ)上はなんら変わりはなかった。ただ、ひどくつめたくなっているだけで。

 『個性』同士の反発は如何程(どのぐらい)かは知りえない。最小限にはなっているだろうが、()に出来ることは何もない。さて、死柄木弔のオールマイトへの憎しみ、激しい怒り、憎悪はほぼ完全に融合してきている(先生)に――なんせ同じ()()のうちなのだから、共有されているんだった。統合の均衡(バランス)は未だ安定していなくて――……()の感情が口から漏れ出ている。苛立ち、破壊衝動――憎しみ。そんなのが、形を成して――勝手に漏れ出す。成りたてというのもあるけれど…オール・フォー・ワンには無い想い(熱量)は彼の長く生きた分の重さ(あつさ)とで釣り合ってしまっているどころか均衡を揺るがすほどなんだ。そのせいで逃亡して、潜伏先に戻った後…弔の混乱、困惑が落ち着いたぐらいになると、今はまだ死柄木弔が身体の主導権を握っている有様だった。

 

 

「――大丈夫だ、もう一人の僕。大丈夫――ねこも『新秩序(ニューオーダー)』が馴染んだならば起きるだろう、『個性』だって因子の混線が落ち着いたら使えるようになるさ。」

 

 彼はくらい洞窟の中で憎い憎いと、殺してやるとのたうち回る死柄木弔(もう一人の自分)の身体をポンと叩いてにっかり笑う。ちなみにねこの体はというと、膝を折って彼が座っている事の多い…無骨な椅子にあった。弔が追跡を撒いて、『転送』で戻ってきてからも仮死か冬眠か?何の()()もなくなったというのに未だ意識を取り戻さないその身体は命の温もりを宿さなくなって久しい。逃走する最中の強風に晒されたのももちろんあっただろうけど…。しかしまあ…脈自体はひどく遅いものの止まってはいない。

 

 

「――大丈夫だ、むしろかなりいい!なんせ『()()()()()奪れてるんだから――もう消化試合みたいなものだろ?」

…結局どこまでもオールマイト、オールマイトオールマイト!!彼奴(あいつ)の影がチラつく!あの面を、あれを誰かが覚えている限りそうだ――」

「この苛立ちは消えない!!!」

「、ははは!気楽に行こうぜ?…一枚の青写真に固執するのも健全じゃない。――…ああ、折角準備をしてくれていたところ悪いがもう暫くステイだ」

「無理だね限界。」

 

 

 

 今ここには…この洞窟にはスピナー、荼毘、トガヒミコとオール・フォー・ワン。死柄木弔とねこ、ついでに少しの脳無が居るんだった。

 トガとスピナーはそれぞれ心配そうにねこと死柄木とを見ていて――なぜならふたりは先の戦いの後遺症とでも言うべき瑕疵を引き摺っているので。で、荼毘はオール・フォー・ワンに諭され…(?)若干の苛立ちを覚えていたんだった。曰く、視野を広く――…いざと言う時に使えるルートはあって困らないと。彼自身(荼毘)にとっては若干頷けるところもあるのが殊更に神経を逆撫でする。

 

 果たして、使い捨ての道具と称した関係が友達か…なんて陳腐な問いを今さらする訳じゃ無いが――荼毘はスピナーを。…一瞬でも反発する『新秩序』を受けいれたことによる個性因子の混乱に、混線に未だもがき苦しんでいる死柄木弔を心配し宥めようとしているスピナー(仲間想い)を見遣って…白けたように嘆息した。

 

 

「完全な肉体はいま暫くのお預けをくらって――愛猫は体調を崩してしまった。沈む気分を、盛り下がる場を愉しませてくれればいいんだけれどね。

 …ねこは覚えているかなあ、――…青山優雅というクラスメイトを。」

「は。内通者ってとこか」

「密告者ってところさ。あくまでも好意(親切)からだ、自主的に協力してくれているんだから…そんなふうに貶すのは彼らに悪いぜ?燈矢くん」






 次話は雄英側から見た描写入りまーす!(多分!)まだ書いてないから分かりませんが多分そうなると思います。AFOエミュ難しいたのしいもっと描きたい…コレデアッテイルノカワカラナイ!あの、原作みたいな露悪的に厭らしく煽るところ描写したーい!(だがしかし展開の都合上難しいのである)
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