ねこには誕生日がない。わからない。というのが正確だった。そのため、ことある事に男から誕生日かもしれない、ということで何かしらを贈られている。
殊更に豪奢なのがこの日だ。
「まいまい気になっていた。この日は、なんだ。」
「今日かい?フフ、小さいことだけど――今日は2月22日。にゃんにゃんにゃんって事で、猫の日だよ」
「ねこの日。にゃんにゃんにゃん………」
ねこが耳をしきりに動かして、ワクワクで尻尾をうねらせている姿を見るのが、男は割と好きだった。とはいっても体格の違いから、そんな所くらいしか見えないのもあるかもしれなかったけれど、…。
男が立ち上がろうとすると、前のようにねこを抱き締める腕から抜け出してスルスルと器用に肩まで登ってくるから見事なものだ。いくら成長したからといっても男は2m超、少年はこの前計ったところ――112cm。倍くらい違うといっても、年齢もあるのかひどく簡単そうに登って、…今日は右肩から腕にかけて絡みついて落ち着いた。
こういうところを見ると、ああ、あの猫なんだなあと彼はすこし安心する。
所有物があるべき場所にある。というのがただしいから。男にとってはねこはとっくに所有物のようなものだった――だって、運命も自分で選びとるものと言われているだろう?――ので。それに、従順なのもいい。
特にねこが引っ付いていても男にとっては何の支障になる訳でもなし。ペットが寝ている時に上に乗っかるぐらいのことだ、ずっと好きにさせている。ただ、引っ付いたままたまに寝ているのはどうやっているんだろうと思った。
ねこの個性は『猫』で――猫以上に猫らしいことが出来る。それもあって引っ付いたまま寝れるのかしら。なんて思った。
「ただ、ねこ――。もう着替えるよ」
「もう少しい…」
「今朝はパンケーキにするけど…」
「…!!!着替える」
「いい子だ」
今日はどれにしよう…とくるくる手に取ってはこれは違うあれも違うと取っかえ引っ変えねこは選ぶ。僕はいつも通りにスーツで終わるけれど…こうしてねこが楽しそうに悩んでいるのは割と好きだ。
決まったらしく、ねこはいち早くキッチンの方に駈けていった。それで、卵にバターにボウルや泡立て器…を揃えているようだ。
「ねことパンケーキつくる。」
「スフレにしようか。」
「ふわふわの!」
まず、ねこが材料を量る。その間に卵を割り、卵黄は先に他の材料と混ぜ合わせる。
卵白が冷えたら、メレンゲを作る。砂糖を少しずつ入れて…角がたつまでしっかりと混ぜる。
「ねこも混ぜてみる?」
「大変そうだからいい」
少しだけメレンゲを掬いとり、卵黄と混ぜ合わせた材料ほかに混ぜる。そうしたら、1度すべてを混ぜ合わせる。
「あ!やる!」
「じゃあ頼むよ。」
(〜♩〜〜♩〜♩)
上手に混ざるまでフライパンを余熱して待つ。僕の手には余って、ねこの手には大きい泡立て器を両手で支えながらいい具合まで見守るんだ。
どこで知ったのかは知らないけど、鼻唄を唄いながら混ぜている。
「ふふふふふ ふんふんふふふーん」
「ふんふーふふ ふふふふふふふーん」
「ご機嫌だね」
「みゃん」
そのくらいで、とボウルを受取りバターをしいたフライパンに少しずつ乗せる。これを弱火で蒸し焼きにするんだ。するとねこがチョコペンを持ってきて湯煎し始めた…何かを描くつもりらしかった。
蓋越しに膨らむ様子が見たいのか、ねこはしっかり靴を脱いでから僕の体をスルスル登る。天井は高めに作ってあるから肩の上に立ったりでもしなければへっちゃらだ。
「…………!!」
蓋を開け、フライ返しを差し込んで焼き色を見る。ちょうどいい色になっていたのでひっくり返してまた蒸らす。ねこはソワソワとしていて、しきりに蓋を開けようとするのをやめようとして、でも手は伸びて…タイマーが鳴る。
「はやく、はやくっ」
「焦らない。ほら…スフレパンケーキのできあがり」
2、3まとめて重ねたものをピックで固定し盛り付ける。ココアパウダーも途中で混ぜたのでココア・スフレパンケーキだった。その上にねこがチョコペンでなにかを描きはじめ……
「パンケーキにねこ乗せる。ねこのパンケーキできあがり♩
ねこのパンケーキ!」
ただ、ねこいくら猫の日だとしてもやるべき事はある。(ねこはないが…)
なので、男の膝の上で寝たり…外出に着いていったりしてなぜか買い物袋をわんさか持って帰ってきた。
(……???)
男はことある事にねこにものを買うが、にしたってこの日は特段多い。ケーキも買った。
例年のようにこうなるから、ねこは今年も彼の大きいベッドに潜りこんで、暖かくて大きい手にゆっくり撫ぜられながら眠りについた。